俺はそろそろかっしーが「……終わりだな」って言ってきそうでヤバいです。
領域展開 坐殺博徒
こいつまだ──!?
……さて、ひとまずその後の話をしよう。
試験会場は木っ端微塵になり、当然試験は不合格。なんかもう文句を言う元気もなかった俺たちは、とりあえず合宿所に帰った。
もはや実家のような安心感さえ感じる寝室。背負っていた荷物たちを下ろし、ベッドに座り込む。
それから、ナギサにちょっと文句でも言ったろかと連絡を取ろうとしたのだが、連絡はつかなかった。
同様にミカも、連絡がつくことはなかった。
正直今日はもう何も考えたくないが、考えないわけにもいかない。俺はナギサを侮り過ぎていた。まさかここまでしてくるとは……
ここまでとなると、後手の対応は無理と考えた方がいい。何かしら工作をしないように見張るのが一番の対策になるだろう。
それから、みんなのことも考えないと。正直なところ、今回仮に試験を最後まで受けられていたとしても受かることはなかっただろう。試験範囲三倍+合格ライン90は今のみんなでは間違いなく無理だ。
今まで以上に勉強をキツくしないといけない。最後の試験は一週間後……
それまでに成績を上げつつナギサが何かしないように見張り、更に言えばその上でしてくるであろう工作の対策を練りつつそれに必要な物資を集めて……ダメだ。マルチタスクにも程がある。
本当に、どうしたものか……
一人で頭を悩ませていると、扉が開いた。見れば、ハナコが開けたらしい。
「どうしたの?」
「一度みんなでお話をしたいなと……」
「分かった。すぐ行くよ」
立ち上がり、みんなの寝室に向かう。
雰囲気はかなり悪かった。まあ当然ではある。俺も正直参ってるんだ。
「……先生、少しお話を伺いたいのですが」
「何について?」
「ナギサさんとの、対談について」
ハナコから聞かれた。まあもはや隠す必要もない。正直に全部話す。
「……なるほど」
「ごめん。俺のせいだ。少しナギサを本気にさせ過ぎた」
「いえ、先生のせいではありません。恐らくあの猫ちゃんなら、最初からこれぐらいはするつもりだったはずです……それを重い気持ちでやるか、比較的軽い気持ちでやるかの違いだけですよ」
「そうかなあ……」
……まあ、考えても仕方ないことか。そうだと信じよう。
「それにしても、先生は本当にお優しいですね。ナギサさんさえ、救おうとするとは……」
「それが俺の使命だからね。誰であろうと生徒なら守る。そういうものだよ……」
あぁー……マジでどうしよう。いややることははっきりしてるんだけど。でもそれをやれる元気がみんなにあるかと言われるとなあ……
コハルは完全に心が折れて泣いてしまってるし、ヒフミは意気消沈している。アズサはまだ諦めていないな。ハナコも同じく。
……思ったよりいけるか?みんな強いもんだな。
「……とりあえず、今日は一度寝よう。深夜に長距離歩かされて疲れたでしょ。だから気持ちが沈んでるだけだよ」
そう言えば、勢いの差はあれどみんな頷いてくれた。
俺も自分の寝室に戻り、椅子に座る。
爆発でダメージは受けてないし、脳の疲労も反転で回復できる。寝る必要はない。
策を考えないといけない。どうにかこの状況を打破する策を……
時間というのは無常なもので、俺たちが何を言おうと過ぎ去っていく。
いい考え、というものはある意味思い浮かぶのが奇跡みたいのもので。結局みんなが起きてくるまで考え続けても思いつくことはなかった。
だからもうゴリ押すことにした。
俺がトリニティ内部の動向を監視し、勉強も支える。そういうふうにすることにした。
そうして日々は過ぎていく。毎日模擬試験して、勉強して、俺は合間合間にトリニティを訪れる。そんな日々だった。
嬉しい誤算だったのは、ハナコが完全に本気を出してくれたことだ。彼女のおかげでみんなの勉強は今までより遥かにスムーズに進んだ。おかげで俺も勉強に関してはかなり負担が楽になった。
ナギサは、動く気配を見せなかった。範囲の変更も、合格点の引き上げもするつもりはないらしい。こうなると、恐らく最後の策を突破さえすれば……俺たちの勝ちだ。問題はその最後の策が分からなかったことだが。
昨日から本館に人はいなくなってたのは分かったんだけど……その先が分からない。本館で戦闘を行うとも考え難いし……本当に何をする気なんだろうか。
勉強の方はうまくいった。最初こそ模擬試験の点数は合格ラインには届かなかったが、そのうち全員が合格ラインを超えられるようになった。安定化まではいかなかったが……まあ、十分だろう。
できるだけのことはやった。やってやってやって、やり続けて……気づけば一週間などあっという間に過ぎ去った。
そうして、試験前日の夜。
みんなが使ってる方の寝室に俺も集まり、静かな時間を過ごしていた。
「……みんな、寝ていいんだよ?」
「で、でも……また何か色々変わっちゃったら……」
「大丈夫だよ。俺が掲示板は監視してるし、何か不穏なことが起きてもどうにかする。対処なら俺がやるよ。だから、しっかり頭を休めな?」
「掲示板の監視なら、私がやりますよ?」
「大丈夫。ハナコなら徹夜でパフォーマンスが落ちることはないだろうけど……それでも、念のためだ」
「ですが、先生はずっと寝ていませんよね?」
「いいんだよ。俺は寝なくても平気。特別な方法があるからね」
……実際は、反転術式はそこまで都合の良いものではない。
あくまで治せるのは脳の疲労まで。体全体の不調を治すとなると、細かな反転の使用をしないといけない。それをするには体について深く知らないといけないから、俺にそれはできない。正確に言えばもっと簡単な方法はあるけど……それはここではやりづらい。
ずっと体がダルいし、心が揺れているのを感じる。だが、それは今は問題じゃない。体の不調は別に後からどうにでもできるし、問題視している思考の鈍化などは脳の反転でほぼ解決している。
何も問題はない。
「ほら、早く寝な。そんなんで明日集中できませんでした……とかだと、本当にまずいよ?」
「うぅ……でも、まだ勉強しておきたい……」
「こ、コハルちゃん……気持ちは分かりますが、今日はもうゆっくり休んだ方が……」
「そうですよ。コハルちゃんが頑張ったのはみんなが知っています、大丈夫です。今日はもう休んで、明日に備えた方がいいと思いますよ」
「休むのも戦略のうちだ」
「アズサもね。最近も夜起きてるの知ってるんだよ?ちゃんと休みなさい」
「……うん。今日くらいはゆっくり休もうと思う」
……いよいよ明日。運命が決まる。
「君たちが頑張ったのは俺がよく知ってるよ。だから、大丈夫だ」
ずいぶん安っぽい言葉だが、これで励ませるならいくらでも言おう。
一人ずつ、安心させるように頭を撫でる。
「絶対に受かろう」
「はい!」「あ、当たり前よ!」「うん」「はい、頑張りましょう!」
「いい返事だ。それじゃ、今日はおやすみ」
そう言って、俺は自分の部屋に戻った。
掲示板を監視しながら、時間が過ぎるのを待つ。久しぶりにホシノに電話するのもいいかもな。
ずっと忙しかったから二次試験の日から電話できてないんだよね。基本夜まで勉強してたし……代わりにメッセージで毎日安否確認(?)させられていたが、そろそろ向こうも限界だろうし。モモトークの通知が999を超えたのを見たのは初めてだ。
……でも、ここで気を抜くのもなあ。ホシノには悪いが、もう少しだけ待ってもらおっと。
静寂は続く。なんとなく大人しくしていられなくて、部屋の中を軽く歩き回る。一周、二周、三周……
……あれ、足音が聞こえた。これはアズサのだな。またあの子は……
扉を開けて廊下を見るが、どうやらもう行ってしまったらしい。こうなるともう呼び戻せない。
仕方ないので部屋に戻る。そしてまた回りはじめる。五十七、五十八、五十九……
……周回数が百を超えたあたりで、扉が開いた。
「……ヒフミ。なんで起きてるの?」
「あ、あはは……なんだか眠れなくて」
「気持ちは分かるけどさあ……」
明日に支障が出るのはヒフミもいやでしょ……と続けようとしたところで、来訪者がもう一人。
「私も来ちゃいました♡」
「ハナコもか……」
そしてさらにもう一人。
「みんな何してるの……」
「コハルまで……確かアズサもどっか行ってたよな。てことは全員起きてるのかよ……」
本当に何してるんだ……気持ちは分かるけどさあ!
「もー……しょうがない。みんな緊張がおさまるまで、俺と一緒にいるか」
三人を手で招いてベッドに座らせる。俺も同じベッドに座った。
「なんかして欲しいなら、何でもするけど」
「何でも……!?」
「……」
「はっ、ち、違うんですよコハルちゃん。これはちょーっと驚いちゃっただけで……」
なんかヒフミとコハルが漫才してる。いつもだったらその立ち位置はハナコなんだけど……と、ハナコを見やると何やら真剣な顔。
「どうした?」
「実は先ほど、シスターフッドの方々に少し会ってきたんです。色々と調べたいことがあって……」
「……ハナコ。そういうのは俺がやるって……」
「でも、先生は恐らくこの情報を知らないはずです」
そしてハナコから伝えられたのは、三次試験会場が正義実現委員会によって完全に封鎖されているということ。ティーパーティー……要はナギサから「エデン条約に必要な書類を守るため」という仮の要請があったらしい。
封鎖されている間は、誰一人立ち入れないだろうということだった。
「……マジか」
「更に言えば、本館に戒厳令が出ています。昨日から静かだったのはこのせいみたいですね」
「何で俺はそれを……」
「恐らく、ナギサさんが直々に先生には教えないよう命令でも下したのでしょう。先生は外部の人間ですし、理由づけならいくらでもできます」
……マジかぁ。いや、そりゃそうだよなあ。情報統制ぐらいするよなあ。
「先生私たちに負担をかけないよう動いているのは知っていますが……それでも、ちゃんと頼ってください。じゃないと、またこんな事態になりますよ?」
「……悪い、助かった。ありがとう」
本当に申し訳ないな。本来俺がやらなきゃいけないことなのに……またため息が出そうになるのを、一度堪える。
ともかく、今は試験会場に行く方法を考えなければ。正実が封鎖している以上、彼女たちを敵に回すのは確定だ。
コハルが、ハスミに掛け合ってみると言うが……実際それは難しい。ハスミは裏の理由を知らないだろうし、仮に味方になってくれたとしてもティーパーティーの命令違反で正実を追放されるかもしれない。
となれば、正面から突破するしかないか。後から事情を説明して謝れば……まあ少なくとも退学にはならないだろう。
それにしても、本当にガチだな。いやそりゃ俺が「遠慮せず来な」なんて言ったせいなんだけど。俺は自分の力を過信しすぎてたのかもしれない……
「どうして、そこまで……」
ヒフミが思わずといった様子で呟く。悲しみがこもったそれに、みんな黙り込んでしまったところで。
「……私のせいだ」
扉が開いた。入ってきたのは、アズサ。
その面持ちは重く、暗さを感じさせる。
「みんな、聞いて。話したいことがある」
その体は震えている。何やら異常な様子に、ヒフミとコハルが心配の言葉をかけるが……それには反応せず、アズサは語り続ける。
「……みんなにずっと、隠していたことがあった。でも、ここまで来たらもうこれ以上隠してはおけない……」
少し大きく息を吸った後、その一言を発する。
「……ティーパーティーのナギサが探している「トリニティの裏切り者」は、私だ」
困惑するヒフミとコハル。そして……黙ったまま、平静を保つ俺とハナコ。
アズサは語る。自身がアリウスの出身であること。任務を遂行するため、トリニティに潜入したこと。そしてその任務とは……ナギサを殺すこと。
……ようやく確信が持てた。
アズサは語り続ける。アリウスがミカを騙して自分をトリニティに入れたと。明日の朝が、ナギサを殺す日だと。そして……アズサは、ナギサを
明日といえば、本館には戒厳令が出ていて、更に正実は俺たちの妨害をする日。ナギサの警備が最も薄くなる日だろう。彼女を襲撃するには最適な日だ。
「ま、待って!おかしくない!?」
コハルが一度待ったをかける。
「よ、よく分かんないけどアズサはティーパーティーをやっつけに来たんでしょ?なのに守るってどういうこと?話が合わないじゃん!」
「それは……」
「……アズサちゃん
ハナコの言葉に、驚きの様子を見せるアズサ。
要は、アズサは二重スパイだったのだ。ナギサを守るために、ナギサを襲撃する作戦に参加した。
「……どうして、ナギサさんを守ろうとするのですか?それは、誰の命令で?」
「……これは誰かに命令されたわけじゃない。私自身の判断だ」
ナギサがいなくなれば、エデン条約は取り消しになる。そうなれば、キヴォトスは更なる混沌に陥る。その果てに、アリウスのような学校がまた生まれてしまうかもしれない。アズサはそれを憂いていた。
そのために、みんな騙した。俺たちも、アリウスも。
「……いつか言った通りだ。私はみんなのことも、みんなの信頼も……みんなの心も、裏切ってしまうことになる、と」
アズサは目を伏せている。
「本当にごめん。私のことを恨んでほしい。今のこの状況は全て、私がもたらしたことだから……」
感情を押し殺したような声。それなのに、辛そうなアズサ。俺はそれが
「何で諦めてるの?」
よく分からない。
「え……?」
「いや、だって……三次試験に受かればいい話じゃん」
「だ、だから……私は、その時ナギサを守らなきゃいけなくて……!」
「?先に敵を殲滅すれば良くない?」
何故か絶句してしまう三人。ハナコだけは少し楽しげに笑っている。
「……だとしても、今回の作戦メンバーはかなり手強い。私一人じゃ」
「俺たちがいるでしょ」
「なっ……こ、これ以上、みんなを困らせるわけには……」
後ろめたい顔でそう言うアズサ。そこに、ハナコが語りかけた。
「アズサちゃん。少し話は変わるんですが……どうして、補習授業部から姿をくらまさなかったんですか?」
「……」
「誰にも気づかれないように消える……そういう手段やタイミングは、今までいくらでもあったはず……でもアズサちゃんはそうしなかった。その理由を、私は知っています」
「……」
「……補習授業部での時間があまりにも楽しかったから。そうではありませんか?」
「……!」
この数週間は、アズサにとってどれほどのものだっただろうか。
みんなで毎日を過ごすこと。みんなで一緒に努力すること。みんなで感情を共有すること。そのどれもが煌めく宝石よりも大切な、心のこもった宝物。
アズサはこの日々を、時間を。壊したくなかった。
そしてそれは今も同じで。まだ、やりたいことがたくさんあるんだろう。
アズサは海に行ったことがない。だから海に行きたい。お祭りも行ってみたいし、遊園地にも……みんなと一緒に行きたい。それが、アズサの本音だった。
そしてそれはハナコも同じだ。本当の自分を見てくれる人がいなかったトリニティは、ハナコにとって監獄も同然。
だから成績を下げ、トリニティから逃げ出そうとした。それがハナコの本音だった。
二人の境遇は似ているところがある。彼女たちにとって、欺瞞の学園生活を送っていたということ。ハナコはそれが嫌になって逃げ出そうとしたけど……アズサは違った。彼女は、短い学園生活でもできることをいっぱいやっていた。
それは虚しいものだったのに。どれだけ頑張ろうとも、最終的に手放してしまうものだったのに。どうしてアズサは頑張ったんだろう?
アズサは知っていた。例え全てが虚しいことであろうとも……それは、諦める理由にはならないと。
その心境を知って……ハナコも、学園生活の楽しさに気づいた。
「下着姿でプール掃除をしたり、みんなで水着で夜の散歩をしたり、裸で色々なことを打ち明けあったり……自分をさらけ出せる人たちと、そういったよくあることを全力でするということが、こんなにも楽しかったんだと」
「うん……いや、裸ではなかったけど……」
「さ、散歩も水着ではありませんでしたよ……!?」
「え、やっぱりあれ下着だったの!?」
「ふふっ♡それに……自分のありのままを全て受け入れてくれる人が、いてくれることにも気づけました」
ハナコがちらっとこっちを見る。
「つまりは……虚しいことだとしても、最後まで諦めてはいけない。そんな心意気を、私はアズサちゃんに教えてもらったんです」
「ハナコ……」
「アズサちゃん、もっと学びたいんでしょう?もっと知りたいんでしょう?みんなで色んなことをやってみたいって、あの時話したじゃないですか。海に遊びに行くとか、ドリンクバーで粘って夜更かしとか。それを、諦めてしまうんですか?」
「私は……」
「いいんだよ、アズサ」
アズサが顔を上げた。俺のことを見てくる。
「俺は、そのためにいる」
「……先生……」
「ここには、正義実現委員会のメンバーと、ゲリラ戦の達人と、ティーパーティーの偏愛を受ける自称平凡な人と、トリニティのほぼ全てに精通した人……そして、何よりカケル先生がいます」
「俺たちなら、ナギサを守りつつ試験に受かるなんて、簡単さ」
「それどころか、トリニティくらい半日で転覆させられますよ♡」
「それはちょっと待ってくれ」
「冗談です」
嘘つけ目が本気だったぞ。
「作戦内容は一旦、私にお任せください」
「うん。それじゃあみんな……怖いかもしれないし、不安かもしれないけど、大丈夫だ。俺がいる限り、君たちを守ってみせる」
力強く、言葉にした。
「全部取りに行くぞ」
ちょっと他の小説読んでて、ふと思ったんですけどこの小説感想少なすぎません?
もっと色々言っていいですよ。というか言ってください。基本どんな感想も励みになりますので。
というか率直に言ってなんか寂しいです。めっちゃ自分語りですが、作者はわちゃわちゃ騒いでる光景が結構好きなので、感想で色々言ってくれてると気持ち悪い笑みして嬉しくなります。
なおそのくせ返信はしない模様。自分が返信する時は多分答えられる質問が来た時だけです。