呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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6. 後に黒歴史になる事件

ブラックマーケットにある、とある銀行内にて。

 

陸八魔アルは、融資を受けようとしていた。

というのも先日、アビドスへの襲撃の依頼に全財産を使った挙句失敗してしまった彼女たち便利屋であったが、何故か依頼人(クライアント)は失敗を見て見ぬふりしてくれたので、もう一度アビドスを襲撃する運びとなっていた。

 

だが、全財産を使い果たしたので前のように傭兵を雇うこともできず、このままだと前よりも劣った戦力でアビドスに負け戦を挑むこととなる。それを回避するため、お金を借りにきていたのだが……結論から言えば、融資は受けられなかった。

 

便利屋という会社を名乗っていても、所詮は学生のやること。それに加えてなんか財政破綻してるし、そのくせやたらと高いオフィスを借りてるしで、信頼が得られなかったのだ。

 

突きつけられる現実を前に、彼女の中を何か仄暗い感情が満たしていく。

こんなのが自分の夢だったのか?自分がなりたかったのは、何も恐れず、何にも縛られない、ハードボイルドなアウトローだ。

だというのに、この有様は何だ?融資だ何だとつまらないことに悩まされ、その上そんな現状を打破する勇気もない。

 

こんなのに、なりたかったわけじゃない。

私が、本当になりたいのは──

 

突然、銀行内の電気が消えた。

 

明らかな異常事態を前に、銀行内の全員がザワザワと騒ぎ始める。

光一つない真っ暗な銀行。恐怖が煽られ、誰もが不安を抱え始めた頃、突如として悲鳴が上がった。

 

「うわっ!何だおま……」

 

「なっ、誰だ……」

 

「なっ、何が起きて……うああっ!?触ったのは誰だ、ぁ?」

 

まるでホラー映画の如く悲鳴を上げては沈黙する銀行員たち。

煽られた恐怖がいよいよ人々の体を動かし始めた頃、電気が復旧した。

そこにいたのは、覆面を被った六人の集団。

 

「全員その場に伏せなさい!持っている武器は捨てて!」

 

「言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ⭐︎」

 

「あ、あはは……みなさん、ケガしちゃいけないので……伏せてくださいね……」

 

青い覆面の少女が声を上げ、緑の覆面の少女が脅し、威圧感のある紙袋の覆面の少女が飴を与える。これは……まさか、銀行強盗!?

 

ブラックマーケットで銀行強盗を行うなど命知らずな……誰もがそう考えたが、どうやら彼女たちはかなり手慣れているらしい。警備システムの電源も既に落とされていた。

 

ファウストと呼ばれた紙袋の少女が、人々に語りかける。

 

「みなさん、ちゃんと大人しくしていてくださいよ?そうじゃないと、とっても恐ーい目にあっちゃうので……」

 

先ほどの緑の覆面の少女とほぼ同じ脅し。しかし、それこそが彼女の狙いだった。

一度飴を与え、人々にこの人は優しめなのかな?と思わせてからあえて同じ脅しをすることで、こいつらは本気なんだと、そう思わせる考え抜かれた戦術。決して勝手にリーダーにされたことに動揺して同じ文言を繰り返したわけではない。

 

素晴らしい手際で銀行強盗を行う覆面水着団。その様子を見て、アルは感銘を受けていた。

 

まさか今の時代にこんなことをする人たちがいるなんて!?しかもものすごく手際もいい、まさにプロフェッショナル!

カッコイイ……!これが、この人たちこそ、真のアウトロー!

 

子供のように目を輝かせるアル。どうやら覆面水着団の正体に気づいていないらしい。それを見て、仲間たちは頭を抱えたり、楽しそうに笑うのだった。

 

一方、目当てのブツを確保したらしい覆面水着団。

さながら一筋の風のように逃げていく彼女たちを見て、正気に帰った銀行員の一人が追跡を指示した。

 

時間にして僅か十分足らず。後に伝説として語り継がれる事件であった。

 

 


 

 

攻撃してくる追手たちを捌きながら、逃げていく。

とは言っても、相手してくれてるのは俺ではなくみんななのだが。

 

無事に誰も傷つけることなく銀行強盗を成功させ、あとは逃げるだけ。

追手は傷つけていいの?と思う人もいるかもしれないが……まあ、攻撃してきたのは向こうなので正当防衛だ。

 

恐れられていたマーケットガードも、いざ相手にしてみれば恐るるに足らず……というよりかはみんながなんか強すぎるのと、アロナの超サポートもあり割と楽に突破できた。

 

そのまま逃げ続けると、追っ手が見えなくなったので一息つく。

みんなが覆面を脱ぐなか、一人だけ体の一部になってしまったのか身につけっぱなしのシロコがいたが……まあ、見なかったことにしておこう。

 

どうやら逃げ道までちゃんと用意していたようで、その後誰にも見つかることなく無事奴らの包囲網を突破することに成功した。砂狼シロコ、末恐ろしい子よ……

 

もう大丈夫だろうというわけで、一度目的のブツがちゃんと取れてるか確認をしたのだが……

 

「……へ?何じゃこりゃ!?カバンの中に……札束が……!?」

 

「シロコ」

 

「待って先生。言い訳させて」

 

カバンの中には何とびっくり約一億ほどの札束が詰まっていた。

シロコの弁解によれば、自分は金は要求してないけど、銀行員が勝手に入れたということらしい。

 

「はあ……悪いことはしないって、約束したでしょ?」

 

「……でも……」

 

「まあ、言いたいことはわかるけど……とりあえず聞いてくれるか?」

 

「……うん」

 

「俺は君たちには悪いことを平気でできるような人間になって欲しくない。それを平気でするようになれば、俺たちは犯罪者と同じだ。だから、少なくとも君らの意思で決める行動で、悪いことはして欲しくない。今回はわざとじゃ無かったからギリギリセーフだけど……」

 

「……」

 

どんどん元気が無くなっていくシロコ。ちょっと言い方が悪かったかな。

 

「……悪い、説教臭くなった。とりあえず言いたいことは、君たちが悪いことしなくてもいいよう俺が頑張るから、綺麗な道を歩んでほしいってこと。そのためにも、このお金は捨ててくれ。セリカとノノミもそれでいいか?」

 

「なっ……」

 

「……」

 

驚いた雰囲気がこちらに伝わってくる。気づかないとでも思ってたのかな。なんか複雑。

二人が、でも悪い奴らのお金だし、別に使ってもいいみたいな感情を持ってるのは目で何となくわかった。

 

「……っ、でも!そのお金は悪い奴らのなんだよ!?」

 

「んー、そういう話じゃないんだよね」

 

セリカの前まで行って、おでこにトン、と人差し指を当てる。

 

「君らの選択肢に『犯罪をする』って文字を入れたくないんだよ。それが世間的に見ていいこと、悪いこととかじゃなくて、お前らが未来で誤った選択をしないために、今も正しい道を歩もうってこと」

 

「……うわああっ!!もどかしい!意味わかんない!こんな大金を捨ててく!?変なところで真面目なんだから!!」

 

「悪いね」

 

苛立ったように頭を掻きむしるセリカだったが、次第に落ち着いてきて、もう一度俺と目を合わせてくれた。

 

「……わかったわよ。先生が私たちのこと考えてるっていうのは、理解できたから」

 

「ありがとう」

 

「……」

 

プイッとそっぽを向かれてしまった。まあ、ああ言ってはくれたが、実際受け入れるのには時間がかかるだろうな。

 

「……で、最年長さんはなんか言いたいことある?」

 

「いやー、先生が全部言ってくれたからねえ。おじさん見直しちゃったよ」

 

「ちなみに今まで俺のことどう思ってたか聞いても?」

 

「秘密ー」

 

うへへと笑うホシノ。

……まあ、いいか。

 

話し合いも一区切りついたってことで、とりあえず現金を処理することになったのだが……

アヤネから報告が入り、便利屋の陸八魔アルがこちらに接近しているとのこと。何で?

 

そういえば、あの時銀行にいたが……だとしても追ってくる意味がわからない。敵意もないらしいし、本当によくわからん。念の為警戒をしておこう。

 

各自覆面を被り、やってきた彼女の言葉を聞く。

そしたらなんかめっちゃ褒められた。稀に見るアウトローだとか、本当の意味での自由な魂だとか……

何だかすっごいキラキラした目をしている、まるで特撮モノのイベントを見る子供のような……!その瞬間、俺に電流走る。

 

なるほど、理解した。ここでの俺の役割。組織名を教えてほしいとのことだったので一瞬にしてホシノやノノミと覆面、ついでに仮面越しにアイコンタクトを交わし、正体をバラさないことを共有する。

 

「……はいっ!おっしゃることは、よーくわかりましたっ!私たちは、人呼んで……覆面水着団!」

 

「覆面水着団!?や、ヤバい……!!超クール!!カッコ良すぎるわ!!」

 

「我らは、リーダーであるファウスト様の元活動する、陰の組織」

 

「うへ〜、本来ファウスト様の趣味でスク水に覆面を正装としてるんだけど、今回は緊急だったもんで、覆面だけなんだー」

 

(みなさん!?)

 

後ろのヒフミから熱い視線が送られているが、まだショータイムは終わってないぜ。

 

「義を基とし、悪を裁く……故に我らは正道と邪道を一度に歩く。これが我らの信念なり」

 

「おっ、おお……!なんだかよくわからないけど、カッコ良すぎる……!」

 

安心してくれ。俺も何を言っているのか全くわからない。後から思い返したら間違いなく身悶えるだろう。だけど、楽しいからいいよね。

 

「ここまで来てくれたあなたにだけはお教えしましょう、私たちの名を……!私は、クリスティーナだお♧」

 

「うへ、私はー……ホエールだよー」

 

「我は隼だ」

 

「ん、ブルー」

 

「えっ!?ええっと、わ、私はレッドよ!」

 

「そしてあそこにいらっしゃる、紙袋の彼女こそ、リーダーであるファウスト様なのです!」

 

「えぇっ……と、ファウストです。あ、あはは……」

 

……調子に乗って色々適当言った挙句、設定もなんか色々とおかしいが大丈夫かなこれ。

 

「……す、すごい……!全員個性的なメンバーなのに、その個性が干渉しあってない!全員が主役で、だれもが主人公!これが、覆面水着団……!」

 

大丈夫そう。よかった。

あっ、ファウスト……ごほん、ヒフミとセリカからそろそろやめないかという目を向けられている。視線が熱すぎて火傷しそう。

 

「それじゃあこの辺で。アディオス〜⭐︎」

 

「我ら、また道が交われば再び邂逅するであろう……さらばだ」

 

「行こう!夕日に向かって!」

 

「夕日、まだですけど……」

 

こうして一人の少女の夢は守られたのだ。ミッションコンプリート……

 

そして、アビドスまで帰ったのだが……

 

「……あれ?現金のバッグ……置いてきちゃいました」

 

「え?」

 

「えーっ!?」

 

芝居をすることに夢中になった俺らは無事に(?)現金入りバッグを置いてけぼりにするのでした。まあ、誰かが拾うだろう……

……ヒフミが何やらすごい顔で俺たちを見つめてきている。

 

「……ところで、みなさん……いえ、正確にいえば先生に、ホシノさんに、ノノミさん。そこに並んでください」

 

「どうしたの、覆面水着が趣味のファウストちゃん?」

「まさか男の俺も覆面水着にしようと……人の心とかないんですか!?」

 

「先生とホシノさんは正座もしてください」

 

そういうわけで俺たちはだいぶガチ目に怒られた。

そんなにキレなくても……もうファウストになる機会もないだろうし、多分大丈夫でしょ。

それとこれとは話が別?はい、すみませんでした……

 

 


 

 

……その後、シロコが奪った書類を確認していたのだが……

 

うーん、何というか、すごい腹立たしい。一言で言えばそんなもんかな。

 

書類によれば、奴ら……「カイザーローン」はここで集金を行ってからその金の大部分を任務補助金としてカタカタヘルメット団に渡していた。

つまり、奴らは俺たちから奪った金をもって俺たちを滅ぼそうとしていたわけだ。

 

だが目的はさっぱりわからない。常識的に考えれば、奴らは金融機関なわけで、その目的は俺たちに貸した金を回収することだ。だというのに何故俺らを潰すような真似をする必要がある?

考えられるのは、俺たちを潰すことで得られる何かがあるということだが……アビドスにそんな価値のあるものなど……

 

頭を捻ったが、情報が足りない。仕方ないから一旦思考を中断して、ヒフミを見送ることにする。

というかこれヒフミ同席させてよかったか?念の為連絡先は交換しておこう。

 

ヒフミは、トリニティの生徒会……要するに長の立場であるティーパーティーに、カイザーのことやアビドスの現状を報告すると言ってくれたが……

 

「まー、ティーパーティーはもう知ってると思うけれどねー」

 

「は、はいっ!?」

 

ホシノの言う通りだった。多分、ティーパーティーに限らず各学園の首脳陣はアビドスの現状を知っている。

そして、そいつらはアビドスを助けることはないだろう。向こうにメリットがないからな。

 

他にも、仮に向こうがアビドスに干渉してきたとして、それがいいもんであるとは限らない。これもメリットがないからまずやってこないとは思うが、ヒフミから伝えられたことをきっかけとして、アビドスが困っているからとサポートするフリをして、何かしら悪いことをされたら対抗する力がないアビドスはお終いなのだ。

 

俺たちは、無闇矢鱈に人を信じることはできない。

あの頃、たくさん見せられた人の闇は根強い不信感を俺たちに植え付けた。

 

俺は、まだ先生がいたから不信感も軽くなったが……ホシノは、そうではないだろう。

 

……まあ、そういうことで。俺たちはヒフミと別れることとなった。

彼女のその純粋な心が汚れないよう、俺は祈るのだった。




読んでくれる方、お気に入りしてくれる方、評価してくれる方。その他この作品に少しでも関わってくれる全ての人に。今はただ、君たちに感謝を。
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