呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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整合性? うるせえ面白そうならそれでいいんだよ、なパヴァーヌ二章はーじまーるよー。


パヴァーヌ編 2章
51. 対談


 先日、ミレニアムの生徒会長である調月リオから受け取った手紙。その内容は俺と一対一で話がしたいという旨と、会談する場所と時間の指定。

 

 当然断るはずもなく、やってきたその日。俺は指定された場所に向かっていた。

 

 特異現象捜査部の部室への道……よりも、さらに複雑怪奇な道を辿っていく。ミレニアム内ですらなく、どこの学園の領地にも属していないような土地……そこが指定された場所だった。

 

 辺りは崩れた建物ばかりで、本当にここで話すのかと心配になるが……とキョロキョロ見回していたら、近づいてくる足音が聞こえた。

 

「はじめまして、シャーレの先生」

 

「……君が、調月リオかな?」

 

「ええ」

 

 どこからか現れたのは、およそ学生とは思えない大人びた風貌の生徒。

 長い黒髪、誰もが美しいというだろうキリッとした顔。とても生徒とは思えない雰囲気を醸し出す彼女こそ、俺を呼び出した張本人。

 

「それで、話っていうのは何かな?」

 

「ここだとまだ盗聴の危険がある。申し訳ないのだけれど、もう少し歩いてもらうわ」

 

「……分かった」

 

 リオに先導され、再び荒れた道を歩いていく。その間話をすることもなく、痛いほどの沈黙が続いた。

 しばらく歩いていくと、この荒れた場所にはふさわしくない綺麗な建物が見えてきた。中に入ると、いろんな電子機器がびっしり。見てるだけでくらくらしそうだ。

 

「それじゃあ、改めて挨拶を。はじめまして先生。私はミレニアムサイエンススクールの中枢『セミナー』を率いる者。ミレニアムにおける実質的な最高権力者、調月リオよ」

 

「ご丁寧にどうも……シャーレ所属の先生、本名九条カケルです。よろしくお願いするよ」

 

「まずはこの場に来てくれたこと、感謝するわ」

 

 俺の目をしっかりと見据えていた彼女は、深くお辞儀をする。まさか初手そんなことをされるとは思ってなくて一瞬唖然としたが、すぐに気を取り直して笑みを浮かべる。

 

「先生として、生徒の要望に応えるのは当然の義務だからね。そこまで気にしなくてもいいよ」

 

「あなたがそう言うのであれば、これ以上の感謝は不要ね」

 

「うん……それで、話というのは?」

 

「あなたとゲーム開発部がミレニアムに連れてきた、天童アリスと呼ばれているものについて」

 

 ピリッとした空気が流れた。いや、俺が流したのか。

 リオに敵対的な雰囲気はない。つまり俺を煽るためとかではなく、本当にアリスを人とは思っていないんだろうな……

 

「単刀直入に言えば、アレは普通の生徒ではない。アリスと名付けられたアレは、未知から侵略してくる『不可解な軍隊(Divi:Sion)』の指揮官であり、『名もなき神』を信仰する無名の司祭が崇拝した『オーパーツ』であり、古の民が残した遺産。その名も──」

 

 

 

「名もなき神々の王女 AL-1S」

 

 

 

「……ちょっ────と待ってくれ。いきなりそんな情報量を流し込まれても、理解が追いつかない」

 

 不可解な軍隊(Divi:Sion)? 名もなき神? 無名の司祭? オーパーツ?

 

 全くもって理解不能な単語の数々に、思わず手で頭を抑えてしまう。そんな俺の様子をみたリオは、「ごめんなさい、配慮が足りなかったわね」と言うと少し考え込み……

 

「ゲームに例えるならば、アリスは世界を滅ぼす魔王なのよ」

 

「………………魔王」

 

 そう言う彼女にふざけている様子など欠片もない。リオは真剣に話していて、アリスのことを恐れている。それにしたって現実味がなさすぎるが、リオは続け様に情報量の洪水を俺にぶつけてくる。

 

「放っておけば、アリスはミレニアムに──ひいては、キヴォトス全土に終焉をもたらす。事実、ここ最近『廃墟』から『不可解な軍隊(Divi:Sion)』が出てきている。これは彼女が呼び寄せたものである可能性が高いわ」

 

「……その不可解な軍隊(Divi:Sion)っていうのは何なんだ」

 

「これもゲームに例えるなら、魔王に付き従うモンスター。アリスの……AL-1Sの命に従い、キヴォトスを滅さんとする災禍。実態は高度な戦闘能力を持つ異形のロボット」

 

 そう言いながらリオが手に持ったリモコンを操作し、空中に映像を投影した。球体から足が伸び、背後から飛び出たピンクのワイヤーが腕のようになっている巨大なロボットが映されている。

 

「これはあくまで不可解な軍隊の一種にすぎない。実際はもっと多種多様な不可解な軍隊がいるはずよ」

 

「……なるほど、ね」

 

「話を戻すわね」

 

 ピッと音が鳴り、画面が切り替わる。映されたのはアリスの顔写真。

 

「今後起こり得るこの災厄を止める方法はただ一つ──アリスの排除」

 

 そこに大きなバツマークが付けられた。

 

「………………」

 

「だから私は数日後、アリスのヘイローを破壊するつもりでいる」

 

「………………」

 

「……どうやら、私の言動は不愉快だったようね。そのことについては謝罪するわ」

 

 いつの間にか、表情が鋭いものに変わっていたらしい。俺の顔を見たリオが軽く謝罪する。俺としてもそんな顔を見せるつもりはなかったのですぐに謝罪した。

 

「こっちこそ悪いな。気を使わせちゃって」

 

 ……謝罪はしたが、言葉にはできない、ぐつぐつとした感情が煮えたぎっているのが分かる。だけどここで感情任せにキレたってどうにもならない。

 一度息をふーっと深く吐き、冷静さを取り戻す。

 

「……アリスが、世界を滅ぼすと?」

 

「ええ、それは事実よ」

 

「仮にそれが本当だとして……今のあの子にそんな意志があるとは思えない。世界を滅ぼすリスクは限りなく低いはずだ」

 

「どうしてそう言い切れるの? アリスが擬態をしている可能性もある。彼女が存在している以上、いつキヴォトスが滅ぶか分からないのよ」

 

「それはっ──……そうかも、しれないけど」

 

 リオの言っていることは正しい。それは紛れもない事実だった。反論をしようにも、言葉がうまく思いつかない。

 

「……例えそうだったとして……他に、何かやり方があるんじゃないか。アリスを殺さなくても、例えば力だけを失わせるとか」

 

「時間があるなら、その道も探せたかもしれない。でもアリスは火のついた火薬庫と同じ、いつ爆発するか分からないのよ。そんな状態でわざわざ他の道を探すほど余裕はない」

 

「……じゃあ俺の管理下に置くのは。俺がキヴォトス全体でも最高級の力を持っているのは知っているだろ」

 

「AL-1Sの力はあなたのものを上回る可能性がある。そのリスクがある以上、その選択は不可能よ……それに何より」

 

 

 

「あなたにアリスが殺せるのかしら?」

 

 

 

 黙り込むしかなかった。

 答えは当然否だ、俺にアリスは殺せない。例え本当に魔王に成り果てたとしても……きっと俺は彼女を殺せない。殺さなければ、いつか戻ってくれるかもしれないから。

 

「先生、よく考えて。今ここでアリスを殺さなかったら、将来的に何万、何十万の命が奪われるかもしれない……それどころか、キヴォトスが滅亡する可能性だってあるわ。今やらないと、必ず大変なことになる」

 

「………………何でだ」

 

「えっ?」

 

「何で俺にこの話をしたんだ」

 

 自分でも驚くほど声が震えている。体も、もしかしたら震えているかもしれない。

 目の前にある命の天秤に、吐き気を覚えていた。

 

「言わずとも分からないかしら? あなたはこのキヴォトスにおいて大きな影響力を持つ人間よ……その人物が、アリスに入れ込んでいる。であるならば当然、私の行動に納得してもらえるよう説得するのが筋合いでしょう」

 

「…………納得、だと? 俺が……先生が、生徒を犠牲にするような方法を取ると、本気でそう思ってるのか」

 

「彼女は生徒ではない。アレは世界を滅ぼす兵器なのよ……その認識は違えないでちょうだい」

 

 ふざけんなよ、と口に出かけたのを抑える。アリスがそんなものであるはずがないだろう。あれほど純真無垢で、この世界を楽しんで、勇者に憧れるあの子が……そんなものであるわけがない。

 

「……先生、合理的に考えて。百歩譲って彼女があなたの生徒だったとしても、彼女を犠牲にして世界が救われると考えればいいの。逆に彼女を犠牲にしなければ、何万もの生徒が死ぬ。先生が生徒を犠牲にする方法を取らないというなら、これほど簡単な選択もないでしょう?」

 

 頭痛がする。めまいもする。プレッシャーと緊張感で胃がキリキリ痛んで、今すぐにでも吐いてしまうそう。くそ、くそ、くそっ!

 ふざけるなよ、本当に。こんなこと聞きたくなかった。

 

 だったらもう、選択は一つしかないだろ──

 

「……アリスは殺さない。殺させない」

 

「先生」

 

「だけどキヴォトスも滅ぼさせない。あの子には誰も殺させないし、そもそも魔王にだってならせるか。まだ時間があるなら、俺はその道を追う」

 

「非合理的よ。手段を考えている間にその時が来たら? そもそもそんな手段なんて無かったら? あなたの選択はリスクしかない」

 

「けどリターンも大きいだろ」

 

 リオの目を真っ直ぐに見つめる。折れる気はないと、感情を乗せて。

 

「理解不能よ。一つの命と複数の命、比べるまでもない選択肢でしょう」

 

「ふざけるなよ。命はどれほど数が少なくても、どんな色をしていようと、『命』なんだよ。他と比較するなら真っ先に優先されるし、命同士で比較するならどちらにも傾くことはない。数の多い少ないじゃねえ、そこに誰かの人生があるってのが大事なんだ」

 

「私が話しているのは理論的なことよ。1と2でどちらの数が大きいかを聞いているだけの話。それを複雑化させて、話の本筋を逸らさないで」

 

「現実は理論だけで生きていけるものじゃないだろ。現実には1は友人1人かもしれないし、2は赤の他人2人かもしれない。だけどどっちも大切な命だからどっちも取るってことだろうが」

 

「……話が噛み合わないわね」

 

 バチバチと火花を散らしていた俺たちだったが、リオが諦めたように目を伏せたことで火花も収まる。続く言葉の声色には、諦めが漂っていた。

 

「あなたも、私に敵対するのね」

 

「……悪いとは思ってるよ……でも、この一線だけは譲れないんだ」

 

 命に価値はない。それは無価値ということじゃなくて、価値がつけられないという話だ。

 何よりも真っ先に優先されて然るべきで、蔑ろにすることは許されない。救える可能性があるのなら、いつだってそこに賭けるべきだ。

 

 ……自分でも頭が熱くなりすぎてるのが分かる。今これ以上話したところで、多分俺はリオの言い分を頭ごなしに否定するだけだ。そう理解した俺は踵を返す。

 

「……帰るよ。今はこれ以上話すと、君に酷いことを言いそうだ」

 

「残念だけれど、この話を聞いた以上はあなたを帰すわけにはいかない」

 

 ピッと、再びリモコンを押す音が聞こえた。振り返ってみれば、空中に浮かぶ映像が再び変わっていく。

 

「本当はこの手は使いたく無かった……でも、私にだって譲れないものはある。だから先生」

 

 段々と映像が鮮明になり始める。どうやらどこか暗い部屋の映像を映し出しているらしい。中央に誰かいるが……まだノイズが荒くて分からない。

 

「これが私の覚悟……あなたが私の道を阻むというのなら」

 

 最後まで鮮明になったその映像に……目を見開くしか無かった。唾を飲み込むことすら忘れて、食い入るようにそれを見つめてしまう。

 

 

 

「この生徒を殺す」

 

 

 

 両手両足を縛られ、目も布で覆い隠され、必死にもがく金髪の生徒の姿がそこにあった。まるで映画としか思えない現実感のない映像。汗が頬をつたった。

 

「……冗談だろ」

 

「冗談じゃない。彼女が生きていて、必死にもがいているのが分かるはずよ。今私がやろうと思えば、この子の命を奪うことができる」

 

「っ、で、できるわけが──」

 

「キヴォトスのためならば、一人の命を犠牲にする覚悟はある……あなたが首を縦に振らないなら、それ以上も」

 

 誰かも分からない生徒だ。多分ミレニアムの子ではあるはずだが、記憶に残っていない。だけど確かに生徒であるのは、その頭上に浮かぶヘイローが物語っていた。

 

「さあ選んで先生。このまま去るか、私に従うと約束するか」

 

「っ──────!」

 

 再び目の前にかけられた命の天秤。

 

 ふざけんなよと、心の中で悪態をついても現実は変わらない。俺の手の中に命が委ねられ、片方が潰えようとしている。

 

「後5秒以内に答えて。5、4、3──」

 

 なら、もう。選ぶしか無かった。

 

「──……降参だ」

 

 両手をあげて、敵意がないことを示す。それを見たリオはカウントダウンをやめ、俺に近づいてきた。

 

「……罵るなら罵ってくれて構わない。私がしていることは、人道から外れたことだから。それでもやらなきゃいけないの」

 

「……そうかよ」

 

 項垂れたまま、リオに促されて彼女の後ろをついていく。奥の方に進んで行く彼女は、相変わらず毅然とした態度を持っているように見えた。

 その間に会話が交わされることはなく、重い空気が場を支配している。

 

 着いて行った先には車があった。どうやら自動運転で俺を遠くに連れていくらしい。ボディチェックを受けた後、リオが乗ってと俺に促してくる。だけど乗ってしまったらダメな気がして、二の足を踏んだ。

 

「……先生。従わないなら」

 

「分かってる……」

 

 渋々、車に乗り込む。バタンと扉が閉まってから少しして、車は俺だけを乗せて走り出した。

 

 走っている間、外の景色がどんどんと知らないものに変わっていく。倒壊した建物ばかりの土地から、広々とした草原、木がところどころ生えているサバンナ、何もない砂漠……

 砂漠ってことはアビドスの近くかなあなんてどうでもいいことを考えていると、どうやら目的地に着いたらしい。

 

 黒い直方体のような簡素な建物だった。ロボットに案内されるまま中に入っていくと、程々に快適そうな部屋に出る。てっきり牢屋みたいな場所に案内されるかと思ってたからちょっと驚きだが……と考えていると、部屋にあったスピーカーからリオの声が聞こえてくる。

 

『これから私がアリスを殺すまでそこにいてもらうわ』

 

「ずいぶん丁重な対応だな」

 

『別にあなたに不自由して欲しいわけじゃないの。そこにはゲームもあるし、食料だって高級なものを取り揃えてある。数週間暮らす分には不自由ないはずよ』

 

「そう」

 

『これが終わったら、改めて謝罪をする。許されるとは思っていないけれど……それでも、私が信念のもとに行ったことだと、理解して欲しい』

 

「そう…………悪い、今日はもう話したくない」

 

『……分かったわ。それじゃあ、また明日』

 

 リオの通信が切れたことを確認し、部屋に備え付けてあったベッドに身を投げた。かなりふかふかなベッドに、逆に腹が立つ。

 

「……はあ」

 

 大きなため息しか出ない。ごろごろごろごろベッドの上を転がる。こうなってはしばらくどうしようもない、誰かがあの人質を救助しない限り俺は動けない。

 動かなきゃいけないのに、動けないこの現実。俺にできるのは、物に八つ当たりしないよう怒りを抑え込むことだけだった。

 

 


 

 

「……どうか理解してちょうだい、先生」

 

 カケルを運送する車が発車したのを見送るリオ。ぽつりとそう呟くと、踵を返して中に戻っていく。

 

(次はボディチェックで剥がしたものを保管して……その次は未だ迫り来る不可解な軍隊への対応。本当は先生を使えたらよかったけれど……あの様子だと、無理に使えば将来的に私に大きな不利益が及ぶ)

 

「リオ様、どうかしましたか?」

 

「! トキ……」

 

 歩きながら考え込むリオに声をかけたのは、メイド姿の金髪の生徒。トキと呼ばれた彼女はリオの元に近づいていく。

 

「先生の方はどうなりましたか?」

 

「理解はしてもらえなかった……だから仕方なく、人質映像を使って脅迫、隔離したわ」

 

「なるほど……役に立てたようで光栄です」

 

「ええ……流石に私も本当に生徒を人質にするわけにはいかなかったし、()()()()()()()()。ありがとう」

 

 カケルが見せられたあの映像は本物……だが一つだけ、大きな嘘があった。

 それは人質などいないということ。人質役を担当したのはトキであり、実際に人質にされている生徒は存在していない。

 

「とはいえ間違いなく先生から反感は買うでしょうね……だから本当は、使いたくなかったのだけれど」

 

「お言葉ですが、今は感傷に浸るより行動をした方がいいかと」

 

「……そうね。トキ、先生から没収した持ち物を持ってきて」

 

「それならすでにここに。これをどこに持っていけばいいですか?」

 

「ここを進んだ先にある倉庫までお願い」

 

 命令を受けたトキは「イエス、マム」と返事をして歩き始める。そして用意されていたロッカーの中に、先生から奪ったタブレット含む諸々を入れた。

 全てを入れ終えると、彼女は次の命令のために倉庫を出る。

 

 

 ロッカーの中で、タブレットが淡く光った。

 

『あわわ……ど、どうしましょう!? せ、先生から離されちゃいました!』

 

 端末の中で慌てた様子を見せるこの少女は、アロナ。シッテムの箱を管理するスーパーAIだ。

 基本的に先生がシッテムの箱を置いていくことはない。シッテムの箱自体便利だし、耐久性も高いからだ。今回の対話においても当然持ってきていた。

 

 だがリオの策に屈してしまい、彼は今初めてシッテムの箱と離れ離れになってしまった。この状況は当然アロナにとっても予想外、どうしようどうしようと慌てている。

 

『わ、私はどうしたら……いや、アロナちゃんはこんなことでへこたれません! 先生の秘書(自称)として、先生を救ってみせます!』

 

 そのためにするべき事を、彼女は考える。

 

 さっき聞いた情報によれば、実は人質はいなかったらしい。この情報を先生に伝えることさえできれば、状況は一変する。

 

 ただ問題は先生がどこに隔離されたのかが全く分からないということ。例え物理的にネットに繋がっていない場所でも存在していればアクセスできるアロナだが、場所が分からなければ流石にどうしようもない。

 

 こんなことなら先生にGPSでも取り付けておくべきだった……と後悔した様子を見せるアロナ。

 

『うぅー、私も実際に動けたら……!』

 

 アロナだけではどう考えても限界がある。ありとあらゆる場所にアクセスするにしたって時間はかかるし、そもカメラなどが設置されてない可能性だってある。必要なのは、実際に探せる誰かの力……それもかなりの数が必要だ。

 

 先生救出に協力してくれる人、というと真っ先に思い浮かぶのは小鳥遊ホシノだが……彼女はダメだ。事情を聞いた暁には間違いなくリオを半殺しにするだろう。どう考えても問題しかない。

 

 それに単独ではダメだ。先生を探すためにはそれなりの人数がいるだろう。それだけの人数を動員できて、先生に協力してくれて、それでいて理知的で冷静な、そんな人物は……

 

『……はっ! ひ、一人だけ……一人だけいます!』

 

 その人物を思いついたアロナは、すぐさまその人に連絡を送る──

 

 

 

 

 

「ん……? メッセージ?」

 

 その机の上には数多の書類が重ねられていた。誰がどう見ても過剰な仕事の量を、この少女は一人でやっている。そのペンを一度止め、机の上に置いた。

 

 携帯に入っていたのは、差し出し人不明のメッセージ。その内容は端的かつ、彼女の意識を引くには十分なものだった。

 

『助けてください! 先生がピンチなんです!』

 

「……先生が」

 

 ぽつりと呟くやいなや、返事の内容をすぐに考えて送り出す。

 

『あなたは誰? 先生がピンチとはどういう意味?』

 

『私は先生の相棒AI、アロナです! 諸事情あって先生が自由に動けない状態で……しかもこのままだと、ある生徒さんも死んじゃいそうなんです!』

 

『その諸事情について詳しく』

 

 送ってから数秒の後、今回の件全てを記した膨大な文章量のメッセージが送られてきた。一瞬でこの量の文字を打ったことに正体がAIだということの信憑性を感じつつ、高速で画面をスライドして事情を把握する。

 

『分かった。でも今一つ信憑性が足りない』

 

『うっ! そ、そこを何とか……!』

 

『でも先生のピンチと聞いて、動かないわけにもいかない』

 

 

 

『だから一度私自身がミレニアムに赴く』

 

 椅子から立ち上がり、そばに立てかけてある愛銃を手に取る。そしてこの部屋から出ようと歩き出したのを、そばにいたもう一人の少女が止めた。

 

「どこに行かれるのですか?」

 

「新しく出張の予定が入った。その間よろしくね」

 

「了解しました……では頑張ってきてください、ヒナ委員長」

 

 “ゲヘナ最強” 空崎ヒナ

 

 風紀委員会を束ねる長であり、常に冷静な視点を持ち合わせるキヴォトス最強の一角。

 アロナが見出した先生救出への、希望。




没ネタ:それをどこから持ってきた

リオ「獄門疆、開門」

カケル「ちょ」
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