個性『ウマ娘』でヒロアカ世界の最速を目指す 〜転生したらステータスが見えたので、限界突破してヒーローになります〜 作:雪乃 宿海
今回レディ・ナガンが出てきます。
違和感ないように書いていますが作者は見切り発車で本作を書いているので口調などで違和感があったら脳内補完してください。
スコープ越しの世界は、いつだって冷たく、鮮明だ。
ビルの屋上。コンクリートの縁に右肘を固定し、私は眼下の道路を疾走する暴走トラックを追っていた。
――ザザッ
警察無線がノイズ混じりに叫んでいる。
『対象は宝石店強盗グループの逃走車両! 個性は「軟質硬化」。触れた柔らかいものを鋼鉄並みに硬くする個性です! タイヤもシートも硬化されており、通常の銃撃ではパンクさせられません! レディ・ナガン、タイヤではなくエンジンブロックを――』
「りょーかい。……ったく、面倒な個性だこと」
私は右腕から伸びるライフル状の個性器官を構え、呼吸を整える。
ターゲットは市街地を暴走中。タイヤは既にカチカチに硬化され、警察の銃弾を弾き返している。エンジンブロックを撃ち抜くには角度が浅い。
残る手段は、運転手を直接狙撃して無力化することだけ。
(フロントガラスの隙間を縫って、脳幹を一撃で破壊する。……技術的には可能)
だが、私はトリガーにかけた指を止めた。
(しかし今の速度で運転手が即死すれば、トラックは制御を失って歩道へ突っ込む。……いつものように「事故死」に仕立て上げることは不可能ね)
公安から与えられる裏の任務中ならば、目撃者のいない場所で処理するが、今は「表のヒーロー」としての仕事中だ。
リスクが高すぎる。どうやって止めるか思考を巡らせた、その時だった。
スコープの視界の端に、小さな球体が転がり込んだ。
サッカーボール。
続いて、それを追う子供の影。
「……ッ、最悪!」
タイミングが悪すぎる。
私が撃つかどうか迷ったコンマ数秒の間に、事態は致命的な局面へと推移していた。
トラックは止まらない。子供は気づいていない。
間に合わない――そう直感した瞬間だった。
歩道から、何かが「発射」された。
――ドンッ!!
爆音のような踏み込みと共に、その影は子供を歩道へ引っ張り、自身はアスファルトの上を転がった。間一髪、トラックがその横を通過し、私が撃ち抜いた信号機が落下したことで電柱に突っ込みようやく停止する。
だが、私の意識は確保された犯人には向いていなかった。
アスファルトの上で、よろりと立ち上がる少女。
スコープの中にいる少女には馬のような耳。長い尻尾。
膝を擦りむいているが、致命傷はないようだ。
「……今の動き、何?」
あの子は、明らかに「異形型」の個性持ちだ。おそらく馬か何かの個性だろう。しかし馬の筋肉構造をしているなら、走り出しには相応の予備動作や重心移動が必要になるはず。
だというのに、あの子はトップスピードに達するまでのプロセスをすっ飛ばしていた。
(まるで、火薬か何かで推進力を得たような――増強型?)
見た目は異形型。動きは増強型。
その歪な個性に、私の公安としての勘が警鐘を鳴らした。
*
数日後。
私はプロヒーローのレディ・ナガンとして、あの子――駿河天馬の自宅を訪れていた。
表向きは、事故現場に居合わせたヒーローとしての事情聴取と、子供へのアフターケア。
けれど本当の目的は、あの奇妙な「加速」の正体を探ることだ。
「こんにちは、駿河天馬さん。怪我の具合はどう?」
「こんにちは、レディ・ナガン。膝はもう治りました。……有名なヒーローが、わざわざ私なんかのために?」
リビングのソファに座る小学六年生の少女は、包帯を巻いた膝をさすりながらペコリと頭を下げた。
礼儀正しく、落ち着いている。
頭の上の馬耳がピコピコと動いている様子は、どこにでもいる可愛らしい子供そのものだ。
だが、私を見るその瞳。
憧れや興奮といった感情よりも先に、こちらの意図を探るような「理性的すぎる」光が宿っている。彼女に事故のアフターケアで来た事を伝えると一言「ありがとうございます」と笑って見せた。
不謹慎だが、もう少し年相応に事故に対して恐怖していてくれたらこっちも安心できるというものだ。
「いいのよ、市民を守るのが仕事だから。……それより、あの時のこと聞かせてくれる?」
私はカップの紅茶を一口すすり、雑談の延長のように切り出した。
「どうやったの? あなたの個性、『馬』なんでしょ? 少し調べさせてもらったわ」
天馬の肩がわずかに強張るのを、私は見逃さない。
「『馬ができることは大抵できる』。確かにサラブレッドは速いわ。でも、あの時の君の動き……生物としての溜めが全くなかった。馬にしては、初速が異常すぎる気がしないかしら?」
カマをかけた。
子供相手に大人げないかもしれない。だが、この超人社会に時折現れる複数個性を持つ
そして、その先には、往々にして社会を揺るがす
彼女は
公安の犬として、疑わしい芽は見過ごせない。
天馬は少しの間、沈黙した。視線を宙に彷徨わせ、言葉を選んでいる。
「……必死だったから、よく覚えてないんです。ただ、『間に合わせなきゃ』って思ったら、体が勝手に動いて」
「『体が勝手に』。ヒーローのようなセリフね」
「それに……馬は、臆病な生き物ですから。驚いて逃げ出す時は、自分でも信じられない力が出るんです。火事場の馬鹿力……いえ、馬力が出ただけですよ」
天馬はそこで一度言葉を区切り、まるで教科書を思い出すように付け加えた。
「あと、私……普通の人より心臓が大きいんです。心臓が大きくて強いと、いきなりトップスピードを出しても負担は少ないって。……私の個性は『馬』だから、学校の図書室で馬についていろいろ調べたんです」
完璧な回答だ。
子供らしい動機と、生物学的な言い訳を綺麗に混ぜ合わせている。
論理的で、綻びがない。
――だからこそ、嘘だ。
普通の小学生なら、もっと興奮して自分を誇示するか、逆に恐怖を語るはずだ。こんなに冷静に、自分の異常性を「一般論」の中に隠そうとはしない。
彼女は、何かを隠している。
(AFOの隠し子…は飛躍しすぎか……しかし、マークは必要だな)
私は内心で舌打ちしつつ、表情には柔らかな笑みを張り付けた。
「そっか。火事場の馬力、頼もしいわね。……ねえ天馬ちゃん。君、それだけの力があるなら、将来は雄英高校のようなヒーロー科を目指してるの?」
私の問いに、天馬はキョトンとした顔をした。
そして、困ったように眉を下げ、ゆるゆると首を横に振る。
「……いえ。わかりません」
「わからない?」
「はい。なんとなく、漠然とヒーローになれたらいいなとは思ってましたけど……。最近、自分が何者なのか、何のために走るのか、よくわからなくなってしまって。でも走ることは好きです」
それは、計算高いであろう彼女が初めて見せた、年相応の迷いだった。
私はその姿に、まるで何かと何かの狭間で揺れているかのような不安定さを感じた。ただ事故直後の彼女にその何かを聞くことはできなかった。願わくばその何かが正義と悪ではないことを祈るばかりだ。
「……そう」
私は少しだけ、毒気を抜かれた。
嘘をついて力の正体を隠す「不審な対象」であると同時に、自分の力の使い道に迷う「ただの子供」でもある。
私は立ち上がり、テーブルに名刺を置いた。
「もし進路が決まったり、その力で困ったことがあったら連絡して。……お姉さんが、相談に乗るから」
これは公安としての監視用ラインへの誘導。
けれど、迷子のような彼女の目を見て、ほんの少しだけ「お節介」な気持ちが混じったのも事実だった。
「ありがとうございます……レディ・ナガン」
名刺を見つめる天馬の瞳に、少しだけ光が宿るのを横目に見ながら、私はその場を後にした。
この出会いが、彼女にとっても、そして私にとっても、運命の分岐点になるなんて思いもしないまま。
天馬「ナガンに救いはありますか?」
AFO「(知ら)ないねぇ」ニチャア
続く?