another EXIT   作:藤嶋貴司

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track07

高梨のライヴのリハーサルと並行して、初の武道館ライヴで披露する新曲を選ぶべく、VANCAの四人は練習スタジオに集まっていた。

「じゃあ、この曲は確定で、こっちの三曲から一曲だな。」

「この曲は盛り上がるだろうね。……沢口の曲は間に合わなかったの?」

四人の同意で仮決定はしたものの、沢口も新曲を作っていただろうと、各務が悪気もなく尋ねる。

「……まだ詰めきれてない。」

「提出だけでもしてみて、もし採用されたら、みんなで仕上げても良かったんじゃ?」

「……凡の曲が満足いく出来なんだから、まずはそれでいいだろ。次のアルバムの選考には出すよ、それでいいだろ、おい!」

「やめなさいって。」

各務に掴みかからんばかりの動きをする沢口を栗原が止め、沢口に問い掛ける。

「で、少年。四曲分の歌詞は武道館に間に合うの? 本決定の曲と、仮の三曲のうち一曲でもできれば、とりあえずはいいんだろうけど。」

「えーっと……。あと何日だ?」

虚を突かれたように、沢口が考え込む。

「コーラスやエフェクトも考えないとならないから、ギリギリだとまずいな。」

凡河内の言葉を受け、沢口がいい案を思い付いたとばかりに叫ぶ。

「そうだ、全員で一曲ずつ歌詞書けばいいだろ。」

「「「はあ?」」」

沢口の提案に、三人の驚きの声が揃う。

「かしをかく……? む、無理だよ、作詞なんてしたことないのに。」

「時間が無いならなおさらだよ。そもそも少年は、他人(ひと)が書いた詞を歌うことに抵抗はないのかい?」

各務と栗原が自分には無理だとばかりに強く拒絶する。

「みんな他人じゃないだろ。誰だって、初めて歌詞を書くときには経験なんてないんだしな。……いい歌詞なら誰が書いたっていいんだよ。渡瀬が書いたってさ。」

「さすがにそれはない。」

沢口の言葉にすかさず凡河内がツッコミを入れる。

「凡ちゃんの曲に沢口の歌詞がVANCA……じゃないんだな、もう。」

各務が今になって気付いたかのように呟く。

「そうだよ。作曲を二人でやってるんだから、作詞だって何人でやってもいいだろ。……やってみてダメなら、改めて俺が書いたっていいんだしさ。特に二人は、曲にも詞にも関わらないよりは、さ。」

「……サビだけ作ってあとは沢口とか?」

「それを言われるとね……。最終的にはみんなで手直しでもいいか。」

沢口の言葉に乗り気になった各務と栗原に対して、凡河内は違う反応を示す。

「いや、シングルはたくやの歌詞で行くべきだと思う。確定の曲はもちろん、仮のこの曲は、シングルでも行けるはずだから。」

「それはそうかも。」

「確かに、確定の曲が良すぎただけで、いい歌詞が乗れば、こっちの曲もシングル候補にはなるね。」

「じゃあ、沢口が二曲で、残りは……」

「各務とジジイだな。お前は他の曲も含めてライヴ用にアレンジを詰めてくれ。二曲とも間に合わせるつもりでやるからさ。各務とジジイもな。……最悪でも、アリーナツアーには間に合わせてくれれば。」

作詞の割り振りを決めると、沢口が凡河内に宣言する。

「初めての武道館にふさわしい、最高の曲に仕上げようぜ。」

 

一通りのリハーサルを終え、楽器を片付けながら各務が栗原に問い掛ける。

「ユズルくんのバンドって……どうなの?」

「どう、って?」

「どういう曲をやってるのかとか、ユズルくんに付き合わされてるんじゃないのかとか……。」

「ああ、友達がやってたバンド……?にドラムで入って、ボーカルになったんだって。曲は……」

「方向性は……俺らだとセカンドアルバム、か?」

栗原の返答に、沢口が重ねる。

「そうかな……そうだね、VANCAで言えばそっちかな。」

「人人の店長が言うには、俺らみたいなアマチュアバンドが増えてるんだってさ。そういう中では、ちょっと異質かもな。」

「確かにセカンドアルバムは『過渡期』って言葉がしっくりくるかな……。で、あの子たち、曲も面白いんだけど、歌詞がね。」

「歌詞が?」

凡河内が先を促し、栗原に代わり、沢口が答える。

「なんかこう、抽象的なんだよな。なんのことを歌ってるのかはっきりしないと言うか、どうとでも受け取れると言うか。俺の歌詞は最初からストレートだったから、なおさらさ。高校生でこんな歌詞を、とも思うし、はっきり言うのが恥ずかしいのかとも思うし。」

「へえ、そうなんだ。……トータルでどうなの?」

「ユズルくんのボーカルはやっぱり上手いね。少年の物真似ではなくなってきてたし。」

「俺の物真似?」

「沢口がMMEに呼び出し食らったときに……痛い痛い!」

三人のやり取りに、各務が言葉を選ばずに加わったとたんに、沢口から制裁を食らう。

「少年、少年、どうどう……。少年の代わりにリハーサルでユズルくんが歌ったことがあったんだよ。少年によく似ててね。そっくりってわけじゃなく、なんだろう、歌い方とか雰囲気とかがね。」

中舘(なかだて)さんが上手いって唸ってたくらいだしね。」

「あとは、そうだな……ドラムがアマチュアでは上手いほう。ギターとベースは、間違えずに弾くので精一杯かな。作詞と作曲をやってるってギターの子は、間違えても面白ければいい、って感じだったけどね。総じて、楽しそうでなにより、ってレベル。」

「みんなで音を出してるのが楽しい時期なのかな。それでステージに……ずいぶん買われてるんだね。」

「店長に言わせると、……大化けする候補になれる可能性がある……だったか?」

「誰にでも言えそうだね。」

「……曲と歌詞のセンスが良くて、高校生離れしたボーカルがいるなら、『演奏力が付いたら』とは思うかもしれないな。」

「歌詞がわかりづらいのはどうなんだ?」

「ストレートに暴力的な歌詞でもデビューできたバンドが居るんだから、マイナスにはならないんじゃないかな。」

「『カラダだけのカンケイ』だもんね。」

「……お前らまとめてぶっ飛ばす。」

「たくや、落ち着け。あの頃はそれで良かったんだから。ただ、今も歌えるかってなると……」

「俺は迷いなく歌えるぞ。……率先して歌おうとは思わないだけで。」

「……たくやが歌えるならいいんだ。……そういや、武道館後のアリーナツアーなんだけど……」

スタジオからなかなか出てこない四人にしびれを切らした渡瀬が呼びに来るまで、突発的な打ち合わせは続いた。

 

 

 

武道館公演当日、楽屋入りした四人の前には、真新しい衣装をまとったBack Trackの五人が居た。

「……これが馬子にも衣装ってやつか。」

「いやいや、よく似合ってるよ。メイクもバッチリ決まって、雰囲気あるねえ。こことかどうなってるの?」

素直に褒められない沢口に代わり、栗原が驚きを隠せないように衣装を見入る。

「着せられてる感じになるかと思ったんだけど、想像以上に化けたわねえ。」

「これでライヴやれば、女の子のファンが付きそうね。」

衣装とメイクを担当した国美と環が、やりきった顔でその成果を誇る。

「二人とも早く来てもらって、ここまで仕上げてくれて、本当にありがとう。……請求書は僕に回してくれればいいから。」

国美と環に感謝を述べると、栗原は小声で代金について付け加える。

「実費だけでいいわよ。その代わり、今日は最高のパフォーマンスを見せてね。」

「大変だったけど、楽しかったですよ。私は教えただけだから。」

国美と環がそう返すと、渡瀬がユズルたちに声を掛ける。

「VANCAは今からリハだけど、お前ら、撮影まで終わったのか?」

「迫丸さんの手が空かないみたいで。」

アキラがそう答えると、渡瀬が困ったように告げる。

「リハが始まったら、なおさら時間は取れないかもなあ。俺も離れらんないし。そもそもカメラ持ったのなんてスナップ写真くらいだしな。誰かカメラいじったことは……なさそうだな。」

渡瀬が国美と環に視線を移すと、二人は目線を逸らす。

「まあいいや。スタッフでも千石さんたちでも、誰かしらに頼むとしようか。最悪、打ち上げで迫丸さんにお願いするとして。じゃあ、ユズルたちは撮影終わるまでメイクは落とすなよ。」

「「「「「はい。」」」」」

「で、セッティングの間はどうすんだ? 邪魔にならない程度なら、会場の中でも外でも、見て回ってもいいけどさ。」

「チューニングから見学させてもらってもいいですか。」

渡瀬の問い掛けにナツキが即座に答える。

「あ、俺も俺も。」

「せっかくなら見たいよな。」

「いいんすか。」

「……お前ら、ちょっと待て。」

リハーサルを見学できると盛り上がるメンバーに、ユズルが待ったを掛け、VANCAの四人に向き合い、頭を下げる。

「……ローディのときはいろいろ迷惑掛けてすんませんでした。」

「……うん。スタッフのみんなには?」

ユズルの突然の謝罪に呆気に取られた沢口たちに代わり、栗原がユズルをただす。

「謝りました。真面目に受け取ってはもらえなかったけど。」

「そっか。なら、よし。みんなもそれでいいね。」

ユズルの返答を受けて、栗原がメンバーに確認を取る。

「いいよ。去年のことはこれで終わり。な。」

「二人が良ければいいよ。」

「だね。」

三人の返答に安心したかのように頷くと、アキラが自己紹介を始める。

「では改めまして。俺らはBack Trackってバンドをやってます。そっちから順に、ギターのショウゴとナツキ、ボーカルのユズル、俺がドラムのアキラ、ベースのサトシです。この四人は八高に通ってて、沢口さんと各務さんの後輩でもあります。今日はよろしくお願いします。」

「「「「お願いします。」」」」

「だから、部活じゃねえって。俺らはこのままリハに行くから、観たいやつはついて来い。……国美さんと環さんは?」

「やることもないから、客席で観てようか?」

「お邪魔にならなければ、そうさせもらいます。」

沢口の問い掛けに二人がそう答えると、渡瀬に連れられ、皆は楽屋を後にした。

 

「凡河内くん、ドラムセットのマイク位置は……栗原くん、叩いてみて……」

「各務くん、ベースを交換するときは……」

「沢口くん、オープニングの照明は、このタイミングで……」

それぞれのパートのセッティングが続く中、メンバーの写真を撮りつつ、迫丸がBack Trackの面々に声を掛ける。

「えーっと、これからビデオカメラも入ってバタバタするから、いったんステージから降りてもらえるかな。リハーサルが始まる頃に声を掛けるから、そこで戻ってきてくれれば。休憩ブースで飲食もできるし、物販ブース辺りを見ててもいいし。外に出るなら関係者パスは忘れずに持って行ってね。」

「はい、わかりました。みんな、行くぞ。」

アキラが代表して返答し、メンバーを促す。

「あんなにエフェクターあっても使いこなせないよなあ。」

「一人で何人分もギター弾いてるみたいだ。」

「なんであんな音出せるんだろうな。」

「横で見ててもわかんなかったよ。……ユズル?」

「……ん? ああ、行こう。」

(……いつか、必ず……)

 




「中舘(なかだて)さん」はMMEのロンゲのほう
茶髪のほうは「坂さん」にしました
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