周年前だが、天井叩いてでも当てたい。どうか、当たってくれ……そんな思いでガチャ画面を開く。
それは雑魚の思考だ。
脳内再生される、カッシーの声(現時点では未判明)。同時にカットインが入る。
その手には、この前の大決戦報酬の10連チケット。この一枚で、当ててみせる!
そんな思いで引いたら、まさかの二枚抜きしました。サンキューカッシー。フォーエバーカッシー。みんなもガチャ前はカッシーに祈ろう。俺はこれでアイドルマリーも当てた。
さて、俺がシャーレに戻ってきてから数日が経ちました。
現在、俺はとんでもない量の書類に追われています。
事情は……説明する必要があるのだろうか。まあ、一応話しておくとしよう。
あの日、夜に帰ってからすぐにリンちゃんと出会い、その際タワーみたいな書類を渡されながら
『これをお願いします。期限は明日のものから一月後のものまで様々なので、選別してください』
とのありがたい言葉を送られた。
それから結構な速さで仕事をこなしているはずが、何故だか書類の数が減ったように見えない。おかしいな。
もしかしたら疲労で幻覚が見えているのかもしれない。それってもしかしてヤバいんじゃないかな?今すぐにでも俺は休むべきだな。
そんなふざけたことを言っても、無情なことに書類は減らない。誰か助けてくれ……
「カケルー?来たよー?」
「……???」
なんかホシノがいるように見える。マジか、ここまで限界だったとは……
「……目に反転かけてもいるな。いやそりゃそうか。幻覚は頭で見るもんだしな」
「え?カケル?どうしたの?」
「おまけに幻聴もついてくるとか……ハッピーセット?」
「カケル?本当に大丈夫?」
「いや、それが全然大丈夫じゃないんだよね」
何で俺は幻覚と会話してるんだろう。頭おかしくなったのかな?
「大丈夫じゃないって……えぇ?何この書類のタワー……」
「それね、俺がやらなきゃいけないもの」
「……カケル一人で?」
「いえす。俺一人で」
しかしここまで会話できる幻覚も珍しいな。早めに消さないと俺の頭が狂いそうだ。脳みそに反転をかけてみよう。
「ふーん……ごめんカケル、ちょっと席外すね……」
「?おう……」
あー脳に反転するとすごいな。いきなり頭が冴えてきた。そして冴えてきた頭によると、あのホシノは幻覚じゃないな。それで、その本物のホシノが……ん?
「…………!?ちょ、待て!!ホシノ待って!!??」
「大丈夫だよ、カケル。連邦生徒会とちょっとお話しするだけだから」
「どっちの意味でだよ!?とにかく待ってくれ!!」
「大丈夫だよー。連邦生徒会程度に負ける私じゃないって」
「いや、お前でも流石に連邦生徒会は……できるかもしれないけど。そういう話じゃないって」
「でも仕事、辛くないの?」
「辛いけど!でも今回は俺が悪いから!」
「……」
「何とか言って……?」
一悶着あったが、何とか落ち着いてもらった。その後ホシノから「じゃあ仕事手伝うよ」と提案され、現在俺はホシノに仕事を手伝ってもらってる。
「マジで助かる。本当にありがとう」
「いや、そんな感謝されることじゃない……と思ったけど、この書類の量を見れば、納得だねえ……」
「ちなみにこれ数日前から取り掛かってるんだけど、減った気がしないんだよね。もしかしたら圧縮(物理)されてるのかもしれない」
「どういうこと……?」
とまあ、世間話をしながら仕事をしている。誰かが隣にいてくれるだけでこんなにも心が軽くなるとは……
「ところでカケル」
「どうした……っていうか、ここ一応シャーレだから、できるならカケルって呼ぶの控えて、先生って呼んで欲しいんだけど」
「何で仮面外さないの?」
「今の話聞いてた?」
「聞いてたけど?」
「え、それじゃあここでは俺は先生じゃないといけないってことわかってるよね」
「でも、私の前ではカケルでいて欲しいなあ……」
上目遣いで目を潤ませるホシノ。それはずるくない?
「でも通用しないけどねー」
「えー。私、かわいくないの?自信無くしちゃうなぁ……」
「というか、相変わらず違和感がすごいだけだよ」
「……?ああそっか。そういうことね……」
ホシノは一度ゴホン、と咳き込んだ。そして再び俺の目を見て……
「カケル、私の前でだけはその仮面を外してください」
「解釈一致」
「ギリギリキモいよ」
「酷ない?」
……はあ、仕方ない。仮面を外そう。
「……うん。やっぱりカケルに仮面なんか似合わないね」
「酷くない?」
「というか、何で今も仮面つけてるのさ?私に正体知られたんだから、もうつける意味なくない?」
「いや、なんかもうすごく馴染みすぎてて……後、もう世間ではシャーレの先生=この仮面になってるから、下手に外すと誰?とか言われかねない」
「へえー……まあ、私の前で外してれば、それでいいや」
さいですか。
「……そういえば、今更だけど何でホシノはここにいるんだ?」
「いやー実はさ。どうしてもカケルに会いたくなっちゃって……」
「この前あんなお別れしたばっかなのに……なんか恥ずかしくなってきた」
「うへ、そう言われると私もなんか恥ずかしくなってきたなあ……」
仮面被りたいなあ……被っていい?ダメ?そう……
「……ま、俺に会いたかったのはいいけど、当然みんなには相談してきたんだよな?」
「もちろんだよー。ちゃんとみんなから許可もらってるから平気平気ー」
「ならよかった」
「それでさ、みんなと相談した結果、これからは週一でシャーレに来ようと思うんだよねー」
「へえー……え?」
「カケルもいっぱい仕事があるみたいだし、私が手伝わないとダメそうじゃん」
「いや……ちょ、待ってくれ。週一で来るの?」
「?うん。そのつもりだよ?」
何、それが当たり前ですがみたいな顔してるんだこいつ。
「いや……え?ダメだろ。アビドスを優先……してはいるのか?いやでもダメだろ」
「何で?」
「いや、アビドスからここまで時間もお金もかかるでしょ。俺がそっちいくならまだしも、ホシノがこっちに来るとなると話が違う気がするんだけど?」
「あー、それなら大丈夫。私電車より速く移動できるから」
「なんて???」
なんて???
「そんなことはどうでもよくてさ。私、カケルに相談したいことがあって」
「え、いや待てよ」
「前さ、離れていても心は繋がってるみたいなこと言ってくれたじゃん?」
「待って?」
「だけどさ、私はやっぱり実際に繋がってることを実感できないと怖くてさあ……」
「待っ……なんか空気変わった?」
「だからさ、これから毎晩電話しない?」
「ふーんなるほど。本当に待ってくれ。俺が追いつけてない」
一つずつ冷静に処理しよう。
「まず、電車より速く移動できる件ですが……」
「ですがって言われてもなあ……できるものはできるし」
「なに、神秘による強化……だけじゃないよな」
「うん。踏み込む瞬間に、神秘を凄い勢いで足元から放出するんだよ。そしたらいい感じに吹っ飛ぶ」
「……そっすか」
なんか術式の補助なしで俺とほぼ同じことしてるよこいつ……怖ぁ。
「で、何だっけ。毎晩電話したいんだっけ?」
「うん。三十分……いや、やっぱり一時間……」
「やるにしても一時間までにして欲しい」
「やらないの?」
「ちょっと悩んでる」
「でも、これだったらあんまりカケルの手間を煩わせずに、一緒にいるって実感が得られるし……ダメ、かな」
「いや、ダメなわけないけど……」
「やった、それじゃあ今日からね!」
あれ、なんか気づいたら許諾してた。まあいいか。
ルンルン気分でお仕事をするホシノをかわいいなーと眺めつつ、俺もお仕事をする。
「……そういえばさ、カケルってシャーレの当番制使わないの?」
「あー……何だっけそれ」
「ほら、好きな生徒を指名して、シャーレの仕事を手伝わせることができるっていう……」
「そういえばあったなあ……まあ、多分使わないけど」
「何で?」
「だって、これは俺がやるべき仕事だし……生徒に負担させるのは、なんか違くない?」
「その理屈だと、私がやるのもアウトじゃない?」
「……確かに」
「まあもう手遅れだけどね」
「計ったな……」
「別にそんなんじゃないよ。私は先生の生徒じゃなくて、カケルの友達なんだから問題ないでしょ?」
「……強かだなぁ」
「何その感想」
「……ようやく、ちょっとずつ減ってきたかなあ……」
「あれ、俺たちは仕事始めてから数時間経過してるよな。何でちょっとしか減ってないんだ?」
「うへ、流石に疲れたや。休憩しない?」
「それもそうだな。なんか食べる?」
「甘いやつだったら何でも〜」
じゃあ、適当なチョコレートでも持ってくか。そう考えて台所の方まで向かう。
俺はどうしよう……そうだ、コーヒー飲もう。とびっきり苦いやつ。
「……クンクン……なんかいい匂いがする……」
「お前は犬かよ。コーヒー淹れてるだけ」
「なるほどねえ……え?」
「どうした?」
「……カケルが、コーヒーを……?」
「ああ。前飲んだら結構いけてさ。それ以来お気に入りになってる」
「……知らないうちにカケルが大人の階段を登ってる……」
「コーヒー飲めるから大人ってわけでもないだろ」
出来立てのコーヒーと、しまってあった板チョコを持ってデスクに戻る。
「ほれ」
「ありがと……うわ、本当にコーヒー飲んでる」
「びっくりした?」
「すごい嫌な感じ」
「何でだよ」
「置いてかれてる感じがする……カケル、一口」
「うい」
カップを差し出す。それをホシノが半回転させて、口をつけた。
「……うえ」
「はは、酷い顔。ホシノにはまだ早いかあ」
「うー……まだ飲む」
「え、無理はするなよ?」
「無理じゃないから」
……なんか、幸せだな。ふとそう思った。
「ゔー……」
「あんま無理しないの」
俯いてしまうホシノの手から、カップを貰う。それからまた半回転させて、口をつける。
コーヒーの香りを楽しんで、一口ずつ。口に広がる苦味は、少しすれば違和感がなくなってしまう。俺もチョコレート持ってくればよかったな。
「……カケル」
「どうした?」
「今、回したよね」
「せっかくだからね」
「……」
何やらホシノの顔が赤いが、一体どうしたんだろうね。
それから、二人とも手持ちのものをいただいた後。
「ホシノ、食後の運動しよ」
「えぇ〜……お昼寝しようよー」
「ちょっとだけだから、さ」
「しょうがないなぁ」
ということで、ちょっと外に出て歩き始める。
「今日もいい天気だな」
「そんなに私と話すことない?」
「……あーいや違くて。本当にそう思っただけ」
「カケルってやっぱり、どこかズレてるよね」
「そんなことない」
「いつかの時、箸逆さまに持ってラーメン食べてたことは……」
「ちょっと走ろうか」
「ちょっ、カケルー!?逃げるなー!」
ちょっと走って、目的地まで向かう。
綺麗だった街並みが、進むにつれ少しずつ崩れ始める。
「うし、ここら辺でいいかな……」
「カケル?ここって……」
振り向けば、ちゃんとホシノもいる。多分数kmぐらいは走ったが、息が切れてる様子もない。
「諸事情で捨てられてる廃墟地帯。人は住んでないし、建物も崩れまくってるから、暴れ放題」
「暴れ……どういうこと?」
「ホシノ……俺と戦ってくれない?」
そう聞くと、ホシノの目が大きく開いた。
「な、なんで」
「……実はな……」
一度言葉を区切ってみれば、ホシノの緊張が高まったのがわかる。そして、おもむろに口を開いた。
「……普通に、全力で暴れたいだけ」
「は?」
「最近まともに体動かしてないから、めっちゃ動きたかっただけ」
「……普通にそう言いなよ」
「ごめん。反応が面白かったから」
すごい、怒りがこっちまで伝わってくるぞ。これ俺負けるかも。
「はあ……いいけどさ。どうなったら終わり?」
「どっちかが動けなくなったら。俺はホシノのエネルギーを奪りきれば勝ちだし、ホシノは俺を抑えたりとかしたら勝ち」
「わかった……ちょっと待って」
ホシノはそう言うと、ポケットから髪ゴム、かな?を取り出し、自身の髪を結う。ただのロングだったそれが、ポニーテールになった。
「お待たせ」
「何でポニテ?」
「こっちの方が動きやすいし、髪も掴まれづらいからさ」
「へえ。普段もそれすればいいのに。めっちゃ似合ってるよ」
「うへ、そんな褒めても──」
頬を掻いて、照れるホシノ。隙ありということで、急発進して触れる……寸前、ホシノは跳んで躱した。
「──攻撃は当たらないよ?」
「流石だな」
「ちょっと卑怯じゃない?」
「わかってたくせに」
再びさっきと同じ位置関係。直線、数mの距離がある。たださっきと違って、戦闘時特有の張り詰めた空気が場を満たしている。
「じゃあ、遠慮なくやろうぜ。どうせどっちも傷つかないだろ」
「血気盛んだなあ。私にはついていけないよー」
「嘘つけ。狩人の目ぇしてるぞ」
「……ははっ、確かに。私も久しぶりに全力出すからさ……」
互いに構える。拳を構える俺と、銃を構えるホシノ。
「手加減できないかも」
「上等」
戦闘が始まった。
まずは大きく踏み込んで、近づく。じゃないとこっちは攻撃手段ないしな。
同時に向こうも銃を撃ってくる。普段なら気にせず突っ込むところだが、ホシノの場合はそうもいかない。
ホシノは神秘の操作術を会得している。それ故に、その銃弾一つ一つにもかなりの神秘が込められている。それを受ければダメージは無くとも、衝撃でのけぞって隙を晒すことになるだろう。
だからちゃんと避ける。少し過度なくらい体を横にずらして避けたら、また直進。
距離数cmまで接近して、右手を顔に当てようとする。顔を下げられたので、そこに左手を合わせようとして、銃口がこちらを向いていることに気づく。左手で銃身を掴んで逸らす。その隙に右腕を掴まれた。
俺の左手がホシノの右手にある銃を掴み、ホシノの左手が俺の右腕を掴んでいる。こう着状態。力比べ……うわ、動かない。
「……何で力が同じくらいあるんだよ。馬鹿力すぎ」
「そんなことないよー。神秘が無ければ、私なんてただの高校生さ」
「あっそ」
こうなれば仕方ない。賭けに出よう。足元から呪力放出。二人一緒に空に浮かび上がる。
「空でダンスとか、なかなか気が利くねえ」
「これをダンスと称するのは、キヴォトス広しといえどもお前だけだろう……なっ!」
遠慮なく顔面を狙って右足を蹴り上げる。向こうは俺の腕を離して、重力を利用して回避してきた。
だがまだ俺は銃身を掴んでいる。引っ張って、ホシノを引き寄せ、体に触──
「やっ」
「ったぁっ!?」
顔面パンチを食らった。ちょっと力が抜ける。そしたらホシノが銃を地面に投げつけ、銃を掴んでた俺も同じように地面に叩きつけられる。
地面に大の字。急いで起きあがろうとしたところで、上から降ってきたホシノが俺を馬乗りで押さえつけた。
「はい、捕まえた。私の勝ちだねー」
「……」
全力で抵抗を試みるが、腕はホシノの手で抑えられてるし、どうしようもない。普通に負けた。
「……もう一回」
「ダメ」
「不完全燃焼です。もう一回!」
「ダメー。私が勝ったし、私のお願いきいてもらおうかな」
「は!?おかしいだろ!そういうのは先に言っとくもんでしょ!」
「うへー。負け犬の遠吠えだねー」
「使い方間違ってますよー」
「おお」
「おお、じゃないが?というかいい加減どいてくれない?」
「……」
「ホシノ?」
何で黙って俺の目を見てるんですか?しかもだんだん顔が近くなってない?
「ホシノ!?何するつもり!?」
「……いや、何でもない」
「なんかある時のやつじゃん!怖いよ!」
そう言うと、ホシノは渋々という様子で俺の上から退いてくれた。
「はあ……ちなみに何するつもりだったの?」
「いや、本当に何でもないよ?ただちょっと疲れてぼーっとしてただけだよ……」
本当かなあ。目がやばかった気がするんだけど……気のせいだったか?
「で、お願いの件なんだけどさ」
「え?」
「うん?」
「え?本気で言ってたの?」
「うん。だって私、無理やり付き合わされたも同然じゃん」
「そっちも楽しんでた……」
「カケル」
「なんかお願い聞きたくなってきた気がする」
ホシノの低い声による「カケル」にだいぶ調教されてるな俺。だって怖いもん。
「そんな身構えなくても……ただ一緒にお昼寝しよーってだけだよ」
「ああ、そうなの?じゃあ全然いいや」
「やった。それじゃあ早速帰ろ?」
「はーい」
そういうことで、シャーレに帰還する。
「……そういえば、仕事……」
「急ぐ必要のあるものなら、もう終わらせたから大丈夫。一日ぐらい平気だよ」
「いつのまに。有能すぎない?」
「うへへ、カケルとゆっくりしたかったからねえ……ほら、あそこのソファで寝よ?」
指差された、大きめのソファ。先に寝っ転がると、その上にホシノが乗っかった。
「……ふへぇ……」
「……眠くなってきたな……」
「おやすみぃ……」
「んー……」
襲ってくる眠気に流されるまま、目を閉じる。あったかくて気持ちいいし、ひさしぶりによくねれそうだ……
「……んぁ?」
目が覚めた。えーっと確か……ああそうだ。休憩入れた後、ちょっと体動かして、そんでホシノに流されるまま昼寝したのか。
俺の上ではいまだにホシノが寝てる。ガッツリ抱き付かれてるし、起きれそうにはないな。
差し込む光はオレンジ色。もう夕方か……ってことは大体三、四時間ぐらい寝たか?
「……んぅ……?カケル……?」
「おはよ」
「……あぁ、昼寝してたんだっけ」
「そうだな。ところで俺の上から降りてくれるか?」
「?……あっ、ごめん」
ホシノが俺の上から降りたので、俺もソファから立ち上がる。
「もう夕方かあ」
「そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか?」
「それもそうだね……じゃあ、帰ろっかな」
「はーい……ちなみに、送迎とかは……」
「あれ?私電車より速いって言わなかったっけ?」
「そうだった……」
玄関までは送り届けていく。並んで歩くと、ホシノの背はやっぱり小さいな……
何となく、頭を撫でる。
「うひゃっ!?な、どうしたの!?」
「いや、何となく?」
「何となくで急に撫でられちゃ、こっちの心臓が持たないよ……」
「ごめん。次からは撫でる前に言うわ」
外に出れば、暖かな風が吹いている。夕日が寂しげに輝いている。
「……じゃあ、また夜に」
ホシノがそう言って、一歩踏み出し……すぐに振り向いて俺に抱きついた。
「……甘えん坊め」
「……」
否定しないし。全く……
しばらく抱き合い続けた後、満足したのか離れていった。
「……よし、充電完了」
「?……まあ、満足そうならよかったよ。それじゃあ……」
「うん、また夜にね」
「はい、また夜に」
そして、ホシノはその足に神秘を集中させると……踏み出しと同時に一気に射出、すごい勢いで飛んでいった。わーお。聞いてたけどすごいな。マジでやれるんだ。
夕日に向かっていくホシノ……そういえば、覆面水着団のアレコレの時、夕日に向かって行こうみたいなこと言ってたっけ。うっ、やばい連鎖して厨二病みたいなこと言ったの思い出した。
あんまり思い出したくなかったな……と考えつつ、オフィスに戻ると書類の束……そういえば、仕事終わったわけではないんだった。
まあ、文句言ってもしょうがない。ホシノのおかげで数は減ってるし、頑張りますか。そう気合を入れて、再びデスクワークに挑んだ。
日が完全に落ち、夜がやってきても当然仕事は終わらない。もう少しホシノがいても……いや、流石にだろ。あいつにもあいつの生活があるんだ。
大人って大変だよなあ。先生も、こんな仕事をずっとやってたんだろうか。いつかまた話せたらいいなあ……
ポケットに入れていたスマホが震えた。見れば、ホシノからの電話。
「もしもしー」
『さっきぶりだねー』
「言うて数時間経ってますが」
『あれ、そうだったかな』
「……で、何話すの?今日あったばかりなのに話すこととか無くない?」
『いやいや、仕事ばっかりのカケルとは違って、こっちは色々あるんだよねー』
「やめてくれホシノ。その言葉は俺に効く」
『かまぼこ突風伝*1じゃん。カケルもそういうの読むようになったんだねえ』
「え?何それ」
『え?いや、その漫画の……何だっけ、どこかでそういう台詞があるらしいよ』
「へえー。知らなかった」
『偶然同じ台詞を言っただけってこと……?』
世間話をしながら、仕事をする。
「……またセリカは変なのに引っかかったのか」
『純粋で可愛い後輩だけど、心配になっちゃうよねー……』
「今度俺から詐欺に遭わないための授業でもするか」
『カケルが、授業……!?』
「俺だって、先生になるまでにたくさん勉強したんだよ」
『……カケルは、よく私が変わったって言うけど、本当に変わったのはカケルの方だよね』
「それはそうかもな」
外見だけの話じゃない。自分では変わってないつもりだけど、中身も多分色々変わってるんだろう。なんか嫌だなあ。
『……ところで、カケルはまだ仕事してるの?』
「そうだけど」
『今からまた手伝いに行こうか?』
「いや、いいよ。そっちもそっちの生活があるでしょ」
『じゃあ、明日も……』
「ホシノ」
ちょっと強めに言うと、黙ってしまった。
「気持ちはわかってるつもりだよ。でもさ、俺の居場所はここで、ホシノの居場所はそこだろ」
『……アビドスは、カケルの居場所じゃないの?』
「そういうことじゃない。ホシノには今のアビドスを大切にして欲しいだけなんだよ」
『……』
「関わりあうなとは言わないけど……過度な干渉は、あんまり良くない気がする」
『……わかったよ……』
ホシノのテンションがあからさまに下がった。
「……あー、その……今度、一緒に水族館『行く』……はい」
『忘れちゃダメだよ?』
「忘れるわけないでしょ」
『本当かなあ』
ふと通話時間を見れば、いつの間にか一時間半ぐらい喋っていた。
「もうそろそろ終わりにするか」
『えぇ〜。まだ喋ってようよー』
「ダーメ。終わりです」
『ケチ』
「なんとでも言えばいいさ……じゃあ、終わりね」
『むぅ……』
「また明日の夜にね。おやすみ」
『……おやすみー』
電話を切った。それから、良さげな水族館を探す。
今度の日曜あたりがいいかな。じゃあここがいいかも。明日予約入れよう。大まかに決めたら、仕事に戻る。
さて、仕事をさっさと終わらせよう。今日も徹夜だ。
臨戦ホシノは本当に好き。かっこいいしかわいいし。ポニテもいいよね。最初に見た時の衝撃は本当にもう、ね?
それではみなさん、良いお年を。