呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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ホシノ誕生日おめでとう!!!!!

更にUA数が一万突破&お気に入り数二百突破しました!ありがとう!!!

ついでに昨日初めての誤字報告貰いました!気づいてくれた人ありがとう!!!

じゃ、曇らせるね。


幕間:星に願いを

「二人とも!今日が何の日かわかる!?」

 

「知りませんけど」「急にどうしたんすか?」

 

「二人とも冷たすぎない!?」

 

とある夏の日。私たちはいつものように生徒会室にいた。

 

いろいろな書類作業をする私と、新たに掛け持ちするバイトを探しているカケル。二人で静かに過ごしていたのだが、突然ユメ先輩が勢いよく扉を開けて入ってきた。

 

「今日ってなんかありましたっけ?」

 

「ふっふっふ……ホシノちゃん。今日は何月何日か、わかる?」

 

「七月七日……ああ、七夕ですか」

 

「大正解!と、いうことで……」

 

ユメ先輩が後ろから、じゃーんと小さな紙を出してくる。

 

「はい!これにお願い事を書こう!」

 

「……あー、短冊のつもりですか。だったら笹は?」

 

「カケル。うちにそんなものを買う余裕はないですよ」

 

「確かに……」

 

「だから、代わりにてるてる坊主みたいに窓際に飾ってみない?」

 

「「何で?」」

 

カケルと声が被った。今度は一体何を考えているんですかねこの人は……

 

「七夕って、つまりお星様に「願いが叶いますように」ってお祈りする日でしょ?だったら、お星様から見えやすい場所に置いておけば、笹がなくても許してもらえるんじゃないかなーって」

 

「許す許されるの問題じゃなくないですか?」

 

思わず苦言を呈してしまう。

 

「うっ……ダメ、かな?」

 

……私はユメ先輩のこの目に弱い。自分のためじゃなくて、誰かと一緒にやりたいからこそできる、この目が。

 

「……ダメじゃないですけど」

 

「やったー!カケルくんはどうかな?」

 

「まあいいんじゃないすか?」

 

「やったーーー!!」

 

「ユメ先輩。もう少し落ち着いてくださいよ……」

 

子供のようにはしゃぐユメ先輩。これじゃどっちが先輩なのかわかったもんじゃない。

 

そういうわけで、私たちは擬似的な七夕をすることになった。

 

しかし、いざ願い事を書くとなると、少し悩む部分がある。アビドスが昔のように繁栄することも望んでいるし、ユメ先輩やカケルに幸せになってほしいのもそうだ。私自身、行きたいところや欲しいものもあるし……人の欲望って、終わりがないものだな。

 

うーんと頭を悩ませていると、カケルがペンを置いた。

 

「よし、書き終わった」

 

「え!?早くないですか!?」

 

「俺の願いことなんて、最初から決まってるしな」

 

「カケルくんの願い事……うーん、わからないなあ」

 

「そんな面白いもんじゃないですよ」

 

「うーん……」

 

「話聞いてます?」

 

カケルの願い事か。友達がもっと欲しい……とかかな。

……なんかそれはモヤッとするな……

 

「で、二人はまだなんですか?」

 

「私はまだですね……」

 

「私は……よしっ、今書き終わったよー!」

 

気づけばユメ先輩もペンを置いていた。後決まってないのは私だけか……

 

……願い事というのは、叶わないとわかっているものや、叶えられる自信がないものを何か超常的なものに託して、叶えばいいなと思う気休めに過ぎない。

だからこそ、私の手で実現したいことを願い事にするのは、少し違う気がしていて……

 

よし、決めた。

 

「……私も、書き終わりました」

 

「これで、三人とも書き終わったね!それじゃあ早速窓に飾ろう!」

 

それぞれ手に短冊を持って、窓の方に向かう。

 

「じゃあ、願いを書いた面は窓側に向けましょっか」

 

「え!?何で!?」

 

「だって、お星様にお願いするんでしょ?だったら願い事はお星様に見えないと」

 

「うっ……それはぁ……そうかもだけどお……」

 

カケルがユメ先輩を論破している。割といつもの光景だけど、今日はなんかおかしい気がする。

 

「……もしかしてユメ先輩、私たちの願いを見て、それを叶えるつもりだったんですか?」

 

「ぎくり」

 

「口から擬音が漏れていますよ」

 

どうやら図星だったらしい。ユメ先輩が明後日の方を向きながら、話す。

 

「だ、だって……私、いつも二人に頼りっぱなしだから……先輩として、何かしてあげたいなあって……」

 

「……全く、あなたという人は本当に……」

 

「ひぃん……怒らないでぇ……」

 

「別に、怒ってませんよ」

 

「……え?」

 

ユメ先輩がこっちを向いた。

 

「私は、ユメ先輩が何もできてないなんて思ってません。確かに、人が良すぎるし、頭は悪いし、そのせいでめちゃくちゃ騙されるし、その度に私たちが頑張ってるしで迷惑はかけられていますけど」

 

「ホシノ、言い過ぎ。ユメ先輩が自責の念で溶けてる」

 

「いつもごめんねぇ……」

 

「あっ……いや、言いたいのはそこじゃないんですよ」

 

一度悪いところを口にしたらつい連鎖してしまった。そのせいかユメ先輩がスライムになってるように見える。

 

「……それでも、私はユメ先輩に救われてるんですよ。あなたのその明るさが、私の気持ちも明るくしてくれるんです」

 

「……ホシノちゃん……」

 

「私は毎日貰ってるんですよ……だから、気にする必要はないです」

 

……ここまではっきりと思いを伝えたことはないから、少し恥ずかしいな……つい目を逸らしてしまう。

 

「だから、ユメ先輩がそんな風におも……ユメ先輩!?泣きすぎじゃないですか!?」

 

「うう……だ、だってえ……私、ホシノちゃんみたいな、いい後輩を持てて……嬉しすぎてえ……」

 

両目から滝のように涙を流すユメ先輩。このままだと脱水症を起こすのでは……?

 

「にしたって泣きすぎですよ!?カケル、ハンカチ!」

 

「もう持ってるし拭いてるよ」

 

「仕事が早い……」

 

「カケルくんも、本当にいい後輩でぇ……」

 

ユメ先輩の涙を拭くカケル。それから、彼は少し悩んだように頭を俯かせると、言葉を発する。

 

「……せっかくなんで、今伝えますけど。俺もユメ先輩の明るさにいつも支えられていますよ。だから、少なくとも俺は、あなたに頼りっぱなしです」

 

それを聞いたユメ先輩は、さっきの二倍ぐらい涙を流しているように見える。

 

「……うああああん……二人とも、大好きだよぉ……」

 

「俺も、大好きですよ」

 

「私も、大好きです」

 

私もユメ先輩に近寄って、そして抱きしめる。

ユメ先輩も、同じように抱きしめ返してくれた。

巻き込まれたカケルも、おずおずと抱きしめてくれた。

 

それから、三人でただ抱きしめ合い続けた。

 

 


 

 

それから何分、もしくは何十分経ったのか分からないけれど。たくさん抱きしめて、抱きしめ返されて。すごく満足した私たちは、改めて短冊を窓に飾りつけた。

 

私のピンクの短冊と、カケルの青の短冊。そしてユメ先輩の緑の短冊が、並んで揺れている。

 

そうやって、満足した後はいつも通りの日常に戻った。

 

お金を稼ぐためにバイトをしに行ったり、何か危なそうな交渉に向かおうとしているユメ先輩を止めたり。

 

そうして時間は過ぎていって、いつのまにか夜になっていた。

もうこんな時間かと、そう考えて家に帰ろうとして……電話が鳴った。相手はユメ先輩。

 

「……はい、もしもし」

 

『あっ、ホシノちゃん!?今すぐにアビドス砂漠に来て!』

 

「はあ!?何で急に……」

 

『お願い!場所は……』

 

ユメ先輩から伝えられた場所に急行する。また何かに巻き込まれたのかあの人は……!

 

できる限りの全力を尽くして向かうと、ユメ先輩が手を振って待っていた。

 

「おーい!こっちだよー!」

 

「……ユメ先輩。何してるんですか?」

 

「えへへっ、実はね!ニュース見てたら、今日って流れ星が見えるかもしれないんだって!だから二人と見たいなあって思って……ホシノちゃん?」

 

……

 

「……それならそうと言ってください。また何かに巻き込まれたのかと……はあ」

 

「ご、ごめんね?とにかく急いで来て欲しかったから……」

 

……この人は、本当に……

 

正直結構キレてるが、勘違いしたのは一応私なので、この怒りは抑えることにする。オロオロしているユメ先輩を見ていると、誰かの走ってくる音がした。

 

「ユメ先輩!今度は何が……って、ホシノ?」

 

「どうも」

 

「あっ、カケルくんも来た!」

 

そして同じ説明を受けるカケル。その表情は段々と呆れたものに変わっていく。

 

「……いや、いいですけど……もう紛らわしい言い方しないでください。俺がどれだけ焦ったか」

 

「ひぃん……ご、ごめんね?」

 

「全く……ホシノも同じ感じで?」

 

「はい。全力で走ってきました」

 

「だよなぁ……」

 

それから、カケルは私の右隣に座る。

 

「……何で砂漠で座れるんですか?」

 

「いや、なんか……どうせなら精一杯楽しもうかと」

 

そう言うと、座るだけでは飽き足らず、寝っ転がってしまった。流石に汚いと思うけど……

 

「ほら、ホシノちゃんも一緒に寝っ転がろ?」

 

「ユメ先輩もいつのまに……」

 

左隣を見れば、ユメ先輩も既に寝っ転がっていた。

……この流れで立っているのも変だし、仕方ないか。

 

自分の体を完全に砂漠に預ける。思ったよりも寝心地はいい。

 

三人、川の字で寝っ転がっている。そのまま、しばらく雑談をした。

 

「俺、いつも思ってるんですけど。アビドスって星が見えやすいですよね」

 

「えっ、そうかな……」

 

「俺は元々都市の方にいたんで、すごく新鮮な感じがします」

 

「確かに、都市部だと星があまり見えないとは聞きますね」

 

「そうなんだ……」

 

「まあ、アビドスも都市部だと見えづらいですけど。砂漠の方だったら、綺麗に見えますね」

 

「ほへぇ……」

 

「ユメ先輩何も知らなさすぎません?」

 

 

 

「ねえ、二人は願い事何にしたの?」

 

「え、普通聞きますかそれ?」

 

カケルの呆れた声。

 

「だって気になるし……じゃあ、まずは私から!」

 

「いや、何みんなで言う空気にしてるんですか。俺は言いませんよ?」

 

「私は、これからもずっとこの生活が続きますようにーっていうお願い」

 

「話聞いてください」

 

「……何ですか、それ。そんなの、当たり前じゃないですか」

 

つい、棘のあることを言ってしまった。何でそんなことを言ったんだろう。自責の念に駆られつつ、ユメ先輩を見る。

 

「……違うよ、ホシノちゃん。少なくとも、私にとっては、今のこの生活は……奇跡みたいに、素敵でかけがえのないものなんだよ」

 

「……」

 

いつ見ても、キラキラと輝いている瞳だ。私にはない、宝石みたいな……

 

「じゃあ、次はカケルくん!」

 

「いやだから……はあ。まあ、いいですけど。大体ユメ先輩と同じですよ」

 

「え?そうなの?」

 

「二人がずっと幸せでありますように……それだけです」

 

カケルの方を向くと、その目はただ空を眺めていた。

 

「……二人って、カケル自身は?」

 

「んー……俺としては、二人が一番大事だから。二人が幸せに生きてくれれば、それでいい」

 

「でも、私はカケルくんにも幸せでいて欲しいよ……ホシノちゃんも、そう思うよね?」

 

「そうですね。カケルも幸せじゃなきゃ、私は幸せじゃないです」

 

「えぇ……と言われてもなあ。二人の幸せが、俺の一番の幸せだし……」

 

「えーっと……ということは、私たちが幸せじゃないと、カケルくんは幸せになれなくて……でも、私たちはカケルくんが幸せじゃないと、幸せじゃなくて……あれ?」

 

「……この話は、やめましょっか。次はホシノの願い事だよな」

 

「え。いや、私は……」

 

言うつもりはないんですけど、と続ける前に二人がじっとこちらを見る。

 

「俺、ホシノの願い事聞けないと幸せじゃないかも……」

 

「お願い、ホシノちゃん……」

 

「……あー、もう!わかりましたよ!この時間が永遠に続くように、です!満足ですか!?」

 

私は本当にこの瞳に弱すぎる。半ば自棄になって大声で言ってみれば、カケルの方から笑い声が聞こえた。

 

「……ははっ」

 

「何笑ってるんですか!?」

 

「いや、俺たち似たもの同士かもなって。それだけ」

 

 

 

「あ、流れ星」

 

 

 

夜空を一条の星が切り裂いていく。

 

流れ星が消える前に、願い事を三回唱えると叶うなんて言われてるんだっけ。

 

なら、せっかくだし唱えてみようかとも考えたけど

 

「わあ!一個だけじゃなくて、いっぱい流れてくるよ!」

 

「流星群ってやつですかね。すごく綺麗だ」

 

「……はい、本当に」

 

そんなことができるほど、暇じゃなかった。

 

 


 

 

……あれ、私は何をしていたんだっけ。

 

周りを見れば、ここは市街地で。体が汚れているとことを見るに、戦闘の後で……ああ、そうだ。ユメ先輩を助けにいってたんだ。

 

じゃあ、この苛立ちは何だっけ……そうだ、思い出した。

 

私、ユメ先輩と喧嘩していたんだ。

 

「……ホシノ」

 

声が聞こえて、振り返る。

 

「カケル……」

 

「流石に怒りすぎだろ。ユメ先輩と一回も話さないとか」

 

「……ユメ先輩が、悪いんだよ」

 

「言いたいことはわかるけど、このままってわけにもいかないだろ?」

 

「……それは、そうだけど……」

 

でも、そんな理屈でどうにかなるならそもそも喧嘩なんてしていない。

 

黙ってしまう私を見て、カケルは呆れたようなため息をついた……カケルには、申し訳ないな。

 

「ほら、今から俺ユメ先輩に会いにいくから。伝言とかある?」

 

「……明日、謝りたいって。そう言っておいて」

 

「了解。そんじゃ、また明日」

 

「うん。また明日」

 

そうして、カケルは去っていく。

 

次の瞬間、私は教室の前にいた。

 

……?何か、おかしいような。

 

いや、何もおかしくない。ここを開ければ、ユメ先輩が待ってて、カケルもいて、それで。いつも通りの日常に……

 

扉を開く。中には誰もいなかった。

 

「……ユメ先輩?……カケル?」

 

呼びかけても、返事はない。

 

……きっと、まだ来てないだけなんだ。待っていたら、すぐに来るはずだ。

 

そう信じて、椅子に座って待ち続ける。一秒一秒が、どこまでも長く感じる。

 

一分たった。まだ来ない。十分たった。まだ来ない。一時間たった。まだ来ない。

 

一日たった。誰も来なかった。

 

それから、二人の捜索をし続けた。砂漠を駆けて、聞き込みもして、走って、走って、走って。

 

三十三日たった。ようやく見つけた。

 

「……ユメ先輩……」

 

砂に埋もれかけた、ユメ先輩がいた。肌に触れてみるけど、どこまでも冷たい。

 

所々、火傷みたいな跡がある。でも、それ以外はすごく綺麗だ。安らかな顔で、眠っている。

 

「……カケル……カケルは……」

 

ユメ先輩の盾を背負って、ユメ先輩の体を両手で持ち上げて、歩く。

 

そう遠くない位置に、カケルの銃を見つけた。

 

「星瞬」。カケルのお気に入りの、ただ一つの銃。子供の頃から持ってて、手放したことはないって聞いたことがある。

 

それに触れてみる。当然、冷たい。ひんやりとしている。冷たい。冷たい。冷たい……

 

不意に、温かさを感じた。何かと思えば、涙だった。私の目から、涙が出ていて、それが私の手の甲に落ちていく。

 

それは、生命の温かさだった。

 

「……ぅえっ、あ、」

 

気持ち悪さが込み上げてきて、何もないところに顔を向ける。吐いた。気持ち悪い。熱い。痛い。気持ち悪い。

ぐちゃぐちゃだった。

 

もう何もないのに、吐き続けて。気づけば止まっていた。

 

震える手で、ユメ先輩の体をもう一度触る。さっきより冷たい気がした。

 

 


 

 

ユメ先輩のお墓を作った。

 

それから、誰もいない教室に戻って、椅子に座る。軋む音が大きく聞こえた。

 

そのまま、銃を自分の頭に突きつける。神秘を操作して、頭からそれをなくす。これで死ねる。

 

ユメ先輩、喧嘩しちゃってごめんなさい。カケル、伝言とか、面倒なことやらせてごめん。

すぐそっちに逝くよ。引き金を引こうとして

 

『幸せになってくれ』

 

そんな言葉が、聞こえた気がした。

無理だよ。もう、二人がいないんじゃ……

 

『幸せになってくれ』

 

違う、カケルはそんなこと言っていない。カケルが幸せになって欲しかったのは、私とユメ先輩で……

 

『それでも、お前の幸せを望んだことに変わりはないんだよ』

 

『ホシノ。どうか幸せに』

 

……私は──

 

 


 

 

「──っはあ!、はっ、はぁ……」

 

……夢……か。

 

汗で体がびっしょりだ。心臓のあたりが、冷えたように感じる。

 

手で辺りを探れば、鉄の硬い感触がある。それを拾い上げて、抱き枕のように抱きしめる。

 

「……ユメ先輩……」

 

それから、後もう一つも。もう片方の手で探って、その銃を手に取る。そして同様に抱きしめた。

 

……悪夢を見た時は、こうしていると落ち着く。二人を感じることができるような気がして、落ち着ける気がする。

 

しばらくそうした後、もう一度寝ようかと思ったけど……そしたら、また悪夢を見そうで嫌だ。となれば、夜の見回りでも……

 

「……カケル」

 

ふと、頭に思い浮かんだ、私の大切な人。この前再会した、私の救世主。

 

電話をしようかと思って……でも、寝てるかもしれないって考えたら、電話できなかった。

 

仕方ないから、シャーレまで行って、姿だけ確認することにする。パジャマからいつもの制服に着替えて、外に出た。

 

それから、足に神秘を集中させて、踏み込むと同時に一気に爆発させる。そうすると、すごい勢いで飛ぶことができる。これを何回か繰り返せば、あっという間にシャーレにつく。

 

タンッと地面に降り立つ。何回見ても大きなビルだ。私はセキュリティには引っかからないので、正面から音を立てないように中に入る──

 

「あれ、やっぱホシノか」

 

「!!か、カケル!?」

 

「こんな時間にどうした」

 

正面玄関から普通にカケルが出てきた。仕事着のままで、仮面をつけている……が、すぐにそれを外した。

 

「何で……?」

 

「なーんかホシノの気配だけはわかるんだよな。ずっと一緒にいたからか、その神秘が原因かは知らないけど」

 

「……仕事の邪魔して、ごめん」

 

「え?……ああ、別にいいんだよ。ちょうど休憩したかったし。で、どうした?」

 

「……カケルに、会いたいなって思って……」

 

私は何を言ってるんだ。迷惑にも程があるだろう。

 

「……ふーん?」

 

「でも、もう会えたから、大丈夫──」

 

「ホシノ」

 

カケルが、ふっと笑って、道の一つを指差した。

 

「少し、歩こう」

 

それから、カケルの手が私の手を掴んで、歩き始めた。

 

「……都会は星が少ないって聞いたけど、本当に少ないね」

 

「懐かしいな、それ。七夕の時だっけ?」

 

「うん」

 

「流れ星をみんなで見に行ったんだよな。綺麗だった」

 

「……うん」

 

「そういえば、今夜も流れ星が見えるかもってニュースで言ってたな」

 

「……カケル」

 

「どうした?」

 

歩く足を止める。そしたら、カケルも止まってくれた。

 

「その……悪夢を、見たんだ」

 

「悪夢ね」

 

「最初は、幸せな日常だったんだけど、そのうち二人がいなくなった日のことを見て、それで……」

 

カケルの目を見る。昔と何も変わらない、夜空の色。このまま放っておくと、この空に溶けていってしまいそうだ。

 

私だけの、瞳だったはずなのに。

 

思い出したのはこの前のこと。ゲヘナの風紀委員長が、素顔のカケルといるところを見た。二人とも笑ってて……すごい、楽しそうで。

 

呼吸が速くなる。

 

カケルが恋愛とかしないのは私が一番知っている。だから、あれもあくまで先生と生徒の関係の延長。それだけだ。何も気にする必要はない。そう言い聞かせるたびに、今の私とカケルの関係もそんなものなんじゃないかって、すごく不安になる。

 

心臓が早く動いて、汗も出てくる。

 

嫌だ。そんなのは嫌だ。私は、カケルの特別以上でありたい。でもカケルを否定してまでそんなことを押し付ける勇気は私になくて。

 

だけれど、もたもたしていると、カケルが遠くに行ってしまいそうで。

 

「ぁ、……ぃ、行かないで……」

 

気づけば滴る涙を拭うこともせず、ただ自分の気持ちを吐き出す。

 

「嫌だ……行っちゃやだよ……!私からずっと離れないで、そばに居て、隣で笑ってて欲しい!一緒に何でもないような一日を過ごしたい!なのに、なのに何で私から離れていっちゃうの……何で、」

 

感情がぐちゃぐちゃで、自分でも何を言ってるのかわからなくなってくる。

 

カケルのことが好きだ。カケルには私しか見てほしくない。もっとカケルらしく生きてほしい。傷つかないでほしい。どこにも行かないでほしい。一緒にいたい。

カケルの姿を、声を、匂いを、味を、感触を、心を全身で感じたい。

 

ダメだよ。こんな醜い女の子カケルには似合わない。気持ち悪くて、重くて、面倒臭い。それでも愛してほしい……

 

「ホシノ」

 

グルグル巡る感情と思考。吐き気もして、前も見えない中で……カケルに、抱きしめられた。

 

「ごめん。本当にごめんな……でもどうしても、やらなきゃいけないんだ」

 

「ぁ、うぅ……」

 

「ごめんな。謝ることしかできなくて」

 

見えないけれど、きっと本当に辛そうな顔をしているのかな。

 

きっと私にだけ見せてくれるカケルの姿。仄暗い喜びと罪悪感。

 

「……謝らないでよ……知ってるつもりだから、大丈夫だよ……」

 

「無理しないでくれよ。俺はお前の感情を無視しすぎてるから、我儘言ってもいいんだ」

 

ああ、そんなこと言わないでよ。なんでも叶えてもらいたくなる。

 

カケルが思ってるより、私はダメな人間なんだよ。そんなこと言っちゃダメ……

 

「もっと強く、抱きしめて」

 

「うん」

 

とても強い力で抱きしめられる。

 

「カケルの目を、見せて」

 

「いいよ」

 

カケルが少し屈んでくれる。夜空の瞳。

 

「……カケル。キスしてもいい?」

 

「もちろん。好きに──」

 

言い切る前に、私の唇をカケルに押し付けた。

 

息の限界が来るまで、愛を感じて、愛を渡す。

 

「──はっ、カケル……」

 

好きだ。好きで、大好きで。本当に大好き。

 

でも、カケルは一切動じていない。こういうこと、他の子にもしてるのかな。それは嫌だな。

 

もっと私だけを愛して、私だけを見てほしい。でもやっぱりそれを押し付ける勇気はなくて。

 

もし今流れ星が見えたなら、私は勇気を出せるのかな。

 

「……ねえ、カケル」

 

「うん」

 

「カケルは、私のことどう思ってるの」

 

「俺は、ホシノのことを誰よりも特別に思ってるよ」

 

まるで、告白するような台詞。でも彼はそんなこと考えてなくて、私はきっとただ特別なだけなんだ。

 

それじゃ嫌だ。もっと愛してほしい。もう私から離れないで、ずっと一緒にいてほしい。

 

だけれど、今カケルは誰よりも特別だって、そう言ってくれた。カケルが私を今の一番にしてくれるなら。この腹の奥で燻る呪いも飲み込める。

 

「そっか……わかった」

 

顔を、カケルの胸に埋めた。温かい。生命の温かさ。

 

しばらくまた抱きしめあって、段々と落ち着いてきた。

 

「……ありがとう、カケル。もう大丈夫だよ」

 

そう言って、名残惜しいけど離れる。

 

「もういいのか?」

 

「うん。大丈夫」

 

これ以上は、抑えきれないよ。

 

「そっか、分かった。また辛くなったら、いつでも来てくれよ」

 

柔らかく笑うカケル。あまりに純粋に輝くそれを直視できなくて、空を見上げる。あの日と同じように、流れ星が見えた。

 

「あ、流れ星だ」

 

「ん。本当だ……綺麗だな」

 

流れ星に三回願い事を唱えれば、その願いは叶うらしい。

 

私は魔法の呪文は唱えずに、ただカケルを見ていた。

 

「……どうした?」

 

気づいたカケルが、こっちを見る。

 

「何でもないよ」

 

本当に、何でもないことなんだよ。

 

カケルが綺麗なことなんて、誰よりも知ってるし、いつも変わらないから。

 

?を頭に浮かべていたカケルだったけど、気を取り直すように頭を軽く振ると、私に手を出してくる。

 

「ほら、そろそろ帰るぞ。今日は流石に送ってく」

 

「え、大丈夫だよ。多分私のほうが早いし……」

 

「ギリギリ失礼だからなそれ。それに、俺のほうが早いし」

 

「本当かなあ」

 

「本当本当。乗ってさっさと確かめなよ」

 

「しょうがないなあ……」

 

いつものように軽口を交わせる。大丈夫。これでいい。自分に何度も言い聞かせる。

 

そしてカケルの手を掴む……と、そのまま引っ張られて……

 

「よし」

 

「か、カケル!?これってお姫様抱っこってやつじゃ……」

 

「あ、ちゃんと掴まってないと死ぬかもしれないから、しっかり俺の首に腕を回しといてな」

 

「えっ???」

 

「ほら、早く」

 

言われるままに、カケルの首に腕を回す。

 

「それじゃ、行くかあ」

 

そんな気の抜けた台詞を言って、カケルは飛び始めたけど……実際はそんな穏やかなものじゃなかった。すんごい速度で飛んでって……ジェット機に乗ったらあんな感じなのかな。まあ、壁とかないから風が直接ぶつかってきたんだけど。

 

そんな地獄を数分過ごした後、カケルは私の家の前に着地した。

 

「到着〜。お客様、お空の旅はどうでした?」

 

「……二度と乗りたくないかな」

 

「それはよかった。それではまたのご乗車をお待ちしております」

 

「話聞いてた?」

 

思わず睨みつけてしまう。でもカケルは特に怯まず、ふっと笑うと「冗談だよ」と言った。

 

「それじゃ、おやすみ」

 

「なんか納得いかないけど……まあ、おやすみ」

 

「はい、いい夢を」

 

そう言って、カケルは去っていった。また高速で飛んでいくカケルを見届けてから、家に入る。

 

今はまだこれでいいんだと、そう思いながら。




書けば書くほどカケルくんのことが分からなくなっていく日々。君俺が作り出したキャラだよね?なんで俺は君の人格について考察してるんだよ。

ところで曇らせタグくんもう少し仕事しない?そんなんじゃダメだよ……次シフト入れるのいつ?え?エデン条約編?マジで?遠すぎんだろ……

どこかの幕間でそういう回入れたいけど……カケルくんが強すぎてなあ。俺の制御を離れてくのやめてくれー。

あ、今回でアビドス後の幕間は終わりです。次回からはパヴァーヌ編。とはいえ小休止的な感じになりそう……話数も少なめだし。
ちなみにパヴァーヌ編終わるまでは毎日投稿できそう。

ということで。また明日。
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