5 years later〜エピソードZA〜 作:nami73
呼び集められたつわものたちを打ち破り、ついに迎えるはユカリとの直接対決だ。
「長きに渡って開催されたかのような錯覚を起こさせる濃密なスーパーユカリトーナメントもいよいよクライマックスですわね!」
このホテルシュールリッシュ特設バトルコートへ集められたメンバーは、皆ユカリの強権的なスカウトにより事実上否も応もなく足を運ぶしかなかった。
それでもなんだかんだで許せる気分になっているのは、ユリーカの豪快な勝ちっぷりが理由であった。このままユカリにも勝ってくれるならば言うことなし、溜飲も下がるというものだ。
『ランクアップ戦のお知らせです。ランク:C、トレーナー:ユリーカ。ランクアップ戦のあなたの相手が決まりました。ランク:C、トレーナー:ユカリ。勝利したトレーナーがランク:Bにランクアップします!』
「あっ」
「まぁ素敵!」
口上の途中で両者のスマホロトムがランクアップ戦のマッチングを通知する。
これから戦う、今まさにその相手同士がセンターサークル内で向き合った。
『チャレンジチケットを確認! ランクアップ戦をの開始を承認します』
「ZAロワイヤルに参加してよかったです! ユリーカ様たちのような素敵なポケモントレーナーがたくさんいらっしゃるのですから!」
「あたしもそう思う!」
「でねねね〜!」
「うふふ……! わたくしはAランクとなりミアレに暮らす人々を幸せに導くと! そのために皆様を最高のポケモントレーナーにします! これこそ影響力を持つセレブの役目です」
「それすっごく素敵! でもバトルとなったら勝つのはユリーカだもん!」
「そうでなくては。ではランクアップ戦を兼ね、スーパーユカリトーナメントの最後を飾る素晴らしいポケモンバトルを始めましょう!」
ユリーカもユカリもトレーナーサークルへ散り、先発の用意をする。
「参りますわ、メレシー!!」
「ぃしぃ!!」
黒のボディに上品な金のラインが入ったセレブ御用達のゴージャスボールよりユカリが繰り出すのはメレシー。
「いくよ、ウォーグル!!」
「うおおおッ!!」
ユリーカはウォーグルを先発させる。このトーナメント中、ユリーカはウォーグル1体を集中的に実戦で鍛えることにしていた。
「メレシー、ステルスロックを!」
「ぃししししぃ!!」
「翔んでウォーグル!」
「うおおッ!!」
メレシーがフィールド中に尖った小さな石柱を放ち、浮遊させればウォーグルは飛翔し高度を取る。たちまちフィールドのあちこちにステルスロックが浮遊した形になった。
「メレシー、交代を」
盤面を作るまでが仕事とばかりにユカリはメレシーをボールへ戻す。
『フィールドまで降りたらウォーグルは痛い目に遭っちゃう』
メレシーのステルスロックは、早い話がウォーグルを地上から追放したことになる。フィールド中にある石柱に襲われればひこうタイプのウォーグルには辛い話だ。
「これで条件は五分にやり合えますわ。ピクシー!!」
「ぴぴっくう!」
ユカリの交代先はようせいポケモンピクシー。寸胴型の薄いピンク色をしたボディに進化前のピッピより長い手足と羽を持つポケモンだ。
『条件は五分』という部分に訝しむユリーカへ、ユカリはすぐに解答を見せた。
「皆様を導くのがわたくしたちセレブの役目ですわ。ピクシー!」
紫色の帽子飾りに埋め込まれたキーストーンを起動させれば、ピクシーが虹色の繭へと包まれる。
「ピクシーのメガシンカ!?」
これまたユリーカにとって初めて見るメガシンカであった。
「ぴぴっくぅ〜!!」
繭より姿を見せるはメガシンカエネルギーにより発達し、煌めく粒子を放つ巨大な羽で飛翔するメガピクシーだ。よく見れば頭の巻き毛も増量されて帽子のようなデザインになり、平たい形状に変わった耳は垂れ下がっている。
「ピクシーはメガシンカしたらひこうタイプが追加され、空中戦が得意になりますの!」
「へぇー! そうなんだ!」
ウォーグルとピクシーはそれぞれ地上を離れ、空中で睨み合う。
「ユリーカ様もカロスのトレーナーならばスカイバトルはご存じでしょう? これこそはわたくしがスカイバトルから着想を得た『スカイ・ロック・デュエル』! 撃墜されれば石柱が襲い来る、これぞセレブの嗜み! スリリングな決闘ですわ〜!!」
「なにがスリリングな決闘だよ。とんだデスマッチだぜ」
「しかしタチが悪いんはあのお嬢様、自分が痛い目見る覚悟はとっくにしてあるっちゅうところや。腹に1本、どでかい槍をくくっとるでありゃあ」
カラスバとしてもまさかユリーカが負けるとは思っていない。まんまとユカリに整えられた戦場でどうやって戦うのか、そこに純粋な1人のポケモントレーナーとして興味津々であった。
サビ組とMSBCが団体として仲がよろしくないというのはまた別問題だ。
「先手必勝! ウォーグル、アイアンヘッド!」
「うおお!!」
このウォーグル、威勢のいい鳴き声通りにパワフルな性格でその辺りもユリーカとの波長がよく合う1体だ。
相手の望む盤面を作り上げられようともパワーで打ち破ればいいという発想も共通していた。
「やはりユリーカ様のポケモンらしい勇猛果敢ぶり! で、あるからこそこの手が効くのです。ピクシー!!」
「ぴっくぅ〜!!」
ズシッ!!
「うおッ!?」
「ウォーグルッ!!」
効果抜群の一撃をかまさんと襲いかかったウォーグルの前でピクシーが右手を振り上げれば、その瞬間周囲の重力が急激に増し、ウォーグルのボディがあっという間にフィールドへ落着してしまった。
ビュビュビュッ!!
フィールドの地上部へ落ちたウォーグルへステルスロックが殺到するのが音で分かった。落着の衝撃による砂煙で、実際の様子は見ることが出来ない。
「いったい何をやったんだ!? メガピクシーは!?」
「メガピクシーは月の力を得たことで周囲の重力を自在に操れるんや。その力でウォーグル周りの重力を操って叩き落としたんやろ」
「そんな……! じゃああのデスマッチは!?」
「もちろんあのお嬢様は必勝法を握った上で持ち込んだに決まっとるわ」
ガイは絶句する。無茶苦茶な人である、というユカリへの評価がより強まった。
「お嬢様も一気に決めるつもりや!」
カラスバが叫ぶので、ガイも一緒にピクシーを見上げていた。
「相手はチャンピオンリーグにて戦う猛者たるユリーカ様……このユカリ、お遊びは一切ナシですわ!」
「ぴぁぁぁ……!」
「ピクシー! ムーンフォース!!」
「ぴくくくくくしぁッ!!」
ズドドドドド
ピクシーが掌からフェアリーのエネルギー弾を生成し、地上のウォーグルめがけ矢継ぎ早に連射してゆく。
ウォーグル落着の砂煙から今度は連続エネルギー弾の着弾による塵埃が舞うことでウォーグルの様子が見えなくなった。
「ひ、ひでぇ……もう無茶苦茶を通り越してえげつないぜ!」
「やけどコレがポケモンバトルっちゅうモンやろがい。トレーナーもポケモンも、頭と体を限界ギリギリまで使い倒す真剣勝負……あのお嬢様はそこんとこ分かっとるんや」
ガイは、バトルを見届けるカラスバの目がスジモンの組長ではなく1人のポケモントレーナーであることをここで察した。思えば側近のジプソも連れて来ていないのだ。
「そんで、お嬢様よりよう分かっとるのがあの嬢ちゃんや」
そしてカラスバは独りごちりながら、ニヤリと笑った。
「ぴぃー……くぅー……」
「これだけ打ち込めばいかにユリーカ様のポケモンといえど……」
塵埃が晴れてゆけば、ユカリの目がギョッと開かれる。
「まぁっ!?」
ウォーグルは、健在。両の翼を雄々しく広げ、全身より気を充満させていた。
「ステルスロックと、ムーンフォースの連続弾を気のバリアで防いだ!?」
「これぞ攻防一体の必殺、ゴッドバード・バリアだよ!!」
厳密に言えばステルスロックに対してはウォーグルの全身の筋肉を一時的に盛り上げ、かくとうエネルギーを活性化させたばかぢからで受け止め、そののちに飛んできたフルパワー連続エネルギー弾をゴッドバードの『気』で防いだ形だ。
この場でユリーカによるユカリの猛攻への防御の流れを全て把握できる者はいなかった。
「うおおおおおッ!!」
防御から、攻撃へ。攻防一体の必殺技にて攻めに転じるウォーグルが飛翔。
「ぴぐぅッ!?」
重力操作による飛行の阻害は、ムーンフォースの連射から来る疲労で間に合わなかった。
「いっけぇーッ!!」
「でねねーッ!!」
ズッガァン!
ピクシーのボディ中央をしっかり捉えた突撃はそのまま天井まで到達。
ウォーグルは、一撃叩き込んだのでひとまずニュートラルポジションまで舞い戻った。ステルスロックに関してはピクシーのムーンフォース連射により一掃されている。
「ぴぃッ、ぐふッ…!」
天井に突き刺さった羽は、メガシンカにより発達して得たものだ。当然メガシンカが解除されれば消失し、ピクシーは力無く落下する。
ユカリは、静かに相棒をボールへ戻す。
ジャッジを受けるまでもなく戦闘不能であるのは明らか。この上ピクシーが地面に叩き付けられて苦痛を味わうのを嫌ったからだ。
「ちょっと……素敵じゃない。あなたも、あなたもポケモンも!」
瞳のキラキラが増量され、両手を組むユカリ。己が全力の闘法をことごとく跳ね返され、完全にユリーカたちに魅了されていた。
「えへへ……!」
『トレーナー:ユリーカの勝利を確認しました! おめでとうございます! それではランクアップ処理を行います』
試合が終わり、ユリーカのスマホロトムが反応してはアプリ内処理が行われてゆく。
ユリーカがランク:Bへと上がったのだ。
「わたくしから勝利を勝ち取ったこと、心から祝福しますわ。ランクアップもね」
「ブラボー! ユリーカブラボー! 堂々とした戦いぶり、キマッてんねぇ!」
「元から嬢ちゃんのがトレーナーとしちゃ上っちゅう話や」
「おめでとうユリーカ! オレも負けてられないぜ!」
マヨネーズの拍手喝采を皮切りにトーナメントに集められたみんながユリーカへ拍手してゆく。
「み、みんな……!」
「ご覧になって。会場の皆様が喜んでいるでしょう。ポケモンとトレーナーが心を合わせ、勝負を繰り広げる素晴らしさが皆様に伝わったのですね!」
照れ臭くなりながらもユリーカはユカリに右手を差し出す。
「対戦ありがとうございました。それと、こんな素敵なイベントに呼んでくれて」
「感謝したいのはこちらですわ!」
ユリーカの右手をユカリは両手で握り込む。
「これからもミアレの街を守ってください。もちろんわたくしもご助力いたします!」
「それはいいけど、ユリーカは修行の身だし、近いうちチャンピオンになるからずっとミアレにはいれなくなるよ?」
ミアレへの地元愛はあれど、ユリーカにとって優先すべきは己の行く道。
ユリーカには、その道をひた走ってもらうことこそが結果としてミアレの為になるとユカリは理解を示した。
「それではやはり、ミアレ中のトレーナーが切磋琢磨する定期的な舞台が必要だということ……それは即ち、スーパーユカリトーナメントはこれからも不滅ということですわ〜〜〜!!」
瞳の輝きを撒き散らし、盛大に浮かれ舞い上がるユカリにユリーカを除く面々はゲンナリさせられた。
バトル大会を開くのは一向に構わない。ただ、こちらの都合も考慮して欲しいと思っていた。
「勘弁して欲しいで、ホンマ……」
苦笑いするよりないカラスバの一言は、有頂天なユカリの耳には届かなかった。
『ユカリ』
●×歳(情報紛失)。MSBC代表。
ミアレシティトップクラスのセレブでありなによりもポケモンバトルが大好き。
フェアリータイプの使い手であり、パートナーのピクシーが特にお気に入りなご様子。