呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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if:ユメ先輩が死んでしまった後、カケルがホシノの元に戻ってきてたら。

超今更ですが、この小説ではユメ先輩が死んだのはセトの憤怒のせいです。本編軸ではあいつは復活したカケルくんにぶっ殺されましたが、この世界では多分死んでない……はず。

ちなみに本編軸だとセトは二度と復活できません。ヒエロニムスも同じく二度と復活できません。


幕間:もうなにもいらない

 歩く、歩く、歩く。

 

 砂を踏みしめる音がよく聞こえる。ザッ、ザッ、ザッ……

 

 歩く、歩く、歩く。

 

 もう歩きたくなんてないけど、それでも歩く。

 下が見えないのは何でだろうか。

 

 歩く、歩く、歩く……

 

 ザッザッザッという音が聞こえなくなったことに気づく。

 顔を上げれば、学校。俺が通っている、アビドス高等学校。

 夜空の下、その校舎が立っていた。

 

 今の時間、あいつはいるのだろうか。

 

 中に入って、再び歩き回る。そのうち、明かりがついている教室を見つけた。

 

 その扉を開こうとして……腕が使えないことを思い出した。

 見たくないものが見える。感じたくないものを感じる。

 

 恐怖と吐き気が一瞬で俺を満たして、すぐに逃げようとして……その足を踏みとどまらせる。逃げちゃダメだ。

 

 そう、向き合わなきゃいけない。

 

 扉の窓越しに、人影がこちらに近づいてくるのが見えた。影が大きくなるたび、心臓がバクバク鳴る。

 

 扉が、開いた。

 

「……カケル? こんな時間に……って、ユメ先輩も? というか、何でお姫様抱っこ……」

 

 出てきたのは、ピンクのショートヘアを持つ少女。黄色と水色のオッドアイが訝しげに細められる。

 

「……何で黙ってるんですか?」

 

「っ、あ」

 

「!? な、何で泣いて……」

 

 伝えなきゃいけないこと。伝えたいこと。色々考えて、ぐちゃぐちゃになってしまった。

 口から出るのは、感情しかない呻き声。

 

 膝から崩れ落ちる。涙が流れる。

 

「うぅ、あ、ご、ごめん……! ごめ、ごめん、ホシノ……!」

 

「カケル……?」

 

「……ユメ先輩、死なせちゃった……!」

 

 ようやく出てきた言葉は、それだった。

 

 その時、ホシノはどんな顔をしてたのかな。地面を見るのに必死だった俺にはわからない。

 

 それからしばらく、俺の情けない泣き声だけが部屋に響き続けた。

 

 

 

 ……どれくらい経っただろうか。俺の涙はまだ流れてるけど、嗚咽が抑えられるようになった頃。

 一度、ユメ先輩の……体を、並べた椅子に寝かせる。

 

 ホシノが震えた声で聞いてきた。

 

「……っな、何が……あったんですか」

 

「……お前と、別れて……ユメ先輩を追いかけたんだ。そしたらあの人が、怪物に襲われてて……それで、それで……」

 

 守りきれなかった。

 

「ぅ、えぇ……ごめん、ごめん……! 何で、俺はのうのうと……! うぁ、ああ……」

 

 何で俺が生きているんだ。

 

 俺みたいなやつより、あの人の方が生きているべきだった。何で俺が生きてる……死ねばよかったのに。

 

「……俺を、許さないでくれ……」

 

 苦しい。苦しみたい。辛い。もっと辛い思いをしたい。

 

 体を掻きむしる。全力でやったから、肉が裂ける感触がして、爪に肉片がついた。痛い。足りない。もっと、もっと……「っカケル!」

 

 腕を止められた。

 

「ホシノ……俺、俺を……」

 

「違う! カケルは悪くない! 悪いのは」

 

 そこで、ホシノが苦しそうな顔して。

 

「悪いのは……っ! 私ですから……カケルは、何も悪くない」

 

「そんなわけないだろ……! 俺が、守れてれば!」

 

「じゃあ私だって、あの時ちゃんと謝れてたら! ユメ先輩もここにいて! まだ、生きててくれて……」

 

 ホシノの目にも涙が滲んだ。

 

「……何で、何でですか……まだ、謝ってないのに……! ユメ先輩、何で……」

 

 それで、泣いてしまって。俺が泣かせていて。

 

「ホシノ、俺を殴って……いや、もう、何でもいいからとにかく苦しめてくれ……」

 

「は……?」

 

「俺が罰されてないと、頭が狂いそうだ……何してもいいから、もう……」

 

 許し難い。幸せを壊して、ホシノを泣かせて、そのくせなんの代償もなく生きている自分が憎い。死にたい。死にたい……

 

 ホシノが、俺の腕から手を離した。そして俺を、躊躇しつつ、でも殴ってくれそうで……手が止まった。

 

「……? ホシノ……?」

 

「無理、無理ですよ……カケルは、もう……もう、私にはカケルしかいないのに……! 嫌だよ……っ!」

 

「何を、言って……」

 

 抱きしめられた。ぎゅうっと、力強く抱きしめられるけど、全然苦しくなくて……

 

「一人で背負わないでくださいよ……」

 

「ホシノ……」

 

「多分、どっちのせいとかなくて……私たちの、せいで……」

 

 より強く抱きしめられる。苦しくはない。それどころか、暖かくて、涙がまだまだ出てきて。

 

「それだと、お前も苦しみ続けるじゃん……」

 

「でも、私だってカケルに苦しんでほしくない……だから、二人で分け合っていこう……?」

 

 ユメ先輩が死んだのは、俺のせいで。でもホシノのせいでもある。そんな、そんなことを許していいのか。だって、その道は……

 

「……ダメだろ、それは……それだと、もう俺たち離れられなくなる」

 

「それでいいです。もう離れる気なんてない。今までも、これからも、ずーっと。二人で生きていこう……?」

 

「何で、そこまで」

 

 理解できなかった。俺が憎いはずなのに、どうして。

 

「気づいてくださいよ、バカ。カケルのことが、好きだからに決まってるじゃないですか」

 

「……え?」

 

 予想外の言葉に、面食らう。

 

 好き? 今、好きって言われたのか? 何で、っていうか誰を。いや、それは俺で……なん、何を言われたんだ?

 

「好きです。大好きで……だから、離れたくない。苦しんでほしくない。一人にならないでほしいし……一人に、しないでほしい」

 

「な、おま……ホシノ……」

 

「カケルは、私のことが好きですか?」

 

 どこか溶けたような瞳。そこにあるのは……愛だけじゃなくて、きっと良くないものも入ってる。分かってるのに、拒否しきれない。

 

「……わ、分からない……恋愛とか、そういうのは分からないよ……」

 

「……そう、ですか……」

 

「でも、さ」

 

 上手く言葉にできない。初めて感じる気持ちだった。

 愛おしさ。罪悪感。高鳴り。背徳。焦燥。何か、どろっとした気持ち。何で、こんなものを。

 

「その……特別、だとは思う……ホシノは俺の、一人だけの特別で……これって、好きってことなの──」

 

 声が出なくなった。唇に感じる、柔らかい感触。

 

 体が俺に押し付けられる。体重をかけられるように、押し付けてきて……押し倒される。

 背中に感じる床のひんやりとした冷たさが、蕩けかけていた俺の頭を冷静にした。

 

 何十秒経ったのか。自分から離れることもできず、ホシノが離れるのを待ち続けて……ようやく離れた。

 

「──っは、はぁっ……ホシ、ホシノ……」

 

「はっ、……カケル……」

 

「っ、何を……」

 

 雰囲気がヤバい。息がしづらいような、重くて、吐き気がするほどの甘さがあるような……このままだと、間違いなく押し切られる……

 そう考えて体を後ろに引きずろうとするけど、思ったように動かない。

 

「もう、カケルしか……いないから、だから……」

 

「っ馬鹿! 落ち着け!」

 

 甘えるように体を押し付けるホシノ。その頭に全力で拳骨を落とす。

 

「っ──! い、痛い……」

 

「馬っ鹿じゃねえの!? おま、まだユメ先輩がそこにいるのに……!」

 

 そのまま目を向けて、ユメ先輩が寝っ転がってて……

 

「……」

 

 熱くなってた気持ちが、急速に冷えたのが分かった。

 

 まだ頭を抑えてるホシノを置き去りにし、ユメ先輩に近づく。

 眠っているだけ。そう思い込みたくなるような、安らかな顔。

 

 力のない手を持ってみれば、どうしようもない冷たさが伝わってくる。

 

「……ホシノ。お墓作るぞ」

 

 その……死体を。来た時と同じようにお姫様抱っこして、連れていく。

 

「いつまでも寝てんな。起きろ」

 

「……ごめん……」

 

「弁解なら後でいくらでも聞いてやる。ほら早く」

 

 


 

 

 目の前にあるのは、ユメ先輩のお墓。

 

 建てられた墓標は冷たく、無機質だ。何も語らないそれは、確かに俺の……俺たちの、罪の証だった。

 

 二人とも黙って向き合い続ける。何か話そうとしても、言葉にはならない。

 ここで言葉を発せば、そこから堰を切ったように溢れだすだろう。だから、何も喋れない。

 

 無言で祈り続ける。

 

 どうか、ユメ先輩が安らかに眠れますように。

 

「……行くか」

 

「うん……」

 

 背を向けて、歩き始めた。振り返りはしない。

 振り返れば、きっともう戻れなくなるから。

 

 それから、ひたすらに無言で歩き続ける。

 地面を見るのにも飽きて、上を向く。星空がひたすらに輝いている。どんなことが起きても世界は変わらない。

 

 あの星の中に、ユメ先輩もいるのかな……

 

「……その、カケル」

 

「ん、どうした」

 

「いや、その……さっきは、ごめんなさい……」

 

「? ……ああ、お前が俺をお──「やめてください……」

 

 顔を真っ赤にしてしまうホシノ。流石にさっきのは正気ではなかったらしい。

 

「……本当に、ごめんなさい。気持ち悪いことをして……幻滅、しましたか」

 

「誰が。よっぽどのことじゃなかったら、お前への評価は変わらないよ」

 

「あれよっぽどのことじゃないんですか……?」

 

 そう言われると疑惑の判定だけど……まあ、ギリギリセーフということにしておくか。

 

「……」

 

「……言いたいことあるなら言えよ」

 

「ぅえっ!? あっ、え、顔に出てました!?」

 

「思いっきり。めっちゃモジモジしてた」

 

 またまた顔を真っ赤にしてしまうホシノ。

 一度大きなため息を出してから、落ち着いて言葉を出していく。

 

「俺のお前への思いは変わらないよ。恋愛がどうとかはまだ分かんないし、これが"好き"ってことなのかも分からない。今の所お前は特別なだけだ」

 

「十分だと思うけどな……」

 

「? ……まあ、そういうことだから。それでもいいなら、これからもよろしくって感じだ」

 

 少し、言い方がぶっきらぼうだな。自分のことなのに、まるで他人事のように評価してしまう。

 

「……うん。それじゃあ、これからも……ずっと、一緒ですよ」

 

「……ああ」

 

 もう離れられない。

 

 これが正しいことなのかは分からない。というか、正直今も納得できているわけではない。

 

 やっぱり全部俺のせいだとは思うし、ホシノが背負うべき責任なんて無いって、そう思うけど……

 

「ありがとう、カケル」

 

「……どういたしまして」

 

 でもホシノが、少しだけでも笑ってくれてるから……これが俺にとっての正解なんだろう。

 

「……ところで、その……今から私の家来ます?」

 

「何言ってんのお前」

 

 もしかしてこいつ生粋の変態か? 思わず距離を取る。

 

「いや、違くて……今日は、その……一人になりたくない、です……」

 

 どんどん声が萎み、連動して顔が俯いていくホシノ。

 間抜けは見つかったようだな。当然俺のことだ。

 

「……分かったよ。行く」

 

「!」

 

 途端に嬉しそうな顔のホシノ。何だか気が抜けるな。

 

 そのままホシノについて行って、家に着いた。それなりの大きさの一軒家である。見上げてでかいなーと思うぐらいには大きい。

 

「……一軒家か」

 

「何か問題でも?」

 

「いや、珍しいなと」

 

「そういうカケルの家はどうなんですか」

 

「都市の方にあるマンション借りてる」

 

 ホシノがドアノブに手をかけ、扉を開いた。俺も続く。

 

「……お邪魔しまーす」

 

 ということで玄関で靴を脱いで中に入る。内装は普通の極みみたいな住宅。木のフローリング、白い壁……一般的に置いてある家具も基本置いてあるし……

 

「……普通だな」

 

「逆にどんな感じだと考えてたんですか?」

 

「……特に何も」

 

 ……というか、流れで来たけど何するんだ?

 

「何したらいいの俺?」

 

「別に、特には……ただ、そこにいてくれればいいです」

 

「そっか」

 

 じゃあ自由にさせてもらおうかな、と。これ見よがしに置いてあるソファに座り込む。

 ふぅ、と一息ついて……それから、何もする気が起きなくてぼーっと虚空を見つめ続ける。

 

 

 ……ユメ先輩が死んだ。

 

 

 俺のせいで……って違う。あまり自分を責めすぎるとまたホシノに怒られちゃう。今考えるべきなのは……これからどうするか、かな。

 

「なあホシノ。これからどうしような」

 

「どうするもこうするも、生きていくしかないでしょう」

 

「まあ、そりゃそうか。そうだよな……」

 

 ユメ先輩がいなくなっても、世界は続いていく。当たり前だけど、実感が湧かない。

 恐怖を感じる、不安を感じる、虚しさを感じる……全方位が真っ暗な空間に放り出されたような、そんな感覚。

 

 気がつくと、体が震えていた。これが何から来るものかすら分からない。何か大切なものを失ってしまったみたいだ。

 

「……怖いなあ……」

 

 無意識に声が出ていた。一体、何が怖いんだろうな。

 もう、何も分からない。そんな俺の横に、ホシノが座ってくれる。

 

「大丈夫ですよ。二人なら、きっと何とかなります」

 

「そうだと、いいけど」

 

 それから、また無言。

 

 二人して何をするでもなく、ただ寄り添い合う。互いの傷を舐め合うっていう表現がよく似合うんだろうな。

 

 ぼーっとして、し続けて。何分、もしくは何時間経ったか。突然、ぐぅーとお腹の音が鳴った。出所は俺の腹。

 

「……お腹、減ってるんですか?」

 

「そうみたいだな。自分でも、よく分からなかったけど」

 

「何か食べに行きます?」

 

「今の時間どこも開いてないでしょ」

 

「じゃあ、料理しましょう」

 

 ホシノが立ち上がった。そのままリビングと同じスペースにある台所に向かって行って、冷蔵庫を開ける。

 

「お前料理できるの?」

 

「できませんけど、カケルならできるでしょう?」

 

「……まあ、そうだけどさ」

 

 俺も立ち上がって、ホシノの側まで歩いて行く。

 

「どうです? 何か作れそうですか?」

 

「ん……」

 

 冷蔵庫の中。冷凍庫の中。後は調味料だったりも物色する。

 

「簡単な、肉野菜炒めとかなら」

 

「じゃあお願いします」

 

 適当に食材を選んで、作り始める。切ったり、剥いたり、炒めたり。

 料理はいい。作ってる間は、そのことにだけ集中できるから。

 

「……そういえばホシノ。主食はどうすんの?」

 

「パックのご飯があるので、それでいいですか?」

 

「ん」

 

 作った肉野菜炒めを皿に盛り付けて、机に並べる。

 しばらく待つと、ホシノが温めたご飯を持ってくる。それまで俺は……何してたんだっけ。ま、いいか。

 

「「いただきます」」

 

 黙々と食べる。

 

 これは楽しむためじゃなくて、生きるための食事。そんなことをふと考えた。ユメ先輩がいなくなった世界を、それでも歩いて行くための食事。

 

 そう思うと、何ともいえない気分になった。

 

 そのうちご飯を二人とも食べ終わった。お皿をシンクに置く。後片付けは、また明日。

 

「……カケル」

 

「ん、何?」

 

 またぼやっと積み上げられた皿を眺めていると、袖を引っ張られた。

 

「トイレ行きたいです」

 

「そう。行けば?」

 

「……いなくならない、ですよね」

 

 とても不安そうな顔でそう言うホシノ。馬鹿じゃないのと、笑い飛ばそうとして……そんな気分にはなれなかった。

 

「……分かったよ。でも流石に行くのは扉の前までな」

 

「はい……」

 

 ホシノについて行った。あいつが用事を終わらせるのを待って、終わったらまたソファに戻った。

 

 何も無い時間が始まった。二人並んで、無言のまま。

 別に心地よくもないその沈黙を破ったのは、ホシノ。

 

「カケル」

 

「ん」

 

「一緒に住みません?」

 

「……いつまで?」

 

「いつまでも」

 

 不安げに揺れる瞳が、ちゃんと俺のことを見ている。

 

「いいけど、私物は取りに行かせて?」

 

「今からですか?」

 

「うん」

 

「じゃあ、私も一緒に行きます」

 

 二人とも立ち上がって、玄関で靴を履く。それから並んで外に出た。

 もう夜遅い時間だった。誰もいない暗い道を二人で歩き続ける。

 

 暗闇が、まるで俺を責めているように感じる。夜の冷たさが俺を責めているように感じる。月明かりも、星々も、暗闇に照らされた何もかも。全てが俺を責めているように感じる。

 

 その度に、俺の足は止まってしまって。でもそうすると、ホシノが俺の手を引っ張ってくれた。

 

 そのうち、いつも俺が住んでるマンションに着いた。部屋からとりあえず必要なものだけを取り出して、後は後日運ぶことにする。

 

 帰り道も時々足が止まってしまったけど。行きよりかは回数が減ってた気がする。

 

 それから、ホシノの家に帰ってきて。色々話し合った結果、一応空き部屋があるらしいのでそこを俺の部屋にすることになった。

 私物を一旦置いておく。ただ、今日の寝床はどうしようかな。

 

「一緒に寝ましょう」

 

「……まあ、分かったよ」

 

 そういうわけで。今日は一緒のベッドで寝ることになった。

 

「けど、その前に風呂入らせてくれ」

 

「分かりました」

 

 ホシノに案内されて、風呂場に向かう。まあ特段広くも狭くもない風呂場だった。

 

「二人で入りますか」

 

「……まあ、それでもいいかもな」

 

 普段なら馬鹿じゃねえのと一蹴する提案も、一人になる時間が怖かったから、受けることにした。

 

 互いに服を脱いで。大事な部分は隠したけど、まあほとんど全裸なわけで。でも、特に何も感じはしなかった。

 

 特に変な空気にもならない……それとも、これが変な空気なのかもしれないけど。まあ何も起こらず、二人とも淡々と体を洗っていく。

 

 今日はもう起きてるのも辛い気がしたから、シャワーだけで済ませた。まるで示し合わせたみたいに二人とも同時に洗い終わって、風呂場を出た。

 

 タオルで身体を拭いて、パジャマを着る……といっても、簡素な白Tと灰色の短パンだけど。

 ホシノはぱっと見白Tしか着てないように見えた。けど流石にそんなことはないだろう。

 

 体も洗い終わったから、寝る時間だ。二人でホシノの部屋に向かう。

 中は何というか、可愛らしい部屋だった。あちこちに色々と海洋生物のぬいぐるみが置いてある。

 

「なんか可愛いな」

 

「うるさいですよ」

 

 何か物珍しくて、色々と見回してしまう。そのうち見覚えのあるぬいぐるみを見つけた。くじらの形をした、緩い感じのぬいぐるみ。

 

「……このぬいぐるみ、この前水族館行った時のやつじゃん。ちゃんと飾ってるんだ」

 

「まあ、あなたとユメ先輩に貰ったものですから」

 

「そっか」

 

 ホシノが愛おしげにそれを撫でる。

 

「……寝るか」

 

「はい」

 

 電気が消える。真っ暗な部屋。

 

 ホシノのベッドに二人で潜り込む。思ったより広くて、二人でも寝れた。

 仰向けで寝っ転がる。目を閉じることもせず、ぼーっと闇を眺める。

 

 そのうち、ホシノが俺の腕に抱きついてきたのが分かった。俺もそっちを向いて、抱きしめ返す。

 

 暗い部屋の中、二人で抱き合い続ける。温かい。

 

「……カケル」

 

「うん」

 

「……寂しいよ……」

 

 絞り出すような、小さすぎる声。でも俺の耳にははっきりと届いて、思わず顔を歪めてしまう。

 

「……俺も、寂しい」

 

 それしか言えなかった。それ以上言うと、感情が決壊しそうだったから。

 

 そのうち、ホシノがもっと強く抱きしめてくる。だから俺も強く抱きしめ返す。

 

「どうやったら、寂しくなくなるかな」

 

 声は小さくても、震えている気がした。

 それが、どうしても嫌で。少なくとも俺の目の前では泣いてほしくなくて。

 

「……俺のことだけ見てればいいだろ」

 

「え……?」

 

 身体を回転させて、ホシノを押し倒してるような姿勢にする。ギシッと軋むような音がなった。

 月明かりでホシノの顔がよく見えた。瞳が潤んでいる。期待してるような、怖がってるような。そんな顔をしている。

 

「……かけ、る」

 

「どうしてほしい?」

 

 答えなんて分かってただろうに、そう問いかけた。

 

「……お願い。私を、カケルに溺れさせて」

 

「……ああ。一緒に溺れ死のう」

 

 そうして夜は更けて行った。




次回は来週の金曜日投稿です(多分) もしかすると(何故か)二話目の幕間がどこかで投稿されるかも。

今週の呪術。
星間飛行(ラヴランデヴー)の高速移動にびっくりした。まさかそんな使い方があるとは……やっぱ術式って使いようだよな。
結構戦闘シーン盛られてましたね。これは仙台結界(コロニー)も楽しみっすわ……
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