5 years later〜エピソードZA〜 作:nami73
初めて見るメガジジーロンに驚かされながらもデデンネのラッシュを炸裂させ、見事Dランクになるのであった。
ミアレシティのあちこちを舞台にして毎夜行われるZAロワイヤルはランダムに決定される特定区域内において18時にスタートし、翌日6時に終了する。
17日の18時より初めて参加したユリーカはチャレンジチケット獲得のためのポイント稼ぎを2時間ほどで完了し、そのままランクアップ戦に突入。これに勝利して自宅に帰り着くのは21時30分頃だった。
帰宅してすぐに父の作ってくれてあった夕食を食べてから風呂に入り、ポケモンたちのチェックを済ませてから床に入る辺りの時間帯としては23時頃になった。
「サトシは無理そうだなー、ZAロワイヤル」
ベッドにて毛布を被りながらユリーカは呟く。
ユリーカ最大の目標であるワールドチャンピオン……『マサラタウンのサトシ』が10時間は睡眠を取らないと良いコンディションを確保できない体質であるのは、カロス時代の旅仲間として知っていたことだ。
故に夜間帯開催のZAロワイヤルとはどうしても相性が悪いだろうと思う。
そんな他愛のないことを考えるうちにユリーカの意識は夢の世界へ旅立っていった。
10月18日、ユリーカは2度目のバトルゾーンへ飛び込み、初日と変わることのない暴れぶりを披露していた。
要求されている38000ポイントも、全く苦もなく稼ぎ切ることが出来た。
「やれーッ!!」
「ごろぉう!!」
ガッキィン!!
相手の不意を突いての奇襲、これもまたZAロワイヤルでは日常茶飯事である。
ユリーカのゲッコウガは、背後から拳を振り下ろして来たゴロンダの一撃をあっさりと水手裏剣でガードし、ババッ、と距離を取る。
「見つけたぞ! ミアレジムのユリーカ!!」
名指しで呼ばれては記憶を辿ってみるも、先日のヒナとは違いユリーカに思い当たる節はなかった。
「あなた、誰?」
トレーナーに対してはこう聞くより他になく、彼が引き連れているゴロンダには……正確には、ゴロンダが身に付けている装具には見覚えがあった。
全身を覆い隠す無機質な鎧が放つ月明かりの反射は、ポケモンバトルの中にある真剣勝負の煌めきを腐す悪意に満ち満ちていた。
「俺は5年前、ミアレジムに挑戦した者だ! そこで負けたことは俺の実力不足のせいだからそれはいい! だがジム戦が終わった直後の俺を、お前らのところのロボットが強引に追い出して来たんだ!!」
「あ、あぁー……!」
捲し立てる男の言にユリーカはこの人の怒りもごもっともであると思うよりなかった。
5年前、兄シトロンが発明にかける時間を確保すべくジム戦の代理を任せるために開発したお手伝いロボット『シトロイド』は、シトロンのプログラムミスによりAIが誤作動を起こし、『ご主人様認識コード』が正しくインプットされることなく暴走状態となってしまったことがある。
その際に兄妹ともども追い出され、そのままジムをシトロイドに占拠されていた時期があったのだ。
目の前の男は、その期間中にジムへ挑戦しに来たのだろう。
「あの時手酷く追い返されたせいで俺は怪我をし、カロスリーグに出るためのバッジ集めが間に合わなかったんだ!」
「それは……本当にごめんなさい! 兄にも連絡をつけて、必ず謝罪させますから」
この件に関しては誰がどう見てもシトロイドの監督不行き届きなシトロンのせいである。家族としてユリーカはすぐに頭を下げた。
あまりにもすんなり謝罪するユリーカに男は一瞬たじろぐも、
「いいや駄目だ! 謝罪とか金とかの問題じゃあない! お前たちに痛い目を見せなきゃ気が済まないね!」
「……その為に、ゴロンダにそんな鎧を着せたの?」
頭を上げる瞳に、猛者たる冷たさが宿っているので後ずさるのを見るに、ユリーカは、この男自体は鎧の製作者とは直接的な関わりはないように思えた。
あくまでジムへの恨みを晴らしたいだけであり、そこを都合よく利用されているに過ぎないと考えれば、ゴロンダに対してあまり手荒なこともする気にはなれない。
「このZAロワイヤルはルール無用! 勝ったやつが偉くて負けたやつが駄目なんだー!!」
「ごろあああ!!」
冷たく射すくめられながら叫ぶ男に呼応してゴロンダはゲッコウガへと迫る。
その歩は、すぐに停止させられた。
「なにっ」
ゴロンダの纏う鎧、その装甲の間を正確に縫うようにみずエネルギーで作られた手裏剣やクナイが突き刺さっていたのだ。
「その鎧は、装甲自体はあらゆるダメージを0に出来るくらい頑丈だけど、防御力のために合間の部分が脆弱になってるんだよ」
「こがッ!」
バカアッ!!
ゲッコウガが印を結ぶことで突き刺さっていたみずエネルギーの暗器たちが一斉に弾け飛び、その勢いでゴロンダの全身を覆う鎧は瞬く間に外れ飛んでしまった。
「ごろぁ!?」
「な、なんだあっ」
ゴロンダが丸裸にされれば、男は滝のように冷や汗をかく。元より真っ向勝負でユリーカに勝てるとは思っていなかったが故に取る行動といえば……
「う あ あ あ あ あ」
逃走しかなかった。
「ごろぁ〜!?」
我先にと逃げてゆく主人の後をゴロンダも追いかけてゆく。
ユリーカは、男を追いかけることはしなかった。
ポイントは既に溜まっているし、なにより彼との話においては100%こちらが悪いのだから。
「キィィィ!! 究極製(アルティメイド)アーマーにあんな弱点があったなんて聞いてないテツ〜!!」
一部始終を屋上から見ていたデフェールは地団駄を踏みながら悔しがる。
地団駄を踏む勢いで放屁を繰り返しているが顔を真っ赤にするほど怒っているので自覚はない。
「ジュウフゥーッ……まぁ、アレは所詮フェルベート兄様が作った古い発明品。次からはこのボク自らが手がけた作品でギャフンと言わせてやるのテツ!! ジューウジュウジュウジュウジュウ!!」
兄の無念を晴らす、などというのは所詮自分を美化するための方便に過ぎず、家族含めて他人は皆自分の都合のいいように利用するためだけの見下すべき存在……それこそがスクライアの民全体の是であり、たかだか未来を見通せるというだけで1人1人が現人神を気取る一族の根っこにある思想なのだ。
「アレがメガガメノデス……凄かったなぁ」
「でねね」
翌日10月19日。
ユリーカは起き抜けにマスカットからの依頼を受け、暴走メガシンカポケモンの対処に出掛けた。
ブルー地区の水路の先に待ち構えていたしゅうごうポケモンガメノデスのメガシンカした姿は初めて見てビックリさせられたが、それだけのことであった。
無事鎮圧を済ませたところでスマホロトムが着信を知らせる。
「ユリーカ。今大丈夫か?」
「うん。たった今終わったから帰るとこ。もうお腹ペコペコ〜」
通話して来たのは父だった。朝起きてすぐの出動でユリーカは空腹を訴える。
「はは、それならすぐ帰って来なさい。それと、お前にお客さんが来てるぞ」
「お客さん?」
来客の知らせにユリーカは首を傾げる。ともかく朝食も食べたいので帰るよりない話であった。
「どうしたのデウロさん。朝っぱらから急に」
「実は……」
帰って来たユリーカを出迎える来客とはMZ団のデウロであった。
ユリーカからしたら正直なところ水色のパーカーくらいしか印象の残らない相手だが、なにやら困り果てている様子となれば朝食の目玉焼きとベーコンをトーストへ雑に乗っけて話を聞くことにする。ポケモンたちへの朝食準備もしながら聞くその内容とは、驚愕と呆れがないまぜとなるものだった。
「えええええッ!? ガイさんスジモンからお金借りちゃってたの!?」
「サビ組とはなぁ……また厄介なとこに絡まれたもんだ」
驚いたのでユリーカは危うくトーストからかじりかけの目玉焼きを落としそうになる。そこから事情を知ってそうなリモーネに視線をやった。
『その筋の者』を略してスジモン、である。
「昔気質の連中で、組自体はパパの若い頃からずっと前からあったんだよな。最近組長の交代から方針も変えたらしいとは聞いてたが、そうか……金貸しもやってたのか」
デウロのスマホロトム越しに見せてもらった契約書の画像にリモーネは苦々しい表情をする。
拡大しなければ読めないくらいに小さな文面が書かれている極めて悪辣な代物であった。それでも法的にはガイのサインがある以上契約書としての拘束力があるのでタチの悪い話だ。
デウロの話としてはこうだった。ホテルZの宣伝のための動画配信をするべく機材購入費としてガイが10万円分の借金をした。そこまではいい。
問題は、4日前に借りていたその10万円の利子が、100万円にまで膨れ上がっているのを昨日サビ組事務所まで呼び出されたデウロとピュールが知らされたというのだ。
「それで、当のガイさんは?」
「人助けがあるからーって朝早くから飛び出して行っちゃって……人助けは凄いけどこんな時にいないガイなんて知らない! ピュールだって昨日のことがあってビクビクだし、ていうかあたしだって怖い!!」
借金をした本人は不在でピュールは縮こまり、唯一動けるデウロが他に頼る術もなく助けを求めて来たのがユリーカの下であった。
ユリーカは、デウロと気持ちを同じくしていた。
『人助けは確かに大事だけど、それで自分の周りを不安にさせちゃってたら意味ないじゃん』
正直なところとして、ユリーカの中でガイへの評価は急降下した。MZ団ともお友達になったとはいえ、同じチームメンバーになった覚えはない以上知ったことかと追い返す選択肢もあるにはある。
だが、そのお友達となった相手が助けを求めて来た、となれば手を差し伸べるより他に選択肢はないのがユリーカの人となりであった。
「パパ、ユリーカの貯金って今いくらある?」
「ん? あんまり詳しくチェックはしてないが、少なくともカロスリーグ優勝分の賞金500万はそのまま手付かずなはずだ」
「そ。もひとつ聞くけど、パパのお店って月給いくらくらいなの?」
「うーん、ここは正直な話パパの趣味でやってるような感じだからなぁ。人を雇うことなんて考えたこともないな」
「じゃあひと月10万ってことでいっか」
「でね」
娘の意図を察したリモーネはリビングの奥へと引っ込んでゆく。
「あの……ユリーカちゃん?」
「安心してデウロさん。ユリーカに全部お任せ!」
ユリーカが自身の胸をポンと叩いて見せれば、リモーネが預金通帳を手に戻って来た。
ミアレシティの中央西側にあるニッポン共栄圏の古来の建築方式に近い城郭の天守台を思わせる石造りの建物こそがサビ組の事務所であり、ミアレ風の建物が軒を連ねる街並みの中で一際異彩を放っていた。
「なぁジプソ。どないなっとるんやろな」
組長の椅子に座る男は色白の肌に身長が低く、足も床に着いてはいない。
机を隔てて正対する階段状のモヒカンと、両頬に生やした棘付きの髭が特徴的な銀瞳の丸目の巨漢に対して問いかけはするが、別段明瞭な解答を求めているわけでもない。
組のために働く実直な側近として重宝はしているが、物事の細かい部分への指摘は不得手であると知っているからだ。要するに、見た目通りに大雑把なヤツとして認識している。
「はぁ……わたくしとしましても言葉通りの意味としか」
若い衆からの報告をしたジプソは、そんなボスからの人物評価を自認していた。その辺りの潔さも男からすれば好感ではある。
「チンケな自警団気取りのMZ団とミアレジムのユリーカ……妙な取り合わせやな。まぁええわ。お通ししたって」
ともかくは向こうからやってきた以上待たせても仕方ない、そう結論付けてジプソに指示を出す。
サビ組組長カラスバ……ミアレの貧困層から成り上がった黒き才覚の塊は、毒の雫を意匠に組み込んだグラスコードが映える眼鏡の位置をクイ、と直した。
サビ組の組員が立ち並ぶ応接室への道を通るのは昨日に引き続き2回目だが、こんな経験は1度だって御免だというのがデウロのみならず一般人の感性だろう。
「お疲れ様でーす」
そんな通路をユリーカは何食わぬ顔で歩いてゆく。
「ゆ、ユリーカちゃん。怖くないの? こんな所まで来ることになって……」
「大丈夫大丈夫」
アタッシュケースを両手に持ちながらデウロが出来るだけ周りに聞こえないよう話す。
ユリーカの向けてくる表情は朗らかだった。
「ユリーカちゃんは、怖いこととかないの?」
デウロは質問を変える。
それに対するユリーカの回答は明瞭だった。
「お友達を見捨てて平気でいられるような人になっちゃう方がよっぽど怖いよ」
「でねでね」
ポシェットの中からデデンネも相槌を打った。
サビ組の金利は言うまでもなく違法である。そこに難癖をつけてくるような類には組員が、組員で駄目ならジプソがポケモンバトルを仕掛けて痛めつけ、有利に話を進めるのが常套手段なのだ。
『ガイさんの借金、利子ごとまとめて払いにきたから案内して下さい』
それを初手から封じたのがユリーカのこの一言であった。
仁義を通すのが極道の世界、貸したものを返すと言われたならば暴力を振るう必然性などないのだ。
「どうも。サビ組で組長やらせてもろうてます、カラスバ言います」
応接室の『座り心地のいいソファ』の感触も、デウロからすれば2度と味わいたくはなかった代物だ。
出迎える小男のニヒルな笑みを直視することすら恐ろしい。
「ユリーカさんのご活躍はかねがね聞いとります。お兄さんもさぞ鼻が高いですやろなぁ」
「デウロさん」
カラスバの話に答えることなくユリーカが促せば、デウロは頷き、テーブルの上にアタッシュケースを置き、スス、と差し出した。
「ジプソ」
「はい」
差し出されたアタッシュケースをジプソが開けば、そこには札束が5つ。正直なところアタッシュケースの中身としてはスカスカでイマイチ格好がつかないというのがユリーカの不満であった。
「コレは?」
「そこに500万円あります。それでガイさんの借金、利子含めて完済させて下さい」
ユリーカは、毅然と申し出た。
『デウロ』
14歳。ポケモントレーナー。
MZ団のメンバーでホテルZで寝泊まりする女の子。ダンサー志望で日々トレーニングを欠かさない。
パートナーポケモンはスターミーで、スターミーもデウロとダンスをするのが好きみたい。