5 years later〜エピソードZA〜 作:nami73
カラスバはそんなユリーカの心意気を気に入り、ランクマッチもスジモンらしからぬ爽やかな幕切れとなるのであった。
「メガユキメノコって、凄く縦に伸びるんだね」
「でねね」
10月20日、ユリーカはマスカットからの依頼を受けボンヤーリ公園の近くに出現した暴走メガユキメノコの鎮圧にあたり、コレを完了していた。
ひと息つくユリーカを遠くより見つめる下卑た視線が1つ……。
「ジュウジュウジュウジュウジュウ! ZAロワイヤルの間しか狙われないと思ったら大間違いテツよミアレジムのユリーカ!」
ユリーカの背後の壁をよじ登る男は、いかにもな精密機械を内蔵した眼鏡を装着している。コレこそが、デフェール渾身の発明品であった。
「トレーナーがポケモンに指示を出す際に発する脳波、コレを読み取る『マインドスキャンゴーグル』さえあれば相手がチャンピオンだろうがなんだろうが手の内はお見通し! 必ず勝てるに決まってるんテツ!」
自らの力を証明するためにデフェールが発明品を渡し、ユリーカに差し向けたのは彼女とは何の因縁もない男だ。金を掴ませ手駒としたのである。
「ねぇ、見てるんでしょ。出てきなよ」
「でーねでーね!」
ユリーカの不意の一言にゴーグルをつけた男は壁に張り付いたまま肩をビク付かせる。
『不意打ちしようというのがバレたのか?』そんなことを考え、襲撃を躊躇したのと同時だった。
パシュウウウーッ!
ユリーカが屋根の上にいる家屋を覆い隠すようにピンク色のホロに包まれ、男は壁から弾き飛ばされてしまった。
ガシャン!!
「あーーーッ!!」
男が落下した衝撃で自慢の発明ゴーグルが破損し、デフェールはまたも放屁しながら地団駄を踏むのだった。
「流石はチャンピオンリーグまで進出なさった猛者中の猛者ですわ。ホロ越しの視線にも気付いていらっしゃったなんて」
「ジョーザイセンジョー……だったかな。ユリーカ、先生に教わったから」
「でねねね! でねー!」
フリルがついた薄紫色の帽子とドレスを着用し、足元にはストーンのついた白い網タイツにピンクのヒールを合わせた肌は焦げ茶寄りの褐色、紫がかった銀髪の縦ロールにキラキラと輝く瞳の少女……厳密には周囲を囲うピンク色のホロ越しの存在に『お前は誰だ! 名を名乗れ!』とデデンネが突っかかる。
「初めましてユリーカ様。わたくしはミアレソシアルバトルクラブ(MSBC)の代表を務めるユカリと申します。先程の暴走メガシンカポケモンとの一騎打ち、実にお見事でしたわ」
「えへへ、ありがと」
現状ホロで閉じ込められている状況であるのだが、褒めてもらえて悪い気はしないのがユリーカだ。
「それでは本題に入りますわね。MSBCとは、バトルを通してポケモンとトレーナーが理解し合い、互いを研鑽し合うことをモットーとしております。ユリーカ様には、是非わたくしが主催するトーナメント大会に参加していただきたいのですわ!」
「バトル大会!? やるやる!!」
二つ返事で了承するユリーカに、ユカリも満面の笑みであった。
チャンピオンリーグを控えたユリーカとしては、少しでも経験値目当てにバトルの機会を欲しているので願ってもない話だ。
「まぁ嬉しい! なら今すぐホテル『シュールリッシュ』までお越し下さいな。受付にはユリーカ様のお名前を出せば通るようにしておきますので」
「はい!」
「では、ホテルにてお会いしましょう」
トーナメントを行う場所を伝え、ユカリの姿と、周囲を囲っていたピンクのホロが消失する。
ミアレシティ中を管理するクエーサー社の扱うものとは別の種類のホロだが、ユリーカにとってはどうでもいいことだった。
「行こデデンネ!」
「でね!」
デデンネをポシェットにしまい、ユリーカは屋根から飛び降り、街道を走り出した。
ホテルシュールリッシュはいわばお金持ち御用達の施設であり、カロスに住む富豪の溜まり場である。
ZAロワイヤルが行われ、バトルが盛んな街の空気に乗り、彼らお金持ちも付き合いの中で自分のポケモンを鍛え、戦わせていた。
「ユリーカ! 借金の件はホントごめんな!」
「ガイさん!」
受付からバトルコート備え付けのVIPルームへ案内されたユリーカを出迎えたのはMZ団のガイだった。
「デウロとピュールにたっぷり絞られちゃってさ。オレ、反省したよ。オマエに立て替えてもらった分は、親父さんの店で精一杯頑張るぜ!」
「人助けもいいけど自分の周りの人たちのことも考えてあげてね?」
「でねでね」
ユリーカが諭すのにデデンネも腕組みをしながらうんうんと頷く。
「あぁ。だから今日から店に行ってたんだけどさ。ユカリってお嬢様からの勧誘がしつこくって……親父さんも行ってこいって言ってくれてさ」
「あー……今に関しては気にしなくていいんじゃない?」
苦笑を浮かべるユリーカの視線の先には父、もといバシャーモ仮面の姿があった。ここにいる以上、ガイ同様にユカリの招待を受けていたのだろう。
バシャーモ仮面も、ユリーカへ向け口元で苦笑を作っていた。
「そうか? にしてもユカリお嬢様ってのはすげえんだな。バシャーモ仮面にサビ組に、チャンピオンリーグのトレーナーまで呼び付けたんだぜ」
「みたいだね」
「でね」
集められた中にはエリートトレーナーのアヤカ、ドラゴン使いのルイといったカロスリーグを一緒に戦った面々もおり、この時点でユリーカは来て良かったと思った。いくらバトルが出来るといっても歯応えがなくてはつまらないからだ。
「皆様。お待たせいたしました! わたくしによるわたくしのためのトーナメント開催に必要なピースが揃いました。こちらがトーナメント表になります」
集められた猛者たちの前にユカリが姿を現し、バトルコートの横に浮かぶホロにトーナメント表が表示される。内容は以下の通りだ。
ユリーカ
タラゴン
マヨネーズ
ルイ
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バシャーモ仮面
アヤカ
カラスバ
ガイ
この8人の名が入ったトーナメントの右横に、決勝までシードされているのがユカリ本人だ。
「そうです! ご覧のようにわたくしがウルトラスーパーシードとなります!」
「なんて自分に都合がいい、いや、よすぎるトーナメントなんだ」
「1回戦のユリーカ様、タラゴン様。準備が出来ましたらコート上までお越しくださいませ。それでは皆様、スーパーユカリトーナメントの開催です」
ガイのツッコミがユカリに届くこともなく、ユカリの呼び掛けに応じてユリーカは歩み出す。
なんとも無茶苦茶なトーナメントがここに始まった。
「俺の知略を実現するため、メガシンカしてくれ! ドリュウズ!!」
作業着に褐色肌な壮年期の男が、ヘルメットの前面に装着したキーストーンを起動させる。
タラゴン45歳、ミアレの再開発にも深く関わる『ラシーヌ工務店』の代表だ。
「ドリュウズのメガシンカ!?」
ウォーグルを繰り出し対峙するユリーカは目を見開いた。初めて見るメガシンカだからだ。
「りゅあああッ!!」
ドリュウズの持ち味である鋼の爪と角がメガシンカエネルギーで更に発達し、本体の3倍以上の長さとなりアンバランス極まりないフォルムのメガドリュウズは、初見のユリーカにさらにインパクトを叩き付ける。
「ここから先は『ご安全に』とはいかんぜ! ドリュウズ、ロックブラスト!!」
「りゅうううッがぁ!!」
メガシンカにより高められた攻撃力を活かしたいわエネルギーの弾丸を爪の間から発射する。
ひこうタイプのウォーグルには効果抜群だ。まともに当たれば、だが……。
「アイアンヘッド!!」
「うおおおッ!!」
ギン! ギン! ギン!
ウォーグルは硬質化させた頭部で岩弾を受け流してみせた。その勢いのままドリュウズへ迫る。
「目には目を! 歯には歯を! アイアンヘッドにはアイアンヘッドよ!!」
「りゅがぁらあああッ!!」
ガッツウウウン!!
ウォーグルとドリュウズが自慢の硬質化させた頭をぶつけ合う。
バチッ! と離れ、すぐに衝突の結果は出た。
「どッ、りゅおッ…!」
後退り、一回転ののちにドリュウズは倒れ、メガシンカも解除される。ノーマル、ひこうタイプのウォーグルに本場のはがねタイプがはがね技のぶつけ合いで敗れた理由は、シンプルなレベルの差に他ならなかった。
「なんという堅く、巨大な壁……いや山か!」
「ありがとうございました!」
ドリュウズをボールに戻しながら、タラゴンはユリーカとの実力差を思い知らされた。
『流石にチャンピオンリーグに駒を進める猛者、まるでレベルが違う。俺はもちろん倅でも到底勝てぬ。孫の代までいけばもしかしたら……』
「まーよねぃーーーずッ!!」
1回戦を勝ち抜いたユリーカの次なる対戦相手のマヨネーズは、金髪を後ろに結んだどこかひょうきんな印象を抱かせる青年だった。
「真なる力を掴んで超えろ!! ルカリオ!! 全開突破のメガシンカ!!」
それでも試合が進む中で、彼は確かな実力を持ち、メガシンカを十全に扱えるほどの猛者であることが分かった。そうでなければユカリのお眼鏡にかなうこともないのだが。
「ばーうー……!ばーうー……!」
マヨネーズのメガルカリオが両掌を鳥のクチバシの様な形に取り手前に構え、腰の辺りまでゆっくりと持っていく。体内のはがねエネルギーを両掌に集めつつ、溜め込めば視線は空中のウォーグルを捉え、上半身から両掌に気を最大に集中させて発射体勢に入る。
「ばぁぁぁーーーッ!!」
ズッ
腰に構えていた両掌を前方に突き出すと同時に、はがねエネルギーの奔流を発射。
「ウォーグル! 全力ばかぢから!! 突撃ーッ!!」
「うおおおおおッ!!」
ビュオワッ!!
モリモリモリモリモリィィィッ!!
己が身を弾丸として急降下突撃をしながらウォーグルは全身の筋肉を膨張させてゆく。自らを筋肉の塊としながらも飛行スピードを殺すことのないギリギリのラインを守りつつ、ラスターカノンと正面衝突。
バチチチチチィッ!!
「くぉぶはぁッ!!」
そのまま突き破り、お腹を捉えるように肉弾がぶつかれば、ルカリオはふっ飛ばされメガシンカが解除。完全にKOである。
「なんと! ブラボー! オー! ブラボー!!」
マヨネーズがユリーカを称賛する。
ひょうきんな態度だが勝負に関してはどこまでも真摯である猛者に打ち勝てたのが、ユリーカは素直に嬉しかった。
「どちらがわたくしと戦うことになるのか、楽しみで胸がドキドキしてまいりましたわ〜!」
2回戦を突破し、ユリーカが対峙するは真紅の仮面……ミアレのヒーローバシャーモ仮面だった。
ルイとカラスバを打ち破りユリーカの前に立ち塞がる仮面の奥の瞳は、成長した愛娘の力を直接味わいたいと心から願うものだった。
「バシャーモ! メガシンカでゆくぞ!!」
「ばしゃあい……!」
小手調べなど無用とばかりにバシャーモが虹色の繭へ包まれてゆく。
ミアレのヒーローとの真剣勝負は、ユリーカの心を熱くした。
「ウォーグル!! ブレイブバード!!」
「うおおおおおおおッ!!」
「バシャーモ!! フレアドライブ!!」
「しゃあっ」
互いに持ち味のパワーへエネルギーを振り向けての正面衝突。
チュドオオオオオン!!
フィールドの中央でエネルギー爆発が起きる。
「うおるぁ〜ッ!!」
発生するモヤを突き抜けるようにウォーグルが飛翔すれば、衝突の爆心地には右膝を屈したバシャーモの姿があった。メガシンカも解除され、倒れこそしないが戦闘続行は出来そうもない。
「しゃもッ……!」
「あぁ。ご苦労だったバシャーモ」
ただの一撃での決着、この場に興醒めとなる者はいない。今の激突の意味を介せぬ程度の実力者にユカリが興味を向けるはずもないのだ。
「1発に力を集中させ、爆発的な威力を叩きつける……今のはさながら居合いの達人同士の立ち合いやな」
ポツリと呟くカラスバ。
ひと仕事終えたとばかりに涼しい表情で戻るウォーグルを出迎えるユリーカに、ガイは圧倒されていた。
『やっぱりユリーカはすげえ!』
ガイは、暴走メガジュカインの鎮圧からこのトーナメントで、すっかりユリーカの強さに魅せられていた。
同時に望んだ。『アイツみたいに強くなりたい』と。
「見事だユリーカくん! 私の完敗だ。きみのようなポケモンと強い絆で結ばれたトレーナーがミアレにいるならば皆も安心して暮らせるだろう!」
「え、えへへへ〜パ、じゃなかった。バシャーモ仮面に褒められちゃった」
「これでトーナメントの私の出番は終わり。ユカリお嬢様には申し訳ないが私はパトロールへ行かせてもらうとしよう。それでは諸君、さらばだ!!」
言い切るや否やバシャーモ仮面は姿を消し、気配も感知出来なくなる。
家に帰ったのだろう、とユリーカは思う。ガイを送り出した手前出迎える必要があるからだ。
『マヨネーズ』
25歳。ポケモントレーナー。
珍妙なスタイルが目に付く青年だがトレーナーとしての実力は確か。
メガシンカに対して造詣が深く、ルカリオ以外のメガシンカも扱えるらしい…?