呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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失踪したかと思った? 俺もそう思った。

言い訳をするとリアルが忙しくてちょっと書けてなかったのと、その間に燃え尽き症候群的なサムシングでやる気が落ちてた感じです……申し訳ない。


幕間:いい先生

 全体的に白色で高貴な印象の建物たち、いかにもお嬢様といった風貌の生徒たち……俺は今トリニティ総合学園に来ています。

 今日は政治とかそういうのじゃなくて、ちゃんと遊びにやって来た。エデン条約とかアリウスとか色々あったからな……いつもちょっと暗く見えた景色が少し煌めいて見える。

 

 さてさて、遊びにきたとは言ったものの……実際何するかは全然決めていない。ひとまずはお店が並ぶ道を歩いて、適当にぶらついているだけ。

 どうやら今日は休日らしく人でごった返しているので早いとこ用事を見つけたいところだ。

 

 とはいっても本当に、知った顔にあったら一緒に何かしようかなーとか、美味しそうなものあったら食べようかなーとか、その程度の心持ちだから特に何も思いつかない。

 

 ……その程度とは言うけど、その程度を手に入れるまで結構苦労したな……トリニティに遊びに来ました! なんて堂々と言えるのがこんなに嬉しいことだとは……

 喜びを噛み締めていると、後ろから声をかけられる。

 

「あら、もしかして……先生?」

 

「その声は、ハナコ──ごめんちょっと待って」

 

 振り向くと、当然のように水着姿のハナコがそこにいた。無論ここがプールでも何でもなくただの道であることは間違いない。

 

「その反応……もしや、照れているのですか? 合宿所であんなことやこんなことまでした仲だというのに……まさか、忘れてしまったのですか!?」

 

「誤解を生みかねない発言はやめて欲しいかな……」

 

「でも事実ですよね?」

 

「いやそうだけど。あの時は一応水着を着ないといけない理由があったじゃん」

 

 あの時とは、当然水着パーティーのこと。あんな刺激的なできごと、流石に忘れられるはずもない……それはそれでまずいか?

 

「ちゃんと覚えていましたか。それはそれは……つまり私たちの水着姿を先生は覚えているということですよね」

 

「勘弁してください」

 

「うふふ、少し意地悪すぎましたかね?」

 

 とても楽しそうに笑うハナコ。少し辟易していた気持ちも、年頃の少女のような……そんな顔を見れば消え失せてしまうから不思議なものだ。

 

「それで、本日はどのような用件でトリニティに? また何かあったのでしょうか?」

 

「いや、今日は普通に遊びに来ただけだよ」

 

「……それは……ふふ、そうですか。嬉しいことですね……」

 

 またその笑うハナコだけど、さっきとは打って変わって楽しそうというよりは、慈愛の笑みという方がふさわしい笑い方だ。こっちは慈愛の女神って感じ。

 

「それなら、私と一緒に来ませんか? 今日は補習授業部のみんなでお勉強会をするんです」

 

「そうだね……せっかくだし、行かせてもらおうかな」

 

「決まりですね。ではついて来てください」

 

「ああ……その。服装は、そのままで……?」

 

「? 当然そのつもりですが」

 

「さいですか」

 

 水着姿で歩き出すハナコ。当然すれ違う誰もがその姿を二度見するし、その後ろをついて行く俺のことも含めて三度見してくる。公開処刑されてる気分。

 

 それからしばらく歩いて行くと、ちょっと大きめのレストランが見えてくる。そしてその前に立っているアズサ、ヒフミ、コハル。中に入っておけばいいのに、律儀に外で待っているのは何か理由があるんだろうか……と思ったけど、今俺の目の前を歩く人こそその理由かも。

 

 三人で仲良く話していた様子だけど、こっちに気づくと……ヒフミとコハルが顔を赤らめたのが見えた。そして……

 

「死刑!!!」

 

「声が大きいな……」

 

「このまま合流すると本当に死刑にされかねない空気ですね……仕方ありません、流石にそろそろ着替えて来ましょうか」

 

「どこで?」

 

 俺の疑問にハナコは意味深に笑うと、少し失礼しますね……と何処かに行ってしまった。

 ……まあハナコは本当にアウトなことは弁えてると思うし、多分大丈夫だろ。ここは素直に三人と合流しておくか。

 

「久しぶり、みんな」

 

「はい、お久しぶりです! 先生!」

 

「ハナコと一緒にいたみたいだったけど……どうかしたのか?」

 

「それ以前に! 先生は何であの変態をすぐに着替えさせなかったのよ!?」

 

「ちょっと俺じゃハナコに勝てないんだよね……」

 

「先生ってそんなに弱くないでしょ!!」

 

 久しぶりにあっても変わらないなこの子たちは。コハルがちょっとヒートアップして、それをヒフミがまあまあと宥めて、アズサはそんな中でもマイペースでいる。

 

 そんな前のことでもないはずなのに、少し懐かしさを覚える。思わずふっと笑いが漏れた。

 

「みんな元気そうで何よりだよ」

 

「そういう先生はどうなんだ? アリウススクワッドと……サオリたちと、何かあったって聞いたけど」

 

「まあね。でも、俺は全然元気だよ」

 

「……それならよかった」

 

 安心したような柔らかい表情を浮かべるアズサ。サオリたちのことは彼女も気になるだろうし……後でちゃんと話そう。

 

「それで! 結局先生はハナコと何してたのよ!? 水着姿のハナコと一緒にいて……はっ、ま、まさか……!?」

 

「え、ええっ!? せ、先生とハナコちゃんって、今度こそ本当にそういう……!?」

 

「ちょっと待ってヒフミ、今度こそってどういう意味!?」

 

「あーストップストップ別にやましいことじゃないから」

 

 トリニティに遊びに来たこと、歩いてたらハナコにあったこと、みんなで勉強会をすると聞いてやって来たこと。誤解されないよう注意深く話した。

 

「そ、そうですよね……先生はそんなことしませんもんね!」

 

「そうそうカケル先生はいい先生だよー」

 

「そういうことをいう大人って大体碌でもないやつだって相場が決まってない……?」

 

「む、そうなのか? それもコハルが好きな漫画の知識か?」

 

「あれ、前アズサにも読ませなかったっけ? ほらこの前貸した……」

 

「あらあらあらあら……みなさん、私がいないのに楽しそうですね?」

 

 ひょこっと、ちゃんと制服に着替えてきたハナコが俺の肩越しに顔を出してくる。横目でみると不満気にぷくっと頬を膨らませていた。いつの間にか来ていたらしい、びっくりした。

 

「うげっ、ハナコ」

 

「コハルちゃんは相変わらず辛辣ですねえ……」

 

「あんたが変なこというからでしょうが!」

 

「今の私のどこが変なのですか? ……はっ、まさかコハルちゃんは水着なんかよりも制服の方が「そういうところ!!」

 

「あはは……お、お店の前で話し込んでいても迷惑ですし、中に入りませんか?」

 

 ファウスト様が言うことは絶対……なんて口に出したら死ぬほど怒られるのが目に見えてるので心の中でだけ思いつつ、お店の中に入って行った。

 

 中はまあ普通のレストランって感じ。ちょっとおしゃれっぽい音楽が流れる中、店員さんに六人席に案内してもらって座る。それからとりあえずドリンクバーの注文だけして、勉強会が始まった。

 

 最初はそれなりにお話をしつつ、合間に勉強をやるというゆるい感じだったけど、時間が経つにつれ1人を除いて集中して行き、気づけばペンの音だけが響くようになった。

 

 そしてその唯一勉強をする必要がない人はニコニコしながら俺の方を見てきている。

 

「……俺の顔に何かついてる?」

 

「いえいえ、いつも通りとても綺麗なお顔ですよ♡」

 

「ありがとう……で、いいのか……? それで、何でそんなご機嫌なの」

 

「普段はみんなが集中している間、一人寂しく妄想にふけっていましたので……今日は先生と話せてとっても嬉しいんです」

 

「あぁ……なるほどね」

 

「最近、何かありましたか?」

 

「最近は……そうだな。力加減を間違えて机を割ってさ……」

 

 近況報告、と言えるほど大層なものでもないけど。俺が最近あった出来事を話すのをハナコはずっとニコニコしながら聞いている。

 俺の話なんて何が面白いのやら。そう思ってハナコの話を聞こうとしても「私は先生の話が聞きたいです」と言われてしまったので仕方なく話し続ける。

 

 そうこうしているうちに三人が疲れた、とペンを置いて、そしたらジュースを飲んだりお喋りをして休んで、少ししたらまた勉強を始める。たまに分かんないことがあったら、俺かハナコが答える。

 

 とても穏やかで、普通の、俺の愛する価値ある日常だった。

 ずっとこんな時が続けば良いのになあ……

 

「……そういえば皆さん、休み明けに提出する課題はやりましたか?」

 

「えっ、か、課題って……?」

 

「ああ、数学のプリントのアレか。私は貰った直後に終わらせた」

 

「……あ、ああ! アレね! 今一応持ってきてるんだけど……」

 

「せっかくですし、今の内に終わらせましょう? 帰ってから一人でやるのはしんどいと思いますし」

 

「課題とかあるのか……そういうのは中学の頃にやったきりだなぁ」

 

 今の仕事もある意味課題っちゃ課題だけど。質と量が違うからアレは課題とは言わないだろうなあ……と思ってたら、何やらヒフミが顔を伏せている。

 

「……ヒフミ? どうした?」

 

「……私、その課題……学校に、忘れたかも……しれません……」

 

「えっ」

 

「そのぉ……確か、ペロロ様のファイルに入れてて……だけどそのファイルを学校に忘れて……休み明けに取ればいいって思ってたんですけど……」

 

「課題の提出は休み明け……休み時間で終わるような量でもないし、まずいな」

 

「あ、あわわ……」

 

 ヒフミが絶望した顔をしている。次の瞬間には泡を吐きそうなくらい顔面が真っ青だ。可哀想。

 とはいえまだ詰んだわけじゃない。震えるヒフミに一つ提案する。

 

「じゃあ今から取りに行ったらいいんじゃない? 学校が開いてないってわけじゃないんでしょ? 部活とかもあるだろうし」

 

「そ、それです! 今から行ってきます!」

 

「ちょっと待って。学校が開いてるからといって教室が開いてるとは限らないんじゃないか?」

 

「あっ確かに……でも、事情説明をしたら開けてくれるんじゃ……?」

 

「最近は色々ありましたからね……大丈夫だとは思いますけれど、一応先生もついて行ってあげてください」

 

「了解」

 

 ということで。ヒフミと一緒に学校に向かうことになった。ちょっと早足気味のヒフミに合わせた速度で、その隣を歩く。

 

「それにしても、ヒフミがペロロ様関係の物を忘れるなんて珍しいね。何かあったの?」

 

「実は帰りの支度をしてる時、ペロロ様のライブがやってて……そっちに目を取られて色々忘れちゃって……」

 

「………………あー、アーカイブじゃダメだったの?」

 

「生とアーカイブ両方観るんですよ」

 

「そっかあ」

 

 推し活って厳しいんだなあ……

 

 それからは言葉を交わすこともなく、早足をやめて走り出して……数分すると学校についた。ヒフミが肩を上下させているので息を整えるのを待ってから校舎の中に入る。

 

 教室の方が近いということで先にそっちに寄ったけど、やはり鍵がかかってたので教員室で鍵を貸してもらうことになった。

 

 ……今更だけど、シャーレの先生と普通の教員って何が違うんだろう。先生も教員もあんまり変わらない意味じゃないか? それとも先生という言葉には他に何か特別な意味があるんだろうか……?

 

 そんなことを考えてる間に教員室前にやって来た。コンコンとノックしてから「失礼します」と挨拶、そしてガラガラと扉をスライドさせた。中にはロボットの教員が数人。

 

「おや、阿慈谷さんと……」

 

「シャーレの先生です」

 

「ああ、貴方が噂の。どうしたんですか?」

 

 かくかくしかじかと事情を説明。教員さんも特に渋ることなく鍵を開けてくれるとのこと。教員さんが壁から教室の鍵を取り、こちらに歩いてくる。

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

「えっ、いいですよ。俺……私たちが自分でやってきますから」

 

「いえいえ、念のためですよ。阿慈谷さんもあなたも悪人ではないと思いますが、やはり子供だけで行かせるのは少し心配ですから」

 

 

 その言葉に、少しだけもやっとした。

 

 

 分かっている。この教員さんはいい人だ。別に悪意を持っているわけではないし、教員なら当然のことなんだとは思う。

 

 でも、この人の言葉は……この人だけじゃなくて、大人全員の言葉は。俺が大人にはなりきれなくて、まだ子供だという現実を突きつけてくる。

 無意識的なものなんだと思う。人が虫とか動物を下に見るように、大人は子供を下に見る。それが悪いってわけじゃない。でも、その無意識の態度が俺は子供だと言っている。

 

 我ながらかなり面倒だと思う。自分は子供だっていう意識が抜けきれていない。そのくせ、子供扱いされることを嫌う。だって俺は今、シャーレの先生で……大人じゃなきゃいけない立場なのに。

 

 でもそんなこと口にしたってどうにもならないし、困らせるだけだ。

 

「……分かりました。それじゃあ──「あっ……と、その……ちょっとだけ、いいですか?」

 

 ヒフミがおずおずと口を挟んだ。教員さんは一瞬驚いたような子をしたが、すぐに「いいですよ。どうしましたか?」と言葉を返す。

 

「その……えっと、先生は……凄いんです!」

 

「……はい?」「……えっ?」

 

「先生は、私たちのことをちゃんと考えてくれてて……いつも、安心させてくれるんです! 頭を撫でてくれたり、大丈夫だって言ってくれたり……だから先生は、先生で……つまり、子供じゃないっていうか……凄く難しいんですけど、私たちの先生なんです!」

 

 多分、その場その場で考えて紡いでいる言葉が……今この場で必死に、考えて言ってくれる本心が、モヤモヤを無くしていった。

 

「ええっと、馬鹿にしていたわけではないと思うんですけれど……それでも、先生を軽んじるような言い方をするのは……少しだけ、嫌な気持ちになっちゃって……」

 

「……なるほど……」

 

 教員さんはそう呟いた後、俺たち二人に頭を下げて「すみませんでした」と言ってくる。

 

「えっ、いや……あ、謝らなくても! あなただって、悪気があったわけではないと思いますし……」

 

「それでも、お二人には不愉快な思いをさせてしまいましたので……あなたは、生徒に慕われるいい先生なのですね」

 

「いや……俺は…………」

 

「鍵はお渡しします。用事を済ませたらここに戻って来て、あそこの壁にかけておいてください」

 

 教員さんはそう言うとそれでは、と自分の机に戻っていってしまった。

 そして俺の手の中には、ヒフミの教室の鍵。電気を反射して少し光ってるそれをゆっくりと握り込んで、教員室を出た。

 

「……せ、先生。その、ごめんなさい!」

 

「えっ?」

 

「つい、言葉が出ちゃったっていいますか……気づいたら、中のモヤモヤを喋っちゃってて……め、迷惑でしたか……?」

 

 恐る恐る俺の顔を覗き込んでくるヒフミ。そんな彼女に、ふっと笑いがこぼれた。

 

「いや……嬉しかった。ありがとうな」

 

 そのまま鍵を握ってない方の手で、久しぶりにヒフミの頭をわしゃわしゃと撫でる。最初こそ慌てた様子を見せたヒフミだったが、少しすると「あうぅ……」と変な声を出して大人しくなった。

 

「……ヒフミ」

 

「あうあう……えっあっはい!? な、なんですか?」

 

「俺は……その。いい先生かな?」

 

 少しだけ、声が震えてた気がする。

 俺の質問を聞いたヒフミは、一瞬きょとんとした顔を見せた後……満面の笑みになって。

 

「はい!」

 

 と、元気に返事をした。

 

「……そっか」

 

「ああいう、教員さんみたいな先生はいっぱいいますけど……それでも、私の先生は先生だけです!」

 

「……」

 

 最後にもう一回頭を撫でて、それから走り出した。

 後ろからヒフミの驚く声が聞こえるけど、気にせず前を走って「早く回収してみんなのところに戻ろう!」と振り向かずに声をかける。

 

 流石に、生徒にこんなニヤついた顔は見せたくない。




この後みんなのところに戻ったらみんなの頭もめちゃくちゃ撫でた。なお当然ヒフミ以外は訳が分からなかった模様。

小話:カケルくんの才能について。
カケルくんは習得するのはめちゃくちゃ得意ですけど、そこから発展させるのが苦手です。とはいえ発展させるのも術師としては高水準なんですけどね。

次回も遅くなるかも……というかしばらくは更新頻度がだいぶ遅いかもしれません。卒論とかいう人類悪め……
ただ次回からは本編入ります。デカグラマトンちょっとやって、パヴァーヌ二章。行き当たりばったりですが完成させます。
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