「私の負けよ、先生」
そう言ってリオが諦めたような顔を見せる。
「あなた達の力は、私の予想を大きく上回った。それだけじゃない、ゲヘナの風紀委員長があなた達に味方したことやあなたが自由になることも、予想できていなかった……紛れもなく、私の負けだわ」
「リオ……」
「……本当に、ここまで来てしまったのね。いつか必ずキヴォトスに災禍をもたらすあの子を、救い出すために……」
「当たり前だよ! 最初からそう決めてたからね!」
そう言ってリオに厳しい目を向けるモモイ。ミドリやユズも同じ目でリオを見ており、それに怯んだ彼女が目を逸らす。
「……三人とも、アリスを探してきてくれない?」
「もちろん! ……あれ、先生は?」
「俺はちょっとリオとお話がしたい」
少し疑問の表情を浮かべながらも、信頼してくれてるからか分かったと返事した三人は、すぐさまどこかに駆け出して行った。
それを見送った後、リオをしっかり見据えるカケル。
「……さて、と。全部終わったら話し合うって約束だったね」
「……まだ全ては……いえ、終わったも同然ね」
「リオは、キヴォトスを守りたかったんだよな?」
「ええ……私は、ただ守りたかっただけなの。このままではみんなが危険に晒されてしまうと、そう思って……」
言いながらも、リオの顔が俯いていく。目がゆっくりと揺らぎ、声にも震えが乗り始めた。
「でも……私は、正しくなかった。彼女達を助けにきたあなた達に負けて……キヴォトスを救うと言いながら、あなた達を殺そうとして……」
「……リオがしたことは、俺たちには受け入れられなかった。だから俺たちは君と戦ったわけだけどさ……その思いは、間違ってないはずだよ」
「……」
「誰かのことを守ろうとする思いが、間違いであるはずはない。でも同じ思いでも、行動が噛み合わないことはある」
「そうね……全ての人から理解は得られない。だから私は今回のことを強行した……」
「そこ。そこが、多分今回リオが間違えちゃったところだと思う」
ピシッと、リオに指を突きつけるカケル。突然指を突きつけられて困惑するリオだが、すぐに気を取り直して聞き返した。
「そこ、というのは……」
「全ての人から理解は得られない、それはそうだよ。でもだからこそ、俺たちはもっと話し合うべきで、リオもまたみんなに話すべきだったんだよ」
「私は、ちゃんと話した」
「人に自分の意見を押し付けることは話し合いじゃないよ。リオが言っていたのは『世界が滅びそうだからアリスを殺します』だけ。それを頑なにして、他の意見を跳ね除けた」
「それは…………そう、ね。でも、他にどうすればよかったの? あの子を放っておけばいずれ世界は滅びる……それを防ぐには、彼女を殺すしかなかった」
「いや他に方法もあったと思うよ。前俺が言った『力だけ消す』とか」
「できもしない方法というのは、空想と呼ぶの。理想論だけを語っても現実は変えられない」
「できないなんて決めつけないでほしいな。今ここにある電気や機械、これらは一昔前では実現できなかったもの……それが現実になってるのは、できたからでしょ?」
「……」
「もっとみんなで話し合って、もっとみんなで誰もが幸せに思えるように頑張るべきだったんだと思う……まあこの言い分は当然俺たちにも適用されるけど。意地張って君と話し合えなかった俺がいうセリフじゃないか」
そう自嘲気味に笑ったカケルは、リオのそばに寄って行き……頭にポン、と手を乗せる。突然の出来事にフリーズするリオだが、彼は気にした様子もなく撫で続けた。
「俺も君も、次はこんなことにならないよう頑張ろうな」
「……次?」
「ん? うん。え、何か変だった?」
「私に次が……私のことを、許すというの? あなたの事を騙して、幽閉して……あなたに敵対し続けた、私を?」
「別にもう気にしてないよ。幽閉されてても結構快適だったし。それに騙したとは言うけど、人質の件は騙してない方がヤバいしな」
くっくっ、と笑う彼にリオは呆然としてしまう。そんな折に、モモイから「先生、アリス見つけたよー!」と声をかけられたカケルは今行くと返事して、「また後でね」と走り去って行く。
そこに残ったのは、思わずさっき撫でられていた頭に手を当ててしまうリオだけだった。
「三人とも、アリスは……ってそこか」
ちょっと勢い良すぎて躓きかけたカケルだったが、なんとか持ち直して三人の方を見やる。そこにいたのは、なんだかメカメカしてる椅子……ベッド? に寝かされ、たくさんのケーブルが繋がれているアリス。
当の本人はその椅子のようなベッドのようなものの上で横たわり、眠っているかのように目を閉じている。
「アリス!」「アリスちゃん!」「アリスちゃん……」
三人がアリスを呼びかけ続ける中、最初に異変に気がついたのはカケルだった。
(……なんだ? 魂が……アリスのものじゃ……)
そして次に起きたのは、部屋全体の停電。突然のブラックアウトに、なんだなんだとざわめき始め……突如巨大なモニターに映された文字が、そのざわめきを止めた。
「先生!」
「! リオ!?」
「エリドゥのシステム全体がハッキング……いえ、ハッキングのような何かをされたの。一体何が……」
「こんな事してる場合じゃない! 早くケーブルを外してアリスを……!」
「その行為は推奨しません」
その声は、アリスのものであるにも関わらずひどく冷たいものだった。
「現在『王女』の表層人格は内部データベースの深層部に隔離されています。強制的に接続を解除すると、取り返しのつかない損傷が起こるでしょう」
ゆっくりと体を起き上がらせる彼女の瞳は、アリスの青い瞳とは対をなす赤色。その表情はアリスと同じパーツであるとは思えないほど険しく、冷たい。
「お前……お前は、誰だ。アリスをどうした?」
「アリス……? それは、あなた達が私たちの『王女』を呼ぶ際の名称……『王女』に名前は不要です。名前は存在の目的と本質を乱します」
「俺はお前が誰だって聞いたんだよ。ちゃんと会話しろ」
「……私の個体名は〈Key〉。王女を助ける無名の司祭たちが残した修行者であり、彼女が戴冠する玉座を継ぐ『鍵』〈Key〉です。彼女は『王女』であり、私は『鍵』。それが私たちの存在であり目的」
「……お前はアリスの体を使って、何をしようとしてるんだ」
「『王女』をあるべき玉座に導かせていただくのみです。先述したように、私はただの『鍵』。私の目的と存在意義は、全て『王女』のために」
突然、地響きが起こった。リオがモニターに駆け出し、何が起きているのかを把握しようとする。そんな彼女の表情は、一瞬にして絶望の色を纏った。
「そんな……エリドゥ全域が、別の何かに変化を遂げようと……!?」
「現時点をもって、プロトコルATRAHASIS稼働。コード名『アトラ・ハシースの箱舟』起動プロセスを開始します。またプロセスサポートのため
「……エリドゥ各地で、追従者の出現……?」
「リオ、何が起きてるんだ」
「いえ、そんなはずが……私の計算は……」
「リオ!」
彼の大きな声が、リオを正気に戻す。はっとしたようにカケルの方を向いた彼女は、震える声で現状を簡潔に説明した。
「……エリドゥ全域が、掌握された……このままだと、エリドゥが作り替えられて、世界を滅ぼす兵器となってしまう……!」
「箱舟制作に必要なリソース確保23%……46%……」
「先生! もう止めるには、アリスを殺すしかない!」
「なっ……」
「このままでは、世界が滅びる……!!」
再び目の前に迫る、命の天秤。アリスを殺して世界を救うか、世界を諦めアリスを救うか。
「もう理想論を言える時間すらない……先生がやらないのなら、私が──!」
「……!」
その言葉を聞いた瞬間、目の前すら満足に見えていなかったカケルが正気を取り戻す。そのまま手をアリスにかざし、その先に青い光を集中させ始めた。はっきりとアリス……否〈Key〉の額に汗が浮き、カケルはそれ以上の汗を流している。
「……っ、極の番──」
「待って、先生!」
モモイの声を聞きながらも、覚悟を決めたようにその光の勢いがどんどんと増して行き……!
「…………ごめん……俺には、無理だ……」
その光が、霧散した。膝から崩れ落ち、静かに項垂れる。
「……俺は……誰にも、死んでほしくない……」
なら、どうするのか。
理想論を語るなら、それに見合うことをしなければいけない。それを知っている彼はすぐさま立ち上がり、真っ直ぐに〈Key〉を見据えた。
「……みんな逃げて。ここは俺が残るよ」
「!? 先生、何を言って……!? あなたが死ぬかもしれないのよ!?」
「大丈夫。俺の命にかえても必ず世界は救うし、アリスだって助けてみせる」
「何も大丈夫じゃない! あなたは今のキヴォトスに間違いなく必要な人材よ! あなたが死ぬくらいなら、私が──」
「誰かを守って死ぬなら本望だ。それに俺の我がまま貫くなら、これくらいしないとな」
「……73%……」
後ろを見やることはなく、淡々と語る。その場の誰もが彼を見つめても、その心配は彼には届かなかった。
「ほら早く逃げて。背中は俺が必ず守るから」
「先生!」
「……99%」
生徒の声を聞き入れず、すでに戦闘体制に入ろうとしているカケル。まだ逃げることのない生徒たちに痺れを切らし、床を輝綫で切り落として無理やり脱出させようとしたその時。
大きな爆発音と共に、部屋が完全な暗闇に閉ざされた。ついていたモニターも完全に消え、今度こそエリドゥごと停電している。
「!? 何が……!?」
「……リソース確保失敗。システムシャットダウン」
『みんな、大丈夫!?』
「ユウカ!?」
通信を入れてきたのは、ミレニアムの生徒会「セミナー」の会計係。エリドゥの位置を調べ出した、モモイたちの頼れる先輩。早瀬ユウカ。
『えっ、先生!? 連絡がつかなかったはずじゃ……』
「その話は後でするよ……で、何したの?」
『エリドゥのブレーカーを壊しました! これでそっちに電力は送られないはずです!』
「いつの間にエリドゥに……」
『あ、会長!! ……色々言いたいことはありますけど、というかありまくりなので! 後で説教ですからね!』
「……ユウカ」
電力供給が無くなったことで、Keyとエリドゥを繋げていた装置もダウン。プロトコルATRAHASISは実行されることなく終了されることになる。
緊急事態を前に、Keyは次の一手を即座に打つ。現在戦闘能力を持たない自分を保護するため、追従者にエリドゥ中央タワーに集まるよう遠隔で命令を出した。
だが、その行動は意図しない邪魔者によって阻害される。
アバンギャルド君との戦いでリタイアしたエンジニア部。だが密かに復帰を遂げていた彼女たちは、持ってきていたあれそれやそこら辺に落ちていた部品でアバンギャルド君に改造を施し……アバンギャルド君Mk.2を作り出していたのだ!
何故かはわからないが宇宙戦艦級の武装を身につけることになったアバンギャルド君にとって、追従者は敵ではなく、次々と中央タワーに迫る彼らを撃破して行く。
であるならば、そいつらを避ければいいと至極真っ当な思考をしたKeyは、アバンギャルド君を避けて集まるよう新たに命令を出すも……
「申し訳ありませんが、その子たちはここまで来られませんよ。タワーの入り口でしたら、エイミとC&Cのメンバーが塞いでおりますので」
そう言いながら現れたのは、車椅子に乗っている絶世の美少女……と自称する、ミレニアム最強のハッカーにして「全知」。
「ヒマリ!? 何でここに!?」
「うふふっ。なんだかんだありまして〜とでも言いましょうか?」
リオは数週間前、先生と同じようにヒマリのことも呼び出していた。そこでアリスについて話し合いを行なったものの、ヒマリは先生と同じように受け入れず、最終的にこれまた先生と同じように隔離されていたのだ。
そこをつい数時間前、エイミによって助けられ、そこからここに直接向かって来て、今に至る。
「ヒマリ……あなた、逃げたはずじゃ」
「リオのことですし、きっとまた事件を引き起こすと予測したんですよ。ふふっ、大当たりですね?」
「……」
ヒマリの言うことが完全に当たっており、口篭ってしまうリオ。そんな彼女を楽しそうに眺めた後、ヒマリはKeyに近づいて行く。
「さて、これが〈Key〉……無名の司祭の『オーパーツ』を稼働させるためのトリガーAIですね」
「もう正直何言ってるのか分かんないんだけど……ヒマリは、アリスを助ける方法とか分かる?」
「もちろんです。率直に言えば、今から先生方にはアリスの精神世界に行っていただき、〈Key〉の起動で深部に隔離されてしまったアリスを起こしてもらいます」
「精神世界って……他人のやつなんて、どうやって入り込めばいいんだ?」
「リオ、ダイブ設備くらいありますよね?」
「確かにあるけれど……一歩間違えれば二度と戻って来れなくなる危険な手段よ。やるべきじゃない……」
「それを決めるのは私たちではありません」
ヒマリがカケルたちの方を向く。それから笑顔で、やりますか? と聞いてきた。
それに対するみんなの答えは、とうの昔に決まっている。
「……やります。アリスちゃんを……連れ戻せるのなら」
代表してユズが答えたのに、他の三人も頷く。その様子を見てヒマリは満足そうに頷くとほらね、と勝ち誇ったような表情でリオを見た。
「それではみなさん、お願いしますね」
そしていろいろな機器につなぎ合わされた後、四人はアリスの精神世界へと飛び込んでいく。
「ここがアリスの心の中……」
精神世界……もしくは生得領域と呼ばれるもの。彼女のそこは、アリスと最初に出会った場所のようだった。
息を呑むほど綺麗な青空の下。古びた廃墟の奥深くに、静かに彼女は鎮座する。祝福を浴びるかのように、日の光をその身に受けて。
「アリス!」
最初と同じように、椅子に座って眠っているアリス。彼女の元に一斉に近づいて呼びかけると、ゆっくりとその目を開いた。
「モモイにミドリ……ユズ……? 先生まで……? どうして、ここに……?」
「そりゃ、家出したアリスを迎えに来たんだよ!」
「アリスちゃん、早くここから出よう!」
「帰ろう、アリスちゃん」
三人の説得を聞いても、アリスは暗い顔をしている。何かを恐れて動かない彼女……そこに、彼女は現れた。
「王女よ、あなたが見てきた光景を忘れましたか?」
アリスと同じ顔、同じ体、同じ声……しかし纏う雰囲気は全く違い、唯一違う赤い瞳が冷たくこちらを見据えてくる。
「Key……か。見てきた光景っていうのは何のことだ」
「文字通りの意味です。『王女が』この空間で見聞きした光景の数々」
そう言って彼女が空中に投影したのは、エリドゥ攻略中のみんなの姿。
アバンギャルド君との戦いでリタイアしたエンジニア部。海孵との戦いで酷い傷を負ったネルやヒナ、体全体に刻まれた切り傷。
そしてトキとの戦いで黒く炭化した、カケルの腕。
今でこそ反転術式で全て治っているが、傷は消えても痛みは消えない。アリスはそう理解していた。
「あなた達がこれまで負ってきた痛み……何故このようなことが起きるのか、『王女』はその答えを既にご存知のはずです」
「………………アリスは……アリスは、帰れません」
「……自分のせいで、みんなが傷ついちゃうから?」
「はい……ミドリも、ユズも、モモイも、先生も……それ以外にもたくさんの人が、アリスのせいで傷つきました。アリスは……勇者ではなく、魔王ですから。キヴォトスに終焉をもたらす、魔王ですから……」
俯いて、何かに耐えるようぎゅっと服の裾を掴んで、必死に言葉を絞り出すアリス。だけれど我慢しきれずに、その瞳から大粒の涙がこぼれた。
「みんなが、傷ついてしまうなら……アリスは、このまま消えるのが正しいのです」
自分のせいで、人が傷つく。自分のせいで、人が不幸になる。ならもしかしたら……いつか、自分のせいで人が死ぬかもしれない。
自分がそばにいることで、そんなことが起きてしまうなら……消える方が──
「私たちが、一緒に作ったゲームは!! 特別賞をもらったよ!!!」
モモイが、叫んだ。突然のことに誰もが呆然と彼女を見るが、彼女は止まらない。
「キヴォトスの終焉? なに言ってるの? アリスがいるだけでみんなが傷つく? 誰がそんなバカなことを言ってるの!?」
「……モモイ」
「アリスに会って……アリスが居たから……! 私たちはゲームが作れて! ミレニアムプライスで賞をもらって、部活を守ることができたんだよ!」
「うん、そうだよ」
「……うん!」
モモイの言葉に、涙ぐみながらも頷くミドリとユズ。
「部活を守れたことも……ゲームを作って、一緒に遊んだことも! ただ怖いだけだったネル先輩と、一緒にゲームするような仲になれたのも! 全部! ぜーんぶ! アリスがいてくれたからだよ!」
アリスの目から、ぽろぽろ涙がこぼれる。今度は俯かないで、モモイのことを真っ直ぐに見つめて。
「それなのに、アリスが魔王だとか、そう生まれついただとか……だから消えなきゃいけないとか! そんなの、全ッ然意味分かんない! そんなの絶対納得するもんか!」
「うん、絶対に」
「消えるのを……放ってなんか……おけないよ……」
「……な、なぜですか? みんな……どうして……アリスは、魔王なのに……アリスのせいで、みんな怪我したのに……なんで、みんな……アリスを怖がったり、憎んだりしないで……そうやって……」
「だって! アリスちゃんは……私たちの
「……!」
どんなゲームでも……主人公たちは、決して仲間を諦めない。
「たとえアリスが魔王だったとしても、そんなの関係ないよ……! そんなの、ただのジョブにすぎない! 自分が誰なのか、それは自分自身で決めるものだよ! アリスは、ただ自分がなりたいジョブを選んで転職すればいいんだよ!」
魔王が勇者になっちゃいけない、なんてルールはない。もちろん勇者以外にも、魔法使い、戦士、僧侶……どんな人も、どんな職業になれる。
「なあ、アリス」
「先生……」
「アリスは、本当は何になりたい?」
魔王だから仕方ないと、諦めた。自分に勇者になる資格はないと、そう思った。でも目の前の仲間たちは、魔王でも良いと言ってくれて……
「……アリスは……魔王なのに……世界を滅ぼしてしまうのに…………それでも、いいんですか? 冒険を、みんなと一緒に……クエストを、続けてもいいんですか?」
「それがアリスの願いなら」
また涙があふれてくる中で、言葉に詰まりながらも、彼女は思いを口にした。
「それなら……アリスも、勇者に……勇者になって! みんなと……モモイ、ミドリ、ユズ。そして先生と……冒険を続けたいです……! 魔王であるアリスが、そうしても、許されるなら……!」
「うん! アリスがしたいならそれで十分!」
「魔王だって、勇者になれるよ。むしろ最近だとそういうお話の方がヒットしてるし……」
「もし……そういうブームがなかったとしても……私たちが、次回作として作ればいい……」
アリスの言葉を、さも当然のように受け入れる三人。アリスがそう言ってくれたことに嬉しさを隠せないみんなは、笑みを浮かべている。
「だって、私たち4人は、いろいろな想像を形にすることができる……!」
「何でも作ることができる……!」
「「「ゲーム開発部だから!」」」
そう言ってくれる最高の仲間たちに、奥底に封じた願いを再び想う。
「──では、アリスは勇者になりたいです」
「うん。なれるよ」
「アリスは……アリスになりたいです……!」
「もちろん。何でもなって良いんだよ、アリス」
魔王でも、勇者になって良い。そう思えたのが影響したのか、アリスが座っていた椅子が変化していき……それは光の剣に……勇者の剣へと変化した。
「これは……!」
「勇者の剣……アリス! これ!」
「勇者の剣を……!」
「抜くんだよ、アリスちゃん!」
「……はい!」
両手で掴んで、引き抜く。勇者の剣はとても簡単に抜けアリスの手元に、まるで最初からそうだったように綺麗に収まった。
「それは……! 『王女』よ……あなたのその能力は……! あなたのその力は、世界を滅ぼすために存在するというのに……!」
「違います! アリスのこれは勇者の武器です! なぜなら! アリスがそう決めたからです! 今のアリスは光属性の勇者……!」
光の剣をKeyに向かって構えたアリスは、チャージを始め……そして青い光が、Keyを飲み込む……!
「光よ──────!!!!」
大きな爆発が起こり、光で何も見えなくなった。その中で、アリスとKeyは言葉を交わす。
「王女よ……あなた、は」
「アリスのクラスは『王女』ではありません! アリスは……『勇者』です!!」
「理解……不能……」
そして──
……あれからの話をしよう。
見事アリスを取り戻すことに成功した俺たちは現実に戻り、そのままエリドゥを後にした。
戻ってきたアリスはいっぱい笑ってて、いろんな人から心配の言葉を投げかけられて、すごく嬉しそうだった。
こうしてゲーム開発部は囚われの勇者を救い出し、ついでにキヴォトスの危機も止め、最高の勇者になったのでした。めでたしめでたし……
「で、終われば良かったんだけどね」
別に全てが完璧に終わったわけじゃない……特にリオ。あの後も俺は話したかったんだけど……自分のしたことに責任を感じてしまったのか、まさかの失踪を遂げてしまった。
残ってたのは手紙一つ、「ごめんなさい」という一文だけ……
一応捜索もしてるんだけど、未だ見つからず……リオとの話し合いは完璧じゃなかったから、もっと話し合って分かりあいたかったんだけど……こればっかりは仕方ない。
あとはまだ色々と残ってるエリドゥはヒマリに管理してもらったり、トキの所在に関してもちょっと揉めたり……まあ色々とあった。
ただそれらを重要じゃない、と言うわけじゃないんだけど……俺としては、それよりもしたいことがあった。
ミレニアムの廊下を歩いていき、その先にある部室の扉を叩いた。中からはいはーい! と元気な声がして、扉が開く。
「あれ、先生じゃん!」
「やほ、モモイ。アリスはいる?」
「アリス? もちろんいるけど……」
「よかった。ちょっと来てほしくてさ」
「ふーん……? アリスー! 先生が呼んでるよー!」
呼ばれたアリスが、小走りで出てきた。どうしましたか? という彼女はいつも通りの天真爛漫な雰囲気で、あの一連の出来事がなかったんじゃないかと錯覚するくらい明るい。
「えーっと……君の中にいるKeyのことなんだけどさ」
「ケイのことですか?」
「ケイ?」
「モモイがそう呼んでいたので、ケイです!」
何でケイ? とも思ったけど、読み間違えか……英語力が足りないな? とモモイを見れば知らんぷりをしている。
「そう、そのケイのことなんだけど……あれから何かない?」
「それなら平気です! 今日もヴェリタスやエンジニア部のみんなに検査してもらいましたが、異常はありませんでした! まあ、今のエンジニア部の技術では確認しきれていないとのことでしたが……」
「……なるほど、ね……じゃあアリス、悪いんだけどちょっと来てもらえるかな?」
「もちろんです、新しいクエストですね! ……でも、何をするんですか?」
「ケイと話そうと思ってさ」
「……え?」
「俺がもう一度アリスの精神世界にダイブして、ケイと話しに行く」
今後のことを考えると、ケイをアリスの中に置いておくのはリスクが高すぎる。だから話し合って、どうするべきかを見極めに行く。
俺はゆっくりと目を細め、アリスの体の中にあるもう一つの魂を見つめた。
もうちょっと(五話)だけ続くんじゃ……ん? なんか多いな?
ちょっと補足。中盤でカケルくんがやろうとしたことについて。
リオからアリスを殺さないと世界が滅びると言われ、「宵」でケイを攻撃しようとしたカケル。ここでわざわざ「宵」を使ったのはワンチャンに賭けてケイの魂だけを破壊しようとしていました。
が、まあご存知の通りカケルくんは殺すことに抵抗しかない男。ケイを殺したくないことに加え、アリスにも被害がいく可能性を考え、実行を断念しました。