呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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前回で累計50話いっていたことに今更気がついた。いつも読んでくれてありがとうございます。

そして全く関係ない話なんですけど、今日ってケイちゃんとアリスの誕生日じゃないですか。そして俺の父親の誕生日でもあるんですよ。気づいた時ものすごく微妙な気持ちになりました。


40. 止めない

「──アリウス自治区に行くには、トリニティ地下のカタコンベを通過しないといけない」

 

 誰もいない街を出来る限りの速度で駆け抜けながら、ミサキが説明をする。

 

「カタコンベの入り口は、判明しているだけでも約300か所。その中の『本当の入り口』は限られていて、残りは全て偽物。入口を間違えれば、カタコンベで迷い続ける羽目になる」

 

 走りながら話をするのは流石に辛いようで、ミサキが一度息を整えようと話を中断した。交代するかのようにはサオリが続きを説明する。

 

「だから私たちは正しい入り口と、そこからアリウス自治区に通じるカタコンベの内部ルートを暗号で伝えている。カタコンベの内部は一定周期で変化するからな」

 

「なるほどね……それで今は正しい入り口に向かってるってことだよな。じゃあ制限時間90分の意味は?」

 

「今の私たちに正しい入り口は分からないんです。もう暗号を教えてもらっていないので……で、でも……たった一つだけ、まだ使える入り口が残ってます」

 

 今度はヒヨリが代わって話し、そして再びミサキが説明を務める。

 

「その唯一の入口が使えるのが、今日の日付変更線まで……だから90分、といってもここまで時間を使っちゃったから、後1時間だけど」

 

「それは……おかしくないか? だって『彼女』……ベアトリーチェは、君たちに俺を誘導するように指示したんだろ? じゃあ帰り道を教えないとダメじゃないか」

 

「恐らく、連れて帰れないなら帰れないでいいと考えていたのだろう……彼女は、そういう人だから」

 

「……なるほど、ね。随分と(さか)しい奴だ」

 

 カケルが嫌悪感を滲ませた表情をした。彼はそういう頭が回る大人というのが本当に嫌いなのだ。まだ会ったことはないが、きっといい関係にはなれないだろう……と、彼は考えた。

 

「……まあ、今はそんなのどうでもいいか。それよりも……」

 

『先生! 前方に敵多数、待ち伏せです!』

 

「当然、向こうもそれぐらいは分かってるか」

 

 アロナの警告にカケルの足が止まり、連動して三人も動きを止めた。

 

「さてどうする? 俺を連れていっているふりをして、戦闘を避けるって手もあるけど」

 

「……いや、恐らく彼女たちは何も知らされていない。私たちが先生を騙して連れていっている場合、ここで待ち伏せがないのは不自然だ。恐らくあそこにいるのは、私たちを敵だと認識している奴らだけだろう」

 

「要するに、正面突破しかないってことか」

 

 全員の目が、自分たちの向かうべき道を見た。一見崩れたビルや、閉鎖されたお店が並ぶだけのそこにはしかし、いくつもの兵士たちの痕跡が残っている。足跡、不自然に燃えている炎、空気に少し混ざる、火薬の香り……

 

「じゃあ俺が突っ込むから、三人は後方からサポート……ってより、俺が取り逃した敵を倒してくれ」

 

「つまり先生が囮になるってことだよね……了解」

 

 空気が張り詰める……人が何人もいるとは思えないほどの静けさ、その中でアリウススクワッドにしか聞こえない小さな声が響いた。

 

 ……3……2……1……

 

「行くぞ」

 

 銃弾の如く、カケルが地を砕いて飛び出した。凄まじい轟音が鳴り響くが……それよりも早く、カケルがアリウスの兵士を一名無力化する。

 

「……!? 敵襲だ!!」

 

 戦闘用に訓練された兵士たちはすぐに状況を把握、即座に立て直しを図るも、それができるのは一般の域に収まる相手だけだった。

 常識などとうに超越している男の猛進を止める事などできず、次々に倒れていく兵士たち。その視線がたった一人に向けられ……それが命取りだ。

 

 影から兵士を狙うものが、三人。男に目を奪われる彼女たちは声を上げることもできず、次から次に倒れていく。

 

「な、なんだ!? 先生以外にも誰かいるのか!?」

 

「スクワッドだ!! 先生とスクワッドが協力している!!」

 

「気づくのが遅かったな。君たちで最後だよ」

 

 最後に残った二人も、すぐに倒れた。時間にして一分たらず、待ち伏せをしていた全兵士が敗北を喫する。

 

 ふぅ、と一息をつくカケルに近づく三人。最初に口を開いたのはミサキだった。

 

「……敵だと恐ろしすぎたけど、味方だと頼もしすぎるね……私たちだけの時は、あんなに苦戦させられたのに」

 

「こ、これが大人の力……」

 

「いや大人の誰もがこういう力を持ってるわけではないらしいから。俺を参考にしちゃダメだよ?」

 

 危うく大人に対する間違った認識を持ちかけたヒヨリだったが、カケルの補足によってそれを見事に回避した。誰もがこんな力を持つ世の中など、危なくて仕方ないだろう。

 しかしその圧倒的な力を前に、これなら……と微かな希望を抱く三人。だが悠長に喜ぶ時間も無い。

 

「さっさと行こうか。この先も敵が待ってるなら、ちょっと時間が危ないかもだし」

 

 カケルの言葉に三人は頷くと、兵士たちがそこら中で倒れるホラーな街を後にした。

 

 

 

 

 

 そこから待ち伏せている敵はおらず、順調に歩みを進め……たどり着いたのは、ぽっかりと穴を開けるトンネルのような場所。

 

「……ここから地下道を通ってカタコンベに入る。でも……多分ここには待ち伏せがいるだろうね」

 

「面倒だな……ここまでそれなりに時間使っちゃったしな。サオリ、0時まであと何分ぐらい?」

 

「約36分だ」

 

「ふむ、なるほどね……作戦はさっきと同じでいこうか? 俺が大暴れして、その隙にみんなが数を減らす」

 

「了解した……なら、先に頼む」

 

「任せてくれ」

 

 軽く手を振り、トンネルの中に足を進めるカケル。灰色の石レンガと張り巡らされたパイプが、冷たさを感じさせるトンネル……カツカツと、足音が響いた。

 

「アロナ」

 

『後10mほど進んだら、踏み込んでください……そしたらちょうど真ん中に入れます』

 

「りょーかい」

 

 とても敵陣に乗り込んでいく最中とは思えない、気の抜けた声。アロナはカケルが気を許している数少ない人物の一人だ。

 

 敵も当然、足音がしているのには気づいている。だからこちらが先攻を取れると、そう考える。それを逆手に取り、敵が攻撃を始める直前のタイミングで、一気に敵の懐に潜り込む……!

 

「一番嫌なタイミングは、気が抜けている時……なんてね」

 

「……き、貴様は──!?」

 

「おやすみ」

 

 体に触れ、そのエネルギーを吸い取る。呪力の放出……その反転である、呪力の吸収。

 

 彼が術式反転を気兼ねなく使えるのも、敵から奪ったエネルギーを自身の呪力に還元できるため。術式に貯蓄された膨大な呪力量もまた、彼の強さを支える秘訣。

 

 幾度もの術式反転の行使をしようと、彼が貯蓄する自身の呪力は減るどころか増すばかり……この世界は、この術式においてあまりに都合が良すぎる世界だった。

 

「う、撃て! 撃てーー!!!」

 

「くそっ、銃弾が効いていないぞ!! グレネードは!?」

 

「グレネード、投げます!!」

 

 ピンを抜かれたグレネードが、カケルの目の前に投げられた。鍛えられた技術により、ピンポイントで彼だけを爆発させる。煙がトンネル内を包み込む。

 

「やったか!?」

 

「あーあ、それはフラグってやつだよ」

 

 当然のごとく、無傷のカケルが煙の中から出てくる。そして再び蹂躙劇を開始した。

 

 九条カケルをこの世界における最強たらしめる要素の一つ。「無制限の呪力出力」。自身の神秘全てを無くすという意図しない後付けの “天与呪縛” ……彼はその恩恵を思う存分に活用していた。

 

 無制限、それは即ち呪力ある限り無限に自身を強化できることを意味する。彼が持つ呪力は全て肉体強化に用いられており、そして「他者に物理的傷をつけない」という縛りによるさらなる底上げ。

 

 万全の彼を傷つけるならば、それこそ核爆弾でも使うか、エデン条約でやったように彼の呪力操作を揺るがす必要がある。

 そのどちらも、今のアリウスには不可能。彼女たちの行為はすべて無駄な抵抗と化す。

 

「ば、化け物!!」

 

「何も効かない……こんなの聞いてないよ!」

 

「逃げるしかない、逃げるんだよ!!」

 

「逃げたら『彼女』に殺されるんだぞ!?」

 

 次第に銃声は少なくなり、響くのは悲鳴ばかりとなる。

 無数の倒れ伏す仲間の姿が、彼女たちの戦意を次々に折っていくのだ。そしてそれを行なった男は、未だ無傷……

 

「……」

 

『先生、その……大丈夫ですか?』

 

「ん……あんま、気分は良くないかなあ。ちょっと昔を思い出しちゃって……」

 

 そう言って彼は、どことなく元気がない笑いを浮かべる。少しの間気まずそうにしていた彼だったが、目的のことを考えさらに奥へとその歩みを進めた。

 

 

 

 

 

「さっきも見ましたけど……本当にすごいですねえ」

 

「正直、私たちが必要な気がしないね。もうあの人一人でいいんじゃない?」

 

 蹂躙という言葉すら霞むほどの一方的な戦闘を見せるカケルに、思わずと言った様子でヒヨリとミサキが呟いた。

 

「言いたいことは分かるが、気を抜くな。彼女が先生を誘き出すように言ったのは、倒す算段があるということだ。仮に先生が危機に陥った場合、私たちがそれをカバーする必要がある」

 

 それに対して厳しい言い方をするサオリ。まだ彼女、ベアトリーチェは何かを隠している……その事実に緩んでいた気を引き締める三人。

 

「……それに仮に先生一人でどうにかなるとしても、私はアツコを助けるために動きたい……それは二人もそうだろう?」

 

「……まあ、ね」

 

「はい……わ、私にだってあんなに優しかったアツコちゃんですから、見捨てたくありません」

 

「そうだ。それだけで、私たちが動く理由は十分だろう」

 

 すぐそこに迫る運命の時を前に、決意を固くする三人。

 

 とはいえいつまでも止まっているわけにもいかない。サオリが「行くぞ」と声をかけ、進み始めた。

 辺り一面まさに死屍累々と言った様子ではあったが……何人か、まだ動いている兵士がいる。三人はそういう者たちを念入りに気絶させ、先に進んでいく。

 

 前方遠くからは数多の悲鳴が聞こえており、その惨状を容易に想像させる。だとしても、気を抜くわけにはいかないと慎重に進み続け……

 

「……待て」

 

 サオリが二人を手で制した。

 

「何か、物音がこちらに近づいてくる……」

 

「逃げてきた兵士じゃないの?」

 

「いや、何かおかしい……正面じゃない、というより足音でもない……?」

 

 このトンネルは言葉から想像できるようなトンネルだ。つまり石レンガに囲まれた一本道がずっと続いており、途中途中に緩やかなカーブはあれど、横道が存在しない。

 

 だというのに、その物音は明確に横から近づいてくる。

 

「……これは、破砕音……?」

 

 石を砕くような鈍い音が、だんだんと大きくなってくる。ドン、ゴン、ドゴォ……

 

「……来るぞ、構えろ!」

 

 

 ──トンネルの壁が、大きな音と共に崩れ落ちた。

 

 パラパラと破片がこぼれ落ち、土煙がだんだんと晴れていく。そしてその襲撃者が、姿を現す。

 桃色の長い髪。お嬢様のような小綺麗な白い服。場違いなほど無邪気に輝く、黄色の双眸。

 

「ふふっ、やっぱりここに来ると思ってたよ。大当たり!」

 

 そう言って彼女は無邪気に笑う。明るい声で……まるで、壊れた人形のように。

 

「聖園、ミカ……」

 

「悪役登場⭐︎ってところかな! ……まだ覚えててくれてたんだね? 会えて嬉しい……って顔じゃなさそうだけど、どうしたの?」

 

 天真爛漫な雰囲気が陰り、冷たい表情が顔を出す。その冷たい瞳が、大きく見開かれた。

 

「──そんな、魔女でも見たみたいな顔しちゃって」

 

 


 

 

 時は遡り、サオリがカケルと会っている頃……そして、セイアが体調を悪くしてしまっていた頃。ミカは一度檻の中へと戻っていた。

 

 隔離された牢屋……しかし完全に外と遮断されているわけでもなく、外で大きい声が聞こえれば中にはある程度響く。

 外から微かに聞こえてくる声が、彼女の精神を蝕んでいった。

 

「せ、セイア様のご容態は……!?」

「ダメです、痙攣と血が止まらなくて……」

「至急、救護騎士団に連絡を……!! シスターフッドでもどこでも構わないから、早く対処法の確認を……!」

「ナギサ様は?」

「今、病院に移動中です! 他の方々にも連絡を取っていますが……」

「『シャーレ』は?」

「さっきから連絡が取れません! ……ま、まさか先生にも何か起きたのでは……!?」

「不吉なこと言わないで、連絡を続けて!」

「犯人は! 聖園ミカですか!? あの魔女が!!」

「待ってください! ミカ様は何も……」

「彼女がセイア様の部屋を訪ねたからこんなことが起こったのではありませんか? あの女は何かをしたに決まっています!」

「やめなさい! 今ここで争ったって……!?」

「人殺し! この魔女め!!」

「出てきなさい!! 聖園ミカ! この極悪人! 全部あなたのせいよ!」

 

 大声が聞こえる。それを聞くたびに、耳を塞ごうとして……しかし動かした手は、力なく落ちるだけだった。

 床を見つめる彼女の頭に、セイアの声が響く。

 

『君が、アリウスに接触したことによって……先生が……狙われている……』

 

『君が、先生を連れてきたから……!』

 

「私のせいで……こうなっちゃったんだね……」

 

 力なく彼女は呟く。涙が出てはいるが、拭う気も起こらなかった。ポツポツと滴り落ち、無機質な床を濡らしていく涙。

 

 結局のところ、自分なんて許されていなかった。もしかしたら、なんて都合のいいことを考えて、踊らされた。そんなおとぎ話みたいなものがあるわけも無いのに。

 

「私がバカだから、アリウスに……『アリウススクワッド』に……サオリに利用されるばっかりで……そのせいで……大切な人を傷つけて、怪我をさせてしまって……これじゃあまるで……」

 

 

 魔女のようだ。

 

 

「……そうだね。そういうことだったんだ……」

 

 全てが腑に落ちた。そんな声で、小さく呟いた。

 

 それからしばらく黙り込んで……顔を上げる。

 

「……なんだ、考えてみたら簡単なことじゃん」

 

 その黄色の瞳には、すでに正気など宿っておらず……

 

「……『アリウススクワッド』の錠前サオリ……すべては……」

 

 

 あの女が元凶なんだから。

 

 

「あの女が私を利用して──セイアちゃんのヘイローを壊そうとして、ナギちゃんにミサイルを飛ばして、先生を傷つけて……全部……ぜんぶ、ぜんぶ、ぜーんぶ! あの子が計画したことだった」

 

 自分に言い聞かせるように、次第にその声が大きくなっていった。

 外の声はもう聞こえない。

 

「私の大切な人がこんな目に遭っているのに、錠前サオリだけ安穏と過ごしているなんておかしくない?」

 

 ギョロリと、その瞳がどこか遠くを見つめた。

 

「うん、そう。そうだよ──あの女も……私が奪われた分だけ、同じように奪われなきゃ不公平でしょ。あの女の大切な人も、同じように……全部」

 

 もはや迷いなどなかった。吹っ切れたような笑顔を浮かべ、その拳を構える。そして……全力で、牢屋の壁に叩きつけた。

 

 まるで爆発するような音が鳴り響き、壁が吹っ飛ぶ。一枚壁を破れば、その先は豪華に彩られたトリニティの一室。

 

 そこにいたトリニティ生徒たちの目線が、一斉にこちらを見た。恐怖、理解不能、驚愕……様々な色の目線。

 

「ごめんね〜⭐︎ えーっと……私の銃、どこだっけ……あっちだっけ? さてさて、行くとしよっか」

 

 そうして聖園ミカは歩き出した。

 錠前サオリを自分と同じ地獄に引き摺り落とすために。

 

 


 

 

 そして今に至る。元々アリウスと通じていたミカは、この非常用とでも呼ぶべき通路を知っていた……トリニティにて自身の装備を奪取したのち、この場所に文字通り一直線で急行。念願のアリウススクワッドと邂逅を果たす。

 

 その異常な様子に、三人が後ずさった。

 

「逃げないでよー……私たち、まだお話ししなきゃいけないことがあるじゃん?」

 

 ゆっくりと、距離を縮めてくるミカ。天真爛漫な笑顔は、平時と真逆の感情を人に与えてくる。

 

 戦闘を避けることは不可能。そう判断した三人が、小声で作戦会議をする。

 

「通路が閉じるまでは?」

 

「約28分……まさか戦うつもり? 私たちが今戦えてるのは、先生が敵の戦力をほとんど相手しているから……」

 

「で、でも。相手は一人ですよ?」

 

「問題はその相手だよ……聖園ミカ、彼女は単独でも異常な戦力を持っている。体力がそこまで無い私たちだと、やられる可能性は十二分にある」

 

 じりじりと、後退させられる。

 

「一番いいのは先生に来てもらうことだけど……」

 

「どうやって? ここは電波が無い、遠隔で助けは呼べない」

 

「一人が強行突破するのはどうでしょうか? 二人で彼女を相手して、一人が助けを求めにいくというのは……」

 

「……時間的に厳しい気がするけど……」

 

「どのみちやるしか無い。呼ぶ役はヒヨリが頼む。この平らな場所だと、狙撃手の役割がほとんどないからな」

 

「なあにこそこそと、話してるのか、なぁ!」

 

 いよいよ我慢ができなくなったミカが、凄まじい速度で突っ込んできた。先ほどまでミカがいた場所の地面が跳ね上がり、煙が生じる。

 

「来たぞ! 作戦通りにいけ!」

 

 掛け声と共に、回避行動を取り散る三人。ヒヨリがトンネルの奥に向かって駆け出し、サオリとミサキが銃口をミカに向けた。

 

「あれあれ、一人逃げちゃった。何を企んでるのかな?」

 

「教える気はない! ミサキ!」

 

 ミサキが所持する銃の種類はロケットランチャー。爆発する弾を用いた高火力は武器種。だが今はその役割を捨て、時間稼ぎにその身を捧げる。

 

 ミサキが地面にロケランを放つ。当然地面は砕け散り、煙が大きく上がる。

 

「あはは、なーんにも見えない! これで私を足止めする気なのかな?」

 

 ミカの声だけが何も見えないトンネルで響いた。

 

「隠れん坊みたいだね……いいよ、(わたし)に見つからないように、必死に隠れてね?」

 

(ヒヨリ、できるだけ早く頼む……!)

 

 ミカが笑い、サオリが苦しげな顔をした。

 

 

 

 

 

「は、はあっ、うぅ、重いです……」

 

 ヒヨリの所持する狙撃銃。そのモデルは「NTW-20」というもので、約26kgもの重さがある、銃火器の中でも非常に重いとされるもの。

 

 彼女はそれを常時背負っており、普段はその重さをほとんど感じていない……だが一分一秒を争うこの状況下において、その重さを抱えて走ることはあまりに大きいハンデ。

 

「うぅ……し、仕方ないですよね……本当は嫌ですけど……二人が、死んでしまうよりは……!」

 

 それでもそれは彼女の愛銃。長い時間を共にしてきた、ある意味相棒のようなもの。

 だがそれを彼女は置いていった。もっと大切なものが、なくなってしまうかもしれないから。

 

 泣き出しそうな思いに駆られながらも、一秒でも早くカケルの元に辿り着けるように走り続ける。あまりの長さに先生は私たちを置いていったのかもしれない、うわあんもうおしまいですぅ! と思い始めた辺りで……見覚えのある背格好。

 

「せ、先生ぇ!!」

 

「ん、ヒヨリ……って一人だけ? それに銃は?」

 

「た、大変なことになってて……リーダーが、ミサキちゃんが……!」

 

 そのあまりに必死な様子に異常事態を把握するカケル。少し気の抜けていた表情が引き締まり、ヒヨリが来た方向を見据える。

 

「分かった。ヒヨリはここで待機しておいてくれ。二人を拾ったらすぐに戻る」

 

「はい……あ、後……」

 

「うん?」

 

「私の銃と荷物を、来る途中に置いてきてしまったので……できるなら、持ってきて欲しいです」

 

「……わ、分かった」

 

 下手すればさっきより鬼気迫る雰囲気だった気がするが、多分気のせいだろう。そう心の中で納得させたカケルは一気に速度を上げる。

 術式の併用により、音速並みとなったその速度でトンネルを飛び抜けていった。

 

 

 

 

 

 一方その頃、サオリたちは……

 

「くっ……」

 

「ねえ? ねえねえサオリ? 本当にこれで終わりなの? お飾りの人形だって今のあなたよりは上手く戦えるんじゃない? この程度じゃないよね、『スクワッド』は。ねえ、どうしたの?」

 

 立ち上がることすら、困難だった。なんとか片膝をつけて立ちあがろうとするサオリを、上から見下ろすミカ。

 その右手にはミサキ。首を掴まれ、持ち上げられている。

 

「水色の髪のあの子は何してるの? ああ、そういえばマスクのあの子は?」

 

「……!! お前には、関係のないことだ!」

 

「あーあ、そんな口きいていいの? あなたのお仲間さんが、私に捕まってるんだよ?」

 

 そう言うと同時に、ミカが首を絞める力をより強くした。息ができないほど強く絞められ、ミサキが苦しそうにもがく。

 

「ぐ、ぁっ……」

 

「ミサキ……!」

 

「へぇ……あなた達も仲間は大切なんだ? てっきり、任務のために一緒にいるだけかと思ってた。どんな人にだって大事な存在っているよね。うんうん、私にもいたから分かるよ──あなた達が殺そうとした、セイアちゃんの事なんだけどさ」

 

 それから、まるでお茶会でもしている時のように平然とセイアについて話し続けるミカ。その顔はあまりにも普通に笑ったり、怒ったりしていて……異常だった。

 

「あれ、もしかして聞いてないの? 私ってだらだら話しちゃうからなあ……要約すると、セイアちゃんは嫌いだけど、大切だって話。死んでほしかったわけじゃないんだよ? ……まあ、もう全部無駄になっちゃったけどさ」

 

 それからミカは左手で銃を扱い、その銃口をミサキに押し当て……六連射。

 

 至近距離で銃弾を食らえば、いくらキヴォトス人といえど相応のダメージを負う。ミサキの口から「ぐっ──ッ!!」と声にならない悲鳴が漏れた。

 

「ミサキ!!」

 

「私さ、ちょっと痛い目に……みたいなこと言ったよね? いつヘイローを壊せなんて言ったのかな? まぁ、私も一人で勝手に暴れて台無しにしたくせに、いまさら被害者ヅラするの? って感じだけどさ」

 

 震える足で、サオリが立ち上がった。しかしどう足掻いても勝ち目はない。満身創痍のサオリと、平然と佇むミカ。戦えばどちらが負けるのかは目に見えている。

 

「でも……私の大切なもの……ぜーんぶ、なくなっちゃったんだよ? 学園も、友達も、宝物も……帰る場所も……先生との約束だって……明日になったら、全部元通りになるって信じてたのに……」

 

「……だから、私たちを襲うというのか?」

 

「そうだよ。『スクワッド』の、特にあなた。錠前サオリ……あなた達も私と同じ痛みを受けなきゃね。私が失った分、あなた達も失ってよ。そうじゃないと──不公平でしょう?」

 

 それから、再びミサキに銃口をつきつけた。いくらキヴォトス人が頑丈でも、今までの疲労に加えてこれほどの怪我を負えば……本当に、死ぬかもしれない。

 

「……!!」

 

 その未来を予想し、青ざめたサオリ。そんな彼女に申し訳なさそうな目線を送るミサキと、愉快そうな目線を送るミカ。

 

 そして──

 

 

 

「何やってんだよ、ミカ……?」

 

 そこにようやく、一人の男が到着した。

 彼は信じられないものを見る目で、ミカを見ている。口調も崩れるほどに、驚きを込めて。

 

「ぇ、せん、先生……!?」

 

「何で、ここに……? 何、何を……」

 

「わ、私は……えっと……その……」

 

 その視線に動揺したミカが、つい右手を離した。久しぶりに酸素を吸ったミサキが大きく咳き込む。

 その音で逆に正気に戻ったミカが、カケルを問い詰めた。

 

「それより、どうして……? ね、ねえ先生!? どうして、先生がスクワッドと一緒にいるの……?」

 

 声が震えてしまう。こんなはずではなかったのにと、ミカが小さく呟いた。

 

「よりによって、こんな姿を……どうして……」

 

「ミカ……」

 

 その様子に何か事情があることを察したカケルが、ミカに話しかけようとした瞬間──後方、トンネルの入り口側より爆発音。

 

「こっちだ!」

 

「聖園ミカもいるぞ! 撃て!!」

 

 アリウスの兵士、その増援。他所に配備されていた兵士たちが今になって集合を始めたのだ。

 突然の人員の追加に、トンネル内が混沌の渦に巻き込まれる。銃声、火薬の匂い、熱気、反響する悲鳴……!

 

「くっ、ミカ……」

 

「けほっ……先生、時間がない……すぐ入らないと、入り口が……!」

 

「っーーー! ミカ! 今は戻っててくれ! 後で話はするから!」

 

 逡巡、しかし今やるべきことを理解しているカケルは、ミカを切り捨てざるを得ない。動く力を持っていないサオリとミサキを抱え、トンネルの奥へと進んでいく。

 

 ギリギリカタコンベに滑り込み、なんとか0時の時間制限を乗り越えた四人。

 

 ここから先はアリウス自治区。アツコを救わねば戻れない境界線。ここからは他の思考を切り捨て、彼女を救うことに集中するべきだ。そう分かっていても。

 

(ミカ……)

 

 その心にこびりついた後悔が取れることはなかった。




明日呪術のアニメが終わるって? 何を言っているんだマイケル。そんなわけがないだろう?

え? 今日チェンソーマンも二部が最終回? 続編もなさげ? ボブ、冗談はよしてくれ。

なんだジョン? 実は先の展開どうしようか全く決まってない? まさかそんな作者がいるわけないだろう? 一章二章先ならともかく、後数話で来る展開だぜ?

人生って面白いなあ。
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