個性『ウマ娘』でヒロアカ世界の最速を目指す 〜転生したらステータスが見えたので、限界突破してヒーローになります〜   作:雪乃 宿海

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続きました。
作者は緩ーく書いているので違和感を感じたら脳内で補正してください。


No.4

 レディ・ナガン――筒美火伊那との出会いから、数か月がたち、中学生になった私には、二つの「日課」が定着し始めていた。

 

 一つは、地獄のようなトレーニング。

 もう一つは、不定期にふらりと現れる彼女――レディ・ナガンとの交流だ。

 

     *

 

 着なれない制服になれ始めた頃、私はある言葉が心に引っかかっていた。

 

『また? 天馬はほんと、走るの好きだよね。その個性、絶対ヒーロー向きだよ』

『君、それだけの力があるなら、将来は雄英高校のようなヒーロー科を目指してるの?』

 

(ヒーロー…か、私ってどうしたいんだろう…)

 

 いまだあの問いかけに対して答えが出ないまま何となく生きている。

 ヒーローと言われて思い浮かぶのはオールマイトや、もうおぼろげにしか残っていない前世の記憶に出てくるこの世界の主人公。彼らは瞳にはいつも揺ぎ無い信念が宿っていた。

 

(私にはそんな大義も信念もない)

 

 それでもウマ娘の本能なのか、前世に引っ張られているのか私は自分を鍛えずにはいられなかった。強く、速く。そう思わずにはいられない。だから私は近所の公園に来て、トレーニングをしてしまうのだろう。

 

そんな時だった。

 

「……動きが硬い。それじゃあ、いい(マト)だ」

 

 不意にかけられた声に私の耳はピンっと立ち、声のする方向へ向く。続いてその方向に顔を向けると思いがけない人物がいた。

 

(レディ・ナガン…?)

 

 ベンチで缶コーヒーを飲んでいたナガンが、呆れたように声をかけて来る。

 

「お前、せっかく私の連絡先をやったってのに全然連絡くれないじゃんか」

「え、アレって社交辞令的なヤツじゃないんですか?」

「個性の無断使用。個性使用許可を持っていない者が個性を使用する。一応立派な犯罪だぜ?あの時お前は『馬』とは思えない超スピードと超加速をした訳だけど」

「『馬』です」

「はいはい、アンタの個性は『馬』だよ。まあそういう体験で何かを掴んだガキってのは色々と試したくなるもんだろ?そういう意味でも名刺を渡したんだけどな」

 

 ニヒッと笑いながら言うナガン。

 口調がテレビで見たときのようなものに変わっている。おそらくこちらが素のナガンなのだろう。そんな事を思っているとナガンは続ける。

 

「いいよ、私が見てたげるから続けて。さっきも言ったけどそんな動きじゃただの(マト)だ」

(マト)って……私は撃たれる予定はないんですけど」

(ヴィラン)は待ってくれない」

「だから私は(ヴィラン)と戦う予定はないんですって!」

 

 彼女は私の前に立つと、地面に落ちていた小石を拾い上げた。

 

「私がこの石を投げる。お前は全力で避ける。……避けられたら、私の奢りでクレープ食べに行く。どうだ?少しはやる気がでたか?」

「えっ、クレープ!? やります!」

 

 甘いものに釣られ、私は即座に構えた。

 相手は小石。私の『スピード』なら、投げてからでも避けられるはずだ。

 

 ――ヒュッ。

 

 風切り音。気づいた時には、私の額に「ペチッ」と軽い痛みが走っていた。

 

 小石が当たったのだ。

 

「……え?」

「はい、死んだ。今のは脳幹ブチ抜きコース」

「う、嘘!? 私、見てから動いたのに!」

 

 ナガンさんはニヤリと笑い、もう一つの石を放る。

 今度は集中する。見える。……避ける!

 体を右に捻った――その先に、石があった。

 

 ――ペチッ。

 

「いっ、たぁ……!?」

「予測が単純すぎんだよ。お前は見てから避けてる。でもスナイパーや手練れのヴィランはお前が避ける場所を撃つ」

 

 彼女は私の横に来ると、軽く足先で地面を叩いた。

 

「大事なのは、相手の視線、筋肉の動き、そして呼吸を読むこと。……速さだけで解決しようとするな。それは二流のすることだ」

 

 それは、トップヒーローだけが知る戦場のリアルだった。

 ただの馬力任せだった私に、彼女は技術の重要性を教えてくれているのだ。

 

『スキル【危険回避】のヒントLvが1上がった』

『スキル【策士】のヒントLvが1上がった』

 

 その日、結局クレープは奢ってもらえなかったけれど、代わりに「がんばったご褒美だ」なんて言ってアイスを買ってくれた彼女はやっぱりヒーローなんだなと思う。

 お互い半分に分けたアイスを片手に歩く夕焼けの中で彼女は言った。

 

「お前には才能がある。……だからこそ、賢く生きなよ。力に振り回されないようにな。個性を鍛える時は私が見ててあげるから、オフの日連絡するからその日は空けとけよ?」

 

 その横顔は、厳しくも温かかった。

 

 

     *

 

 季節はまた巡り学年がひとつ上がって迎えた夏。

 

 うだるような暑さの中、私は河川敷の坂道でタイヤ引きダッシュを繰り返していた。

 パワーと根性を鍛えるための、ウマ娘における古典的かつ最強のトレーニングだ。

 

「……100本目ッ!!」

 

 肺が焼けるように熱い。足の感覚がない。

 けれど、視界の端にポップアップする『パワーが+1上昇した』『根性が+2上昇した』というログが、私を突き動かす快感になっていた。

 

「相変わらず、ストイックだな」

 

 土手の上から、涼しげな声が降ってくる。

 見上げると、私服姿のナガンさんが、アイスキャンディーを片手に立っていた。

 

「ナガンさん! ……来てたんですか」

「今来たところ。ほら、差し入れ」

 

 彼女はひらりと土手を降りてくると、ソーダ味のアイスを半分に割り私に差し出した。

 彼女は「事故のケア」という名目で来ていた。けれど、この一年でその空気は変わり、私にとって彼女は頼れる姉のような、あるいは専属トレーナーのような存在になっていた。

 

 私の視界には、彼女との関係性を示すパラメータが見えている。

 

【レディ・ナガン:絆ゲージ(オレンジ)】

 

 信頼の証だ。

 

「で? 最近の調子はどうだ? タイム、縮んだか?」

「はい。でも、課題も見えてきました。……速いだけじゃダメなんです。コーナーワーク、障害物の回避判断。そういう賢さを上げないと」

「……ふふ、お前は本当に一番を目指してるんだな。でもなこのヒーロー社会は脆いんだ。一番になるだけじゃだめだ。泥臭くもがいたってこの社会を守らないといけないことに絶対なる。だけど泥をかぶるのは私みたいなヒーローでいいんだ。お前みたいな未来のNo.1に泥は似合わない。」

 

 ナガンさんは穏やかに笑う。

 けれど、私は気づいていた。彼女の頭上に表示されているステータスに異変が起きていることを。

 

【コンディション:肌荒れ・寝不足】

【やる気:絶不調(上昇中)】

 

 会うたびに、彼女のコンディションは下がっている。

 けれど、「やる気」の矢印は、私と会っている時だけわずかに上を向いていた。

 きっと、私の知らないところで大変な激務をこなしているのだろう。私はゲームでは見たことのないその表示に、心の中で「がんばれ」とエールを送ることしかできなかった。

 

     *

 

 中学三年の春。

 世間がある事件の噂で持ちきりになっていた頃。

 

「ねえ、聞いた? 隣町のヘドロヴィランの話」

 

 教室でクラスメイトたちが話している声が耳に入る。

 なんでも、プロヒーローですら手をこまねく強力なヴィランに、一人の男子中学生が人質にされながらも抵抗し続けたという。

 

(すごいな……『根性』ステータスがSランクなんだろうな)

 

 私は教科書を広げながら、他人事のように分析する。

 さらに噂では、無個性の少年が助けに飛び込んだとも聞いた。

 

 私には、彼らのような熱さが少し眩しく見えた。

 私は自分の個性を『馬』と偽り、誰にも本気を見せずに、ただ淡々と数値を積み上げている。

 そろそろ周囲も進路が固まり始めた頃。と言っても同級生のほとんどはどこのヒーロー科に行くかで盛り上がっているようだ。

 

 (ヒーロー科か…)

 あれからヒーローへの憧れは大きくなった。ぶっきらぼうに私を見てくれる姉のような私のヒーローのおかげで。

 

 (やっぱりナガンさんと同じ雄英かな、行くなら)

 

 結局、雄英に行くことにした私。うん、単純な女だ。

 数週間後に配られた進路希望調査票にほんの少しだけ自虐気味に「雄英高校」と書くのであった。

 

――そんな私の憧れが、粉々に砕かれる日が来るとも知らずに。

 

     *

 

 そして、秋もくれ始めた頃。

 雄英高校の入試を一ヶ月後に控えたある日。

 

 そのニュースは、あまりに唐突に、私の世界を叩き壊した。

 

『――速報です。プロヒーロー、レディ・ナガンが、ヒーロー公安委員会会長の――氏を殺害し逃亡。先ほど確保されました』

 

 リビングで夕食を食べていた私は、箸を取り落とした。 

 テレビ画面に映し出されたのは、警察車両に押し込まれる彼女の姿。

 手錠をかけられたその表情は、いつか私に見せたような優しさは微塵もなく、すべてを諦めたような冷たい虚無に覆われていた。

 

「……嘘だ」

 

 私の脳内UIが、無機質な警告音と共にエラーを吐き出す。

 

【筒美火伊那】 【絆ゲージ:LOCK(接触不可)】

 

 世間は一瞬で掌を返し、彼女を「偽りのヒーロー」「殺人鬼」と罵倒し始めた。

 ネットニュースのコメント欄には、彼女への憎悪が溢れかえっている。

 

 (ナガンさんは、快楽で人を殺すような人じゃない。絶対に違う)

 

 直感がそう告げる。

 一見ぶっきらぼうに見える彼女は間違いなくヒーローで、私に見せた優しさに嘘は無いと信じている。

 

 そして…。

 

 脳裏に浮かぶのは、あの『絶不調』のステータスと、彼女が時折こぼしていた言葉。

 

 ――『この社会は脆い。誰かが泥を被ってでも支えないと』。

 

 もし、殺害されたヒーローが、社会を害する存在だったとしたら?

 法では裁けない悪を、彼女が自らの手を汚して排除したのだとしたら?

 あるいは、そうせざるを得ないほど、彼女は何かに追い詰められ、それでも「社会のため」という信念を守ろうとした結果だとしたら?

 次々と私の「賢さ」ステータスが、感情的な否定ではなく、冷徹な分析を導き出す。

 

「……馬鹿だよ、ナガンさん」

 

 涙が滲む。

 彼女は一人で背負い込みすぎたんだ。

 自分が悪者になってでも、この社会の平穏を守ろうとした。……私には、そうとしか思えなかった。

 

 真実はわからない。けれど、彼女が守ろうとしたものが「この社会」であることだけは確信できた。

 

「……なら、私が守る」

 

 私はテレビ画面を睨みつけ、涙を拭った。

 

 あなたが泥を被ってまで守ろうとした、この世界。

 あなたが犠牲になって繋ぎ止めた、この脆い平和。  それを、今度は私が守る。

 

 でも、私は泥には塗れない。

 私は、誰よりも速く、誰よりも光り輝く場所で、堂々と勝ってみせる。

 それが、あなたへの精一杯の返答だ。

 

『スキル【不屈の心】のヒントLvが2上がった』

『スキル【先駆け】のヒントLvが1上がった』

 

 受験当日。

 寒空の下で行われる雄英高校一般入試、気合十分なこのウマ娘、駿河天馬。

 私のヒーローアカデミアへのゲートが今開かれた。




ナガン「わぁ、捕まっちゃった」

続く?
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