呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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今日はエイプリルフールだけど、これが投稿されるのは午後なので特に何もありません。寂しいね。


43. 聖園ミカという少女

 誰もいない街を歩いて行く。冷たい空気が頬を撫で、その度に体が微かに震えた。

 辺りは当然暗く、石材でできた洋風の街並みも相まって……まるでホラゲーの世界みたいだ。

 

「こっちだ」

 

 サオリの声が俺たちを呼び、その方向に軽く駆け出す。

 目の前に建っていたのは、その大部分が崩れ落ちて、辛うじて学校だと分かる程度の形を保つ、アリウス分校の旧校舎。

 

 昔は荘厳な雰囲気があったんだろうなと推測できるほど立派な建物は、しかし今となっては廃墟どころか遺跡も同然。時の無情さというものを感じさせる。

 

 回廊は地下にあるとのことで、感傷に浸る間もなく慌ただしく校内に駆け込んだ。

 

 幸いなことに、さっきのベアトリーチェが出張ってきた時以来、襲撃はない。おかげでここまで消耗せずに来れたが……ここまで無い、ということはこれからあるということだ。

 

「み、見つけました! こっちです!」

 

 今度はヒヨリの声に導かれ、その通路まで走って行く。

 

 通路、と聞いていたからには狭いものかと思っていたが……目の前にあるのは、大通りと言えるぐらいには横に広い道だった。

 至る所に柱が立ち並び、この空間が潰れてしまわないように支えている。

 

「ここから、バシリカってとこまで一直線なのか?」

 

「ああ、そのはずだ。途中に横道があったりして一見複雑だが、この場所からなら一直線で向かえる」

 

「……なるほど」

 

 はっきりと分かるのは、()()()()()()()()ということ。

 

 無数の柱、無数の横道……敵が待ち構えられる場所が多すぎる。適当に進めば後ろに隠れてた敵と前にいる敵に挟まれる、なんてヤバい事態にもなりかねない。

 

 おまけに横道は避難経路にもなっている。どうやらアリの巣みたいに横道は様々な空間に繋がっているようで、ピンチになったら逃げられる。地形的に言えば圧倒的に不利。地雷原に踏み込むようなものだ。

 

「で、でも……もう行くしかありませんよね?」

 

「それは、そうなんだよな。日の出まで一時間を切ろうとしてる……」

 

「ここでもたつく暇はない。待ち伏せは全て無視して一直線に突っ込む……それしか無いだろう」

 

 結局、ここでどれだけ敵を倒そうともアツコを助けられなければダメなんだ。するべきことは戦闘じゃなくて、適度に逃げること。

 

 その認識を共有した俺たちは、せーのの合図と共に走り出そうとして……

 

「待って。考えるべきなのは、それだけじゃない」

 

「どういうことだ、ミサキ?」

 

「聖園ミカだよ」

 

 ミサキから待ったがかかり、全員で話を聞く姿勢に入る。

 

「私が彼女ならどうするか、考えたの。彼女が今一番やりたくないことは、きっと先生と相対すること。先生が今不思議な力を使えないのを彼女は知らないはずだし、最高戦力の先生と直接戦いたくはないはず」

 

「それはつまり──」

 

 頭に思い浮かんだ可能性を口にしようとしたところで……突如、ゴゴゴゴゴゴゴゴ……という轟音が地下空間に鳴り響いた。

 

「せ、先生! 後ろ!」

 

 ヒヨリの叫ぶ声を聞いて振り返れば、この空間を支える柱が倒れてきている。

 このままでは俺に直撃する……迎え撃つことも考えたが、殴る蹴るでも少しだけど呪力は減る。ここは避けるべきだ!

 

 一瞬でその判断を下し、横にステップしてその柱を避けた。倒れた柱はドォォオン、と重い音を立て床に激突し、同時にひび割れ砕けた。

 

「次々に来るよ!」

 

「ミカ……まさかこの空間を崩壊させる気か!?」

 

 ミカはアリウススクワッドに並々ならぬ憎しみを向けている。それは死んでも良いと思うほどに。だがスクワッドは俺のそばにいる。

 そこで彼女は俺と戦わず全員を一気に殺すために、この空間ごとぶっ壊して生き埋めにしようとしているのか!

 

 俺が貧弱だったら、こんなことはやらなかっただろうけど……生憎、俺がめちゃくちゃ強いのは周知の事実。俺ならこの程度で死なないと踏んで、この戦法を実行に移しやがった!

 

「気をつけろ! 柱の倒壊に巻き込まれたらその瞬間死ぬと思え!」

 

「そうでなくても、このままだと天井が崩れて生き埋めだよ!?」

 

 どうしたらいいんだこれ!? 天井を支えるのは流石の俺でも無理だ! なら天井が崩れる前に柱の倒壊……ミカを止めるしかない!

 

 ミカを探して周りを見る……が、煙と瓦礫で何も見えねえ! 目に頼ってたらダメだ、耳、匂い、空気……いや違う、神秘だ! ミカの神秘を感じ取るしかない!

 

 俺のそっち方面の探知はかなりザルだ。多分、ホシノとかいうバグがずっと隣にいたせいで、あいつ以外の神秘を感じ取れたことはまず無い。

 だけどあいつと離れて、普通の世界に長くいた今なら……ミカぐらいの大きい神秘なら探せるんじゃないか!?

 

 もはや他の情報はノイズだ、目を閉じ、音を遮断し、呼吸もできる限り抑えて……周りの神秘を感じ取ることだけを考えて集中する……

 

 

 …………………………これだ!

 

 

 辺りが真っ暗闇に覆われたかのような感覚の中、一つだけ大きく光ったものがある! アレが多分、ミカの神秘!

 

 目を開けて、その方向と距離を測る。このタイミングで呪力を温存するわけにもいかない、足から呪力放出して、できる限りの速度で止めに入る!

 

 体勢が崩れるのも気にせず、足を踏み出して呪力を噴射した。倒れた柱が壁になるが、頭部を呪力強化したロケット頭突きで破壊する。

 

「っ、ミカぁーーーーっ!!!」

 

「うぇ、せ、先生!?」

 

 感知通りに、そこにミカがいた。何やら立ち止まっていたらしいミカは、声に反応してこちらを見ると、驚きで固まり……それをそのまま捕まえ、勢いのまま床をゴロゴロと転がる。何とか勢いを殺して、床にミカを押し倒した。

 

「ぐっ…………ミカ、今度こそ終わりだ。だから、頼むから……諦めてくれよ……!」

 

「……ごめん、ごめんね、先生……私、もう止まれないんだよ……もうこれしかないから、これに縋るしかないから! 先生の頼みでも、断れないの!!」

 

 そう言ってミカは俺に抵抗して、組み敷く俺を突き放そうと腕の力を強めてくる。こっちも腕を重点的に呪力強化して、対抗するが……この後、どうしたらいいんだ……!?

 

「ねえ先生、何で私を無力化しないのかなあ……? 前やったみたいに、手のひらで触れれば私の力を抜けるんじゃないの?」

 

「くっ、それは……」

 

「それとも……もしかして、今はできないの?」

 

 正確に言えば、できないことはない。

 だが今の状態で術式反転をするのは、後に控えているベアトリーチェとの戦いに確実に響く……! 使うわけにはいかない、でも使わないと無力化できない……!

 

「そうなんだ……あはっ、私は運がいい、な!」

 

「ぐっ」

 

 腕の方に意識がいっていた俺は、ミカの振り上げた膝に反応ができず、腹に膝蹴りが直撃した。呪力強化を腕に割いていたのもあって、ダメージを受けた俺は軽く吹っ飛ぶ。

 

 何とか受け身は取って、同時に距離をある程度取るが……ミカは何故かゆっくりと服についた埃を払っている。それから同様に、ゆっくりとこちらを見やってきた。

 

「ねえ、先生……私ってもしかしたらバカだって思われてるかもだけどさ……実はテストとか、結構いい点取ってたりするんだよねー」

 

「……何が言いたいんだ」

 

「ふふっ、そう身構えなくてもさ。もうどうせ、止められないよ」

 

 何の話だ──と考えていたが、一つの可能性に思い当たり、その瞬間顔が青ざめたのが自分でも分かった。

 

 何故ミカの神秘を急に探知できたのか。何故ミカはあそこで止まっていたのか。何故ミカにあんなに余裕があるのか……まさか、その回答は──!

 

 天井が壊れるのも気にせず、ロケットのように地上に飛び出した。当然その先には夜空が見え……だが何か違和感がある。まるで光らない月がもう一つあるような……

 

 

 

 ──かなりの大きさの、隕石……!

 

 

 

 隕石が大きな破壊を伴うのは、速度があるため。宇宙から飛来し、重力に引かれた隕石は平均して()()20km程になり、速度は巨大なエネルギーとなって辺り一体を破壊し尽くす。

 

 聖園ミカの術式によって呼ばれた隕石は、彼女の上空100kmから落とされる。これは公式に定められた宇宙と空との境界線。ミカの認識により、彼女が召喚した隕石はここに出現、重力によって加速する。

 

 宇宙から飛来しないため、通常のものと比べ遥かに速度が遅いこの隕石は、その破壊力を補うためにサイズを大きくする必要があった。ミカは正確なアリウス自治区の大きさを知らないため、自治区の大きさを半径1kmとして隕石を呼ぶ。

 

 

 それらを彼女の隕石で破壊するために必要な大きさは──直径200m。

 

 

「アリウススクワッドも……アリウスも……それに私も」

 

 みんな、罰されるべきだよね。

 

 

 彼女の思いに、力は応えた。

 

 アリウスそのものを終わらせかねない、巨大な隕石。当たれば当然誰も無事では済まない……九条カケルを除いて。彼が本気で守るためだけに呪力を使えば、多少傷ついても死にはしないし……そもそも、今からならまだ逃げられる。

 

 

 

「ふざけるなよ」

 

 腹が立つ。ああ本当に──心の底から、腹が立つ!

 

 ミカはアリウススクワッドだけじゃない。自分もまた殺すつもりなんだ。じゃなきゃこの大きさの隕石は召喚できない! あいつは、自分のことも諦めてる……やっぱりバカじゃねえか!

 

 自分は救われないと思い込んでいる。だから救済を捨てて、アリウスへの憎しみに縋り付いて……マジで怒りしか湧いてこない。アリウス殺して自分も死ぬとか、本当に言葉が出てこない。

 

 勝手に諦めて、死のうとしてるんじゃねえよ!

 

 

 

 だけど、今はこの大きな隕石だな。冷静さを失ってもいけないと思って、深呼吸して空を見上げる。

 

 さっきは月ほどの大きさだったのが、今はもう月を覆い隠して地上に迫ってきている。地上は既に影で覆われ、世界滅亡3秒前ってところだな。

 

 砕く……だけじゃダメだ。それだと周りに被害がいく。だからするべきは、完全な消滅!

 

 手をパンっと合わせ、その間に呪力を放出する。俺の両手に呪力を繋げたまま、左手を前に、右手を後ろに……弓を引くような姿勢をとった。

 

「── “白花(はっか)” “立射(りっしゃ)” “別ちの線条(わかちのせんじょう)” 」

 

 弓道、流鏑馬など。弓を用いて射る行為は、儀式的な側面がある。

 

 矢をつがえ、弦を張り、的に射る。ただこれだけの作業に、心技体が試される。この行為は呪術においてもある種の儀式として認識される。

 

 術を放つ時、そのまま放つのではなく、弓と矢に見立てて敵を射つ。この行為は術式の効果を底上げすることができる。

 

 九条カケルが今放とうとする技も同様。ただ呪力を放つのではなく、呪力を弓と矢に見立て、引き絞る。加えて呪詞を唱えることで更なる底上げ。少量の呪力で、圧倒的な破壊力を得る。

 

 青色の光が彼を照らし出す。その瞳には一分の雑念もなく、ただ(隕石)にその視線が向けられ、神秘的な雰囲気が場を満たす。わずか一瞬の出来事、誰もが目を奪われる。

 

 

 ──それは、折れることなき一本の矢。

 

 

煌矢(こうし)

 

 

 世界を別つ一筋の線が、隕石を穿つ。

 

 衝突すると同時に、大きな爆発が起こった。一瞬だけ、大きな太陽が現れ夜を照らし出し……すぐに夜空に回帰する。

 同時に、爆発の余波が地上を襲った。嵐のように、風が吹き荒れ……そして収まる。

 

 「宵」とは違い、特殊な効果は何もついていない……ただただ純粋な破壊力を極めた一撃。

 青に煌めくその力は、まるでインドラの矢。破壊のための技。

 

 紛れもなく、九条カケルの秘める奥義の一つである。

 

 

 

「……さて、と」

 

 矢を放った後、俺に纏わりつく青い残光を手で払った。

 

 それから一度地上に降り立ち、俺が天井に開けた穴を探す……つもりだったのだが、どうやら先の柱倒壊で天井も限界に来ていたらしい。さらに爆風の影響もあってか、天井は穴がそこらじゅうに開いててボコボコだ。

 

 その一つから中に入ると、みんなが俺を見てくる。サオリたちも無事だったようで何より。

 

 中は酷いものだった。倒れた柱と落ちてきた瓦礫で床は見えず、歩くのがとても大変そうだ……とはいえ、生き埋めになるほど酷いわけでもないのが強いてもの救いか。

 

「……先生……」

 

 呆然と、といった風な声が聞こえた。見れば、ミカが信じられないと目線で語っている。まさかあの大きさの隕石を破壊するとは、思わなかったんだろう。

 

「ミカ、少しいいかな」

 

「っ、あ……その……」

 

 歩いて近づいてみれば、ミカもゆっくりと後退する。

 

「お願いだ。ちゃんと、話し合いたいんだ」

 

「………………」

 

 ミカの足が止まった。少しの怯えと、諦めを感じさせるその顔は俺を見ていなくて、床を見つめてしまっている。

 

 そんな彼女の目の前に立った。

 

「……そうだな。何から話したらいいかな……」

 

「……」

 

「……まずは、ごめんなさいか。拳骨したりして、ごめん」

 

「!? な、何で先生が……」

 

 ミカが声を上げるのも気にせず、頭を下げる。

 

「それから突撃したり、地面に転がしたことも」

 

「せ、先生は悪くないでしょ……? なのに、何で」

 

「急いでるからといって、話し合いをすることを怠ったから。暴力より先にするべきことがあった。本当にごめん」

 

「……そんな……そんなこと、ないのに……」

 

 自分の立場がない、とでも言うように体を縮こませてしまうミカ。でも事実だから、この点は譲れない。

 それから頭を上げて、ミカの目を見て話す。

 

「……ミカはさ。もう自分にチャンスなんてないって思ってるの?」

 

「……うん。だって、私はもう退学で……セイアちゃんも、私のせいで……」

 

「でも、まだ決まってないよ。退学になるかどうか決まるのは、明日の聴聞会だし……セイアだって、きっと死んではない」

 

「そんなの、屁理屈だよ。そんなことない可能性の方が高いじゃん……」

 

「でも可能性はある」

 

 誰にでも、どんな状況でも、どんなに終わりだと思っても。希望というものは必ず残されている。もちろんそれを掴みとれるのは、本当に小さなチャンスだ。

 

 でもチャンスはある。だから諦めてほしくない……俺はそう思うんだ。

 俺が救われたように、誰でも救われる。

 

 そして、俺が救ってあげたいとも思う。

 

「アツコを助けたら、一緒にトリニティで頑張ろう。辛いことも、苦しいこともあるだろうけど……俺が協力するよ」

 

「なんで……私のことなんて、気にしないで……放っておけば、良かったのに。なんで私に、まだチャンスがあるって……信じさせるの……?」

 

「信じるもなにも、そこに本当にあるんだよ。チャンスは二回まで、なんてルールは無い。三回、四回……それこそ百回だって、戻れる機会はあるんだ」

 

 生きていれば、それだけで無限の可能性がありうる。

 逆に言えば、死んでしまえばそこで終わり……だから俺は死を嫌悪する。

 

「……だ、だとしても……わ、私は魔女なのに……もう、生徒じゃないのに……何で、そんなにしてくれるの……?」

 

「ミカはまだ生徒だよ。それに、仮に生徒じゃなくなっても」

 

 俺の目の前にいるのは、魔女なんかじゃなくて。感情を出すのが下手で、だから暴走しちゃって、でも心の中では救いを求める……そんな高校生の女の子。

 

 それから

 

「ミカはお姫様だから。生徒じゃなくても、何度でも俺が助ける」

 

 だから大丈夫。そう呼びかけて、その手を握る。そうすれば、ミカが顔を上げてくれた。

 

「……お姫様、って……」

 

「ミカが言ったことでしょ。自分は幽閉されたお姫様だって……だから、もし生徒じゃなくなっても必ず助けるし、魔女だったとしても救ってみせる」

 

 先生と生徒じゃなくなれば、助けないなんてことはない。

 

 例え俺が先生でなくなっても、誰かが生徒でなくなっても。俺は俺にできることを精一杯やるんだ。それは先生としての役割じゃなくて……俺が、本当にやりたかったこと。

 

 ……ああ、そっか。今ようやく、腑に落ちた気がする。

 これが俺なんだな。救われてきた人生だから、同じように誰かを救いたいと思う……それが俺という人間なんだ。

 

「……ずるいよ……本当に、ずるいなあ……」

 

 ミカの体が、崩れ落ちかけたのを支える。どうやら緊張が解けて力が抜けたみたいだ。立ち上がるのも難しそうなミカを抱える。

 

「……そんなに言ってくれるなら……うん。信じて、みようかな」

 

 涙で濡れているけれど、穏やかな、憑き物が落ちたような……そんな可愛らしい笑顔。ミカは年相応に無邪気に笑って、そう言ってくれた。

 

「ありがとう……それと、その。スクワッドのみんなのことは……」

 

「うん……憎くないわけじゃないけど……でも、先生が一緒なら……ちょっとぐらいは、話してもいいかな……」

 

「じゃあ、善は急げと言うし今から話そっか」

 

 改めてミカを抱え直して、サオリたちを集めようと動く。少し動くのが大変なほどくっつかれたけど、仕方ないことかもな……と思って、特に言及はしなかった。

 

 全員が集まった、その空間で。少し気まずい雰囲気が流れるけど……尻込みしてちゃ始まらない。

 

「サオリ、ミカなんだけど……その、もし本当に分かり合えないとしてもさ。話し合わないで決めつけるのは早いと思うから……」

 

「……分かっているさ……聖園ミカ」

 

 サオリの声に反応したミカが、そちらを見る。ついでに抱えたままだと格好がつかないだろうということで、ゆっくりとミカを下ろした……ら、何故か頬を膨らまされた。何故。

 

 予想外の反応に少したじろいだけど、そんな俺を見てミカはふっと笑った後、真剣な表情でサオリに向き直る。

 

「……それで、錠前サオリ。私に、何を言いたいの」

 

「すまなかった」

 

「……へ?」

 

 開口一番、謝罪の言葉。さらに連動して、頭を大きく下げるサオリ。

 ミカがそれを無言で見つめる中、サオリは言葉を続ける。

 

「お前の憎しみも当然だ。お前は私のせいで、苦境に立たされたのだから……その責任は私にある。どんな罰でも受ける覚悟はある……だが、今だけは待ってほしい。アツコを助けられたら、その時は──」

 

「……ねえ、サオリ。あなたは幸せになりたいって思ったことはある?」

 

 サオリの言葉を遮り、ミカが口を出した。その声色はとても軽く、日常の中で質問をしたような……そんなもの。

 サオリはそれに困惑しつつも、言葉を絞り出した。

 

「……ああ、ある。アズサのように、幸せになりたいと……そう何度も思った。だが、私にそんな未来は訪れない。罪を犯した私に、そんな明るい未来は……」

 

「……そっか、そうなんだ……あなたは、私と同じだったんだね」

 

「……どういうことだ?」

 

 サオリがその顔を上げ、ミカと目を合わせる。

 

「私も、罪を犯して……もうチャンスなんてないって、そう思ってた。私に明るい未来は訪れなくて、このまま地獄に堕ちるんだって……でも、先生が言うには違うみたい。私たちには、いつだって可能性があるんだって」

 

「可能性……?」

 

「そう。どんな時でも、幸せになれる……チャンスは二度で終わりじゃなくて、三度も、四度もあるんだって……先生が言ってくれたの。だから、私たちは幸せになれるかもしれない」

 

 ミカがサオリに手を差し伸べた。

 

「あなたは私だよ、サオリ。不幸に巻き込まれて、どん底に落ちるしかないと思ってた人。だから私が幸せになれるなら、あなただって幸せになれる……そうでしょう?」

 

「……」

 

「二人で、一緒に幸せになろう」

 

 ミカの手を、サオリが取ろうとして……

 

 

『戯言もそこまでにしておきなさい』

 

「……邪魔すんなよ、ベアトリーチェ」

 

 再び空中に線が走り、ベアトリーチェが出てきた。

 

『子供同士がぐちぐちと……みっともない。くだらない傷の舐め合いも大概にしなさい』

 

「……お前は、そう思わないか」

 

『ええ当然です。可能性? 幸福になれる? そんなものなど皆無です。罪を犯したなら、そこで終わり。一度汚れた白い服が、どうして再び真っ白に戻れましょう』

 

 苛立っているかのような声でまくし立てたベアトリーチェは、カンと何かを叩く音を出して『話は終いです』と言い放つ。

 

 同時に辺りにユスティナ聖徒会が現れ始めた。それも少し前戦った時よりも多い……この数を相手するのは、ミカが一緒に戦ってくれても骨が折れるだろう。

 

 さらに、普通のユスティナ聖徒会とは違う巨人が現れた。黒いぴっちりとした服に、何か線のようなものが張り巡らされている。しかも見た目だけじゃなく、明らかに神秘の質や量も違う……ちょっとまずいかも。

 

『ユスティナの聖女、バルバラです……ユスティナ聖徒会の中でも名の知れた彼女は、後世にまで名が残り、概念として孤立するに至りました……さらに、少し改良を施しています』

 

 バルバラとか言うらしいその巨人は、左手にガトリングガンの様なものを持っている。そして右手には何もなかったのだが……突如、その手に小さな木槌が出現した。

 

 俺の知識が正しければ、確かあれは裁判とかで使われる「ガベル」……か?

 

『さあ、バルバラよ。まずは先鋒として九条カケルを削りなさい』

 

 最後にそう言い残し、ベアトリーチェの通信が途絶えた。

 

 それと同時に、バルバラが咆哮のようなものをあげ……その右手のガベルが巨大化する。

 

 一瞬にして空気が張り詰めた。周りのユスティナ聖徒会が銃を構え、こちらも背中合わせで対応する気ではあるが……果たして、あのバルバラとやらがどれだけの力があるか。

 

「……来るぞ!」

 

 そう俺が叫ぶと同時に、バルバラが突っ込んでくる。ユスティナ聖徒会が銃弾を発射し、俺たちが回避をする……!

 

 ベアトリーチェと対峙する前の、謂わば中ボス戦が始まった。




途中の隕石のところはAIに聞いてるので正確じゃないかも……まあ今更か?



小話:カケルくんの呪力が没収された仕組みについて。ちなみにめちゃくちゃ長いので興味ないなら読まないで良いです。

結論から言えばあれはベアトリーチェがやったことではなく、あらかじめ設置しておいた罠が発動した形です。

裁判の術式を現在持っているのはベアトリーチェなわけですが、前回書いたように初めから彼女のものだったわけではありません。彼女が裁判の術式を(勝手に)自分のものにする前に、ゴルコンダが研究のためそれのコピーを作ってました。

ここら辺はブルアカ原作の描写からできるんじゃないかなーという推測した、独自解釈ですね。ユスティナ聖徒会をなんか普通に使い始めたように、ゲマトリアなら術式をコピーしたり変化させたりすることもできるんじゃないかと考えました。

話は戻りますが、そのコピーした術式をゴルコンダは研究すると同時に、罠として使えるように改ざんを始めました。
この「改ざん」というのはつまり、例えるならパソコンをバラバラにして電子部品だけを取り出すみたいなものです。裁判の術式から「没収」という部分だけを取り出しました。

しかしそれだけだと「何が起きたら没収するのか」「何を没収するのか」がありません。
本来の没収は「領域内で相手が有罪だと判定されたら」「相手の呪具 or 術式 or 呪力を没収する」というふうになっていますが、領域を使わず没収しようとしてるのでその判定が使えないんですね。

そこでゴルコンダはそのその空白の部分に別のテキストを組み込むことで、没収を動作させようと考えました。
つまり今回の場合だと「アリウス自治区内で九条カケルの呪力を検知したら」「九条カケルの呪力を没収する」にしました。そしてそのためには「九条カケルの呪力」が必要で……そこで暗躍してたのが黒服ですね。

「幕間:クックック。(以下略)」の最後の方、あそこで大まかな仕組みについては言及しています。

「アリウス自治区内でしか発動しない」という縛り、そして九条カケルの呪力だけを狙った罠……これが発動したのが、前々回最後、カケルくんが術式を使おうとした時ですね。

ちなみに今回、バルバラがガベルを持ってたのも、コピーした術式からガベル関係のものを切り出してバルバラに付与したからです。これくらいの強化は入れないとね。

Q. つまりどういうことだってばよ

A. 全部ゴルコンダのおかげやね……

原作読めば分かりますが、ヘイロー破壊爆弾もゴルコンダのものだし、ユスティナ聖徒会もマエストロのおかげだし……そしてこの作品でもこの始末。
とはいえ術式を持ってはいるし、原作よりかは活躍できるんじゃないですかね……

ということで。ここまで長々と付き合っていただいたあなたの今月の運勢は大吉です。
長文失礼しました。
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