5 years later〜エピソードZA〜   作:nami73

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 セレブというイメージに反してダーティーさも併せ持ち、勝利に貪欲なユカリの攻め手をユリーカは見事防ぎ切り勝利を収めた。
 ユカリはトーナメントの成功に大満足で、巻き込まれた面々はげんなりさせられるのであった。


第9話 ユリーカへ迫る影 フレア団ヌーヴォ現る

 スーパーユカリトーナメントを勝ち抜いたユリーカは、その足で夜のZAロワイヤルに飛び込んだ。

 チャレンジチケットを手に入れる分の45000ポイントを貯め終えてから帰宅し、10月21日を迎え、体感久しぶりに思える落ち着いた朝を過ごそうだな、と思えるタイミングだった。

 

「ふぅッ! ふぅッ! ふぅーーーッ!!」

 

「待って〜〜〜!!」

 

「でねね〜〜〜!!」

 

 自分もポケモンたちも朝食を食べ終え、ひと息ついたところでマスカットからの依頼を受け、ブルー地区9番地の屋根上に現れた暴走メガスターミーの鎮圧に向かったはいいが、そいつが曲者だった。

 

「これ以上は行かせませ、ぐばぁ!?」

 

 元のスターミーにあったミステリアスさから一転、下部の腕が人間の両足のように伸びたメガスターミーは、それこそ人間さながらの全力疾走で逃げ回り、ユリーカに対応を一任して周囲を固めていたサビ組の幹部ジプソを盛大にはね飛ばしてしまった。

 

「デデンネ! ワイルドボルトー!!」

 

「でねぁぁぁッ!!」

 

 大柄なジプソが足に引っかかって減速したタイミングを突き、デデンネが雷撃を身に纏ってスターミーに体当たりをし、それがトドメとなって暴走メガシンカは収まりを見せる。

 

「ジプソさん! しっかりしてください!」

 

「勝ち取りたい……物もない……無力な馬鹿にはなれない……それで、いいのですよ……」

 

 若い衆の必死の呼び掛けが聞こえているのかいないのか、起き上がったジプソはよろよろと歩き出し、

 

「止まるんじゃねぇぞ……」

 

 いくらか歩いたところで左手を突き上げた体勢でダウンしてしまう。

 

「ジプソさーーーん!!」

 

「あのおじさん、暴走したメガスターミーの足を止める為にわざと飛び出したんだ!」

 

「でね!」

 

 若い衆が集まり、倒れたジプソを担架に乗せ連れ帰るのにユリーカがついていこうとした背後から、声と影。

 

「彼なら大丈夫よ。あれしきでどうこうなりはしないわ」

 

「ッ!!」

 

 ユカリの視線にはホロ越しでも気付いたユリーカが背中を取られ、声をかけられるまで気配に気付けなかった。その事実が、声の主の実力を物語る。

 振り向けばそこには、赤いサングラスをかけたスレンダーなスタイルの美女がいた。

 日に焼けたような肌のスレンダーな体でピンク髪。体は細いが、女性として主張すべき箇所はしっかりと主張をするモデル体型。

 コーディネートはトップスは黒一色のノースリーブで、大きな襟とは対照的に裾はへそ上までと短め。ボトムスにはひし形の穴が開いたようなデザインのローライズパンツを履いており、セクシーな印象を受ける美女は、ユリーカの知己であった。

 

「パキラさん!」

 

「お久しぶりねユリーカさん。デデンネも随分レベルアップしたようで」

 

 カロスリーグ四天王のパキラ。5年前はキャスターとしてカロス中のお茶の間の顔であったが、それは彼女の一側面に過ぎない。

 パキラのアイデンティティはフレア団にあり、研究畑な人物の多い組織においては貴重な武闘派の人物だった。

 直前までユリーカに気配を悟らせることのなかった身のこなしからも衰えなどとは無縁であろう。

 

『ランクアップ戦のお知らせです。ランク:B、トレーナー:ユリーカ。ランクアップ戦のあなたの相手が決まりました。ランク:B、トレーナー:グリ。勝利したトレーナーがランク:Aにランクアップします!』

 

「あれー?」

 

 パキラとの再会を果たしてそこそこにユリーカのスマホロトムがランクアップ戦のマッチアップを通達する。

 対戦相手の名前を聞き、パキラの眉がピクリと動く。

 

「どうかした?」

 

「それがね。次の対戦相手、どんな人か分からないの」

 

「でね〜」

 

 ほんの少し表情が強張ったのを隠しながら聞くパキラにユリーカはスマホロトムの画面を見せる。

 ZAロワイヤルにおけるランクアップ戦では事前に撮影した顔写真が本人情報として主に用いられる。だがユリーカの対戦相手のグリなる人物のアイコンはシルエットだけでどこの誰かが分からないのだ。

 

「こういうのって日常生活に支障が出ないように顔を隠したままな人もいるんじゃあないかしら。偽名やニックネームでの参加も出来るみたいだし」

 

「そっかー……でもこのままじゃあ向こうから訪ねてくるのを待つしかないよね」

 

 屋根上から降り、手近の『カフェ・ソレイユ』にてユリーカとパキラは一服をする。

 先輩トレーナーとしてパキラが奢ってくれるというのでユリーカはありがたくご馳走になることにした。

 

「ランク:Aになったら願いを叶えてもらえるって話だし、グリって人もこのままじゃあ困ると思うし」

 

「そうね。ちなみにユリーカさんの叶えてもらいたい願いはどんなのかしら?」

 

「あたし? うーん……チャンピオンにもカロスクイーンにも自分の力でなるからそこは修行あるのみとしてー……パパに1泊2日の温泉旅行でもプレゼント、ってところかなぁ?」

 

 ユリーカがどうにか捻り出す願いにパキラは微笑んだ。未来のチャンピオンを目指す有望な若手トレーナーにしては随分ささやかな願いだと好感を持ったからだ。

 

「ねぇユリーカさん……そのグリって人、会ってみない?」

 

「え? パキラさん知り合いなの?」

 

 言い終えてからユリーカはハッとする。

 パキラは、自分が顔を見せに来た理由をユリーカが察したので不敵に笑った。

 

「グリって人……もしかしてフレア団に関係ある人?」

 

「案内するわ。話は向かいながらしましょうか」

 

 パキラに続いてユリーカも席を立つ。

 呑気な表情が既に真剣なものに変わっている……そんなユリーカにパキラは満足げに頷いた。

 トレーナーとしてだけではなく、女のカンも磨かれているのを認めたからだ。

 

 

 

 ミアレシティ中心部にそびえ立つプリズムタワー、その周辺部であるメディオプラザで営業行為が出来るのは、それだけでミアレにおいては一定の評価を得ている証だ。

 そこにキッチンカーを置くスタイルで有名な『ヌーヴォカフェ』にて、無礼極まりない態度を貫いているのはデフェールだった。

 昼下がりのコーヒーブレイクを楽しみにやって来た他の客たちが不快な表情を向けているのに気付くことはない。

 

「この低俗な泥水を売るくらいしか日銭を稼ぐ方法を持てないきみたち『フレア団ヌーヴォ』に相応しい話を持ってきてあげたんテツよ? 感謝して頭を垂れるテツ」

 

 看板娘のグリーズは、『立地が売りの不味いコーヒー』であると自分の店の商品をバッサリ切り捨てて憚らないが、それはあくまで照れ隠しのようなものに過ぎない。

 

「グリーズ」

 

 注文したひのこローストを地面に飲ませながらニチャニチャとした薄ら笑いを見せる肥満野郎に詰め寄り、胸ぐらを掴んでぶん殴ってやろうとしたところに制止を受け、グリーズは自らを必死に押さえ込む。

 

「グリ……!」

 

 デフェールは、今度はキッチンカーの中より出て来た眼鏡の青年、グリに薄ら笑いを向けた。

 

「『我々のことをどこで』というのは無粋ですね。本題に入りましょうか」

 

 グリはグリで相対するデフェールが不愉快ではある。だが、どういうわけか自分たちの素性を知っている以上、話だけはとりあえず聞いてやることにした。

 いきなり本題を求めたのは、この不快な輩との絡みを早いこと切り上げてしまいたいからに他ならない。

 グリーズを止めたのも彼女の手をこんな醜男のために汚して欲しくないと思ったからだ。

 

「ジュウジュウジュウジュウジュウ! ボクは偉大なるスクライアの民の一員デフェール! ボクたち一族は未来を見通す力を持っているのテツ!」

 

 薄ら笑いのままに語るデフェールにグリはリアクションを示さない。超能力者や忍者が現存しているポケモン社会において、未来予知一本頼みで偉ぶるにはあまりにもパンチが弱すぎるとしか言いようがないと思った。

 デフェールは、相手が自分の威光に恐れ慄いていると思い込み上機嫌だ。さっさと本題に入ってくれというグリの視線からの訴えにも気付いていない。

 

「きみたちフレア団ヌーヴォはいわばフレア団の2世集団! そのフレア団に技術提供をしていたのが何を隠そう我々だったのテツ!! まぁ、結局は無様に敗れていったけど、それはきみたちの先代の落ち度であってスクライアの民には何の関係もないのテツ!」

 

 多弁なデフェールは、ポケットの中から小型のデバイスを取り出し、グリに差し出す。

 

「そんな偉大なスクライアの民の技術力を活かして作られたコレはボクの最新作! 装着すればポケモンの身体能力を100倍にまで引き上げ、あらゆる技が一撃必殺! 相手が誰であれ必ず楽勝出来るスグレモノなのテツ!」

 

「それはそれは……そんな代物を作れたのなら、ご自分のポケモンに使ってバトルをしたらいかがです?」

 

 グリにチッ、チッ、チッ、とデフェールは指でジェスチャーする。

 

「ボクたちスクライアの民はこの世界における現人神! ポケモンバトルなんて低俗なこと、とてもとても出来やしないんテツよね〜」

 

「……」

 

 グリはデフェールの鼻高々とした話などは聞いていない。聞くに値しない。激発寸前なグリーズに対し首を横に振り、再度制止を促した。

 

「ミアレジムのユリーカ、知っているはずテツ」

 

「えぇ、まぁ。チャンピオンリーグ帰りで、トライポカロンでも素晴らしい活躍を見せたカロスの希望の星ですからね」

 

 グリのユリーカ談にデフェールは分かりやすく表情から苛立ちを見せる。この時点で何となく事情を察した。

 

「そのユリーカはZAロワイヤルにてランク:Bとなったんテツ。きみと同じくランク:B。奴は近いうちにきみにバトルを仕掛けにくるはずテツ!」

 

「……その時に、その装置を使ってユリーカ選手を倒せ、と?」

 

「その通りテツ! 奴は栄光ある我々一族をコケにした存在! スクライアの民を馬鹿にする者は皆徹底的に懲らしめられなくてはならないのテツ! ランク:Aとなり、社会のゴミから真人間に戻りたいきみたちフレア団ヌーヴォからすれば願ってもない話テツよね〜?」

 

 グリは、ここ1番のスマイルを見せた。渾身の営業スマイルだ。

 

「『我々』のことをご存知ならば、おれがどう返事するのかもお分かりでしょう」

 

「もちろんテツ! ボクたちで手を組み、フレア団壊滅に関わった憎きユリーカに断罪を!! まぁ、マイナスが0に戻ったところで所詮ゴミはゴミ!! ボクたち選ばれた一族からしたらきみたちなんていうのは」

 

「お断りします」

 

 デフェールの多弁を遮り、グリはキッパリと言い放つ。眼鏡の奥の瞳に、静かな怒りと侮蔑を携えていた。

 

「は? へ?」

 

「確かに先代フレア団は『美しい世界のため』と言いながらとんでもない愚行を犯しました。そのせいで彼らの庇護下にて育った我々に対する風当たりは今も強いままだ。それでも我々フレア団ヌーヴォの是は依然として先代と同じくあります。故にこのミアレで生きていくならば、誰に後ろ指差されることもない生き方をしなければなりません」

 

「要するに、お前の脂ぎった汚い手垢まみれのインチキ装置なんか要らないってことだよ!!」

 

「なぁッ! 〜〜〜ッ!!」

 

 グリーズの啖呵にデフェールはみるみるうちに顔面を真っ赤に染め上げ、その場で地団駄を踏む。

 

「代金は結構ですのでお帰りください。おれの淹れる『泥水』は、あなたのお口には合わないようですし」

 

「キ、キィ〜〜〜!!」

 

「帰れってんだこのブタ野郎!!」

 

「キ、キキキキィ〜〜〜!! 絶対に許さないぞぉ〜!! ユリーカを叩きのめしたら次はお前たちを叩き潰してやるぅ〜ッ!!」

 

 グリとグリーズを指差しながら後ずさるのでデフェールは濡れた地面に足を滑らせ、贅肉まみれの臀部より転倒。同時に盛大な放屁をした。先程自分が捨てたコーヒーで転んだのだ。

 

ハハハハハ……! クスクス…!

 

 一連のやり取りを見ていた他の客たちが笑っているのも、笑いを堪えているのもデフェールには屈辱であった。他人を見下し、嘲笑うことは大好物だがされる側に回るのは我慢ならない性格であるからだ。

 怒りと羞恥で顔を真っ赤にしながらデフェールは尻を抱えて立ち去ってゆく。

 その後ろ姿をグリが見送ることはなかった。神を気取るおかしな輩より、余程重要な来客が到来したからだ。

 

「パキラさん」

 

「連れて来たわよグリくん。この娘がユリーカちゃん」

 

「こんにちは」

 

「でね」

 

 ユリーカとデデンネが挨拶し一礼をする。それだけで先程までの澱んだ空気が消し飛ぶような感覚を、ヌーヴォカフェにいた皆感じた。

 




 『パキラ』
 33歳。カロスリーグ四天王。
 かつてはフレア団幹部としての顔も持っており、組織にリーグからの情報を垂れ流す等暗躍をしていたがサトシたちの絆の力を前に離反する。
 ほのおタイプのエキスパートであり、メガヘルガーのほのお技はまさしく地獄の如しだ。
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