短いライヴを終えた五人を引き連れ、沢口は千石の店で栗原と合流していた。
「ユズルくん、久しぶりだね。元気そうで良かった。えー、VANCAの栗原です。」
「……ども。」
「そこは『お久しぶりです』だろ。はじめまして、Back Trackってバンドをやってます。向こうから、ショウゴ、ナツキ、ユズル、俺がアキラ、で、弟のサトシです。よろしくお願いします。」
「「「よろしくお願いします。」」」
「部活じゃねーぞ。」
沢口が混ぜっ返すのを無視して、栗原が話し出す。
「ユズルくんが居なくなったって聞いてたんだけど、今は……?」
「……帰った。高校にちゃんと通えばバンドやってもいいって……。」
「それなら良かった。言いたいことがないわけでもないけど……みんなに迷惑を掛けないようにね。」
「……はい。」
「俺がそこはちゃんと見てますんで、もう勝手なことはしないと思います……しないよな。」
「……うん。もう仲間がいるから。」
アキラの言葉にユズルが素直に答える。
「「「「仲間。」」」」
「仲間は裏切れないね。」
ユズルの素直な返事に嬉しげな四人に、栗原がほっとしたように呟く。
「さてさて、みんなが来るまでどうしようか。何か食べるかい?」
「あ、栗原さん。ドラムにアドバイスもらってもいいですか。」
「もちろん。ユズルくんはどれくらい叩けるようになったの?」
「……ドラムはアニキが。」
「え?」
「ユズルはボーカルなんですよ。俺がドラムで。」
「え、そうなの……ユズルくん、歌も良かったからね。そっか、そっか……。」
「すんませんした。せっかく教えてもらったのに。」
「謝らなくていいよ。自分がこれだって思ったパートをやればいいんだよ。」
「……はい。」
「じゃあ、せっかくだから演奏してみてよ。」
「ここで?」
「千石くん! ステージ使ってもいいかな!」
栗原が大声で叫び、千石が厨房から顔を覗かせ、両手で丸を作る。
「はい、じゃあスタンバイ。僕はドラムを見てるから、少年は全体を頼むよ。」
「さっきライヴは観てきたぞ。」
「プロデューサーになったつもりで、よろしく。」
「なんだよ、それ。……いつも通りやればいいよ。」
栗原と沢口の言葉に、五人は慌てて機材をバンまで取りに行った。
「遅くなってごめーん。ちょうどそこで国美さんと環さんと一緒になったよ。」
「たくちゃーん、衣装のほうは順調よ! ……あ、栗原さんも。」
「こんにちは。この子たちが後輩さん?」
「そう。現役高校生とお兄さんなんだって。」
「へえ。……まあ、こんなもんよね。」
妃名子たち三人が連れ立って店になだれ込むと、沢口が国美と環に声を掛ける。
「いろいろ持って来てもらって悪いな。去年、俺らの……手伝い?……ジジイの弟子だったコイツのバンドなんだよ。見ての通りあか抜けないんで……」
「衣装とかメイクとか、見立ててあげてもらえないかな。」
沢口の言葉を遮るように、栗原が口を挟む。
「たくちゃんの頼みだから用意して来たけど……高校生の思い出作りなら、時間は掛けられないわよ。」
「一応、プロを目指してるんで。まずは聴いてみてください。」
国美の辛辣な物言いに反発するわけでもなく、アキラが答える。
「ところでこのお二人は?」
「スタイリストとメイクさんだ。俺たちの武道館も担当してくれる。」
「プロの方々じゃないっすか。そこまでしてもらうのはさすがに……。」
ただでさえ衣装を見立ててもらうのは申し訳ないと思っていたところに、二人がプロだと聞かされ、アキラが慌てて遠慮する。
「ユズルくんがバンドデビューしたんだから、これくらいはさせてよ。……するのは国美さんと環さんだけどね。ごめんね、二人とも。」
「たくちゃんとひなこに会えたからいいわよ。で、何を聴かせてくれるの? たくちゃんのときはESKだったわね。」
「国美ちゃんはあれでコロっとたくやくんの扱いが変わったんだっけ。」
栗原の言葉に国美が鷹揚に答え、その横で環がニコニコと懐かしそうに呟く。
「俺らの曲を。アニキ。」
国美の挑発的な言葉に反発するかのようにユズルが答え、アキラにカウントを促す。
「じゃあ、さっきの続きから。ワン、ツー、スリー、フォー!」
「ユズルくんは目力が強いから、それを活かしたメイクにしたわね。」
店の二階を借り、ざっと五人の採寸を終えた国美が、ユズルにメイクを施す環に提案する。
「ダークなイメージにするなら、近寄りがたい感じのほうがいいかも。衣装は黒が基調でしょ?」
「そうね。ゴシックパンクっぽくするつもり。」
「ゴシックパンク?」
国美が言うジャンルにピンと来ないのか、ユズルが聞き返す。
「女性だと、黒のドレスっぽい服装で……」
「セイレーンとかゴッサムとか、ああいうヤツ。」
国美が説明しようとしたところに、ナツキの声が重なる。
「ああ……いいんじゃね?」
「でも、俺は……。」
国美の提案を受け入れるユズルに対し、ナツキは乗り気ではないそぶりを見せる。
「ナツキくんは、どうしたいってのがあるの?」
「……なんか、こう……西部劇のガンマンとかお尋ね者とか……口元をスカーフで隠した感じの……」
「ふんふん。ああ、なんとなくイメージはできるわね。みんなはどう? どっちがいいとかある?」
自分の意見を押し付けないよう、国美が五人を見回す。
「口元隠してたら歌えないだろ。」
「それはそうだけど……。」
「チラシとかポスターとか用に、ナツキが言う感じのがあってもいいと思う。」
「俺ら、ゴシックパンクとも違わない?」
「ステージ衣装がそっち系なのはアリだな。」
「とにかくカッコ良ければいいんじゃね。」
収拾がつかなくなり始めた五人に妃名子が口を挟む。
「はいはい、そこまで。まずはステージ衣装でしょ、国美さん。」
「そうね。ナツキくんが言うような感じもいいとは思うけど、ステージ衣装にすると、さっきの曲には合わない気がするわね。まずはダークでスタイリッシュな方向で衣装を用意するから……って、たくちゃん、衣装はどこで渡すの?」
根本的な疑問に気付いた国美が沢口に尋ねる。
「さっき、ジジイとも話してたんだけどさ。チビ、お前、ちゃんとスタッフに謝らないで居なくなっただろ。機会を作ってやるから、きちんとけじめをつけろ。」
「少年、それじゃわかんないよ。今度の武道館にスタッフとして入れるようにするから、五人とも来れるかな?」
「「「「「えっ!?」」」」」
「最終的には渡瀬くんに確認取ってもらうとして。警備かなにかで、ステージが観られるようにね。ライヴの構成やステージングの勉強になればさ。関係者席とも思ったんだけど……。」
「俺らもいいんですか?」
「すげえ、すげえ。」
「うわ、有給取らねえと。」
「ステージ袖ってダメですか。」
「ナツキ、欲張るなよ。」
「……会場の後ろから観客も観たい……です。」
「そうだ、学校どうする?」
「職場体験とかでイケねえかな。」
収拾がつかなくなり始めた五人に再び妃名子が口を挟む。
「はいはい、そこまで。行くの? 行かないの?」
「「「「「行きます!」」」」」
「なんか保母さんみてえだな。」
沢口が実も蓋もないこと言う横で、栗原が国美と環に頭を下げる。
「僕らの衣装とメイクがあるのに、いきなりこんなことになって申し訳ないんだけど。差し支えなければ、当日はユズルくんたちの衣装とメイクもお願いできればと。僕たちがリハやってる間に、メイクのやり方を教えてくれると助かります。」
「俺、千石さんに伝えてくるわ。」
自分の仕事は終わったとばかりに、沢口が厨房へ向かう。
「……リハーサルは見学しても?」
沢口の背中に向けて、ナツキが問い掛ける。
「……邪魔にならなきゃいいよな、ジジイ。」
「そうだね。スタッフもいるから、導線にも気を付けて……いや、客席ならいいのかな。……とにかく、スタッフの指示に従うこと。」
「そこらは渡瀬かゲロ丸くんに任せればいいだろ。じゃ、あとは頼むわ。」
そう言い残すと今度こそ沢口は階下へと降りていく。
「どうしようかな。リハーサルを見て、もし、チラシやポスター用に写真を撮るなら、昼前には集まってもらわないといけないかもしれないね。」
「衣装を合わせて、食事して、メイクとヘアメイクをして、写真撮影? リハーサルが何時からかわからないけど、間に合うかしら。」
栗原の言葉に環が懸念を示す。
「髪を立てるだけなら、コイツらに練習させときますよ。」
ライブでは髪を立てているアキラがメンバーの髪型を提案する。
「トップまで持ち上げるだけ?」
「いや、持ち上げてから広げたり垂らしたり。いろいろできますよ。前のバンドがそんな感じだったんで、教えられます。ショウゴとサトシはそこまで長くないから、ツンツンさせる感じでどうっすか?」
「スポーツ刈りにしてツンツンさせる分には、学校でもごまかせるかな。」
「髪を染められるとインパクトがあるんだけど……」
「さすがに染めるのは無理だろ。」
「ナツキくんが言ってたように、スカーフを使うなら、アイメイクだけでもどうにかなるわね。」
「みんな口元を隠すよりも、何人かだけにすればどうだろ。ユズルはボーカルだから、顔を出してたほうがいいと思うし。」
「スカーフの色や柄は統一する? バラバラ?」
「全員分用意してもらって、いろんなパターンを試せば……」
国美と環を中心に、メイクについて意見が飛び交う中、妃名子はその輪に加わらない栗原を見ていた。
「栗ちゃん、嬉しそうだね。」
「仲間がいるっていいな、自分たちもこうだったなってね。……ユズルくんが楽しそうで良かった。以前はずっと、なんだか野性動物みたいでね。無駄に威嚇してるようで、いろいろ溜め込んでたのか、どことなくつらそうだっただけにね。」
栗原が見つめる先には、年相応に仲間と笑い合うユズルがいた。