個性『ウマ娘』でヒロアカ世界の最速を目指す 〜転生したらステータスが見えたので、限界突破してヒーローになります〜 作:雪乃 宿海
前回スキル【末脚】についてわかりづらい表現をしてしまったようなので、本作のスキル仕様について少し補足させていただきます。
結論から言うと、「前々回で使用した時点では、まだスキルを正式に習得していなかった」というのが正解です。
本作のシステムは、以下のような仕様になっています。
正式習得の条件: スキルヒントLvが5になると、自動でそのスキルを獲得します。
ヒントLvの上げ方:
・トレーニング等で、スキルに準じた動作を反復する
・実戦などで、本能的にそのスキルと同等の動きを成功させる
前々回での【末脚】発動は、追い詰められた天馬が「本能的にその動きを行った」ため、システムがそれを感知して効果を発揮させたものです。
その経験を経て、前回の騎馬戦中に規定値に達し、正式に「スキル獲得」となった次第です。
第1話で【ロケットスタート】未収得の状態で加速できたのも、同様の仕様によるものです。 天馬本人はまだこの詳細な仕様に気づいていませんが、「そういうシステムなんだな」とご理解いただければ幸いです。
「……はぁ、はぁ。もう大丈夫。一人で歩けるよ」
切島くんと瀬呂くんに両脇を抱えられてフィールドを出た私は、荒い息を整えながら二人の肩から離れた。
ガス欠寸前だったが、少し休んでウマ娘の回復力が働けば、歩くことくらいは造作もない。
「お前マジですげえな。最後、俺気絶するかと思ったぞ」
「ごめんね、乗り心地最悪だったよね」
「いや、最高に漢らしかったぜ!」
「私女の子なんだけどね」
切島くんがニカっと笑う。
その横で、爆豪くんが不機嫌そうにポケットに手を突っ込んで歩き出した。
みんなとは逆方向だ。
「おい爆豪!どこ行くんだ?」
「便所」
「あ、私も顔洗ってくる。土埃ですごいし」
私は切島くんたちと別れ、爆豪くんの後を追うように通路へ入った。
冷たい水で顔を洗い、サッパリしてトイレを出る。
すると、ちょうど男子トイレから出てきた爆豪くんと鉢合わせた。
「あ」
「チッ……ついてくんじゃねェよ金魚のフン」
「誰がフンよ。方向一緒なだけでしょ」
相変わらず口が悪い。
私たちは適当な距離を保ちながら、並んで廊下を歩く。
騎馬戦の熱気が冷めやらぬ中、ふと、前方のスタジアムの選手用出口から話し声が聞こえてきた。
「あの…話って、何?」
緑谷くんの声だ。
そしてもう一人、低く冷たい声。
「気圧された。自分の制約を破っちまうほどによ。飯田も上鳴も八百万も常闇も麗日も…感じてなかった。最後の場面あの場で俺だけが気圧された。本気のオールマイトを身近で経験した俺だけ」
轟くんだ。
私と爆豪くんは、示し合わせたように足を止めた。
別に盗み聞きをする趣味はない。
ないけれど、この二人が対峙している独特の空気感に、足が動かなくなったのだ。
「それ…つまりどういう…」
「おまえに同様の何かを感じたってことだ。なァ…オールマイトの隠し子かなんかか?」
緑谷くんはそれを否定する。
そして轟くんは語り出した。
No.2ヒーロー・エンデヴァーの野望。
オールマイトを超えるための個性婚。
母を壊し、兄弟を切り捨て、自分を「最高傑作」として作った父親への憎悪。
「……っ」
隣で、爆豪くんが息を呑む気配がした。
私も、そういうものがあるというのは知ってはいたけれど、生の声で聞かされると胸が締め付けられる。
重い。あまりにも重すぎる「ヒーローの闇」。
「言えねぇなら別にいい。お前がオールマイトのなんであろうと俺は
「ふーん、
「アァ!?なんで俺が舐めプ半分野郎を説教しねぇといけねぇんだ!?」
「駿河、爆豪、お前ら聞いてたのか」
「聞いてたんじゃねぇ!てめぇが勝手にしゃべってただけだろうがッ!」
「駿河お前にも負けねぇからな。お前も俺の超えるべき壁だ」
「無視すんじゃねェ!上等だコラ!てめぇら全員潰して最後に勝つのはオレだ!」
そういって不機嫌を隠さず足音を立てながら去っていく爆豪くん。
私も緑谷くんが何か言いたそうにしているのを感じてその場を離れる。
爆豪くんもそう思ったのかな?なんだ意外に幼馴染思いのいいやつじゃん。(甚だ勘違いである)
「轟君がなんで私に宣戦布告したのか分からないけど、私は負けないよ。じゃそろそろご飯行くから。じゃねー」
ある程度離れると私の中で株がほんの僅かに上がった爆豪くんの背中が見えたので隣に向かう。
その時私のウマ耳が、震える声でそれでも力強い宣戦布告を捉えた。
「改めて僕からも……僕も、君に勝つ!」
宣戦布告。
その言葉を残して、緑谷くんが立ち去っていく足音が聞こえる。
轟くんもまた、反対方向へと消えていった。
まだ不機嫌そうに歩く幼馴染が大好きな(甚だ勘違いである)爆豪くんに幼馴染の気持ちを伝えてあげることにした。
「フフ…緑谷くん、勝つってさ」
「……知るか」
彼は吐き捨てるように言った。
ツンデレか。(甚だ勘違いである)
「クソデクが勝ったところで、俺が潰すわ」
「……だよね。私も、負けるつもりはないよ」
私たちはそれ以上何も言わず、食堂へと向かった。
さっきまでの勝利への執着とは違う、決して譲れない「意地」のようなものが、私たちの胸に刻まれていた。
*
昼食を終え、控え室に戻ろうとすると、上鳴くんと峰田くんが血相を変えて女子たちに声をかけていた。
「おい駿河! 八百万! 大変だぞ!」
「え、なに?」
「相澤先生が言ってたんだよ! 午後は女子全員、チアリーダーの格好をして応援合戦しろって!」
……は?
あの合理性の塊みたいな相澤先生が?
「えー、聞いてないよ……でも先生が言うなら仕方ないかぁ」
「信じねぇのも勝手だけどよ、相澤先生の言伝だからな」
八百万さんも「先生のご指示なら……」と信じ込んでしまい、あっという間に衣装が創造された。
そして数分後。
『ん?ありゃ?どーしたぁA組』
『なーにやってんだ…?』
スタジアムに出た瞬間、プレゼント・マイク先生の驚愕の声と、相澤先生の呆れた声が響く。対照的に観客は私たちの姿に歓声を上げている。
私たちは全員、オレンジ色のチアリーダーの衣装に身を包んでいた。
ミニスカート。へそ出し。ポンポン。
「だっ……騙しましたわね!峰田さん!上鳴さん!」
「アホだろあいつら」
耳郎さんがポンポンを地面に叩きつける。
私も状況を理解して、騙した二人組を睨んだ。
……が。
(まあ、これはこれで……悪くないかも?)
私はスカートの裾を直しながら思う。
ウマ娘にとって、ライブはレースと対になる重要な要素。
観客を沸かせるのも一流の条件だ。
それに、この衣装……動きやすい。
「見て見て芦戸さん! 脚長く見える?」
「天馬ちゃんノリノリじゃん!? メンタル強っ!」
羞恥心よりもサービス精神が勝った私は、カメラに向かってウインクを決めた。
*
そんな茶番を経て、いよいよ最終種目の発表が行われた。
『最終種目は、進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだ!!!』
ミッドナイト先生が小箱を持ってくる。
「それじゃあ組み合わせのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!んじゃ1位チームから順に…「あの…!」」
ミッドナイト先生の進行を遮るように声が響く。
「すみません。俺辞退します。」
尾白くんに続き、B組の庄田くんも手を挙げた。
騎馬戦の最中、なぜか記憶がないまま勝ち残ってしまったことへの、彼らなりのプライドによる辞退だった。
その心意気を汲んで、繰り上がりでB組の鉄哲くんと塩崎さんが本戦へ進むことになった。
そして、確定したトーナメント表。
私は自分の名前を探す。
第一回戦 第5試合:駿河天馬 VS 青山優雅
「えっ、青山くん?」
視線を向けると、キラキラしたオーラを纏った金髪の彼が、私に向かって優雅に手を振っていた。
「やぁ、君と戦えるなんて光栄だよ☆」
「……お手柔らかにね」
普段あまりしゃべらないし普段の授業でもあまり目立たないけれど彼も雄英の狭き門をくぐった強者であることは変わりない。
まあいい。相手にとって不足なしだ。
*
第一試合、緑谷くん対心操くんの心理戦。
第二試合、轟くん対瀬呂くんの瞬殺劇。
続く試合もそれぞれの個性と執念がぶつかり合い、会場のボルテージは上がり続けていた。
そして、第五試合。
いよいよ私の出番だ。
『一回戦第5試合! 何だコイツいろいろナゾだ!青山優雅 VS ここまで上位をキープ今大会きっての実力者の一人、駿河天馬!!』
実況と共に、私たちがフィールドに入場する。
対峙する青山くんは、いつも通りの煌びやかな笑顔を浮かべているが、その目は真剣だ。
『START!!!』
開始の合図。
私は即座にスキルを発動した。
【スキル発動:『集中力』】
世界の色が褪せ、音が遠くなる。
相手の筋肉の動き、呼吸、瞬きすらもスローモーションに見える。
私の反応速度を極限まで高める本当に便利なスキル。
これなら、どんな攻撃も見てから回避できる――
「いくよ!!☆」
青山くんのへそから、眩い光が放たれた。
遅い。
彼の腰が引け、レーザーが射出されるまでの予備動作は完璧に見えていた。
だから、避けられるはずだった。
――ジュッ!!
「……っ!?」
私の頬を、熱い衝撃が掠めた。
回避動作を取ったはずなのに。
私の身体が動くより先に、光が到達していた。
(な、なんで!?どういうこと!? スローに見えてるのに!)
私はバックステップで距離を取る。
頬がヒリヒリと焼ける。
冷汗がスーッと垂れる。
痛みは少ないが私は今だいぶ焦っている。
(なぜスローモーションの世界で攻撃をよけられない?)
(いきなり目の前にレーザーが現れた)
(だけどスローモーションの世界のはず)
(多少の傷さえ覚悟すれば避けられなくはない)
(とにかく動いてタネを見破れ!)
そこからしばらく『ネビルレーザー』をかすらせながら逃げることしかできなかった。
あれから何度か『集中力』を発動している。だが解決策はなく変わらずスローモーションの世界でもレーザーは目の前に現れる。
「そろそろ降参してよ☆僕レディをいじめるような趣味はないからさ☆僕の趣味はキラメキさ!☆」
「そーいうわけにもいかないの!だって私の趣味は一番になることだから!」
(……おかしい。絶対に、おかしい)
私は『集中力』を維持したまま、青山の動きを凝視する。
彼のまばたき。ゆっくりと閉じて、開く。その間、約0.1秒。私の感覚では数秒に感じるほどのスローモーション。
彼の腹筋が収縮し、ヘソのレンズが光を帯びる。それも、手に取るように見える。
(来る!)
私は身構える。
これだけ遅く見えているんだ。レーザーが放たれた瞬間、その光の先端を見切って避ければいい。
今までだって、そうやって避けてきた。
こんなに避けられないのナガンさん以来だ。
レンズから光が溢れる。
発射――!
――ジュッ!!
「……っ!?」
まただ。
また、焼かれた。
私は愕然とする。
今、私は確かに見ていた。彼が撃つ瞬間を。
でも、「光が私に向かって飛んでくる映像」がなかった。
光がレンズから出たと思った瞬間には、もう私の頬で弾けていた。
過程がない。
タイムラグが、ゼロ?
(弾丸には、到達するまでの時間がある。音にもある。風にもある)
(でも……青山くんの攻撃にはそれがない!)
冷や汗が背中を伝う。
そこでようやく、私は一つの物理法則を思い出した。
(そうか……『光速不変の原理』……!)
光の速度は秒速約30万キロメートル。
たとえ私が思考を加速させて、体感時間を100倍、1000倍に引き延ばして世界を止めたとしても光の速度だけは、変わらない。
私の知覚の限界を遥かに超えて、「撃った瞬間=着弾」という絶対的な速度で襲ってくるのだ。
(見てから避けるなんて、物理的に不可能だったんだ……!)
その時、脳裏に一つの記憶が蘇った。
まだ私が幼かった頃。河川敷での訓練。
夕日が低くなるまで、私の師匠レディ・ナガンと手合わせをした時のことだ。
『予測が単純すぎんだよ。お前は見てから避けてる。でもスナイパーや手練れのヴィランはお前が避ける場所を撃つ』
彼女は河原の石を拾い、ヒュンヒュンと私に向かって投げつけてきた。
石ですら見えない速度。何度も額に食らって涙目の私に、彼女は笑って言った。
『大事なのは、相手の視線、筋肉の動き、そして呼吸を読むこと。……速さだけで解決しようとするな。それは二流のすることだ』
(……そうだ)
私は息を整える。
光を見るな。
光を放つ、青山優雅という人間を見ろ。
青山くんの腰が僅かに沈む。
へその角度。
視線の先。
そこから導き出される
(――そこッ!)
カッ!!
レーザーが放たれる、その0.1秒前。
私は既に横へと跳んでいた。
私がいた場所を、太い光線が貫いていく。
「えっ、消えた!?」
【スキル『危険回避』のヒントLvが4上がった】
【スキル『危険回避』を獲得した】
【スキル発動:『危険回避』】
青山くんが驚愕する。
私はその隙を見逃さない。
光の速さには勝てないが、撃った後の隙だらけの人間になら、勝てる!
「遅いよ、青山くん!」
私は一瞬で間合いを詰めた。
懐に入り込み、がら空きのボディへ、手加減した(でも痛い)掌底を叩き込む。
「アデュー☆」
「ぐふっ……!?」
青山くんがくの字に折れ曲がり、吹き飛んだ。
場外の壁に激突し、ズルズルと崩れ落ちる。
「……僕のキラメキが……負けた……」
『勝者、駿河天馬ァァァ!!』
ミッドナイト先生のコール。
私は頬の傷を拭い、気絶した青山くんに一礼した。
ナガン、ありがとう。
「……ふぅ。何とか勝てた。次は誰かな?」
私は観客席の歓声を背に、二回戦へと駒を進めた。
作者「一高校の体育祭がオリンピックに代わるのだいぶヤバない?」
天馬「そんなもんだよ。この世界競馬場も廃れてるからね」
作者「個性社会恐るべし」
続く?