呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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ぽこ あ ポケモンね……なんかドラクエビルダーズに似てるなあ。

えっ、ドラクエビルダーズのスタッフさんが携わってるんですか?

(購入する音)(投稿頻度さん死亡)


35. 信じるもの

 さて。あの雨の日からまた時は過ぎたわけだが……今日、俺はリンちゃんに一つのことを掛け合っていた。

 

「『浸水被害に遭った子ウサギ公園における設備補修の提案書』ですか……市民が使う公園を補修すること、それ自体には何も異論ありませんが。これは、シャーレの活動に必要なことなのですか?」

 

「そうではないんだけど……」

 

「ならば……SRTの生徒たちにとって必要、ということですか?」

 

「まあ、はい。簡単に言えばそうなります……」

 

 最悪の事態は免れたとはいえ、状況が悪いことには変わりない。このままではあの子たちは近いうちに限界が来てしまうだろう。

 そういうことで、とりあえず公園の諸々をどうにかできないか相談したのだが……結論から言えば無理だった。

 

 理由はシンプルで、行政委員会がSRTを恐れているから。SRTのような圧倒的な武力は正しい目的と運用によってその真価を発揮する。であるなら、それが失われた今SRTは爆発寸前の火薬庫みたいなものだ。

 

 それなのに支援をするとなると、大きな反発が挙がることは想像に難くない。そういうことで無理だった。

 一応、リンちゃんだけじゃなくて他の連邦生徒会メンバーにも相談してみたんだけど……まあ、取り付く島もなかった。

 

 カヤにも相談はしてみたが……例え彼女がこれに賛成でも、他のみんなが反対なら通すことはできない。公園の補修という名目ならあるいは……と思ったんだけど、どうやらあの一帯は再開発地域らしくて、それでも無理そうだった。

 

 まあ、薄々分かってたことだけど……いざ突きつけられるときついな。こうなったらポケットマネーで支援するべきか……

 

 うーん、と悩みながら公園への道を歩く。最悪シャーレに住んでもらうのはどうだろうか……でもそれは過剰な支援な気がするんだよな……ラインを見極めるのが難しい……

 

 ……考えてたらお腹減ってきたな。近くでなんか食べていくか。そう思って、子ウサギタウンを散策してたんだけど……何故か空いている店が一つもない。

 これも再開発の影響か? にしてもこの閑散とした感じはアビドスを思い出すな……

 

 何だか嫌な感じがする。人の悪意、とでも言えばいいのだろうか。そんなものを空気から感じ取れる……気のせいかな。

 

「美味しい美味しい、『おいなりさん』はいかがですか〜?」

 

 ふと、そんな声が聞こえた。見れば、屋台みたいな場所でピンク髪の狐耳が生えた生徒が売り子……じゃないな。店員をしている。

 

「あ、そこのお客様! もしお食事がまだでしたら、こちらはいかがです? 今日は何と言っても、会心の出来でして! それに今なら出来立てです! 今が一番美味しいですよー!」

 

「……じゃあ、せっかくだし頂こうかな」

 

「毎度ありです!」

 

 おいなりさんを一つ買う。

 

「いやー、今日はお客さんが来なくて落ち込んでたんですよー」

 

「今日は不自然に人がいないもんね。お店も全然開いてないし……」

 

「そうですねー。実はこの辺、もうすぐ再開発が始まるんですよ。多分そのせいだと思います」

 

「再開発ねえ……具体的に何するんだっけ」

 

「何でも、この辺りの商店街を崩した上で地下鉄を通して、そこに新しいショッピングタウンを建てるんだとか。何でしたっけ、たしかタコさんみたいなマークの会社がそれを……」

 

 おいなりさんを口に入れようとした手が止まった。

 

「……まさか、カイザーグループ?」

 

「あ、そうですそうです! そのグループの、『カイザーコンストラクション』という会社だったかと! それはもう社運を賭けるレベルで、おっきな再開発をする予定なんだとか」

 

 ……嫌な偶然だな。再開発の立ち退きにカイザーが関係している……ちょっと違うけどアビドスみたいだというか……いや、まさか偶然じゃなかったりして。

 とはいえ、違法な事をしていないなら何も言えない。こういうやり方をするのがカイザーなんだ……と自分を納得させて、おいなりさんを口に放り込む。

 

 ……美味しいなこれ。

 

「おいなりさんもう一つください」

 

「あら、お口に合いましたか? それは何よりです。自分で言うのも何ですが、特にこの『おいなりさん』については腕に自信がありまして。同僚……友人や後輩たちも、いつも喜んでくれました」

 

 何だか含みのある笑顔。しかも喜んでくれまし()、だし……なんか事情ありそう。

 

「困ったことがあるなら、いつでも言ってよ?」

 

 その言葉に、彼女はぽかんと口を開けるとすぐにふにゃっとした笑いを見せる。

 

「お優しいんですねぇ。でも、私は現状に満足しているので大丈夫ですよ」

 

 ……嘘ではなさそうだな。なら、これ以上踏み込むこともないか。

 

「……ああ、話が逸れてしまいましたね。そうですねぇ……せっかく沢山買ってくれたことですし、もう一ついい情報を教えちゃいます」

 

 おいなりさんを口に入れる。

 

「先ほどの『カイザーコンストラクション』による再開発のお話なのですが……どうやら、取り消されると言う噂もあるようです」

 

「……それはまた、どうして?」

 

「実はこの辺には、放浪者さんの集団がいまして。結構な銃火器で武装しているからか、『カイザーコンストラクション』の方々が来るたびに騒ぎを起こしていて……工事がどんどん遅延しているんだとか」

 

 ……所確幸か。まだ仲間がいたんだな。

 

「さらに近くの公園でも、武装したどこかの生徒が公園を占拠したとかで、ヴァルキューレも色々と手を焼いているようですし。こんな状況では、『カイザーコンストラクション』も困ってしまっている……という感じでしょうか?」

 

「へえー。大変そうだなあ」

 

 こう思うのはあれだけど、いい気味だな。アビドスを散々苦しめた報いを受けるといい。

 

「ところで、そろそろお分かりかもしれませんが、私おしゃべりが大好きなんですよ」

 

「……? まあ、なんとなく分かるけれど」

 

 少女は、笑顔でもう一つおいなりさんを差し出してくる。

 

「もう一つおいなりさんを差し上げますので、もし何かご存じでしたら教えていただけません?」

 

 ……急にさっき食べたおいなりさんが怖くなってきたな。無警戒すぎたか?

 でも、態度は敵対してるってよりかは……情報屋、って感じなんだよなあ。どっちだろ……

 

「……さっきまでの態度から分かるかもしれないけど、俺って世間知らずなんだよね。悪いけど、何か対価になりそうな情報は無いかな」

 

「……そうですか。それは残念です」

 

 少女はおいなりさんを引っ込めた。

 

「これもまた、あくまで噂ですが……その公園の生徒たちはどうやら、どこかのエリート学校の生徒なんだとか。それが本当なら相当な威力の火器を持っているでしょうし、ヴァルキューレが手を焼くのも当然かもしれませんね」

 

「まあ、そうだね」

 

「とはいえ何故そんなエリートの生徒たちが、公園を占拠して生活しているのか……これは推測でしかありませんが、何かを偽装しようとしてるのかもしれませんし、取り返しのつかない失敗でそうせざるを得ないのかもしれません」

 

 何が言いたいのか分からなくて、一歩後ずさる。

 

「あるいは……夢を見ているのかもしれませんね。温室育ちの花が見るような……淡くて優しい、叶わない夢を。そんな夢に浸った生徒たちを導く立場にいる方は、それはもう大変でしょうね」

 

「……そんなことは、ないと思うけどな」

 

「……なるほど? それはどうしてですか?」

 

 どうしてだろうな。何であの子たちを助けたいと思ったのか。何で先生でありたいと願ったのか。何でそれを苦しいと微塵も思わないのか……

 

「……きっと、それがその人のやりたいことだから」

 

 苦しくないのは、これが俺の意思でやりたいことだからだと思う。何でやりたいのかは未だはっきりしないけど……もうすぐ答えが出そうな気がする。

 そもそも理由なんてなくていい気もするけどね。

 

「……変な人ですね」

 

「ん? 何か言った?」

 

「いえ、何も」

 

 少女はこほん、と咳き込んだ。

 

「さて、今日はそろそろ店じまいとしましょうか。お買い上げ、ありがとうございました!」

 

 少女はそう言うと、何故か大量のおいなりさんを俺に差し出してくる。

 

「……えーっと、これは?」

 

「売れ残りです。私だけでは食べきれませんし……おまけということで、差し上げます。もしよろしければ、お腹が空いてる子にでもあげてください」

 

 柔らかな笑みを少女は浮かべる。

 

「それでは、今日はお会いできて嬉しかったです。また機会があれば会いましょうね、()()

 

 そう言い残して、彼女は去っていった。

 

 ……何だかよく分からなかったけど、きっと悪い子じゃないんだろうな。両手に抱えたおいなりさんがそれを教えてくれる。

 さて、公園に向かいますか。

 

 抱えたおいなりさんを崩さないように慎重に運んでいく。空を飛ぶわけにもいかないので、今日は徒歩だ。

 いつの間にか結構減った罠を避けて進んでいくと、いつもの広場に出た。途端に目の前に銃口が突きつけられる。

 

「と、止まってください! 変な動きをしたら、う、撃ちます……!」

 

「ストップストップ! ミユ、俺だから!」

 

「お、オレオレ詐欺ですか!?」

 

「対面でオレオレ詐欺する奴がいるか!?」

 

 ミユは緊張すると周りが見えなくなる傾向があるな。ちょっと怖い。

 

「……ミユ、警戒する時はまず相手を見てからにしな? ほら、先生だよ」

 

 ミユの後ろからやってきたモエが、呆れたような、優しいような声色でミユに注意する。

 

「あっ……す、すみません!」

 

「まあいいけどさ……」

 

「なんだ、先生か」

 

 続いてサキも顔を出した。

 

「変な動きしてるから、犬か何かかと思った」

 

「ワン」

 

「は?」

 

「なんでもないです」

 

「……それより、どうしてここに? 呼んだ覚えはないけど」

 

 不思議そうな顔をしてたサキだったが、おいなりさんの匂いを嗅ぐとなんだか懐かしむような顔になる。

 

「ちょっとした差し入れだよ」

 

 差し出したおいなりさんを見て、みんなが目を輝かせる。

 

「あれ、この匂いは……?」

 

 匂いに釣られてミヤコもやってきた。

 

「懐かしいですね……ああ、えっと、SRTに先輩がいたんです。おいなりさんが、すごく好きな先輩たちが。先輩たちは、今頃どこに……」

 

 ふと、あのおいなりさんの少女を思い浮かべた。何故かRABBIT小隊のことを気にかけていて、おいなりさんを作ってて、そして……そういえば狐耳が生えてたな。

 

 ……まさか、な。まあだとしても、少なくとも俺の助けは必要なさそうだし……それにただ後輩を気にしてただけかも。俺のこと探ってたのもそういうことかもな。

 

「……とりあえず、頂きましょうか」

 

 それから、みんなでおいなりさんを分け合って食べた。その時、みんなにこれまでの話……連邦生徒会の支援は期待できないことや、都市再開発のことを話した。

 

 なんだか穏やかな時間を過ごしていたが、状況は変わらず窮地のままだ。装備類は大雨で心許ないし、下手すればヴァルキューレの生活安全局に負けるレベルらしい。

 

「……ちなみに、一つ提案なんだけどさ。シャーレに来るつもりはない?」

 

「と、言いますと?」

 

「今武力を欲してるのって、来るかもしれない侵入者のためでしょ? だからここを去れば一時凌ぎとはいえ武力は必要なくなるし、また大雨みたいな災害が来ても問題はないと思うんだけど」

 

 俺の言葉に四人はうーんと考えた後、相談を始め……すぐに結論が出たらしく、ミヤコが代表して意見を伝えてくる。

 

「申し出はありがたいですが、断らせていただきます」

 

「そっか。ちなみになんで?」

 

「連邦生徒会に抗議してるのに、連邦生徒会の一部のようなシャーレに住みたくない。これ以上あまり先生を頼りたくないなど、色々ありますけど……何より、この公園に少し愛着があるので」

 

「なるほどね。まあ、みんながそう言うなら俺も素直に引くよ。忘れてくれ」

 

 となると、目下最大の問題はやっぱ装備品だよなあ。これを確保できなきゃ明日にでも追い出されそうだ。さて、どうしよう……というところで「くひひ……」という笑い声が聞こえた。

 

「みんな、もしかして私のことを忘れてない?」

 

「モエ、何かいい案があるのか?」

 

 武器愛好家……というかもはや狂信の域に片足突っ込んでる彼女だが、それ故に色んな武器商人と伝手があるらしく、そこから武器を補給するつもりらしい。

 

「で、でも今の私たちには、お金も口座も……」

 

「別にお金が無いからって補充ができないわけじゃない」

 

「……まさか、銀行強盗……?」

 

「はぁ? 何を言ってるんだ?」

 

「市民の安全を守るべきSRTが、銀行強盗なんてするわけがありません」

 

「そんな頭おかしい発想しないって」

 

 そっか。いやそうだよな……普通銀行強盗なんてするわけないよな……

 

『ん。銀行を襲う』

 

 ……もしかしてアビドスって非常識の集まりだったりする?

 

 カルチャーショックは置いといて、モエの言う手段とは、物々交換だった。

 雨に濡れて大半がダメになった装備たちだが、それでも価値がなくなったわけじゃない。あれを差し出して、代わりに新品の装備を補充するというわけらしい。

 

 結構錆びてるし、使い物なるのか怪しいけど……やってみる価値はあるか。

 

 ということで早速交渉を始めることになった。まずはブラックマーケットで武器を扱っている「カイザーインダストリー」から……カイザーかあ……

 もはやその名前を聞くだけで拒否反応が出る。だけど今回はあくまで正当な取引だから、何も問題ない……アビドスでのことが異常だっただけなんだ……

 

 モエが電話をかけて、交渉を始めた。なんか大量の武器を買ってVIPになってるとか、しかもそれを買ったお金は横領したものだとか、聞き捨てならない事実が色々聞こえてきたが……聞かなかったことにしておこうかな。聞き捨てしよう。

 

 まあそんなこんなで途中まで順調に進んでいた交渉だったが……思わぬ障壁が立ちはだかった。何と、武器の在庫がないらしい。

 武器売ってる会社なのにそんなことある? と思ったんだけど、何やら先日とある顧客が全部買い占めたとのこと。大人買いってやつか。

 

 しかしそんな大量の武器を買い占めて一体何を……というかどんな富豪だよ。

 なーんかきな臭いなあ……帰ったらアロナに協力してもらおう。

 

 まあとにかくそういうことで「カイザーインダストリー」との取引は失敗に終わった。当てが外れてしまって、振り出しに戻るかと思ったんだけど……今度はネットオークションで売り出すらしい。

 

 でもこんな中古もいいところの武器を買う人なんて……と考えてたら、買い手が現れたらしい。え? マジで?

 

 


 

 

 あれから取引はとんとん拍子に進み、その日のうちに取引が成立した。あれだけ錆びまくって哀愁があったミサイルたちは既に消え、代わりに大量の現金が手元にある

 喜ばしいことのはずなんだけど……ちょっと怖さが拭えない。

 

 というのも、取引相手は直接こちらにきて、ブツを受け取ってったんだけど……最後まで顔が見えなかった上、現物を確認しても値下げ交渉すらなし。更に言えばぶっちゃけ過剰なレベルの現金まで払っていった。

 

 なんかヤバいことに加担したのでは感が拭えないが……既に売買が成立してるし、もう遅い。

 まあ、今は装備回復の目処が立ったことを喜ぼう。速攻で必要なものを買って、すぐにブツを届けてもらった。配達が早くていいね。

 

 これでひとまずは安心か……と思っていた矢先。なんか聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「た、助けてください……」

 

 見ると、荒っぽい格好をしたロボットさん。シャーレに来ることも無かったので忘れかけていたそいつの名は……えっと、多分デカルト。

 

「くひひ、ナイスタイミング。早速こいつの火力を試すとするか」

 

「もう私のことを忘れたのか!? というか『助けて』と言っただろう!?」

 

 哀れ的にされかけたデカルトだったが、実際どうしたのだろうか。

 話を聞くと、何でもヴァルキューレの公安局に襲撃されたらしい。

 

 ……公安局? と、疑問に思ったのにはわけがある。

 

 ヴァルキューレおいて武力を担当しているのは公安局ではなく、どちらかと言えば警備局だ。だというのに公安局に襲われた……とはどういうことだ?

 

 みんなも疑問に思ったのか、同じことをデカルトに聞く。

 

「いえ、確かなのです! 私はこの目ではっきりと見ました! 見慣れない武器を持ち、私たちの聖所で暴れるあの『狂犬』の姿を!」

 

 公安局の狂犬……というと、カンナか。

 しかし、襲われた……まあ、普通に考えれば邪魔な放浪者だから襲撃されたってことなんだろうけど……なんか変なんだよな。

 

 少し考え込んでいると、サキが何かに気付いたのかデカルトに近づいていく。どうやら彼についていた弾痕から判別するに、ヴァルキューレはお高めの武器を使ってるらしい。それこそ売ってるところは、「カイザーインダストリー」しかないような……あれ?

 

 となると、「カイザーインダストリー」から武器を買い占めたのはヴァルキューレということか?でも何でそんなこと……いや、それ以前に資金面はどうしてるんだ?

 

 前、キリノに聞いた話だとヴァルキューレは財政が良くないはずだ。だというのに武器を買い占められるわけがない。なんかめっちゃきな臭くなってきたな……

 

「どうしましたか、先生?」

 

「ん、いやちょっと考えごと」

 

「なんだ、立ったまま昼寝でもしてるのかと思った」

 

「起きてるのに夢が見られるのは良いことだねぇ」

 

「はいはい」

 

 ……ヴァルキューレの怪しさについては一旦後か? 今は近くに来てるだろうヴァルキューレの部隊を避ける方が先決かも。もしも俺の推理が正しければ……多分彼女たちはRABBIT小隊も攻撃してくるはずだし。

 

「……みんな、一旦──」

 

 その後の言葉は、突然の銃声に妨げられた。どうやらデカルトが撃たれたらしく、地面に倒れ伏す。

 

「……野生動物は危機に瀕すると、最も強力な群れにすり寄るもの」

 

 デカルトは野生ではないだろ、なんてツッコミをできるほど軽い空気ではなかった。

 

 そこにいたのは、綺麗に並んでいるヴァルキューレの軍隊。そしてその最前に立っているのは、ヴァルキューレでも特に名の知れた「狂犬」

 

「ここにいたのか、歩き回る手間が省けたな」

 

 尾刃(おがた)カンナ。彼女の登場だった。

 

 緊迫した空気が流れる。頬を汗が伝っていくが、その気持ち悪さを拭えない。

 

「あなたは……」

 

「ヴァルキューレ警察学校の『狂犬』……」

 

「……カンナだ。せめて公安局長と呼べ。嫌いなあだ名ではないが、そもそも私たちはあだ名で呼び合うような仲ではないだろう」

 

 会話こそ気安く感じられるが、実際鉛のように重い空気のせいで胃痛がする。カンナは以前鋭い目つきで見つめてきているし、不用意に動けない。

 

「公安局長、ここには何のご用で?」

 

「自分たちの行いを理解した上で、その質問をしているのか?」

 

 曰く、RABBIT小隊は市民たちが使うための公園を不法占拠し、地域社会に不安をもたらしているので取り締まりに来たとのこと。

 困ったことに何の反論もできない。と思っていたが、モエが防衛室長からシャーレ経由でお許しが出てるから問題ないはずだと反論した。

 

 が、そもそも防衛室長……カヤは「公園に滞在していい」と言ったことはないし、そもそも公園の管理は防衛室の管轄ではないという理論で論破された。マジで困ったことに全部正論だ。

 

 とはいえ、だから退去しろと言われてもはいそうですかとは頷けない。RABBIT小隊にとってここは第二の実家同然なんだ。そんな正論で屈服するなら既にヴァルキューレに転入してることだろう。

 

 対抗する姿勢を見せるRABBIT小隊だが……どうやらこちらの現状は向こうに筒抜けらしい。大雨で装備がほとんどダメになったこと。中古品を売って新しい装備を手に入れたこと。しかし前ほど強力な装備ではないこと……全て知られていた。

 

「公安局は今回、スポンサーの協力を得て大量の火器を確保した。貴様らがエリートだということは知っている。しかし数的優位を覆せるかどうかは別の話だ」

 

 ゆっくりとした、しかし威圧感のある言葉が発せられる。

 

「さあ、早めに決めろ。おとなしくこの公園を去るか、それとも試しにその粗悪な銃器で戦いを挑むか」

 

 決断を迫られる。RABBIT小隊が出した答えは……

 

「悪いけど、ちょっと待ってくれないか」

 

「……先生?」

 

 カンナが訝しげな顔でこちらを見る。RABBIT小隊に向けられていた圧が俺に少し向けられるが、臆することはない。しっかり目と目を合わせる。

 

「……防衛室長から聞きました、RABBIT小隊の待遇はシャーレに一任すると。しかし、これは別件です。先生の指示だとしても、決定を覆すことはできません。子ウサギタウンの再開発は、すでに決定事項ですから」

 

 ……黒、かな。多分9割近く黒だと思う。

 

「確かに俺は君たちの行動を止めることはできない。けど、いきなり出て行けと言われても困るものがある。そういうわけだから、少しだけ時間をくれないか?」

 

「時間なら、これまで十分にあったかと思いますが……」

 

 カンナは一度考え込む素振りを見せると、結論が出たようでこちらに伝えてくる。

 

「……良いでしょう。先生には借りがありますので……今日は引き上げることにします」

 

「ありがとう」

 

「しかし、いつまでも放置することはできません。ざっくり計算して、今月末までかと思います。そのタイミングにまだ公園にいるようであれば、こちらも武力行使せざるをえません」

 

「分かったよ。そっちにも事情はあるだろうしね」

 

「そういうことです」

 

 カンナは後ろを振り向くと、軍隊に「撤収!」と声をかけて去っていった。

 

 さて、ここからかな。

 

「みんな一度集まってくれ。少し話がしたい」

 

 呼びかけると、素直に俺のそばに来てくれた。最初出会った時はあんなにツンツンしてたのに……と、感慨深くなってる場合じゃないな。

 

「その前に、モエに一つ質問なんだけど。ヴァルキューレが持ってた銃器って『カイザーインダストリー』のものだったか?」

 

「だね。にしてもほんと、あのケチなヴァルキューレがどうしてカイザーのを買えたんだか。理解できないね」

 

「そういえばさっき、『スポンサー』って……」

 

「そこも含めて話すよ。あくまで推理ではあるけど、多分あってると思う」

 

 ということで、まずは何故ヴァルキューレが高価な武器を持ってるかについてだ。

 結論から言えば、多分ヴァルキューレはカイザーグループと組んでいる。

 

 仕組みはこうだ。まず、「カイザーコンストラクション」は子ウサギタウンを再開発したい。しかし放浪者やRABBIT小隊が邪魔で思うように仕事ができない。だからそいつらを排除したいと考える。しかし諸々の事情により直接手を下すわけにはいかない。

 

 そこで、同じ系列会社である「カイザーインダストリー」がヴァルキューレに武器を貸す。これはどういうことかというと、仮に子ウサギタウンを再開発した際に得られるであろうお金を、武器に変えることでヴァルキューレに流しているのだ。

 

 そうすると当然ヴァルキューレには放浪者を排除する義務が生まれる。だって彼女たちが使っている武器は、未来子ウサギタウンの再開発で得られるはずのお金で買った武器なのだから。

 

 まあ要はカイザーがヴァルキューレに、武器を与える代わりに放浪者を排除しろ、と言っているってことだ。

 

「……それ、違法じゃないのか?」

 

「ガッツリ違法だよ。本来中立の立場を取らなきゃいけない警察学校が、私企業のために動いてるからね」

 

 警察と企業が結託して市民を攻撃している、と言えばその悪辣さが分かるだろうか。

 

 マジでカイザーほんまカイザー……やっぱあいつら滅ぼすべき……いや、あれでもキヴォトスを代表する大企業だから無闇に手出しできないんだよなあ……でもマジで嫌いだわ。策謀巡らしてくるのも気に食わん。

 

「推測の域だけど……カイザーの関与や、『スポンサー』という言葉。それにカンナの言葉からして、都市再開発のために動いてるのは確定的だし、9割合ってるとは思う」

 

 とはいえ決定的な証拠はない。状況証拠的にはほぼ黒とはいえ、世間は確たる証拠がなければ認めてくれない。このまま見過ごす羽目になるかな……

 

 今はとにかく、どうやって公園に止まるかを考えたほうがいい気はする、んだけど……みんなは未だにヴァルキューレを告発する方法を考えている。

 SRTも本来は公に奉仕する立場だ。その精神が、彼女たちにも刻まれているのだろう。

 

 みんなが真剣な顔をして考えているが、これ以上悩んでも仕方がない。そう思って、一度声をかけようとしたところで。

 

「……ヴァルキューレに潜入すれば、取引記録があるのではないでしょうか」

 

「!?」

 

 ミヤコの言葉に俺だけじゃなくて、全員が驚きを露わにした。

 

「ミヤコ、お前正気か? ヴァルキューレの本館ってことだろ? あの要塞、何百人いると思ってるんだ?」

 

「ちゃんとした支援があっても、難しいんじゃ……? 今の私たちの力じゃ、多分……」

 

「普通に通報するのはダメなの?」

 

「警察の問題を警察に通報するのか?」

 

「……確かに。どっちもヴァルキューレだったわ」

 

 この問題において、警察は頼れない……といか警察が犯罪者だ。

 ではそんな時、誰が警察を罰すれば良いのか。

 

「ヴァルキューレでトラブルがあった時、これを調査する上位機関……」

 

「それが、SRTのはずです」

 

 力強くこちらを見つめるミヤコ。強い意志を持つ人にしかない、太陽さえ霞むほどの強い光。

 

「確かに、そういやそうだね」

 

「私たちがやるしかない、か……じゃないと、他に誰にも解決できない」

 

「でも、良いのかな……今の私たちは、学校もないし……」

 

 一歩踏み出そうとして、でもあと少しきっかけが足りない。

 そんな時、生徒の背中を押してあげるのは、きっと……

 

「……はあ。何というか、すごい無茶だというか」

 

「……先生?」

 

 ミヤコの方を見た。きょとん、とした顔をしている。こんな可愛い顔であんなことを思いつくんだからすごいよほんと。

 

「でも、そうだな。それが君たちのやりたいことなら……君たちが信じる正義なら。それを支えてみせるのが、先生って立場だよな」

 

 ふと、懐かしいことを思い出した。俺が役割に固執して、それ以外何も見えなかった時。きっとそれじゃダメだと、先生も分かってたはずだけど……あの人は俺を否定しなかった。

 あの時は自分のことばかり考えてて、その意味を考えなかったけど……今なら分かる気がする。あの人は、生徒を信じているんだ。

 

 それが、先生というものなんだろうな。

 

「いってらっしゃい。最悪、俺が責任を取るから……自分の正義を、目一杯貫き通してきな」

 

 俺の言葉に、一瞬みんな呆気に取られて……それから、ふっと笑ってくれた。

 

「……変な人ですね」

 

「先生、本当に『責任』って言葉の意味分かってる?」

 

「もちろん。最悪俺もシャーレやめて……はダメか? まあ何でもする気だよ」

 

「はっ、やっぱりバカだな」

 

「ふふっ……」

 

 みんな嬉しそうにしてるくせに、相変わらず素直じゃない子たちだ。

 

「ですが、おかげさまで決意は固まりました……私たちはSRT。キヴォトスにおける込み入った犯罪行為に対し、真っ先に投入される特殊部隊」

 

「秩序維持のため、犯罪者を速やかに制圧し……」

 

「可能な限り全火力を瞬く間に投下し……」

 

「……気づかれる前にその場を去る」

 

「ヴァルキューレが私企業と結託して、不法行為を行おうとしている……その可能性がどれだけ高くとも、正規の手続きでは解明できないでしょう。まさに、SRTとして介入するべき任務です」

 

 ミヤコが……みんなが。やる気を漲らせて、動き始める。

 

「みなさん、作戦の準備を。これより、ヴァルキューレ公安局の違法行為に関する証拠を確保するため……『クローバー作戦』を、開始します!」

 

 そして、自らの抱く正義のため。RABBIT小隊は行動を開始した。




明日、カルバノグが終わったら……良いね!
そしたら多分幕間二話挟んで……エデン条約四章かな……

我ながらなかなか異常なペースな気がするな……でもぽこあポケモンがいるから大丈夫ですね。
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