呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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作者の周年ガチャ結果。興味ない人は飛ばしてください。

勝つさ、と意気込み望んだ周年ガチャ。無論理想は全員来てくれることだけど、実際四人中二人来てくれれば良い方だと考えていた。

その時、俺に電流が走る。

「それは雑魚の思考だ」

なんやかんや石とチケットを合わせれば、300連ほどはできた。この300連の間に、四人全員当ててみせる!

ありがとうかっしー。フォーエバーかっしー。

脳内かっしーに感謝して、ガチャを回す。

ケイ、臨戦ホシノ、臨戦アリス、そしてクロコ……天井こそ叩いたものの、一回だけ。彼女たちが揃う夢見た世界……それを、かっしーは実現してくれました。

天晴れだ鹿紫雲一。生涯貴様を忘れることはないだろう。



それはそれとしてケイが可愛すぎる。マジで世界一可愛い。本当に来てくれてありがとう。というか生まれてきてくれてありがとう。


28. 急襲

エデン条約。その調印式の日が、ついにやって来た。

 

今更説明する必要もない気がするが、改めてエデン条約の簡単な概要を話すと、エデン条約機構(ETO)と呼ばれるゲヘナとトリニティ混合の軍隊を設立し、それが両地区で起きる問題を解決することでゲヘナとトリニティの友好を進めるというものだ。

 

調印式を行う場所は「通功の古聖堂」という場所。大昔「第一回公会議」が開催された場所だ。

見た目はいかにも古聖堂……としか言えない気がする。歴史を感じさせるなあ。

 

周りを見れば、当然のことではあるがゲヘナの生徒とトリニティの生徒がいっぱいいる。普段同時に見ることなどまずあり得ないから、なかなか新鮮な気分だ。

 

さて。こんな場所に来て今俺は何をしているのかというと……何もしていなかった。

 

いやだって、別に多少ゲヘナとトリニティ間の取り持ちはしたけどエデン条約自体に俺の力が必要なわけじゃないし。

ぶっちゃけ今回はただの見物人になる気がする。珍しいもの見たさのミーハーというか……そういうと何か急にダメな気がしてくるな。

 

ふらふらと適当に歩く。何とも言えない荘厳さ漂う古聖堂。壁に触れてみれば、ゴツゴツとした感触。見たまんまの感触だな。

完全に観光気分だ。まあ最近張り詰め過ぎてた気もするしたまには息抜きもいいかなあ。なんて、適当に散歩していると、警備の子たちに止められた。この先は関係者専用だと。

 

警備の子たちも、ゲヘナの風紀委員会とトリニティの正義実現委員会の合同だ。普段は共闘どころか関わりもしないのに……何だか時代の節目を感じる。

 

少し感慨深くなってると、目の前で警備の子たちが喧嘩し始めてしまった。やっぱり急に仲良くはなれないようだ。そりゃそうか。

放っておくわけにもいかないし、ひとまず止めようとしたところで……

 

「きひひっ……」

 

「い、委員長!?」

 

「ツルギ先輩……!?」

 

「あ、ツルギだ」

 

正義実現委員会の委員長、剣先ツルギがやって来た。そのすぐ後に、シスターフッドの若葉ヒナタもやって来て、喧嘩してた子達を仲裁してくれる。

 

「……ここにいらっしゃるのは、シャーレの先生だ。覚えておけ」

 

「は、はいっ!」

 

「き、肝に銘じますっ!」

 

そういうことで、俺が介入する間もなく喧嘩は終わった。

 

「ありがと、ツルギ。助かった」

 

俺がそう声をかけると、先ほどまで仏頂面だったツルギの顔が赤くなっていき……

 

「い、いえ、そんな……とんでもありません、先生。ではその、私は他の任務がありますので……」

 

と言った後、逃げるようにどこかに行ってしまった。

 

「……なんか、やっぱり俺とそれ以外で態度が違う気が……気のせいか?」

 

「気のせいではないと思いますが……」

 

「あっ、ヒナタ。ヒナタもありがとな」

 

「いえいえ、そんな大したことはしていません……」

 

それから少しヒナタと雑談をする。

 

どうやら調印式にはシスターフッドも参加するらしい。今までは政治とは無干渉の姿勢を維持して来たシスターフッドだったが、この前の事件を機にもう少し対外的な活動もするようになったとのこと。

 

それから、古聖堂の案内もしてくれるとのことで、歩き回りながら古聖堂の解説を受けることになった。

 

「第一回公会議」が行われた場所、ということで歴史ある建物の古聖堂。今回使用にあたって修復作業を施したらしいが、その全てを直し切れてはないらしい。

また、この場所の地下には大規模な地下墓地(カタコンベ)が存在すると言われてるらしい。

 

しかし、歴史ある場所故か……実はさっきから……残滓、とでも言えばいいのかな。そんなものが見えている。

ヒナタもそれを感じるらしく、彼女はその理由を戒律の守護者の名残のようなものではないかと答えた。

 

曰く、約束を守らない者に罰を下す「制約」の役割を持つ集団がトリニティにはいたらしい。それが戒律の守護者であり……シスターフッドの前身「ユスティナ聖徒会」とのこと。

 

「ヒナタは物知りだね」

 

「仮にもシスターフッドに所属している身ですので」

 

「そっか。それにしても、トリニティの歴史は難しいな……」

 

今度ちゃんと勉強するかな……と考えてると、ヒナタの携帯が鳴る。間もなくシスターフッドの長、サクラコと現在ただ一人のティーパーティーとなってしまったナギサが来るらしい。

 

そういうことで、お話は中断。二人を迎えに行った。

 

それから、トリニティの首脳陣も集まり、ゲヘナの首脳陣も同様に集まろうとしている。

周りを見れば、メディア陣もかなり来ている。あれは……クロノスだったか?

 

エデン条約は歴史的なものになるだろうし、多分キヴォトス全土に配信されてるんだろうな。もしかしたらホシノも見てるかも……と思ってメッセージを送ろうとしたら先んじて『見てるよ』との回答が来た。さいですか。

 

そろそろ本番だなあ……と考えていると、何か異音が聞こえたような気がした。

 

…………これは、上空から?

 

ふと空を見上げる。古聖堂の中心は天井がなく、空が見える構造になっている。

 

そこから見えた青空。だけど、何か変な気がする。

 

何か、点……いや、あれはまさか、ミサ──

 

 


 

 

巡航ミサイル。点を制圧という目的において右に出るものはない兵器。

 

その命中精度や射程ゆえに、使い方としては遠方から何かを破壊する時に用いられる。

今回においては、その何かとは「古聖堂」

 

圧倒的な火力により、和平の場となるはずだった古聖堂は瓦礫と化し、神聖さを纏っていた空間は灼熱と炎の赤い光により地獄と化す。

 

話は変わるが、特級呪霊の指標の一つとして「クラスター弾の絨毯爆撃でトントン」というものがある。

九条カケルは、その特級呪霊を祓うことが可能な特級呪術師、それとほぼ同等の実力を持っている。少なくとも防御力は十二分以上にあると言えるだろう。

 

だがそれでも、ミサイルが直撃すれば無事ではいられない。

そう判断をしたのは、果たして正しかったのだろうか。

 

「げほっ……、一体何が……」

 

『先生!大丈夫ですか!?』

 

「アロナ……?」

 

煙の中から、カケルが現れた。本来であれば何かしらの傷があるはずだが、その体は綺麗なまま。

 

タネは簡単。アロナがバリアを張ったのだ。それにより彼に伝わるはずだった威力は大幅に減衰され、更に彼の硬さもあり無傷となった。

 

何が起きたかわからない彼は、自身に倒れかかって来た瓦礫を破壊して……そして晴れた視界に地獄を見た。

 

燃え盛る各地。崩壊した建物。立ち上る黒煙。そこら中に飛び散る血。生徒たちの、悲痛な悲鳴。

 

「……あ」

 

ドクンと、心臓が大きく鳴る。

 

九条カケルのトラウマが蘇る。かつて目の前にいたのに助けられなかった、大切な人。あの状況が、現状と重なる。

 

呼吸が荒くなる。

 

死を明確に感じられる。このまま放っておけば、きっとたくさんの生徒たちが死ぬだろう。

 

感情が、大きく揺れる。

 

もとより不安定になりかけだったそれが、更に大きく揺れる。視界が狭まり自分の息しか聞こえなくなっていく。

 

……これまでのことから、カケルについて立証されていることが一つある。

 

 

 

カケルは、感情が大きく乱れると連動して()()()()()()()()()()()

 

そしてその隙を敵は見逃さない。

 

 

 

カケルに向かって、何かが投げ込まれた。何か楕円の形をしたもの。カケルが、その正体……グレネードであることに気づくよりも早く、それは爆発した。

 

至近距離の爆発。轟音が響き、血が飛び散る。

 

九条カケルの防御力の根幹は、その圧倒的な呪力出力にある。では、その根幹が揺るがされた状態で攻撃を受けたならばどうなるのか。

 

 

その答えは、現在のカケルの姿を見れば分かるだろう。全身から血が滴り落ち、両腕は消し炭となっている。

だが頭部や胴体はそこまで深刻な怪我があるようには見えない。ブレた呪力が偶然そこをガードしたのだ。

 

「……ぐ、っ──はっ、いったぁ……」

 

だがそれでもかなり致命的な怪我だ。両腕欠損。脚部も抉れている。爆発で仮面が吹っ飛び見えるようになった顔は苦悶に歪んでおり、明らかに戦闘ができる状態ではない。

 

そしてそのチャンスを、アリウススクワッドは見逃さない。

 

アリウススクワッド。アリウス分校の精鋭達が集まったエリート集団。そして、今回の作戦の実行部隊。

 

そのリーダー、錠前サオリが背後より銃を構え、九条カケルに迫る。

 

背後から近づくものに気づいたカケルは、即座に反転術式で傷を再生。何が起きたかわからないながらも、ひとまずは距離を取り、対話を試みる。

 

「……何者……いや、その顔は……まさか、アリウススクワッドの……!?」

 

「そうだ。ようやく会えたな、先生」

 

アズサから聞いていたのだろう。襲撃者の正体を看破したカケルが驚きの表情をするが……痛みで逆に冷静になったのだろうか。すぐに顔を平静のものに戻す。

 

「ミサイルを落としたのも、君たちか」

 

「そうだな」

 

「っ……何が、目的なんだ」

 

「ひとまずは、貴様を殺すこととしておこう。彼女の厳命なのでな」

 

「……知ってるだろ。俺は簡単に殺せない。さっきこそ不意をつかれたが……」

 

「誤魔化しても無駄だ。貴様の回復術……それを使うと、防御面に隙ができるんだろう?」

 

「!?」

 

再びカケルの顔が驚愕のものになる。

 

カケルは普段呪力の全てを肉体強化に割いている。どんな攻撃も通さない硬さはそのおかげだ。

では、その分の呪力を反転術式に回すとどうなるか。当然強化する呪力は減り、防御力も落ちる。

 

加えて言えば、カケルは呪力効率が高いわけではない。先ほどまでほぼ致命傷だったのを一気に治したとなると……果たして、どれほど防御が落ちているのか。

 

「……誰から聞いた。その情報は少なくとも簡単に入手できるものじゃない」

 

「さあ。誰だろうな」

 

はぐらかすサオリに顔を顰めたように見せるカケル。だがその裏ではさまざまな思考を巡らせていた。

 

(……俺が反転を使ったのは、普段の脳の回復と……黒服の前……!そうか、あいつか!気づきやがったのか……さらにその上で、情報を流した……けどそれはどうにもあいつらしくない。って考えると、アリウスの裏に誰かいて、そいつと黒服が繋がってる……ってのが妥当か?)

 

「……ところで、不思議に思わなかったか?」

 

「……何がだ?」

 

「私がこうやって貴様とお喋りしていることが、だ。端的に言えば……時間稼ぎは終わった」

 

瞬間、遥か遠方より九条カケルの頭部に狙撃が入る。咄嗟に腕を挟んで防御するが……呪力強化したはずの腕から、血が滴り落ちる。

 

「えへ、えへへ……ここからなら、よく見えますねぇ……」

 

その狙撃の正体は、アリウススクワッドの狙撃手(スナイパー)。槌永ヒヨリによるもの。

彼女はサオリが話している最中、カケルを狙える狙撃スポットへと移動していた。

 

「さあ、先生。今の貴様に、狙撃を耐えつつ私と戦うことはできるか?」

 

サオリの持つアサルトライフルから銃弾がばら撒かれる。

 

ただ俯くカケル。その表情は見えず、果たしてなにを考えているのか。

そしてその姿が、一瞬にして消えた。

 

呆気に取られるサオリだが……即座にその意図を察する。

 

「っヒヨリ!今すぐにグレネードを起爆しろ!」

 

通信を入れる。

 

カケルが空を駆けていく。先ほどの狙撃から狙撃手の大まかな位置を特定。そしたらさっさと無力化するのみ……!そしてあと一歩の位置まで来たところで、カケルは見た。

 

「うぅ……痛いですけど、仕方ないです……」

 

ピンが抜かれているグレネード。

 

認識して即座に方向を転換する。後方から爆音と光。ギリギリダメージを受けずには済んだが……

 

(クソっ、狙撃手狙いの対策……あの分だとまだグレネードは大量にあるだろうな……)

 

考える。

 

(このまま彼女を狙い続けて……ダメだ。それだとあっちの……サオリって子がどれだけ被害を出すかもわからない)

 

考える。

 

(どれだけの数が投入されている?みんなの状況は?)

 

この状況の、最善策は……

 

「まずはサオリを鎮圧する」

 

決まれば早かった。

 

蜻蛉返りをし、サオリの元へ急行する。

 

「……来たか」

 

こちらへ近づく影を見て、サオリが銃を構え直そうとしたところで……一瞬、触れられたことに気がつく。

 

「っ!」

 

すぐに払い除けるが、既にカケルは大きく離れている。

 

「……ヒット&アウェイか」

 

カケルが移動速度を制御できるギリギリまで上げている。

 

彼が本気の移動をした場合、音速と同等の速さで自由自在に動くことが可能。カーブや切り返しなどの複雑な動きを含む場合は、ここがカケルの限界速度。

この速度で、サオリが反応するより早く触れることを繰り返し、戦闘不能まで持っていく。それが彼の判断だった。

 

何度もカケルがサオリに触れる。その度にサオリは反応するが、その時には既に遅い。当然狙撃も当たるわけがない。

 

「ならば、これならどうだ!」

 

サオリが四方八方に銃弾をばら撒き始めた。

 

カケルの現在の速度はあくまで制御の限界。目の前の物体を認識して反応するには速すぎる速度域。カケルの体に傷ができ始める。

 

だが、これでもまだカケルに分がある。傷つくといってもかすり傷程度。これだったら押し切れる……そう考えたカケルだが、ふと視界の端に人影を確認する。

 

直後。カケルを襲う嫌な予感。咄嗟に空高く飛び上がる。

 

サオリの周辺が爆発した。

 

「随分苦戦してるみたいだね、リーダー」

 

「いいタイミングだ、ミサキ」

 

戒野ミサキ。彼女の武器はロケットランチャー。放たれた弾がサオリ付近の地面に当たり、爆発したのだ。

 

「相手は速すぎる。とにかく周辺に弾をばら撒け」

 

「了解」

 

ミサキが今回携帯させられたアサルトライフルを手に取る。"彼女"曰く、先生にロケットランチャーは相性が悪いだろうとのことで、それ故に今回特別に持たされた武器だった。

 

一方、カケルは空中で考える。

 

(新手……にしては数が少ない。みんなの姿が見えないことから察するに……雑兵でみんなを誘導して、その隙に少数精鋭で俺を殺すってことかな)

 

地上からの狙撃を避ける。

 

(二人……銃弾の数も単純に倍。やれるか?いや、やるしかない……!)

 

考えがまとまり、再び地上付近に急降下する。

 

再びのヒット&アウェイ。だが先ほどよりも数が多い銃弾は確実にカケルの体力を削っていく。

 

同様に、サオリもかなり体力を削られていた。先ほどからカケルの術式を一瞬とはいえ何十回、もしかすると何百回と受けているのだ。

 

このままでは両者ジリ貧……盤上に欲しいのは、外からの異物。

 

 

──何かが顕現した。

 

 

それは明らかに人……もしくは生者ではない。

 

白に近い水色の肌。顔につけているガスマスク。その身に纏う、シスターのような服……それはまるで幽霊だ。

 

突如無数に出現したそれらの名は「ユスティナ聖徒会」

戒律を破るものを罰する、制約そのものである。

 

「来たか……」

 

「条約に調印が為された……姫、上手くいったんだね」

 

それは明らかにアリウス側への増援だった。

 

予想外の増援。カケルの思考が一瞬止まり……聖徒会から銃を放たれる前に再び空中に避難。思考をまとめ始める。

 

(……古聖堂全体にアレが出現してる……まずい。こんな突然の増援、普通の生徒じゃ……どうする、彼女たちを鎮圧するにはまだ時間がかかる。だがみんなを助けに行っても、その隙に大きな被害を出されたら……)

 

ぐるぐると思考が巡る。非常にまずい状況。手詰まり。詰み。

マイナスの言葉が次々思い浮かぶ。この盤面を打開するには。

 

突如として、聖徒会たちが消し飛んだ。黄色の閃光……否、アレは幾重にも連なった銃弾。

 

「先生っ!!」

 

「ヒナ……!?」

 

現れたのは "ゲヘナ最強" 空崎ヒナ。

 

その全身からは血が流れ、満身創痍のように見えるが……確かにその足で立っている。

 

「その亡霊たちは殺しても死なない!!」

 

その言葉の意味。それを理解する。

 

 

術式順転

 

「輝綫」

 

 

掲げた手より、光が放たれる。

 

それは打ち上がったのち、花火のように散り……各地に散らばる聖徒会を一瞬で消し飛ばす。

しかし、聖徒会は完全には消滅せず再生していく……それを感じ取るカケルだが、今は猶予ができたということが重要だ。

 

(三分、いや一分で終わらせる!)

 

ジリ貧。泥沼。それを覆したのは、盤面に存在しなかった異物。

 

一瞬で消滅した聖徒会に気を取られたサオリ。彼女の腕を、カケルが掴む。

 

「──!離せっ!」

 

振り払う動作が遅れた。一瞬触れられた時とは比較にならない神秘が奪われた。

その上、新たに参戦した空崎ヒナの存在。

 

見出した勝機。

反面、アリウスにとっては敗北の契機となる。

 

状況を認識したサオリの判断は。

 

「っ、一度撤退するぞ!」

 

背を向け逃げ始める二人。その背を貫くように数多の銃弾が襲う。

 

「ぐっ、空崎ヒナぁっ……!!」

 

「逃がさない……っ!」

 

痛みはあるはずだ。苦しくあるはずだ。しかし、彼女の立場と想いは倒れることを許さない。

 

逃げ行く彼女たちを追いかけるため、走ろうとしたところで……足がもつれる。転びかけて

 

「あんま無理すんな」

 

「先生……」

 

正面からカケルがそれを支える。抱き止めるような形のそれは、しかし甘い雰囲気などない。

 

「大分重傷だ。もう休め」

 

「っでも、先生も全身から血が……!」

 

「俺は大丈夫。後は俺が全部やるから、早めに撤退して治療を受けろ」

 

落ち着いた手つきで、ヒナを立たせるカケル。

そして言い終わると、ヒナからの返事も聞かずアリウスを追いかけ始める。

 

「俺を殺すんじゃなかったのか。アリウススクワッド」

 

「先生っ……!」

 

「悪いがここで終わりだ。一度眠ってくれ」

 

一瞬にしてアリウススクワッドに並ぶカケル。向けられた銃口。撃たれた銃弾を避け、サオリに触れる。ミサキがカバーに入るが、何かアクションを起こす前に離れる。

 

少なくともサオリは限界に近い。先に彼女を倒し、それからミサキを倒す。そう判断する。

 

(彼女たちが戦力の要だろう。そこを押さえれば、後は消化試合だ……!)

 

明確な勝機。その上そこに油断はない。

もはや天秤が傾くことはないはずだった。

 

カケルの視界に、一人の生徒が映る。

 

その子は、先生とは全く関係のない生徒だ。それほど上の立場にあるというわけでもなく、これといった個性もない。いわばモブ……

 

その子は、倒壊した建物に巻き込まれて、足が挟まれていた。動くことはできない。

 

サオリが、その子に気がついた。逡巡の後、銃口をその子に突きつける。

 

問題はない。彼女たちはキヴォトス人なのだ。たかが銃弾の一二発で死ぬことはない。そう、だから無視をしていい。

 

 

 

「先生…………助けて」

 

 

 

九条カケルは先生である。

 

その子に向けられる銃弾を、咄嗟に体で庇う。

 

 

彼の左目の穴を銃弾が貫いた。

 

 

意識が途切れる直前。彼は最後の力でその子を捕らえていた瓦礫を破壊する。そして、その子が必死で逃げたのを見て、その視界が暗転した。

 

その場に立つのは、サオリとミサキ。勝者は、紛れもなく彼女たちだった。

 

「……先、生……?」

 

聞こえた声に振り返る。

空崎ヒナ。彼女も追いかけてきていた。

 

動かない先生を見て、動揺が走る。

 

「……あなたたち、先生は……」

 

「殺した」

 

「──」

 

その顔が、絶望に染まっていく。

 

「ぁ、」

 

それから、一瞬泣きそうになって。ぎゅっと銃を握り込み。

 

「あぁあ……」

 

怒りに染まる。

 

「──うあああああああああああっ!!!」

 

感情のまま銃口を二人に向ける。そしてその二人を殺そうとしたところで、その頭部に銃弾が撃ち込まれた。

 

「うぅ、辛いですよね……苦しいですよね……もうすぐですからねぇ」

 

「ぐっ、あああ!アリウスぅっ!!」

 

「そんなに大きな声を出さずとも、聞こえている」

 

互いに銃口を向けあい、刹那に走る緊張。

 

ヒナの側面よりロケットランチャーの弾。間一髪で気付き、腰より生える翼をバネのようにして上空に回避。

 

そのまま上下反転。改めて狙いをサオリに定める。同時にサオリも距離を詰めてきた。

ヒナの銃口より、まるで紫色のレーザーのような、それほどまでに詰め込まれた弾幕が打ち出される。

 

「ぐっ……!」

 

ゲヘナ最強の異名は伊達ではない。今までに食らったことないような衝撃を受け、サオリが後方に吹っ飛ぶ。そしてそれを追いかけるヒナ。上手く地面に着地すると、翼を補助として扱いつつ一瞬でサオリに接近、倒れている彼女の頭部に銃口を突きつける。

 

「許さない……許さない……っ!」

 

「っ許さない、だと?それは私たちの台詞だ!元はと言えば貴様らの罪だ!あの男はそのための犠牲だった!」

 

「ふざけるなっ!!先生は何の関係もないだろうっ!!」

 

「いいやあるさ!貴様らに加担していたという罪がな!」

 

「……もういい、大人しく──」

 

狙撃。だがそれを予測していたヒナが、倒れているサオリの首を掴み上げ肉壁とする。

 

「ごっ……!?」

 

「これで狙撃も意味をなさない。強がっているけど、あなたももう満身創痍……あと戦えるのはあの──」

 

そこまで言葉を出して、気がつく。さっきまでいたはずのもう一人、ロケラン使いがいない。一体どこに……姿を求めて辺りを見廻し、見つける。

 

倒れ伏す、カケルのそば。そこに彼女はいた。

 

「なっ」

 

「動くな。もし動いたらこの先生をぐちゃぐちゃにする」

 

かけられる脅しの言葉。それに対し何か答えを出すよりも先に、銃弾が頭部を穿った。

三度、ヒヨリによる狙撃。

 

衝撃で、サオリを掴んでいた手が離れた。その隙をついて距離を取るサオリ。

 

「ミサキ!」

 

「分かってる」

 

フラつくヒナ。そこに追撃のロケランが撃ち込まれた。一般的なキヴォトス人でも、ここまでやれば通常気絶するが……倒れかけていた体が、止まった。それから、また銃を構えようとして……目の前より迫る弾幕に気づく。

 

「さよならだ、空崎ヒナ」

 

サオリの放った弾幕。それが的確に命中し、遂にヒナも倒れ伏した。

 

「……ぐっ、はぁっ……」

 

同時に膝をつくサオリ。ミサキが駆け寄っていく。

 

「リーダー、休んだ方がいい。一度撤退するべきだよ」

 

「そうだな……目的自体は果たせている。姫を回収して、拠点に帰還する」

 

力が入っていないサオリの体を肩で支えるミサキ。

 

「それからリーダー、先生はまだ生きてるっぽい。放っておいても死ぬと思うけど」

 

「そうか。いや、トドメは刺しておこう」

 

ゆっくりと、カケルに近づいていく。辺りは未だ瓦礫で溢れかえっていて、誰か来る気配もない。

サオリがカケルに銃口を向ける。

 

「さよならだ。先生」

 

そして引き金を引く──直前。何かが上空より、二人の背後に降り立った。

 

ドゴオンという轟音を響かせ、着地した何か。その正体を探ろうと、目を着地地点に向けて……言葉を、失う。

 

──バカな。

 

何故、奴がここにいる。

 

──バカな!

 

私たちが襲撃を始めて、まだ十分程度しか経過していないんだぞ!?

 

──そんな、バカなことが……!

 

確かに、マダムより聞いていた。彼女は、最も警戒するべき生徒だと。だが、それはこの場に来れたらの話で、少なくとも先生を殺害するまでには来れないだろうという結論だったはずだ!

 

それが、どうして……

 

「一秒やる」

 

それは、ピンクの長い髪をしていた。ただ、いつもロングにしているそれは、今日はポニーテールとなっている。

 

防弾ベストを制服の上から着ていて、その片手にはショットガン。放たれる神秘は、このキヴォトスで最高のもの。

 

「どけ」

 

オッドアイの双眸が、鋭く煌めいた。

 

"キヴォトス最強" 小鳥遊ホシノ 現着




奪われかけてたヒロインの座を取り戻しに来た女。やっぱホシノには可愛いだけじゃない魅力があるな……



今週の呪術。綺羅羅が可愛すぎるんだが。この子そろそろ出番なくなるってマジ?
ラストの方の演出賛否両論ありそうだけど、個人的にはかなり面白かった。迫力がないのはそうだけど、なんか不気味な雰囲気がずーっと漂ってるし、緊迫感もあって割と好み。
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