呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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10. どうして

会議を経て、出た結論としてはカイザーコーポレーションの目的は「アビドスの土地」。そして、やつらは手に入れていない最後の土地であるこの学校周辺を手に入れるため、俺たちを攻撃していた。

 

ということだ。

土地を狙う理由については……なんとなく、心当たりはある。

 

昔、砂漠を歩いていると、何かしらの膨大な神秘を砂の下から感じ取れたことがあった。

恐らく、やつらは砂漠に眠る何かを狙っている。それが何なのかは分からないが……まあ何にせよ、碌なものじゃないだろう。

 

これはヒナの忠言とも一致するし、間違い無いと考えていい。

砂漠に何かがある。その確信を得た俺たちは、アビドス砂漠に出発することとなったのだが……

 

「……先生」

 

「ん、シロコか。どうかしたか?」

 

「出発する前に、ちょっと時間が欲しい。……相談したいことがあって」

 

そう言うシロコについていくと、ついたのは朝シロコとホシノが争っていたと思われる教室。

そこで、何やら一枚の紙を渡された。

 

「……ホシノ先輩のバッグの中から見つけたの」

 

折りたたまれていたそれを、開く。

 

「……は?」

 

それは、ホシノの、対策委員会への退部届だった。

 

「……これは、どういう」

 

「……ん、書かれてる通りの意味だと思う。先生以外には誰にも見せてないし、言ってもないけど……そもそもバッグを漁ったこと自体、ホシノ先輩にはバレてる気がする」

 

「……なんで、これを……どうやって気づいた?」

 

シロコは語る。風紀委員会と戦闘をした日、ホシノには違和感があったと。

あそこまで長く席を外したことは今まで無く、おまけに風紀委員会にかなり追い詰められるまで来なかった。

それが引っ掛かり、バッグを漁ったら出てきたと言う。

 

悪いことだとはわかってる、怒られてもしかたない。そうシロコは語るが……

正直、怒る気にはなれないな。

 

「……とりあえず、二人だけの秘密にしておこう。約束できるか?」

 

「……うん」

 

だけど、何で……何で、あいつは。

ホシノは、秘密を隠してる。それはなんとなく分かってた。だが、これは……

 

……色々思うところはあるが、今はアビドス砂漠だ。

そう、ホシノに関しては……まだ、後回しでいい。そのはずだ。

そう言い聞かせて、手を強く握り込んだ。

 

感情を理性で抑え込み、砂漠に向かう準備をする。

全員準備が整ったので、みんなと共に砂漠に向けて出発した。途中までは電車で体力を温存しつつ向かっていく。

 

懐かしいな。最初にアビドスに来た時も電車で来たんだっけか。

あの時と同じように、ガタンゴトンという揺れが眠気を誘う。

 

そのうち電車は目的地に着いた。電車を降りて、砂漠を見やる。

乾いた風が吹いている。太陽が強く俺たちを照らし出す。

 

ここアビドス砂漠は、都市部の砂漠化が進む前よりあった本物の砂漠。壊れたドローンやオートマタが徘徊する危険地帯だ。

今回も、アヤネだけはサポートのため置いていっている。

そのため、全体の状況を把握したアヤネがメインの指示を出し、状況に応じた細かな指示を俺が出す。という感じで今回は進軍していく。

 

今回、俺が直接戦うことはない……と思う。前はホシノがいない状況で、それに加えて風紀委員会の目的も俺だったから動いたが、今回はさすがにそんなことはないと思う。状況次第では動くが……

幸い、みんなは俺の力を追求してくることはなかった。そういうものだと思ってくれって言ったのが効いてるのかもしれない。

 

せっかくだし今一度、俺……というか先生が直接動く時というのを復習しよう。

先生は基本的に直接干渉するようなことはしない。何故なら先生はあくまで生徒たちを支える存在で、だから生徒の自主性を尊重する。

 

では先生が動く時とは?それは先生が事件に直接巻き込まれた時、生徒が明らかな命の危険にある時、事態が生徒たちで解決できる範疇を超える時、もしくは別の大人が直接干渉してくる時だ。

……そう考えると、便利屋が柴関ラーメンを爆破した時の俺はちょっと軽率だったかな。反省しなければ。

 

……しかし、ここら辺の敵は弱いな。考え事をする時間がたっぷりある。みんなも雑談しながら進んでいる。

その話題で、砂祭りの話が出た。昔は、ここら辺に船を何隻も浮かべられるでかいオアシスがあって、その周辺で祭りをしていたとは聞いている。そういえばその跡で宝探ししたこともあったっけか。何でかスク水来てたんだよなあの時。懐かしい。ちょっと感傷的になってしまうな。

 

そのままずんずん進んでいくと、何やらアヤネが前方に大きな施設のようなものがあると言い出した。

……こんな場所にか?

 

目の前を見ても、何もあるようには……いてっ、目に砂が入った。砂埃が邪魔臭え。

まあ、とりあえず進んでみるか。ということで前進したのだが……マジで施設があった。

 

有刺鉄線が張り巡らされていて、その中にデカい……何といえばいいか、工場?のようなものがある。

昔、この辺りに来た時は何もなかったような……

 

そう考えていると、突然銃声がした。

アヤネによれば、前方より正体不明の兵力から攻撃されてるとのこと。

ずいぶん熱烈な歓迎ですね。邪魔するならぶっ飛ばすぞ。ということでこちらも攻撃し返していく。

まあ、こんな場所に来るやつなんてどうせ碌でもないだろう。特に問題はない。

 

そういうわけで、撃退した。強くはないのだが、面倒臭かったな。

何と言おうか……個々の強さはあんまりだが、連携があって面倒臭かったって感じだ。

味のしないガムを延々と噛んでるみたいな。うん。俺は何を言っているんだ。

 

そうこうしていると、アヤネが施設に何らかのマークを見つけたらしい。確認をすると、その正体は……

 

「……カイザーPMC」

 

『っ!?……はい。ホシノ先輩の仰る通り、カイザーPMCです』

 

ここにもカイザー、それも……PMCと来たか。

PMCとは、すなわち民間軍事会社。Private Military Company のこと。

要するに、軍隊を扱う会社である。通りで面倒臭かったわけだ。奴らはちゃんと訓練されたプロ。そこらへんのやつらとは訳が違う。

 

とはいえ、こんな場所に軍隊?となれば、奴らの目的はこの土地にあると思われる何かの……

考えていると、突如として大きな音でサイレンが鳴る。

 

何だ何だと狼狽えてみれば、ヘリの音に戦車の揺れ。とんでもねえ武力の包囲網が完成しようとしていた。

仮にこの武力で完全に包囲されればかなりまずい状況になるだろう。それを避けるには、完成する前に一点突破!

 

大急ぎでまだ包囲が薄い部分を探し当て、そこを起点として包囲を崩す……!

襲いくる兵士や戦車を退け、ひとまずは施設から大きく離れることを目標に逃げ続ける。

 

だが、向こうもやはりプロだった。幾らかの戦力で足止めをする間に、別の戦力で簡易的な包囲を作る。それの繰り返しで、いつのまにか完全に包囲されてしまった。

絶体絶命。こうなりゃ俺が動くしかない……と、動き出そうとするがその直前、俺たちの前に一体のロボットが現れた。

 

「侵入者とは聞いていたが……アビドスだったとは」

 

黒いスーツの上に、さらにもう一枚黒い服を重ねている。服がないところから見える肌は何かしらの金属でできていることが一目でわかり、その目は赤い光でできている。

その男は一人でボソボソと喋っている。もっとはっきり話せや。喉に当たる部品に砂でも詰まったか?

 

「あんたは、あの時の……」

 

どうやらホシノには心当たりがあるらしい、敵対的な目でそいつを見つめている。

 

「……確か、例のゲマトリアが狙っていた生徒会長……いや、副会長だったか?」

 

……ゲマトリアだと?まさか、黒服の仲間……いや、外部の協力者といったところか。

 

ノノミが何者かと問いかけ、そいつは自己紹介をする。

 

「私は、カイザーコーポレーションの理事を務めている者だ。そして君たち、アビドス高等学校が借金をしている相手でもある」

 

こいつが……黒幕、と見ていいのか?

 

そいつは話し続ける。

シロコやセリカが怒りをぶつけるも、そいつはあくまでやってきたことは合法的なものだとして怒りを流す。どころか、むしろ違法なのはそちらだと。勝手に企業の私有地に不法侵入をするなと言ってくる。凄まじく苦手なタイプだな。正直今すぐぶん殴りたいが我慢だ我慢……

 

そいつはペラペラと良く喋り続ける。どうやらやつらはこの砂漠で宝探しをしているらしい。軍隊はどこかの集団にそれを邪魔された時のもので、アビドスに使うものではないと。

 

が、それよりも今は何が目的だ?それがわからない以上、迂闊には動けない……

それからも話をし続ける。が、そのうち奴はおもむろに電話を取り出すと、どこかに連絡をした。

少しすると、アヤネの通信から悲鳴が聞こえた。

 

どうやら今の電話で利子が九千万まで上げられたらしい。

そいつは笑う。お前たちのことはどうだってできるんだぞと。

それに加え、一週間以内に三億を用意しろとも言ってきた。

 

それが無理なら、学校を去ればいいとそいつは言う。

学校が負っている借金を、生徒が背負う必要はないと言う。

みんなの……アビドスの、学校にかける熱意を知りながら、こいつは

 

……落ち着け。ここでこいつを殺しても、何か解決する訳じゃない。

それに、そうやって俺が動いたところで、それはきっと根本的な解決ではない。

だから、落ち着け。

 

「……みんな、帰ろう。これ以上ここで言い争っても意味がない、弄ばれるだけ」

 

ホシノがそう言ってくれた。

そうだ、一度頭を冷やさなければいけない。ここで言い合うのは、何もかも無駄だ。

 

それはまだ何かほざいていたが、気にかけずにただ帰った。

 

 


 

 

学校に帰ってきた。いつもの教室に入り、座る。

 

目下の問題は、とりあえず借金だ。利子九千万に、保証金として一週間以内に三億。とても正攻法では稼げない。

だが、だからといって犯罪に手を出すのはダメだ。でも、そうもいっていられない状況。

 

クソッ、やっぱりあれは殺しておくべきだったか?いや、あいつは結局のところ中間管理職。潰すなら大元をやらなければ……

 

こういう時、先生ならばどうする?先生は、生徒の味方で、正しい道を示すもので……

なら、泥に塗れるのも、やはり大人の責任か?今回の事態は生徒で解決できる範疇を優に超えている。俺が、動くべきか……

 

「ほらほら、みんな落ち着いて〜。頭から湯気が出てるよ〜?先生も、一度頭を冷やそ〜」

 

ホシノの言葉で、ハッと我に帰る。

……俺は今何をしていた?

目の前で、生徒たちが険悪な雰囲気になっていたのに……それを無視して、考え事に没頭してしまっていた。

だいぶダメージがでかいな……一度落ち着くため、パン!とほっぺを叩く。

 

とりあえず、こんなところでうだうだ悩んでも解決策は出そうにない。今日は一度解散したほうがいいかもな。

ホシノもそう言ってくれたので、今日は一度解散となった……のだが。

 

「んーと……先生とシロコちゃんは何かまだやることがある感じ?」

 

時間もそれなりに遅くなり夜空が広がる中、微かな夕焼けが差し込み寂しい雰囲気を醸し出す教室。俺とシロコとホシノはまだ学校に残っていた。

シロコからアイコンタクトを受け取った俺は、あの話をするつもりだと理解し、ここに残っている。

 

「……先輩、ちょっといい?」

 

「俺からも、少しな」

 

「うへ、二人から一度に話を持ち掛けられるなんて、おじさんモテモテだ〜……でもさ、今日は疲れたし、色んなことがあったじゃん?」

「また明日話そう。大体どんな話かは分かってるから」

 

「……ん、分かった。先生」

 

再びアイコンタクト。それに頷くと、シロコも帰って行った。

 

「うへ〜、先生やるねえ?私の可愛いシロコちゃんと、いつの間に目と目で意思疎通ができる仲になったんだ〜?」

 

「そんな大したもんじゃないよ。俺は目で話せないしね。シロコのアイコンタクトを、俺が受け取れるようになっただけ」

 

「いやいや、そんな謙遜することないよ〜。やっぱり先生は侮れない人だな〜」

 

そう言って笑うホシノからは、やっぱり隠そうとする気持ちを感じられる。

ここで追求しないと、手遅れになる。そんな気がした。

 

「……ホシノ、少しお話しようか」

 

「ん〜、何を?」

 

「これについて」

 

言いながら、件の退部届を見せつけた。

 

「……盗ったのは、シロコちゃんかな?先生、後でちゃんと叱っておいてよ?」

 

「後でな。今は、これについて聞かせてくれ」

 

「……逃がしてくれそうには、ないよね〜?」

 

「今日の俺は徹夜もいけるよ」

 

「うへ、さすがにそれは勘弁……はあ、仕方ないなあ……分かったよ。でもさ、面と向かってっていうのも何だし、歩きながら話さない?」

 

そう言ってホシノは外を指差す。

 

「まあ、いいけど」

 

「やった。それじゃあ、しゅっぱーつ!」

 

それから、二人で外に出て、適当に歩きながら話し始めた。

 

「私さ。結構夜が好きなんだよね〜。その中でも、特に今みたいな……宵っていうのかな?この時が一番好きなんだよねえ」

 

「ふーん?何で?」

 

「……さあ、何でだろ?何だか、優しい雰囲気があるからかな〜」

 

「何だそれ……まあ、分からなくもないけどさ」

 

歩き続ける。星々が、俺たちを照らす。

 

「お、先生も今の時間が好きなの?」

 

「いや、俺の場合は明け方かなあ。何というか……光だなあって感じがあって、一日の始まりを予感させて、すごい好きなんだよね」

 

「明け方って……正反対じゃん。先生とはそりが合わないねえ〜」

 

「……ホシノ」

 

立ち止まった。俺の少し先をいっていたホシノも立ち止まり、振り向く。

 

「……分かってるよ。正直に話す。私は二年前から、変なやつらから提案を受けてた」

 

「……提案」

 

それは知っている話だった。

というか、俺も持ち掛けられたことあったしな。

 

黒服。今でもよく分からない、どこか恐ろしいやつ。

そいつは、俺やホシノに「私たちの企業に所属してくれるなら、アビドスの借金の半分近くを請け負う」という条件の提案を持ちかけていた。

今でも、ホシノに提案をしているとは……

 

「じゃあ、その退部届は……」

 

「……うへ。まあ、一ミリも悩んでいなかったって言ったら嘘だし。ちょっとした気の迷いっていうか……うん、もう捨てちゃおっか」

 

そう言って、ホシノは退部届をビリビリに破いた。

それから、誤解を招いてごめんとか、明日みんなにちゃんと話すとか、色々ホシノは言ったけど。

 

その目は、いまだに揺らぐことはなかった。

 

「……さ〜てと、この話はこれでおしまい。じゃあ、また明日。先生……さよなら」

 

そう言って、背中を向けて去っていくホシノに、俺は

 

「何で、行こうとしているんだよ……」

 

「……何のことかな?」

 

その、澄んだ瞳が俺を見つめる。

 

「何で……君は……今の幸せを手放そうとしてるんだ」

 

雰囲気でわかる。こいつが、提案を受けて、遠くにいってしまいそうなことは。

だけど、何でなのかがわからない。

 

「借金のことなら、俺がどうにかするよ……それに、他に心配事があるなら、それもどうにかする。だから」

 

「……うへ、先生は心配性だなあ。そんなに引き止めなくても、私は行かないよ」

 

何でだ。何で、何で行こうとしているんだ。

 

「ホシノっ……何で……!」

 

あんな素敵な後輩たちに囲まれて、幸せそうな日々を送っていたのに、何でそれを手放せるんだ。

 

「……先生には、わからないよ」

 

それは明確な拒絶の言葉だった。

だというのに、その瞳は澄んだままで、どこか申し訳なさそうな顔をしていて。

 

何となく、その理由がわかってしまった。

だとすれば、その原因は俺にあるから

 

去っていくホシノの背中を、俺はもう止められなかった。

 

 


 

 

翌日。

 

「……これで良い?」

 

「……はい、確かに」

 

黒服が出した、契約書にサインをするホシノ。

契約は完了した。これで、ホシノの生徒としての全権利は黒服に渡ることとなる。

 

先生にはわからなかった、彼女の本心。

今でも、彼女は夢を見る。あの頃の青い夢を。何よりも大切で、輝いていたあの頃を。

 

だから、彼女は思うのだ。

 

 

 

 

 

 

早く、死にたいなあ。

 

 

 

 

 

 

 

いつもの教室の机の上に、退部届と手紙が一つ。

ホシノからの、お別れの手紙。

 

止められなかった。俺のせいだ。全部、全部……

 

色んな考えが頭を巡って、視界がグラグラと揺れるような気がする。

……一度、考えるのは後だ。俺は先生なんだ。先生は決して生徒を見捨てない。俺じゃダメだったけど、アビドスのみんななら、きっと。

そうやって、取り戻せれば、生きてさえいれば、きっと何とかなるはずだ。

 

それから、ホシノの手紙に混乱するみんなを、一度まとめようとして

 

爆発音。

 

「こちらに向かって、数百近いPMCの兵力が進攻中!同時に、市街地に無差別攻撃をしています!」

 

「……は?」

 

アヤネの報告。ただ、それは信じられないものだった。

 

あいつら、借金のことは……ああいや、そうか。借金を請け負うってだけで、進攻したり、滅ぼさないとは言ってないもんな。

最後の生徒会であり、最大戦力であるホシノを退学させることで、アビドス高等学校を攻め落とすことを実質的に合法とし、そのまま土地を奪う。そうかそうか。そういうことか。

 

……それが、あいつらのやり方か。ならば、もういい。

 

「カイザーPMC!?なんでこのタイミングで……!?」

 

「お、応戦しないとです!!何はともあれ、アビドスが攻撃されているのを見過ごすわけには……!」

 

「考えてる時間が惜しい、すぐに行こう!」

 

「で、ですが、私たちで撃退するにはあまりにも数が──」

 

「お前ら、一度市民の避難に努めろ」

 

「先生……?」

 

 

 

 

 

「俺が全員やる」

 

こっちも、遠慮はなしだ

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