なおこのアイデアを提示できるのは少なくとも最終章後である。遠い……
あれから数日経った今日、エイミからいよいよメッセージが届いた。話があるから来てとのことだけど、流石に新しい部室のことだろう。
指定された場所に行くと、当然ながらエイミがいる。それから彼女に新しい部室までの道を案内してもらうことになった。
何だか一連の流れに既視感を覚えつつ、前よりは複雑になった道筋を辿って行き……ようやく新しい部室に着く。
中は前より暗めだけど、相変わらず周りには用途不明な電子機器がびっしり。薄暗い青の光が部屋を照らしていて、何だか秘密基地感があってワクワクする。
先にここにいたヒマリによれば、ここはヒマリが発明した特殊なファイアウォールで保護されてる、彼女曰くキヴォトスで最も安全な場所らしい。おまけにこの場所を知っているのは俺、エイミ、ヒマリだけときた。
……ん? あれ、てことはこの部室を作ったのって……ヒマリは足が悪いからできるわけないし、俺は今日まで存在を知らなかったから……エイミさん、マジすか。
実は結構アクティブな子なんだよな。露出してる素肌にもちょくちょく湿布やら何やらが貼ってあるし……
話が逸れたな。それじゃあ改めて今後の方針の確認だ。
俺たちが知りたいのはデカグラマトンの情報。しかし前回はそのデータを集めてたことで逆に侵入される結果となってしまった。
また同じようなことが起きないとも限らないし……何より、このままではデカグラマトンに一生近づけない。そこでアプローチの仕方を変えることにした。デカグラマトン本体のデータを集めるのではなく、預言者のデータを集めることにしたのだ。
今の所情報としてあるのは、黒服から教えられた「ビナー」と、ミレニアムのハブが変化したと思しき「ホド」。この二体のことを調べていくことになった。とは言っても居場所が割れてるのはビナーだけだし、実質そいつだけなんだけど。
後は……なんか、預言者の名前が「生命の樹」ってやつと関係してるとか……神理に至るなんちゃらがどうたらとか……まあ多分気にしなくていいだろ。そういうのはきっとヒマリが解明してくれるさ。
その肝心のヒマリは、こほんとわざとらしく咳払いをして俺のことを真っ直ぐに見つめてくる。その様子に、無意識的に背筋がピンと張った。
「では手始めに、先生にお願いしたいことを一つ」
「出番だな。任せてくれ」
「単刀直入に言えば、カイザーPMCが怪しいのでデータを取ってきてください。ビナーがいる地域で何やら宝探しをしているようでして、もしかしたら何か関係あるかもしれません」
「……了解」
「今、一瞬だけ声が上ずってなかった?」
「何のことやら」
カイザーを合法的に襲撃できるということで、ちょっとテンションが上がっちゃった。危ない危ない……エイミがじとっとした目で見てきても気にしない気にしない。
「じゃあ行ってきまーす」
「ただいまー」
「お帰り。データは?」
「取ってきたよ。ヒマリは?」
「奥の方で寝てる」
ということでカイザーからデータを盗んできた。今更あんな雑魚どもに苦戦するわけもなく、一時間くらいで終わったな。
奥の方で寝てるヒマリを起こそうと、声をかける。だが起きる気配が微塵もない……ので、体を揺らしてみることにした。
「ヒマリ、データとってきたよ」
「……んぅ……? ……ひゃうっ!?」
起きてすぐ目の前に俺の顔があったからかヒマリが顔を赤くし、車椅子ごと浮く勢いでガタガタっと跳ねた。
「な、何ですか先生!? いくら私がこの世全ての人間に勝るほどの美少女だからといって、乙女の寝顔を盗み見するのはいけませんよ!」
「いや、そんなつもりじゃなかったんだけど……」
「全く……まあその気持ちも分かりますが。私とて、毎晩私の美しすぎる寝顔をドローンで撮ってますしね」
「えっ」
「冗談です」
「部長ならやりかねない」
「エイミは私を何だと思ってるんですか……」
冗談でよかった。これが本当だったらどういう反応したらいいのかわかんなくて微妙な空気が流れてたよ……本当に冗談なんだよな?
まあそれはともかく、集めてきたデータをヒマリに渡す。
「ありがとうございます。では、少々お待ちください」
そう言って彼女はすぐにモニターの方に向かって行き、それからなんだかすごそうな作業を始めた。なんかすごいカタカタいってるしすごそうだ。すげー。
「……さて、それはそれとしてまた暇だな」
「今回は早めに終わると思うから、待ってて」
「了解」
そういうことで、用意されてた椅子の一つに座る。座り心地はめちゃふかふかだ。いくらするんだろこれ。
エイミも同じように椅子に座ると、既にだいぶ着崩されてる制服を脱ぎ捨てた。前までならドギマギしてたと思うけど、もはやその程度で俺は動じない。
視線は背けつつぼーっとしてると、エイミが手を動かしてるのが見えた。無意識にその手の動きを見てると、彼女は手を自身の胸元に持っていき、そして何かやらかす前に俺がその手を掴む。
「ごめん待って何する気?」
「何って、脱ぐ気だけど」
「上半身あとブラしかないのに?」
「でも暑いし。体の健康を保つには致し方ないこと」
「じゃあクーラーつけるとかあるよね!?」
「部長は私と反対のめちゃ寒がりだから、クーラーつけるの嫌がるんだよ」
何でそんな変な相性の悪さを発揮するんだこの二人は。言われてみれば確かに暑いし……そう思いながら室温を見てみると、驚異の三十度越え。アホ?
「……ヒマリ、室温ちょっと下げてもいい?」
「ダメです。頭の動きが鈍るので」
「その反論は禁止級だろ……くそ、何とかできないかな」
ハンディファン、氷、冷たいタオル……どれも無いな。持ってるものにも体を冷やせそうなのは無い。ちくせう、術式でどうにかなんねえかな。
……待てよ? 俺の術式って、術式対象が拡張されてエネルギー全般になってるよな? てことは空気に秘められてる熱エネルギーを吸収できるんじゃね?
思い立ったが即行動、目の前の空間に手をかざして術式反転。意識して術式対象を選び……何だか涼しくなってきた気がする。うーん、プラシーボか?
「なんかちょびっとだけ涼しくなった気がする」
「このまま空気冷やすか」
そういうことで、ヒマリが解析を終えるまでの間そうして過ごした。
ちなみに費用対効果はカス。一回の術式反転に使う呪力を10とするなら還元される呪力は0.01くらい。まあ熱エネルギー程度ならこんなもんか。
この還元率の悪さは昔、電池で呪力補給ができないかと色々やった時のことを思い出す。結果としては無理だったんだよなあ。ああいうのは使えないんだ。
懐かしいなあと昔の記憶に浸っていると。ヒマリから解析が終わったと声をかけられた。
「どうだった?」
「結論から言えば何もありませんでしたね」
「……え、何も?」
「なーんにも、空っぽです。強いていうなら暗号化されたメッセージの痕跡は見つかりましたが……そこから復元するのは、この美少女ハッカーの力を持ってしても流石に無理ですね」
「美少女は関係ないと思う」
「関係ありますとも、『美少女』は『天才』と相性が良いのです」
コントみたいなやりとりをしてるけど、要は俺が取ってきたデータは役に立たなかったってことか? そう聞くと、「そんなことはないですよ」と言いつつヒマリは再びモニターに向き直って、またカタカタし始める。
「部長、何するつもり?」
「現場にデータがないなら、本社のデータを見ればいい……要するにカイザー本社にハッキングです」
「……何でそれ最初にやらなかったの?」
「少々面倒ですから。とはいえ、現場にデータが無い以上は仕方ありません。先生がやったことは決して無意味じゃないですよ」
「それなら、いいけどさ」
表情に思わず不満の色と残念な感情が出そうになったので、表情筋を引き締めてその変化を止める。危ない、生徒にそんな顔を見せるわけにはいかねえんだ。
しばらくキーボードを叩くカタカタという音だけが響き続けたが、ハッキング作業が終わったのかモニターいっぱいになんか色々映し出される。ヒマリによれば、これは全部ビナーとの交戦記録だという。採掘現場にやって来たビナーをよく排除していたらしい。
この情報を元にすれば、ビナーの出現位置がつかめるらしい。とはいえそれもまた時間がかかるらしいので、また暇だ。
またふっかふかな椅子に、エイミと同じタイミングで着席した。
「先生って不思議な力を使うよね」
「ん、まあね」
「ビームみたいなの出したり、目の前の空気を冷やしたり……どういう力なの?」
「元は呪力を放出する術式……って、そもそも呪力が分かんないか」
どうせ暇だしということで、エイミに呪術の授業をしていく。呪力のこと、術式のこと、その他諸々のこと……こうやって説明してると分かるけど、これも大概特異現象だよな。
「ふーん……それで先生は、その呪力っていうのを放出したり吸収したりできるんだ」
「そ。今は縛りで術式対象を広げてるから、エネルギーの放出と吸収とでも言うべきものだけどね」
「……もしや、私たちが真に研究するべき対象はデカグラマトンではなく、先生なのでは?」
作業をしながらも耳を傾けてたらしいヒマリも会話に入ってくる。俺を研究しても特に何にも出ないと思うけどね。術式はともかく、呪力は先生由来なんすわ。
「呪力の放出……その術式の名前とか説明って、誰が決めたの?」
「もちろん俺だけど」
「じゃあ、もしかしたらの話なんだけどさ。実は先生の術式が全く違うってこともあるのかな?」
「……えっ?」
「だって、さっき私は先生の力を空気をどうこうするみたいな何かかと思ってて……でも実際には全然違った。そういうことが、実はあるんじゃないかなーって思って。先生だって今までの現象からそう考えてるだけなんでしょ? だったら、違う可能性もあるよね」
「……いやでも、俺の術式を呪力の放出以外でどう説明するんだ?」
「うーん、分かんない……けど、もし先生の術式が全然違ったら……暇だし、ちょっと考えてみない?」
そう言うエイミの瞳はきらきら輝いてて、期待やらワクワクやらが詰まってるのがすぐに分かった。
……あっこれもしかして暇だから適当言ってるだけ?
特に根拠とかはないけど、そういうことを考えてみるのが楽しいから言ってみただけだなこれ。びっくりしたあ。急に変なこと言い出すのやめて欲しい。
その後は、術式についての話で盛り上がった。実はあの子には術式があるんじゃないかとか、この怪異は術式によるものなんじゃないかとか……結構楽しかったな。
とはいえ俺たちの本題はそれじゃないわけで。ヒマリがッターン! となんかカッコよくエンターキーを叩き、俺たちを見てくる。
「……お待たせしました。これがビナーの動きを予測したアルゴリズムです」
「ふむ……ここに行けばいいの?」
「はい。とはいえ接触すると行動パターンが変わる可能性があるので、チャンスは一度きりと思っておいてください」
「了解……じゃ、行ってくる」
「気をつけてね」
そういうわけで、やって来ましたアビドス砂漠。太陽が照りつけるこの砂漠は結構暑いはずなんだけど、ヒマリが設定している室温とあんま変わんないから何も感じなくなってる。改めてあの子どうなってるんだ本当に。
「……それで、何でお前もいんの?」
「いやあ……カケルの呪力を検知したら、つい……」
なんて言ってはは……と頭を掻いてるのはホシノ。俺が砂漠に到着するなり急に飛んできた。
思わずじとーっとした目で見てしまうが、ホシノは気にせずにいつもの調子を保っている。
「何だかまた面倒臭そうなことに巻き込まれてるんでしょ? 協力するよ」
「……まあ、この前のデータ収集の時巻き込んだし今更か。足引っ張んなよ」
「まさか。私がカケルの足手纏いになったことなんてないでしょ。逆ならあるけどさ」
「おっ喧嘩か?」
互いに睨み合う。バチバチと火花が散っているようにも見えるが、生憎目の錯覚だ。
……こんなことしてる場合じゃないんだ。さっさとビナーの元に向かおう。踵を返して歩き出す。
「あっ、置いていかないでよー」
「あーはいはい」
「冷淡だねえ……で、今回は何やるの?」
「モンスターハンター……あっでも殺しちゃダメだからな?」
「りょうかーい」
情報共有も終わったところで、早速ビナー探しだ。貰ったアルゴリズムの示す方に向かって進み続ける。そのうち地響きがするようになり、でかめの神秘も近づいて来た。
「……のはいいけど、肝心のビナーが見当たらないな」
「そのビナーって、どんな姿してるの?」
「……そういえば知らねえな」
「えっ?」
完全に失念してた。ビナーの姿を俺知らねえじゃん。アルゴリズムを見ると、近づいて来てるのは分かるんだけど……あたりを見回しても砂漠が広がってるだけ。何処にいるんだ?
「……カケル、地響きが……」
「分かってる。近くにはいるはずなんだけど……」
「近づいてきてるよ……というか、この感じもしかして──」
ゴゴゴゴゴ……と地響きが大きくなっていく。足元に感じる揺れもまた大きくなっていき……ようやく正確な位置を把握した。
「下か!」
「飛んで!」
掛け声に合わせて、咄嗟に大きく跳躍した。同時に、さっきまで俺たちがいた場所からでかい蛇みたいなのが出てくる。
白い装甲がいくつも連なっていて、その間をオレンジっぽいエネルギーが繋げている。顔の部分は目が多めにあって、トゲトゲした頭をしている。
蛇のように長い体をうねらせるこいつが、このデカイのが!
「ビナー……!」
「殺しちゃダメなんだっけ?」
「そうそう。適当に遊んでやってくれ!」
「分かった」
と同時に、ホシノが
ガキィン! と大きな音がしてビナーが一瞬怯んだ……が即座に立て直して暴れてきた。
近づけば巨大に巻き込まれてミンチになるだろうが、当たらなければいいだけの話。ホシノは再び空を蹴って俺の場所まで飛んでくる。そして殴った方の拳を撫でながら一言。
「……痛い」
「その前にさっきの何だよお前。何で空を歩いてんの?」
「空の面を捉えるんだよ」
「マジで何?」
要領を得ない発言すぎる……まあいい。ずっとホシノに任せっぱなしにしてたら笑われるし、さっさと俺も活躍をしよう。
呪力放出の勢いを生かして、ビナーの身体部分にドロップキックした。そのまま止まることなく空で旋回し、続けざまに二、三、四発。ビナーもうざいようで俺を食おうと口を大きく開けたが、開けっ放しはお行儀が悪いので顎を蹴り上げて閉じてやった。同時に奴の体が少し浮く。
その隙にホシノが横から蹴りを入れ、ビナーの巨体が吹っ飛んだ。大きく砂埃をあげてその身体が転がる。
思ったよりは軽くて柔いな。預言者なんて仰々しい名前はついてても、この程度か。
「輝綫」
手のひらから射出された無数の光がビナーを狙う。しかしビナーも口を大きく開け、そこからデカイビーム砲を出して相殺して来た……っていうか、ギリこっちが押し負けたな。
大きく横に移動してビームを回避。その隙にホシノはビナーを殴りにいってる。巨体があんな小さい生き物に大きく揺らされてる絵面は結構面白い。
とはいえ散々コケにされてビナーもキレたのか、大きく吠えた。と同時に、顔の横あたりにあった丸いパーツからミサイルが射出される。全部で四発、二・二に別れて俺ら二人を追尾してくる。
避ける必要も感じないし、輝綫でミサイルを薙ぎ払った。ボン、とミサイルが爆発して目の前が煙に包まれる……するとビナーがその煙を突き破って俺に突撃してきた。
口を大きく開けて俺を食べるか噛み砕こうとしてくるので、適度に体を動かして避けてやる。何度も攻撃してくるのを避け、ついでに顔を殴って反撃した。
カウンターを食らって怯んだビナーだったが、また大きく吠えると砂の中に潜っていく。同時に砂が大きく舞い上がり、軽い砂嵐みたいになった。それを輝綫で大きく払い、地下にいるだろうビナーに意識を向ける。
地中に潜られたら視覚で位置を追えない。が、こいつの神秘はそれなりに分かりやすいので探知すると、やつは俺の真下で止まった後大口を開けて俺に飛び込んで来た。
おまけに口の中に光が見える。めっちゃ殺す気じゃん。
まあでもその程度で死ぬなら俺はもう死んでるんだよね……ってことで、手のひらをビナーの方に向ける。そしてさっきの数倍の呪力をチャージ。
ビナーがビームを放つ……と同時に俺も輝綫を放つ。先ほどよりも火力が高いそれはビナーのビームを容易く貫き、何なら口内を貫通していった。やべ。
こうなるとこいつも俺を食べるどころではない。地面に受け身すら取れず落ちて、ギャアギャアとのたうち回っている。
流石に可哀想だなと思って追撃はやめたが、こっちの事情を知らないホシノはそうもいかない。いつの間にかビナーの横についていたあいつは、サッカーボールを蹴るみたいにビナーを吹っ飛ばした。ごろごろと砂埃をあげつつ転がって行くビナー。
「あーあ、可哀想」
「でもまだ死なないでしょ?」
「死なないなら何してもいいと思ってる……?」
思わずドン引きした目線を送ってしまうが、ホシノは欠片も気にした様子がない。その手をビナーの方に翳し、そして光線を放った。
「……神秘の放出か。前より出力上がってる?」
「毎日鍛えてるからね」
「ふーん……?」
遠くのビナーを見やると、あんなに白くて清潔だった装甲が焦げてしまってる。おまけに所々凹んでるし……そしてその六つくらいある目が俺らを捉えた。そして俺は機械に詳しくないけどはっきり分かる。あれめっちゃキレてるわ。
ビナーが再び口を大きく開いた。オレンジっぽい色の光がチャージされ、どんどんと大きくなっていく。どうやら向こうの最大火力で俺らを消し炭にするつもりらしい。
それを阻止しようとホシノが動こうとしたが、それを手で制す。
せっかくだ。火力勝負といこうじゃないか。
口角が自然と上がるのをそのままに、矢を番えるように構える。
「 “白花” “立射” “別ちの線条”」
大きなギャオオオオ、という怪獣のような唸り声をあげ、極太のビーム砲が俺らに向けて発射された。後数秒もすれば俺らに直撃するそれに対抗するのは、俺の最大火力。
「煌矢」
一筋の矢が光線を貫き、ビナーに直撃した。同時に大きな爆発が起こる。少し遅れて大きな爆風が俺たちに向かって吹き、髪が乱れた。
「……これ、死んでない?」
「いや……死んでは、ないだろ。多分。加減はしたし……」
「カケルの加減したは信用できないからねえ」
「否定できないのが腹立つ……お」
煙で何にも見えなかったが、ようやくその全貌が見えた。顔が半分くらい溶けてるけど、息切れしているような仕草を見せてるので死んではないな。ヨシ!
先ほどまでの怒りに満ちた視線から一転、怯えを含んだ目で俺を見たビナーは、もはや何もすることなくそそくさと地中に潜って退散していった。
「うわあ……可哀想。弱いものいじめして楽しい?」
「弱くは無かっただろ」
「あんないじめみたいなことしてて、説得力がないよ? カケルってそんなに酷い人だったんだね……」
「やめろ。割と不愉快だ」
「ごめん」
はっきりと表情が不快だと言うように歪む。そんな俺の顔を見て、流石にホシノも即謝罪。ったく、素直に謝るなら最初からやるなって話だ。
ため息を吐きつつ服に軽く付着した砂埃をパンパンと払い、その手をホシノに向けてしっしと追い出す仕草をする。
「これでやることは終わりだ。ほらさっさと帰った帰った」
「えぇー? せっかくだし、もう少し一緒にいようよー」
「いつでも会えるだろ。俺はまだやらなきゃいけないことがあるんですー」
「たまにはサボっても良いんじゃなーい?」
「おじさんそういうの嫌だなあ」
「ちょ、私の真似しないでよ!? カケルの前だとやらないようにしてるんだから!」
「おじさん(笑)」
「シンプルに殴るよ?」
「冗談だって……はあ。で、どこいくの?」
「あれ、結局一緒に来てくれるの?」
「ちょっとだけな」
あの後結局柴関ラーメンを奢る羽目になり遅くなったが、ようやく部室に帰って来た。
「ただいま……」
「お帰り。部長ー、先生が帰って来たよー」
今はエイミの割と淡白な部分さえ癒しに感じる。ぶっちゃけビナーと戦うよりもホシノといる方が疲れたぞ。
「おや、よく帰ってこれましたね」
「……ごめん、どういう意味?」
「先生の情報は全て筒抜けということです。私たちを差し置いて知らない女と食事をして……この浮気者!」
「どっからツッコんだらいいんだこれ。エイミ?」
「放っておいていいんじゃないかな。部長も浮気者って言ってみたかっただけでしょ?」
「むぅ、思ったより反応が薄い……」
「ともかく。ビナーのデータなら持ち帰ってきたから」
集めてきたデータを渡す。これで足りないとか言われたらどうしよ。また探すのすごく面倒臭いぞ。
「ふむ……ありがとうございます。では早速分析をしますね」
「えい」
「分析が終わりました」
「はっや」
これが超天才美少女ハッカーさんの力か……
モニターに映し出された不可思議な英数字の文字列。理解しようと眺めてみるも……うーん、全く分かんね!
「……これで全部?」
「今回確保したデータからは、これしか分かりませんでした」
「どれ?」
どうやらエイミはこれが読めるらしい。そして会話の内容から察するに、あんまりいい結果では無さそうだ。
「とはいえ千里の道も一歩から、です。まずは一歩、前進したことを喜びましょう」
「……それもそうだな。それで、次はどうするんだ?」
「その事なんですが。実はエイミが新しい預言者と接触しまして」
「なんて???」
どうやらエイミは俺がいない間、デカグラマトンの痕跡を探すため至るとことを調査していたらしい。データ集めではなく、デカグラマトンもしくはその預言者の痕跡を探すための活動。それが実を結び、新しい預言者を発見できたのだと。
「大丈夫だったの?」
「うん。別に攻め入ったわけじゃないから全然平気だよ」
……実際、傷があるようには見えないし本当に大丈夫そうだ。実はエイミって強いのかなあ。
「先生には少し休んでもらった後、すぐにその預言者と戦ってもらいます」
「了解……ちなみにそいつの概要とか見た目とか聞いていい?」
「名は『ケセド』、四番目の預言者です。軍需工場のAIが変異し、デカグラマトンの兵隊を生み出すとなったもの……謂わば軍需工場そのものです」
デカグラマトンの兵隊を生み出す無限の工場。それを統括する長「ケセド」
次のターゲットを前に、思わず口角が上がるのを止められなかった。
小話:ホシノの才能。
基本的にカケルくんのものを全て上回ってる。神秘に関しても量、操作、質、効率共に現時点のカケルを上回ってる。呪力出力も無制限とかいうチートが無ければ勝ってた。原作で言えば五条、日車に匹敵する才能……誰だよこんな化け物に仕立て上げたの。
もしも術式を持ってたら間違いなく一番最初に領域展開を会得していた。