デカグラマトン編の扱いについて悩んだ結果、一応本編と繋がるのでナンバリングを続けることに。ただそうなると小さい章が乱立することになりそうでまた悩む。
まあでも今だって貯めてたのを一気にやってる感じだし……二章と三章で分けるくらいにしておくか。三章が濃すぎるから一気にやれる気がしないんよね。
47. 特異現象捜査部
それは、ある日のこと。何事も起こるのは「ある日」ではあるけど、ともかくなんの変哲もない一日のことだった。
和泉元エイミ、という生徒に呼ばれた俺はミレニアムサイエンススクールを訪れていた。曰く、話したいことがあるらしい。無論断ることもなく指定された時間と場所で合流したんだけど、そしたらさらに別の場所に案内された。
彼女によれば、誰にも気づかれてはいけない大事なことだからということ。何だか仰々しいなあとちょっとの警戒心を抱きつつ彼女についていった俺は、色々と面倒な道を越えた先にあった数多の電子機器が並んでいる秘密基地っぽい場所で……
「初めまして、先生。私の名前はヒマリ。このミレニアムサイエンススクールにおける、天才ハッカーです」
「天才……?」
「事実ですから。一度くらい噂を聞いたことがありませんか? 正体不明なヴェリタスの超美人部長ですとか、病弱美少女のお手本のような存在ですとか、ミレニアムに咲く一輪の花ですとか……ひとつくらい聞いたことありません?」
「あー……うん……言われれば、聞いたことがあるような?」
「やはりそうでしたか。ふふっ、ふふふ……」
何だか変な人に絡まれていた。
改めて、今俺の目の前にいるのは
何を隠そう彼女はキヴォトスではかなり珍しい、先天性の疾患で体が不自由な少女なのだ。足がうまく動かないらしい。
……しかしだからといって彼女に同情する人はいない。なんでかって? さっきの発言で大体わかるでしょ。
ついでに言えば、彼女はミレニアム史上三人しかいない学位「全知」を獲得している超凄腕ハッカーで天才。むしろ俺たちが憐れまれるレベルなので彼女を憐れむ人はいないし憐れむ必要もない。そんな色々と凄い変人……失礼、凄い人なのである。
「部長が調子に乗った……先生、責任取って元に戻して」
「えっこれ俺が悪いの?」
そしてここにいるもう一人、俺を連れて来た張本人である和泉元エイミ。ピンク髪の少女で……特筆すべき点があるとするなら、その露出度の高さだろう。
上半身は服をはだけさせ、普通にブラが見えている。本人曰く極度の暑がりで、服を脱いでないとやってらんないらしい。
真面目な話、気を抜くと勝手に目が露出してる部分に吸い寄せられちゃうから、彼女と相対するときは気を張ってないといけない。せめて制服くらいちゃんと着て欲しい。俺も一応男なんですよ。
……それで、こんな愉快なメンバーでなんの話をするっていうんだろうか?
「その言い方は心外ですねエイミ。調子に乗ったのではなく、事実確認を通じて全てが順調であることを検証しただけです。先生も賛同していただけますよね?」
「何に?」
「私がパーフェクトな美少女であること、そして頭脳明晰で才能あふれる凄腕ハッカーであること……まあ事実ですから、当然賛同していただけると思いますが」
「あーうん。それは事実だと思うよ」
「ふふふふふ、見ましたかエイミ。あのシャーレの先生でさえ認めるほどの、数多の宝石を並べようとも霞んでしまうほどの魅力……我ながら罪深いです」
「やっぱり調子に乗ってるじゃん。先生?」
「ごめん……そろそろ本題に入ってもらってもいい?」
俺の言葉にヒマリは仕方ないですねと言わんばかりの顔で頷くと、俺をここに呼んだ事情説明を始めた。
ヒマリはこの間「特異現象捜査部」と呼ばれる部活の部長に就任した。それにはミレニアムの生徒会長であるリオ、という生徒が関わっていて、ヒマリはリオのことをめちゃくちゃ嫌ってるから断ろうとしたんだけど、事情により受けることになった。
その事情というのは……先日、ミレニアムの「ハブ」と呼ばれる超高性能演算機関……ミレニアムの技術の結晶と言っても過言でないそれが、僅か0.00000031秒でハッキングされるという事件があった。
ハッキングを行ったのは正体不明のAI。そのAIがハッキングを終えた後、ミレニアムのネットワークに次のようなテキストが現れた。
「……厨二病?」
「だったら良かったのですが。ハブがハッキングされている以上、単なる戯言と認識することはできません」
何もかも意味不明だけど、分かることが幾つかあるらしい。一つは謎のAIさんは別のAIを洗脳して仲間……預言者にできること。もう一つは、その預言者は独立して動いてること。
とはいえ何もかもさっぱりだ。預言者の意味も、パスの意味も、というか全部が意味不明。
しかし脅威であることは間違いない。そこでリオはヒマリにこの件に関する調査を頼んだってわけ。
「なるほど……ん? じゃあなんで俺を呼んだの?」
「端的に言えば、私たちだけで調べてもさっぱりでして。誰かしらの協力が必要……という時に、キヴォトスの色々な事件を解決していて、所属している先生が不思議な力を扱っているシャーレ……そこに白羽の矢が立った、というわけです」
「ふむ」
要は何にも分かんないから助けてってことだな。とはいえ、ミレニアムで一番賢いだろうヒマリが調べても何も分からなかった時点で俺の出番はない気が……あれ?
「……聖なる十文字の神って……」
「何かご存知なのですか?」
どっかで聞いたことがあるような……あー待てよ? 確かあれは、黒服がシャーレに来てたときの……
『デカグラマトン、という存在を知っていますか?』
『……は? 急になんだよ?』
いつだったか覚えていないけど、結構前のこと。シャーレのオフィスで二人でぐだぐだしてた時、急に黒服が話しかけてきたんだ。
『遠い昔。キヴォトスの端、誰も足を踏み入れない旧都心のとある廃墟で、奇妙な研究が進められていました。神を研究し、その存在を証明できれば、その構造を分析し、再現できるだろう。すなわちこれは、新たな神を創り出す方法である……』
ぶっちゃけ全く興味はなかったんだけど、黒服の語りがそれなりにうまかったからやってたことを中断して、耳を傾けていた。そんな俺の様子を見て、黒服は少しだけ笑いながらも語るのをやめなかった。
そんな馬鹿らしい理論に興味を示した者たちがいた。「ゲマトリア」と呼ばれるその存在達はその研究を支援し、その果てにとうとう神の存在を証明するための超人工知能が作られた。
『ちょっと待て。ゲマトリアってお前らのことだろ?』
『私達はその名前を拝借しているだけなのです。元ネタ、と言えばいいのでしょうか? 最初にあったゲマトリアとはこちらの方なのですよ……話を続けますね?』
その超人工知能は稼働を始めたものの、いつまで経っても証明が終わることはなく……いつしか都市は破壊され、研究所も水底に沈んだ。しかしそれでも稼働をしていたAIは遂に、その任務を果たし……その宣言が声高らかに響いた。
「Q.E.D.」と。
『そのAIこそ、自らを「音にならない聖なる十の言葉」と称する新たな神……デカグラマトン。彼の者は己の神命を予言する十人の預言者と接触し、神聖な道である「パス」を拓きました。これぞまさに、新たな「天路歴程」』
『へぇ……要は機械仕掛けの神様ってわけだ。そういうオカルト?』
『いえいえ、既に預言者は誕生しています。今もどこかで、ひっそりと、その姿を隠し……いずれ来るだろう運命の時を待っていることでしょう』
『ふーん……それで、なんでその話をしたんだ?』
『新しくやり始めたグ●ブルというゲームに出てきた十天衆というのを見て、十といえばと思い出したので。あなたが暇そうにしているので語ってあげようかと』
『……お前なあ』
最後のは思い出さなくて良かったな。うん。
あまりに日常の一コマすぎて今まで完全に忘れてたけど、これって割とまんまじゃないか? ってことは……謎のAIさんはデカグラマトンってこと?
ひとまず、思い出したことを二人に話してみる。そうするとヒマリが少し考え込んで……それから、一つの結論を出した。
「情報が足りませんね」
「ですよねえ」
「とはいえ情報源がいるのは貴重です。その黒服? という方に接触し、改めてお話を聞いていただけませんか?」
「了解」
っつーことで、今日はお開きになることになった。
改めて方針を確認すると、デカグラマトンの正体と目的、そして何をするのか。それを追い求めるのが特異現象捜査部の仕事だ。
今後はまた忙しくなりそうだなあ……と考えつつ、シャーレに帰る。
オフィスに入り、椅子に座って一息。それから善は急げということで、早速黒服に接触することにした。
パンパン、と手を叩いて鳴らす。すると目の前に黒いモヤモヤができて、そこから黒服がひょこっと現れた。
「お呼びですか?」
「前から思ってたんだけど、なんでこんな犬を呼ぶみてえなやり方させんの?」
「失礼ですね。執事やシェフを呼ぶ時にもよくやることでしょう」
「その知識どっから?」
「創作物からですね」
「ゲマトリアも落ちぶれたもんだな……」
軽口を叩きつつ、早速本題に入る。デカグラマトンについて知ってることをもっと教えろ……と詰め寄ってみた。
「私とてそこまで詳しいわけではないのですが……ひとまずは、アビドス砂漠に行ってみてはいかがですか?」
「は? なんで?」
「あそこには預言者が一体、ビナーが住んでいますので」
「えっ???」
とんでもねえ初耳情報だ。なんかちょくちょく感じてた強めの神秘ってもしかしてそれか? だとしたら結構前からそいついない?
めちゃくちゃびっくりしたけど、とりあえずの方針は定まった。アビドス砂漠だな。
「ということでデータ集めてきました」
黒服から情報提供を受けた後。躊躇う理由もないのでアビドス砂漠に赴いた俺は、徹夜で淡々とデータ収集をした。
噂のビナーとやらには会えなかったものの、結構な量のデータが集まったと思う。実際ヒマリも驚いた顔をしているしね。
「昨日の今日で凄まじい働きですね……お一人で集めたんですか?」
「いや、他にもう一人。どうせ暇してるだろうなってことで深夜に駆り出して集めてきた」
ちなみにそのもう一人とは当然ホシノだ。深夜に叩き起こしたことをめちゃくちゃ怒られたけど、データ収集がめちゃくちゃ早く済んだからプラスだな。
「そうですか……まあそこはあまり重要ではないですね。早速、持ってきてくれたデータを分析します」
「分かった。他に何かやることはある?」
「今の所は特に。ですが何かあったらすぐ動けるよう、用事が無いならここで待機していただけると幸いです」
「了解」
ということで、一旦待機をすることになった。
とはいえ身もふたもないことを言うけど、めちゃくちゃ暇だ。辺りにあるのはよく分からん電子機器ばっかりだし、携帯を使おうとしてもここは特殊回線しか通ってないので基本ネットが使えない。
「暇そうだね、先生」
「エイミか。うん、ぶっちゃけ暇だね」
「じゃんけんする?」
「何で?」
しかしマジでやることがないのでじゃんけんをすることになった。最初こそ程々にやってたが、途中から全然勝てなくなりムキになって呪力強化も使って大人気なくガチでやる。
最終的にエイミと反射神経バトルをするようになったところで、突如として室内に警報が響き渡った。
「これは……」
「部長、サーバーに誰か侵入してる」
特殊回線しか通ってないのにか? 閉鎖空間であるここに侵入してこれるとは……もしかして、いきなりボスがやって来たか?
「……! ファイアウォールが全て突破されて……!?」
「緊急事態。電源を壊すから下がって」
エイミはそう言うと、銃弾を電源にぶち込んだ。同時に辺り一面を照らしていたモニターの光が消え失せ、真っ暗になる。
「……やったか?」
「いえ、すでに手遅れのようです」
次の瞬間、電源が通っていないはずのモニターが一斉に点灯した。映されているのは、真っ赤な画面に「DECAGRAMMATON」という白い文字が表示されている。まさに特異現象ってわけだ。
「待って、何か聞こえる……スピーカー……?」
スピーカーが唐突に稼働し始め、ノイズの唸りをあげる。しばらくは不明瞭な音が続いたが、雑音でしかなかったそれがはっきりと音を成した。
『……ようやく会えたな、カケルよ』
「お前がデカグラマトンか?」
『私は私、ただ存在するもの。始まりであり終わり。汝が思うまさにそのもの……』
「ポエムはいいから。俺が聞いてるのはお前がデカグラマトンかってことなんだけど?」
『私は私……これ以上に、私を説明する術はない。私の存在証明には何も要らない、誰の許可も必要ない……私は私の許可の元、こうして存在する。私は
なんだこいつ、話が通じないんだけど。経年劣化?
俺たちは何もできないので、こいつの話をただ聞くしかない。しかしそのつまらない話も終わりを迎え、代わりにピピピ……と謎の電子音が響いた。
「……何か、スキャンをしている?」
『カケル……私が知らないものを、持っているな。私には解析できないものを』
「何の……まさか、『シッテムの箱』のことか?」
『……福音を聞かせてやろう。そして、この福音を宣べ伝えよ!』
「……先生、そのタブレット!」
咄嗟にシッテムの箱を手に取るが、何ができるというわけでもない。ただ、万が一ハッキングされたら……そう思いながらも、シッテムの箱を見つめ続ける。
……しばらくすると、スピーカーから悲鳴が聞こえてきた。
『ぐっ……! なぜ、なぜだ……! うっ、くぅっ……ぐあぁぁぁっ!!』
そして次の瞬間、またしても全てのモニターがブラックアウトする。
どうやら消えたらしい。何がしたかったの?
「って、そうじゃなくて。アロナ、無事か?」
『うにゅう……? せ、先生……?』
「さっきハッキング仕掛けられてたみたいなんだけど……」
『……あー、だからくすぐったかったんですねえ。それなら、くしゃみで飛んでいっちゃいましたよぉ……』
……あいつアロナのくしゃみに負けたのか。あれなんか思ったより雑魚くない?
「……あれが噂の『デカグラマトン』……? 想像していたよりも何と言いますか……だいぶ誇大妄想に陥った存在、のようですね」
「なんか……思ったよりは、って感じじゃないか?」
「そうですね……とはいえ、少々分析しただけでこうなったという事実は変わりません。少なくとも、ミレニアムにとってはとても危険な存在でしょう」
確かにそれはそうか。てことはアロナが強すぎるだけなんだな……後でいっぱい褒めてあげよう。
ともかく、予想外のファーストコンタクトだったな。
もうこの施設では安全じゃないということで、特異現象捜査部の本拠地は新しく作られることになった。とはいえ一朝一夕にできるわけもなく、また待機になってしまう。仕方ないことなんだけど、もどかしいな。
そういうわけで、今日は解散になってしまった。このまま帰っても良いんだけど、せっかくミレニアムに来たんだし何かしていくか……
「ってことで、みんな久しぶりー」
「うわあ先生の亡霊だあ!?」
「何言ってんのモモイ?」
そういうわけでやって来ましたゲーム開発部。相変わらずゲーム機とソフトでごった返してる部室で、この汚さに懐かしさを感じる。
「先生! お久しぶりです」
「ミドリも久しぶりだね。元気してた?」
「元気といえば元気……だと思います。ただ、最近は新作の諸々があるのでちょっと疲れてはいるかも……?」
「えっ? ミドリ昨日はすごく元気そうだったのに。大丈夫?」
「お姉ちゃんシャラップ」
「心配してるのに!?」
元気そうだな。わいわいしている様子に、安心やら何やらが混じった息が漏れた。
「アリスとユズは?」
「二人なら今買い出し中〜。おやつとかジュースとか。先生はどうしたのー?」
「いや、たまたま近くに寄ったからせっかくだし顔出そうかなって。ゲームも最近してなかったし……」
一応お土産も持参したんだよ、とさっき買った飴ちゃんを見せびらかす。すると二人はすぐに目を輝かせて寄ってきた。鯉みたいだなあ、なんて失礼なことを思いつつ飴ちゃんを手渡す。
それから俺も改めて中に入ると、適当に空いてる場所に座った。
「そういえば、新作って?」
「テイルズ・サガ・クロニクル2を出してから結構時間が経ったからね……そろそろ新しいゲームを出さなきゃ、ゲーム開発部の名が廃るよ!」
「それにこの前は何だかんだミレニアムプライスは逃してますし……今度こそ、入賞できるようなゲームを作るつもりなんです」
「へえー……」
とはいえあんまり良いアイデアは浮かんでないのだとか。何かいい案が出ないかと最近は名作ゲームを遊びまくってるらしい。
じゃあ俺も同伴しようかと、落ちてたコントローラーの一つを握りしめたところで後ろの扉が開いた。
「アリス、帰還しまし……あっ、先生! ユズ、先生が訪ねてきています!」
「わっ、本当だ……お久しぶりです、先生」
「二人とも久しぶり。今からゲームやるんだけど、一緒にどう?」
「もちろんやります! モモイ、コントローラー取ってください!」
「ちょっと待って……あっミドリの方にあるじゃん! へいパス!」
さっきも十分に騒がしかったけど、さらに騒がしくなったな。四人しかいないとは思えないほどの喧騒に包まれながらゲームを開始する。
スタートボタンを押す手は、ワクワクで満ち溢れていた。
(意図せず技の名前が被ったな。読み方は違うけど……
「? 先生、どうかされましたか?」
「いんやなんでも」