呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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5. ブラックマーケットに行こう

さて、便利屋襲来の翌日、いつも通りアビドス高校に向かっていたのだが……

 

「はーい、高い高ーい」

 

「あはは!すっごーい!めちゃくちゃ高く飛んでるー!」

 

「二人とも、何やっているんですか!?」

 

アヤネに怒られながら、ムツキを高い高いしていた。

 

学校に向かう最中、今日が利息返済日ということで、早めに登校しているアヤネと会ったのだが、そこに横から便利屋の一人であるムツキがやってきたのだ。

どうやら向こうのスタンスとしては、仕事外ではこちらと仲良くしたいらしく、アヤネはそれに対して「今さら公私を区別しようということですか!?」と怒っていたが、まあ落ち着きなさいと俺が宥めて、ついでに一緒に遊んでいるというわけだ。

 

また襲ってきた時は返り討ちにすればいいだけだし、特に問題はない……と思う。

 

「もう一回やる?」

 

「先生?」

 

「あはは、楽しかったし、もう一回やりたいけど……これ以上アルちゃんたちを放置するのはダメだし、また今度やって!」

 

「おっけー。それじゃ、またねー」

 

「バイバーイ。アヤネちゃんもまた今度ね」

 

「また今度なんてありません!!今度会ったらその場で撃ちます!」

 

「はいはーい」

 

そういうわけで、ムツキとは別れることになった。

手を振って見送っていると、怒った様子のアヤネから質問される。

 

「先生は、何で昨日戦った相手と仲良くできるんですか!?」

 

「……そうだなあ」

 

少し悩んで、答えた。

 

「先生っていうのは、そういうものなんだよ」

 

「意味がわかりません!」

 

俺としては真面目に答えたつもりだったのだが、アヤネは理解できなかったようでプンスカしながら歩いていく。

俺はそれについていきながらアヤネを宥めるのだった。

 

しばらくアヤネと歩いて、学校に到着したら、利息を返して、いつもの教室で会議を始める。

本日の議題は二つ、一つは昨日の襲撃事件の主犯……「便利屋68」について。

どうやらゲヘナの部活の一つらしく、色々と悪いことをやっている問題児らしい。次にあったら問答無用で拘束して取り調べをすることになった。

 

横目でちらりとホシノの様子を伺ったのだが、便利屋の名前が出ても、特に変わった様子はない。となると、昨日突然単独で突撃したのは未知の相手の戦力を測るため……だろうか?戦闘風景をアヤネのドローンで眺めていたが、銃弾をわざわざ受けていたし、多分そうだと思う。

 

少し話が逸れた。二つ目の議題はヘルメット団の裏にいると思われる、黒幕について。

戦車のパーツをより詳しく調べたところ、どうやらそれは「ブラックマーケット」という場所でしか手に入らないものだったとわかった。

 

「ブラックマーケット」

様々な理由により、学校に通っていない生徒たちが形成した危険区域。

このキヴォトスにおいて、一二を争う治安の悪さだと聞いてはいる。

 

どうやら便利屋も何度かそこで騒ぎを起こしているらしく、何か手掛かりがあるかもしれないということで、アヤネだけサポート係として置いていき、俺たちはブラックマーケットへ向かうこととなった。

 

 


 

 

そういうわけで、やってきましたブラックマーケット。

 

マーケットという字面から、小さめの市場的なものを想像していたのだが、実際来てみると市場というより街という表現の方が正しい。

人も多くいて賑わっているし、アビドスよりもよっぽど街だな。

 

とりあえず、俺たちはヘルメット団が使っていた戦車に関する情報を探しに来た……のだが、広すぎてどこに何があるのかさっぱりなのでひとまず適当に歩くこととなった。

気分はさながら遠足だが、アヤネから油断するなと釘を刺されているので一応警戒はしておく。

雰囲気がただの街なので気を抜きやすいが、ここは違法なものが色々と取引されているキヴォトス屈指の危険区域なのだ、多分。

 

その治安の悪さを示すかのように、銃声がタタタタタ!と鳴り響いた。

 

「待て!!」

 

「う、うわああ!まずっ、まずいですー!!つ、ついてこないでくださいー!!」

 

「そうはいくか!」

 

音の方を見やれば、チンピラの教科書みたいなチンピラ二人が一人の生徒を追い回している。

ここには似合わない綺麗な風貌をしたその生徒は、必死にこちらに逃げてくる。

 

「わわわっ、そこどいてくださいーー!!」

 

そしてそのままシロコに激突した。

 

「い、いたた……ご、ごめんなさい!」

 

「大丈夫?……なわけないか、追われてるみたいだし」

 

「そ……それが……」

 

「何だおまえらは。どけ!アタシたちはそこのトリニティの生徒に用がある」

 

どうやら追われてた子はトリニティの生徒だったらしい。

 

トリニティ総合学園。ミレニアム、ゲヘナと並ぶキヴォトス一のマンモス校が一つ。

まあ詳しくは知らないのだが、どうやらキヴォトスで一番お金持ちの学校でもあるらしく、チンピラたちはそのお金を得るため、生徒を拉致って身代金を頂こうとしていたわけだ。

 

向こうは協力するかと提案してきたが……まあ当然乗るはずもなく、シロコとノノミがそれぞれ銃でぶん殴って気絶させた。

それで、追われてた子……ヒフミから感謝の言葉を受けていたのだが……

 

「……ところで、そこのペロロ様の仮面を被っている方。あなたも、ペロロ様のファンですね?」

 

いきなりさっきまでの小動物のような雰囲気が消え、すごいキラキラ……キラキラ?した目で俺の方にグイグイ寄ってきた。何で?

 

「え、いや俺は「いえ、言葉にしなくてもわかります……あなたは確かにモモフレンズのファンではありません……でも、ペロロ様のことを愛している……そうですよね?」

 

確かにこの鳥に愛着は持ち始めてるけど。でもこれ適当に買ったやつなんだよなあ。

 

「いや「そのペロロ様の仮面……確か二年前あたりに売られていたものですね。確か最初の販売は……トリニティの近くで行われたライブでの販売だったでしょうか。確かそのグッズは何故かあまり売れなかったので、すぐに販売停止になった物です。そんな初期の方のペロロ様のグッズを持っているあなたはペロロ様の熱狂的なファンだとわかります。しかしその割にはそれ以外のグッズが見当たらない……つまりそういうことですね。しかもそのペロロ様の仮面、すごく完璧にお手入れされています。二年前のものが目立った損傷もなく、汚れもなくあの頃の輝きを保っている……ペロロ様の喜びの声が聞こえてきます。あなたはペロロ様を本当に大事にしている、素晴らしい人なんですね」

 

「……ソウダネ」

 

素晴らしい愛だなあ。うん。新しい仮面を買うことを検討しておこう。

 

「……えっとー、その、ペロロ様?について話してるところ悪いんだけどさ。ヒフミちゃんは何でブラックマーケットに来たの?」

 

俺がそろそろ無理やり話を打ち切ろうかと考え始めた時、ホシノのナイスサポートが入った。

 

聞くところによると、ヒフミはもう販売されていないペロロのグッズを買いにブラックマーケットにやってきたらしい。

正直そこまでやる?とも思うが……まあ、俺が口を出すようなことではないか。

 

ちなみにそのモモフレンズとやらを知っているのはうちではノノミだけだった。意気投合している二人を見てみんなポカンと……あの、セリカさん。アンタもあの輪に混ざってきなさいよみたいな目するのやめてください。

 

そんなこんなで話し込んでいたのだが、突然、アヤネより武装した人たちが四方よりやってきているとの報告を受けた。

さっき撃退したチンピラたちによる報復である。逃げることもできないので、応戦する。

 

俺はいつも通り「シッテムの箱」を用いてみんなをサポートしていく。相変わらずの素晴らしい指揮。アロナのドヤ顔が目に浮かぶようだ。

たまに流れ弾がこちらに飛んでくるが、万全の状態であればかすり傷すらつかない。衝撃はあるのでうざったいが、特に問題はないだろう。

 

そのまま敵を倒し続けていたのだが……後退はすれども、数が減る様子がない。

こちらとしては何百回でも何千回でも撃退してやる気持ちだったのだが、ヒフミによるとこのまま騒ぎを起こすととんでもないことになるらしく、一度この場から離れることとなった。

 

離れた後、ヒフミがブラックマーケットに関して様々なことを語ってくれた。

企業が利権争いをしていたり、専用の銀行や警察があったり……なかなかとんでもない場所だな。

 

「……それにしても、ヒフミはブラックマーケットに詳しいな」

 

「えっ?そうですか?危険な場所なので、事前調査をしっかりしたおかげでしょうか……」

 

にしてもかなり詳しいな。もしかして何回か来てたりする?

これだけ詳しいなら……と考えていると、どうやらホシノも同じ考えに至ったようで、先に言葉に出された。

 

「助けてあげたお礼に、私たちの探し物が手に入るまで一緒に行動してもらうねー♪」

 

「え?ええっ?」

 

ヒフミも最初は驚いていたが、最終的に案内役を引き受けてくれた。やったね。

 

 


 

 

一方その頃……

 

どこかしらのビルの最上階にて。一人のロボットが頭を悩ませていた。

 

「……まさか、あんな力を隠していたとは……クソッ、計算を修正する必要があるな……」

 

苛立たしげに言葉を吐き出すこの男は「カイザーPMC理事」

便利屋をアビドスにけしかけた張本人である。

 

彼の現在の目的はアビドスに侵攻すること。そのためにヘルメット団を使ったり、便利屋を使ったりして攻めていた……

だが、先日たった一人の生徒により、今までの中で最も戦力が整っていた軍勢を蹴散らされてしまったのだ。

今までの戦闘を分析すれば、あれで十分なはずだった。だというのに何故……理由は明確であったが、だからといってその解決策はわからない。

 

このままでは……そう考え、恐怖し始める。その前に、怪しげな黒い存在が現れた。

それは人のフォルムをしているが、人ではない。肌は黒いモヤのようなもので、白い光が目と口を構成している。

 

「……お困りのようですね」

 

「チッ……そんなことはわかっている!何をしに来た、黒服!」

 

黒服と呼ばれた存在は、怪しげにクックックと笑うと、理事とは反対の落ち着いた声で話し始めた。

 

「いえ、手助けをしようかと思いまして……私ならば、あなたの懸念である小鳥遊ホシノを抑えることができます」

 

「……ほう?それは本当か?」

 

「まあ、抑えると呼べるほど大層なものでもないですが。ただ呼び出して時間を奪うだけです」

 

「いや、十分だ。奴さえいなければ、後は押し切ることができる……!」

 

さっきとは打って変わって希望を見出し、喜ぶ理事。そんな彼を前に、黒服が忠告をする。

 

「あまり、アビドスを甘く見積もらない方がいいですよ……正確に言うならば、現在アビドスと行動を共にしている先生()を、でしょうか」

 

「何だと……?」

 

「私から助言できるのはここまでです……それでは」

 

そう言うと、黒服は闇に紛れ、気づけば消えていた。

理事はただそれを、黙って見つめているだけだった。

 

 


 

 

あれからしばらく歩きまして……

 

俺たちは結構ヘロヘロになっていた。

数時間ほど歩き続けたので、まあそりゃそうだなという感じではある。

 

俺も常時呪力で肉体強化をしているが、それとこれとは話が別だ。体力的に問題なくとも、精神は疲れる。

そういうわけで途中にあったたい焼き屋で休憩しつつ、雑談をしていた。

 

ヒフミによると、どうやらここまで探して目的の情報が見つからないのは異常らしい。ブラックマーケットでは大体みんな大っぴらに悪さをしているから、こんな意図的に隠されているみたいなことは変な感じなのだと。

 

例えばと指差された銀行を見ると、あそこは犯罪で得た金を違法な武器などに変えて、それを流し、そしてそのおかげで得た金を手に入れてはまた武器に変え……ということをやっているらしい。とんでもねえなブラックマーケット。連邦生徒会も動かないし、いっそのことシャーレの権限でどうにかするべきか……?

 

そんなことを考えていると、またもや武装集団が接近しているとの報告。気づかれてはいないらしいので一度身を潜めることに。

どうやらその集団は「マーケットガード」というらしく、ここの治安機関でも最上位の組織……らしい。ヒフミさんによる説明である。

 

どうやら現金輸送車を護衛しているらしい。そのままさっき説明された銀行に入ると、中から銀行員が……!?

 

……あれは、今朝うちに集金しに来た銀行員?何故ここに……?

周りを見ると、みんなも気づいたらしく、妙な緊張感が場を支配する。

よく見れば、あの現金輸送車もカイザーのものだ。

 

……つまり、わかっていることから推理するならば……俺たちの払った現金が犯罪資金になっている、ということだろうか。

 

その事実にみんなが黙り込む中、アヤネがまだ証拠が足りないといってくれた。

そこでヒフミから、さっき奴らがサインしていた集金確認の書類が証拠になるのではないかとの名案を頂いた。

 

だが、その書類は既に銀行の中だ。どうやって……と考えていると、何やらシロコの目が輝いている。そしてあの方法しかないとも言う。

……まさか、やるのか!?今、ここで!?

 

俺たちに動揺が走る中、ただ一人何もわかっていないヒフミが問いかけた。

 

「……あ、あのう。全然話が見えないんですけど……『あの方法」って何ですか?」

 

「残された方法はたったひとつ」

 

別にそんなことないだろ。と俺が言う前に、シロコが例の覆面を被った。

 

「銀行を襲う」

 

「待てシロコ」

 

「うへ、準備はできてるよー」

 

「ホシノも覆面を被るな。待てって」

 

「わあ⭐︎そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」

 

「ノノミも覆面を被るな!頼むから一度止まってくれ!」

 

俺の制止の言葉も虚しく、既に覆面を被っているシロコ、ホシノ、ノノミ。

この中で唯一覆面を被っていないセリカも、どうするか迷っている。

 

「俺はお前らを犯罪者にしたくはないんだが」

 

「でもさー、今回の目的は書類を確認することでしょー?お金を盗むわけでもないし、人を傷つけるつもりもない。なら悪いことじゃなくない?」

 

「……」

 

そう言われると、反論できない。

だけれど、これは先生として……看過していいのか?

 

うーん……

 

大きなため息を、一つ吐いた。

 

「……絶対に正体を悟られないこと。それから、悪いこと……具体的には無実の人を傷つけたり、お金を盗むなどの犯罪行為をしないこと。これが条件だ」

 

「ん、問題ない。私の計画は完璧だし、覆面も完璧」

 

「本当かなあ……全く。覆面ちょうだい」

 

「はい」

 

俺の分の覆面を受け取った。5と書かれた白い覆面である。これを仮面の上から装着……うわっ、見辛すぎ。

見辛いが、サイズは何故かいい感じである。いつ採寸していつ作ったんだよ。

 

平常時より格段に狭くなった視界で周りを見ると、腹を括って覆面を装着したセリカと、あわあわしているヒフミが目に入った。

流石にヒフミの分の覆面は無かったらしい。このままだと全責任がヒフミ、ないしはトリニティにいくが、そこまで人の心を無くしていないのでたい焼きの袋を仮面として被せることで何とかした。幻の六人目、誕生の瞬間だ。

見た目だけで言えば完全にラスボス級。この集団のリーダーが決まったな。

 

「それじゃあ先生。例のセリフを」

 

シロコが突然そう言ってきた。例のセリフが何なのか全く知らないけど、ここはノリと勢いで誤魔化すことにする。

 

「それじゃあ僭越ながら……みんな、さっき言ったことはちゃんと守って、楽しく銀行を襲おう!」

 

「はいっ!出発です!」

 

「あ、あうう……」

 

若干一名このテンションについてこれていない被害者がいるが、走り出した暴走機関車を止めることは誰にもできないのだ。

 

「ふぅ……では、覆面水着団」

 

最後に、アヤネも0と書かれた覆面を被り

 

「出撃しましょうか」

 

我ら覆面水着団、最初で最後になるだろうミッションが始まった。

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