個性『ウマ娘』でヒロアカ世界の最速を目指す 〜転生したらステータスが見えたので、限界突破してヒーローになります〜   作:雪乃 宿海

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続きました。
ヒロアカを読み返したらナガンが捕まったのって全然昔だしナガンって雄英じゃなさそうですね。
まあ本作のナガンは雄英出身で天馬と出会ったおかげでいろいろ耐えてたけど最後の最後で壊れちゃったということで。


No.5

 肌を刺すような冷たい風が吹く朝だった。

 

 私は、その巨大な建造物の前に立っていた。

 国立雄英高等学校。

 偏差値79。毎年の競争率は300倍超え。

 名実ともに、この国におけるヒーロー育成の最高峰であり――私にとっては、差し詰め人生というレースにおける最初の『G1』会場だ。

 

「……でっけぇ」

 

 見上げるような校舎の威圧感に、周りの受験生たちが気圧されているのがわかる。

 私の視界には、彼らの頭上にポップアップするステータスウィンドウが溢れかえっていた。

 

 【コンディション:片頭痛】

 【コンディション:寝不足】

 【コンディション:肌荒れ】

 

 ほとんどの受験生がバッドコンディションを抱えている。

 無理もない。ここは夢の入口であると同時に、凡人をふるい落とす断頭台でもあるのだから。

 

 私はマフラーを巻き直し、自分のステータスを確認する。

 

 【駿河 天馬】

 【コンディション:練習上手、切れ者】

 【やる気:絶好調】

 【スピード:448】

 【スタミナ:428】

 【パワー:462】

 【根性:513】

 【賢さ:591】

 

 ナガンさんとの特訓、そして彼女が逮捕されたあの日からの猛勉強。

 やるべき準備はすべてこなした。今の私は、いつゲートが開いてもトップスピードで飛び出せる。

 

「どけよ、デク!」

 

 鋭い声と共に、人混みを割って歩く一人の少年がいた。

 特徴的なアッシュブロンドの髪。鋭角な目つき。

 彼が通るだけで、周囲の空気がビリビリと震えるような威圧感がある。

 

「おや?」

 

 どこかで見たことのある特徴的な髪型。

 私のUIが、即座に彼を解析した。

 

 【個体名:爆豪 勝己】

 【推定評価:A⁺】

 

(……すごいステータス。中学生でここまで仕上がってるなんて)

 

 パワー、センス、そして何より『自信』のパラメータが桁違いだ。

 彼は私を一瞥すらせず、王者の風格で校門をくぐっていく。

 間違いなく、今回のレースにおける「一番人気」だろう。

 

 そして、その直後だった。

 

「うわっ!?」

 

 どんくさい悲鳴と共に、一人の少年が何もないところで足をもつれさせて転んだ――かのように見えた。

 けれど、彼は地面に激突しなかった。

 

「――大丈夫?」

 

 ふわり、と。

 茶色いボブカットの少女が、彼を空中で止めていた。

 

「私の個性、使っちゃった。転んじゃうと縁起悪いもんね」

 

 ほのぼのとした光景。

 転びかけた緑髪の少年と、それを助けた茶髪の少女。

 

「おやおや?」

 

 私の記憶の奥底にある「知識」が疼き出す。

 あの特徴的な緑色の髪。そして無重力の少女。

 さらに、私の目はその「転びかけた少年」――緑谷出久に釘付けになっていた。

 

(……何、今の?)

 

 一見すると、彼のステータスは平凡……いや、雄英を受験するにはあまりに貧弱だ。

 

 【個体名:緑谷 出久】

 【推定評価:D】

 

 だが、その奥底。ステータスのさらに深い場所に、解析しきれないほどの莫大なエネルギーが渦巻いているのが見えた。

 

「……おやおやおや?」

 

 私は小さく呟いた。

 間違いない。

 圧倒的な才能の塊である爆豪勝己。

 底知れない「ナニか」を持つ緑谷出久。

 

 彼らは、この世界の「主要人物(メインキャラクター)」だ。

 前世の記憶がおぼろげでもわかる。この物語は、彼らを中心に回っている。

 

(つまり、ここは「特異点」だ)

 

 ここには「化け物」がいる。

 完成された天才に、未知数の原石。

 そして、私という「異物」がこの物語に初めて介入する瞬間。

 

 武者震いが止まらない。

 恐怖じゃない。これは、ゲート入り直前の高揚感だ。

 

「よし」

 

 私は自身の頬をパンと両手で叩いた。

 メインキャラだろうがなんだろうが関係ない。

 今の私には、守りたい約束と、証明しなきゃいけない強さがある。

 

 一歩、足を踏み出す。

 アスファルトの感触を確かめるように、私は雄英高校の敷地内へと入った。

 

 さあ、ファンファーレを鳴らしてくれ。

 私の伝説は、ここから始まる。

 

     *

 

 筆記試験を無難にこなし(『賢さ』トレーニングの成果で、英語以外は余裕だった)、私たちは試験会場の講堂へと集められた。

 これから、実技試験の説明会(オリエンテーション)が始まる。

 

「受験生のリスナー、今日は俺のライブにようこそ!エビバディセイヘイ!」

 

 ド派手な金髪とサングラス。ボイスヒーロー、プレゼント・マイクのシャウトが講堂の空気を振動させる。対照的にコールアンドレスポンスに乗れなかった受験生たちはシーンと静まり返っているのだが。私の鼓膜(聴覚鋭敏化)には少々キツい。

 

「こいつはシヴィー!そんじゃ受験生リスナーにサクッと実技試験の内容をプレゼンしていくぜ!」

 

 説明によると、演習場に配置されたロボットにはそれぞれポイントが割り振られているらしい。  1P、2P、3P。これらを制限時間内に破壊し、稼いだ合計ポイントを競う。

 

 要するに「制限時間内のスコアアタック」だ。

 

 そして4種類目の「0P」ロボット。これはいわゆる「お邪魔キャラ」であり、遭遇したら逃げるのが得策とのこと。

 

(なるほど。高得点を狙うなら、雑魚を効率よく狩りつつ、0Pを回避する立ち回りが必要ってことね)

 

 私は深く息を吐き、静かに闘志を燃やす。

 ルールは把握した。あとは走るだけだ。

 

     *

 

 そして、実技試験本番。

 私は着替えを済ませ、指定された「演習場B」の巨大なゲート前に立っていた。

 

 周りを見渡すと、麗日さんや、ガチガチに緊張している緑谷少年の姿がある。

 他の受験生たちも、個性の発動確認をしたり、深呼吸をしたりと落ち着きがない。

 

 私は軽く屈伸をし、アキレス腱を伸ばす。

 私は彼らから少し離れた位置で、壁に手をついて片足を上げる。

 股関節の可動域を確認。心拍数は平常。視界良好。

 

 【駿河 天馬】

 【やる気:絶好調】

 

(……いける)

 

 この数ヶ月、ナガンさんがいなくなってからの私は、憑かれたように走り込んだ。

 悲しみも、悔しさも、すべてを筋肉とバネに変えてきた。

 その成果を、ここでぶつける。

 

 次第に周囲の無駄な情報は薄れていき、世界は止まってしまったのではないかと錯覚するほどの静寂が私を包む。こんな感覚はあの時以来だ。

 

 ゲートの上にある監視塔から、プレゼント・マイクの声が響く。

 

『はいそんじゃスタート』

 

 その瞬間。

 周りの受験生たちは「え?」と反応が遅れた。

 思考のラグ。常識の罠。

 

 だが、私だけは違った。

 「S」の音が聞こえたコンマ1秒後には、私の体は弾丸のように飛び出していた。

 

 【スキル【集中力】のヒントLvが2上がった】

 【スキル【集中力】を獲得した】

 【効果:スタート時の出遅れ時間を短縮する】

 

 ――ドンッ!!

 

 足元のアスファルトが爆ぜる音。

 私が一歩目を踏み出した時には、もう他の受験生たちは背後に置き去りになっていた。

 

「実戦にカウントダウンなんてねえぞ!! 走れェェェ!!」

 

 マイクが叫ぶ頃には、私はすでに無人の市街地エリアへと侵入していた。

 

 風が唸る。景色が流れる。

 最高だ。誰もいないコースを、誰よりも速く駆け抜ける快感。

 

 曲がり角の先。

 道路を塞ぐように、緑色の装甲を持つロボット(1P)が3体、こちらに砲口を向けていた。

 

『ターゲット補足。排除シマス』

 

 機械的な音声。

 私は速度を緩めない。むしろ加速する。

 

「どいてっ!!」

 

 私は真正面から突っ込んだ。

 体操服の裾をはためかせ、最高速度の乗った「ドロップキック」を、先頭のロボットの胸部に叩き込む。

 

 ドォォォォンッ!!

 

 轟音。鋼鉄の装甲が、まるでアルミ缶のようにひしゃげ、後方の2体ごと巻き込んで吹き飛んだ。

 

「……よし、3ポイント!」

 

 私は着地と同時に、次の獲物を求めて駆け出した。

 変身なんてない。特殊なビームも出ない。

 ただひたすらに速く、ただひたすらに重い一撃。

 「馬」のフィジカルだけで、私は戦場を蹂躙していく。

 

     *

 

 試験時間は残りわずか。

 私のポイントは、現在45ポイント。

 例年のボーダーラインを考えれば合格圏内だろう。けれど、確実とは言えない。

 

(あと一押し……50、いや60までは乗せておきたい)

 

 私は焦る気持ちを抑え、次なる獲物を探して走る。

 体は熱いけれど、思考は驚くほど冷えている。

 走るたびに、視界の隅に『スキルヒント獲得』のログが流れる。

 これまでの戦闘で私の個性で一二を争う謎が解けた。

 スキルについてだ。

 今までヒントLvが上がるだけだったこのスキルはどうやらLv5で自動的に獲得するらしい。私が獲得したスキルは【集中力】だ。原作ではスタート時の出遅れが少なくなるスキルだが、私の個性では自由に極限といっていい集中状態に自在には入れるみたいだ。

 『コーナー回復』『直線一気』……。まだ獲得には至らないけれど、時折それらがランダムで発動するたび、背中を押されるような加速感が私を助けてくれていた。

 

(楽しい……!)

 

 これが、私が本来いるべき世界。

 そう確信した、その時だった。

 

 ズズズズズ……ッ!!

 

 地響きと共に、ビルよりも巨大な影が街を覆い尽くした。

 0Pロボットだ。

 想定以上にデカい。まるで動く要塞だ。

 

「逃げるが勝ち……!」

 

 私は即座に踵を返し、全速力で退避行動に移る。

 UIが表示する『危険度:測定不能』の文字が、生物としての本能的な恐怖を煽る。

 

 だが、その逃走の最中。

 瓦礫に挟まれて動けない麗日さんと、彼女を助けるために飛び出した緑谷くんの姿が見えた。

 

「……!?」

 

 彼は、あのひ弱そうな見た目からは想像もつかない跳躍で空へ舞い上がり――。

 

「SMASH(スマッシュ)……!!!」

 

 大気ごと粉砕するような一撃で、あの巨大な0Pロボットの顔面を陥没させた。

 爆風。衝撃波。

 あまりの威力に、私は走りながら目を見開いた。

 

(すごいパワー…)

 

 ロボットが崩れ落ちていく。

 しかし、問題はその後だった。

 

 力を使い果たした緑谷少年が、四肢をブラブラにさせて落下してくる。

 そして頭上からは、破壊された0Pロボットの巨大な残骸が、雨のように降り注ごうとしていた。

 麗日さんが彼を浮かせようとしているが、彼女も限界が近い。

 このままだと、彼女は緑谷くんは助けられるだろうが二人とも瓦礫の下敷きになる。

 

(――間に合わない)

 

 私の現在位置からでは、今のトップスピードでもコンマ数秒足りない。

 今自由に使えるスキルは【集中力】だけ。

 これでどうしろってんだ。たとえ偶発的にほかのスキルを発動できても間に合わない。

 私の「賢さ」が冷酷な現実を突きつける。

 

 彼らの「死」を。

 

 その時だ。

 

「――っ!!」

 

 私の視界の隅で、青い影が飛び出した。

 誰よりも早く反応し、ふくらはぎのエンジンのようなものを全開にして二人を助けようと走り出していた。

 さすがはヒーロー志望。誰よりも先に、体が動いてしまったのだろう。

 

(……でも、足りない!)

 

 彼の加速力は凄い。でも、あの距離と落下速度には間に合わない。

 彼がたどり着く前に、瓦礫が落ちる。

 このままじゃ、彼まで巻き込まれる。

 

「ふざけるな……ッ!」

 

 ナガンさんは言った。誰かが泥を被ってでも、社会を守らなきゃいけないと。

 あの少年は、自分の身を犠牲にして女の子を守った。

 あの眼鏡の彼は、恐怖を押し殺して飛び出した。

 それが「ヒーロー」だと言うなら。

 それを、ただ見ているだけの私が「一番」になれるわけがない!

 

(もっと速く。もっと強く。限界を超えろ……!!)

 

 私は奥歯が砕けるほど噛み締め、地面を蹴った。

 

 その刹那。

 時が止まったかのように、周囲の音が消えた。

 

 私の意識は一瞬にして、白亜のゲートが並ぶ、どこか懐かしい草原へと飛ばされていた。

 そこで、誰かが私に語りかけてきた。

 

『――あの子たちを助けたいんだね!』

 

 

 ゲートが開くと同時に出てきた黒鹿毛の髪に、白いメッシュ。私と同じ耳と尻尾。

 太陽のように明るく、誰よりも真っ直ぐな瞳をした少女が、私に向かって手を差し伸べ前を走る。

 

 会ったことはない。むしろ会えるはずがなかった。でも、私は彼女を知っている。

 

『なら、一緒に走ろう! けっぱるぞ~!』

 

 その声が魂に染み渡った瞬間、脳内でファンファーレが鳴り響いた。

 

 視界が白く染まる。

 体の内側から、熱い奔流が溢れ出す。

 私の着ている体操服が、光の粒子となって弾け飛んだ。

 

「――え?」

 

 前を走っていた飯田くんが、背後の気配に気づいて振り返る暇もなかった。

 彼を抜き去る瞬間、私は風になった。

 

【固有スキル発動:『シューティングスター』】

【効果:レース終盤に前の方で相手を抜くと勢いに乗って前に出てさらに加速力がちょっと上がる】

 

「なっ、速……!?」

 

 飯田くんの驚愕の声を置き去りにする。

 世界がスローモーションになる。

 風の壁を突き破る感覚。

 紫のリボンをなびかせ、私の体は物理法則を無視したかのような軌道を描き、落石の直下へと滑り込んだ。

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 私は落下してくる巨大な鉄塊に向け、渾身の蹴りを放った。

 

 ガギィィィィンッ!!

 

 数トンはある鉄塊と蹄鉄のぶつかる音が響き、鉄塊がサッカーボールのように彼方へ弾き飛ばされる。

 その衝撃波で、周りの瓦礫も吹き飛んだ。

 

 砂煙が舞う中。

 私は、呆然とこちらを見上げる緑谷少年と麗日さんの前に着地した。

 

「……怪我は、ない?」

 

 振り返った私の姿に、彼らは言葉を失っていた。

 そこには、ただの「馬」の個性を持った中学生ではなく、伝説の名馬の魂を宿した「ウマ娘」が立っていた。

 

     *

 

「あれが()()か…」

 

 




天馬「デカ過ぎんだろ…」
0Pロボ「強過ぎんだろ…」

続く?
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