「どうも」
「………………」
前略。用事を終わらせシャーレに帰ったら久々に黒服がいた。いつも通り顔を思いっきり顰めた後、手遅れながら取り繕った真顔にする。
「……まあ、とりあえずアレだな。中入るか?」
「おや、珍しく渋らないとは……」
「門前払いされたいならそう言えよ」
「それは困りますね。ではお言葉に甘えまして……」
ひとまずシャーレのオフィスに黒服を案内する。そしていつもなら適当な椅子に座らせるところだが……今回は適当に持って来た座布団を投げた。
そのことに疑問を持った黒服が、投げられた座布団を見つめながら問うてくる。
「……これは?」
「まず俺に何か言うことあるよなてめえ。正座しろ」
「ふむ。全く心当たりがありませんね」
と言いつつも、律儀に座布団の上に正座する黒服。その姿に思わず半目で視線を送ってしまうが、もはや取り繕う気も起きない。
「ヒント。エデン条約」
「ああ、アリウスに情報を流した件ですか」
「ああ。じゃないが? 危うく死にかけたんだけど?」
右手に呪力を集中させていく。呪力が炎のようにボッと音を発した。その様子を見た黒服の顔に少し汗が浮き出た気がする。覚悟はいいか? できてなくても殴りはするが。
「まあまあ落ち着いてください」
「辞世の句を考える時間ぐらいはやるよ」
「落ち着いてください」
「何か弁明があるなら聞いてやるが」
俺の言葉に、黒服はこほんとわざとらしく咳をすると……
「死んでないのでいいでは「くたばれ」
ゴンッ、と鈍い音が鳴った。当然俺が黒服にゲンコツした音だ。殴られた箇所からは湯気が上がり、心なし盛り上がってる気がする。
たんこぶになったそこを手で押さえ、悶えている黒服。いい気味だぜばーか。
「ぐぅっ……! 焼け付くような痛みが……!」
「殺さないだけ感謝しろよ」
はあ、と大きなため息を出した。もうだいぶ疲れたがまだ本題を聞いてすらいない。頭を掻きつつ、用件を聞く。
「で、何の用だよ」
「……率直に言えば、いくつか知りたいことができまして……そこのところを詳細に教えていただきたく」
「珍しい。ゲームしに来たんじゃないのか」
「それもしに来ました」
「……はあ」
さっき吐いたばかりのため息がまた出た……こいつといると本当に疲れるというか、振り回されるというか。
首を軽く振り、気を取り直す。
「……じゃあとりあえず質問しろよ。答えられるやつは答えてやる」
「ただ質問するというのも味気ないですし、ゲームしながら質問してもよろしいでしょうか?」
「まさかゲームが本当の目的じゃないよな?」
「クックック。冗談です」
腹立ったのでそこら辺にあった消しゴムを呪力強化して投げつけた。「うぐっ」と悲鳴が聞こえたが自業自得だ。
「俺の時間も有限なんだよね」
「ぐぅ……し、承知いたしました……」
再び悶え苦しむ黒服を見て、ふと不思議な気持ちになった。
何というか、最初見た時と比べると随分印象が変わったものだな。昔は理解不能で恐怖すら覚えたのに、今となっては厄介で面倒なおっさんぐらいにしか思わねえや。
何だか感傷的な気分に浸っていると、黒服が「それでは早速……」と姿勢を正した。座布団のまんまでいいの?
「あなたが先日使用した、『宵』というものが何なのか。それを教えていただきたいのです」
「……えぇ……うーん……」
極の番「宵」。俺の扱う術式の奥義みたいなもので……唯一殺傷を目的として作ったヤバい技。
教えてもいいような、良くないような。悩んでいると、黒服が落ち着いた様子で提案をしてきた。
「ふむ、まあそうでしょうね。では交渉なのですが、私からある貴重な情報を出しますので、それと交換のような形で教え合う……というのはどうでしょうか?」
「貴重な情報……?……まあ、それの内容にもよるけど」
だから早く話せと促せば、黒服がニヤリと笑った。そしてその条件を言う。
「呪術戦の頂点『領域展開』。その概要についてお教えします」
「……領域展開」
「ええ。極の番を術式における奥義だとするならば、領域展開は個人においての奥義……知っておいて損はないと思いますよ?」
クックック、と悪そうに笑う黒服。
ただその、自信がありそうなその態度には申し訳ないんだけど……あんま惹かれないなあ……
ぶっちゃけこれ以上強くなってもなあ……確かにエデン条約の件では遅れこそとったけど、アレは俺の精神的な問題だし……
「ということで別にいいかな……」
「お待ちください」
「まだなんかあるのか」
さっきまでの悪そうな雰囲気は消え失せ、そこにいるのは額に汗をかく可哀想な大人だった。哀れだし、まあ聞いてやろう。
「あなたから聞いたことを他の人に話すことはしないと約束します」
「おん。じゃあ何に使うの?」
「使う、というよりは純粋な好奇心なのです。最近は呪術に関しての研究を頻繁に行なっていまして。それ故に呪力を持つあなたは重要なサンプルなのです」
だからどうか教えてくれませんか? と懇願してくる黒服。はてさてどうしたものやら。ここで断っても粘着して来そう。
……まあ、ぶっちゃけ教えてもいいかなーとは思ってる。「宵」の対抗策なんて大分限られるし、それをこいつやゲマトリアが実践できるとも思わない。
だから、まあ。いいかなあー……
「……はあ、分かったよ。教えてやる」
「感謝します。領域展開についても、お話しいたしましょう」
「いや別にそれは……お前さては俺のそれが見たいだけだな?」
「ククッ、バレましたか」
つくづくこいつは研究者だ。手段にさえ目を瞑れば俺的には好ましい人物なんだけどなあ。
……手段といえば、こいつ俺の知らないところでまたなんかやってないだろうな?
「お前さ。今まで何してたんだ?」
「先ほども言いましたが、呪術に関する研究を行なっていました。とはいえそれ一辺倒でなかったのもそうですが……ああしかし、あなたが懸念しているように生徒を用いた実験などはしていませんよ」
「ふーん。その言葉が本当であることを祈ってるよ」
「ククッ、あなたは何に祈るのですか?」
「……お前の善性、とか?」
そう言えば、それが何か余程面白かったらしくオフィス内に黒服の笑い声が響いた。クックックというそれは、なんかうざい。
「はあ、うるせー……まあいい、解説を始める」
「よろしくお願いします」
黒服がビシッと姿勢を正した。なんだかそれが面白くてちょっと笑いかけたが、さっさと始めたいので堪えた。
心を落ち着けるため一つ咳払いをして、解説を始めた。
「俺の極の番『宵』。その効果は……まあ簡単に言えば、当たればほぼ死ぬ追尾ビームを何十発と連射するって感じ」
「……それはまた、凶悪な効果ですが……仕組みとしてはどのようになっているのですか?」
「縛りと、俺
まずは縛り。内容は簡単で「この技を除いた術式を使った魂への攻撃の実行禁止」。これでプログラムを組み込めるように……「失礼、少しよろしいでしょうか?」
「何?」
「今、魂への攻撃とおっしゃったのですか?」
「そうだけど」
「つまり、あなたは魂を認識することができると?」
「そう、だけど?」
何故だかいつもより圧を感じられる黒服に少したじろぐ。何か失言だったか?
「……いつ頃から?」
「えぇっと……分かんね。なんか気づいたら見えるようになってたからさ」
正直に答えていると、黒服が一瞬で考え込む様子を見せた後「……なるほど」と呟いた。
「失礼しました。続けてください」
「えぇ……? 何なん?」
口では文句を吐きつつも、続きの説明に移る。
縛りで術式にプログラムを組み込めるようになったら、そこに独自のプログラム……簡単に言えば、俺の視界に入っている魂を常時捕捉し追尾するもの。を組み込む。
「……術式にプログラムを組み込む、とは?」
「分からん。試行錯誤してたらできたやつだから自分でも理解はしてない」
「………………」
そうするとビームが自動で敵を追尾するようになる。これで相手に当たると物理的ダメージと魂へのダメージを与える追尾ビームの完成というわけだ。
後はこれをめっちゃ連射するだけ。プログラムを組み込んでるからかアホみたいに呪力を消費するが、絶対敵を殺してくれるすごい技だ。
「ふむ……解説ありがとうございます。ちなみに、なぜこのような技を開発したのでしょうか?」
「セトの憤怒……だっけ? あいつみたいなのが実は世の中にいっぱい潜んでるのかと考えてさ……じゃあ速攻で処理できるような技作った方がいいかーってね。まああそこまで強いのは今でも出会ってないけど」
「なるほど……理解しました。簡潔にまとめれば、視界内の生物の肉体と魂に攻撃する追尾光線を超連射する、まさに必殺技というわけですね」
「初めからそう言ってはいるけどな」
これが俺の奥義、極の番「宵」の概要だ。もーっと簡単に言えば敵絶対殺すビームって訳だな。
「……ところで、ふと疑問に思ったのですが」
「ん?」
「あなたの術式……呪力の放出のことなのですが。これは通常のように呪力を放出するのと何が違うのですか? あなたが教えた生徒たちは術式がなくとも神秘を放出可能になっていたようなので……」
「あー、それは……まあぶっちゃけ何も変わらないというか……術式反転で貯蓄した呪力を使えるぐらい?
実は俺が術式を通そうと通さまいと、呪力放出した時の操作性は変わらないし攻撃力も変わらない。
それでも術式を通すのは術式反転で術式自体に貯蓄してある呪力は、術式関係にしか使えないため。
再度の説明にはなるが、俺が術式反転で吸収したものは俺の呪力に還元され、術式に溜め込まれる。これは術式に関係すること……術式順転と術式反転。この二つにだけ使うことができる。
術式で普通に呪力消費しちゃうと反転術式とか使いづらくなるからね……今後もよっぽどのことがなければ術式通して呪力放出するのがデフォルトだろうな。
「ふむ……もしかしたら何か違いがあるかもしれませんので、一度試してみませんか?」
「……まあいいけど。じゃあ外出るぞ」
ということで一度外に出た。広がる青空に向けて手をかざす。
「じゃあ最初は術式を通した時」
手に光が集まっていき、そして光線となって空に飛び出した。光線は少しの間直進し……そしてそのうち空気に溶けていった。
「次に術式を通さなかった時」
手に光が集まっていき、そして光線となって空に飛び出した。光線は少しの間直進し……そしてそのうち空気に溶けていった。
うーん。何も変わんね。一応俺視点で見れば使った呪力が違うのは分かるんだけど、外から見たら全く一緒の光景だろう。
「どうだ黒服。何か違いはあったか?」
「……いえ、何も」
「そっかー……」
果たしてこの実験に何か意味はあったのだろうか? まあ何も変わらないことが分かったから一歩前進か……
「しかしまだ何かしらの違いがある可能性は捨てきれません」
「って、言われても。このままやっても意味はないと思うけど?」
「こちらの容器をご覧ください」
そう言いながら黒服は懐から、ガラスでできたカプセルのようなものを二つ取り出した。黒服の指がカプセルに触れ、パカっと開く。
「これは私特製の保存容器でして。簡単に言えば中に入れたものの状態を停止させたまま保管できる優れものです。こちらに術式を使用した時としていない時の呪力を込めていただき、それを私が後で専用の機器を用いて観測します」
「へえー。じゃ、よろしく」
片方のカプセルには普通に呪力を込め、もう片方には術式を通した呪力を込める。これでいいのかな? と思ってたら黒服がカプセルの蓋を閉めたので多分あってる。
「それにしても、すごい技術だな。これをデカくすればコールドスリープ装置とか……何その微妙そうな顔」
「……いえ、なんでもありません」
「なんやねん」
何故だか眉をひそめ、マジ……? みたいな表情をしていた黒服だが、こほんと咳払いをするとすぐいつもの顔に戻った。
「……では、再び室内に戻るとしましょう。そして……領域展開。あれについて私が知っていることを教えます」
シャーレのオフィス。新しい椅子を出すと言ったのに「気に入りましたので」とか言って座布団に座っている黒服を眺めるお昼時。
「では、早速領域展開について解説させていただきます」
「わーいどんどんぱふぱふ」
「期待してもらえているようで何よりです。では、まずはその簡単な概要から」
領域展開。呪術戦における頂点、極地、真髄……色んな言い方はあるが、ともかく最強格の技。
術式を付与した生得領域を呪力で周囲に構築する。領域内で発動した術式は必ず相手に当たり、また自分にはバフのようなものがかかる。
「へぇー。必ず、ねえ」
「ただし。必中効果が発動するのは呪力を持つ相手だけです」
「へぇ。呪力を……うん?」
……呪力を持つ相手って……俺しかいなくね……?
「おいてめえこら」
「何でしょうか」
「とぼけんなカス」
「落ち着いてください。実はさっきの説明は言葉足らずでして」
黒服によれば、恐らくは領域を構築する際に使うエネルギーによって、必中する相手が変わるのだと言う。
マイナスのエネルギーである呪力で領域を構築した時には、同じようにマイナスのエネルギーを持つ相手には当たるのだと。
「それ故に。推測ではありますが、呪力で領域を使用した際は、同じマイナスのエネルギーを主な成分とする恐怖のエネルギーを持つ相手にも必中すると考えられます」
「ほう。で、その恐怖のエネルギーを持つ相手っていうのは?」
「私が知る限りでは……今この世界にはいませんね」
「くたばれ」
近くにあった鉛筆を手に取り、その先端を黒服に向けて投げつけた。間一髪で避けられたものの、壁に鉛筆が突き刺さっている。ちっ惜しい。
「落ち着いてください。先ほどの仮説が正しいのならば、仮に神秘などのプラスのエネルギーで領域を使用したならば、この世界に生きるものたちにも必中するはずです」
「俺が神秘を無くしたって知ってるよな?」
「反転術式で生成したプラスのエネルギーを使ってみては?」
「ふっざけんな。ただでさえ反転はかなり呪力を食うんだぞ。それでその領域とやらを作ろうとしてみろ、先に呪力切れになるわ」
「領域展開を作る際に術式に貯蓄している呪力は使えないのですか?」
「聞いてる限り無理。領域が大量に呪力を消費するのって、要は結界と心象風景の構築に使うからだろ? だったら無理だろ」
「クックック……そうですか」
こいつの感情は読み取りづらいが、今だけははっきりと分かる。こいつ俺のこと馬鹿にしてるだろ。青筋が走り、もう一発殴ったろかという怒りが出てくるが……なんとか抑えるため、手のひらで顔を覆って上を向いた。
「はあ〜〜………………続けろ」
「おや、続けてもよろしいのですか? あなたのことですから最早聞く必要もないと私を追い返すかと思いましたが」
「なんか、意地だよ。ここまで聞いて最後まで聞かないのは何か悔しい」
「ふむ。では、お言葉に甘えまして」
領域展開の仕組み。分かりやすく車の作成に例えて説明しよう。
まず、基盤となる結界を作る。車で言うならフレームの部分、全ての骨組みだ。ここに生得領域やら必中術式やらを付与するらしい。
ということで次は生得領域を付与する。車で言えば塗装、かな。コーティングするイメージというか……多分そんな感じ。
最後に、術式を付与する。車で言うと、エンジンなどの機構を組み込むって感じ。当然一番重要な部分だ。これが無いと必中が動作しないらしいからね。
「これが領域展開です」
「へぇー。まあどうせ俺には意味ないけどね」
「不貞腐れないでください。みっともないですよ」
「『宵』を食らってみたいならそう言えよ。呪力めちゃくちゃ食うとはいえ、貯蓄分があれば無駄遣いの一度や二度くらいいけるんだぜ?」
そうでなくとも、普通のやつなら高出力の呪力砲で大体死ぬしな。わざわざ「宵」を使うまでもない。
「……というか、その領域展開ってやつ。何でお前が知ってるんだ?」
「言ったでしょう? 最近は呪術に関する研究も行なっていると。その過程でその存在を確認したのです」
「ふーん……?」
なんだか含みがある言い方な気がするが……まあどうせ俺には関係ないし。
あーーーしょうもねえーーー。
「以上が領域展開の解説になりますが……どうでしょう。できますか?」
「知らん。できたとして見せる気にもならん。帰れ」
「これはこれは……ずいぶん嫌われてしまいましたね。困りました」
「声色が困ってねーんだよカスが」
ほら帰った帰ったという意思を示すように、手でしっしと黒服を追い払う。
「では、お言葉通り帰ることにしましょうか」
「あれ、マジで帰るんだ。ゲームしてかなくていいの?」
「今は研究の方を優先したいので」
「へえ。じゃあ帰れ。次来る時は何かしらのお土産がないと通さないからなー」
「ククッ、了解いたしました……」
黒服は最後に俺に一礼すると、黒いモヤみたいなものに呑み込まれ消えていった。
その様子を最後まで見つめた後、今日まだ残っている仕事のため、俺も動き出すのだった。
「……黒服、目的を果たすことはできましたか?」
「ええ、問題なく」
どこか、誰も知らない場所。そこにそれらはいた。
黒い服を着こなす白いヒビのようなものが入った人のようなもの。指揮者のような服を着こなす双頭の木人形。茶色のコートを着こなす首なしの人のようなものと、それが抱える男の後ろ姿が映った写真。まるで貴婦人のような、赤い肌を持ち頭頂部には瞳のついた羽が無数に生えているもの。
それらはゲマトリアといった。
赤い肌を持つ貴婦人、ベアトリーチェという名を持つそれは、黒服の返答にニヤリと笑みを浮かべる。
「こちらが、かの代行者……九条カケルの呪力です。観察はしたいので、実際に渡すのは少々後になりますが」
「ほう……これを組み込めば、ということでしたか? ゴルコンダ」
差し出された一つのカプセル。その中では、見るものが見れば九条カケルの呪力が淡く光っているのが分かるだろう。それを興味深そうに見つめた後、ベアトリーチェは質問を投げかける。
ゴルコンダと呼ばれた首なしの存在は、顔がないにも関わらず声を発した。
「はい。恐らくは、ですが。後はこれを、複製し切り抜きを行なった術式に代入すれば……」
「その効果が発動すると。なるほど……」
「しかしある程度の条件付け……呪術的な言い方をするならば、縛りは必要かと。今のままではただの文字のようなものですので」
「では、その条件は私の領地に入った時にしておきましょうか。誘導する計画もあることですしね」
不気味な雰囲気の中、異形のものたちは話し続ける。ベアトリーチェは口角が微かに上がったままで、それに対して何を考えたのか、木人形……マエストロが怒りを抑えた声を出した。
「ベアトリーチェ。私は未だ認めてはないぞ。かの者を処分するなど……彼は私の芸術を理解してくれる存在だ」
「知ったことではありません。第一貴方の芸術作成が遅いのが問題では?」
「彼を満足させるような芸術は、そう易々と創造できはしない。貴下は芸術というものを理解していないらしいな」
「ええ、理解する気もありません。私たちは協力者であって、仲間ではないのですから」
ベアトリーチェの態度に、マエストロは舌打ちの代わりに凝り固まった人形を動かすかのようなギギギ……という音を立て、黒服を見やる。
「黒服。貴下はどうなのだ? 貴下もまた、彼を気に入っているように見えたが」
「ええ、確かに彼は私のお気に入りです。しかし、だからと言って他者の行動を邪魔する権利はありませんので」
「その通りです。私の行動は、誰にも邪魔させはしません」
強い口調で言うベアトリーチェに、自身の意見は通じないと理解したのか黙り込むマエストロ。沈黙が流れる中、ベアトリーチェが思い出したかのように黒服に問う。
「ああ、忘れていましたが……黒服。あの予測について、確証は得られたのですか?」
「……確証というには少し物足りませんが、肯定の意を示しておきましょう。魂を認知できていたこと。そして世界が彼を本物の先生と誤認していること。これらから考えれば、やはり──
──彼の中には、
「……ふふっ、そうですか。であるなら、やはり私直々に殺すとしましょう」
赤色の怪物は、妖艶に微笑む。その笑みに愉悦を滲ませ、実に楽しそうに。
「この私の新たな力……この
そう言って、ベアトリーチェはよりその笑みを深くした。
なんか呪術してきたな?
次回からエデン条約四章です。ちなみにまだ一話も書いてません。あれ失踪……?