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どこか、知らない場所。ふわふわとした感覚があり、まるで現実ではないような……そんな微睡みの中で、どこからか声が聞こえてきた。
「……先生、私の声が届いているかい……?」
それに対して何か返事をしようとしても……何も思い浮かばなかった。
目の前にいるのは、金髪の小柄な生徒……セイアだ。それは認識できるのに、それ以外が全く認識できない……一体ここはどこなのだろう? そんな疑問も消えていく。
もしも声が聞こえているなら耳を傾けて欲しい、そう言う彼女の言葉のまま聞くことだけに意識を傾けた。
「私は今、夢でも現実でもない狭間の世界に閉じ込められている……いつまで此処に留まれるのか、定かではない……だからこの声が聞かれていると信じて、ただ語る」
そうしてセイアが語り始めたのは、どうしてこんなことになってしまったのかのお話。
夢の中でゲマトリアと接触してしまったセイアは、そのままベアトリーチェに認識され……攻撃されてしまった。そしてその結果、ベアトリーチェが行おうとしていた「儀式」……その向こう側にいる存在と接触した。
一瞬とは言え「アレ」に触れてしまったセイアは、その器が崩れ始め……その結果恐慌状態を引き起こした彼女はミカを攻撃してしまい、さらには意識不明の重体となった。
「……ベアトリーチェの儀式は、このキヴォトスを終焉へと導く切掛足り得る。これは私の推測だが、恐らく彼女はキヴォトス外にいる『何か』を誘き出そうとして……その過程でアリウススクワッドのアツコは命の花を散らし、そしてキヴォトスは滅亡する……」
深刻そうに語るセイアではあるが……しかし彼女には、ただこの届くかどうかも分からない言葉を投げかけ続けるしかできないのだ。
そして最後にセイアは、先生を労わる言葉を残す。
「先生はもう十分に私たちのために努力してくれている。私は私の力で、ミカと和解してみせるから……だから先生、どうか……遠くまで、逃げてくれ……そうでないと……先生、は……」
どうやら限界のようだった。セイアの声が途切れ途切れになり、遠くなっていく。微睡みから目覚めそうな中で……九条カケルは、ただ思った。
──それでも俺は、やるしかないんだよ
「ん……」
目が覚めると、見覚えのない場所だった。暗い色の石レンガが積み上げられた、薄気味悪い場所……
何か、夢を見ていた気がするけど……何だったか、まるで思い出せない。そして同じように、自分がここにいる理由も思い出せない。
「せ、先生?」
「……ごめん、起こした?」
「ヒヨリ……ミサキ……」
申し訳なさそうな目線を向けてくるのは、アリウススクワッドの二人……それで──ああ、そうだ。ようやく思い出せた。
ミカを置いてカタコンベに入った俺たちは、何十分か通路を彷徨って……そしてその果てに、アリウス自治区より少し離れたここに出ることができたんだ。
それで少し休んだ後、出発する予定だったんだけど……サオリが突然熱を出して倒れてしまって、それで一度大きめの休憩を入れてたんだ。
「悪い、結構熟睡してた……サオリは?」
「熱は引いて、今は眠っています……先生の、えーっと……」
「反転術式ね。そっか、効いたんなら良かったよ」
「使ってもらっておいて何だけど、大丈夫なの? それって確かすごく消耗するんじゃなかったっけ?」
「ちょっと体力を回復させるぐらいなら、誤差の範疇だ。それに基本使うのは術式に貯蓄した呪力だしね。身体に宿る方は強化ぐらいにしか使わないし」
俺の説明に「?」を浮かべてしまった二人。慌てて「要は全然大丈夫だってこと」とフォローすれば納得したように頷いた。
ほっと胸を撫で下ろす俺に、ミサキが聞いてくる。
「……それで、出発の話なんだけど。後30分くらいで出る予定」
「30分か……」
「うん。何か必要なものはある?」
「うーん……別に、大丈夫、か……あっそうだ。必要なものじゃないけど、せっかくだしみんなの話が聞きたいな」
というのも、ここに来た時三人が昔を懐かしむような話をしていて、少し興味を持ったんだ。何でもここは訓練所だったとか、アズサと初めて出会った場所だとか。
まあでも、一番は折角アリウスのみんなと仲良くなれそうだから、聞いておきたいっていうのがある。前の時と比べたら大きな前進なのだ、今更引くことは嫌だ。
などなど色んな思いを込めて放った言葉に、二人は渋い顔をしていたものの……最終的には、時間も余ってることだしと喋ってくれることになった。やったぜ。
とはいえそれなりに長かったので、俺の心中で一つ一つまとめていこう。
まずは三人が生まれるより前。アリウスはトリニティから追放されていたわけだが、その後彷徨ってここを見つけ、しばらくすると……なんと内戦を始めたらしい。
具体的な内容は教えてくれなかったが、そうして争っているのを収めたのが……マダム、もといベアトリーチェ。
その頃に三人は生まれ、そしてアリウスが変わり始めたらしい。様々な戦闘技術と、教義「
ベアトリーチェはその教えを頒布すると同時に、言葉で洗脳を、暴力で抑制をして……今のアリウスを作っていったと。
「へえ、なるほどねえ……聞いただけで大嫌いだな、そのベアトリーチェとかいう奴」
「だから楽しい話じゃないって……」
「分かってるよ……そういえば、アツコって何で『姫』って呼ばれてるんだ?」
秤アツコ。現在、推定生贄にされている張本人にして、何故かアリウスの中でも特別な扱いを受けている少女。
何でも、かつてアリウスを統治していた生徒会長の血を引いているらしく、「ロイヤルブラッド」やら「姫」やら、随分と格式高い呼び名をされており、また昔は気品あふれる服を着ていたとのこと。
彼女はとても優しく、貧しかったミサキ達にも手を差し伸べるような人だったと。だからこそ、ミサキ達は彼女を大切に思っているのだと。
本来、もう少し早く生贄に捧げられる予定だったっぽいが……そこをサオリが交渉して、スクワッドに引き込んだ。そしてアツコは顔と声を隠して、一緒に訓練を受けたと。
「その後、私たちは『スクワッド』と呼ばれ、アリウスの多くの任務を遂行することになった」
「でもこの間失敗してしまって……そのせいでアツコは生贄に、君たちは裏切って敵だった俺と行動を共にしているわけだ」
「本当に笑えない話だね。元を辿れば先生が全部悪いんじゃない?」
ミサキが厳しい視線でこちらを見てきた。実際多分その通りだし、何にも反論ができないので顔を逸らして抵抗の意思だけは見せておく。
全く……とでも言うようにミサキがため息を吐き、そしてそこに足音が近づいてきた。
「面白い話をしているな」
「り、リーダー!?」
「おはようサオリ。体調は?」
「動けないほどじゃない……助かった」
軽く体を動かし、万全とはいかないまでも体調が戻ったことを見せつけてくるサオリ。その様子にヒヨリは安心したように息を吐き、ミサキも微かに口角が上がった。
「それじゃあ、行こっか。まだ夜明けまで時間があるとはいえ……ベアトリーチェが俺を誘き出そうとした理由も分かってないし、早めに動こう」
「ああ、分かっている……私たちの目標はアリウスのバシリカに向かって、アツコを救出する……それだけだ」
「バシリカにはどうやって潜入するつもり? 既に私たちが自治区に潜入してる事は、彼女も知っているよ」
「ルートは既に考えてある──アリウス分校の旧校舎に向かう」
曰く、本当に昔のことだが……そこにバシリカと繋がる地下通路が建設された、という話があるそうだ。真偽は不明だが、相当前のことだからベアトリーチェも把握してないだろうし、虚をつける可能性がある……と言われれば、却下などできるはずもない。
目指すは旧校舎。そこで地下通路を見つけ、バシリカに向かう。
できるだけ戦闘はしないように、とこそこそ動き続ける。
俺がいるなら正面戦闘ぐらい大丈夫だろう、とぶっちゃけ俺も考えていたのだが……ベアトリーチェが張っていたであろう罠とやらが、まだ不明だ。
冷静に考えて俺を誘き出すほどのものだし、明らかに危険……それが兵器であれ何であれ、居場所がバレないに越した事はない……とサオリから説得され、隠密に徹している。
現在は恐らくアリウス自治区内の、これまた酷く寂れた街。石レンガを主な建材とする洋風な建築が多数並んでいるが、夜の暗さと不気味さが相まってお化けやゾンビが出てきそうだ。霧が出ていたら完璧だったな。
「おかしい……街が静かすぎる。元々人通りが少ない場所だが、ここまでではなかったはずだ」
「な、なんか……知らない物がいっぱい増えてます……」
「そうだね……違和感は、私もさっきからすごくある」
俺はそうとしか思わなかったが、ここで生まれ育った三人からすると凄まじい違和感があるらしい。街をキョロキョロと見回しては、訝しげに顔を顰めている。
ヒヨリによれば、前から少しずつ変なものは増えていたらしい。それに加えて、エデン条約を襲撃したミサイルや、ヘイローを壊す爆弾……ユスティナ聖徒会の
自分たちの故郷が、段々と全く知らないものに置き換わっていく……その恐怖は、どれだけのものなんだろう。彼女たちの顔からは、ただ何かを考えていることしか伝わってこない……
「! ……ちょっと待って……誰かいる。隠れて」
ミサキの言葉が、一気に緊張感をもたらした。それぞれ建物の影や、大きな物陰に身を潜める……そして、件の来訪者を待つ。
石造の道を歩いてきたのは──
「……ユスティナ聖徒会?」
間違いない。淡い水色の光を帯びた体に、ガスマスク……そして修道女のような服装。見間違えるわけもなく、ユスティナ聖徒会だ。
彼女……彼女? ともかく、彼女たちが去っていった後、すぐに全員で会議をする。
「……エデン条約は、先生が破棄したはずだ……だというのに、何故?」
全員が持っている疑問はそこだった。エデン条約という大元が無くなった以上、ユスティナ聖徒会という存在も連動して消えるはず……ではあれは何なのか?
これに関しては、俺の中で一つの答えが出ている。
「多分アリウス……いや、ベアトリーチェはユスティナ聖徒会を作り出す能力だけを確保したんだ」
「ど、どうやってですか?」
「仕組みはわかんないけど……エデン条約をパソコンと捉えてみてくれ。そこから、ユスティナ聖徒会を作るというプログラムのデータだけを盗み出す……そんな感じだと思う」
「いつだ? いつ、マダムはエデン条約に……いや、そういえばあの木人形……! あいつも確か、マダムの仲間……!」
「そういうことなんだろうな。まあ大事なのは、相手が無限の兵力を持ってるってことだ」
これが、ベアトリーチェが用意していた罠なのか? いやこんなもので俺が止められるわけがない……それは、ベアトリーチェだって、ゲマトリアだって分かっているはずだ。
なら、まだ何かある……?
俺が思考に耽ろうとする中……三人は、ショックを受けていた。
彼女たちがエデン条約で課せられた任務は「ユスティナ聖徒会の確保」と「ゲヘナとトリニティの殲滅」。後者は、そうしなければユスティナ聖徒会が持って帰れないからだ。
だが、現実には一度ユスティナ聖徒会を顕現させただけで、ベアトリーチェはその力をものにしている──それでは、ゲヘナとトリニティの殲滅任務はベアトリーチェとってどうでも良かった?
そうだとしたら。
「じゃあ、私たちに任務は……」
『一体、何の意味があったのか』
震えるサオリの声に、大人びた女性の声が被せられた。当然、アリウススクワッドの誰かではない。では、誰が──?
気がつけば、辺りが無数の水色の光で満たされている。目の前、後ろ、横の民家の屋根の上……至る所に、ユスティナ聖徒会がいる。
「……包囲されています!?」
「チッ……罠か」
「私たちがここに来るって分かってたんだ」
『ええ、もちろんです』
空中にノイズが走った。電子的な模様を刻んだそれは……突如として、一人の大人の姿を映し出す。
赤い肌。白いドレス。目がついた羽に囲まれた頭頂部……彼女が、ベアトリーチェ。
『ここは私の支配下にある領地。皆さんの位置や目的地、その経路に至るまで全て把握しております。あなた達が旧校舎の回廊に行こうとすることも最初から分かっていました。愚かな子どもたち──私に隠し事なんて、不可能ですよ』
どうやら、最初から泳がされていたらしい。気に食わないな。
それからベアトリーチェは淡々と語る。予想通り、ゲヘナとトリニティなどアリウスを支配する方便に過ぎず、どうでも良かったこと。エデン条約での任務は、ユスティナ聖徒会を起動するまでだったこと。
『本当に素晴らしい活躍ですよ、サオリ。任務を忠実に遂行し、ロイヤルブラッドも生贄に捧げ……そして、シャーレの先生を連れてきたのですから。言い付けをよく聞く良い子です』
愉快そうに笑うベアトリーチェ。彼女は『まあ、不毛な話はこのあたりで……』と言葉を切ると、映像越しにこちらに目を向けてきた。一斉に目玉が動く様は気持ちが悪い。
同時に、周りのユスティナ聖徒会が発砲。器用なことに俺だけを避け、アリウススクワッドの三人に攻撃し、地面に這いつくばらせた。
『初めまして、九条カケル……哀れな代行者よ』
「初めまして、ベアトリーチェ。挨拶をするためだけに出てきたのかよ?」
『そんなまさか……私があなた程度のために、そんなくだらない用事で時間を使うはずがありません』
どうやこいつは俺を舐め腐っているようだ。一ついい情報が手に入ったな。
『私がこうまでして時間を使っているのは、あなたが死ぬ姿が見たいためです』
「俺を誘き出そうとした理由ってやつか……」
『ええその通りです。それに加えて……あなたの中にある、先生の魂が消滅したかも確認しなければなりませんからね』
「……へえ」
表情には、目を細めるだけで済ました。だが心の中では色々と思考が飛び交う。
いつだ? いつ気づかれた? できるだけ俺の呪力でカモフラージュはしていた。何故? いやそれよりこいつが何をしたいかが重要だ。こいつは何を考えている?
『そこまで警戒しなくても良いですよ。私はあなたと、その中にある先生の魂を殺したいだけですので……単純でしょう?』
「……ああ、安心したよ。そんなことできっこないからな」
『減らず口ですね……まあせっかくです。あなたが死ぬ前に、少しお話でもしましょうか』
そう言ってベアトリーチェが語り始めたのは、大人のやり口というもの。
憎しみ、怒り、軽蔑、嫌悪……負の感情を利用して、偽りと欺瞞でで生徒を……子供を支配し、操作する。それこそ大人のやり口で、世界の真実だと。
「だったら、俺は洗脳しなくていいのかよ」
『あなたは殺さなければなりませんので。無論、味方に引き入れることが理想ではありましたが……私の中で燻る憎悪を止める事はできません』
「……? まあいい。要はお前が言いたいのは、大人が子供を支配する世界。誰かを犠牲にして、代わりに誰かが得する世界……それこそ真実だと」
『ええ、何か間違えているでしょうか?』
「……いや、少なくとも俺が知ってる限り、世界っていうのはそんなもんだな」
思い出すのは、アビドスでの日々。
毎日毎日、汚え大人どもが騙そうとしてきた。自分のことしか考えていないクズ。他者を考えようともしない、俺とは相容れない奴ら。
『そうでしょう? ならば、それに迎合するべき……』
「──くだらない」
『……ほぉ?』
だからなんだ。それが世界の真実? それが現実? 理解はしてやるよ、だが納得はしない。
ああ心底くだらない。その考えは俺のものとは相容れない。
「世界がそうだと言うなら、俺は世界と敵対する。俺は俺の考えを曲げる事はない。お前のようなくだらない考えは、俺が忌み嫌うものだ」
『……子供風情が、調子に乗ってくれますね。あなたは私の罠の中にいるというのに』
「包囲した程度で馬鹿言ってんじゃねえよ。俺の力を見たことがないのか?」
『──力、ですか』
その言葉を聞いた途端、ベアトリーチェが口元を抑えて……それでも抑えきれない笑いが寂れた街に響き渡った。
「何がおかしい」
『くくっ、それです。その力こそ、あなたが自分を大人と同列だと、そう錯覚する理由です。偶然力を持っただけの愚か者が、元からそうだったように傲慢に振る舞う……ああ、何と嘆かわしいことでしょう』
「……要は何が言いたいんだよ」
『所詮あなたはただの子供、ということです。偶然大きな力を持っただけ。自分に遠く及ばない小さな子供が、身の程知らずにも王冠を被っている。それが愉快でなくて、何なのでしょうか?』
「てめえが悪趣味だって事は分かったよ」
こうやって話しているうちにも、アツコ救出までの時間は少なくなっていく。こうやって話しているのも恐らくは作戦のうちだ。
ぐだぐだと話してやる必要なんて最初からない。もういい、強行突破だ。
包囲しているユスティナ聖徒会、それらを全員「輝綫」で消し飛ばそうと、呪力をチャージし始める──
「──これ、は」
『くくっ、くはっ、はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!』
耳障りな笑い声が聞こえる。何がおかしい。いやそんな事は自分でも分かっている……!
こいつの声だった。突然脳内にこいつの声が響いたかと思えば、チャージしていた呪力が消えた! これは、まさか……!?
「俺の、術式が」
──違う!
それよりももっと大きな喪失感……! これは、この感覚は……!!!
「──
今週の呪術。
MAPPAありがとう、満腹だ。
語りたいことしかないが、後書きを長々と書くのもあれなので少しだけ。
それぞれの術式の新しい使い方を魅せてくれたことには感謝しかないし、魅せるべき箇所はしっかりと魅せてきたのが本当に嬉しい。27分、たったそれだけであれほどのアニメを見せてくれたのは本当に賞賛の言葉しかない。
ラストのAIZO流れるところとかずっとニヤっけぱなしだったもん。ずっと楽しかったし最高だった。特に石流ですよ石流! うちの主人公の術式にもなってるあの人の術式がアニメ化すると綺麗だしかっこいいしでやっぱあれは主人公の術式でしょ!
呪力操作でリングみたいなのも作ってたし、色々面白いことができそう……いやもう本当に最高。語彙力が無くなって素晴らしいしか出てこない。本当によかった。
個人的には今期どころかアニメ全体で見ても歴史に残るものだと思う。本当にありがとうございます。