誰もが動けなかった。
放たれる圧。人を殺せそうなほど鋭い視線。一挙手一投足全てが、死を連想させてくる。
「……二度は言わない」
「っ……」
ゆっくりと近づいてくる最強。サオリとミサキが知らずのうちに後ずさる。
動けたのは、サオリ。何かされる前にまず先生を殺そうと──「遅い」
引き金を引くよりも早く、気づけばホシノがサオリを殴り飛ばしていた。
既にカケルとの戦闘で体力が削られていたこともあり、その一撃でサオリの意識が飛ぶ。体が幾度も跳ねた後、地面に倒れ伏した。
「リ──「お前もだ」
それを見てミサキが何か行動を起こす前に、またも殴り飛ばされる。
まるで車に轢かれたかのように吹っ飛び、瓦礫に激突する。かろうじて意識はあるようだが、立つことすらできないダメージを負っている。
ホシノはそれを一瞥すると、カケルに近づき……その際、自身に飛来した銃弾を掴み取る。
「……狙撃手か……」
そう呟くと、弾が飛んできた方を見やり……掴んだ弾を投げ返した。
ホシノが投げた弾は、信じ難いことに銃で飛ばした時と同じ軌道を辿り……ヒヨリの頬を掠める。傷口から血が少量流れた。
「ぇ、え?あっ、血、え?な、投げ返された……?」
どう考えてもあり得ないこと。しかし頬の痛みが現実だと教えてくる。一瞬にしてサオリとミサキを倒し、そして遠く離れた自分にすら傷をつけてきた……その彼女が今、スコープ越しのこちらを見ている。
何か喋っているようだ。音が聞こえないため、口の動きから言葉を読み取る。
「邪魔すれば、殺っ、こ、ひぃっ」
ホシノの瞳。黄色と水色のそれが、ヒヨリを見ている。あれは、本当に殺せる人の目だ。
いつの間にか、銃が震えていることに気づく。
違う、銃を持つ自分の手が震えている。
恐怖で狙いが定まらない。ヒヨリが銃を手から落とした。
「……」
もう撃ってこないことを確認したホシノは、改めてカケルに近づいていく。
「っ……バカ……」
仰向けに倒れ伏しているカケル。その全身からは血が流れ、左目があるはずの場所はぽっかりと穴が開いている。
どう見ても致命傷だが……微かに呼吸をしており、胸に触れれば弱々しい鼓動が感じられる。
「……死なせない」
まだ、早急に医療施設に運び込めば可能性はある。命さえ繋げば、後はカケル自身の反転術式で回復可能だ。
そう判断したホシノは、カケルを担ぎ上げ飛び出す……前に、倒れているヒナを発見して近づいていく。
怪我の具合を簡潔に確認した後、同じようにヒナも担ぐ。
「……ぅ、小鳥遊……ホシノ……?」
「ヒナちゃん。大丈夫?」
「私は、大丈夫だけど……せ、先生が……」
「カケルはまだ生きてる。近くに医療施設はない?」
「……ここからなら、トリニティのものが近い……!」
「分かった」
一歩踏み出し、神秘を爆発させる。いつもよりも荒々しく感じられたそれは、辺りの瓦礫を吹き飛ばしていった。
少し時は巻き戻る。
それは、古聖堂にミサイルが直撃したあたりの出来事。
この日。補習授業部の四人はとあるファミレスでちょっとしたパーティーを行っていた。
退学の危機を回避し、補習授業部を卒業したことのお祝い……そんなものを行っていた。
異変が起きたのは、ミサイルが古聖堂に直撃する数秒前。ミサイルの微かな音を確認したアズサが、咄嗟に走り出した。
走って着いたのは、街中にある巨大なスクリーン……その時は、エデン条約の様子を生中継していた。
青空をミサイルが二分していく。
(……まだ、終わってなかった? いや、これから始まる……? サオリ、まさか……!?)
それから、ほんの数秒時が流れた後……爆音、衝撃、破壊。破滅への足音が聞こえた。
それを確認したアズサは、即座に古聖堂に向かって走り出した。
一方その頃、他の三人も異常事態を把握し始めたところだった。
何かおかしいと外に出てみれば、人が一斉に逃げ始めている。
明らかな異常事態だというのに、アズサがいなくなったのに焦るヒフミ。古聖堂に何か起きたことを知って先輩を心配するコハル。二人がそれぞれ走り出してしまいそうなのを、ハナコが止めた。
今は固まって動き、事態の把握に努める。一時的な目標を共有した三人は、トリニティ総合学園本校舎に向けて走り出した。
そうして現在、校舎前についたはいいものの……人がごった返していて、何が起きているのかまるで分からない。
どこに行こうとも人に塞がれる三人。そんな彼女たちに声をかける人が一人。
「ハナコさん、補習授業部の皆さん……!」
「ま、マリーさん?」
シスターフッド所属の生徒。マリー。彼女が、ハナコに助けを求めにきた。
曰く、非常事態により各派閥が暴走し始めており、それを止められるのはハナコしかいないとのこと。
だがそうすれば二人を守れない。思考するハナコ。
それとほぼ同時に、コハルも声をかけられていた。正義実現委員会の子だ。
曰く、これから方針の会議をするらしく、部室に至急集合して欲しいらしい。
だがそうすれば、二人からは離れてしまう。迷うコハル。
決断を迫られる二人を見て、ヒフミが決意した顔で話す。
「……ハナコちゃん、コハルちゃん。私はアズサちゃんを探します。お二人はそれぞれの場所へ、行ってきてください」
「ヒフミちゃん……」「……で、でも」
「こっちは大丈夫です、アズサちゃんなら必ず戻ってくるはずですから。見つけたらすぐ連絡します!」
その言葉に背を押され、決断した二人。お別れをして、それぞれ駆け出そうとしたところで……
「う、上から何か来るぞーーー!!!」
誰かの声。思わず上を見上げて……それを目視する。離れすぎてて、小さな丸にしか見えなかったそれは……どんどん落下し、その輪郭を確かにしていく。
落下予測地点から人が逃げ始める。穴のが開いたそこに、それが着地した。
「……ホシノさん?」
「やっぱり、ヒフミちゃんか。医療施設がどこにあるか分かる?」
現れたのは、人を二人担いだホシノ。前見た時と違うのは、防弾ベストを付けていることと、髪型がポニーテールになっていること。
「えっ……と、その前に、何で」
「いいから、カケルが危ないんだよ。早く教えて」
表面上は平静を保とうとしているが、明らかに憔悴している。体は忙しなく小刻みに動いていて、今にもどこかに走り去ってしまいそうだ。
「カケル……?」
「っ先生のこと! ひどい重傷で、急いで治療しなきゃいけない!」
「えっ!?」「じゃ、じゃあその担いでいるのって……」「っ……!」「……!」
驚くヒフミ。察してしまったコハル。青ざめ、口を押さえるマリー。驚愕に目を見開くハナコ。
「そんな反応いいから! 早く場所を──」
「でしたら、私が案内します。マリーちゃん、申し訳ないんですが……」
「分かってます。急ぎましょう!」
「はい、それでは……二人とも、必ず無事でいてください」
案内を買って出たのは、ハナコ。二人に別れを告げた後、マリーを連れて走り去っていく。
「……そ、それじゃあ私も行くけど……」
「はい。私は大丈夫ですから、コハルちゃんも頑張ってきてください!」
「! うん……ヒフミも、アズサのことよろしくね!」
一拍遅れて、コハルも正実の元に駆け出す。
そしてみんなを見送った後、携帯を見たヒフミもどこかへ駆け出した。
カケルとヒナのため、走り続ける三人。
「っもっと速く走れないの!?」
二人の後を追うホシノが、苛立ったように声を出す。
「っは、私ではこれが限界です……」
「わ、私も……申し訳ありません」
「なら行き方だけ教えてくれれば──「それではダメなんです!」何で!?」
「今、トリニティは混乱状態にあります。そんな中、部外者のあなたが救護騎士団を訪れても、最悪門前払いです! おまけに、ゲヘナの風紀委員長まで連れていますし……」
「ああもう! トリニティって面倒くさい学校だなっ!」
「うっ、ひ、否定できません……」
マリーが悲しげな顔をするが、今のホシノがそれを気遣える余裕はない。
「だったら、二人とも一度止まって!」
その言葉通り、前へ進もうとする体にブレーキをかける二人。ホシノは担いでいた二人を一度下ろした後、ハナコやマリー諸共両脇に抱え直す。
「さっきより速く行くから道順を!」
合計四人を抱え、しかし一気に速度を上げる。
先ほどより倍以上速いスピードで走り続け、かなりの速さで救護騎士団管轄の場所に辿り着く。
「な、誰──「急患! 二人とも傷が深い、急いで治療の準備をして!」
「いや「この方は、負傷者を連れてきてくれたホシノさんです! 詳細は後ほど説明しますので、とにかく急いで容態を確認してください!」
「え、いや「お、お願いします!」……わ、分かりました」
三連の圧によりひとまず第一関門を突破した。慌てたように奥の方へ向かう監視の生徒。
少しすると、救護騎士団の生徒が何人か現れる。それから、怪我の具合を確認し始めたところで……
「!? こ、こいつ、空崎ヒナ!?」
「えっ、それってゲヘナの……!?」
ハナコの予想通り、騒ぎ始める生徒たち。
「け、怪我人にゲヘナがどうとか関係ないと思います!」
「で、でも私聞いたよ! 空崎ヒナが、事件の黒幕だって!」
マリーが何とか反論するも、混乱し始めた現場は止まらない。
(やはり、情報が錯綜している……! 早くトリニティの統制を取り直さなければ、最悪取り返しがつかないことに……いえ、今はひとまず方便を考えなければ……!)
「黒幕なら、何故怪我をしているんですか!?」
「それは……」
「双方とも落ち着いてください!」
「お、落ち着いていられるか! 男の方はともかくとしても、何で空崎ヒナを……もし、それで大変なことになったらどう責任取るんだ!?」
「それは──「私が責任を取るよ」
冷ややかな声。あれだけ熱くなっていたみんなが、思わず黙る。
声の方を見れば、ホシノ。
「ヒナちゃんが目覚めて、もし何か大変なことをしそうになったら私が
「……は、はい……」
圧倒的な威圧感。ナイフを頸動脈に当てられていると錯覚するほどのそれに、抗えるものは誰もいなかった。
「……二人ともありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございます。あなたの言葉が無ければ、きっとより足止めされていました」
お互いに感謝を述べ合う。
「二人にはやることはあるんだよね? 二人のことは私が見ておくから、早く行きな?」
「そうですね……では、失礼します。マリーちゃん」
「はい! ご案内させていただきます!」
そうして、ハナコとマリーはその場を後にした。
「……ここは」
気がつくと、見覚えのない……いや、見覚えがある場所だ。ここは確か、ティーパーティー専用になっている……
外は夜空で覆われていて、ランプの灯りだけがここを照らしている。
大きな机に隣接している椅子の一つ、そこに俺は座ってた。
何が起きた? 確か俺は、生徒を庇って……
「はじめまして、かな?」
「っ!?」
突然声をかけられ、そっちを向く。ちょうど俺の真反対、そこにいたのは狐のような耳を生やした金髪の少女……俺は彼女のことを知っている。
「セイア……?」
「おや、もしやはじめましてでは……ああいや、写真でも見たのか」
「……どういうことだ。何が……」
「そうだね。これは私の
精神への干渉……? だが、何故このタイミング……いや。
「俺が現実で気絶している今だからこそ、か」
「流石に理解が早いね。君とのお話は円滑にいきそうだ」
「今じゃないとダメってことは、俺が目覚めたら終わり……その前に、用件を話してくれるかな?」
現実の状況も気になるが、多分確認する手段はない。今はセイアとの会話に徹するべきだな……
「用件……か。実を言うと、そんなものは無い」
「……は?」
「どうせ変わらない結末なんだ。私がどう干渉しようとも、未来は変わらない」
その顔は、諦め切った人のそれだった。
「……君には、未来が見えるのか」
「そうだね。私はこの先を知っている……辛く、虚しく、全てが破局につながるエンディングまで」
「何が起こるんだ」
「単純に一言で説明できる話では無いのでね……一つずつ紐解いていくことになる。それでもいいなら、話そう」
セイアの問いかけに頷く。
「なら……まずは現状から整理していくとしようか?」
そして語られる、今回の事件の全容。
まずは動機から。きっかけは、アリウスの復讐。過去弾圧されたことを恨みの素として……ゲヘナも、トリニティも潰す。それを動機として、アリウスは今回の作戦を実行した。
最初に、古聖堂をミサイルで爆破。混乱に陥れる。その目的は……即ち、
そうしたら、次は「ユスティナ聖徒会」の召喚。何やらロイヤルブラッドという特別な体質を持つ人を用いて、ユスティナ聖徒会の神秘を複製したのだと。
そうして顕現したユスティナ聖徒会の
こうして、不死身で強大な軍隊を手に入れるのが、アリウスの目標だった。
そしてそれを用いて、ゲヘナとトリニティを潰す……
「これが、彼女たちの目的だ」
「……そうか……」
……俺がもっと早く……アリウスを助けるために動いていれば……
「先生。それは無意味な仮定だよ。アリウスは誰にも見つからない場所に隠れていたし、仮に見つけ出せたとしてもその怨恨を無くすことは不可能だ」
「……分かってるよ」
何て情けないんだ、俺は。生徒を守ると、そう約束したのに……
「話を続けよう。そうしてその作戦は無事に成功した。間もなく、トリニティへの侵攻が始まるだろうね」
「っ、止めなきゃ……!」
「止まらないよ。アズサも失敗してしまったし」
……は?
「どういう、意味だ」
「白洲アズサ……彼女は、単身アリウススクワッドを殺そうとしたんだよ」
古聖堂襲撃のニュースを見たアズサは、アリウススクワッドを止めるため即座に古聖堂に向かった。だけれどアリウススクワッドは見つからなくて……そこで思い立ったのだろうね。何か理由があって、一時的に拠点に撤退していると。
実際、その推測は正解だった。小鳥遊ホシノによってサオリとミサキはかなりの重傷を負った。故に、彼女たちは仲間であるヒヨリ、アツコと合流した後前線拠点に一時撤退したんだ。
……ホシノが出てくる意味が分からない? それもそうか。君はその時には意識を失っていたからね。君たちの関係を詳しくは知らないが……大事な人なんだろう? だから、襲撃のニュースを見て即座に飛んできたんだろう。そして君を助け、その際サオリとミサキを戦闘不能にした。
話が逸れたね。それで、拠点で療養していたスクワッドにアズサが襲撃をかけた。サオリは満身創痍。ミサキもかなりの痛手を負っていたから、まともに活動可能だったのはヒヨリとアツコだけだったけど……アズサも、トラップを設置できてなかった故に万全では無かった。
そうして戦いが始まったわけだが……やはり一番の問題は初手でヒヨリを仕留められなかったことだろうね。そのせいでアズサはヒヨリの狙撃を気にしつつアツコと戦うことになった。
これもまたまずかっただろう。何しろ、アツコはあまりアズサに敵意を持っていなかったんだ。アズサも完全に覚悟を決めていなかったし、互いに膠着する中でヒヨリの狙撃が着々とアズサの体力だけを削いでいった。
そしてそのうち、体力を回復させたサオリが奇襲をかけてアズサは敗れることになる。敗れたアズサは、サオリの隙をついて逃げ出した。
その際、アズサはぬいぐるみを置いていったんだ。ヒフミに貰った、初めての友情の証……そのぬいぐるみをね。
アズサはそれに、本来私を殺すために使われるはずだったヘイロー破壊爆弾を仕込んでいた。仮に自分が負けても、サオリの命だけは取るためにね
アズサはサオリがそれを持つと考えていた。自分に対する担保としてそれを持つと思考していたんだ。実際それは間違いなかっただろう……サオリが万全であったならの話だが。
一対一でアズサを取り逃すほど疲労困憊だったサオリは、あろうことかそのぬいぐるみを見逃したんだ。そのせいで、アレの中に仕込まれたヘイロー破壊爆弾は実質不発……アズサの襲撃は完全に失敗した。
もしもアレがサオリに当たっていたら、間違いなくヘイローが壊れていただろう。その場合、トリニティに侵攻なんて不可能になっていた。
もしもアレがアツコに当たっていたら、恐らく
だが現実はそのどれでも無い。アズサは失敗し、もうすぐトリニティ侵攻が始まる。そうなればトリニティはお終いだろうね。
これが、結末さ。
「……アズサ……」
俺の、せいだ。
俺がちゃんとアリウススクワッドを鎮圧できていたなら……そんな過酷な運命に、身を投じなくても……!
「っ、他のみんなは!? 大丈夫なのか!?」
「一番酷な運命を辿っているのはアズサだね……他は、ハナコは自滅しかかっているトリニティを持ち直そうと努力したり、コハルもできることをやったり、ヒフミは……彼女も中々かな。アズサに正面から別れを切り出されて……その辛さは計り知れ無いだろうね」
「……他に、何か酷い目にあっている子はいないか?」
「ふむ、酷い目の定義にもよるが……少なくとも、死んだ子はいないし、罪を犯した子もいないよ」
「そうか……」
なら……まだ。
「……他に質問がないなら、これで終わりだ。最後に、話せて嬉しかったよ。本来なら現実でも邂逅したかったが……それは高望みというものだな。夢での別れとなってしまうことを──「まだだ」……何?」
「まだ、希望はあるはずだ」
まだ、アズサは一線を越えたわけじゃ無い。まだトリニティ侵攻が始まったわけじゃ無い。まだ誰かが死んだわけじゃ無い。
まだだ。まだ終わっていない。
「……口ぶり的に、セイアはそれ以上未来を見ていないんだろ?」
「確かに、そうだが……」
「なら、まだハッピーエンドに向かう可能性だってあるわけだ」
椅子から立ち上がった。
「待ちたまえ、先生。君が起きたからといって結末は変わらない……」
「変わるさ。少なくとも俺はそう信じてる」
「……信じる?」
「そうだよ。夢から世界を覗きみれるのに、俺の言葉を聞いてないのか? 俺はハッピーエンドを信じたいから、信じる」
「そんな、感情任せに信じ込むことに何の意味が……」
「……さあ?」
「……は?」
ポカンとした顔をするセイア。
「意味、か。考えたことなかったけど……信じたいと思ったから信じる。信じられると思ったから信じる。それだけじゃないか?」
「……それは……いや、しかし……」
「とにかく、俺は行くよ。まだきっと間に合うしな」
「ま、待ってくれ……例え間に合ったとして、君はどうするつもりなんだ!?」
「え?」
「確かに君が力ある存在であることは承知の上だ。だが、今の状況は一人で変えることはできない! 君の力も戻り切っていない今、無策に突撃しようとも再度敗北を喫するだけだ!」
何で引き留められてるんだろう、と思ったけど……俺のことを心配してるのかな。優しい子だ。
「策ならあるさ。大丈夫、信じてくれって」
「策……?」
「そう、縛りを使えば十二分に戦えると思う。例えば腕捨てたり、目ん玉捨てたり」
「……は?」
「後は……そうだな。部位を捨てた後、そこの治癒を禁じればより効果的だとは思う。まあとりあえず四肢……だと動きに支障が出るし、捨てるなら内蔵かな。まあとにかく、絶対に止めてみせる」
だから大丈夫だと、安心させるように笑ってみせる、がまだ暗い顔をしている。
「……何か不安要素があるのか?」
「いや、き、君は……何を言っているんだ?」
「え?」
「何故、そこまでやるんだ? 君にとって彼女達はそこまで大切な人なのか?」
「……うーん。そう言われると、ちょっと疑問の余地はあるけど」
「じゃあ、何で……」
「俺は生徒を守らなきゃいけないからね」
そういうものなんだ。俺は必ず使命を果たさなきゃいけない。
「……待て。今君は守らなきゃいけないと言ったのか?」
「? そうだけど」
何を疑問に思ったのか、セイアがそう聞いてくる。何故だか深刻そうな表情だ。
「それじゃあ、君は……自分がやりたいからではなく、ただの使命感で人助けをすると、そう言っているのか?」
「いや、それは違うよ。これは先生のためにやってることだから」
「先生……?」
誰よりも苦しんで、誰よりも絶望しているあの人のために、俺はやらなきゃいけない。
「それは……いや、それでも分からない。何故、その人のためにそこまでできるんだ? 自分を捨ててまで、そこまでやらないといけない理由があるのか?」
「うん。まあね」
「それは、一体……?」
「贖罪」
「……贖罪?」
……段々と、意識が霞んできたのが分かる。気絶しているのに意識が霞むと言うのも変な話だけどね。
「とにかく、俺は行くよ。必ずみんなを助けるし……それに、君だって」
「……?」
「セイアがずっと目覚めなかったのってさ。多分、怖かったんでしょ。この先を見ることが、絶望を感じてしまうことが」
「何を……」
「大丈夫。後は全部俺がやるから。安心していてよ」
最後に、今度こそ安心してくれるように笑って、そして……夢から覚める。
結局は、彼も17歳の少年なのに。