ユキの大冒険   作:彼岸花ノ丘

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後編

 家から出たユキは、真っ直ぐ村をぐるりと囲う山へと向かいます。

 道中大人に見付かり、行先を尋ねられれば、即座に連れ戻されたでしょう。しかし今や村人は大人も子供も病気で倒れ、外に出る気力も体力もありません。

 誰にも邪魔される事もなく、ユキは村から山へと入りました。

 

「うんたかたーん♪ たんたかたーん♪」

 

 ユキは上機嫌に、楽しげに、歌いながら雪山を進んでいきます。足取りは軽やか。歩みは順調です。

 勿論どれだけ歩みが順調でも、ユキが神様を見た事すらない事実は変わりません。

 ですが居場所に心当たりがない訳でもありません。ユキが今目指しているのは、山奥の洞窟です。その洞窟は神様に感謝を伝える春祭りの時、村人がお供え物を捧げる場所となっています。ユキもお祭りの時、母親と一緒に行った事がありました。

 わざわざお供え物をそこに置いていくのです。なら、きっと洞窟が神様の家であり、待っていればそのうち帰ってくる筈――――ユキはそう信じていました。

 

「んしょ、んっしょ」

 

 大木の大きな根を踏み越え、岩場も登り、坂道も駆け上がり、ユキはどんどん山の奥へと進みます。

 それでいて時折後ろを振り向けば、小さいながら村の姿が見えました。

 真冬である今、木々は全て葉を落としています。そしてユキが登っている山は、村よりも高い場所。枝と枝の隙間を凝視すれば村の姿が確認出来ます。

 これは山で暮らす村人の、基礎的な生きる術。常に村の位置を把握していれば、方角を見失い、迷う事はありません。幼子でもこれだけはきっちり教育され、多少無理やりにでも身に着けさせられます。

 ユキも大人に言われた通り、定期的に振り返り、村の位置を確かめます。余程変な場所を通らない限り、遭難する事はないでしょう。

 

「よし! むらみえた! それじゃあぜんそくぜんしーん!」

 

 ……余程変な場所を通らない限り、遭難する事はないでしょう。大事な事なので二度述べておきます。

 窘める大人がおらず、母親や村を助ける使命感に酔っているユキの足取りは適当でした。おまけに何度か祭りに参加しているとはいえ、年に一度の春祭りの記憶など薄らぼんやりとしか残っていません。そして春祭りは年に一回、雪解けの季節に行うもの。つまり真冬である今の時期とは、景色が全く違います。

 ハッキリ言って、ユキの記憶は全く当てになりません。

 しかしうろ覚えの自覚がなく、冬と春の景色の違いなど考えもせず、幼いユキは無知故の万能感でずんどこ進みます。既に今まで通った事のない道を歩んでいますが、能天気なユキは気にもしません。というか気付いてもいません。

 

「あっ。ベリィだ! まだとってないやつがあるー」

 

 おまけに道中、採られていないアマサの木を発見する有り様。大きく育った木はユキだと届かない事もありますが、今回見付けたのは低木。問題なくベリィ()を摘めます。

 冷静な大人なら「貴重な食べ物であるアマサの実を採り忘れるとは思えない。ここは普段村人が立ち入っていない場所だ」と分かり、自分が想定していないルートを歩いていると気付くでしょう。ですが残念、ユキはちょっと阿呆な子供です。冬の間に乾燥したベリィを、ぱくぱくとその場で食べます。甘くて美味しいベリィに夢中です。

 果たしてこれを幸いと言うべきか。糖分たっぷりのベリィを食べた事で、ユキの身体から疲れが取れました。若くて元気なユキは、再び山奥へと歩き出してしまいます。

 更に歩く事数十分。

 

「あっ。モサだー」

 

 今度は動物を見付けました。

 村ではモサと呼んでいる獣です。白い毛に覆われた小動物で、大人の手なら両手に収まるぐらいの大きさしかありません。寒冷地に適応しており、外気に晒されないよう耳や手足は非常に短く、遠目では白い毛玉にしか見えないでしょう。

 小柄なため肉も毛皮も少ししか捕れませんが、その肉は非常に美味。更に毛皮の触り心地は最高品質で、年に一度来るかも知れない旅の行商人に売れれば、村にとって貴重な現金となるでしょう。お金があれば村では手に入らない塩や鉄が買え、村の生活が豊かになります。

 大人ならあらゆる欲望を滾らせるところですが……幼子であるユキからすれば可愛い生き物です。

 

「さわりたーい!」

 

 自分の使命を忘れ、ユキはモサに歩み寄ろうとします。

 ユキは好感度最大で接近しますが、そんなのはモサにとって知るよしもない事。モサからすれば大きな動物がやってきた! という状況です。しかもその動物は好んでモサを殺します。

 大慌てでモサは逃げ出し、降り積もった雪の中に潜ってしまいました。

 

「……いなくなっちゃった」

 

 逃げられた事にしょんぼりと、ユキは項垂れます。つまらなそうに雪を蹴って、それからハッと自分の目的を思い出しました。

 そして歩き始めましたが、モサを追って道が逸れた事など全く意識していません。元々目指していた洞窟とは、全く違う方に進んでしまいます。

 唯一幸運と言えるのは、ユキの道中に大型肉食獣が現れなかった事でしょう。

 寒さが厳しいこの山は動物も少ないので、それらを獲物にする猛獣も殆どいません。ですがあくまでも「殆ど」であって、全くではありません。例えばゾアという大型の獣は、大人でも簡単に殺し、食べてしまいます。幼いユキなど一噛みでお終いでしょう。

 そういった猛獣に出会う確率がゼロではない以上、遭わずに済んだのは幸運です。

 

「あまーいべりーがたーべたいなー♪ おーにくもたーくさんたーべたいなー♪」

 

 そんな自覚は微塵もなく、恐れ知らずなユキは村の民謡(の替え歌)を口ずさみながら、「そろそろかみさまのいるばしょにつくかなー?」と能天気に思っていました。

 その時です。

 鼻をくすぐる、ちょっとした臭いをユキは感じ取りました。

 

「? なんだろー?」

 

 好奇心旺盛なユキは、もうすぐ目的地である事を忘れて臭いの方へと駆け寄ります。

 誰も踏んでいない白い雪に足跡を残しながら進む事、五分ぐらいでしょうか。臭いの大元にユキは辿り着きました。

 辿り着きましたが、それがなんであるかは分かりません。

 それは銀色の物体でした。とても大きくて、ユキの家よりも巨大に見えます。だけど形は建物ではなく、魚など水生生物のようです。表面のあちこちが剥がれ、辺りには破片が散っています。破片の大きさは疎らで、ユキの手ぐらいの大きさから、ユキの身長ぐらいあるものまで様々。

 とりあえず木ではなさそうですが、あちこちが焼き焦げています。既に鎮火した後のようですが、未だ焦げ臭さを漂わせていました。

 

「うーん。くちゃーい」

 

 危ないとか、怪しいとか。そういう感覚よりも前に不快感が来るのがユキという幼女です。鼻を摘み、怪しい物体を調べる事なく、そそくさとこの場から離れます。

 あんな臭いものより、神様を探さなければなりません。キョロキョロと辺りを見回しつつ、どちらに進もうかなと改めて考えようとしたユキでしたが……

 

「あっ! あったー!」

 

 歩き出す前に、洞窟を見付けました。

 それは、ただの洞窟です。

 本当にただの洞窟です。ユキの暮らす村からすれば特別でもなんでもない、つまり祭りと全く関係ない洞窟でした。大人であれば洞窟の周りが整備されていないとか、入口の広さが全然狭いとか、真正面に大木があるからこんなんじゃ祭りの時に邪魔だとか……様々な情報から、明らかに祭りの時の洞窟とは違うと分かります。

 しかし自分が迷っているとは微塵も思わず、間違えるとも考えていないユキは此処こそが目当ての洞窟だと確信。洞窟の中に躊躇いなく入りました。

 

「かみさまー? いるー?」

 

 そこそこカジュアル(不躾)に呼び掛けながら、ユキは洞窟の奥へと進みます。奥へ進むほど暗くなっていきます。

 暗い場所は、流石のユキでもちょっと怖いです。

 ですがユキは勇気と無謀を履き違えた女の子。母親の病気を治すためと奮起し、ずっしずっしと足を前に出します。洞窟は小さなものだったためすぐ最奥に辿り着き、

 そしてユキは、『神様』に出会いました。

 

「あなたが、かみさま?」

 

 ユキは出会った神様らしき相手に、そう話し掛けます。

 その人物は、ユキ達人間のような姿をしていました。大人達と同じぐらい長身で、村の男達よりも肩幅が広くて筋肉質。顔は男の人のそれで、口許には白い髭を生やしています。

 頬はこけ、目の下には隈があり、一目で衰弱していると分かります。目も虚ろです。ユキもこの男性が弱っている事はなんとなく察しました。

 服はユキ達の着ているものとは全然違う、毛皮でも植物質でもない不思議なもの。生地は身体に張り付いていて、体型がハッキリと分かります。ユキのセンスで言えば、正直ダサいです。

 

「……………」

 

 男性は、ようやくユキに気付いたようで目線を向けてきます。それからパクパクと口を喘がせ、ユキの方に手を伸ばしてきました。

 ちょっと気持ち悪いようにも感じましたが、神様かも知れない人なので無下にも出来ません。それでも怖いので、ユキは少しずつ後退りしていましたが……

 

「■■■■■■」

 

 神様らしき人から、聞いた事もない言葉が出てきたので足を止めました。

 何かを言おうとしている。ユキはそう思い、神様の事をじぃっと見ます。神様はぷるぷると震えながら、ユキの腰の辺りを指差しました。

 腰に何かあるのかな? そう思いながら見てみれば、そこにはお供え物として持ってきた干しベリィと水がありました。

 しばし、ユキは思案。

 

「……………たべる?」

 

 ユキがベリィを差し出すと、神様はぶんぶんと頭を上下に動かします。そして両手でベリィを掴んだら、バクバクと食べてしまいました。

 おなかがすいていたのかなー? ユキは暢気にそう思い、水筒の水も差し出す。

 神様は水筒も奪うように取り、ガブガブと飲み干します。ちょっと凍っていたようですが、神様は小さな氷を噛み砕き、食べるようにして飲み込みました。

 そうしてユキが差し出したお供え物を平らげると、神様はぷはーっと息を吐きます。そしてぜぇぜぇと息を乱しつつ、にっこりと微笑みました。

 

「■■■ ■■■■」

 

「? なにいってんの?」

 

 それから神様は何か話しますが、ユキには全く分かりません。

 ユキがきょとんとしていると、神様はやがてハッとして、自身の身体をぺたぺたと触ります。そしてカチッと音が鳴ったら、神様は再びユキの方を見ます。

 

「あ、ありがとう。助かったよ、もう何日も食べてなくて」

 

 今度の神様の言葉は、ちゃんとユキにも分かるものでした。これならお話出来ると、にぱっとユキは笑います。

 

「そーなの? おなかすいちゃったねー」

 

「ああ、だから動けなくなってて……助かったよ、本当に」

 

 神様はユキの手をぎゅっと掴み、目に涙を浮かべています。ベリィがそんなに美味しかったのかな? とユキは思いました。

 しかし不思議です。どうして神様はお腹を空かせていたのでしょうか。神様なら、食べ物ぐらい簡単に用意出来そうなものです。

 

「なんでおなかすいてたの? ごはん、なかったの?」

 

「あ、ああ。いや、用意はしていたんだが、宇宙船が墜落して大半が燃えて、この前ついに食べきってしまって……はぁ……初の地球型惑星の発見だとはしゃいで、接近し過ぎるなんて間抜け過ぎる」

 

 ユキが聞くと、神様は項垂れながら答えてくれました。尤も、半分以上何を言っているのかよく分かりませんが。

 ひとまず、用意していたご飯が燃えてしまった、という事は理解しました。それなら仕方ないなとユキは納得します。

 

「そーなんだ。たいへんだねー」

 

「大変だよ……万能抗生剤のお陰で病気にもなっていないが、これも何時まで持つか。そもそも食料だって……ああ、いや、君に言ってもよく分からないか」

 

「びょーき?」

 

 神様の言葉で、ユキは首を傾げます。話がよく分からないのもそうですが、何かを忘れているような気がしたのです。

 ちょっと考えて、思い出しました。

 ユキは神様に、母親の病気を治してほしくて此処まで来たのです。お供え物もあげたし、早速お願いをする事にします。

 

「ねー、かみさま。おねがいきいてほしいの」

 

「……え? あ、僕の事かい? えっと、神様ではないんだけど……」

 

「? どーくつにすんでるから、かみさまでしょ?」

 

「いや、僕は人間で、サントルって名前がね……」

 

「そんなのいーから、かみさま、おねがいきいてよ! わたしのママがね、びょうきなの。むらのひともみんなびょうきでこまってるから、なおしてあげて」

 

 幼さ故のワガママ全開でユキがお願いを伝えると、神様はハッとしたような表情を浮かべました。

 それからしばし考え込みます。ぶつぶつと「まさか地球の病原体か?」とか「常在菌が悪さを」とか、「僕の所為でパンデミックが」とかとか、よく分からない事を呟いていました。それから立ち上がり、洞窟の奥、行き止まりへと向かうとそこでしゃがみ込みます。

 しばらくすると神様は立ち上がり、ユキの下まで戻ってきました。その手には小さな箱と、金属の道具が握られています。

 

「すまない、まさか病気が発生していたとは知らなかったんだ……この薬を使えば、恐らく病気は治ると思う」

 

「ほんと!? かみさますごい!」

 

「いや、凄くなんてないよ。それにこの薬は、これで終わりだ。だから新しく薬を作らないといけない……えっと、そのためにも村の人達を調べたいんだけど、いいかな」

 

「いいよー!」

 

 ユキは神様の言葉を「みんなを治すため村に行くね」と変換。とても上機嫌に許可を出します。

 そうと決まれば早速村に戻ろうと、ユキは神様の手を引っ張ります。神様は困惑しながらユキに連れられ、洞窟から出ました。

 さて、神様を村まで連れ帰らないといけません。

 村の位置は分かります。ちゃんと定期的に後ろを振り向き、村が見えるように歩いてきたのですから。ですがその村は遠く、今から山を下りていくのはちょっと大変そうです。

 

「ま、待ってくれ……」

 

 元気なユキはへっちゃらですが、神様はちょっと歩いただけで息も絶え絶えな様子です。数日間何も食べていないのですから、体力が少ないのは仕方ない事ですが……おバカなユキは「かみさまはたいりょくないなー」と思いました。

 ともあれ疲れやすいなら、歩いて帰るのは大変です。それに神様の服装はどう見ても寒そうなもの。どうしようかな、とユキは考えます。

 そして、ぴんっと閃きました。

 

「そうだ! かみさま、まってて!」

 

 そう言うとユキはそそくさと走り出します。

 向かう先は、洞窟の前に見付けた変な塊。

 その周りにある破片の一つに近寄ります。無数にある破片の幾つかはとても大きく、ユキの身長よりも長いです。幅広で薄く、細長いお皿のような形をしているものもあります。掴んでみれば、とても軽く、ユキでも持ち運びは簡単でした。

 よいしょよいしょと引っ張って、ユキは神様の傍に破片を置きます。不思議そうな顔をする神様に、ユキは胸を張りながらこう提案しました。

 

「これでね、むらまでいくの!」

 

 ……………

 ………

 …

 

「うおわああああああ!?」

 

 神様が悲鳴を上げます。

 

「きゃはははは!」

 

 ユキが笑い声を上げます。

 二人は、ユキが見付けた破片の上に乗っていました。二人が乗るにはちょっと狭いですが、ユキがぎゅっと神様の背中側に抱き着けばどうにか乗れます。

 そして二人を乗せた破片は、山の斜面を猛列な勢いで下っていました。

 ユキの提案は、破片をソリ代わりにするというもの。これなら体力を使いませんし、何よりとても早く山を下れます。時間の一点に限れば、とても効果的な作戦です。

 他に目を瞑れば、と言うべきかも知れませんが。

 

「あがばばばばば!」

 

 前の方に乗っている神様は、猛スピードにより生み出される暴風を顔面で受けています。氷点下を下回る気温に暴風が加わり、神様は白目を向いて凍えていました。ちなみにユキは神様の後ろにいるのでへっちゃらです。

 更にソリは木と木の間を疾走していますが、とても速いので掠めるだけで危険です。細い枝でも顔面に当たれば傷が出来るほど。神様の額や腕は痣だらけになります。ちなみにユキは神様の後ろにいるので以下略。

 そして一番の問題は。

 

「あ! かみさま、むらがみえたよ!」

 

「そ、そそ、それは、よ、よかった! で、ど、どうやって、と、止まる!?」

 

「とまる?」

 

 ソリにはブレーキなどないので、途中で止まれない事でしょう。

 ユキの中に「減速」の概念がないと知った神様は、顔面蒼白になりました。

 

「ちょ、げ、現地民の知識とか技術的なもので操作とかしないのか!? え、待って!? このままじゃ普通に事故だよ!?」

 

「いっけぇー!」

 

「だから行ったら駄目で、あ、柵」

 

 神様が村を囲う柵を視認したところで、二人を乗せたソリはそのまま柵に激突。

 二人の身体は宙に浮かび上がりました。

 

 

 

 

 

 かくしてユキは神様を村まで連れて行く事に成功しました。

 村人達は最初神様と聞いて怪訝そうにしていましたが、神様が色々話して、「あ、すみません。うちの村のアホがなんかやったみたいで」という感じで纏まりました。そして神様は、病気の治療をすると村人に伝えます。

 神様が持ってきた箱には、薬が入っていました。飲ませたところ病気で倒れていた大人達はたちまち回復します。更に神様は不思議な道具を使い、どの植物が薬になるのかも教えてくれました。

 神様が持ってきたものは他にもあります。

 神様のものだという『うちゅうせん』、その残骸がとても丈夫な金属だったのです。破片は斧やナイフに加工され、全然劣化しない、長持ちする道具となりました。神様は「もう壊れていて使えないから」と言っていましたが、お陰で今まで不足していた家や物置などを立てるのに役立ちました。食べ物探しも効率的になり、皆が病気で倒れていた分も賄う事が出来ました。

 さて。そうして神様が色々なものを与えてくれた三日後。村で一番偉い村長と神様が鉢合わせました。偶々二人が外を出歩いていた時で、世間話のように村長が礼を述べます。

 

「神様、本当にありがとうございます」

 

「い、いや、あの、僕は神様なんかじゃないです。ただの遭難者で……」

 

 なんと、神様は神様ではなかったのです。

 ユキには最初からそう言っていましたが、ユキは彼を神様だと紹介していたので、村人達も(色々な贈り物もあって)神様だとつい思い込んでいました。

 村長も一瞬「あんの小娘、またやらかしおって」と言いたげな顔をします。だけどすぐに微笑み、神様ではなかった男性と向き合います。

 

「なら、なんと呼びましょうか」

 

「はい、僕の名前はですね」

 

 神様ではなかった男は、自分の名前を話そうとしました。

 話そうとしたところで、ユキが偶々やってきました。病気から回復した同年代の子供も五人ほど近くにいます。

 この後雪合戦でもしようとしていた彼女達。傍を通ったユキは、村長と男性の会話を聞きました。そしてピキーンっと、思い出します。

 そういえば神様、なんか自分の名前を言ってた気がする。

 なんて名前だったかな、確か……と考えたのはほんの一瞬。若くてぷりんぷりんした脳みそは、推敲や逡巡なんてせず思った事を即座に言葉として発するよう喉に命令を下しました。

 

「サンタさんだよ!」

 

 そしてうろ覚えの名前を、そのまま言葉にしました。

 神様ではなかった男、本当はサントスである人間はキョトンとしました。

 

「え?」

 

「さんたさんってなにー?」

 

「かみさまのなまえ!」

 

「サンタさん?」

 

「サンタさんかー」

 

「え、あ、えと、いや僕の名前は」

 

「かみさまのなまえきいちゃった! みんなにおしえなきゃ!」

 

「いいね!」

 

「ばいばいサンタさーん!」

 

 男の言葉は、幼い子供達には届かず。善意の大暴走で子供達は散り散りになりました。

 最早彼等の口を塞ぐ事は叶いません。恐らく訂正も無駄です。特にユキは。

 唖然とするサントスに、村長はそっと肩に手を置き、サントスは乾いた笑いを漏らす事しか出来ませんでした。

 ――――かくしてこの村に、一つの伝説が生まれます。

 年の終わり頃、いい子にしている子供の下に、『贈り物』を与えてくれるサンタさんがソリに乗ってやってくると。

 その小さな風習は、やがて村から町へと伝わり、時代と共に世界へと伝播。子供達が喜ぶ風習として、何年も、何十年も、何百年も続いていき……

 そして一千数百年後、この星の文明が星間航行技術を手に入れた時、銀河連邦主要惑星の一つである『地球』の文化「サンタさん」が何故かいる星として、惑星文化発展学に混乱をもたらすのでした。

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