零崎零識の人間探究   作:忘旗かんばせ

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第三話『はじめてのおでかけ』2

 ◆   ◆

 

「やぁやぁ、末っ子くぅん、一ヶ月ぶりだねぇ〜」

 

 御神籤楼の入出を管理しているのは、間延びした口調で話す少女だった。

 

 やけに背が低い。歳の頃からすれば高すぎる少年とわざわざ比較するまでもなく、まるで子供のようだった。その低い背丈に、わざわざオーバーサイズの服を着ているものだから、まるでアポトキシン4869を飲んだ直後みたいに見えた。

 

 零崎筆織(ふでおり)

 それが彼女の名だと言う。

 

「一ヶ月ぶり?」

 

 少年が問えば、彼女は「そうだよん」と頷いた。

 

「ああでも、あの時は確か少年、鎖でぐるぐる巻きにされてたっけ? おまけに随分暴れてたしねぇ。私のこと。覚えてなくても仕方ないかなぁ」

 

 彼女は言う。そう言えば、前の時にもこの部屋に連れてこられた覚えがあったような。

 

 少年は室内をぐるりと見回す。ちょっとした書斎のような部屋だった。図書室と比べればうんと少ないけれど、少なくとも一つの本棚が満杯になるくらいには本がある。けれど重要なのはそれよりも、つまり今その部屋の主が肘をかけている机だろう。マホガニーだろうか? 黒光する木製の机。広々とした天板の上は、けれど所狭しと積み上がるノートによって埋め尽くされていた。

 

 彼女はそのうちの一冊を手に取る。

 

「私は御神籤楼の記録役だからねぇ。特に誰が出入りしたかは記録をつけているのさぁ」

 

 言う彼女の手元で開かれたノートには、人名と時間、そして入/出の文字がびっしりと刻まれていた。

 

「ま、勝手に出かけていく連中も多いから、だいたいの記録でしかないけどねぇ〜」

 

 ぼんやりと言って、彼女は笑う。随分と杜撰な話だが。

 

「なにか理由があって記録をつけているんじゃないのか?」

「うんにゃ、趣味」

 

 言われて、少年はガックリと肩を落とす。

 

「ま、だから申告に来てくれる絶識くんはありがたいよぉ。私の趣味に協力してくれてありがとねぇ」

 

 彼女は笑う。その趣味に協力させられた少年としてはなんとも言い難いが。

 

「んで、少年の名前は?」

「え?」

「ほら、記録つけるからさ」

 

 彼女は言ってペンを手に取る。けれど——

 

「名前は……まだない」

 

 少年はそう答える他にない。

 

「ありゃ、まだ名前付けて貰ってなかったの?」

 

 意外そうに、彼女は目を開く。意外に大きな瞳が初めて顕になった。

 

「そっかそっか。それでかぁ、なるほどねぇ。ならしょうがないにゃぁ。とりあえず仮としとこうかねぇ。名前、決まったらまた教えてよねぇ〜」

 

 彼女は言って、サラサラと記録をつけていく。誰にとっても読みやすい、丁寧な字だった。

 

「はい、おしまい。私、御神籤楼のことを色々記録つけてるからさ、少年も、何かあったら話に来てよねぇ」

「何かあったら、とは?」

「ん〜、たとえば、お昼ご飯が美味しかった〜、とか」

「それ、何かあったとは言わないだろ」

「ご飯が美味しかったって特別でしょ〜。と言うか実際、なんでもいいんだよ。日記みたいなもんだと思ってくれれば」

 

 彼女は言って、積み上がったノートの一つを手に取る。

 

「たとえば綴識さんなんかはさ、二週間前に『末っ子くんが知識を習いに来た』みたいな話をしてくれてて、それからはもう毎日『今日の教育の内容』を話しに来てくれてるよ」

「待て待て待て」

 

 なにしてくれてるんだあの人。それは秘密にしてくれと頼んだはずだぞ。

 

「あ、やばい。これ秘密にしてって頼まれてたんだった」

 

 失敗失敗〜、なんて彼女は舌を出すけれど、しかし——

 

「…………」

 

 少年は背後を振り向く。そちらにいる絶識は——

 

「なんだお前、勉強してんのか。偉いな」

 

 と軽く言って、少年の頭を撫でる。

 ……これならまだ、揶揄われたほうがマシだった。少年は耳を赤くする。

 

「あっはは〜、あんまり言ってあげないでよ、絶識くぅん。そもそもは私のミスだしねぇ。白鳥はね、水の上の優雅な姿だけを見せたいものなのさぁ」

「ん? ああ」

 

 まるでわかっていないだろうに、絶識は適当に頷く。こういうところが、好きじゃないのだ。

 

「ともかく、記録はこれで終わりだよ。それじゃあ、また。お外、楽しんでおいでよね〜」

 

 あ、お土産よろしくね〜と最後まで気の抜ける調子で言われて、少年たちは彼女の部屋を後にした。……あいつは苦手だ。少年は思う。恥をかかされたばかりが原因というわけではない。決して。

 

「んじゃ、出るか」

 

 複雑な胸中を抱えたままの少年を引き連れ、絶識は御神籤楼の中を迷いなく進んでいく。

 

 少年とて、配達員として御神籤楼の中を駆け回る日々を過ごしていたわけだから、御神籤楼の内部構造には十分以上に詳しくなっていたけれど、それでもこのルートを通るのは初めてだった。一見して、御神籤楼の奥へ奥へ、深部へ深部へ進んでいるようにしか思えないが、何度確認してもこれが外へのルートなのだ、と彼は言う。つまり、それはおそらく、一つの結界のようなものなのだろう、と類推できる。侵入者が外へ出ようとすれば、必然建物の外側へと向かおうとする。ところが、現実にはそちらは閉じている。真に外に出ようと思えば、奥の奥、底の底へと向かわなくてはならない。出口を探そうとすればするほど惑うのが、つまりこの御神籤楼の仕掛けなのだ。

 

「でも普通、逆じゃないか?」

 

 少年は言う。

 

「建物ってのは、入りにくく出やすく作るもんじゃないのか」

 

 侵入者に対する防御としては、そちらの方がよほど理にかなっているはずだ。ところが御神籤楼はまるで逆。入りやすく出にくい。そんな構造になっている。

 問えば、けれど絶識は笑った。

 

「それは、住んでるのが普通の人間だったらの話だ」

 

 言われて、悟る。つまり、ここは鬼ヶ島なのだ。来るもの拒まず、去るものおらず。一度中に入ったのならば……死体としてしか、出てこれない。なにせこの中に住まうのは、人殺しの鬼たちなのだから。

 

「さあ、そろそろ外だぜ——」

 

 通路に、穏やかな風が吹き始めた。少し、肌寒く感じる。そう、今まではずっと、熱のこもる室内にいたのだから、当然だろう。やがて進めば、日の光が見えてきて——

 

「よ、どうだい兄弟? 久しぶりの外ってやつは」

 

 出た先は、路地の隙間だった。敷地としてはまだ。御神籤楼の中と言えるかもしれない。けれどそれでも確かに、そこには陽の光が差し、そして風が吹いている。

 

 そしてそこには、一人の男が待ち構えていた。

 

「……まだ、外に出たって感じもしないですね——轢識(れきしき)さん」

 

 少年は敬語で応えた。

 

 百九十センチはあるだろう高い背。茶髪茶目。今時らしいと言えばいいのだろうか? 軟派な甘いマスク。口元には金色のピアスが輝いている。

 

 服装はデニム地のツナギにライダースジャケット、革のブーツに、ゴーグル付きのヘルメッド。右の腰には長方形のウェストポーチが下がっていて、その中から多様な工具がのぞいている。

 

 彼こそは、零崎轢識。この御神籤楼において、最もその『外』を知り尽くした()()()()。それこそが彼と言う男だった。

 

「うはは、そりゃそうだな。表に出ようぜ、アシもそっちに止めてある」

 

 彼は言って、路地の外を指す。三人はそちらへ歩き出した。

 

 轢識のことは、少年もよく知っている。なにせ、彼のバイト……つまり荷運びの、その『荷』を御神籤楼にまで運んでくるのが彼なのだから。少年からすれば、つまりちょっとした上司のようなものだった。無論、向こうからすればそんなつもりもないのだろうけれど。

 

 路地から表通りに出ると、さらに日差しが眩しい。道路のアスファルトが白く染まっている。そのど真ん中に、目立つ黒色の車が停まっていた。

 

 普通の車らしくない、ゴツゴツと角ばった車だ。と言っても、トラックのようなというわけではない。一応荷台がありはするが、それはいわゆる軽トラのような長いそれではない。そう、近い車を上げるなら——

 

「装甲車?」

 

 そう、それが一番近い。軍用の装甲車。カラーリングを迷彩柄に変えれば、いかにもそれらしく見えるだろう。

 

「民生品だよ、一応な」

 

 彼は運転席のドアを開けた。左ハンドル。外車だ。彼はヘルメットを被ったまま車に乗り込む。

 

「なんだ、いつものバイクじゃないのか」

 

 絶識は言いながら、当然のように助手席のドアを開ける。「アホ、バイクでどうやって三人乗るんだ」なんてツッコミを受けながら。

 

「後ろ、乗れよ」

 

 言われて、少年は後部座席のドアを開ける。乗り込めば、轢識がキーを捻ってエンジンをかける。

 

「しかし車ってのはよ、こう角ばってると、なんだかおもちゃっぽくてちゃちく感じるよな」

「悪口か? 一応ランボルギーニだぞ、これ」

「マジで?」

「マジマジ。高かったんだぜ」

 

 会話をしながらも、轢識は運転を開始する。アクセルが踏まれ、慣性力が少年の体をシートの背もたれに押しつけた。初めて乗る車の振動に少年が胸を高鳴らせる中も、前の二人は会話を続ける。ランボルギーニLM002。それがこの車の型番らしい。

 

「んで? 今日はどこ行くんだ」

 

 絶識が問えば。轢識は呆れたとばかりに首を振る。

 

「そういうのはお前が決めとくもんだろ? せっかくの兄弟の初めてのお出かけなんだから」

「なんだよ、初めてのお出かけって、気色悪い。お弁当持ってピクニックにでも行けってか?」

 

 舌を打って、絶識は言う。

 

「じゃあ、あれだ。なんか、遊園地とか」

「アホ、お前、遊園地ってどこのだよ。行くにしても午前中から出なきゃダメだろ。今もう昼の二時過ぎだぞ?」

「しゃーねーだろ。午前中はこいつ、バイトだったんだよ。文句ばっかり言うんだったらお前がアイディア出せって」

「結局人任せじゃねぇか」

 

 言いながら、彼はさらに広い大通りに出る。四車線だ。

 

「なあ兄弟、どっか行きたいとこ、ある?」

 

 前を見たまま、バックミラー越しに轢識が問いかける。

 しかし、行きたいところ、と言われても。

 

「こいつ、外のこと何にもしらねぇんだって。なんか適当にさ、社会科見学、させてやってくれよ」

「社会科見学って……」

「あとついでに、うっかり人殺しても大丈夫なとこな」

「無茶苦茶言うなよ!」

 

 そんじゃーもー、普通に「仕事」行くしかねぇんじゃねぇの?

 

 彼は嫌そうに言った。

 

「仕事、って、そう言えば普段轢識さんはどんなお仕事をしてるんですか?」

 

 少年が問えば、彼は「まさかの食いつき」とバックミラー越しに驚きの表情。

 

「ま、九割は買い出しだなぁ。金で済むもんは金で済ましてるよ」

「買い出し……収入源ってどうなってるんです?」

「んー、御神籤楼の中で作ったもんを外に売ってるのもあるけど……それは全体の四割ってところかな」

「残りは?」

「株やってる奴がいて、そこからの収益と、他にも『表』の職もやってる奴がいたりとか……ああ、そうそう、筆織なんかは小説書いてて、その印税を半分ぐらい入れてくれてる」

 

 あいつ、そんなことをやっていたのか。少年は思う。小説……もしかして、彼女の趣味はそのネタ集めの意図もあったりするのだろうか?

 

「あとはあれだな。零識さんが結構太いパトロン捕まえてて、そっから引っ張ってきてる資金もある。そんなんでまあ、御神籤楼の生活は賄われてるってわけよ」

 

 なるほど……収入源は、意外と真っ当だった。てっきり、人殺しなんかで稼いでいるのではないかと思っていたものだから、それと比べれば本当に。

 

「うはは、無差別の人殺しなんて金になんねーよ。匂宮(におうのみや)じゃあるまいしな」

「匂宮?」

 

 少年が首を傾げれば「なんだ、教わってねーの?」なんて問い返される。頷けば、「零識さんも意外と過保護だな」なんて彼はつまらなさそうに言った。

 

「ま、匂宮ってのはいわゆる殺し屋のギルドでね。裏社会——『暴力の世界』で『殺し屋』つったら基本こいつらだ」

 

 彼はハンドルを捻りながら話を続ける。

 

「『殺し名』序列第一位、殺戮奇術集団『匂宮雑技団』ってな。大小合わせて五十三の分家を束ねる『匂宮』……。『暴力の世界』じゃ文句なし最大勢力さ。戦前からずーっと人殺して飯食ってる奴らだよ。おかげで、『権力の世界』や『財力の世界』にもある程度根を張ってる」

 

 権力の世界に財力の世界。そちらは綴識の『授業』で少しだけ聞いたことがあった。日本どころか世界中の『権力』——すなわち『政治』に裏から手を回す権力機構、『玖渚機関』。そして世界中の『財力』——すなわち『金融』に影から絡みつく財閥集団、『四神一鏡』。

 

 いわゆる『表社会』に近い位置にいるはずの彼らが、殺し屋なんてものと懇意にしているとは……。

 

「逆だよ、逆逆。表社会に近い位置にいたいからこそ、そういう仕事は他所に外注したいのさ」

 

 なるほど、その説明で合点がいった。身綺麗で居たいからこそ、汚い仕事はいつでも切り捨てられる連中にこそ任せる、ということか。

 

「そういうこった。あいつらは、依頼さえあれば誰でも殺すからな。表に近い連中にとっちゃあ便利なんだよ」

 

 それにしても、最近はいささか勢力を拡大しすぎのきらいはあるけどな、と彼は言う。

 

「まあ、それも仕方ねーんじゃねーの? 隠居したとは言え、『最強』ババアの睨みもまだ効いてるだろ」

 

 口を挟んだのは絶識だった。

 

「『皆鏖(みなみなごろし)』か。戦時中の恩もあるんだろうな。財界政界、どちらも勢力の拡大を容認するのは。アメリカ合衆国がただ一人恐れた殺し屋……刀使いとしちゃ、やっぱ憧れるところがあったりするわけ?」

「冗談」

 

 絶識は肩を竦める。少年にとっては、会話の内容はほとんど意味がわからなかったけれど。

 

「その辺はわかんなくてもいいよ。所詮、旧時代の神話だ。とりあえず、『匂宮』は暴力の世界じゃ最大勢力だってことだけ覚えときゃいい」

 

 最大勢力、か。しかしそう語ると言うことは。

 

「他にも、準ずるような勢力があるってことか?」

「お、いいねぇ、興味湧いてきた?」

 

 嬉しそうに言いながら、彼はアクセルを踏む。どうやら、高速道路に乗ったらしい。

 

「『暴力の世界』……つまり俺たちが暮らしてる力こそ全ての裏社会なわけだが、ここにはさまざまな殺人集団がいる。個人のプレイヤーはそれ以上にいるけどな。ま、基本的には個人よりも徒党を組む方が強いわけだ。戦いは数だよ兄貴、ってな。んで、そういう徒党の中でも一等強く、そして恐れられる集団……それこそが『殺し名』と呼ばれる()()()()()だ」

 

 彼は語る。

 

「上から語ろうか。まず序列一位は、今説明したばかりの匂宮雑技団。最大勢力ってのは比喩でもなんでもなくて、ここ一つで理論上は他の全ての『殺し名』と戦争できるくらいの戦力がある。が、それは他の殺し名がショボいって意味じゃあ断じてない」

 

 たとえば——

 

「序列二位、『闇口(やみぐち)(しゅう)』。奴らは『暗殺者』だ」

「暗殺者……」

「あるいはより古い言葉で言えば、()()と呼んでもいいかもしれない」

 

 暗殺者——あるいは忍者。現代においてはほとんど幻想と呼ぶべき存在だが、しかしそれは確かに実在しているのだという。

 

「奴らは匂宮のように、頼まれれば誰でも殺すってわけじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()。奴らは、生涯に一度のみ、自ら仕えるべき主人を探し出し——その主人と契約を結ぶ。奴らが人を殺すのは、その主人のためだけさ」

 

 つまりイメージとしては暗殺者というよりも忍者の方が近いのか……より旧時代的に、主人に仕え、その影として敵を撃つ。

 

「御恩と奉公……ってわけか?」

 

 問えば、轢識は首を振る。

 

「違うね。奉公と奉公だ。あるいは奴ら自身に言わせてみれば。()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだろうさ」

 

 奴隷根性だよ、なんて彼は忌々しげに語る。

 

「俺はあいつらは好かんね。主人の望みのままに殺す、なんて言えば聞こえはいいが、要は殺人の責任を全て主人に押し付けてるってわけじゃないか。そういうのは卑怯だろ」

「理由もなく殺すよりはマシだろうけどな」

 

 隣から口を挟んだのは、やはり絶識。彼は足を組み直して言う。

 

「んで、序列三位が我ら零崎一賊ってわけだ。理由なく殺す『殺人鬼』……暴力の世界における一番の嫌われ者だ」

 

 ようこそ、兄弟。嫌われ者の集まりへ。

 なんて、皮肉げに。

 

「内側から見りゃ、ただの馬鹿の集まりだけどな」

 

 運転しながら轢識は言う。

 

「ただの馬鹿の集まりでいられるのは、そりゃ零識さんの睨みが効いてるからだ」

 

 絶識は面白くなさそうに指摘した。

 

「実際のところ、零崎ってのは敵が多い……当たり前だ、殺人鬼と仲良くできる相手なんかいねぇ。周りは敵だらけで、どこの誰ともつるめねぇ、そんなどうしようもなく孤独な連中の集まりが、だから零崎一賊だ。この世のどこへ行っても敵しかいないのが俺たちで、この世の誰もに死を願われてるのが俺たちだ。そんな俺たちが、曲がりなりにもあの御神籤楼で安穏と暮らしてられるのは、つまり家長である零識さんの力によるものが大きい」

 

 彼は語る。『究極』と呼ばれる殺人鬼が成したその功績を。

 

「匂宮の分家が四つ『桐壺』『蛍』『常夏』『柏木』、当時の『殺し名』序列第五位『仇辻(あだつじ)警団(けいだん)』、大陸からの刺客『胡乱会』の極東支部、サンディエゴの絶対正義『DDDH(ダーティ・ダーティ・ダーティ・ヒーローズ)』」

 

 指折り数えて、絶識は言う。

 

「どれもこれも、かつては暴力の世界における一大勢力として数えられた屈指の戦闘集団であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 最も、匂宮の分家は本家からの暖簾分けでまた立ち直っちゃいるが、何て補足を加えつつも、しかしそんな情報も蛇足にしかならないほどに。

 

 それは壮絶なる血の神話。零崎の名が刻んだ恐怖。

 個人は徒党に敵わない——そんな当たり前の算数を、けれど蹴散らして行われた惨憺たる虐殺劇。それは『暴力の世界』に在らん限りの畏怖を振り撒き——そしてその畏怖が、今も零崎一賊を守っているのだ、と彼は語る。

 

「『零崎一賊に手を出したものは誰であろうと皆殺し』……それが零識さんのスタンスで、ひいては零崎一賊唯一のルールだ。ハンムラビ法典は目には目を、歯には歯をと唱えたそうだが、しかし復讐は過剰でなくては意味がない。同等の代償程度では生ぬるい。目には命を、歯にも命を。手を出せば全てを失うという恐怖だけが——敵の多い零崎一賊を守る盾となる」

 

 それは原初の鉄の掟。人と獣の境がまだ曖昧だった時代から続く応報の理。それは残酷なほどに固く、冷酷なほどに強く、されど——

 

「……もし」

 

 もしも。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()——

 零崎一賊はどう行動するのだろう。

 それを問えば、絶識と轢識。二人は顔を見合わせて——そして笑う。

 

「んなもん、決まってるさ」

 

 少年の方を振り返って、絶識は言った。

 

「玉砕上等、全員揃って突っ込んで——せいぜい派手に、笑って死ぬさ」

 





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