呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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いやー、これでパヴァーヌ1章も終わりですね……え???


18. 最高の物語

……さて、どこから話したものか……

 

とりあえず、作戦終了後からの話をしよう。俺は逃げた後、ヴェリタスの部室でみんなが帰ってくるのを待っていた。そして彼女たちは無事に帰ってきたので、「鏡」をヴェリタスに渡し、後はG.Bibleのセキュリティ解除まで待つことになった。

 

それで一度部室に戻り、「鏡」を取りに行った時のこと……何やら、美甘ネルが帰ってきていて、めちゃくちゃピンチだったらしいのだが、ユズの活躍で難を逃れたのだとか。まあ、そのことを話したり、ゲームをしたりして時間を潰していた。

 

そして数時間後、ヴェリタスの部員の一人、マキがいつでも見れる状態のG.Bibleを持ってきてくれた。

 

「遅れてごめんねー。「鏡」をセミナーに返すことになって、その件でちょっとバタバタしちゃって」

 

「ええっ、「鏡」返しちゃったの!?」

 

「実は、ヒマリ先輩は最初から全部知ってたみたい。それくらいあげてもいいから、これからはあんまり無理しないでって。えへへ」

 

モモイが、G.Bibleの入った自身のゲーム機を受け取る。

 

「あ、それでね。G.Bibleを開いてた時にこの、〈Key〉っていうフォルダを見つけたの」

 

ん?

 

「何これ……ケイ、って読むのかな?」

 

いやどう読んでもキーだろ。モモイ、嘘だと言ってくれ。

 

何やらこのファイルはすごく複雑すぎて、解析するのは無理か、できたとしてもものすごく時間がかかりそうなんだと。

 

「……できるなら、そのファイルは消して欲しいんだけど……」

 

「えー!?何で?」

 

「いや、すっごく嫌な予感がしてね……でも、うーん」

 

多分……というか、ほぼ間違いなくあのコンピュータのデータだろう。正直すぐに消して欲しいが……

 

「解析、できないことはないの?」

 

「うーん。どうだろ。ヒマリ先輩の助力があれば、もしかしたらって感じ?」

 

うーん。うーーーん……

 

もしかしたら、何か重要な情報を手に入れられるかもという感情と、即刻削除すべきだという感情がせめぎ合っている。

 

『アリスはアリスが何者かを知りたいです』

 

……

 

「一つだけお願い。絶対そのファイルは外部に流出させないで。ハッキングするにしても、セキュリティは万全の状態でして欲しい」

 

「?わかった」

 

はあ……我ながら甘すぎる。

 

ちゃんと渡したからねー、と去っていくマキを見送った。そしたらいよいよ、G.Bibleを見る時だ。

 

改めてG.Bibleについておさらいすると、一言で言えば「最高のゲームを作る方法」が入ったとされるもの。最後にこれを見たあるカリスマ開発者によれば、「ゲーム開発における秘技。みんなが知っているようで、誰も知らなかった奇跡」とのこと。

 

これがあれば、最高のゲームを作れるはず。そう信じて、ここまで頑張ってきた。G.Bibleに記された方法を使って、最高のゲームを作れれば、ゲーム開発部は存続となる。

 

「もし失敗したら……ユズは寮に戻って、会いたくもないやつらに会わなきゃいけなくなる。それに、アリスは……」

 

「最悪の時は、俺が全員匿うよ」

 

「うん、考えたくはないけど……その時は、お願いします」

 

「……?先生と一緒なのは、とっても嬉しいのですが……アリスはもうここに……みんなと一緒には、いられないのですか?」

 

不安そうな顔をするアリスの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「大丈夫だよ。みんなを信じて」

 

「……はい!アリスは、みんなのことをいつも信じています!」

 

「……うん、大丈夫!私たちは絶対に、最高のゲームを作るんだから!」

 

意気込みは十分。それじゃあ、G.Bibleを見よう。アリスが、G.Bibleを開くボタンを押した。

 

………………率直に言おう。G.Bibleに載っていた「最高のゲームを作る方法」とは、「ゲームを愛しなさい」であった。

 

本当にそれだけ。それ以上もなく、それ以下もなく。ただそれだけだった。

 

まあ、言わんとすることはわかる。わかるが……今のゲーム開発部に必要だったのは、そんな根性論じゃなくてちゃんとした理論だった。

 

そして、現在に至る。よく状況を理解していないアリスを除き、全員意気消沈してしまっており、控えめに言って地獄の雰囲気だった。

 

「今のみんなの姿はまるで正気がログアウトしたみたい」とは、この地獄を見たアリスのコメント。言い得て妙だな。

 

「……で、諦めちゃうの?」

 

「……私たちは……G.Bible無しじゃ、いいゲームは作れないです……」

 

俯いたまま顔を上げないミドリ。仕方ない、発破をかけるか……そう思って言葉をかけようとして

 

「……いいえ。否定します」

 

アリスが、ハッキリとした声で答えた。

 

「アリスは「テイルズ・サガ・クロニクル」をやるたびに思います。あのゲームは、面白いです」

 

揺るぎない目が、みんなのことを見つめる。

 

「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが……このゲームを、どれだけ愛しているのかを」

 

声のトーンはいつもと変わらないけど、そこには力強さがある。

 

「そんな、たくさんの想いが込められたあの世界で旅をすると……胸が、高鳴ります」

 

あの時、アリスを形作った原点は

 

「仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚は……夢を見るというのが、どういうことなのか……その感覚を、アリスに教えてくれました」

 

今も彼女の憧憬であり、思い出なのだと

 

「だから、待望のエンディングに近づくほどに、あんなに苦しんだのに、思ってしまうのです……この夢が、覚めなければいいのに……と」

 

その言葉が、思いが、目の輝きや体の動きまで、そう語る。

 

「アリスは、そう思うのです」

 

アリスにとっての本当の神ゲーは、世の中で言われているような名作じゃなくて、自分に世界を見せてくれた「テイルズ・サガ・クロニクル」なんだ。

 

気づけば、みんなアリスを見ていた。

 

「……作ろう」

 

ユズが言う。

 

「テイルズ・サガ・クロニクル」は、世間的に見ればクソゲーだったかもしれない。でも、それは確かに二人の少女の心を惹きつけ、一人の少女に夢を与えたんだ。

 

それがユズには嬉しかった。心の通じ合う仲間たちと一緒にゲームを作って、それを面白いって言ってもらえる……そんな夢を叶えてもらったから。

 

でも、夢を終わらせるのはまだ早い。

 

「これ以上は、欲張りかもだけど。わたしはこの夢が……この先も、終わらないでほしい」

 

その心はきっと、みんな同じ。

 

「……うん、よし!ねえ、今からミレニアムプライスまで、時間どれくらい残ってる?」

 

「6日と4時間38分です」

 

「……それだけあれば十分。さあ、ゲーム開発部一同!」

 

モモイが声を張り上げた。

 

「「テイルズ・サガ・クロニクル2」の開発、始めよう!!」

 

みんな、笑顔で頷いた。

 

 


 

 

それから、みんなはとにかく頑張った。まさに寝る間も惜しむという風で、一日中パソコンと睨めっこしてるのが普通だった。

 

俺は飲み物とかご飯とかを買ってきたり、テストプレイをしたりなど、サポートに徹していた。何もできないのは悔しいが……何かできたとしても、きっと何もしない方がよかった。

 

これは、ゲーム開発部のゲームなんだから。

 

そして6日の猶予はあっという間に過ぎていき……時間ギリギリで完成させ、参加登録をすることができた。

 

これで、後は3日後の発表を待つだけなのだが……モモイが、先にユーザーの反応を見たいとのことで、web版をアップロードしないかと提案した。

 

それに対し少し反対は出たが、また低評価がつけられることは怖いけれど、作品は見られたり、遊ばれたりしてこそ完成される。というユズの言葉で、アップロードされることになった。

 

「もし前みたいに、低評価コメントのオンパレードになったとしても……全力で頑張ったから。それに……みんなが一緒だから、きっと受け止められる。私はもう、大丈夫」

 

そう語るユズは、実にいい笑顔をしていた。

 

「大丈夫だよ。少なくとも低評価だけなことはない。テストプレイした俺が言うんだから間違いない」

 

「いや、そうですけど……でも怖いのはどうしようも……」

 

「それじゃあ今すぐアップロードー!」

 

「ああっ!ま、待って!心の準備が!」

 

ミドリの制止も虚しく、ポチッと押されたエンターキーにより「テイルズ・サガ・クロニクル2」はアップロードされた。

 

とはいえプレイされて感想が貰えるまでそれなりに時間はかかるはずなので、それまでは休憩……

 

「……しなくていいの?」

 

「アリスは待機します」

 

「わ、私も……」

 

「私も、ドキドキしてるので」

 

「うぅ……私も緊張で寝れそうにないし、一緒に……」

 

……

 

「……つくづくクリエイターだね」

 

「?」

 

「いや、みんな待機するなら俺も待機するよ」

 

ということで、一つのパソコン前に四人がぎゅうぎゅうになっている(俺は後方で立ってる)絵面が完成した。

 

そのうち、コメントが来たらしい。内容は、前回の結果を揶揄した批判的な……

 

「マキに連絡。該当IPアドレスの方角に対して、最大出力のビーム砲を食らわせてきます」

 

「そ、それはダメ!」

 

「ダメだよアリス。俺がやってくるからアリスは落ち着いてな」

 

「先生も落ち着いてください!?」

 

生徒を悲しませる奴は殺す。でも誹謗中傷した相手も生徒なのでは?どうしよう……

 

とはいえ、批判が多かったのは最初だけで。段々色んな人のコメントも増えていき、ダウンロード数もすごい勢いで伸びていく。この短時間でニュースにもなったらしく、良いか悪いかは置いといて、キヴォトス中で注目され始めた。

 

見ているだけの俺も緊張するのに、本人たちの緊張は計り知れないな……と思っていると、突然爆発音がした。

 

「も、モモイの心臓が、爆発しちゃったんですか?」

 

「ち、違う!私の心臓じゃない!」

 

「みんな、一度ここで待機しといて」

 

部室の正面に出て、何が起きたかを確認──っと、正面にも生徒が!?

 

何か行動を起こされる前に、手で触れて無力化する。何事だ……と考えていると、ミドリから声をかけられる。

 

「先生!さっきの音、カリン先輩の46mm砲です!」

 

「!?」

 

何故「C&C」が……?……もしかして「鏡」の件って許されてなかったりする?

 

「……とにかく、ここで戦ったら部室が壊れる。急いで逃げよう、みんなを呼んでくれ!」

 

「は、はい!」

 

ということで急遽逃亡戦が始まった。ユズによれば、生徒会のメンバーも攻撃してきてるらしく、「鏡」の件の報復説が濃くなってきた……だとしたら、なんですぐ攻撃してこなかったんだ?

 

いや、考えてる場合でもないか。とにかく今は逃げること優先……というわけでひたすらに逃げ続け、そのうち校舎にたどり着いた。

 

現在位置は校舎の……何階だ?とにかく上階。追っ手が来る様子はない。

 

最初に逃げ始めてから、かなりの時間が経過している。とはいえ、そのうちほとぼりも冷めるはず……冷めるよな?いつまでも逃亡生活は送りたくない。

 

原因が「鏡」の件だったら……いや、でももう大丈夫か。ゲームは作り終わってるし、参加登録もした。後は痛い目を見ない程度に逃げればいいか。

 

「よし、ひとまずこのまま隠れて──」

 

「逃げ切れるとでも思ったか?」

 

聞いたことのない声。瞬間、ミドリに向かって飛来した銃弾を手で掴み取る。

 

「……なるほど、噂通り強そうじゃねえか。先生、だったか」

 

「そういうそっちも、なかなか強そうだね。はじめまして、美甘ネル」

 

「へえ、あたしのこと知ってんのか……まあそりゃそうか」

 

やって来たのは、美甘ネル。「C&C」の部長にして、ミレニアム最強の称号を与えられた生徒。

 

確かに、今まで出会ってきた上澄面子と比べても遜色ない神秘だな。やっぱ三大学園における最強格は異常だ。一番の異常はそいつらと戦っても勝てるであろうホシノだけど。

 

「できるなら、用件を述べてくれると助かるんだけど」

 

「そうだな……色々ありはするが、まずはそこのでこ出してるあんた」

 

そう言って、ネルはユズを指差すと、「鏡」の一件の時、騙されたことに怒った後称賛した。

 

「次は、そっちのバカみたいにデケぇ武器持ってるあんた」

 

「?」

 

「アリスのことだよ」

 

「アリスですか?」

 

「そう、てめぇに用がある。「C&C」に一発食らわせてくれたらしいじゃねえか……?ちっと面貸せや」

 

俺の真ん前で喧嘩の申し込みするとか……度胸あるな。

 

「あ、アリス、このパターンは知っています。「私にあんなことをしたのは、あなたが初めてよ……っ」……告白イベントですね。チビメイド様はアリスに惚れていると。スチル獲得です」

 

「、」

 

「ふ、ふっざけんなこの野郎っ!ってか、誰がチビメイド様だ!?ぶっ殺されてぇのか!?」

 

「んぐふっ……ふ、」

 

「てめぇも何笑ってんだ!?」

 

いや、笑うだろこれは。舌をまた噛みちぎったんだけど。

 

「はぁ……まあ良い。後で先生は全力でボコすが、今はてめぇの方だ」

 

「え?」

 

なんか今とんでもないこと言ってなかった?……まあ、一度置いておこう。

 

ネルの話では、今回やって来たのは「C&C」に被害を与えた復讐じゃなければ、「鏡」の件の報復でもなく……純粋に、俺やアリスに興味が湧いたかららしい。

 

「まずはてめぇからだ、デカ武器。あんたら二人のうち、どっちかがあたしに勝てりゃ大人しく引き下がってやる」

 

……頭のいいバトルジャンキーだな。まあ、そういうことなら仕方がない。

 

「アリス、いけるか?」

 

「……大丈夫です。一騎打ちのイベント戦闘……みたいなものですね。理解しました」

 

「イベ……なんつった?」

 

「気にしなくていいよ。要はやるってことだから。俺も手出しはしない。ただ、戦闘がやり過ぎだと判断したら、遠慮なく介入する」

 

「わーったよ。やり過ぎはしねえ」

 

「よし。それじゃあ二人とも準備はいいな……始め!」

 

俺の言葉を合図に、まずはアリスが先手を取る。

 

「魔力充電100%……!」

 

「ちっ、これは……!」

 

「光よ!!」

 

フルパワーのレールガン。その砲撃が、ネルに直撃する。

 

大爆発と轟音。近隣の方々にはご迷惑をおかけします。

 

爆煙で見え辛いが、向こうの壁に穴が空いている。流石の威力だが……まあ、倒せてはないだろうな。

 

「……やったか?」

 

ああもう100%やれてない。それはフラグだと最近学んだんだよ。

 

予想通り、煙を突っ切って来た銃弾がアリスに当たる。

 

「うぁっ!?」

 

「確かに、並大抵の火力じゃねぇが……ただ、それだけだ」

 

煙の向こうから平然とネルが歩いてくる。多少傷付いてはいるが、動くのに支障は無さそうだ。

 

再びレールガンを構えるアリス。だが、それは隙がデカすぎる。高速でアリスの目の前まで迫ったネルが、アリスを蹴っ飛ばす。

 

その反動で宙に浮かび、銃を乱射するネル。アリスはその銃撃を、レールガンを盾にすることで凌いでいる。

 

アリスのレールガンはどこまでいってもロマン砲なのだ。一度撃つともう一度撃てるまでそれなりの時間が必要だし、トリガーを引いてから弾が出るまで少しの硬直がある。おまけに強すぎる火力のせいで至近距離では撃てないときた。

 

更に言えば、近距離戦はネルの得意とするところ。素早い身のこなしや、高い身体能力で常に体を動かし、的を絞らせない。

 

つまり、現在アリスは超ピンチということだ。

 

「思った以上にがっかりだったな。さっさと終わらせて、先生の方と──」

 

「……やあっ!」

 

「ぐっ!」

 

だが、アリスもまたレールガンをぶん回すとかいうとんでも技で、近寄り過ぎていたネルをぶっ飛ばす。140kgのバットを受けたネルは勢いよく吹っ飛ぶが、その足を壁にめり込ませて勢いを減衰した。

 

「……はっ、悪くねぇ判断だ……けどな」

 

一度学んだネルは、レールガンが届く範囲のギリギリで動き始める。

 

「それはもう通じねえぞ!」

 

あれだと、レールガンを振っても避けられるだろう。そしてその隙に大ダメージを受けて敗北……なんてことになりかねない。

 

得意な遠距離戦には持ち込めず、近距離戦では勝ち目なし。再び形成がネルの方に傾く。

 

この盤面を、打開するためには……

 

レールガンの、駆動音がした。

 

「行きます!」

 

「だから無理だって……ん?」

 

「……!まずい……!」

 

盤面を覆すために、アリスは文字通りその盤を破壊しようとしている……床を破壊することで。

 

だが、床に撃てば当然アリスにも爆発のダメージが入る。そしてアリスは耐久力が並より高いだけで、レールガンの爆発に耐えられる体では──

 

止めようと動き出したが、それよりも早くアリスがトリガーを引いた。

 

「光よ!!」

 

目の前で再び大爆発。アリスはどうなった!?

 

崩れた床から下の階を見渡す。煙で見えづらい……!

 

「……、い、めっちゃ体吹っ飛んでる!?」

 

「に、肉体損傷48%……後退を望みます!」

 

ちょっと言葉にし難い姿になってしまったアリス。アレってかなりまずくないか?でも普通に喋れてるし……

 

いや、今はとりあえずアリスを運ぼう。ひとまず保健室……

 

 


 

 

さて、あれから一晩が経過した。アリスは無事に体が完全に治り、今はゲーム開発部の部室でドキドキしているところだろうか。

 

推測の形なのは、俺がその場にいないからだ。現在、俺はミレニアムからちょっと離れた広めの廃墟地帯に来ている。

 

「さて……まあ、用事はわかってるけど。一応聞いておこうか?」

 

正面、少し距離が離れた場所に彼女はいる。

 

「先生。あたしと戦え」

 

それはアリスの体も回復して、部室に戻った時。一つの手紙が扉の前に置かれていた。

 

書かれていたのは座標と、「先生。ここで全力で戦おう」という粗雑な字。大体事情を察した俺は、仕方ないから一人抜け出してここにやって来たというわけだ。

 

「昨日ので満足できなかったのか?」

 

「まあ、悪かなかったが……その実、一番楽しみにしてたのはあんたの方だからな」

 

「バトルジャンキーめ」

 

軽く準備運動をして、戦闘態勢を取る。

 

「そっちには悪いけど……早めに終わらせようか」

 

「はっ、面白え。やれるもんならやってみろ!」

 

戦闘が、始まった。

 

まずはいつものように直線を全力で飛び、顔に手を触れる──ところで、上半身を反らされた。

 

「げっ」

 

「ははっ、聞いてた通り、めっちゃ速えな!」

 

一度通り過ぎて、振り返る……と同時に大量の銃弾。

 

まあ気にするほどでもないと、再び足に力を入れたところで……懐に、ネルが潜り込んできた。

 

「銃じゃダメなら、こいつはどうだ!」

 

「っ、と」

 

そのまま腹パンされて、少し後方に吹っ飛ぶが、呪力放出で勢いを減衰、逆に近づいて腕を掴む。

 

「捕まえた」

 

「っ、ぉおらあっ!」

 

「うお!?」

 

すると、ネルがその腕を地面に叩きつける、それと連動するように俺の体も叩きつけられた。衝撃で腕を離してしまう。

 

その隙に俺から思いっきり離れたネル。体の調子を確かめるように、全身動かしている。

 

「ふぅ……今のが得体の知れねえ力ってやつか。すげえ脱力感があるな……」

 

「降参してもいいよ?」

 

「ほざけ!勝負は始まったばっかだろ!」

 

言いながら、ネルは再び俺に突っ込んでくる。俺の術式を体験してなお近距離戦に持ち込むとは、なかなかの胆力だ。

 

まず、右足の蹴り。左腕で止め、右手で触れる……直前、ネルが跳んだ。そして俺の腕を足場にして、さらなる跳躍を……

 

「はあ!?なんだそれ!?」

 

「はっは!あたしの身体能力舐めんなよ!」

 

頭に銃口が突きつけられ、至近距離で銃撃を食らう。衝撃が頭を回って、気持ち悪い。

 

「そらそら!フラフラしてんじゃねえよ!」

 

「っ、」

 

声を頼りに位置を掴もうとしたが、走り回っているようで場所が掴めない……

 

「おら!」

 

「ぐっ、」

 

背中に恐らく蹴りを食らい、吹っ飛ぶ。アスファルトを転がった。

 

「……うげ、全然傷付いてねえ」

 

「硬さだけは自信があるもんで……」

 

立ち上がる。頭の調子は治ってきたな。

 

「とはいえ、あたしの動きに対応できるほど速いわけじゃねぇのな。最初の蹴りん時も、わざわざガードしたし」

 

「……」

 

「はっ、図星か」

 

図星だよ。

 

ネルの動きはかなり速い。目で見て理解する時間で次の行動に移ってるから、対応が後手になる。

 

「……なるほどな。確かに強い。正直舐めてたかも」

 

「んなこと言っても、降参はさせねえよ?まだ動けんだろ」

 

「しねえよ。ただ……少し本気出す」

 

「あ?」

 

普段、俺は呪力放出をかなり大雑把にやってる。大体この範囲から、大体この出力で。そんなマインドで放出している。

 

ここからは違う。一つ一つ、精密に操作する。さて、これでどのくらい変わるのやら。

 

「行くぞ」

 

「はっ、来いや」

 

全力で地を蹴る。肉薄し、右手を突き出す。狙いは左腕。それを見たネルが腕を動かそうとしたところで、呪力放出。変速を入れて、触れる。

 

「っ!」

 

即振り払われるが、次は左手だ。狙いは右腕。ネルは即腕を上げたが、そこに右手を合わせる。パン、と乾いた音が鳴った。

 

「ちっ、離れろ!」

 

ネルが銃を構えて回転。ネルの銃は二丁のSMGで、二つが鎖で繋がれている。その回転に巻き込まれたら、どうなることやら。

 

離れた俺には関係ない話だ。回転が終わったタイミングで直進。

 

「見えてんだよ!」

 

「見せてんだよ」

 

向こうが後方ステップ、と同時に体左後方から放出。回り込む。

 

即反応したネルが銃を構えたがそれは悪手だ。銃身を手にして、そのまま地面に叩きつける。

 

「がっ、」

 

「チェックメイト」

 

馬乗りになり、体を抑えながら両腕も俺の手で抑える。

 

最初はどうにか脱出しようと暴れていたが、十秒経つ頃には大人しくなり始め、二十秒ごろは完全に寝そべっていた。

 

「……ふぅ。勝った」

 

「……お、大人気ねえ……」

 

「俺は大人じゃ……もういいや」

 

手を離しても何もしてこなかったので、もう大丈夫だな。

 

「あーーーくそっ。ちゃんと負けたあ!クソが!」

 

「……何でそんな叫べるんだよ……」

 

上澄勢本当に訳わからん。何度も言うが普通の生徒なら俺が一瞬触れれば気絶するレベルなんだぞ。

 

「ぐぐぐ……いつかリベンジしてやるからなあ!」

 

「おう」

 

「何でそんな元気ねえんだよてめぇ!」

 

「いや、久々に全力で呪力操作したから……くっそ疲れた。帰る」

 

「帰るんならあたしをおぶってけ。体が動かねえ」

 

「……C&Cのみんなは」

 

「ミレニアムプライスの警備」

 

「は?ネルは?」

 

「開始までには間に合わせるっつって抜けてきた」

 

「……」

 

ため息吐きながらネルをおぶった。

 

「にしても、すげえ動きだったな。どうやってんだアレ」

 

「今度教えるよ。もしかしたらネルもできるかも」

 

「マジか!そしたらそん時こそ勝つからな!」

 

元気だなあ。ぱっと見どちらが勝者かわからない。

 

そういうことで、ネルとの対決を制した俺はネルをミレニアムプライス会場に送り届けた後(その時にはネルはもう動けてた。やばい)俺もゲーム開発部の部室に帰還した。

 

「ただいまー」

 

「先生が帰還しました!」

 

「お、お帰りー!どうだった!?」

 

「勝ったけどめっちゃ疲れた」

 

「勝ったの!?」

 

「ネル先輩に勝つなんて……先生、すごすぎません?」

 

「先生は物語前半で主人公を鍛える師匠みたいです!」

 

「それ俺そのうち死なない?」

 

みんなに出迎えられながら、用意されてた座布団の一つに座る。

 

「ミレニアムプライスは、まだ始まっていないです」

 

「うん。知ってる。さっき会場まで行ったし」

 

「どういうことですか……?」

 

ミレニアムプライスが始まるまでは、適当な世間話をして時間を潰した。

 

そして、待ちに待ったミレニアムプライスが始まった。入賞できるのは上位七つまでで、成果を挙げたと胸張って言えるのはそこに入れたらだろう。

 

そして七位から入賞作品が発表されていく。なんかよくわかんないのもちょくちょくあったが、問題は「テイルズ・サガ・クロニクル2」があるかどうかだ。

 

名前が言われないまま、どんどん入賞作品が発表されていき……とうとう一位を発表する時が来た。

 

CMを挟んで、一位に入賞した作品が発表される。

 

『待望の一位は……新素材開発部──』

 

違う部活だ。と俺が落胆するのと同時に、モモイがテレビに銃弾を撃った。

 

「うえぇぇん!今度こそ終わりだぁぁぁぁ!!」

 

お通夜さながらの空気になるゲーム開発部。成果を出せなかったゲーム開発部は、廃部となる。

 

ゲームは悪くなかった。アップロードでのユーザーの反応はいいものもあったし、確かに成長していた。だけれど……現実は非情だ。

 

ゲーム開発部は廃部。となれば、部室も当然使えなくなるわけで。今まで寮に帰るのが嫌でここに泊まっていたユズや、寮の部屋がないアリスはどうにかしないといけない。

 

ユズは寮に帰るらしい。今の自分を誹謗中傷する人間はいないだろうし、仮にいたとしても、俺たちがいるから大丈夫だと。

 

「それでも、辛かったら言ってよ?俺がどうにかするから」

 

「……はい。でも、本当に大丈夫だと思うんです。先生がこの部室に来てくれた時から、わたしたちは大きく変われて……だから、ありがとうございました、先生」

 

丁寧に頭を下げるユズ。何だか申し訳ない気持ちになって、頭を上げてと言った。

 

そして、アリスは……

 

「……アリス」

 

「大丈夫です。先生のことは、信じられますから。ですが……」

 

その瞳から、涙が溢れた。

 

「もうみんなとは……一緒に、いられないんですね」

 

そう言うアリスに、感情を抑えられなくなるゲーム開発部。

 

「ごめんね……ごめんね、アリスちゃん!私、毎日シャーレに行くから!本当に、絶対に毎日行く!」

 

「……その必要は無いよ」

 

「え……?」

 

呆然とこちらを見てくる、みんな。

 

「シャーレの支部をミレニアムに作ろうかと思ってさ……そこには当然、寝泊まりできる部屋もあるし、ゲームを開発する部屋もあるかも」

 

「せ、先生……!」

 

「……俺は、全く力になれなかったからな。君たちの部室を守れなかった時点で論外だけど……せめて、これぐらいはさせてくれ」

 

「う、うう……先生……ごめんねぇ……」

 

モモイも泣いてしまって、釣られてみんなも目に涙を浮かべた時

 

「モモイ!ミドリ!アリスちゃん!ユズ!」

 

と、ユウカが駆け込んできた。もう部室を取りに来たのかと、あまりに非人道的する行いに戦慄する俺だったが……

 

「おめでとうっ!」

 

……なんか、空気変わったな?

 

なんか話が噛み合わないなということで、今もまだ放送しているミレニアムプライスを、テレビ……は壊したので、ユウカのスマホで見てみる。

 

……端的に言えば、「テイルズ・サガ・クロニクル2」は特別賞を受賞していた。上位七つでは無いが……確かに、価値があったからこそ得られた、ゲーム開発部の成果。

 

本来なら存在しない、八つ目の賞は……審査員の心を動かした、「テイルズ・サガ・クロニクル2」のためだけに作られた、まさに特別。

 

webでの評価は、批判的なコメントこそ多かったが……最も共感をもらっているコメントは、確かに「テイルズ・サガ・クロニクル2」を評価するもので。

 

つまりはみんなに認められた、ということ。当然廃部にはならず……まあ、正確に言えば猶予が伸びただけだが。それでも、この大事な場所は守られた。

 

みんなで抱きしめ合うゲーム開発部。そこにあったのは、これからもみんなといられるという感情で……俺の力は、もう必要ないのだろう。

 

こうして、ゲーム開発部は廃部の危機を乗り越えた。彼女たちはきっと……大丈夫だ。

 

そこに仲間がいるから。




今日のゲーム開発部

「先生ー、今日はこれやろー!」

「モ●ハンか……それもワールド」

「先生がゲームについて詳しくなってる……!?」

「というかモ●ハンだと一緒にやるなら別ハード必要じゃない?」

「先生が買ってシャーレに置いてよ」

「なるほどね」





「モモイー?大丈夫かー?」

『ネ●ギガンテ攻撃力高すぎるよ……!』

「二乙してるしな。もう少しちゃんとしてくれ」

『そんな風に言わなくてもいいじゃん!こいつが強いのが……あっ』

「あっ」





「アリス。今モモイなにしてる?」

『部屋の隅っこでいじけてます!』

「そっかあ……」

『それより先生』

「それよりって言った?」

『何で先生は二乙してるんですか?』

「ヴ●ルハザク嫌い」

『先生、これは死を纏うヴ●ルハザクです。後、瘴気の侵食を解除するにはウチケシの実が必要ですよ!』

「持ってき忘れた」

『先生……?』





パヴァーヌ終わるの早すぎない……?

そろそろ毎日投稿無理になるかもです……近いうちに忙しくなるし(学校始まるだけ)
毎日投稿じゃなくなったら不定期に18:00に投稿……って感じになると思います。

この後はまた幕間三話やってからエデン条約……というより補習授業部編ですね。なんかペース早いな……色々端折りすぎか?
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