アラスター、幻想入りする   作:まったり愛好家

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タイトルのネタが原作勢にしか伝わらん…気になった人は調べてください。


第十話 知識と日陰の少女・話術と影世のペーソナリティ

 私は、相手が魔法使いである以上、距離を取らせるのは致命的だと即座に判断した。

 

 弾幕戦は確かに派手で、理不尽な物量を押し付けてくる。

 だが、それでも――魔法使いは準備と距離が命だ。

 

(ならば、近づくしかない)

 

 結界内の床を強く蹴り、私は一直線に距離を詰めにかかる。

 

 影が足元から伸び、推進力を補助する。

 視界の端で、宙に浮かぶ少女――パチュリー・ノーレッジの指先が動いた。

 

 次の瞬間。

 

 空間が、焼き切られた。

 

 幾本ものレーザーが、まるで格子のように空間を封鎖する。

 

 上下、左右、斜め。

 逃げ道を計算し尽くした配置。

 

(――速い)

 

 思考よりも先に、体が反応した。

 

 私は、自身の輪郭を崩す。

 

 肉体が影へと溶け、レーザーが私をすり抜けていく。

 

 光が通過した直後、影が再構成される。

 

 それでも、距離は詰めきれない。

 

 レーザーはただの攻撃ではない。

 私の進行方向そのものを否定する、空間制圧だ。

 

「開幕から出し惜しみなく撃ってきますね」

 

 影の中から身体を戻しつつ、私は皮肉を口にする。

 

「舐められていないと喜ぶべきなのか、楽に勝てないと嘆くべきなのか……悩ましいところです」

 

 深く息を吐く。

 

 その間にも、空気が震える。

 

 パチュリーは、さらに高度を取った。

 本棚の上空、星の模型と同じ高さまで浮上する。

 

「影になったり、影の触手を出したり……」

 

 彼女は私を観察するように、冷静に言葉を選ぶ。

 

「悪魔っていうよりは、影師ね」

 

 次の瞬間、彼女の周囲に水色の魔方陣が展開された。

 

「水特『ベリーインレイク』」

 

 魔方陣が砕け、光へと変わる。

 

 それは、雨ではなかった。

 

 無数の細いレーザーが、私を中心に収束してくる。

 一本一本は細く、しかし数が異常だ。

 

 私は跳ぶ。

 

 床、棚、空中――影を踏み台に、縦横無尽に移動する。

 

 だが、避けた先に待っていたのは――

 

 球体の弾幕。

 

 中型の水弾。

 さらに、その奥に、巨大な半透明の球体。

 

 圧が違う。

 ただの弾ではない。

 

(なるほど……)

 

 理解する。

 

「レーザーは、私の逃げ場を制限するため……!」

 

 言葉にした瞬間、私は空間を折り畳む。

 

 影が一瞬、点に収束し――

 

 短距離転移。

 

 次の瞬間、私は別の位置に立っていた。

 

 直後、先ほどまで私が存在していた空間が、弾幕によって完全に塗り潰される。

 

 水と光が衝突し、結界内に反響音が走った。

 

「へえ……」

 

 パチュリーが、わずかに口角を上げる。

 

「テレポート……芸達者ね」

 

 賞賛とも、皮肉とも取れる声音。

 

 私は答えず、影を這わせる。

 

 そのとき。

 

 再び、レーザー。

 

 今度は、避けない。

 

 私は腕を伸ばし、影を開いた。

 

 レーザーが、闇へと吸い込まれる。

 

 光が、音もなく消失した。

 

 一瞬、パチュリーの眉が動く。

 

「……小悪魔たちとの戦闘でも、そうやってたわね」

 

 彼女は、弾幕の手を緩めずに問いかけてくる。

 

「それ、どうやってるの?」

 

「あなたの体全体で一つの能力なの?」

 

「それとも……それぞれ独立したもの?」

 

 探るような視線。

 

 私は弾幕をかわしながら、答える。

 

「素直に答える義理はありませんが……」

 

 影が床を這い、弾幕の隙間を縫う。

 

「まあ、いいでしょう。私もこの戦闘に興が乗っていますので」

 

 私は、マイクを軽く回しながら続ける。

 

「私の影は、単一のものです」

 

「影を操る、というよりは……」

 

 影が、私の背後で大きくうねる。

 

「影の操作そのものが、私の能力の一部なんですよ」

 

 弾幕が、再び密度を増す。

 

「あなたの想像よりも……」

 

 私は、目を細めた。

 

「私の能力の幅は、広い」

 

 普段であれば、ここまで喋ることはない。

 

 戦闘は、いつも一瞬で終わる。

 語る前に、決着がつく。

 

 だが――

 

(久しぶりですね……この感覚)

 

 相手が、即座に崩れない。

 

 手札を切っても、なお応じてくる。

 

 魔法使い――

 しかも、相当な練度。

 

 結界の中、影と魔法がせめぎ合う。

 

 私は、次の動きを考えながら、再び影を踏み出した。

 

 爆発の余韻が、まだ図書館の空気に残っていた。

 焦げた紙の匂い、焼けた金属の臭気、そして魔力が過剰に消費されたあとの、ひりつくような静けさ。

 天井から吊るされた惑星模型が、衝撃でわずかに揺れ、軋む音を立てながらゆっくりと回転を続けている。

 

「ほう……耐えましたか。私の想像よりも固い」

 

 私は歩み寄りながら、煙の向こうに立つ少女へ声を投げた。

 足音が床に響くたび、散乱した紙片や破片がかすかに擦れる。

 

「しかし無傷、というわけではなさそうですね。……両手が、随分と酷い」

 

 少女――パチュリー・ノーレッジは、焼け焦げた両手を胸元に引き寄せ、わずかに顔をしかめた。魔力で辛うじて保っているのだろうが、皮膚のあちこちが爛れ、指先は痙攣するように震えている。

 

「この程度……なんてことない、って言いたかったんだけどね」

 

 そう言いながら、彼女は短く息を吐いた。

 

「私は魔法使いだから。これは、正直……相当な痛手よ」

 

「ええ、そうでしょうとも」

 

 私は影を足元に広げながら応じる。

 

「その状態では、私の触手を捌ききれるとは思えません」

 

 言葉が終わるより早く、影が蠢いた。

 床から立ち上がるように伸びた触手が、音もなく彼女へ迫り、残っていた魔力障壁を容赦なく叩き砕く。

 砕け散った魔法の残光が、粉雪のように空中を舞った。

 

 パチュリーは踏ん張りきれず、その場に崩れ落ちる。書物の積まれた机の脚に背を預け、荒く息を整えながら、こちらを見上げた。

 

「さて」

 

 私は彼女の前に立ち、影が自然と後方へ引いていくのを感じながら、穏やかな声で告げる。

 

「これであなたは無防備状態。両手は使い物にならず、従えている悪魔も全員、私が拘束しています。援護も、防御も、期待できない」

 

 一拍置いて、続けた。

 

「……状況は、理解できますね?」

 

 少女は答えなかったが、その沈黙が肯定だった。

 視線だけが、私の足元から顔へとゆっくり移動する。

 

「ですが、ご安心を」

 

 私は口元に笑みを浮かべる。

 

「私はあなたに、提案があります」

 

「……提案?」

 

 かすれた声で、パチュリーが問い返した。

 

「ええ。私と契約をしませんか」

 

 そう言って、私は彼女の前に手を差し出した。

 影の奥から浮かび上がる赤いマイクが、わずかに光を反射する。

 

「契約? 契約って……何の?」

 

「単純なものです」

 

 私は淡々と答えた。

 

「私はこの場であなたを殺さない。その代わりに、あなたは私の配下につく。条件はそれだけ。簡単でしょう?」

 

 マイクを指先で軽く回すと、金属音が静かな図書館に小さく響く。

 

 少女は一瞬、目を細め、それから呆れたように息を吐いた。

 

「服従の契約ね……」

 

 視線を逸らしながら、ぽつりと続ける。

 

「なんだ。やっぱり悪魔だったんじゃない」

 

「否定はしませんよ」

 

「なら、私は契約しないわ」

 

 そう言って、彼女は力の入らない腕で、私の手を払いのけた。

 

「私には、先客がいるの」

 

「先客、ですか」

 

 私は一歩下がり、首を傾げる。

 

「それは……この館の主人、吸血鬼ですね?」

 

「ええ、そうよ」

 

 パチュリーは小さく笑った。

 

「私の友人。私と契約したかったら、その人に許可を取ってからね」

 

「それは残念」

 

 私は手を引っ込め、肩をすくめる。

 

「では、あなたを殺すとしましょうか……と言いたいところですが」

 

 一拍置いて、続けた。

 

「こちらにも事情がありましてね。殺しは控えたいんです。さっきのはハッタリですよ」

 

 数歩、距離を取る。

 影も触手も、攻撃をやめ、静かに床へ溶けていく。

 

「今回は、強者との戦闘、それ自体が目的でした」

 

 淡々と言葉を重ねる。

 

「あなた達の魂には用はない。……運が良かったですね」

 

 そう言って、その場を去ろうとした瞬間――

 

「――動くと撃つ!」

 

 背後から、張り詰めた声が響いた。

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