呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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モチベが過去最大レベルなのに、学期末試験が迫り来る……誰か助けてくれ。

この時期は口癖が「しんどい」と「助けて」になるんだよな……一応毎年乗り越えてるはずなんだけど、どうやって乗り越えたのか全く覚えてないねワハハ。覚えているのは苦しかったことだけ……


33. ニンジン作戦

 びゅーんと空を飛んでいく。下を見れば、俺に気づいた生徒たちが見つめてきたり、手を振ってくれている。

 それに対して手を振りかえしてみれば、なんだか喜んでる様子だ。

 

 さて。現在、俺は子ウサギ公園へと向かっている。理由は当然RABBIT小隊だ。

 昨日処遇が決まって、それから解散したわけだけど……冷静に考えると、あの子たち大丈夫なのかなという心配が出てきた。

 

 だってあの子たちって要はホームレスだ。食料や水のことを考えるとそもそも生きていけるのかすら怪しい……ということでいくらかの食料や水を入れた肩から下げるバッグと、後は策を持って向かっている。

 

 とはいえ結構嫌われてるし、果たして素直に支援を受けてもらえるかどうか……

 

 まあ心配ばっかしててもしょうがない。ということで、子ウサギ公園に到着だ。多分色々罠が仕掛けてあったけど、全部飛び越してきた。

 

「あれ、先生じゃん」

 

「あ、モエ」

 

 最初に出会ったのはモエ。次いで、サキにミユにミヤコもどこからか出てきた。

 

「……おはようございます」

 

「……」

 

「何ですか、その驚いた顔は」

 

「いや、まさか挨拶してくれるとは思ってなくて。めっちゃ嫌われてると思ってたから」

 

「確かにあなたのことはとても嫌いですが、それとこれとは話が別です。挨拶は人として最低限の礼儀ですので」

 

 仕方がないとでも言いたげな表情。でもファーストコンタクトがあれだったのに、それでも対応してくれるとは……優しいな。

 

「で、先生はこんな朝っぱらから何の用なんだ」

 

「何か不自由してないかなーって思ってさ」

 

 そう言うとみんな頭に?を浮かべてしまったので、事情説明。

 

「なるほど。ですが何も問題ありません。SRT特殊学園は、キャンプ生活に慣れてますから」

 

「あれ、杞憂だったか。水とか食料も大丈夫なの?」

 

「この公園は水が使えるから、そっちに関しては何にも問題ないね」

 

「食料の方は……えぇと……」

 

 何か話そうとしたミユだが、どんどん言葉が萎んでいって黙り込んでしまった。もしかして食料事情は悪いのかな。

 

「いえ、食料事情も何も問題ありません。確かに万全とは言えないですが、生きていくのに不自由ない程度には」

 

 ぐぅー、とお腹の音。俺にも聞こえるぐらいの大きな音だった。

 

 音の出所は俺ではない。となると……と、音が聞こえた方向を見ると、顔を赤らめてるサキ。

 

「サキ、今のは……」

 

「……雷が近いのかもしれないな」

 

「流石に無理があるでしょ……どうして我慢できなかったのさ……」

 

「仕方ないだろ、生理現象なんだから!」

 

 モエの呆れた声にキレるサキ。お腹が減ってるのは誰の目から見ても明らかだな。

 

「……あらためてですが、何も問題はありませんので──」

 

 再びぐぅーとお腹の音。今度はミヤコから。

 

「……もしかして、食料何もなかったりする?」

 

「ああもう、そうだよ! 悪かったな!?」

 

「そんなキレなくても」

 

 突っかかってくるサキをどうどうと宥める。空腹ゆえか、みんなイライラしているような感じだ。

 水はあるけど、水しかない。深刻な食糧難に陥っているのが彼女たちの現状らしい。

 

「SRTから持ってこなかったの?」

 

「対空ミサイルや教範を持ってきていたら、持ってこれなくなってしまい……」

 

「……言い方は悪いけど、流石に言わせてくれ。馬鹿なの?」

 

「ミサイルは大事でしょ!」「学生が教範を捨てられるわけないだろ!」

 

「食料に勝るものではないだろ」

 

 モエとサキがそれぞれ反論してくるが、生き方を大事にするよりまずは生きる方が大事だろ。というのが俺の考えだ。

 

「……まあいいや。買うことはできないの?」

 

「学校の口座が停止されてしまってるので……私たちきっと、このまま飢え死にするんだ……」

 

 絶望した顔で震えてるミユ。

 

「まあ、予想してなかったわけじゃないけどさ」

 

 バッグから持ってきた食料を色々取り出す。缶詰め、乾パン、カップ麺、その他etc。

 

「ほれ」

 

「……?」

 

「いや、お腹減ってるんでしょ? 食べていいよ。あんま美味しくはないと思うけど」

 

「……ま、まあ? 先生がどうしてもって言うんなら?」

 

 明らかに食べたそうな顔をしている。そんな腹減ってたのか。

 みんなの期待の目を一身に受け、食料を差し出す……ところで、ミヤコより待ったがかかった。

 

「追い詰められた環境において、重要な物資を提供する素振りを見せ、その見返りとしてさらに大事なものを要求する……よくある手口です、真意も分からない段階で受け取るわけにはいきません」

 

「いや、別に見返りはどうでもいいんだけど」

 

「はっ、信じられるとでも思ったか?」

 

 胡散臭い人を見る目で見てくる四人。

 まあ仕方ないことではあるか。そう簡単に信用してくれるわけもないしな。

 

「じゃあここに置いておくから。他は大丈夫そうだし、俺は帰るよ」

 

 こういうのは少しずつ距離を縮めなければいけないんだ。野生動物に接するように、少しずつ警戒を解いていくのが大切。ということで、今日はもう帰ろうと……

 

 三度、ぐぅーというお腹の音。出所は……俺。

 

「え……?」

 

「……まあ、うん」

 

 実は昨日からご飯食べてないんだよね。うん。ははは。お腹が減って体が震えてるな。

 

「……差し出しといて何だけどさ。ちょっとご飯食べていい?」

 

「……ええ……?」

 

 ドン引きの目で見られてる。やめろ見せ物じゃないんだぞ!

 

 置いておいたカップ麺の一つを手に取り、蓋を開ける。それから持参した水のペットボトルを呪力で熱する。呪力はエネルギーなので放出の仕方に気をつければ物体を壊さず温めることができるのだ。

 

 いい感じの熱湯になったことを確認し、カップ麺に注ぐ。そこら辺にあった石を閉じた蓋の上に乗っけて、後は三分待つだけ。携帯にタイマーをセットだ。

 

 無言で待ち続ける。四人はどこかに行くでもなく、話しかけるでもなく、ただただじっとこちらを見続けている。暇なの?

 

 三分経過した。石をどかして蓋を開けると、湯気とともにいい匂いが出てきた。

 

「くぅっ……!」

 

「いい匂い……ますますお腹空いてきた……」

 

「……」

 

 めっちゃ見られてるけど、一応俺の分なのであげるつもりはない。というかそこにいっぱい置いてあるしな。

 割り箸を持って、いただきます。麺をずるずると啜った。美味しい。

 

 ちなみに味は普通の醤油だ。この濃いめのしょっぱさこそカップ麺の醍醐味だよなあ……健康にいい食事を食べるのもいいけど、たまにはこういうジャンクを一気に食べるのもいい。

 

 とはいえ、流石にこれだけだと足りなさそうだな。そういえば何でか知らないけど温泉卵がバッグに入ってたっけ。入れちゃお。

 

 ラーメンに卵を乗せるのっていいよな……具体的にどうとかは言えないけど、明らかに美味しさが増した感じがして美味しい。塩分が脳みそに染み渡るー……

 

 ……そういえば食べるのに夢中になってたけど、みんな今何してるんだろ。そう思って顔を上げてみたら、めちゃくちゃ至近距離でカップ麺をガン見されてた。

 目がヤバい。飢えた猛獣の目だ。RABBIT小隊なのにライオンかトラの目なんだけど。

 

 ……流石にこの場で食べたのはまずったか。今にも襲われそうで怖い。

 

「……あー……ちょっと、食べる?」

 

「「「「食べる!!」」」」

 

 元気よく返事された。まあ、俺が悪いか。

 

 潔くカップ麺を差し出す。途端に群がる四人。こぼしそうで怖い。というかそこに色々置いてあるでしょ。

 まあすぐにでも食べたい気持ちは分からんでもないけど……と考えつつ二つ目のカップ麺を開封。お湯を入れた。

 

 それからはしばらくご飯タイムだった。さっきまでの食わない姿勢はどこへやら。持ってきた食料を次から次へと食べていく。ちょろすぎて心配になるんだけど。

 

「……ふう……」

 

「何というか、俺のせいではあるけどさ。よかったの?」

 

 俺の言葉に、四人は何言ってるのか分からないみたいな顔した後、お互いに顔を見合わせて……はっとしたような顔。

 

「こ、これは違います……」

 

「わ、私たちは屈したわけじゃないからな!」

 

「食べカス口についてますけど」

 

 無言で口を拭くサキ。

 

「でも、久しぶりにお腹いっぱいです……」

 

「うぅ、悔しいけどまた助けられた……」

 

「くっ、まさかこのような非道な手段を使ってくるとは……あなたには人の心がないのですか!?」

 

 非難轟々だ。でも俺だってお腹は減るんだよ。許してくれ。

 

「今回は助けられてしまいましたが……もう大丈夫です。これ以上、情けはいりません」

 

 めっちゃがっついてたくせに、とか言ったら殴られるかな。

 

「……あっ、そうだ」

 

 完全に忘れてたけど、そういえばもう一個用件があるんだった。ポケットの中に入れていたメモを渡す。

 

「……これは?」

 

「ずっと食料を提供するわけにもいかないからね。お腹が減ったらここに行くといいよ」

 

 メモに書いているのはとある場所の住所だ。いつまでも俺に頼ってちゃダメだと思うし、ちょっとした自立の助けだ。

 

「……まあ、受け取ってはおきます」

 

「それでいいよ。さて、これで用件は本当に終わり。改めて帰るね」

 

「そうですか」

 

「信用したわけじゃないからな! あまり変な気を起こすなよ!」

 

 元気になった声を聞いてから、今日のところは公園を去った。

 

 


 

 

 あれから数日が経った。今日はあの日ぶりに様子を見に行く。

 本当はもう少し早く行くつもりだったんだけど、仕事が立て込んでて……まあそういうわけで、久しぶりの邂逅だ。

 

 いつも通り空を飛んでいく。最近「シャーレの先生ア●パンマン説」とかいう意味分からんガセが出回ってるらしいんだけど、俺が空飛んでるせいで信憑性があるらしい。馬鹿じゃないの。

 

 でもRABBIT小隊に食べ物分け与えたし、実は本当にアン●ンマンなのかも……なんてくだらないことを考えつつ飛び続ける。

 

 そのうち公園に到着した。いつも通り罠は飛び越して、RABBIT小隊の陣地に入ると……彼女たちが喧嘩していた。

 どうやら、どの廃棄弁当を食べるかで言い争ってるみたいだ。

 

 先日渡したメモには、実はシャーレの住所が書かれていた。

 というのも、シャーレが入っているビルには「エンジェル24」というコンビニがあり、そこは率直に言えばあまり人気がなく、よく廃棄品が多いという相談をそこの店員から受けていた。

 

 そこで、そのコンビニの廃棄品をRABBIT小隊の食料にする。という方法を持って、両者の悩みを一挙に解決したというわけだ。

 

 ただどの弁当が余るかは当然運次第なので……今は誰が高い弁当を食べるかで争っている、ってことっぽい。

 

「や、元気そうだね」

 

 声をかけてみると、全員一瞬でこっちを見た後一瞬で嫌そうな顔になった。態度があからさまだあ。

 

「何、喧嘩?」

 

「いえその、これは、お弁当で喧嘩していたわけではなく……」

 

「ああ、仲良くお昼ご飯の話をしていただけだ」

 

「仲良く、ねぇ……ふっ」

 

「何笑ってるんだ!?」

 

 まあ仲良さそうではあったか。

 

「で、何か問題とかはないかな?」

 

「……まあ、はい。それに関しては大丈夫です。食料の面も、まあ……」

 

「例の廃棄弁当で、当面の解決はできましたし」

 

「ふふっ、先生はそれで屈辱を与えて心を折ろうとしたのかもしれないけど、そうは行かないよ。私たちはそんなの全然気にしないから」

 

「え、屈辱? 何で?」

 

 何故屈辱を与えるとかいう話になってるんだ? と思って質問したら、マジかこいつみたいな顔をされた。

 

「自覚ないんだ……」「ノンデリ……」「やっぱり人の心ないですよね……」

 

「めっちゃ言うじゃん」

 

「どうせ傷つかないんですから」

 

「そんなことないけどね。俺の心はガラス製だよ?」

 

「……ふっ」

 

 何故か笑われた。解せぬ。

 

「はあ……で、要は大丈夫ってこと?」

 

「まあそういうことだ。もう先生がいなくとも、私たちはこのまま……!」

 

 自信ありげに豪語するサキだが……よく見ると、なんか顔色が悪い気がする。

 

「なんか顔色悪い気がするけど?」

 

「えっ」

 

「んー……?」

 

 いやでも、日陰のせいか? ちょっとこの距離だと分かりづらいから、もう少し近づいて……

 

「ま、待て! 近寄るな! それ以上近づいたら本気で殴るぞ!?」

 

「え? 何で?」

 

「だって、匂いが……」

 

 匂い? あれ、俺臭かったかな。くんくんと自分を嗅いでみるけど……うーん、分かんね。

 

「まあ、それは悪かった。でも毎日風呂入ってるはずなんだけどなあ」

 

「いやだから、そうじゃなくて……!」

 

「……流石に臭いって言われるのキツイな……」

 

 今日は念入りに体洗おう。匂いを言われるのはかなり傷つく──「そうじゃなくて! 問題は私たちの方だよ!」

 

「え? そうなの?」

 

「そうだよ! 気づけ馬鹿!」

 

 話を聞くと、もう四日もシャワーを浴びてないらしい。まあ公園にそんな設備あるわけないし、銭湯に行く金もないだろうしで当然ではあるか。

 

「言うほど匂ってるかな」

 

「匂ってるとか言うな! このノンデリ馬鹿!」 

 

 うーん。離れてるから分かんないのかな。ちょっと近づけば分かるかも……ということ歩いて近づいて嗅いでみる。

 

「……うーん? 別にそんな、というか何なら良い──「死ね!!!」

 

 瞬間、俺の顎をサキの拳が打ち上げた。全力でやったのだろうそれは、俺の体を宙に浮かす。

 あまりに予想外だったので、受け身を取る間もなく地面に転がった。

 

「こいっ、こいつ! 殺してやる!!」

 

「さ、流石に殺すのはまずいと思います……」

 

「じゃあ半殺しだ!!」

 

「ちょ、待っ、待って! 俺が悪かったから! その手に持った銃を離して!」

 

「サキ。噂によれば、先生は傷を負っても回復できるらしいので遠慮なく殺しにかかっていいと思いますよ」

 

「ミヤコ!?」

 

「いや、流石に先生が全部悪いよ……?」

 

 般若の如く迫ってくるサキとの追いかけっこが始まった。とはいえ流石に捕まらない。多分十分ぐらい逃げ回った後、サキが疲れたようで立ち止まった。

 

「はあっ、はあっ、くそッ! 何で捕まらない!?」

 

「そんなに動くとまた汗かいて、匂いが増すと思うけど……」

 

「モエ、こいつにミサイルを撃っていい」

 

「よしきた!」

 

「良いわけないでしょう!? これ以上物資を無駄遣いしないでください!」

 

 うきうきとミサイルを発射しようとするモエに、流石にミヤコが止めに入る。これどうやって事態を収拾しよう。

 

「あの、サキさん。俺が全部悪かったんで許してください」

 

「じゃあ後百回は殴らせろ」

 

「はい……」

 

 ということで許してもらうことになった。呪力強化解いて受けたから顔面ボコボコだけど、反転ですぐに治す。腫れがすーっと引いていった。

 

「気持ち悪……」

 

「……で、えーっと、それで何の話だっけ」

 

「体を洗えていないという話です」

 

 そういえばそうだった。

 

「銭湯にも行けないんでしょ……ってなると……シャーレのシャワー室とか使ってみる?」

 

 そう言うと、四人が一斉にこちらを見てくる。あれ、また俺なんかやっちゃいました?

 

「……それがどういう意味か分かってて言ってるのか?」

 

「みんな綺麗になってハッピーっていう話じゃ……ないんですね。すみません」

 

 段々この子達の目つきが哀れなものを見るものに変わっていっている。なんか心が苦しいです。

 

「はあ……つまり、あなたは男がいる前で裸になれと、そう言ってるのですよ?」

 

「……あー……そっか……ごめん」

 

「分かったならいいんですけど……まさかいつもそんな調子なんですか?」

 

「まあ、うん。どうだろうね。ははは」

 

「悪意のない悪意だ……」「ノンデリクソ馬鹿」「普通に馬鹿」「初めて連邦生徒会が可哀想だと思いました」

 

「お前ら……」

 

 あまりにも酷い言われようだ。笑えてくるな。

 

「……とりあえず、俺への評価は置いておくとして。実際どうしようね」

 

「逃げた」

 

「シャラップ」

 

「何で私たちの仲間みたいな顔してるんですか?」

 

「仲間ではないけど、君たちの問題は解決してあげたいんだよ」

 

 ジトーっとした八つの瞳が俺を貫く。スリップダメージが加算されていくよー。

 まあそれは置いといて、お風呂かあ。

 

「キャンプで風呂ってなると……ドラム缶とか?」

 

「……ドラム缶?」

 

「ああ、下から火を焚くのか」

 

「そう。五右衛門風呂ってやつかな」

 

 身体は洗えないけど、まあすっきりはするだろうし、汚れも結構落とせはするだろう。シャワーは無理そうだし、多分これが一番かな。

 

「センスが古くないか?」

 

「やめてくれサキ。その言葉が一番俺に効く」

 

 俺の一人称もおじさんに変えたろかなもう。

 

 とはいえ、策としては気に入ってもらえたらしい。既にドラム缶がある場所を探し始めている。どうやらこのまま作戦を立てるようだ。

 

「衛生面は、部隊の存続に直結する重要な問題です。どんな手を使っても、できるだけ早期に解決しなければなりません。では今から、浴槽の確保……『ニンジン作戦』を開始します!」

 

 


 

 

 現在、時刻は……まあ、夜空が出てる時間だ。俺たちは今とある港に来ている。

 理由は当然、ドラム缶の確保だ。ここにある、廃棄予定のドラム缶を掻っ攫っていくつもりらしい。

 

 いや、別にそれはいいんだよ。盗んではいるけど、迷惑になるわけじゃないし。ただ、俺が文句を言いたいのは……

 

「何でしれっと俺も作戦メンバーに加えてるの?」

 

「いざという時は先生に何とかしてもらいますので」

 

「……確か、交渉して貰うでもなくわざわざ忍び込んで盗っていくのは、SRTのプライドとか言ってたよね」

 

「ああ、そうだな」

 

「俺の手を借りるのはプライドに反さないの?」

 

「借りるつもりはない。ただ、この作戦の元の立案者はある意味先生だからな。最悪の場合は全部の責任を負って貰う」

 

 さいですか……

 

 まあそういうことで、俺もちゃっかり参戦している。とはいえ手出しする気はないけどね。あんまり手出ししすぎて依存されるのもアレだし……

 

 とりあえず作戦を整理するか……と言っても、内容は単純だ。バレないようにドラム缶を確保して、バレないように持ち帰る。この港の警備員のシフトも、ルートも、俺たちの侵入経路や逃走経路も確保してるから後はそれに沿っていくだけだ。

 

「そろそろ時間です。突入前に、偵察をお願いします」

 

 ミヤコがサキにそう呼びかけた。そしてサキが動き始め……

 

「っていうかミヤコ、何でお前が普通に指揮をしてるんだ」

 

 ……ん?

 

 

 

 どうやらサキはミヤコが今もRABBIT小隊のリーダーを気取ってるのが気に食わないらしい。曰く、リーダーだったのは上から指示されただけだから、今は誰が指揮を取ってもいいだろうとのこと。

 

 ぶっちゃけどうでも良くない? って思うし、サキ以外のみんなも割とそう思ってそうだが、ここはミヤコが一度リーダーを譲った。大人の対応だな。

 

 ということで、指揮をサキが取ることになったが……

 

「えっと、サキちゃん……じゃなくて、RABBIT2。私はどこで待機すれば……?」

 

「は? えーっと……ちょ、ちょっと待った。市街地戦での狙撃手の位置は……確かノートに……」

 

 ミユの問いかけに焦り、持参したバッグを漁り始めるサキ。大丈夫かこれ。

 

 こりゃ時間かかりそうだなあ……と考えていると、公園からサポートをしているモエより、こちらに警備員が近づいているとのこと。本来ここは通らないはずだけど……というか、これってまずくね?

 

「さ、サキちゃん! どうすれば……!? に、逃げてもいい……!?」

 

「そ、それは、えっと……高いところ! とにかく高いところに行って! 教範によれば、狙撃の基本は『視野の確保』。高いところに登れば、多分ほとんどの状況で……!」

 

「待ってください、サキ。あのタワークレーンは狙撃に向いてるとしても、逃走時には──」

 

「そっ、それくらい分かってる!」

 

 この状況に焦ったサキが的外れの指示をしてミヤコに叱られている。こんな時に揉めてる場合じゃないだろ……と思って見てると、ふと気配を感じた。

 

 見れば、警備員がこっちを見てる。

 

「どーも」

 

「あ、はい。どうも……じゃなくて、侵入者!?」

 

 バレちまったもんはしょうがない。ということで、強行突破することになった。こっそり行くという当初の計画はどうなったことやら。

 

 銃弾飛び交う中、俺は先にドラム缶がある地点に移動することにする。

 

「アロナ。あいつらになんかあったら教えて」

 

『了解です! 港の監視カメラをハッキングして、ジロジロ見ちゃいますよー……!』

 

 さっきから銃声が鳴り響きまくってるし、爆音も時々聞こえるけど……まあ、アロナが何も言ってないし大丈夫なんでしょう。

 

『わっ、サキさんそこ危ない……! あっミユさんが道を逸れてしまいました! えぇっ!? ミヤコさん、そんなことダメですよ……!?』

 

 ……大丈夫だよな?

 

「アロナ?」

 

『大丈夫ですよ! みなさん無事です!』

 

 本当かなあ。

 

 ……しばらく待っていると、ようやくサキとミヤコが……あれ、ミユがいない。

 

「先生……! 何勝手に向かってるんだ……!」

 

「そんなこと言われても」

 

「サキ、怒るのは一度後にしましょう。今はひとまずドラム缶です」

 

 いっぱい置いてあるドラム缶を一人一つ運ぶ。

 

「先生も持ってください」

 

「はーい」

 

 これで三つだな。

 

「で、ミユはどこ?」

 

「それが……」

 

 どうやら逸れたらしい。GPSを取り付けた無線機も置いていっちゃったらしく、完全な行方不明だ。

 ミヤコの推理によれば、近くにあるタワークレーンにいるだろうとのこと。じゃあ助けに行こっか。といきたいが……

 

 どうやらそこにはいっぱい警備員がいるらしい。そいつらと交戦するとなると、ドラム缶は持っていけない。どうしようかなあ……というところで、ドラム缶が目に入った。

 

「……ドラム缶を被っていかないか?」

 

「……正気ですか?」

 

 いけるいける。メ●ルギアではダンボールで潜入してたしな。

 

 ということでまさかの隠れんぼ(ハイド)作戦だ。ドラム缶を被り、機を見て動く。そんなことを繰り返し続け、ミユの場所まで到着した。

 

 無事にミユを回収して、後は帰還するだけ……というところで、見つかっちゃった。まあ後は逃げるだけだから、さっさと退散だ。

 

 スタコラサッサと走り、時にまたまたドラム缶に隠れたりしながらも、無事に公園まで帰還することに成功した。

 

「……これやっぱ俺がいる必要無かったよね」

 

「そんなことありませんよ。ドラム缶を被るというアイデアは、私たちだけでは出ませんでした」

 

「それなら、いいんだけどさ」

 

 まあともかく。無事作戦成功だ。ドラム缶を回収できて、後は風呂に入るだけ。

 

「じゃあ帰るな」

 

「あれ、もう帰るのか?」

 

「いや君たちからしたら今から何だろうけどね? なんか変な事態に発展するのも怖いし、もう結構夜遅いし。帰るよ」

 

「賢明な判断ですね。あなたがここにいると何かやらかす気がしますので」

 

「ひっどい評価だあ……」

 

 それじゃあ、と手を振って去る。こうして今日もまた終わりを迎えるのだった。




九条という名字……ってよりは家系。現実世界だと藤原からの派生なんですよね。

藤原……乙骨……ナチュラル煽リストの系譜……?
キヴォトスでもそうなのかは知りませんが、もしかしたら……ですね。



幕間短編:バレンタイン(約一週間遅れ)だよー

「……つまり、ホシノ先輩の言い分をまとめると……」

 ノノミがあからさまに怒りを抑えたような笑顔で喋っている。

「ん。ホシノ先輩はバレンタイン当日に、その存在すら忘れてて」

 シロコが無表情に喋っている。

「一日経ってから気づいたけど、今更渡すのも恥ずかしくて……」

 セリカが呆れた顔で喋っている。

「そのまま放置し続けて……今に至る、ということですか」

 アヤネがダメな人を見る目でホシノを見ている。
 肝心のホシノは……

「あ、あはは……みんな、そんなに怖い顔しなくっても……」

「いえ、怒っているというわけではないんです。ただバレンタインという恋愛の花形を見事に逃した先輩に辟易しているだけで……」

「ノノミちゃん……?」

 まあ、要するにそういうことだった。

「というか、バレンタイン忘れることとかあり得るの? 先輩が一年生の時は先生もアビドスにいたんでしょ? ならその時の思い出とか……」

「その時にはカケルはいなくなってたからね……」

「………………」

 一瞬にして目からハイライトが消えてしまうホシノ。全員気まずそうな顔で見合わせてしまう。

「……ま、まあとにかく。一週間経ってるとはいえまだ遅くはないです。今からでも先生に渡すチョコを作りましょう?」

 パンっと手を叩いて雰囲気を戻すアヤネ。ホシノ除く三人はうんうんと頷くと、全員でホシノを抱えて歩き出した。

「そんなに必死にならなくても……」

「先輩は分かっていない。バレンタインにチョコを渡すか否かで恋愛対象として見られるか否かが決まる……これはある意味戦争」

「どこでそんな知識学んできたのかなあ……」

 キリッとキメ顔をするシロコ。あまりにも自信満々だが、その情報に根拠は全くない。

 うへーと運ばれるがままのホシノ。四人に担がれ、やって来ましたは「柴関ラーメン」の屋台。

「……何で?」

「もちろん、調理場を貸してもらうためですよ。大将!」

「話はメールで聞かせてもらったよ! いくらでもチョコを作っていきな!」

「屋台でチョコって作れるの……? っていうか、作るの?」

「ん? 先輩はどうするつもりだったの?」

「いや、普通に市販のやつで……」

 瞬間、全員から信じられないという目で見られるホシノ。

「ホシノ先輩……シロコ先輩じゃないけど、市販で愛情が伝わると思う?」

「ホシノ先輩……想い人に市販のチョコは、流石に……」

「えっこれ私がおかしいの? だって手作りのチョコって何入ってるか分かんないし、安全性が保証されてる市販の方が……」

「ん。先輩にはロマンがない」

「えぇ……」

 ということで。手作りでチョコを作ることになったホシノ。

 その道のりは長く険しいものだった……時に何故か爆発したり、時に暗黒物質(ダークマター)ができあがったり、時に全然上手くいかないことにキレたホシノが屋台を破壊しかけたり……

 しかし! その果てに何とか綺麗なチョコが完成した!

「……うへ、おじさんいつになく気合い入れちゃったなあ」

「ハート型……シンプルながらベストですね。ホシノ先輩、合格です」

「ノノミちゃん……!」

「ん。先輩ならやれると信じてた」

「シロコちゃん……!」

「さっさと先生とくっつきなさいよね!」

「セリカちゃん……!」

「ホシノ先輩、頑張ってください! 応援しています!」

「アヤネちゃん……!」

「付き合った暁には、ラーメン奢らせてくれよ?」

「大将……!」

 みんなのおかげでここまで来れました。感謝の念を示し、丁寧にお礼をするホシノ。そして顔をあげて……

「いってきます!」

「「「「「いってらっしゃい!」」」」」

 五人に見送られ、シャーレへと出発するのだった。



「……で、用事って?」

「いやー……ね、うん。その……」

 そして現在シャーレのオフィス。勢いそのままにやって来たはいいが……ここでホシノは冷静になってしまった。

 一週間は流石に手遅れでは? と。

「ちょっと……うん。一旦お茶でも飲まない?」

「何マジで……いいけどさ」

 台所の方へ向かうカケルを見送った後、持って来たチョコを見る。金で装飾された赤い袋でラッピングしていて、装飾と同じ金色のリボンが可愛い。

 この中にハートのチョコが入っているわけだ。だからこの贈り物を渡すだけ……バレンタインとか余計なことを考える必要はない……そう考えるホシノ。深呼吸を何度も繰り返し……

「……無理だぁ……」

 しゃがみ込んでしまった。頭の中を思考がぐるぐるする。色々と嫌な妄想をしてしまって尻込みしてしまう。最早これまでか……そう考えた時、ホシノの視界に大きな窓が映った。

 普段は気にもかけない窓。しかしどこか違和感を感じてそちらに目を向ける……

(……!? み、みんな!?)

 そこにいたのは……後輩たち。大将こそいないものの、それ以外のみんなが揃っていた。
 後輩たちがじっとこちらを見ている……

 一度頬を軽く叩き、気合を入れ直す。そうだ、このチョコはみんながいたからできたものなんだ。その気持ちを無碍にはできない……!

「お茶入れて来た……って、何してんの?」

「うひゃっ!?」

「そんな驚く?」

 振り向くと、二つの湯呑みを乗せたお盆を待つカケル。そしてそれを机の上に置いた。センスが古くないか?
 ホシノは咄嗟にチョコを後ろに隠し、立ち上がった後ゆっくりと後ずさる……

「……俺なんかしたか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけどさ……ちょっ、ちょっと待ってね」

 すぅーっと息を吸い、はぁーっと息を吐く。そうすると深呼吸ができます。当たり前体操だね。
 それから意を決したらしく、おもむろに後ろからチョコを取り出した。

「……か、カケル……その……これ……」

「ん、これは……」

 両手でチョコの入った包みを差し出す。手がめちゃくちゃに震えているし、顔も赤いし明後日の方を向いているしで割と惨状だが、今のホシノにそれを気にする余裕はなかった。

「……バレンタインか。ずいぶん遅かったな?」

「……その、忘れてて……」

「まあ、基本縁はないもんな」

 カケルはその包みを受け取り、じっくりと眺めた後ふっと顔を綻ばせた。柔らかな笑みを浮かべる。

「ありがとな。大事にする」

「……うん……」

 消え入りそうな声だった。

「にしても……これまさか手作りか?」

「えっ、何で分かったの?」

「包の中に直でチョコが入ってるぽいからな……えっマジで手作りなの?」

「そうだけど……」

 ぽかんと口を開けてしまうカケル。目もめっちゃ見開いてるし、よほど予想外だったらしい。

「……マジか……いや、めっちゃ嬉しいけどさ」

「私のことなんだと思ってるのかな?」

「違うじゃんそれは。拳構えるのやめよ?」

 はあ、と大きなため息を出しつつ拳を収める。それから少し視線を泳がせた後……カケルの目と合わせた。

「改めて、いつもありがとう。カケルがいてくれて、毎日本当に嬉しいんだ。これからも、ずーっとよろしくね?」

 それで、カケルがまた呆気にとられたような顔をして。

「……俺の方こそ」

「?」

「……俺の方こそ、いつもありがとうな。ずっとお前に助けられてばっかで……本当にありがとう。ホシノと会えてよかった」

 真剣な顔で、そう言ってくるものだから。ホシノの顔がみるみる赤くなってしまって……

「うん……その、それじゃあ帰るから……ま、またね!」

「あっちょっお茶……行っちゃった」

 いよいよ恥ずかしさに耐えられなくなったのか、ホシノは逃げるように……というか普通に逃げ去った。

 誰もいなくなったシャーレ。窓から覗いている不審者集団こそいるが、カケルはそれに気づいていない。見られていることも知らず、ホシノが消えた方を見た後にチョコに視線を移す。

 さっきも十分眺めたはずだが、再びその包装を眺め始める。あるいはそこに込められている何かを見ているのか。

 眺めている間、その口角はずっと緩んでおり……十分ほど見つめた後、一度冷蔵庫にしまった。

 そしてその一部始終を見ていたアビドス後輩ちゃんズ。

「あれってどうなんですかね……?」

「私的にはだいぶ脈アリに見えるんだけど……」

「ん。油断してはいけない。純粋に親友から貰えたことを喜んでいる可能性がある」

「先生ならあり得ますね……やはり恋愛対象として意識されてないのでしょうか……?」

 彼女たちは先輩たちをくっつけよう委員会。じれったい距離感を保ってる二人に耐えられなくなった四人が作った、非公認の委員会である。

 彼女たちの活動はまだまだ続いていく……
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