呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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最近気づいたんだけど……もしかしてこの小説、一話一話が長いか……?

今回は控えめに6,000文字ぐらいなんだけど……どうなんだろうか……?


39. アリウススクワッド

 雨降りしきる、寂しげな街。そこで二人の人が相対していた。

 

 一人はシャーレの先生、九条カケル。いつも通りの仕事着の上に、軽く雨を凌ぐため黒いパーカーを着てきている。フードを被っているとまるで不審者のようで、それを気にしてか今まで被っていたそれを取った。

 

 一人はアリウススクワッドのリーダー……だった生徒、錠前サオリ。エデン条約の事件を起こした時からその服装は変わっておらず、その大部分が汚れている。綺麗さなど微塵もないその様子は、彼女がいかに厳しい環境にいたかを示していた。

 

 二人、静かに睨み合う中……先に動いたのは、サオリだった。

 持っていた銃を地面に置くと、その身を低くし……さらに頭を下げる。

 

 絶望しているようにも、土下座しているようにも見えるその姿勢。カケルが目を大きく見開き……彼女の言葉を待つ。

 

「……先生。アツコが……連れて行かれた」

 

 雨の音にも負けそうなほど、弱々しい声だ。

 

「他の仲間もアリウスの襲撃に遭って、散り散りに……生死も不明だ……あれから何日も……逃げてきたが……私では彼女を止められなかった……」

 

 ──アリウススクワッドは、現在アリウスにも狙われている。

 エデン条約の任務にて失敗し、さらには逃亡を始めた彼女たちに居場所はなく、あの日からずっと逃亡生活を送っていた。

 

 衣食住全てが満足にいくことはなく、一瞬一瞬を生き残ることに注ぐ日々。状況が好転することはなく、悪化し続け……その果てに、ついぞ崩壊した。

 

「このままでは……アツコは……姫は、死んでしまう……明日の朝……夜明けと共に『彼女』に殺されてしまう……私の話など、信じられないだろうが……これだけは、真実だ……」

 

 姫……秤アツコは、生贄として育てられた。その生まれゆえに、彼女にはその運命が定められていたのだ。

 

 しかしサオリはそれに納得できず、ベアトリーチェとの交渉の末「エデン条約の強奪を成功させ、ユスティナ聖徒会を手中に収め、ゲヘナとトリニティを滅ぼす」……それを為せば、アツコや他の仲間を助けると言ってもらった。

 

 だが彼女は失敗した。

 

「……今の私は落伍者だ。トリニティにも、ゲヘナにも──同じアリウスにだって助けを求めることなどできない。だから、頼れるのはもう、先生しか……」

 

 言葉にするほど、内に秘めた思いがあふれて止まらない。どんどんと声が小さくなっていくが、それでもはっきりと言葉にする。

 

「頼む……私の命を賭けて約束する、どんな指示だろうと従う……『ヘイローを破壊する爆弾』、これも、預ける。私の命を握ってもらって構わない。私を信用できないと判断したら、それを使ってくれ……だから、頼む」

 

 サオリが地面にめり込みそうなほど、さらにその頭を下げた。

 

「どうか……アツコを……姫を……助けてくれ……」

 

 頬から水滴が流れ落ちた。雨に濡れた服は、水を吸ってとても重い。頭から血が出そうなほど、血に頭を擦り付けたサオリ。

 

「……サオリ、立ってくれ」

 

 彼女が顔を上げたのは、その言葉があったからだった。目線を彼の顔に向けると、なぜだかとても苦しそうな顔をしている。

 彼は一度目を閉じると……大きく息を吐き、力強くサオリを見つめた。

 

「分かった、協力する。ただ、君のいう通りならあまり時間がないな……聞きたいことはいくつかあるけど、まずは──」

 

「……ま、待ってくれ。今、協力すると言ったのか? 私から言ったことではあるが……本当に、いいのか?」

 

 ほとんど迷いを見せず決断したカケルに対し、困惑したような、罪悪感を持ったような声で問いかける。

 

「私は、お前を殺そうとしたんだぞ……?」

 

「過去は過去。今は今だよ。それより、まずは逸れたアリウススクワッドとの合流を急ごうか。君の言うとおりなら、彼女たちも命が危ない……アロナ」

 

『はい! 呼ばれました、アロナです!』

 

「ここいらの監視カメラをハッキングして、アリウススクワッドのみんなを見つけてくれ」

 

『了解しました! ちょっと待ってくださいね……』

 

 懐から取り出した「シッテムの箱」をパパッと操作し、睨めっこを始めるカケル。どう移動するのが最も速いかを考えているようだ。

 

 本当に過去をどうでもいいと思っているような彼の態度に、言葉を失うサオリだが……良いことだと割り切ることにしたのか、軽く首を振ってカケルの元に歩き出す。

 

「先生、これを」

 

「ん?」

 

 サオリが手渡したのは、四角の箱に赤くて丸いボタンがついたもの。いかにも起爆用のスイッチですという顔をしているが、実際「ヘイロー破壊爆弾」の起爆スイッチである。

 

「これを押せば、私を殺すことができる。私が信頼に値しないと考えた時には、これを押してくれ」

 

「…………いや…………うっかり押したりしたら危ないし、いらない……というかそもそもその爆弾を離しなさい。危ないでしょ」

 

「そ、そうなのか……?」

 

「そうだよ。ほら、万が一敵に利用されたりとかしたらどうするの」

 

 渡しなさいと手を出してくるカケルに観念したのか、渋々といった様子で懐に秘めていたヘイロー破壊爆弾を取り出し、手渡すサオリ。

 

 あまり大きくはないが、一度起爆すればヘイローに直接作用し、生徒を殺すことができる爆弾……カケルはそれを少し見つめると、ぐしゃっと握りつぶした。

 

 爆弾だったとは思えない、ただのかけらになってしまったそれ。内に秘められた神秘諸共崩壊させられ、何の価値も無くなったゴミ屑をカケルは無表情で投げ捨てた。

 

「……」

 

『先生! まずはヒヨリさんが見つかりました!』

 

「ああ、ありがとう。サオリ、行くよ」

 

 投げ捨てられたそれを、サオリはじっと見つめた。

 そのことを気にも留めないカケルは、アロナから情報を聞きすぐシッテムの箱を取り出す。ヒヨリの位置を確認した彼はさっきとは打って変わった優しげな笑みを浮かべて、サオリに早く着いてくるよう促した。

 

 当然それに反対することもなく、降りしきる雨粒を置いて、走り出した。

 

「……時間がないし、移動しながら質問に答えられるか?」

 

「もちろんだ。何でも聞いてくれ」

 

 カケルの質問は三つ。「アツコを殺そうとしている『彼女』とは誰か」「アツコはどこに連れて行かれたのか」「何のためにアツコを殺すのか」

 

 サオリがたびたび口にしていた「彼女」とは「ベアトリーチェ」のこと。アリウスの代表であり、「マダム」とも呼ばれる背が高く、赤色の肌で、白いドレスを身に纏う大人。

 

 アツコは現在アリウス自治区内の「アリウス・バシリカ」……その地下、至聖所と呼ばれる場所にいるとみられる。

 

 その目的は不明で、分かるのはアツコがそこで生贄にされるのは前から決まっていたということ。そしてその儀式は明日の夜明け……つまりは今から数時間後に行われる。

 

 カケルの質問に、走っているにも関わらずすらすらと答えるサオリ。その表情は切迫しており、後少しでアツコが死んでしまうという現実を恐れているように見えた。

 

(目的はアツコを助けること。制限時間は数時間後……まず最初にアリウススクワッドを、生きていたなら助け出す。それからアリウス自治区に向かう)

 

 同じように、走りながら冷静に思考をまとめるカケル。

 

(問題はアリウス自治区への入り方だけど……サオリなら知ってるはずだな。よし、やることは決まった)

 

『先生、前方およそ20m先に敵二名、アリウスの生徒です! 近くにヒヨリさんも!』

 

「了解」

 

 アロナからの報告を聞いた彼が、一気に加速する。着いてきていたサオリを置いていき、一瞬にして肉薄。アリウスの生徒たちが気づく前に術式反転で意識を奪った。

 

「よし。アロナ、ヒヨリは?」

 

『そこの物陰です!』

 

 ちら、とそちらを見やれば……なるほど。ドラム缶の後ろに隠れているが、彼女の持つ大きな狙撃銃が顔を出してしまっている。

 それからカケルは声をかけようとして……躊躇った。

 

(俺って一応昔敵対してたしな……向こうからだと、まだ警戒の対象かも。サオリが来るまで待つか)

 

 数秒待つと、すぐにサオリがやってきた。カケルはヒヨリが隠れている箇所を指差し「そこにヒヨリがいるよ」と教える。するとすぐにサオリがそちらに近づいて行った。

 

「ヒヨリ、大丈夫か!?」

 

 その声に応え、ひょっこりと現れたのはアリウススクワッドの狙撃手、槌永ヒヨリ。緑がかった水色の髪をサイドテールにした、幸薄い雰囲気を纏う少女である。

 

「り、リーダー……どうしてここが……」

 

「そこにいる先生のおかげだ」

 

「せん……え?」

 

「どうも」

 

 ヒヨリはサオリとカケルの顔をなん度も交互に見直し、さらには自分の目を擦って幻覚でないことを確認すると……大きな声で驚いた。

 

「……え、ええっ!? な、何でリーダーと先生が……!?」

 

「それは……」

 

「つ、ついに天罰の時がやってきてしまったんですね? やっぱり、私は終わりなんだ……そうですよね……よくよく考えてみたら、先生は私たちをアリウスから取り返したいですよね……自らの手で処罰したいでしょうから……私たちを捕まえて、シャーレにあると噂の地下牢に入れる気なんですね! シャーレに反抗した子たちのすすり泣き声が夜な夜な聞こえるという、曰くつきのあの場所に……うわぁぁぁぁぁああん! もう終わりです……まだやりたい事も、読みたい雑誌もたくさんあったのに……」

 

 ……口を挟む間も無い、というのはまさにこの事だった。

 まくし立てるよう早さで詠唱してみせたヒヨリに、呆気に取られてしまう二人。そして完全に自分の世界に入ってしまい、うわあんと泣いているヒヨリ……

 

「……なんか、聞き捨てならないことがいくつか聞こえたような……」

 

「ヒヨリ、終わりなどではない。私たちはヒヨリを助けに来たんだ」

 

「……えっ、それはどういう……というか冷静に考えてみたら、どうしてリーダーは先生と一緒に? ……はっ分かりました。リーダーは先生に脅されて「違う。よく聞いてくれ、ヒヨリ」

 

 またも何か詠唱を始めそうなヒヨリを事前に止め、事情説明を始めるサオリ。

 最初は信じられない、という態度をとっていたヒヨリも、カケルに敵対意志がないことや二人が険悪な雰囲気でないことから、最終的には信じてくれた。

 

「よし、次はミサキだな……」

 

「ミサキの居場所なら、私たちに心当たりがある」

 

「分かった。じゃあ早速行こう」

 

 話もほどほどに、再び出発した。

 

 

 

 

 

 長い橋だった。恐らくは、あの寂れた街と外との交流を一手に担っていたのだろう、立派な橋だ。しかし、いつから放置されているのだろうか? 錆びている部分の方が多く、装飾も剥がれ落ちかけている橋は寂しさを際立たせるばかりだ。

 

 下を見てみれば、川が流れているが……そこまでの距離があまりにも遠い。異常なほどの高度に、この橋はかけられていた。

 

「……落ちたら、どうなるかな」

 

「下の川は水深5m以上はあるから、まず死ぬと思うよ」

 

 返事されることを期待されていなかった言葉に、どこからか返事がされた。

 声の方を見てみれば、そこに彼女はいた。

 

「流れも速いから、落ちたら水底に沈んで……溺死するだろうね」

 

 一歩踏み外せば、落ちてしまいそうな場所。橋から人を落とさなように立てられた柵……そこに彼女は立っていた。

 黒いボブカットの髪。白いパーカーを着て、気怠げな雰囲気がある。彼女が戒野ミサキ。

 

 彼女はゆったりと三人を見回して……状況を察知した。

 

「そっか……そういう選択なんだね、リーダー。まさかリーダーが、ね……それに、先生もそれを受け入れたんだ……どっちにせよ、予想外だったな」

 

 言葉とは裏腹に、ひどく落ち着いた態度を取っているミサキ。

 

「でも先生、知ってる? 私たちは先生を始末すれば、アリウス自治区に戻れる……いつ後ろから引き金を引くか分からないのに、先生は私たちを信用できるの?」

 

「それ以前の問題だよ。君たちに俺は殺せない……物理的にね」

 

「そうかな? もしかしたら何か秘密兵器を持っているかもしれない。こうやっているのも演技で、彼女を呼び寄せているかもしれない……いくらでも可能性は考えられるよね」

 

「だとしても、命が賭けられている以上俺は逃げない。それにそんなもんあったら、サオリはとっくに使ってるよ」

 

 澄んだ瞳で答えてくるカケル。どうやら迷いはないらしい。

 そのことを確認したミサキは、目を閉じてため息をつくと……

 

「……じゃあこれは知ってる? 私たちは先生を殺さなくても、アリウス自治区に誘導すれば良いって言われてるんだ」

 

「……」

 

「知らなかったかな。多分リーダーは言ってないよね……だって仮に先生が死んだら、情状酌量があるかもしれないし、死ななかったら黙ったままでいい……それが一番いい選択だもんね」

 

「……ミサキ、何故言ったんだ」

 

 それはある意味自白だった。サオリが厳しい顔で問いかける。

 

「だって、本当にそれで姫が救えるって思ってるの? 彼女はそんな甘い人じゃない。先生がどれだけ強くても、あの人が準備した自治区に飛び込むのは自殺行為……どっちだろうと、姫を助けるのなんて無理だ」

 

「だが、可能性はあった」

 

「もし仮にアツコを救出できたとして、そこに何の意味があるの? 帰る場所もないこの世界に取り残されて、泥水を啜って生きるだけの……この無意味で苦しい人生が続くだけでしょ? 苦痛ばかりだった姫の人生を引き延ばして……そこに価値があるの?」

 

「……」

 

「……まあ、それもこれも意味のない仮定だけど。だって私たちは先生を騙して殺そうとした。もう終わり……」

 

「終わりじゃないよ」

 

 言葉を遮ったのは、カケル。彼は自身のことを騙していた少女たちをゆっくりと見やる。その瞳には一切の汚れがない。

 

「俺はまだ協力する気だけど? その程度のことで引くなら、最初から協力してないよ」

 

「……正気? それはつまり、騙そうとしていた私たちと一緒にアリウス自治区に行くってことだけど?」

 

「そうだな。だから、なんだ? 俺は死ぬつもりはない」

 

「……イカれてるね」

 

 ミサキの言葉が全てだった。この男はイカれている。呪術に関わった者にイカれていない者などそうそういない。彼もまたその例に漏れず、頭がおかしい。

 

「……だ、そうだけど。リーダーはどう考えてるの?」

 

「……ミサキも言っていたが、正気か先生? 私は、お前を騙そうと……いや、騙していたんだぞ」

 

「……正直言うと、そんなもん重要じゃないんだよ。どうでもいいとさえ言える。俺が今重要視してるのは、君たちが困ってて、アツコが死ぬかもしれないってこと」

 

「お前が死ぬかもしれないんだぞ!?」

 

「死ぬ気はないって言ったじゃん……それに、言うほど死ぬのが怖いわけじゃない。だからさっさと行くよ。ミサキは来る?」

 

 平然とした声で呼びかけてくるカケル。明らかに気が触れているとしか思えない発言に……しかし観念したのか、柵から橋に降りてくるミサキ。

 

「……リーダーも、どうせ諦めないんだよね。だから仕方ない、今回もお供するよリーダー」

 

「……ああ、頼んだ」

 

「はああ〜〜〜……い、一時はどうなることかと思いました……」

 

 緊張の一幕が終わり、今まで緊張して吐き出せなかった息を思いっきり吐くヒヨリ。その顔は安堵の色で染まっている。

 

「……先生、すまなかった」

 

「いいよ別に。サオリだって必死だもんな……分かるから、いいよ」

 

「だとしても、私は……」

 

「あーもういいから。本当にいいんだよ。そういう償いみたいなのはアツコを救ってから考えてくれ」

 

 罪悪感を滲ませるサオリを、適当にあしらっているカケル。その態度は本当に面倒くさそうだ。

 黙り込むサオリ……微妙な空気を払ったのは、ミサキだった。

 

「黙ってる暇なんてない、急ごう……残された時間は約90分。それまでに入り口にたどり着かないと」

 

「……なるほど。0時まであと一時間半……急ぐとしよう。説明は向かいながらする……行くぞ」

 

「分かった」

 

 こうして改めて協力関係を築いた四人。新たに追加された「90分」という時間制限までに行動を起こすべく、走り出した。




ちょっと先の話だけど、エデン条約四章が終わったらデカグラマトンをちょっとやり、その後パヴァーヌ二章をやる。しかし問題はパヴァーヌ二章のプロットが全く練れていないこと。まず読み返さないと……

着地はなんとなく決めてるんだけど、問題はどうやってもカケルくんが初手で問題を解決しそうなこと……はてさてどうしたものかね?
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