呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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今更ですが、ブルアカ原作とほぼ同じ展開の部分は結構省略しています。なので、ブルアカ原作を読んでいないとわからない部分があるかもしれません。

タグにも原作既読推奨を付けていますが、念のためここでも言っておきます。


3. 友達になろう

前哨基地襲撃は無事に成功し、全員が再びアビドス高校に集まっていた。

お疲れ様と声をかけあい一息つく。

 

「これで火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです」

 

「そうだね。これでやっと、重大な問題に集中できる」

 

「うん!先生のおかげだね、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!ありがとう、先生!この恩は一生忘れないから!」

 

セリカの一声が、一仕事終えて緩んでいた空気を一瞬にして固めた。原因は……多分借金について口にしたことかな。

これ聞かなかったことにした方がいいかな……いやでも流石に借金返済というワードを無視できる人間はいないよな……

 

「……あー、その。借金返済って……?」

 

「……あ、わわっ!」

 

ずいぶん可愛い慌て方だが、今はそんな場合じゃないな。

少なくとも反応的に一年ズは秘密にするつもりだったっぽい。やっぱ触れない方がよかったかなあ……

ぶっちゃけ手遅れだが、何とか秘密を保とうとするセリカ。だが、ホシノが言ってもいいんじゃないかと説得にかかる。

 

「わざわざ話すようなことでもないでしょ!」

 

「別に罪を犯したとかじゃないでしょー?それに先生は私たちを助けてくれた大人でしょー?」

 

よく言うよこいつ。この中で一番俺のこと警戒してるくせに。やっぱこいつホシノだわ。

それから少し言い合いをした後、セリカが教室を飛び出して行ってしまった。

続いてノノミも様子を見にセリカの後を追った。

 

教室に残ったのは俺、ホシノ、シロコ、アヤネの四人だけ。

ここまで来て事情を聞かないのも変なので、まあ全部知ってはいるが聞くことにした。

 

昔起きた大きな砂嵐。それはアビドスの学区に大きな被害をもたらし、立て直すために多額の資金が必要となった。しかしアビドスのような片田舎の学校に巨額の融資をしてくれる銀行など無く、結局は悪徳金融業者に頼るハメになった。

しかし砂嵐は収まるどころか年々激しくなり、結果アビドスに残ったのは砂まみれの学区と多額の借金だけ。……何回聞いても腹立つ話だな。

 

ホシノは、借金のことは気にしないでいいと言ってくれた。シロコは、これ以上迷惑はかけられないと言ってくれた。

そうだな。そもそもここに来たのはあくまで支援するためで、アビドスに全面的に力を貸しに来たわけではない。仕事もまだたくさんあるし、理論で考えるなら俺はここで去るべきだ。加えて言えば俺の感情的にももう帰りたい。

 

だけど、俺は先生だ。生徒を支え、寄り添い、道を示す者。

先生ならば、困っている生徒を決して見捨てたりしない。

知ったならば、できる限りの力を尽くす。それが先生だ。

 

「俺も対策委員会の一員にならせてくれないか?」

 

「そ、それって……」

 

「一緒に問題の解決策を探ろうってこと。いいかな?」

 

「も、もちろんです!よろしくお願いします、先生!」

 

「へえ、先生も変わり者だねー。こんな面倒ごとに自分から首を突っ込もうなんて」

 

ホシノは逆に警戒を深めてきたが、それ以外のメンバーはおおむね好意的だな。

後は、セリカだけど……

微かに廊下を走る音が聞こえた。多分今の会話を聞いてたのだろう。

彼女を説得できるかどうかは、俺の腕の見せ所だな。

 

そんなこんなで、俺のアビドス一日目は過ぎ去っていった。

 

 


 

 

アビドス高校から離れたところにあるホテル。そこを俺は一時的な拠点としていた。

朝早く起きて、支度をして、ホテルを出る。

陽の光が照らす道を歩いていく。アビドスの良いところの一つに太陽の温かさは入ると思う。昔通っていた時もポカポカとして心地よかったな。

 

さて、昨日は使命感のままに協力すると言ったものの、実際問題具体的な策などは思い浮かんでいなかった。

 

というか借金である以上悪徳だろうが何だろうが頑張って返さなきゃいけないのには変わりない。つまり俺はこれからアビドスのどこかで働くことになるかもしれない。シャーレの業務もまだ有り余っているのにだ。今のうちに過労死した時用に遺書でも書いておこうかな……

今の天気とは真逆のちょっと憂鬱な気分になりつつアビドス高校までの道を歩いていると、セリカとバッタリ出くわした。

 

「あっ」

 

「うっ……な、何っ……!?」

 

俺まだ「あっ」しか言ってないんだけど警戒されすぎじゃない?流石に傷つくな……

まあそれはともかく挨拶は大事なので朝の挨拶をしよう。

 

「おはよ」

 

「な、何が『おはよ』よ!なれなれしくしないでくれる?」

 

「流石にひどくない?」

 

「ふんっ、先生にはこれぐらいが妥当よ」

 

めっちゃツンツンしてる。昔のホシノを思い出すな。

まあ、今はそれよりもセリカだ。

 

「セリカはこれから学校?」

 

「私が何をしようと、別に先生とは関係ないでしょ?」

 

「いや、これから学校に行くなら一緒に行こうかと思ったんだけど」

 

「はあ……?なんで私があんたと仲良く学校に行かなきゃならないわけ?」

 

「対策委員会のみんなの中だとセリカとだけ仲悪いから、仲良くなりたいなぁって」

 

「私は仲良くならなくていい!それに、今日は自由登校日だから学校に行かなくてもいいし」

 

「じゃあどこに行こうとしてるの?」

 

「そんなの教えるわけないでしょ?……じゃあね、バイバイ」

 

そう言ってセリカは俺に背を向けた。

すごい警戒心が強いな。ちょっと怯みそう。とはいえこのままというわけにはいかない。どうにかして仲良くなってやる。

そのためにはどうすればいいか……どうしたらいいんだ?とりあえず何回も話しかけてみよう。そういうわけなんでセリカを追いかけることにした。

 

「ひゃあっ!?な、なんでついてくるの!?」

 

「だってまだ仲良くなってないし……」

 

「どういうこと!?意味わからないんだけど!?」

 

「俺と仲良くならないといつまでも追いかけ続けるよ」

 

「ただのストーカーじゃないのっ!」

 

確かにそれはそうだな。このままだとヴァルキューレに逮捕される。流石にそれはまずいし、仕方ないが一度引くか……?

 

「……ああ、もうっ!わかった!わかったってば!仲良くなりたいのはわかったから!」

 

「お、本当?じゃあ一緒にヘルメット団にカチコミでもかけにいくか?」

 

「どういう方法で仲良くなろうとしてんのよアンタ!?……そうじゃなくて、仲良くなりたいのはわかったけど私この後バイトだから!終わってからにしてよ!」

 

「あー、なるほどね。ならしょうがないか」

 

「そう!そういうことだから!もうついてこないでよね!」

 

そう言ってセリカは去って……待てよ、バイトだったとしてもバイト先に訪問すればなんかいい感じになるんじゃね?

我ながらなかなかいいアイデアだ。じゃあ早速バイト先を聞こう。

 

「そういえばどこでバイトするの?」

 

「うわっ!?何で横にいるのよ!?さっき置いていったのに!?」

 

「この程度の距離なら一歩で縮められるよ」

 

「あんた本当に何なのよ!?……いや、そうじゃなくって!もうついてこないでってば!」

 

「えー、バイト先教えてくれよ」

 

「教えない!これ以上ついてくるなら本当に通報するからね!」

 

そこまで言われては引き下がるしか無いか。渋々追いかける足を止め、セリカを見送った。

ま、今日はダメでも明日頑張ればいいか。いつかは折れてくれるはずさ。

そう考えながら、学校へ向かった。

 

 


 

 

セリカと別れた数時間後、俺たちはセリカのバイト先である「柴関ラーメン」にやって来ていた。

というのも、学校にて俺がセリカと会ったことをみんなに話したところ、ホシノが、セリカがバイトしている場所心当たりがあると連れて来てくれたのだ。ちなみに対策委員会全員で来た。

みんなで店に入った後のセリカの顔はなかなか面白かったな。ポカンとした後顔がどんどん赤くなっていく様はタコのようだった。

 

しかし、柴関ラーメンかあ……懐かしいな、昔はここのラーメンをよく食べていた。本当に美味しいんだよな。

相変わらずのいい匂いを堪能しつつ、味も変わってないといいなーと考えて案内された席に座ろうと……したんだが

 

「はい、先生はこちらへ!私の隣、空いてます!」

 

「……ん、私の隣も空いてる」

 

突然の二択。ノノミ側に座るか、シロコ側に座るか。え、何これどっち選んでも何かしらの角が立ちそうなんだが?

……まあ、どうでもいいか。適当にシロコの方に座った。

 

「ふむ……」

 

そしたらめちゃくちゃくっつかれた。狭い。

 

「狭すぎ!シロコ先輩、そんなにくっついてたら先生が窮屈でしょ!もっとこっちに寄って!」

 

「いや、私は平気。ね、先生?」

 

「シロコは平気でも俺は割と窮屈……何でもない」

 

口答えしようとしたらすごい眼光で圧をかけられた。まあ先生は生徒の要望を叶えなきゃいけないし……別に圧に負けたわけではない。いいね?

 

「いや、何で先生負けてるのよ!?大人でしょ!?」

 

「俺十七だけど」

 

「え!?」

 

「え、そうなんですか!?」

 

「ん!?」

 

「えぇ……!?」

 

「……へえー?」

 

各自違った反応を見せてくる。そんな驚かれるとなんか騙したみたいで申し訳ない気分になってくる。

 

「え、嘘でしょ!?先生って大人がなるものなんじゃないの!?」

 

「否定はしないけど、諸事情あってね」

 

「全部諸事情ではぐらかそうとしないでよ!?」

 

……あー、やばいな。ホシノの警戒が結構上がってる。

俺はただ大人の立場にありながら十七で、顔は仮面で隠してて、突然現れてアビドスに協力するだけの善良な先生だよ。うん。撃たれないだけありがたいな。

 

「というか!いい加減シロコ先輩離れなさいよ!先生も窮屈だって言ってたでしょ!?」

 

「言ってないけど……?」

 

「何でそこで梯子外すのよ!?」

 

今はこの子たちがいるから大丈夫だろうけど、二人きりになったら本当に撃たれるかもな……

ま、その時はその時だ。今はこのセリカをいじる空気に便乗しておこう。

 

「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもカワイイです⭐︎」

 

「いやぁー、セリカちゃんってそっち系か。ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」

 

「ち、ち、ち、違うって!関係ないし!こ、ここは行きつけのお店だったし……」

 

「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。どう?一枚買わない、先生?」

 

「言い値で買おう」

 

「うへ、太っ腹だねー」

 

「何なら俺以外にも売れば?借金返済の足しにはなるでしょ」

 

「なに人の写真勝手に売ろうとしてるのよ!?」

 

「お二人とも、変な副業はやめてください……」

 

アヤネから注意が入ったので一度いじるのをやめることにする。いい反応してくれたなー。

いい後輩が入ったものよと感慨深くなりながら、注文をする。

 

「それじゃ、俺は──」

 

それで、注文をしようとしたところで気づいた。

 

あれ、俺仮面つけてるから食事できなくね?

 

えー、あー、そういやそうだったな。

そっかあ。仮面つけてるもんな。素顔見られたくないし食べられないよなあ。

 

………………

 

もう外してもいいんじゃないかと悪魔の俺が囁いてくる。

いや今更外そうとするなよ何のために仮面つけてんだバカがと罵倒してくる天使の俺がいる。

 

まあ流石に……ということで俺は天使の手を取ることにした。

まあ?別にみんなと一緒じゃなくても後で来ればいいし?セリカのバイトが終わり次第早急に来るし……

 

なお、ここまでの思考は僅か0.01秒で行われた。

 

「俺は……何もいらないかな」

 

「え〜。せっかくだから先生も何か頼もうよ〜」

 

シャラップホシノ。今俺はものすごい葛藤を乗り越えて決断を下したところなんだ。頼むから黙っててくれ。

 

「いや、素顔を見せたくないからな」

 

「そんなに見られたら困るのかなー?」

 

「困るというか……いやまあ困るんだけど」

 

「ふーん」

 

ホシノの警戒度が上がる音が聞こえた気がした。どう返答したらよかったんだよこれ。

 

内心頭を抱える俺をよそに、みんなが次々と注文をしていく。

そして俺を除いた全員分の注文が受けられた後、セリカが聞いてきた。

 

「……ところで、みんなお金は大丈夫なの?もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」

 

「はい、私はそれでも大丈夫ですよ⭐︎このカードなら、限度額までまだ余裕ありますし」

 

「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよー。きっと先生が奢ってくれるはず。だよね、先生?」

 

「え、何の話?」

 

唐突なホシノからのキラーパス。多分俺という存在が敵か否かを判断するための要素の一つなんだろう。いやそれにしてももう少しなんか無かった?

 

「……まあ、お金なら有り余ってるし別にいいけどさ。そういうのはもう少し早めに言ってくれると嬉しいかな」

 

「今言ったからいいでしょ?」

 

「何もよくないんだが?奢るけどさあ……」

 

まあ、とはいえさっきも言ったが金なら有り余ってるので、先生として奢ろう。正直使い道がなくて困ってたんだ。

 

「おー、遠慮なく奢ってくれるとは。これでこそ大人の鑑だよねー」 

 

「だから大人じゃないって……そういうわけだからみんな好きなように食べてな」

 

みんなが好きなように注文しているのを眺めていると、ちょんちょんと足をつつかれた。その方向に目を向けると、ノノミがいる。

そして、顔を近づけて囁いてきた。

 

「先生、こっそりこれで払ってください」

 

その手には金ピカのカード。もしかしてノノミってお金持ち?

まあ、だとしてもそれは生徒に奢らせる理由にはならないので丁重にお断りさせてもらった。

 

そういうわけで、みんなはラーメンを美味しくいただき、そして俺はそれをただ眺め、ついでに全額奢ることになった。そんなに美味そうに食べるな。俺の腹が減る。

俺を除くみんなが満腹になったところで店を出て、セリカの罵声を聞きながら、その日は帰った。

 

 


 

 

その日、バイトが終わった後セリカは一人で帰っていた。

夜遅く、人のいない道を歩く。

彼女は静かな帰り道で、バイト先にみんなを連れてきたホシノに愚痴を吐いたり、人がまた少なくなった街を見て決意を新たにしていた。

 

そんな時、闇の中からヘルメットを被った者たちが現れる。

 

「……何よ、あんたたち」

 

「黒見セリカ……だな?」

 

「……カタカタヘルメット団?あんたたち、まだこの辺をうろついてんの?」

 

いくらいつも見て、返り討ちにしているといっても闇にまとわれるヘルメット団たちはいつもとは違う雰囲気があり、平常時であればセリカも少しは怯んだだろう。

だが、現在の彼女は具体的には七割先生、三割ホシノのせいで機嫌が悪い状態であった。

 

「ちょうど良かった。虫の居所が悪かったの。二度とこの辺りに足を踏み入れられないようにしてやるわっ……!!」

 

赤い瞳が正面のヘルメット団たちを捉え、銃を構える。

だが、敵は正面の彼女たちだけではなかった。

 

ダダダダダダダダッ!!

 

セリカの背後から銃弾が飛来し、その内の幾つかが彼女の身にあたる。うめき声が漏れ出た。

 

(背後にも敵!?……こいつら、最初から私を……)

 

「捕えろ」

 

痛みを堪える中、セリカはそれを見た。

「Flak41 改」並の銃とは比較にならない火力を持つ戦車。その砲身が彼女を狙っていた。

キヴォトスの生徒たちは銃撃程度はかすり傷にもならない硬さを持っている。しかしだからといって無敵というわけでは無い。

戦車の主砲が直撃すれば、致命傷にはならずとも気絶はするだろう。

 

その未来を考え、セリカが何か行動を起こすその前に、戦車からの攻撃が──

 

「それはちょっとやりすぎかな」

 

「!?」

 

気がつくと、戦車の砲身が折れていた。

直線だったはずのそれは真上に折れ曲がっており、その側に一人の男が立っている。

闇夜の中、ペロロの仮面が怪しげな雰囲気を放つ。

 

「だ、誰だおま──」

 

「はい、タッチ」

 

キヴォトス人であろうと認識するのが難しい速度でヘルメット団の一人に接近し、そして触れる。

それに驚いた他の団員たちも、声を出す前に全員が気絶した。

 

「……せ、先生……?」

 

「よ、セリカ。無事か?」

 

「な、何でここに……」

 

「ラーメン食べたくてセリカが出てくるの待ってたんだよね。そしたら何かセリカをつけてる奴らがいたから追いかけてみて……それで今に至るって感じ」

 

「そうなん……いや待って、ラーメンを食べるためにこんな時間まで待ってたの?」

 

「おう」

 

仮面をつけていて見えないが彼の顔は大真面目である。最もセリカには理解し難いようだが。

 

「別に明日来ればよかったんじゃ……私、明日バイトないし」

 

「……」

 

この男、結構馬鹿である。こんな頭で先生が務まるのだろうか?

 

「まあ……でも、そのおかげで助かったし……その、ありがと」

 

「……うん。まあ、セリカが無事でよかったよ」

 

微妙な雰囲気から一転、何かいい感じの雰囲気になる。

今のうちにやるべきことをやろうとカケルが動きはじめた。

 

「そんじゃ、送ってくよ」

 

「え!?いや、何で!?」

 

「何でって言われても。狙われてるっぽいし。このまま一人で帰らせるわけにはいかないよ」

 

「わた、私は大丈夫だから!こんな奴ら、また襲ってきても返り討ちにしてやるわ!」

 

「いや、今さっきやられそうになってたのにそれは通じないよ?」

 

呆れたような声色によるど正論でダメージを受けるセリカ。

 

「ぐっ……!さ、さっきだって、不意打ちされなかったら……そもそも、戦車さえなければ私が勝ってたわよ!」

 

「そう言われてもねえ」

 

カケルが、砲身の折れた戦車を見る。そこで彼はふと違和感を感じた。

 

「……そういえば、何でこいつらが戦車なんてもの持ってるんだ?」

 

「え?」

 

カケルが戦車に近づいていく。砲身が折れようとも未だ重厚感があるその巨体。今にもカケルが押し潰されてしまいそうだが、砲身を折ったのが誰なのかは忘れてはいけない。

 

「……なーんかきな臭えな」

 

カケルはそう呟くと、セリカと戦車を交互に見やる。そのうち、何か結論が出たのかセリカに近づいた。

 

「セリカ」

 

「な、何よ」

 

「悪いんだけどさ、一人で帰れるか?」

 

「あ、当たり前よ!」

 

「じゃあ、本当に申し訳ないんだけど頑張ってくれ。こっちは戦車を運ぶから、着いて行けないけど……」

 

「子供じゃないんだから、一人で帰れるわよ!……って、戦車を運ぶ?」

 

「おう、なんか怪しい気がするから一度学校に置きにいく」

 

「?ま、まあわかったわ……」

 

それから、セリカは一度カケルに背を向けて……すぐに、顔だけ振り返る。

 

「……それじゃあ、その……また明日、先生」

 

「ん、また明日」

 

そして今度こそセリカはカケルに背を向け、帰り道を歩き始めた。

その内心では、言いすぎたかなとか、助けてくれて嬉しいとかの思いを抱えながら帰る彼女。

 

その時、後ろの方で鉄の塊が動く音がした。

そういえば、戦車を運ぶって言ってたな。どうやって運ぶんだろう。先生って戦車を操縦できるのかな。ふと気になって、後ろを振り返る。

 

カケルが戦車を両手で持ち上げていた。

 

そして、足に力を入れたかと思うと、地面にヒビが入り、気づけばいなくなっていた。

 

……疲れてるのかな?

セリカは見なかったことにした。

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