さて、俺がシャーレに就任してから数日が経ちました。
現在、俺はとんでもない量の書類に追われています。
あの日、正式に俺がシャーレの所属となった後、七神リンに呼び出されたので向かってみると、厚さがそこらの辞書並みの書類の束が用意されていたのだ。
正直なぜ俺がこれをやらないといけないのか全くわかっていない。抗議したはいいものの、彼女の圧に負けた結果やることになってしまっただけなのだ。物理の勝負ならまず負けないのに……解せぬ。
そういうわけで、ここ数日はその書類の処理に追われ続けていた。正確に言えばそれ以外にもちょくちょく人助け的なことをやってはいたのだが、まあ一日の時間の大半は書類の処理だった。
一応七神リン──一々フルネーム呼びなのもアレなので今度からは親しみを込めてリンちゃんと呼ぼうと思う──から助っ人と称して、俺が不良たちを鎮圧した時、近くにいた少女たちが送られてきたのでまだマシだったのだとは思う。……これがマシな方なのヤバいな。助っ人なしじゃ俺ガチで過労死するぞ?
まあとにかくそういうわけで、現在も書類の処理をしていたのだが、突然アロナが話しかけてきた。
何やら、シャーレの評判が広がっているらしい。特段大したことをした覚えもないのだが、まあ評判というものはコツコツ積み上げていくものなのでそういうものなのだろう。
で、評判が広がったおかげで何人かの生徒たちから助けを求める手紙が来てるらしいのだが、その中に不穏なものがあるらしいのだ。
手紙の内容を要約すると、アビドスという場所の学校が地元の暴力組織のせいでピンチなので助けてくださいというものだった。
「……アビドスか……」
『知ってるんですか?』
「まあね、一応二年前所属してたから」
『そうなんですか!?てっきり外部から来てたのかと……』
「まあ、この話はこれぐらいにしとこうか」
話を戻してアビドスに行くかどうかだが……俺の素直な心境としては行きたくない一択ではある。あそこは俺にとって過去の場所で、もう関わりたくないんだ。何で一番最初に助けを求めてくるところがあそこなんだよ。まあ、あの惨状を考えると納得しかない話ではあるけど……
話が逸れたが、つまり俺は行きたくないと考えている。だけどそれはあくまで俺個人の感情だ。俺は先生の立場である。先生は困ってる生徒を見捨てるような人であってはならない。
長々と語ったが、要するに行きたくないけど行かなきゃいけないので行くということだ。書類はまだそれなりの量があるが……まあ暇な時に向こうでやればいいだろう。
「早速準備するか」
『すぐに出発ですか!?大人みたいな行動力です!』
「そんな大層なもんじゃないよ」
そういうことで、俺たちはアビドスへ向かうことになった。
迷路のような街並みをスイスイと歩いていく。
アビドスに通ってたのは二年も前のことだったから、道を忘れてたりそもそも道が変わってることを危惧してたけど、実際来てみると何にも変わってない。嬉しいような悲しいような……
まあとにかく、順調にアビドス高等学校までの道のりを歩んでいた。とはいえ道順がわかってても時間が短縮されてる訳では無いので暇だったのだが、その隙間時間をアロナは質問することで埋めてくれた。とても有能なAIである。
『先生は、何でお面をつけているんですか?』
「それはねぇ……何と言うか、ケジメ?」
『ケジメ?どういうことですか?』
「本当の俺と先生の切り替えスイッチと言うか……まあとにかく先生としての活動をする時につけるんだよね……あとは身バレ防止かな。どうしても、正体がバレたくない人が一人いて……昔から何もかも変わったけど、顔だけはなんでか変わってないからさ」
『へぇー……そうなんですか。ちなみに何でその仮面なんですか?』
「そこらへんに売ってた」
まあそんな感じに暇を潰しつつ、学校に向かっていた。
しばらくして、学校に着いた。
あの頃から……一応所々は変わっている気がしなくもない我が母校。何となく懐かしい気分になるが……
「……ん?誰?」
少し感傷に浸っていると、後ろから声をかけられた。
振り返ると、ロードバイクに乗った女の子。見たことないけど……もしかして、後輩ってやつかな?
「あー、こんにちは。俺はシャーレの先生をやってる者なんだけど」
「!あなたが噂の……?」
「そうだよ。これ身分証」
そう言って首にかけていたそれを向ける。まあ顔写真だけは仮面のまま撮ったから身分証としてダメだけど、それ以外はちゃんとしてるから信用してもらえるはず……だよな?
ちなみに今の俺の格好はちゃんとしたワイシャツに、スーツっぽい黒の長ズボンを着ているという、いかにも大人っぽい……というか先生っぽい服装である。さすがに私服でシャーレの業務を行うわけにもいかないからな。
……まあ、実は色々と私服っぽいんだけど。スーツのやつは上の方もあったけど着てきてないし、ワイシャツも袖まくってるし、それにそもそも仮面つけてるし。まあ、ネクタイつけたらそれっぽくなったから多分大丈夫でしょ……多分……
「……ん、本当だ。シャーレの先生ってこんな怪しい格好してるんだ」
「諸事情ありまして……」
「そっか……それにしてもよく迷わずにこれたね。アビドス、初めてでしょ?」
「まあ、運が良かったんだと思う。とりあえず、手紙を送ってきてくれた奥空アヤネさんのところに行きたいんだけれど」
「わかった。案内する」
そういうわけで、目の前の……そういえば名前知らないな。
「お名前聞いてもいい?」
「ん、砂狼シロコ」
「シロコか。じゃあ案内よろしく」
「任せて」
そういうことでシロコについて行く。
……そういえば、俺のこと見ても何の反応もなかったな。あの狐のお面をつけた……ワカモだったっけ。あの子が実はアビドスと仲良くて、何かしら俺の情報を伝えてることを警戒してたけど……この分なら大丈夫そうだな。まあそもそもあの子百鬼夜行出身らしいし、特に関係なかったんだろう。じゃあ何であの時逃げたの?
ちょっと歩いた後、一つの教室の中に入る。
中には三人の生徒たちがいた。この子たちが俺の後に入ってきた後輩かぁ……シロコも合わせると、四人の後輩。あの頃から二人も増えたのか……なんて思ってたんだが。
あれ、ホシノは?
「ただいま」
「おかえり、シロコせんぱ……?……!?ふ、不審者!?」
「シロコちゃん!今すぐ離れてください!」
「ちょ待って待って待って!不審者じゃないから!撃たないでください!」
姿を見せただけなのに即座に銃を構えられた。何故だ、ただイかれた目をした鳥の仮面してるだけ……うん、怪しいな。
慌てて身分証を見せながら、挨拶する。
「えーっと……はじめまして。俺はシャーレで先生をやってる者です。今回は要請を受けて諸々の援助をしに来ました」
「……え、ええっ!?まさか!?」
「連邦捜査部シャーレの先生!?」
「わあ⭐︎支援要請が受理されたのですね!良かったですね、アヤネちゃん!」
「はい!」
……うーむ、黒髪の猫っぽい子からまだ敵意っぽいものを感じるな。他二人は割と受け入れてくれてるけど……まあ、しょうがないか。少なくとも昔だったらまだ銃向けられてただろうし、それよりかはマシだと捉えよう。
「あ、早くホシノ先輩にも知らせてあげないと……あれ?ホシノ先輩は?」
「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる」
……隣の部屋で寝てる?ホシノってそんなことする奴じゃなくね?とか考えながら改めてあいつについて考える。
ホシノ。俺が顔バレしたく無いやつ。まあ、顔バレしたく無い原因はこっちにあるんだけど。二年の時を経て、どんな風に変わったのだろうか。
突然ダダダダダッと銃声がした。
何事かと思って外を見れば、何やらヘルメットを被った集団が……あれ?あいつらカタカタヘルメット団じゃね?二年前からほとんど何も変わって無いな。
まさか地元の暴力組織とやらが二年前まんまだとは……と考えつつ
先生とは、あくまで生徒を支える存在であってあんまりでしゃばるものでは無い……と教わっている。とりあえずは後輩の実力がいかほどのものか見ておくことにしよう。
「ホシノ先輩を連れてきたよ!先輩!寝ぼけてないで、起きて!」
……どうやらホシノがやってきたらしい。心臓の鼓動が速くなり始める。少し振り返るのが怖いが、あの頃とは本当に何もかも違うんだ。バレるわけない……そう自分に言い聞かせ、振り返る。
「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよー」
誰???
いや、……ま、いや、えぇ?
ホシノ……うん、ホシノのはずだ。髪色も、目の色も確実にホシノだし、身長も明らかにホシノだ。
ただ、こう……雰囲気が……なんか、ユメ先輩っぽいような……気のせいか?
えぇ……マジでホシノ?……マジで?
めちゃくちゃ動揺して危うく声が出そうになったが、何とか気合いで抑える。別人になりすぎだろ。俺も人のこと言えないけど。
「ホシノ先輩!ヘルメット団が再び襲撃を!こちらの方はシャーレの先生です」
「あー、はじめまして」
「ありゃ〜そりゃ大変だね……あ、先生?よろしくー、むにゃ」
やっばいめちゃくちゃ調子が狂う。本当に誰だこいつ。脳みそすり替えられてたりする?
……一度それは置いといて、今絶対に目と目があったし、ついでに会話もしたけどバレてる様子はないな。この距離でこれなら少なくとも見た目でバレることはないだろう。
というか、一度冷静になってホシノをみると、明らかにこちらを警戒しているな。やっぱこいつはホシノだ。この二年間で何があったか知らないが……
いや、違うか。
こいつはユメ先輩のことまだ引きずってるんだ。
「先生はサポートをお願いします!」
「……ああ、わかった」
窓から敵影を見る。
今は、懺悔をする時間ではない。
そう自分に言い聞かせて、ただみんなをサポートすることに集中した。
さて、そんなこんなでヘルメット団と戦闘を行ったわけだが、一言で言うと圧勝だった。
後輩たちがみんな強かったし、後はアロナのサポートがすごかったな。指揮初心者の俺でもどうするのが最も有効打になるかを理解できて指示を出せた。というか俺必要だったかこれ?
そんな感じに心の中では己の無価値さに悶えていたが、一方現実で俺はアビドスのあれやこれやに関して説明を受けていた。
最初はアビドス対策委員会みんなの自己紹介から始まりアビドスの現状……物資も無く人も来ず、細々と生き抜いているということについて説明された。うん、俺がいた頃とほぼ変わっていないな!
強いて言えば借金の話題が出なかったことが気になるが、まあ本人たちが言わないなら大丈夫なのだろうと思うことにする。とにかく、知ってる情報だったので半分くらい聞き流していたのだが、一点だけ聞き流したいのに聞き流せない部分があった。
ホシノの言葉である。
本当に変わりすぎてて頭が狂いそうになる。というかいまだに同一人物なのかどうか疑えるレベルで発言全てがホシノらしくない。
多分ユメ先輩を参考にしているんだろうが、聞いてて解釈違い的な何かで胸が苦しくなるし、正直今すぐにでも帰りたいがどうにか踏みとどまっている状態だった。
頭の痛みと吐き気に苛まれながら話に参加していると、ホシノが何やら計画があると言った。
「えっ!?ホシノ先輩が!?」
「うそっ……!?」
その発言に対してアビドス高校一年ズのセリカとアヤネがショックを受けている。が、対して二年ズのシロコとノノミは特に反応なし。
こうなったのは実は割と最近なのかな……
「いやぁ〜その反応はいくら私でも、ちょーっと傷ついちゃうかなー。おじさんだって、たまにはちゃんとやるのさー」
おじさんって何だよ。お前そんなこと言う奴じゃなかったろ。クソ、気を抜くと言葉の外で色々語っちゃいそうだ。平常心平常心……
本当に中身が入れ替わってるんじゃないかと懸念しつつ、計画の内容を聞く。
要約すると、このままヘルメット団と争っては休んでのサイクルをし続けてもアレなので、一番消耗してるだろう今のうちに奴らの前哨基地を襲撃しようというもの。
うん、さっきまで完全に別人だったのに急に二年前の片鱗を出してくるのはやめてくれ。そろそろ温度差でヒートショック起こして死ぬぞ俺。
俺の個人的な生死はさておき普通にいい策だとは思うし、後輩たちも特に異論は無さそうということで早速出発することになった。
今回も俺自身は戦闘をせずにサポートに務める。
手際良くヘルメット団を処理する彼女たちに指示を出しつつ、改めてホシノについて考える。
戦闘中、前に出てヘイトを一身に受けるその戦い方。相変わらず
よく観察すれば、後輩たちにダメージがいかないように立ち位置を頻繁に変えて戦っている。攻めるのでは無く、守る戦い方……そうなった原因はやはりユメ先輩を失ったことだろう。
もう失わないために戦うその姿を見て、苦しくなる。だけれど、俺はその目をホシノに向け続けた。
これは、俺の罪なのだから。
ちなみに、主人公の術式は原作にも出てたやつ。めっちゃ魔改造してるのでわからないかもしれないけど、ぜひ推理してみてね。