5 years later〜エピソードZA〜 作:nami73
次々と挑戦者を薙ぎ払っていく中でかつての知己と再会する。トレーナー同士、目と目が合えばやることは1つ、バトルしかなかった。
ミアレシティ北西部、オトンヌアベニュー沿いに巨大な自社ビルを構えているのが都市の再開発計画を一手に担うクエーサー社であり、ビルには社名の由来である天体を模したロゴが掲げられている。
そのビルの脇に併設されたバトルコートにて、マスカットは時折サングラスをセリートで吹きながらも周囲への警戒は怠っていなかった。
『秩序の守り手と心を通わせた少女がミアレに帰ってくる。彼女の力を見極め、共に動いてもらえるように願うのだ』
先日、不意に自分の元を訪れたホテルZのオーナーの言を受けたすぐ後だった。ガイから圧倒的な力量で以て暴走メガシンカポケモンを鎮めた凄腕トレーナーの話を聞いたのは。
元々ZAロワイヤルとはAZの提案により誕生した企画であり、暴走メガシンカポケモンとプリズムタワーの一件を解決すべく強力なトレーナーを発掘することが急務であった。
まずいの1番にリーグチャンピオンカルネに白羽の矢が立ったのだが、映画のロケでカロスを飛び出しており、コンタクトも取りづらい状況だった。
四天王のズミもまた、自らの経営するレストランの他地方進出を受けて全国を飛び回っていて不在であり、ドラセナは新婚旅行の真っ最中で音信不通。
折悪くガンピもカロスの外へ武者修行に出ており連絡がつかなかった。
各地のジムリーダーたちはそれぞれ任されている町に出現する暴走メガシンカポケモンへの対処に追われているためにミアレへの増援は不可能。
司法取引により収監を免れた元フレア団幹部のモミジに研究所を押し付けてカロスを発ったプラターヌ博士のお供としてアランも不在である。
故に事態の解決を図れる腕利きのトレーナーを在野より発掘するよりなかったのだ。
ガイから報告を受けてすぐにユリーカの特定と経歴を調査し、ZAロワイヤルの運営に対して特例措置の発動を打診したのがこのマスカットである。
マスカットは、ランクマッチにおいて直にユリーカの実力を測りたいと思っていた。
「あのー……?ランクマッチの相手のマスカットさん、ですか?」
「はい。わたくし、マスカットと申します」
一見強面の大男ながら、非常に丁寧な対応をするマスカットに、ユリーカは安心感を覚えた。
夜間のためよくは見えないが、ヤンチャムやミミロルのようなデザインの髪飾りを頭部に着けている風にも見えるので外見ほどお堅い人物というわけでもないのでは? とも思う。
再会を喜んだヒナとのバトルは、一瞬で決着がついた。ランクとしては同等だったが、レベルの差は歴然であった。
「こちらまでいらしたということは、チャレンジチケットはお持ちですね?」
「コレですよね?」
「結構」
ユリーカがアプリの画面を向け、チャレンジチケット取得をハッキリと示すのでマスカットは首肯する。
「ではすぐに始めますか?」
「はい」
マスカットの申し出を受ければユリーカはすぐにバトルコートのセンターサークルへ向かう。
マスカットもすぐに続き、両者対面する形となった。
「話は聞かせてもらっています。わたくしとしては暴走メガシンカを鎮めてくださる有志が必要です。ですが、いくらガイさんの紹介でもこの目で確かめてみないことには判断が出来ません」
「その通りだと思います」
「でねね」
ユリーカは、対峙するマスカットが非常に真摯で、頼れる人だと思えた。
『チャレンジチケットを確認! ランクアップ戦の開始を承認します』
デデンネの体色に合わせたカバーをつけたユリーカのスマホロトムと、清潔感あふれる真っ白なマスカットのスマホロトムが飛び出し、同時に通知をしてから持ち主の元に戻る。
「では参ります。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「せっかくのポケモンバトルですからね。わたくしも楽しませていただきますよ!」
落ち着きはそのままに、高揚を隠すことなくハイパーボールを構えるマスカット。
バトルへの向き合い方もまたユリーカには好感で、先程までバトルゾーンで戦っていた連中とは別格の『覇気』を感じ取ることが出来た。
「ランクアップ戦の公認ルールは3C1D! 全力でいきますよ!! ジジーロンッ!!」
「ろぉう…!!」
「いくよ! デデンネ!!」
「でねね〜!!」
マスカットのハイパーボールからはゆうゆうポケモンジジーロンが、その分類通りに悠々とフィールドへ降り立ち、ユリーカのポシェットから相棒のデデンネがニュートラルポジションまで走る。
こちらの世界でいう老いた東洋の龍を思わせる3mのフォルムが0.2mほどのデデンネを見下ろす様は、側から見れば文字通り大人と子供の喧嘩のようでしかないが、当のマスカットとジジーロンに油断はない。
「わたくしが心から信じるジジーロン。長命で得た経験を全てぶつけなさい」
全力でぶつかる以上は手の内の出し惜しみはなしだとばかりにマスカットが左掌のキーストーンを胸の前で合掌させる形で起動させる。
「……ッ!?」
「ろろぉぉぉッ!!」
虹色の繭より姿を見せるは、メガシンカエネルギーが全身の細胞を活性化させたことにより、若さを取り戻した凛々しき巨龍。淡かった体色が濃くなり、全身が逆だった黒い体毛に覆われ、腕と尻尾は先がカールしていてまるで黒雲を纏っているかのようなメガジジーロンだ。
「ジジーロンのメガシンカ、初めて見た!」
「ごく最近メガストーンが発見されましたからね! 我がクエーサー社では、新しく見つかったメガストーンの研究もしております。それはさておき!!」
ブワッ!!
ジジーロンが巨体を上空へ踊らせる。メガシンカによりエネルギーが活性化し、自らの巨体を大気へ躍らせる流れがとても軽やかだ。
「ジジーロン! だいちのちから!!」
「ろぅろぅろぅ!!」
『不味いッ!』
空へ逃れたは自らが技に巻き込まれる愚を嫌ったが故かとユリーカは合点する。
「デデンネ! ワイルドボルト!!」
「でねぁ!!」
ズドドドドォ!!
じめんエネルギーの奔流が柱となり、フィールド中に何本も打ち上げられてゆく。
『手応えなし!』
デデンネがだいちのちからをやり過ごしたことを確信するマスカットは周囲を見回す。
「ろぅ!!」
「ぬうッ!!」
ジジーロンの一声で見上げれば、デデンネがさらに高度を取り跳躍していたではないか。
「ワイルドボルトによる爆発的なでんきエネルギーを筋力増加に回し、ジジーロンより高くジャンプするとは!!」
「じめんタイプの技は空中へ逃げれば当たらない!!」
「でね〜!!」
マスカットは、デデンネがただ高度を取り弱点技の被弾を避けたわけではないと悟る。
「このまま自由落下の勢いも追加して強力な一撃を見舞うつもりでしょうがそうはいきませんよ!!」
落下してくるデデンネは、ジジーロンからすればいい的なのだ。
「ジジーロン! ハイパーボイス!!」
「ろろろろろぁぁぁぁぁ!!」
ジジーロンの放つ咆哮が振動波となりデデンネへ放たれる。コレで地上に撃ち落とし、再度だいちのちからを叩き込んでやろうというのがマスカットの戦術だった。
「デデンネ! パラボラチャージ!!」
「でねあ!!」
バリリリリ、バリィ!!
「なんと!?」
強力な振動波を前にしてはデデンネは撃墜を免れることは出来ないだろう、そう予測していたマスカットのサングラスが僅かにズレる。
「ハイパーボイスの音波エネルギーに対してパラボラチャージをぶつけ、デデンネの回復エネルギーに変換するとは……!!」
体力を奪う類の吸収技は、普通ならば直接相手に叩き込むプロセスが大抵は必須である。
にも関わらずユリーカのデデンネは、ハイパーボイスと相殺させる形で電撃を放つパラボラチャージによる体力回復を成立させたのだ。
マスカットは、コレを吸収技の奥義とすら思えた。
「じゃれつくーッ!!」
「でねァ!!」
ドゴォ
デデンネの急降下パンチがジジーロンの右頬を打ち付ける。それが狼煙だった。
「でねでねでねでねでねでねでねでねでねでねァァァァァーーーーーッ!!」
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!
猛攻、強烈なラッシュ。小さなボディに秘められたパワーが炸裂した。
デデンネのラッシュを叩き込まれたジジーロンはフィールドに撃墜される。
「でねッ」
デデンネは軽やかに着地し、パンパンと手を払いながらニュートラルポジションも通り過ぎて主人の元へと帰り着く。
確信通りにジジーロンはメガシンカが解除され、右半身を地面につけ横たえていた。表情は目を回し、完全に戦闘不能である。
「ぬう……お疲れ様です、ジジーロン」
マスカットは倒れたジジーロンをボールへ戻し、戦ってくれた労を労う。
『悪い人ではない』……デデンネもマスカットへ好印象を固めながらポシェットの中へ潜り込み戻った。
「素晴らしい!! 暴走メガジュカインを鎮めたのは伊達ではありませんね」
「アレはガイさんたちのおかげもありますから」
謙遜するユリーカのスマホロトムがデデンネと入れ替わりでポシェットから飛び出す。
『トレーナー:ユリーカの勝利を確認しました! おめでとうございます! それではランクアップ処理を行います』
通達ののちにZAロワイヤルアプリのデータが切り替わる。ユリーカのランクがEからDへと上がったのだ。
「ガイさんからの報告ではメガチルタリスの使い手だと聞いておりましたが、まさかメガシンカを使うまでもなく押し切られてしまうとは……」
「ううん。それは違うよ」
「……?」
サングラスの奥に秘めるマスカットの瞳がキョトンとなる。
「マスカットさんのメガジジーロンは凄いパワーだった。下手に交代すれば、交代際に強烈な1発をもらいかねない。だからあたしはデデンネで戦い抜くことにしたの」
「なるほど、そうでしたか」
「それに、メガシンカはあくまでバトルを有利にするための手段の1つでしかないってユリーカの先生が昔言ってた。極めることは大事だけれど、固執するのも良くないって」
マスカットは、ユリーカの談に膝を打つ思いにさせられた。
近年、新たなメガストーンの発見によりメガシンカがバトル環境に大きな影響を与える中、ユリーカはそれに拘らない視野の広さを持っていたのだ。
メガシンカの最先端であるこのミアレで掲げるには厳しいとも言える考えをユリーカは事も無げに実践しているのだ。
「だから手を抜いたわけじゃあないの。マスカットさんが強い人だからこそ、あたしは勝つために最善の手を尽くしたんだから」
「そうでしたか……あらゆる面で完敗です。あなたにならば、我々も全幅の信頼を寄せることが出来ます」
マスカットの差し出す右手にユリーカは応える。
試合後の儀礼としてはもちろんのこと、暴走メガシンカポケモンへの対応依頼もユリーカは快く応じた。
ユリーカにとってもミアレシティは生まれ育った街である。その為に出来ることがあるならば協力を惜しむなどはあり得ない。
「AZさん……彼女は、我々が考えているよりずっとスケールの大きなトレーナーですよ」
帰宅するユリーカを見送るマスカットがひと言呟いた声は、ミアレの夜空に溶けていくのであった。
『マスカット』
42歳。クエーサー社の社長秘書。
本人曰く『体のいい雑用係』で、どんな相手に対しても物腰は柔らかく丁寧。
パートナーポケモンはジジーロンでメガシンカを扱うことが出来、暴走メガシンカにも対処できるほどの実力者だ。