5 years later〜エピソードZA〜   作:nami73

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 ガイがスジモンからえげつない利息の借金を借りていたとデウロが泣き付いてきた。
 ユリーカはお友達のピンチに立ち上がり、サビ組事務所へ赴くのだった。


第6話 Cランクマッチ ユリーカvsカラスバ

「どうやった?」

 

「はい。間違いなく500万円。偽札ではありません」

 

 カラスバとしては、てっきりポケモンリーグの実力者を立てて借金の違法性を訴えに来たのだとばかり思っていた。

 ジプソを通してガイに貸した10万円、その利子100万円……締めて現状110万円をまとめて支払いに来たと言われ、アタッシュケースの中身を確認させれば何ら細工もされていないと来た。

 

「ちなみにあのカネ……どこから?」

 

「カロスリーグの優勝賞金」

 

 アタッシュケースを差し出し、中身の調査に15分ほどかかったのちのカラスバの問いにユリーカはサラッと答える。

 カラスバは、部屋に入ってから自分に対して一度も視線を逸らさないユリーカの胆力を面白く思っていた。

 大抵の債務者はオドオドとし、まともに視線を合わせることもないのだ。まぁユリーカは直接組から借金した訳でもないのだから当然とも言えるが……。

 

「しかし分かりませんな」

 

「なにが? もしかして足りなかったり?」

 

「いや? 額は問題ありません。利子含めて110万、じゅうぶん足りてますわ……自分、残りの差額でオレらに何させたいねん?」

 

 自分が睨まれてる訳でもないのにデウロは肩をビクッとさせる。

 カラスバの瞳が険を帯びてもなお、ユリーカは動じない。

 

「簡単だよ。ミアレから出てってよ。あなたたちみたいな怖い人の集まり、みんなビクビクしてる」

 

 デウロは一気に顔面蒼白となった。

 捉えようによってはユリーカの言は、サビ組への宣戦布告ともなりかねないからだ。

 

「そりゃあ無理な相談やで嬢ちゃん。オレらみんなお引越しってなったら390万……なんや中途半端やな。キリよく400万でええわ。それでも0の数が1つ2つ足らんわ」

 

「あ、そっか。ごめんなさい。あたし組長さんだけのことで、組のことすっかり忘れてた」

 

 カラスバの言い分をユリーカはあっさりと認める。

 

「じゃあMZ団に2度と近づかないで。この人たち、あなたたちのせいでビクビクさせられてるんだから」

 

『こいつ……!』

 

 最初に相手に断られることを想定した『大きな要求』を提示し、断られた後に本来の『小さな要求』を提示する……初歩的な『ドア・イン・ザ・フェイス』の手法を、スジモン相手にかましてくるユリーカの度胸がカラスバの笑みを生む。

 金を貸した段階で若い衆を動かし、MZ団の動きは逐一把握させていたところから、ガイたちとユリーカの繋がり自体は知っていた。

 知己となったばかりでありながら、彼らのためにここまで大立ち回りを出来るユリーカをますますカラスバは気に入ったのだ。

 元よりカロスの中央都市であるミアレシティにジムを構えている発明王シトロンと、その伴侶となった四天王ドラセナが背後に構えるユリーカを相手にことを起こしてメリットなどあるはずもないというのがまず先にあるのだが。

 

「それは、『お友達のため』か?」

 

「そうだけど」

 

 それがどうした? というような色を瞳から示すユリーカ。

 そこでカラスバのスマホロトムがメッセージを通知し、カラスバは画面をチラと見てから立ち上がる。

 

「分かった。コレでガイの借金は全部チャラや。MZ団にも金輪際絡んだりせえへんと誓う。ただ……」

 

「ただ?」

 

「ユリーカさんに関しちゃあ、このままじゃ帰せへんくなりましてん」

 

 『それってどういうこと!?』と白い歯とニヒルな笑みをつけるカラスバに聞こうとしたデウロだったが、それより先に彼の言葉の意味を理解することになる。

 

『ランクアップ戦のお知らせです。ランク:D、トレーナー:ユリーカ。ランクアップ戦のあなたの相手が決まりました。ランク:D、トレーナー:カラスバ。勝利したトレーナーがランク:Cにランクアップします!』

 

「確かに、コレはタダでは帰れないね」

 

「でねでね」

 

 ユリーカが立ち上がれば、カラスバは事務所に備え付けのバトルコートを親指で指し示した。

 

 

 

 枯山水を彷彿とさせるバトルフィールドの和風な装い、その中心でユリーカとカラスバは対峙する。

 

「大丈夫ですよデウロさん。ウチのボスはとても真摯なお方です。ポケモンバトルとなればあなたが考えているようなことは絶対にしません」

 

「ま、まぁ確かに、ランク:Dのトレーナーだし……?」

 

「ま、カラスバ様のバトルスタイルがリーグで鳴らしてらっしゃるユリーカ様からして正攻法かどうかはさておきですがね」

 

 ニヤリと笑うジプソにデウロは恐怖で表情を引き攣らせた。『早く帰りたい』と切実に思う。

 それでも試合を見届ける決心をしたのは、ユリーカの強さを信じているのがまず第一で、その強さでカラスバがギャフンと言わされるのを目の当たりにしなければ気が済まないという気持ちもあった。

 

 

 

「地方予選を抜けたは言うまでもない、あのフラダリさんを止めた一味なら相当な強さやろ! オマエのポケモントレーナーの実力、思う存分味わい尽くしたるわ!」

 

「フラダリのこと知ってるの?」

 

「昔世話になった。感謝はしてるけどなんであんなことしたかは知らんし、オマエらに恨みはない」

 

『チャレンジチケットを確認! ランクアップ戦の開始を承認します』

 

 互いのスマホロトムが試合の開始を通知する。

 

「人もポケモンも生きてたら汚れていくやろ。その汚れを綺麗にするための汚れ役も街に必要なんや! 行くあてもなかったガキのオレを受け入れてくれたミアレに恩返しするためAランクになって力を得なあかんのや!」

 

「勝つのはユリーカだもん!」

 

「でーね!」

 

 啖呵を返すユリーカにカラスバはフッと笑みを見せる。

 

「とにかくオマエとのポケモンバトル、本気で楽しませてもらうで!」

 

 互いにトレーナーサークルに入れば、カラスバは暗闇に強いダークボールを左手に構える。

 

「いくでぇ! ギャラドス!!」

 

「ぎゃるおおお!!」

 

「いっくよー! ガチゴラス!!」

 

「ごるあああ!!」

 

 カラスバは自身のイメージにピッタリな、ユリーカは華奢な体とは裏腹な、強面の巨体をそれぞれ投入する。

 ひこうエネルギーによる浮力で宙に浮くギャラドスの『いかく』によりガチゴラスは少し表情を歪める。怖いというよりは煩わしい、というのが正しい。

 

『なんちゅうデカさや、まるで怪獣映画やんけ』

 

 カラスバは、ユリーカのガチゴラスに息を呑む。ギャラドスの標準的な大きさは6.5mだが、それは全身を縦に伸ばした際のものにすぎない。両の足で大地を踏み締め、見下ろすガチゴラスはその体躯のみで6mは優に越えていよう。

 

「こおりのキバ!!」

 

 息を呑みながらもすぐにカラスバは思考を切り替える。小さいものが大きいものを打ち倒す構図は、そのままカラスバの人生哲学であるからだ。

 

「受け止めて!!」

 

「ごぅら!!」

 

ガッチィィィ!!

 

 口内の上下に2本ずつ生やした牙にこおりエネルギーを纏わせ、噛み付かんと迫るギャラドスの首元目掛けてガチゴラスは自慢の顎で先に噛みついた。

 

グルングルングルン!

 

 そのまま首の勢いだけでギャラドスを振り回し、ビタン! とフィールドに叩きつける。

 ガチゴラスのパワーファイトに、デウロやジプソはもちろんのこと、見学する若い衆たちも目を丸くさせられてしまった。

 

『アカン……洒落にならへん!』

 

 直接対峙するカラスバに至っては背筋が凍る思いであった。ポケモントレーナーとして、ユリーカが自分よりはるか格上であると肌で感じさせられたのだ。

 

「ぎゃう……!」

 

「よーしギャラドス! よう踏ん張った。交代や」

 

 顔を挙げ、体を起こさんとしたところをカラスバは交代する。

 ユリーカに対し、己が全力をぶつけるべき相手と改めて認識をした。挑戦者として、だ。

 

「ペンドラー! オマエとやったらこの局面も笑顔で切り抜けられるで!」

 

 カラスバがギャラドスから交代で繰り出すはメガムカデポケモンペンドラー。

 

「ぺるるるぁぁぁ!!」

 

『ペンドラーが出てきた瞬間、組長さんの雰囲気が変わった!』

 

 ユリーカの感じ取った気配通りにカラスバは左胸の組のバッジに埋め込まれたキーストーンを起動させる。

 虹色の繭より姿を見せるは上半身が進化前のまゆムカデポケモンホイーガのフォルムに近い硬い薄紫の外骨格で覆われ、柔らかいお腹を保護する装甲に加え、巨大な青緑色の鈍い光を放つツノからは従来より強烈な量のどくエネルギーが窺えるメガペンドラーへとメガシンカして見せた。

 ユリーカにとってはコレもまた初めて見るメガシンカだ。

 

「一球入魂やペンドラー! 投げろ! ジャイロボール!!」

 

「ぺぺるるるぅぅぅッ!!」

 

ギュルルルルル……!!

 

 ペンドラーは全身を丸め、激しく回転。その勢いのままガチゴラスへと迫る。

 

 

 

「凄い豪速球!」

 

「メガシンカで元々のペンドラーより球速もアップしてますからね」

 

 デウロが驚き、ジプソはほくそ笑む。

 如何にユリーカが強くとも、カラスバの全力投球を前にしては対応は必須。

 相手を動かすことで生じる隙を突くのは、カラスバの最も得意とするところであるのをジプソは知っていた。

 

「打ち返してガチゴラス! ワイドブレイカー!!」

 

「ごぅらぁッ!!」

 

ブオオオッ!!

 

グワァラゴワガキーーーン!!

 

 ガチゴラスの尻尾のフルスイングでジャイロボールは迎え打たれ、ペンドラーのボディはカラスバの後方上空、天井へ激しく激突をする。

 

 

 

「う、打ち返しちゃった……」

 

「なんと……カラスバ様のジャイロボールは間違いなくここ最近で1番ノビのある『まっすぐ』だったのに……!」

 

 

 

 驚愕するデウロとジプソを他所に、カラスバは、ユリーカの首にかけているペンダントに内蔵されていたキーストーンの反応を見逃してはいなかった。

 

『本来メガシンカの為に使われるエネルギーを消費し、ポケモンの技のパワーアップに活かした……いわばワザプラスでワイドブレイカーを強化してのフルスイングっちゅうことか』

 

 天井に突き刺さり、自重で落下する際にメガシンカが解除されたペンドラーは既に目を回しダウン状態であった。勝負アリだった。

 

「やった! 上手くいった!」

 

 ワザプラスの技術は、リモーネから聞かされ今日初めて実戦で使うテクニックだった。

 ユリーカとしても帰省するまでは、キーストーンに蓄積されるエネルギーはメガシンカのために使うものとしか思っていなかった。

 

『トレーナー:ユリーカの勝利を確認しました! おめでとうございます! それではランクアップ処理を行います』

 

 スマホロトムが反応し、アプリ内の処理を実行する。すぐにユリーカはランク:Cになった。

 

「気に入らん半端モンにこんなん言われても嬉しないやろけど、オレはオマエのこと認めたる」

 

「ううん。カラスバさんのポケモンたち、凄く良く育てられてた! 戦ってて楽しかったし、とっても嬉しい!」

 

 満面の笑みを向けられ、カラスバは毒気を抜かれてしまった。

 

「おおきに。ええ勝負やったわ!」

 

 ユリーカの差し出す右手にカラスバが応えれば、若い衆たちが2人のバトルに拍手喝采。

 スジモンの巣窟に似つかわしくない爽やかな空気がサビ組事務所に吹き抜けていた。

 

 

 

「ただいまー」

 

「お帰りユリーカ」

 

 サビ組での用事を済ませたユリーカは、事務所の近辺にバトルゾーンが出現すると通知を受けたのでポケモンセンターからカフェを渡り歩いて時間を潰し、その足でZAロワイヤルに参戦をした。

 ランクアップ戦のために要求される41000ポイントを苦もなく貯め終え、21時前には自宅に帰り着いていた。

 

「でね!」

 

「ん、あれ? パパ、あの辺にあったテレビや洗濯機どうしたの?」

 

 帰宅したユリーカがデデンネに促され店内を見渡せば、商品として置かれていたいくらかがゴッソリ姿を消していたのが分かった。

 父には申し訳ないが、正直ここの電気屋よりは家電量販店の方が消費者のニーズに合っているという考えが根本にあったが故の疑問だ。

 

「あぁ、夕方な? サビ組の人たちがやってきてその辺りのやつ、みんなまとめて買って行ったんだよ。400万円分」

 

「400万円分?」

 

 リモーネの苦笑でユリーカは事情を察した。

 サビ組は、押し付けた返済金の差額分を父の電気屋で物を買うことでさらに返してきたのだ。その辺りは、スジモンなりの『筋の通し方』なのだろう。

 ガイに関してはユリーカが立て替えた借金と利子110万円分、月給10万円としてリモーネの店で働くことをデウロを通して提案し、これを受け入れたという。

 

 

 




 『カラスバ』
 27歳。サビ組組長。
 ミアレシティの裏社会を牛耳るスジモンのリーダーで暴利の金貸しもシノギの1つ。
 パートナーのペンドラーとはスラム街でたむろしていた頃からの長い付き合いであり、固く結ばれた強い絆がメガペンドラーのパワーの源だ。
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