個性『ウマ娘』でヒロアカ世界の最速を目指す 〜転生したらステータスが見えたので、限界突破してヒーローになります〜   作:雪乃 宿海

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思い付きで書いてます。


No.1

 事の始まりは中国・軽慶市。発光する赤児が生まれたというニュースだった。

 それを皮切りに世界各地で超常現象が発見・報告され、原因も判然としないまま時は流れる。

 いつしか超常は日常に。夢は現実に。世界総人口の約8割が超常能力――〝個性〟を持つに至った超人社会となった。

 

 その超人社会に、また新たな命が誕生した。

 

「やっと…会えたね…、天馬(てんま)…」

 

 生まれたばかりの、今にも壊れそうなほど柔らかい命。

 母親の腕に抱かれ、この新しい世界での新しい景色に困惑を示すように産声を上げる。

 

 駿河 天馬(するが てんま)

 

 赤子の状態でもわかるほど端正な顔立ちで生まれ、一目で異形型の個性が発現していることが分かったらしい。

 

 頭頂部にはおよそ人間のものとは思えない尖った細長い耳。腰からは細長く毛の生えた尻尾。

 まるで馬のような特徴をもった私は、一通り泣くだけ泣いて、泣き疲れたら母親の腕の中ですやすやと眠りについた。

 

     *

 

 そんな私もすくすく育ち、月日が経って小学六年生になった。

 

 周りから大人びていると言われていたこの頃、私は不思議な夢を見ることが多かった。

 個性という概念が存在しない世界で、夢の中の私はいつも同じ顔をしていた。最初は私と同じくらいの男の子だった。

 その子は私が夢で見る度に成長していき、どんどん大人になっていく。

 成功や挫折、時には恋に落ちて……そんな夢の男を見て、私は他人じゃないと感じていた。

 

 最初はただ何となく、そんな気がしただけだった。

 

 ある日、その予感が確信に変わる出来事があった。

 

 夢の中の男が、ある二つの作品に手を出し始めたのだ。

 それは『僕のヒーローアカデミア』という漫画と、『ウマ娘プリティーダービー』というゲームだった。

 

(……嘘でしょ。私のこの耳と尻尾、単なる『馬の個性』じゃなくて、あのゲームのキャラそのものじゃん)

 

 目が覚めた時、私は言葉を失うほど驚愕した。

 自分の頭に生えた耳に触れる。ピク、と指先の感触に反応して耳が動いた。流れ込んでくる前世の記憶が整理されるにつれ、冷や汗が止まらなくなった。

 

 私の前世は、現代日本に生きるごく普通のオタク男子だった。

 週刊少年ジャンプでヒーローたちの熱い戦いに胸を躍らせ、スマホを開けばお気に入りのウマ娘を勝たせるために、血眼になって因子を厳選する。

 

 そんな日々を送っていたはずの「私」は、ある日を境に私の「前世」になった。

 私がどうやって死んだかは、どうしても思い出せなかった。

 

 ここは、前世で読んだ漫画『僕のヒーローアカデミア』そのものの世界。

 

 超常が日常。

 

 ヒーローが職業として成立し、悪が跋扈する超人社会。

 そこに、私はよりにもよって『ウマ娘』になって生まれてしまったらしい。

 

「天馬、またぼーっとしてる。先生、もうすぐ来るよ?」

 

 隣の席の女子に声をかけられ、私は慌てて思考を切り替えた。

 

「あ、ごめん。ちょっと……昨日、走り込みすぎて筋肉痛でさ」

「また? 天馬はほんと、走るの好きだよね。その個性、絶対ヒーロー向きだよ」

 

 ヒーロー、か。  確かにこの脚があれば、誰よりも早く現場に駆けつけられるだろう。

 

 でも、私の魂(プレイヤーの記憶)が疼く。

 

(違うんだよ。この脚は、平和を守るためだけにあるんじゃない……「一番」になるためにあるんだ)

 

 前世で何百回、何千回と繰り返した育成。スピード、スタミナ、パワー、根性、賢さ。

 今の私の肉体には、その数値が「才能」として既に備わっている感覚があった。

 

     *

 

 放課後。

 

 私は誰に誘われるでもなく、グラウンドへ向かった。夕焼けに染まるトラックを見つめると、自然と足が震える。

 

「よし……ちょっと試してみるか」

 

 そうして私は足で適当に引いた線の前に立ち、今まで通りスタートダッシュを決める。

 タタタッ、と土を蹴る音。ゴールラインを駆け抜ける。手元のストップウォッチを見る。

 

「……8秒9」

 

 小学六年生の女子としては破格のタイムだ。体育の先生なら目を丸くして褒めるだろう。

 

 8秒9。速い。確かに速い。

 

 けれど、私の感覚は全く逆だった。

 私の内側にある「何か」が、不満げに鼻を鳴らした気がした。

 

(遅い。……それに、すごく走りづらい)

 

 スポーツカーで渋滞をノロノロ運転しているような、強烈なフラストレーション。

 全力を出そうとすればするほど、何かが私の体を後ろへ引き戻そうとする感覚があった。

 

「……もう一本」

 

 私は違和感の正体を探るため、再びスタートラインに戻った。今度は足の運びだけじゃなく、体の「揺れ」に意識を集中させて走る。

 

 タタタッ!  地面を蹴る。加速する。すると、すぐにその「邪魔者」が暴れだした。

 

(これか……尻尾だ!)

 

 お尻の上にある、自分の背丈ほどもある長い尻尾。

 直立に近い人間のフォームで腕と脚を振ると、その動きに連動して尻尾が左右に大きく振られてしまう。まるで巨大な振り子が腰についているようなものだ。

 その遠心力が骨盤を揺さぶり、進行方向へのベクトルを乱している。走れば走るほど、尻尾が勝手に暴れ出し、私は無意識にそのバランスを取るために余計な筋力を浪費させられていた。

 

「はぁ、はぁ……っ、もう一回!」

 

 今度は、尻尾を暴れさせないように意識して走ってみる。

 だが、そうすると今度は上体が起き上がりすぎてしまい、真正面から風の抵抗を受けることになった。今の私の速度域では、空気はもはや「風」ではなく「壁」だ。体に空気が激突し、推進力が殺されていく。

 

 何度も、何度もダッシュを繰り返した。

 走るたびに、この新しい体が訴えかけてくる。 『その動きじゃない』『もっと効率のいい動かし方がある』と、筋肉が、骨格が、軋みながら正解を求めている。

 

(人間の真似事じゃダメだ。人間の走り方じゃ、この体は扱いきれない)

 

 私は膝に手をつき、荒い息を吐きながら思考を巡らせた。

 尻尾の遠心力を殺し、かつ空気抵抗を極限まで減らす姿勢。この体を、最も効率よく前に進めるための形。

 

 その時、脳裏に彼女たちの姿がフラッシュバックする。

 スマホの向こうに見ていたウマ娘たちのレースシーン。

 芝を削り取るような力強い踏み込み。地面と水平になるほど深く沈み込んだ前傾姿勢。

 

(あの上体……!)

 

 かつての私は、あれを単なる「キャラクターとしての演出」や「馬っぽさの表現」だと思っていた。

 でも、自分がこの体になって、何度も失敗して初めて理解できる。

 あのフォームは演出じゃない。この骨格、この筋肉、そしてこの「尻尾」を最大限に活かすための、生物としての最適解なんだ。

 

(……試してみよう。私の『理論』が正しいなら……)

 

 私は再びスタートラインに立つ。

 今度は、違う。上体を深く、極限まで深く倒す。

 そうすると不思議なことが起きた。今まで邪魔だった尻尾がピンと跳ね上がり、倒れそうになる重心を背後から支える(ラダー)の役割を果たし始めたのだ。

 

(やっぱり……これだ)

 

 視線は低く、獲物を狙うように前方を見据える。

 腕は振るのではない。空気を切り裂く翼のように。

 脚は地面を蹴るのではない。強靭な爪で、大地を「掴んで」後方へ射出するように。

 

「……ふぅーっ……」

 

 深く息を吐き、筋肉のバネを圧縮する。

 

 スタート

 

 ――ドォッ!!

 

 一歩目。踏み込んだ土が爆発したかのように飛び散った。

 景色が一瞬で後方へすっ飛んでいく。さっきまでの自分の走りが「ジョギング」だったと思えるほどの、暴力的な加速。

 

(軽い! 速い! 重くない!)

 

 風の音が「ヒュウ」から「ゴウッ」という轟音に変わる。ストライドが伸びる。一歩で進む距離が、人間のそれとは次元が違う。

 何より、体が喜んでいた。血管を巡る血が沸騰し、細胞の一つ一つが「もっと速く、もっと前へ!」と叫んでいる。

 

 これが、ウマ娘の走り。これが、この世界の常識を置き去りにする速度。

 

 何度も、何度も走った。

 走るたびにフォームが洗練されていく。「理想の走り」に、今の肉体が追いついていく。

 

     *

 

 日は沈みかけ、グラウンドは濃いオレンジ色に沈んでいる。

 最後の一本。私はスタートラインに立ち、深く息を吐いた。

 

 その瞬間、世界から音が消えた。

 風の音も、遠くのチャイムも、自分の鼓動さえも、聞こえているのに意識の端へと追いやられる。

 視界が極限までクリアになり、ただ「前」だけがそこにある感覚。

 

 だが、その静寂を切り裂いたのは、トラックの耳を刺すような鋭いクラクションだった。

 

「ッ!?」

 

 視界の端。グラウンドの柵を越え、道路へ転がり出たボール。

 それを追って飛び出した、小さな影。

 大型トラックのライトが、逃げ遅れた子供を無慈悲に照らし出す。

 

 考えるよりも先に、思考が真っ白に塗りつぶされた。

 

(間に合ええええええッ!!!!)

 

 ——ドンッ!

 

 地面が爆発したような衝撃と共に、私の体は発射された。

 景色が、溶ける。今まで試していたフォームなんて意識にない。アスファルトを蹴る足首が悲鳴を上げるが、止まらない。

 一歩で数メートルを飛び、二歩でトラックの制動距離を追い抜く。

 

 間一髪、私は子供の服の背中をつかみ、歩道側へと引き戻すことが精一杯だった。

 子どもを引っ張った勢いでそのまま前にさらに飛び出す。

 

「あぶっ……ないっ!」

 

 直後、私の足先を、巨大な鉄の塊が轟音と共に後方を通り過ぎていった。激しいタイヤの焦げる臭い。

 私は勢い余ってアスファルトの上をごろごろと転がり、ようやく止まった。

 トラックの方を確認するとトラックは電柱にぶつかり、電柱についていた信号機は衝撃に耐えかねトラックの運転席部分へ落ちていた。

 

 擦りむいた膝が熱い。心臓が、肋骨を突き破らんばかりに暴れている。

 

「……はぁ、はぁ……っ、……だいじょうぶ……?」

 

 震える声で尋ねると、思い切り歩道へ引き戻した子供は呆然としながらも、泣き声を上げ始めた。

 大きな怪我はなさそうだ。助かった。丈夫な個性でも持っていたのだろう。

 体が勝手に動いた。ヒーローになんて興味がないと思っていたのに、これじゃまるで——。

 

 ふと、視界の隅で「何か」が点滅した。

 眩暈にも似た感覚と共に、無機質な文字が浮かび上がる。

 

【スピードが5上昇した】

【スキル『集中力』のヒントLvが3上がった】

【スキル『ロケットスタート』のヒントLvが2上がった】

 

「え……?」

 

 それは、見間違えるはずもないUI。前世で、死ぬほど眺めていた育成画面。

 そこで私はようやく悟った。

 私の個性は、単に「ウマ娘の身体能力を持つ」なんて生易しいものじゃない。

 トレーニングし、スキルを拾い、勝利を積み重ねていく。あの『ウマ娘』というゲームのシステム、概念そのもの、それを体現する個性。

 

 ……だとしたら。私は、私を、私のステータスを……どこまで強くできるんだろう。

 

「……はは、これ。……笑えないくらいのチートじゃん」

 

     *

 

 彼女は、走るために生まれてきた。

 

 ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走る。

 

 それが、彼女の運命。

 

 この世界に生きる彼女の未来は、

 

 まだ誰にもわからない。

 

 彼女は走り続ける。

 

 瞳の先にあるゴールだけを目指して

 

 これは、私が最速のウマ娘(ヒーロー)になるまでの物語。




続く?
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