来たる1月29日!!メンテナンス終了と同時に!!
各ユーザーに
地獄絵図を描きたくなければ、死力を尽くして当ててこい。
思う存分、呪い合おうじゃないか。
って夏油様が言ってました。
三日目。朝がやってきた。
相変わらず徹夜だが、頭の方に問題はない。ただじっと座ってると、体が固まっているような気がしてあまり気分は良くない。
ということで、少し朝の光でも浴びながら散歩しようかと、そう思っていたのだが……何やらスマホにメールが来ていた。
見ると、相手はティーパーティーが一人……聖園ミカから。この後、ここの屋外プールで会おうという旨のメール。
……何を考えているんだ?というか忙しいはずでは……色々考えるけど、答えは出ない。
まあ、会えばわかる話だな。会う前に軽くシャワーを浴びて、身だしなみを整える。そして、プールに向かう。
そこにつながる扉を開くと、光が目に差し込んできて思わず目を細める。太陽の光と、それを反射した水の光で二倍だしね。
未だ水が入ったままのプール。今は青空を映し出す鏡となっているその横で、一人の少女が佇む。
全体的に白を基調とした服。淡いピンクのロングヘアーと、腰より生える白い羽が彼女を示すチャームポイント。
まるで本物の天使みたいだ、なんて。そんなことを思ってみたりもして。
彼女は俺が来たことに気づくと、ふわり、なんて擬音がつきそうな笑みを浮かべた。
「おはよ、ミカ。待たせてごめんね」
「うん、おはよ先生。全然待ってないから大丈夫……って、なんか恋人みたいだね」
「ミカを伴侶にできる人は、きっとすごい幸せ者なんだろうな」
「おだてるのが上手だねー。ちょっと嬉しくなっちゃう」
「それはよかった……さて、そろそろ用件を聞いても?」
「……えへへ。先生は上手くやってるかな、って思って」
そう言って、今度は無邪気っぽく笑う。
「にしてもナギちゃん、ずいぶん入れ込んでるみたいだねー。こんな施設まで貸し出しちゃって」
「もしかすると、これでトリニティにいれるのは最後だから、いい思いをさせてやろうってことなのかな」
「うわー、ナギちゃんならありえるね……」
「……え、マジで?」
「冗談だよー、先生は意外と純粋なんだね」
今度は揶揄うような顔。なんか恥ずかしくて、少し目を逸らしてしまう。
「あ、というか、その仮面外さないのー?」
「外して欲しいの?」
「そりゃそうだよー。だって先生の顔、すごくタイプだし」
「それも冗談?」
「冗談じゃないって言ったら……?」
「はいはい。外すから。先生を揶揄うのもほどほどにね」
仮面を外して、ポッケに入れる。
それからミカを見ると、俺の瞳をじっと凝視していた。
「……前見た時は気づかなかったけど、先生ってすごく目が綺麗だね……夜空みたい、って言うか」
「よく言われるけど、個人的にはそこまでなんだよねえ……こんなものより、ミカの方がよっぽど綺麗だと思うけど」
「……さらっとすごいことを言ってのけるね、先生……でも、その……ちょっと嬉しいかな。えへへ……」
そう言って恥ずかしそうに頬を掻くミカ。どんな表情をしても可愛いなこの子。
「で、そろそろ本題に入らない?」
「いやいや、それならさっき言ったじゃん。先生は上手くやってるかなーって。それだけだよー」
「ミカ。俺はお喋りは嫌いじゃないけどさ。あんま前置きが長いと、ちょっと眠くなっちゃうんだよね」
「……分かったよ。結構色々話せたし、いい加減本題に入ろうか?」
そう言って、少し雰囲気が変わる。
「あ、でも。後もう一つだけいいかな?」
「……まあ、いいけど」
「なんか不服そう……」
ははは、と乾いた笑いで誤魔化す。今日も空が綺麗ですね。
「前、先生は自分のこと「全ての生徒に味方し、支える存在」って言ったよね」
「ああ、言ったね」
「ってことはさ……その。私も生徒なわけだし……私の味方にもなってくれる、って考えても良いのかな?」
何を聞かれるかと思えば、なんだそんな簡単なことか。
当然その答えは決まっていた。
「もちろん。ミカの味方でもあるよ」
「……わーお。そっか……」
また恥ずかしそうにするミカ。だけれど、今度のそれはすぐに収まる。
「でも、それを額面通りに受け取るのもちょーっと難しいなぁ……だってそれは同時に、誰の味方でもないって解釈もできるよね?」
「まあ、そうだね」
「そこで、私から先生に取引を提案したいんだ」
悪戯っぽく笑うミカ。
「補習授業部の中にいる「裏切り者」が誰なのか、教えてあげる」
!?
待て、どういうことだ。何でミカが知っている?提案してきたのはナギサだろう。まさか
あー待てよ。まさか……?
思考を色々巡らせるが、顔には出さないようにする。
「……とりあえず、取引というからにはこっちがしなきゃいけないことも聞かせてもらおうか?」
「ふふっ、先生は話が早いね……流石、最初の対談だけでナギちゃんの企みを見抜いただけあるよ……」
「ミカ。あんまり誤魔化さないでくれ。俺に取引を持ちかけたからには……今、俺とお前は同じ立場。そうだろう?」
少しだけ、圧をかける。
「……それが、本当の先生?」
「さあ?どっちが本当か決めるのは、ミカじゃない?」
「深いこと言うねぇ……まあ、今はいいや。じゃあ、条件だけど……あの子のこと、守って欲しいの」
守る……?
「どういうことだ。要領を得ないな」
「うーん。そのことを説明するには、その子の事情を説明しないといけないんだけど……そうすると、先生に誰が裏切り者なのかバレちゃいそうだしなあ」
「……まあ、いいよ。その取引、受けよう」
「本当!?やった、じゃあ遠慮なく教えられるね!」
子供のようにはしゃぐミカ。一通り喜び終わると、一転。神妙な面持ちで、裏切り者の名前を口にする。
「補習授業部にいる「トリニティの裏切り者」、それは……白洲アズサ」
「……アズサか」
「あれ?その感じだと、もしかして……もう分かってた?」
「さあ?どうだろうな」
「ぶぅ、先生はずるいなあ……さっきから、はぐらかしてばっかりじゃん」
口を尖らせるミカ。子供っぽい振る舞いだけど……なんか隠してる気もする。
「言っただろ。今は同じ立場だって……同格相手に、情報を曝け出すほど俺は優しくないよ」
「まあ、言いたいことはわかるけどさあ」
「それより、ほら。「守る」の意味を教えてくれ」
「しょうがないなあ……」
ということで、説明を受ける。
まず、このことを説明するには、トリニティ創設の時まで遡る必要がある。
いつかの時にも説明したが、トリニティ総合学園は、かつて争い合っていた派閥たちを、三つの派閥が主導してまとめた結果誕生した学園だ。総合の由来もそこにある。
「第一回公会議」と呼ばれる会議にて、その和平は成されたのだが……その際、最後まで和平に反対していた派閥があった。それが「アリウス」
会議で唯一反対し続けたアリウスは、当然他派閥からの怒りを買い、その後誕生したトリニティ総合学園の力の試金石にされた。弾圧され、何度も攻撃を受け。その後アリウスはトリニティ自治区外へ追放され、今なおキヴォトスのどこかにあるという。
そして、アズサはそのアリウス分校出身の生徒だった。
次にミカが語ったのはエデン条約について。何度も話したが、トリニティとゲヘナが仲良くなるための、最初の一歩となるだろう条約で……謂わば、「第一回公会議」の再現でもある。
エデン条約によって誕生するのは、ETOと呼ばれる武力組織。この抑止力を持って、二校は友好の道筋を歩み始める……それが、大体の人が認識しているエデン条約。
だが、ミカはそこに疑問を投げかける。本当に、それで済むのかな?連邦生徒会長が失踪した時代に、そんな大規模な軍隊が生まれる……その力を使って、ナギサは何をするつもりなのかな。エデン条約が「第一回公会議」の再現なら、その後に起こるのは……また、弾圧?
「あるいはもしかしたら、セイアちゃんみたいに……」
「セイア?」
セイアというと……ティーパーティーの一人、現在入院しているらしい生徒。そう聞いているが……
「……ううん、ごめんね。今のは──「ミカ」
明らかに、何かある。
「……あーあ。先生の前で失言すれば、こうなるって分かってたのに……なんで言っちゃったんだろう……」
「……ミカ」
「先生。これは、曖昧な気持ちで聞いていいことじゃない。これを聞いてしまえば、先生も私も戻れなくなる……もし先生が、このことをみんなに話せば私は終わりだし。黙ってたことがバレたら、先生だって無事じゃないかもしれない。それでも──「いいんだよ」
失言をした時の、ミカの顔。あれを俺は知っている。
どうしようもない、重荷を背負ってしまった時の顔だ。
「俺も、共犯者にしていい」
「……あははっ、それ、すごい殺し文句だね……本当に、いいの?」
「せっかくだし、俺のこと信じてみてくれよ」
「……そうだね。先生、さっき私の味方でもあるって言ってくれたし……それに先生になら、裏切られてもいいかも」
さっきよりも下手な笑い方。でも、感情はさっき以上に込められてた。
「……セイアちゃんは入院中なんかじゃない」
「ヘイローを、壊されたの」
知っている。
その言葉の意味を、誰もが知っている。
生徒たちが持つヘイロー……それは、生徒の証明であり、個人の証明であり、そして……その魂の、在処。
ヘイローが壊れるということは、つまり……生徒にとって、「死」を意味する。
感情が、大きく乱れた。
「……っ、せ、先生……!?」
「っふぅーーー…………ごめん、ごめんな。少し、昔を思い出した」
相変わらず、俺は未熟だ。感情が乱れると連動して、呪力の制御も乱れる。俺の手を離れた呪力が氾濫し、怖がらせてしまう。
落ち着け、落ち着け、落ち着け……頼む、落ち着いてくれ。
「……うん、もう大丈夫だ……うん。怖がらせて、ごめん」
「……先生も、誰か……親しい人が、
「ああ……目の前で、な」
「そっか……先生は、その時……どんな気持ちになったの?」
目の前で、倒れるユメ先輩。
砂嵐、雷鳴、憤怒を宿していた……得体の知れねえ巨大なナニカ。
その時、俺は──
「本当に、最悪だったよ」
「……」
もう、目の前で失うのはごめんだ。
「……悪いな。あんま聞いてて気分のいいもんじゃないだろ」
「え、ああ……私は、大丈夫だよ」
「でも嫌だろ。そっちだって……経験してんのにさ」
はぁ。自分のデリカシーのなさに嫌気がさす。まだまだ成長の余地があると考えよう。
「……この話した後に聞くのも、あれだけど……何が、起きたんだ」
曰く、去年セイアは何者かに襲撃され、殺されたとのこと。このことはティーパーティーしか知らない、最上位機密。ということらしい。
犯人は未だ不明で、捜査中とのこと。それが、セイアに関する真実。
さて、話を戻そう。
白洲アズサ。アリウスよりやってきた、特異な経歴を持つ生徒……彼女をトリニティに入れたのはミカだった。
ミカは、今からでもアリウスと仲良くしたいと考えていた。そのために、アズサを引き入れ……彼女をトリニティとアリウスの和平の象徴としたかった。
だが、そんな折。ナギサがトリニティの裏切り者がいると言い始めた。理由はわからない。ただ、それをきっかけとして補習授業部が作られた。
さらにミカは、補習授業部メンバーそれぞれが入れられた理由も話してくれた。
ハナコは、かつてとても優秀で、ティーパーティーに入る話まで出ていたほどの人物だった。各派閥も引き入れようと躍起になっていて……だというのに、突然変な行動を繰り返すようになり、成績も落第寸前までになった。機密事項も色々知ってるらしく、それ故の選出。
コハルは、正義実現委員会への人質。正義実現委員会は、あくまで独立した組織ではある。そのことを不安に思ったナギサが、自身の支配下に置くためにコハルを人質に取ったのだと。
ヒフミは、何やらちょくちょく危ない場所へ外出してるらしい。おまけに、犯罪組織との繋がりもあるとか……なんか聞き覚えあるな。
そうして、ナギサは裏切り者がいるかもしれないと疑い続けて……いつしか、疑念は確信に変わった。
これが、ミカが話してくれた今のトリニティ。
ミカの語った「守る」の意味とは、疑心暗鬼になってしまっているナギサから、アズサを退学させないようにすること。そうなってしまえば、アリウスと和解するのは不可能と考えていい。
また、アリウスはゲヘナをものすごく嫌ってるため、エデン条約が締結されても和解は不可能になる。
「先生は、トリニティの裏切り者って言うと誰のことだと思う?」
経歴を偽ってトリニティに入り込んだアズサ?エデン条約に乗り気じゃないミカ?それとも、トリニティを
裏切り者とは誰なんだろう。ミカはそう聞いてくる。
「……多分、裏切り者って言葉は相応しくないんじゃないかな」
「え?」
「みんながみんな、それぞれの事情を持っている。その事情に従って、みんな行動する。誰かの裏切り者は、誰かの仲間で……そして、俺にとってはみんな生徒だ」
「……確かに、そういう見方もできるかも。先生は優しいね」
「優しい、か。それも見方次第だな。ある意味では臆病とも言える」
「卑屈だねえ。もっと自信持って良いと思うけど……」
「だけど、一つ確かなことがある」
「……何かな?」
確かな声を持って、伝える。
「どんな見方をされようと、俺たちがやることは変わらないってこと。例え罵られようと、俺は生徒を救い続けるし、ミカだって裏切り者と言われてもやることは変わらない、だろ?」
「……」
「俺はみんなの味方であり続けるし……だから、ミカの味方になれない時もあると思う」
「……うん。分かってる──「でも」
「それでも、俺は君の味方だ」
理屈が通ってない。意味不明だ。そんなことは分かってる。
でも、本当のことだった。
「……それ、すごく不純で……何というか、浮気っぽいというか」
「まあ、それはぁー……そうかも、しれないけど」
「でもね、その……何でだろう、ちょっと安心しちゃった」
その時の笑顔が、ミカの本音だったのは間違いないと思う。
綺麗な笑顔ではなかったけど。美しいなと、そう思えたから。
「……じゃあ、今日はこんなところかな。先生とまたこうしてお話しできて、楽しかったよ」
「ああ。俺も楽しかったよ。またいつか」
「……ナギちゃんの時は祈ってたのに、私の時は祈ってくれないんだ?」
「天使のために祈る人はいないよ」
その言葉にミカは?を浮かべると……理解できたようで、その顔を真っ赤にした。
「……大人って、ずるいなあ」
「俺は……いや、やっぱり何でもない」
「?」
……良い加減、自覚しないとな。俺は、先生なんだ。いつまでも過去に縋ってはいられない。
「じゃ、またね。先生」
そう言って、ミカが去るのを見届けた後。俺はみんなが勉強してるであろう教室まで戻るのだった。
さて、教室に入るとヒフミが駆け寄ってきた。どうやら模擬試験をやって、その採点までやったらしい。よくやったなと褒めると、「私は、補習授業部の部長ですから」と笑ってた。
ということで。第二回模擬試験の結果発表の時間だ。
ハナコ8点、アズサ58点、コハル49点、ヒフミ64点。
前回と比べて、三人がかりで教えたアズサとコハルは点数が飛躍的に伸びている。この分なら試験までには合格点を超えるだろう。
ヒフミは下がってるけど、それはみんなに勉強を教えてたからだ。その上で合格点を超えてるし、問題はない。
となれば、懸念点はやはり……
「ハナコ」
「あら、どうしたのですか?確かに今回は8点でしたが……前々回が2点、前回が4点なので数列として考えれば──「今日の夜、少しお話をしよう」
俺の台詞に普段であればあれこれ卑猥なことを言うのであろうハナコは、しかし今回は何も言わなかった。
遠くで「あれ説教コースだよ……」という風にヒソヒソしてるみんなが見える。説教はしないよ。本当にお話しするだけさ。
その時、ピンポーンとチャイムがなった。お客さん?ミカに続き、珍しいな。とりあえず出るかと思ったところで……
ドーーーン!という明らかになんかヤバげな音が……
「きゃあっ!?」
お客さんっぽい人の悲鳴も聞こえた。これが一番ヤバい音だろうな。可愛い声……じゃなくて、何が起きた!?
「ブービートラップ。誰かの侵入を感知したら起動するようにしてある」
アズサ!?何してるの!?
とりあえず、無事か確認しなければ……と駆け出す寸前、またもドーンと爆発音。
「きゃぁぁぁっっ!?」
「逃げても無駄だ。逃げる方向を予測して、その先にもちゃんと仕掛けてある」
アズサぁっ!!??
「アズサ、後で話がある」
「む、どうした先生。何か非常事態でも起きたのか?」
「現在進行形でね……」
とりあえず説教は後だ。今はお客さんの元に駆けつける。
ダッシュでロビーまで行くと、オレンジの髪をしたシスターっぽい子がいた。爆煙に囲まれて、ちょっと衣装が汚れてる。
「すみません!大丈夫ですか!?」
「きょ、今日も平和と、安寧が……けほっ、けほっ……あなたと共に、けほっ、ありますように……」
「言ってる場合か!?」
目立った外傷はないが……とりあえず、教室に連れて行こう。
少しフラフラしている彼女を背負い、みんながいる教室に連れて行く。
席に座らせてから、お水を飲ませたり、汚れを払ったりして、落ち着かせる。
ハナコによれば、彼女は「シスターフッド」のマリーというらしい。
シスターフッドというと、トリニティの中でもかなり大きめの派閥だ。そんな場所のお客さんを手荒にもてなしたとなると……あれ、まずいかも。
「アズサ、まずは謝ろう」
「……ごめん、てっきり襲撃かと」
素直に謝ってくれた。アズサはいい子なんだけど……なんかズレてるよな。アリウス出身なのが関係してるのか……?
まあ、今はいい。今はマリーがここに来た用件を聞く時間……ということで事情を聞くと、用事があるのはアズサらしい。
何でも、先日アズサが助けた人から感謝を伝えたいとのことで、代理でここに来たと……
「アズサ?心当たりは?」
「感謝……?」
何でも、いじめを受けていた生徒がいたらしく、その生徒をアズサが助けたのだとか。
しかしいじめか。ふーん……
ハナコによれば、トリニティでは割とよくあることらしい。みんなバレないようにやるせいで、表には出てこないが……ふーーーん。
「……あの、先生」
「どうした?」
「その……怒ってます、よね」
「まあね。いじめですか。へえ……」
補習授業部の諸々が終わったら何か手を打とう。
で、話を戻すと。アズサが助けた後、いじめをしていた生徒が正実に連絡。そのせいで戦闘になり、アズサは最終的に正実に捕まって……そして俺たちに拾われたと。
じゃああのタイミングでアズサと出会えたのは僥倖だったな。何か罰を受ける前で本当によかった。
で、いじめられてた生徒はアズサに感謝を言いたかったが、俺たちが今合宿してるせいで見つからなかったので、シスターフッドに依頼したと、そういうことだった。
「……そうか。別に、特別感謝されるようなことじゃない。結局私も最終的に捕まったわけだし」
「後半は特に関係ないと思いますが……」
「それにあの事態は気の毒だけど、いつまでも虐げられてるだけじゃダメ。それがたとえ虚しいことであっても、抵抗し続けることを止めるべきじゃない」
「……そうかもしれませんね。はい、あの方にもそう伝えておきます」
……ミカによれば、アリウスはだいぶ酷い環境にあったはずだけど……アズサは、何というかすごいちゃんとしてる子だな。酷い環境にいたせいかもしれないけど。
「俺からも、ありがとな」
「?さっきも言ったが特別感謝されることじゃないし……先生は関係ないんじゃないか?」
「いじめられてた子だって、俺からすれば生徒なのさ。だから、俺の生徒を助けてくれてありがとうな」
よしよしと頭を撫でると、最初こそちょっと抵抗されたが、すぐに気持ちよさそうに目を細めている。ここがいいのか。うりうり。
「……アズサさんは、暴力を信奉する氷の魔女……だなんて噂がありましたが、やはり噂は噂ですね」
とはマリーの評価だった。アズサって氷の魔女とか呼ばれてるのか……アリスが聞いたら目を輝かせそうだ。
さて、これで用事も終わりかと思ったのだが……ハナコとマリーが話している。何やら関係があるらしい。
とはいえ微妙な雰囲気というか……気まずそうだ。ミカの話から何となく理由はわかるけど……
少し話した後、ハナコがマリーを送って行くと言った。少し心配だが……あれはあんまり俺が踏み入ってはいけない感じがする。ので今回は何もしない。
「で、ではみなさん、お邪魔いたしました。先生も、急に訪ねてきてしまってごめんなさい。それでは、また」
「うん。また会おうね」
そうしてマリーは去っていった。
その後、ハナコも特に問題なく戻ってきて、再び勉強を始める。その後は特に何も起こらず、三日目の夜がやってきた。
今日は洗濯をするらしい。ハナコがみんなの服を集めている……下着も含めて。
無論見ないようにはした。そのまま俺も部屋に帰ろうとして
「あ、先生は……?」
「いや、俺は自分で洗うよ」
「そうですか……なら仕方ありませんね」
よかったあ。ここで先生の分まで洗いますとか言われてたら本当にまずかった。
さて、この後はハナコとお話をする時間だ。ヒフミも交えて、三人でお話をするつもり。
部屋で作業しつつ待っていると、ノックの音。「入っていいよ」と言うと、扉が開いた。
「こんばんは、先生」
「ああ……?え、……え???」
そこにいたのはスク水姿のハナコ……いや待てや。
「……一応、真面目なお話をするつもりだったんだけど」
「?もちろん分かっていますよ?これが私の正装です」
「ええ……」
俺の理解を超越してくるぞこの子。すごいな。
「……まあ、いい……いやよくは無いけど、まあ一度いいものとする」
「あら、こんな格好の女子高生を良いと言ってしまうなんて……先生も、思ったより盛んなんですね♡」
「ハナコ。悪いけどマジな話なんだ。猥談なら後でたっぷり聞くよ」
「……後で、ですね?約束ですよ」
言うんじゃなかった……
「冗談ですよ。そんなに頭を抱えなくても」
「俺、あんまりそっち関連の知識ないから聞き役にしか徹せないんだよね……」
「……なるほど。では私がたっぷりと丁寧にお教えしますね」
「その時はね」
さて、そろそろヒフミさん来てくれていいですよ。
「……ところで、少しだけいいでしょうか?」
「どうした?」
「アズサちゃんのことで、少しお話が」
……ほう。
「分かった……けど、ちょっとだけ──」
扉の開く音がした。
ようやく来てくれたか……と思いながらヒフミに目をやれば、何故かこちらを見て顔を真っ赤にしている。ん?
そしてハナコも俺とヒフミを交互に見やる。そしてその後……
「本当に失礼しましたぁ!?ご、ごめんなさい!私、そんなこととは知らずに……!と、というか先生ってホシノさんとそういう関係じゃなかったんですかぁ!?ま、ま、まさか……!?」
「待ってください!ヒフミちゃんはこの時間に先生の元を訪れて、一体何をするつもりだったんですか!?まさかあんなことやそんなことを……というか先生、ホシノって一体誰なんですか!?まさか先生には既に──」
「二人とも落ち着け!なんか勘違いが起きてる!」
そういえばハナコにはヒフミと一緒にお話をするとは言ってなかったな!忘れてた!けどヒフミには言ったよな!?何で混乱してるの!?
事情聴取すると、「だって、ハナコちゃんが水着姿だったから、お話をする前にそういうことを……あうぅ」とのこと。ハナコに水着禁止令を出したい。
とりあえず、何とかお話をして落ち着かせて……ついでにヒフミに怒られたハナコは体操着に着替え直した。これで一件落着……
「それで先生。ホシノ、とは一体誰のことなのでしょうか?」
「ホシノさんは、先生の恋人さんなんです!毎晩電話していて……」
「毎晩、電話……!?熱々すぎます!まさか先生にそんな人がいるなんて……!流石は大人ですね」
「違いますけど」
一件落着してくれ。何の勘違いだよ。
「え!?だって先生、ホシノさんと電話する時雰囲気がすごく柔らかくなりますよね!?」
「え、そんなに?」
「無自覚……なるほど。私には全て理解できました。つまりは無意識下での、両片思い!創作でしか見たことないシチュエーションがまさか実在してるなんて……!」
「二人とも勝手に盛り上がらないでくれ。そういう関係じゃないんだよ」
「じゃあ先生にとってホシノさんはどういう存在なんですか!?」
と、言われてもな。
うーん、と頭を捻る。十秒ぐらい考えて、導き出された答えは
「……親友?」
「何で疑問系なんですか?」
「ヒフミちゃん。私たちはここまでにしておきましょう。こういう関係は側から見守るのが最も美味しいのです……!」
「もういいだろ。そろそろ本題に入ろう。時間も有限なんだし」
ということで、アズサのお話からだ。ヒフミも聞いていいとのことだったので、同席させる。
曰く、毎晩どこかに行っては夜明けまで戻ってこないということが続いているらしい。
寝てるところもほとんど見ておらず、それが心配なのだと。
「なるほどね……アズサともお話しする必要があるかな」
「……アズサちゃんに限った話ではありません。先生やヒフミちゃんも、ちゃんと寝てくださいね」
「うぅ、分かってるんですけど……」
俺も合宿所きてから寝てないし人のこと言えないや。忘れてた。
「確かに試験も大切ですが、ただ落第というだけです。身体の健康と比べられるようなものではないと思いませんか?」
そう言うハナコ。確かに落第だけなら、そうなんだけど……
流石に、言うべきか。
「……ハナコ。落ち着いて聞いてくれ」
「はい?」
「実は……残り二回の試験。どっちとも落ちると、補習授業部のみんなは……退学になってしまうんだ」
「……退学?」
明らかに動揺した様子を見せるハナコ。校則的にあり得ないと、そう言い聞かせるハナコだが……何も言わない俺とヒフミを見て、言葉が出てこなくなる。
「黙っててごめん。混乱させるだけだと思ってたし……事情があったから。けど、全部話すよ」
それから、補習授業部の裏の事情に関して、裏切り者関連は伏せて話した。
ショックを受ける様子を見せるハナコ。
その様子を見て、話題を変えようと思ったのかヒフミが点数に関しての話をする。
一年時点で、トリニティ全ての試験で満点を取ったハナコ。それなのに現在は一桁台の点数を取ってることを、ハナコはわざとだと語った。理由は私情らしいが……何となく、分かる気もする。
今まで低い点を取っていたことを謝罪するハナコ。これからは、ちゃんと試験に取り組んでくれるらしい。
「そうか。ありがとう」
「い、いえ……!?先生にそこまで、感謝していただくようなことでは……むしろ私が謝罪するべきことです、裸で手をつくだけで足りますでしょうか……?」
「いえ、大丈夫です」
「先生が業務的な口調に……!?」
まあ、とにかくこれでハナコの点数問題は解決だ。これで後は二人の点数を引き上げるだけだな。
「ところで……この事実を知っているのは、ヒフミちゃんと先生だけですか?」
「そうだね」
「なるほど……となると、アズサちゃんの不安は試験に起因するものではなさそうですね。何か私がまだ知らないことがある、と……いえ、それ以上に今は、この補習授業部の存在そのものが気になりますね」
それから、ハナコは目を閉じて数秒考え込むと……
「……なるほど。この補習授業部は、エデン条約を邪魔しようとしている疑惑がある容疑者たちの集い、というところですか」
「!」
すっげ。ほとんど情報を与えてないはずなのに……
「……そういうことだね。まさか、一瞬でそこまで辿り着くとは……」
「いえ、私はナギサさんのことをよく知っているので」
なるほどね。これがあらゆる派閥が求めたという、浦和ハナコか。
「先生も、ナギサさんにしてやられた形でしょうか」
「いや、そんなことはないよ。俺は俺の意思でここに来た。裏切り者のことも知った上でね」
「あら?ナギサさんが初対面の人に……ああ、なるほど。先生も頭がいいのですね」
「まあね。情けはかけなくていいよ。俺も結局は君たちを疑ってはいたし……」
「でも、教えてくれたのは本気で、本当でしたよね?」
「……それは、そうだけど」
「なら、やっぱり先生はお優しいですね♡」
「やめてよ。大人の汚さにそれは眩しすぎる」
「ふ、二人とも言葉を省略しすぎです……」
あらら、ヒフミがこんがらがっちゃった。
「つまり、先生は私たちのために頑張ってくれてた、ということです」
「それなら分かります!裏切り者のことも、もしいたら説得するって言ってましたし!」
「それが俺の役割だしね」
さて、雑談もほどほどにしまして。これからはハナコも全面的に協力してくれる……ということで、夜の集会仲間にハナコも加わった。
お話も終わりだし、そろそろ寝かせよう。
「それじゃあ、ヒフミはそろそろ寝な?もう遅い時間だ」
「分かり……あれ、私だけですか?」
「ちょっとハナコと個人面談したくてね」
「ふふっ、いつでも準備はできていますよ?」
「そういうのじゃないから……できるなら二人で話したいことだし、ごめんだけど先に寝ててもらえる?」
「……分かりました!先生なら、大丈夫ですもんね」
「信じてくれてるようで何よりだよ。それじゃあ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
そしてヒフミは去っていった。
「……それで、先生。まだ何かあるのですか?」
「んー……今、必要なことじゃないかもだけど……せっかくだし話しておこうかと思ってね」
ハナコと向き合う。
「さて、どう話そうかな」
「……?」
?を浮かべるハナコ。まあこれに関しては予想とかできないしね。
「……少し、俺の昔話を聞いてくれるかな」
「はい……?」
「聞いたら多分分かるよ」
そう言えば、ハナコが聞く姿勢に入る。
「昔……と言っても、俺が中学生ぐらいの時のお話。俺はその頃友達がいなかったんだよね」
「……あまり、想像できませんね」
「そう?そんなことないと思うけど……で、中学生って人が賢しくなり始める頃でしょ?だから、俺に近づいてくる人間が増え始めた頃だったんだよ」
「?要領を得ないのですが……?」
「ごめん、言葉端折りすぎたかも。昔の俺って……何というか、自分で言うのはあれだけど。才色兼備って感じだったんだよね」
言いながら、仮面を外してみる。
「……綺麗……」
「やっぱりそう思う?俺の目の色」
「あっ、すみません。つい……言葉が」
「いいんだよ。言われ慣れてるし。昔は髪もこの色でさ。その上、テストもいつも満点だったし、身体能力も高かったんだよね」
「それは……」
「それに加えて、俺は男で……後、自分では分からなかったけど何かオーラみたいなのもあったらしいんだよね。小学生以下の時は、みんなそのせいで離れていったんだけど……中学生だと、逆にみんな虫みたいに集ってくるの」
「……」
「身に覚えがある?」
俯いているハナコ。その雰囲気は、いつものハナコじゃなくて、いかにも才女と言った感じ。
「……先生は、それをどう思ったんですか?」
「まあ、あの頃は俺も捻くれてたからね……みんな俺から離れてったくせに、何で今更。そんな気分だった。おまけにあいつら俺の外しか見てねえし。うざくてうざくて……」
思い出したら気分悪くなってきた。顔を顰めるのを堪える。
「……まあ、何が言いたいかってさ。全部が全部同じではないと思うけど……ハナコの気持ち、俺には分かるよ」
「……先生……」
「ありのままを曝け出せる友達が欲しかったんだよな。自分を見てくれない人たちが嫌だったんだよな」
「……はい……はい……!」
「もう大丈夫。俺も、ここにいるよ」
ハナコの目から、涙が溢れた。
「あ、あれ……すみません……私、ちょっと……」
「別に謝らなくていいよ。それもハナコの気持ちだろ。大切にしてあげな」
そう言えば、ハナコはますます涙を流して。
それを拭いながらも、俺におずおずと尋ねてくる。
「その……先生」
「うん。どうした?」
「……抱きしめて、もらっても……その。よろしい、でしょうか……」
「もちろん。はい、ぎゅー」
正面から抱きしめる。ハナコもそのうち、ゆっくりと俺の背に手を回した。
「……暖かいです」
「それはよかった。このまま寝てみる?」
「それは……いえ、それもいいのかも、しれませんね……」
そのまましばらく抱きしめ続ける。このまま寝るかと思ってたんだけど……そのうち、ハナコが控えめに離れた。
「もう大丈夫そ?」
「……はい……その、お恥ずかしいところを、お見せしました……」
「ごちそうさまでした」
「!?!?」
「なんてね。びっくりした?」
いつもしてやられてるからな。そのお返しみたいなものだ。
「先生……そのうち刺されますよ」
「?よく分からないけど、俺に刃物は通じないから大丈夫だよ」
「そういうことでは……」
「ほら、早めに寝た方がいいって言ったのはハナコでしょ?もうだいぶ遅いよ」
「まあ、それはそうですね……では先生。また明日」
「はい、また明日」
そうしてハナコも去って行った。
さて、仕事するか。
あーしんどいなーとか考えながら机に近づく……と、置いてた携帯の画面が灯って……あっ。
「……やっっっべ」
……とりあえず、電話するか。
プル『カケル?』
「仕事してました」
『それならそうとメッセージ送って?もうそっち行く準備できてたんだけど?』
「……何でもします」
『じゃあ今度アビドスに来てよ。みんなカケルに会いたがってて大変だよー?』
「承りました……」
その後、朝日が昇るまで仕事と電話をし続けた。
こいつ一話で二人口説いてる……
ちなみにそろそろエデン条約編3章が書き終わりそうなんだけど……なんか俺の予想外の挙動起こしまくっててもしかすると書き直しがあるかもねワハハ……