呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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実質タイトル詐欺


49. ケセド

 四番目の預言者「ケセド」。その居場所はミレニアム郊外にある「廃墟」。前、モモイたちとG.Bibleを探しにいった場所で、アリスと会った場所でもある。

 

 相変わらず崩れた建物やらロボットの部品やらでとっ散らかっている。あたりを見回せばコピペしたかと思うほど同じ様相の建物が並んでて迷子になりそうだ。そしてそこら中にいるロボットたち。

 

 前回来たときはモモイたちがいたからステルスしてたけど、今回はその限りじゃない。俺単独なら、この程度のガラクタなんて敵にすらならないのだ。

 

 適当に蹴散らしつつ進んで行くと、それらしき場所にたどり着いた。メカメカしてる工場……ここがケセドの居場所だろう。

 足を踏み入れると、何処からか雑兵が湧いてくる。白を基調としたロボットやドローン……生産した兵士だろうな。

 

 何十、何百の兵士が銃弾を打ち込んでくる……が、大した痛手にはならない。

 

 ケセドの強みというのは、つまり工場であるゆえの圧倒的な物量。程々の戦闘力を持った兵士を無限に生産して、数の暴力で殺す。戦いは数だよ……とはよく言うが、それが通用するのはある程度レベルが近い相手だけ。

 

 要は、アリが何万と束になっても恐竜には勝てないということだ。銃弾が当たるのも気にせず、輝綫で兵士どもを薙ぎ払う。光の筋が床に跡をつけ、兵士たちが両断された。直後、爆発。

 

「ビナーのほうがマシだったな」

 

 退屈だな、なんておよそ大事なミッション中に思っていいことではない事を考える。思わずあくびが出そうになったが、流石に気が緩みすぎだと頬を叩いた。

 

 そのままずんずん奥に進んで行く。目的はケセドのデータなので、本体に接触しないといけないのだ。本体がいる場所なんて、だいたい一番奥だろ。

 もちろんその途中にも大量の兵士が出てくるが、その全員を軽く殲滅して進む。退屈な作業を繰り返し、俺はついに一番奥へと到達した。

 

 開けた場所だ。球の内側みたいな空間で、幾何学的な模様が張り巡らされている。入り口から中央まで橋が伸びていて、その中央にそいつはいた。

 浮遊する白い球体。いかにも機械ですというカクカクした模様が白い装甲の表面にびっしり刻まれた、この工場の主人にしてコア。

 

「ケセド……思ったより小さいな」

 

 独り言を呟きつつ、データを確保するため歩き出す。向こうも俺を妨害しようとまた兵士を出したが、その結末は変わらなかった。

 

 ちなみに、データが集められる方法は俺も良くわかってない。毎回ヒマリからよく分からない機械を渡されて、それが気づくとデータを集めているんだ。なんか本体に近づけば近いほどいっぱい集まるらしい。

 

 浮かぶケセドの真ん前まで近づいた。そのまま、その表面に手を触れてみる。冷んやりしてるかと思ったけど、俺を倒すためにいっぱい稼働しているからか思ったより熱かった。

 

「さて……俺が怖いか、ケセド? お前はこのまま存在ごと破壊されるかもしれないんだ」

 

 触れる前から分かってたけど、ケセドの中にも魂がある。ビナーも同じように魂を持ってたし、やはり機械にも魂がある……命があるんだ。

 

「感じるか? 俺がお前の魂に触れているのが」

 

 直接触れてしまえば、魂の形もはっきりと分かる。これをどうこうするのは無理だけど、破壊することなら容易い。今この手から「宵」を放てばいいだけだから。

 

「お前に感情はあるのか? 意識は? 思考は? 俺を排除しようとするのは本能か、それとも考えた上でのことか? お前は……生きているのか?」

 

 ケセドは何も答えない。ただ変わらず宙に浮いたまま、不動を保っている。その様子に少しの不満を覚えつつ、表面をゆっくりと撫でた。

 

「自分の意思で、デカグラマトンに味方するのか? それとも洗脳されてるのか……お前にスピーカーを付ければ答えられるのか」

 

 ……自分で言ったことだけど、俺は何を言ってるのやら。自嘲気味な笑いが込み上げる。

 

「まあ、いいや。十分なデータは集まっただろうし、俺は帰るよ。じゃあな」

 

 手を離し、振り向いて帰ることにした。静かなAIさんは残念ながら、結局最後まで反応を見せることは無く、どことなく寂しさを覚える。

 ただ、帰り際に兵士がいないのは……在庫が尽きただけだったんだろうか?

 

 


 

 

「ただいまー」

 

「お帰り。部長ー」

 

「分かっていますよ。データは取れましたか?」

 

「もちろん」

 

 データを渡す。受け取ったそれをヒマリは満足そうに見つめると、すぐにいつも通りモニターに向き合い始めた。

 

「これで二つ目ですね」

 

「十人いるんだっけ? 預言者っていうのは」

 

「そうだね。だからあと八つ」

 

「道は遠いなあ」

 

「しかし確実に進んでいます。このペースなら、すぐにでも……おや?」

 

 キーボードをカタカタ叩いていたヒマリの手が止まる。どうしたの、と聞いてみるが聞こえていない様子で、モニターに映されている数字とにらめっこしていた。

 

「これは……座標? 廃墟の何処かのようですが……」

 

「何か気になるの?」

 

「うーん……いえ、今はいいでしょう。いつも通りデータの分析に入るので、今日は解散していただいて構いませんよ」

 

「了解、頑張ってね」

 

 そういうわけで今日はお開きだ。

 さて、俺は最近お開きになった後日課にしていることがある。ミレニアムの校舎に入って行き、歩き慣れた道を歩いて行くと……

 

「こーんにーちはー」

 

「おっ、先生だ! 最近いっぱい来てくれるね!」

 

「ミレニアムによく用事があってね」

 

 ゲーム開発部の部室だ。

 

 もはや勝って知ったる他人の家……じゃなくて部室なので、上がり込んだ後はいつの間にか用意されてた俺用の座布団を引っ張り出す。そうして座り込んだらモモイからポテチの袋を渡されたので遠慮なくいただくことにした。

 

「ほかの三人は?」

 

「ミドリは好きなゲームのグッズを買いに行ってて、アリスは光の剣のメンテ中! ユズはロッカーの中で寝てるよ」

 

「ロッカーの中で寝てるって何?」

 

「言葉のまんまだよー。気づいたらユズ専用に魔改造されててびっくりしたんだよね」

 

 ちらっと視界の端に映るロッカーを見やるが、外見に変化はない。中がどうなってるのかめちゃ気になるけど、起こしたら悪いし今日は我慢することにした。

 

「で、今日は何やるの?」

 

「この前やってたやつの続きやろうかなって。テレビ借りていい?」

 

「もちろん! 私は今日ずっと周回してるから、ミドリたちが帰ってくるまでは使ってていいよー」

 

 許可も貰ったし、さっさとゲームを始める。テレビに映り始めたゲーム画面、それを手元のコントローラーで操作して、いろんなアクションを起こした。弓を撃ったり回避したり撃った矢を回収したり。

 

 時折こっちに目を向けてコメントをしてくるモモイと雑談しながら、平和な時間を過ごしていた。そんな事を続けてそろそろ一時間が経つ頃、部室の扉が開く。

 

「アリスの帰還です!」

 

「お、アリス。お邪魔してるよー」

 

「わあ、先生がいます! 最近いっぱい来てますね……イベント期間なのですか?」

 

「まあそんなとこ?」

 

 アリスは背負っていた光の剣:スーパーノヴァを丁寧に置くと、てててと走って俺の膝の上に座ろうとする。少しでも座りやすいよう足を開くと、遠慮なく体重を預けられた。

 

「なんのゲームをしているんですか?」

 

「タイタンなソウルをやってるよ」

 

「アリス知ってます! たくさんのボスと戦うゲームですよね!」

 

 膝の上ではしゃぐアリス。体が揺れてちょっとやりづらいけど、アリスが可愛いのでプラスだ。頭を撫でたいけど今はゲーム中……あっ死んだ。じゃあ撫でるか。

 

「よーしよしよし」

 

「? どうしてアリスを撫でるんですか? ……あっ分かりました! ストレス軽減効果ですね!」

 

「そうとも言うね」

 

 わしゃわしゃと頭を撫でると、アリスも気持ち良さそうに顔を緩める。それがまた可愛いのでさらに撫で、それでまたアリスが緩み……うーん、永久機関。

 

「アリスは可愛いねえ」

 

「それは……魅力のステータスが高いということですか?」

 

「魅力ってよりは……なんだろ。愛おしさ?」

 

「アリスはかわいさコンテストに出れるくらい可愛いもんねー」

 

「!? あ、アリスはポケモンだったんですか!?」

 

「えっいや、そういう意味じゃないから!?」

 

「よしアリス、モモイに向かってたいあたり」

 

「はい!」

 

「えっちょっ待っ」

 

 たいあたりってよりかはロケットずつきの勢いでモモイに突っ込み、そのままモモイに抱きつくアリス。二人は顔を見合わせると、同じタイミングで笑い始めた。仲のいい姉妹みたいだな。

 

「あはは! くすぐったいって……よーしアリス! 今度は先生に向かってたいあたりだ!」

 

「分かりました!」

 

 モモイの指示を受けたアリスがこちらに走って来たので、抱き止めようと思った……が、思ったより勢いが強くて後ろに軽く転がる形になっちゃった。そのままごろんと転がる俺の上にアリスが覆いかぶさっている。

 

 当然そうすると顔を見合わせるわけで。一瞬きょとん、という顔をしたアリスはすぐに無邪気な笑顔を見せ、連動して俺も思わず笑ってしまった。

 

「パンパカパーン! 先生を捕まえました!」

 

「はは、捕まっちゃったな」

 

「よしアリス! そのままこちょこちょ攻撃だ!」

 

「はい! 先生の脇をくすぐります!」

 

「えっ、ちょっ……んふ、ちょま、ふは、あはははは! やめっ、はは! し、死ぬ! 死ぬからマジで! ちょ本当に、はは、あははははは!!」

 

 アリスの指が俺の脇を的確にくすぐってきて、取り繕うこともできず大笑いする俺。息もまともにできず過呼吸になる中、面白がったモモイも参戦してくる。

 

「先生めっちゃこちょこちょに弱いじゃん! 私も参加しよーっと!」

 

「このまま気絶させます!」

 

「ま、ほ、ほんとにやば、ははは! あははは、ふはははは! げほっ、ごほっ、ちょ、やばい、マジでやばいから、やめ、っははははは!」

 

「こちょこちょこちょ〜」

 

 この後結局、俺の大声にユズが起きてくるまでくすぐられ続け、やめろと言ってもやめなかった二人には軽い説教をした。次やったらマジ説教だからな、と釘を刺すと二人とも涙目でぶんぶん首を上下させてたのでもう安心だな。

 

 


 

 

 翌日。いつも通りに特異現象捜査部の部室を訪れ、ヒマリから分析結果を聞く。

 

「端的に言えば、デカグラマトン本体がいるかもしれない場所を掴みました」

 

 少し重々しく放たれたその言葉は、でも思ったよりあっさりしてて、情報を理解するのに時間がかかった。

 

「……え、てことはいつでもデカグラマトン本体に会えるってこと?」

 

「あくまで『かもしれない』ではあります。場所の具体的な特定もできてないため、捜索に何日もかかるかもしれません。ですが、その可能性は十二分にあるかと」

 

「……どうする? って言っても、会いに行くしかないと思うけど」

 

 特異現象捜査部に課された使命は「デカグラマトンの正体を明かすこと」。この絶好の機会を逃す手はないと言っても過言じゃない。

 二人も意見は同じなようで、決意に満ち溢れた目をしている。

 

「場所は廃墟の水没地区。本当にデカグラマトンがいるにしろいないにしろ、大きな一歩になるのは間違いありません。二人で現地に赴き、そこに何があるかを調べて来てください」

 

 

 

 

 

 再び訪れた廃墟。だが前回来たときとはだいぶ様相が違う。それもそのはず、ここは昨日来たところとは全くの別エリアなのだ。

 地面は水没しているため、ビルの間にかけられた空中橋を渡って探索している。

 

 ここのビルも所々崩れてたり、苔むしてたりツタが生えまくってるのは変わらないが、前行ったところよりかは原型が残っている気がする。形容するなら、さしずめビルの樹海だろう。

 

 そしてここでも相変わらず襲いくるロボットたち。高性能なセンサーでもつけてるのか、接近する前に俺たちに気づいて銃を構える彼らは、それよりも早く俺の出す光に呑まれて消えて行く。

 

「先生って強いね」

 

「まあね。多分キヴォトスで一番強いんじゃないかな」

 

「おお〜……すごい自信。それじゃあ、敵を倒すのは任せていい?」

 

「もちろん。エイミには指一本触れさせないよ」

 

『二人ともいちゃつかないでください。私に対する当て付けですか?』

 

「いやそんなつもりじゃないんだけど……それにいちゃついてもないし」

 

 一人で来るとただ重苦しいだけだったこの場所も、誰かと来れば結構気が楽だ。ヒマリは遠隔で指示してるだけだけど、結構お喋りなので退屈しない。

 

「っていうか、なんで今回だけヒマリはサポートしてきてるの?」

 

『今回だけじゃないですよ。エイミが単独行動していたときもサポートしていました』

 

「……えっ? てことは俺だけサポートしてくれてなかったの?」

 

『だって先生は私がサポートしようとしまいと変わらないでしょう? むしろ雑音になってパフォーマンスを損なってしまうかと……私の声を雑音呼ばわりとは贅沢ですねえ』

 

「部長が勝手に言っただけだと思うけど」

 

『冗談ですよ、冗談。ですが、先生が一番力を発揮できるのは間違いなく一人の時だと思いますし、そう考えるとあながち間違いでも……あっ、そこは右です』

 

「……まあ、そうかもしれないけどさ」

 

 声に少し不満の色が漏れ出る。パフォーマンス的には損だとしても、気持ちが違うのよ気持ちが。一人で淡々と仕事をすることの虚しさといったら本当にもう……

 

 まあ要は寂しいってことなんだけど。生徒にそんな弱音を吐くのも違う気がして押し黙ってしまった。少し気まずい沈黙が流れる。

 

「……あれ、だとしたらもしかして私も足手纏い?」

 

「えっ」

 

「私も結構強い方だと思うけど、先生に比べたら見劣りしちゃうし」

 

「……あー、いやでも、俺はあんま機械の使い方とか分からないし……本当にデカグラマトン本体がいるとして、そいつは間違いなく何かしらの機械なわけじゃん? そういう時にエイミの力が必要になると思う」

 

「そっか」

 

 そして再びの沈黙。いや正確に言うならさっきからロボットを倒す爆発音がドッカンドッカン響いてるんだけど、それでもこの空間だけは静かすぎてしんどい。なんか話題無いかな……

 

 

『……? ……! 何か大きな物体が接近中です! 警戒を!』

 

 突然の警告に反射的に戦闘の構えを取り、エイミと背中合わせになって周りを見渡す……が、何もいない。だけど何かウィーンと駆動する機械音のようなものは聞こえてきてて……これは。

 

「上か!」

 

 見上げると同時に俺たちに大きな影が被った。上から俺たちに襲いくる巨大な白。重力に引かれて落ちてくるそれが俺たちを押し潰す前に、エイミの手を引き、飛んで離脱する。

 

 ドシン、と大きな音が響き同時に地面がひび割れた。その正体を見極めるため、体を半回転させて落ちてきたやつを見る。

 

 ぱっと見の印象は四脚の戦車、という感じ。下半身の中心から四本、装甲に守られた足が出ていて、上半身はガトリングっぽいのを二つ、ミサイル発射装置を一つ装備している。そして頭上にヘイロー……間違いない、未確認の預言者だ。

 

「エイミ、無事か?」

 

「うん、大丈夫。それよりもあれ……」

 

「分かってる。下がってて」

 

 端的に指示を伝えた後エイミを地面に下ろして、目の前のそいつに突っ込む。当然相手も反応して上半身に装備したガトリングを連射してくるが、俺に銃弾が意味ないというのはもはや誰でも知っている事実だ。

 

 ひとまずは足を破壊するのが先だな。案山子にしてやる……と考えながら足の一つに拳を入れようとした。だが相手は四脚を軽く縮めると一気に伸ばし、大ジャンプを見せてくる。相手は近くにあったビルの屋上に火花を散らしつつ着地するとガトリングのリロードを開始した。

 

 どうやらこいつは機動力が売りらしいな。面倒だ。

 

 この場所で出てきたってことはこの先にデカグラマトン本体、ないしは相当重要なものがあるのは確実だろう。そしてこいつはその番人で……考えなきゃいけないのは他に番人がいる可能性。その場合エイミと離れ離れになるのはリスクでしかない。

 

 となれば遠距離だな。エイミをカバーできる範囲で、あいつと撃ち合い合戦だ。

 

『先生、相手がまた撃ち込んできます!』

 

「分かってるよ」

 

 無数の銃弾が放たれるも、俺の前には無意味だ。輝綫で飛んでくる銃弾ごとあいつを攻撃する。ただ、向こうもジャンプしたり高速移動したりで俺の攻撃を躱してきた。

 

 数本程度だと躱されるな。ゴキブリみたいに速いし、輝綫を操作しても捉えづらい……なら量で潰すまでだ。さっき放った輝綫の操作をやめ、新しく手のひらに呪力を集中させる。今度はさっきみたいに加減はしねえぞ。

 

「輝綫」

 

 光の津波、とでも言うべきものが放たれた。数百の光を束ね合わせた波は途中途中で分裂し、相手を追い詰めていく。相手も壁を走ったり空中で回転したり色々大道芸を見せてくれるが……ついに光がやつを捉えた。

 

 とんでもない爆発音が響く。周囲の建物に一部残っていた窓ガラスが爆風によって原型がなくなるまで砕け散り、着弾地点の周囲は熱で赤くなってコンクリでさえ溶けている。そしてその中心にいたあいつは……

 

「上半身が溶けてる……」

 

「まあ、こんなもんだろ」

 

 目測でおよそ八割ほど上半身が吹っ飛んでいる。おまけに熱が波及して残った部分もどろっどろに溶けてるし、まず間違いなく再起不能だろう。

 撃退もしたし、さっさと前に進もう。そう思ってエイミの方に振り返った。

 

「エイミ行くよ。また預言者がこないとも限らない」

 

「でも先生、まだヘイローが……」

 

「……何?」

 

 再び振り返り、奴の方を見る。確かにその頭上にはまだヘイローがついていた。つまりこいつはまだ意識がある……だけど、まだできることがあるのか?

 

 そう思ったのも束の間、そいつの下半身が動き出した。大ジャンプを行ったかと思えば近くの建物の壁に張り付き、そして逃げ出す。

 

「! ちっ、」

 

 とっさに輝綫を撃ち出すも、下半身の動きは未だ健在だった。四脚を器用に使って崩れ落ちた橋や立ち並ぶビルの合間を縫うように逃げ続け、さらには脚からワイヤーのようなものを出して立体起動をしてくる。そしてついには姿が見えなくなってしまった。

 

「油断したな……」

 

『二人ともご無事ですか?』

 

「私は戦ってないから平気。先生は……」

 

「俺も大丈夫。だけど預言者を逃がした……ただ上半身は機能していないし、再起不能と考えてもらっていいはず」

 

『なるほど……一度退散していただいても構いませんが』

 

「俺はまだいけるよ。エイミは……」

 

「さっきも言ったよ、全然平気」

 

「……だ、そうだ。そういうわけだからまだ探索を──」

 

 再び機械音が響き渡った。さっきと同じような、ウィーンと何かが駆動する音。嘘だろ、さっき退散したばっかだよな?

 

『先ほどと同じ反応が近づいてきています……!』

 

「先生、また上!」

 

「マジか……!?」

 

 先ほどの焼き直しのように、エイミの手を取り飛んで逃げる。同時にまた奴が降ってきて破砕音を響かせ、地面を蜘蛛の巣状に割った。

 

 駆動する四脚。間違いなくさっきのあいつだ。下半身が完全に一致している……が、違う点がある。さっき溶けたはずの上半身が違ったものになっているのだ。

 さっきはガトリング二丁+ミサイルだったが、今回はでかい大砲のようなものが一つだけ。

 

「さしずめ換装ってとこか……? くそ、面倒くさいな」

 

 分かったことがいくつかある。一つはあいつの上半身は付け替え可能だということ。となるとあといくつストックがあるんだ? 数によってはかなり面倒くさい。

 もう一つは恐らく魂の座は下半身にあるということ。わざわざさっきと同じ下半身なあたり、そっちは付け替え不可能……つまり核となっているのはそっちのはずだ。

 

 あいつの対処法は二つ。一つは上半身のストックがなくなるまで消し炭にする。もう一つは下半身を消し炭にする。楽なのは後者だが、一応最終手段にはしておきたい。いくらAIとはいえ、命を奪うのは信念上避けたいんだ。

 

 となれば前者しかないな。

 

「エイミ」

 

「分かってるよ。下がっておく」

 

「悪いな」

 

 これまたさっきと同じようにエイミを優しく地面に下ろし、あいつと向き合う。

 そのでかい砲塔の内側が輝き、巨大な光る弾が発射された。手をかざし、輝綫で相殺する。

 

 同時にあいつが至近距離まで詰め寄ってきた。四脚を生かした高速移動に一瞬反応が遅れたが、またでかいのが出される前に回し蹴りを入れる。

 だが同時に向こうも下がるように跳んだ。俺の蹴りを軽減しつつ後退したな。さっきと動きが違いすぎないか?

 

 向こうは宙を舞いながら砲身を向けてくる。当然迎撃の構えを取るが、相手が撃ったのは俺じゃなくて地面だった。爆音とともに煙が広がり、視界が遮られる。

 

「一丁前に学習しやがって……」

 

 明星を一瞬だけ発動させ、周りに滞留する煙を吹き飛ばす。晴れた視界で捉えたのは壁に張り付き、再びでかいのを撃とうとチャージしているあいつ。だがその砲身の向きは俺ではなく……

 

『先生! 相手が狙っているのはエイミの──』

 

「分かってる!」

 

 放たれた光弾。エイミに向かって高速で直進するそれにギリギリ追いつき、手で払う。弾かれた光弾は大きくカーブし、後ろのビルにぶつかった。

 

「ごめん先生。私足手纏いだ」

 

「いいんだよ。この先進んだら俺の方が足手纏いになるんだから……多分」

 

 さて、どうしてくれようか。

 

 光弾を払った手はジーンと痺れている。流石に威力は低くないな。何発か受けたら手が動かしづらくなりそうだ。

 

 相手は照準を俺に合わせようと小刻みに砲身を動かしている。そしてそれが俺を捉えると、またチャージを始めた。

 それを見て俺も輝綫のチャージを始めるが……もしまた視界を遮られるとかなりしんどい。輝綫の追尾は手動操作だから視界依存なんだよ。

 

 「千日手」そんな言葉が脳裏に過ぎる。死にはしないが、完全な撃退も不可能。ここまで来たら殺るしかないか──

 

『……二人とも、一度退いてください。少し作戦を考え直しましょう』

 

「……いいのか? 今回の件があったら、この先にある何かの位置を移し替えるかもしれない」

 

『ですがあまりにも不毛です。位置の移し替えは常時監視していればどうにかなりますし、ここは一度退いて作戦を立て直しましょう』

 

「……分かった」

 

 ここはヒマリの言う通り一度退こう。後ろのエイミを抱きかかえ、橋から飛び降りて逃げ出した。後ろから光弾が迫る音が聞こえたが、追尾もできないあれが俺たちを攻撃できるわけもない。

 

 こうして、最初の廃墟水没地区探索は撤退という形で幕を下ろした。




なんか思ったより長くなってるな……? だけど次回でデカグラマトン編は一旦終了だ。
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