another EXIT   作:藤嶋貴司

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track08

会場の外には、まばらに集まるファンを見つめる伊集と千葉が居た。

「だから、まだ早いって言ったじゃないですか。」

「いやでも、徐々に観客が集まって来る画は欲しいだろ。」

「定点撮影なら、LEAPのスタッフでもやれますって。」

指定された時間よりも早い到着に、千葉が不機嫌さを隠さずに文句を言う。

「人が少ないほうが撮影しやすいものもあるよ。ほら、物販とか、そこのパネルとか。あれ、等身大かな?」

西口玄関の脇には、撮影スポットになるであろうVANCAの等身大パネルがあり、数人のファンが並んでいた。

「せっかくだから話を聞いてみようか。」

「なんか気合い入ったのが居るなあ。」

「ライブハウスの頃からのファンなのかな?」

「撮影させてもらえるといいんですけどね。」

VANCA初となる武道館公演のドキュメンタリー写真集の取材と撮影に訪れた二人が、早速ファンへの取材に取り掛かる。

「すみません、ちょっとお時間いいですか。取材なんですが、いくつか伺えれば。できれば写真も撮らせてもらえると。」

伊集が集団に近づいて声を掛けると、派手な装いの女性が返事をする。

「何の取材かしら? この子たち、関係者ではあるんだけど、一般人なのよ。」

「関係者の方でしたか。VANCAのドキュメンタリー写真集です。あ、僕がライターの伊集で、彼がカメラの千葉です。これ、名刺なんで……」

「えっ! 伊集くんだあ。初めまして……でいいのかな? 『沢口か橘』の橘です。たくやがいつもお世話になってます。……キャンディくんですよね?」

「……橘さん……? ああっ! キャンディこと伊集です。たく……沢口くんにはお世話になってます……。」

等身大パネルに集まっていたのは、国美と環に引き連れられ、会場の外に出てきていたBack Trackの面々と、そこに合流した妃名子と窓花だった。

 

「この写真集は僕の持ち込み企画なんです。今日はその取材で。通しリハーサルまでは『外』を撮影する予定なんですよ。」

「そうなんですね。伊集……さんはデビュー直後からVANCAを取材してくれてるんですよ。ほら、GA-Oって音楽雑誌。」

「今は独立してフリーでやってます。ZESTって雑誌がメインですね。」

「道理でGA-Oでの扱いが……。」

「そこは、まあ、編集部の方針もあるんで……。」

電話対応だけではあったが、互いに知らないわけでもない伊集と妃名子が言葉を交わしつつ、妃名子は伊集の「功績」を窓花に紹介する。

「まあ。卓哉がいつもお世話になっております。姉の窓花です。」

「お姉さんでしたか。弟さんの初めての武道館ですけど、ご家族としてはどんなお気持ちですか?」

「家族に取材しないでくださいよ。沢口くんの許可取ってないでしょ。えー、カメラマンの千葉です。VANCAの初めての記事とか、初期のアーティスト写真とかをやらせてもらってます。その縁で今回の写真集も手掛けることになりました。ところで、そちらは? 差し支えなければ、『等身大パネルと記念撮影をするファン』な感じで撮らせてもらえると。」

柄にもなく丁寧に千葉が自己紹介をし、国美と環を見る。

「私はスタイリストで、こっちはメイク。今日も衣装とメイクを担当させてもらうの。で、この子たちは……」

「沢口さんと各務さんの高校の後輩で、アマチュアバンドをやってます。今日は社会見学ってことになってます。」

「ずいぶんとキメて来たんだね。」

それぞれが自己紹介する中、Back Trackの出で立ちに伊集が興味を持つ。

「いや、(ねえ)さんがたに衣装とメイクをやってもらったところで。これからチラシ用に撮影してもらうんすよ。」

「姐さんはやめてよ。」

「うんうん。国美さんは『姐さん』って感じだよねえ。環さんは『お姉さん』。」

「本気で怒るわよ。」

アキラの姐さん呼びを茶化す妃名子を、国美がにらみ付ける。

「へえ。撮影は誰が?」

「VANCAのマネージャーの迫丸さんです。」

「ああ、いつもVANCAの写真撮ってるから。」

「……どこで?」

アキラの説明が気になるのか、千葉が口を挟む。

「……どこだろう?」

「楽屋とか、舞台袖とか? 外かな?」

「照明は? レフ板は?」

「VANCAのリハーサル撮影のときは、使ってなかったっすよ。」

「それとこれとは違うよ。宣材写真とかアーティスト写真とかなら、写真館のスタジオで撮ったほうがいいよ。」

「そこはまあ、先立つものが。」

「せっかくバシッとキメてるんだから、そこは妥協しちゃだめだよ。スタイリストさんとメイクさんが頑張ってくれたんだろ。」

「それはそうですけど……。」

「……センセー、VANCAのマネージャーに連絡取れます? 俺が代わりに撮影してもよければ。」

「俺ら、カネ無いっすよ。」

「タダでいいよ。チラシに『撮影、千葉エイジ』って入れてくれれば。」

「いや、でも……。」

「タダでプロが撮ってくれるって言ってんだから、甘えときゃいいんだって。」

突然の申し出に尻込みするアキラに、ユズルが噛み付く。

「迫丸さんが撮影してくれる時間が本当にあるのかも怪しいんだしさ。自分らでメイクして、ここまで上手くなるまでチラシも作れないだろ。」

「ここで揉めてるくらいなら、その時間で撮影してもらうほうがいいよ。」

「迫丸さんにお願いするより、カッコよくなるだろうしな。」

「今日は『VANCAと愉快な仲間たち』に甘える日でいいと思う。」

「どさくさ紛れに失礼なこと言ってるなよ。じゃあ千葉さん、お言葉に甘えます。ここで撮影しちゃいます?」

「……どうせなら、VANCAのテスト撮影にさせちまおう。センセー、電話は?」

「最初のリハーサルが終わったら連絡が来ることになってるから。緊急でもないしなあ。」

「私、渡瀬くんの番号わかりますよ。着いたら連絡してって言われてたし。……あ、渡瀬くん? 妃名子です。パネルの前で国美さんたちと合流したところ。……うん。でね、カメラマンさんが相談したいことがあるんだって。代わるね。はい。」

「え? あ、お世話になってます。写真集のカメラを担当してる千葉です。マネージャーさんですか? あの、後輩くんたちの撮影のことで……」

 

 

機材の調整とおおよその演出を確認したVANCAの四人は、通しリハーサルに向けて休憩に入っていた。

「会場は広いわ、客席は多いわ、あれが埋まるんだろ。」

「前売りは完売、当日券なし、なんだって。」

「みんな、武道館の経験は? 観に来ただけでもさ。」

「俺は初めてだな。」

「ローディで来たことがあるけど……それとは違うよね、やっぱり。」

「俺もないなあ。テレビで観たくらいで。」

「少年はともかく、凡ちゃんも武道館初めてなんだ。」

「俺はともかくってなんだよ。そういうジジイは?」

「僕はステージに立ったことがあるよ。イベントのバックバンドだけどね。」

「それでも経験者は経験者か。」

「一回でも演奏してると、緊張感は違うもの?」

「今回は自分のバンドだからねえ。あの時とは比べられないかな。」

「一階の後ろも二階も音は聴こえたけど、全体的に変に反響する感じがあるね。」

「音響を気にかけられる凡ちゃんが羨ましいよ。去年のイベントのときも渋公のときも、ここまで緊張はしなかったもの。」

「無理やりでもそっちに意識を持ってかないと、俺もビビるよ。手が震えたらどうしようって。」

「開き直ってやるしかねえだろ。」

「……収録されるんでしょ。ミスったらそれがそのまま……。沢口だって、歌詞が飛んだり、声が裏返ったり……。」

「各務、てめえ、失敗を意識させんじゃねえ!」

呪いをかけるかのような各務の物言いに、沢口が激昂する。

「少年は大丈夫だよ。これまでもミスらしいミスなんてほぼないだろ。喉の調子が万全ならなおさらね。」

「喉の話はするな。ゲロ丸くんが……いないか。」

「迫丸くんはまだステージだよ。たくやは音も滅多に外さないし、歌詞も間違えないし、むしろアドリブで歌詞をうまく替えて歌ってるくらいだから。そこは信頼してる。」

「そ、そうかな。」

今にも各務に手が出そうな沢口を、栗原と凡河内が上手に宥め、呪いを打ち消す。

「各務くんもそう。ほとんどミスはないし、ミスしても勢いで押し通してたし。高梨さんのライヴもこなせてたしね。俺らはもっと演奏技術に自信を持っていいと思うよ。」

「凡ちゃん……。」

凡河内の評価に各務が感動でうち震える。

「次も……いや、そうだな。自信持って行こう。天狗にならないレベルで。」

「そうだよ。観客だってみんな僕らを観に来てくれるんだしね。」

「イベントんときは、俺らがお客さんだったしな。」

「名前だけでも覚えていってくださいって、ああいうことなんだろうね。」

「……俺らを観に、一万人か。」

「ありがたいことだよ。」

「その期待に応えないとさ。」

「……そういや、各務の家族は?」

「わーーーーっ!」

「……悪かった。」

沢口の言葉に、各務は部屋の隅にうずくまった。

 

 

 

「やるかどうかはVANCAに任せるとして、終演後にメンバーと観客とで、集合写真っぽく記念撮影できればと思ってるんですよ。」

Back Trackを従えてステージ前にやってきた千葉は、迫丸に撮影のアイデアを伝える。

「VANCAがステージ上に観客席を背にして並んで、俺がドラムセット前辺りで観客席を含めて撮影するんです。で、それを写真集の最後の写真にできれば、と。」

「ふんふん。イメージはわかるよ。で、ユズルくんたちは何を?」

「VANCAの代役でテスト撮影に呼びました。ステージと客席の照明を調整しないと、お客さんがしっかり写らないかもしれないんで。」

「……なるほど。客席側だけでいいの? ステージをバックにしてもいいんじゃないかな。」

「もし時間があれば、ドラムセットの前にパーティションを置いて、白い布か暗幕でも掛けて、そこでこの子たちの写真を撮れれば……。」

「うんうん。じゃあ、照明さんにお願いするから、ユズルくんたちは千葉さんとステージね。渡瀬くんにパーティションと布を用意してもらおうか。」

「……あ、もう探してもらってます。」

 

パーティションの準備が終わると、袖から国美が五人に声を掛ける。

「じゃあ、打ち合わせ通りにナツキくんは口元にスカーフを。みんな立ち位置と身体の向きも確認して。」

「はーい。」

五人のポーズが決まると、千葉がスタッフに指示を出す。

「客席の照明落としてもらえますか? ……メンバーにスポット集めてもらって……少しスポット減らせます? ……はい、これで。……みんな固いな。誰でもいいですけど、VANCAの失敗談とかなんかないですか?」

「そうだなあ。栗原くんが加入したときのオーディションの話なんだそうだけど……」

VANCAが経験してきた様々なエピソードを迫丸が語り、緊張がほぐれたところで撮影が始まる。

「バストアップと全身を撮るから、いいと言うまで動かないで。目線はカメラね。……目に力を入れて睨む感じで、表情は動かさないで。……眉間にシワを寄せない。もう一枚撮るよ。……はい、次は全身。はい、もう一枚。……はい、動いていいよ。」

表情が決まると、あっと言う間に撮影が終わる。

「じゃ、客席との集合写真のテスト行きます。手の空いてるスタッフさんは適当に客席へお願いします。できれば後列まで入ってくれれば。あ、立ってくださいよ。客電、少しずつ明るくしてください。……メンバーは座ったほうがいいかな。すんません、座り位置調整します。」

Back Trackのアーティスト写真とは打って変わって、細かな指示を出しつつ集合写真には時間を掛ける。

「はい、撮ります。」

Back TrackをVANCAに見立てたテスト撮影を終えると、迫丸が千葉を伴い、控え室へと向かった。

 

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