呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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7. みんなの考え

ブラックマーケットの諸々から翌日。

 

いつも通りに学校にやってきて、いつもの教室に入る。何だか学生に戻ったような感覚だ。

まあ、まだ俺は十七だし学生といえば学生だが……それでも、今の俺は先生なのだ。

 

扉を開けると、ホシノがノノミの膝枕で横になっていた。

……未だ、ホシノのこの変化には慣れない。

 

「おはよー、先生」

 

「先生、おはようございます。今日は早いですね?」

 

「ああ、おはよ。ちょっと考え事でもと思ってな」

 

「でしたら、私の膝枕はいかがですか?」

 

そう言ってノノミがポンポンと自身の膝を叩くが、ホシノが「ダメだよー。ここは私の場所なんだから」と言ってノノミに抱きつく。

 

「俺としても、さすがに生徒に膝枕されるのはちょっと……」

 

「でも、先生って十七なんですよね?」

 

「まあね」

 

適当な椅子に座る。ギシッと軋む音がした。

 

「何で先生になろうと思ったんですか?」

 

「……あー、どうしようかな」

 

「話したくないのであれば、結構ですが……」

 

「……いや、別にいいかな。そう長い話でもないし」

 

二人の方を向く。

 

「昔、困ってる先生がいてさ。あの人は頑張り屋さんだったんだけど、辛いことがあって心が折れちゃったんだ。で、そのせいであの人は自分の生きてきた意味を感じなくなってた」

 

今でも、鮮明に思い出せる。あの、光のない絶望した目をした先生を。

まあ、あの時は俺もそう変わらない目をしていただろうが。

 

「だから、せめてあの人が自分を肯定できるように、あの人の代わりに先生をやることにしたんだ。俺がちゃんとした先生になって、使命を果たせたなら、あの人の人生にも意味があったって、きっとそう言えるから……」

 

「……そうだったんですね。何だか、辛いお話をさせてしまってごめんなさい」

 

「別にいいんだよ。俺は全然辛くないし」

 

そう話を締めくくると、ホシノがふあぁーとあくびをしながら起き上がった。

 

「先生も大変なんだねー」

 

「そうかな?俺としては特にそう感じないけど」

 

それからは、特に他愛のない話をして過ごした。

しばらくすると、ホシノがどこかに行ってしまった。本人はサボると言っていたし、ノノミもお昼寝だろうと言っていたが……

 

……まあ、最悪の時は俺が直々に干渉するだけだ。

 

「……それにしてもホシノ先輩も、以前に比べてだいぶ変わりました」

 

去っていくホシノの背中を見つめていると、ノノミが興味深いことを言い出した。

 

「以前?」

 

「はい。今はいつも寝ぼけているような感じですが……初めて出会った頃のホシノ先輩は、常に何かに追われているようでした」

 

「何か?」

 

「はい。何と言いますか……何か、強いものに縛られているような……そんな感じを受けました」

「聞いた話ですが、以前は仲のいい先輩と同級生がいたそうで……」

「先輩はアビドス最後の生徒会長で、同級生の人と共に三人で生徒会をやっていたらしいのですが、二人はある時去ってしまって、それからはすべてをホシノ先輩が引き受けることになった、と……」

「ホシノ先輩は当時一年生だったとか……詳しくは、私も知らないのですが」

 

「……そうか」

 

……先輩と、同級生ね。

まだ、あいつは俺のことを覚えているのか。

 

「でも、今は先生もいますし、他の学園の生徒たちとも交流できますし……」

「以前だったら、他の学園と関わること自体嫌がっていたはずが……かなり丸くなりましたね」

「うん、きっと先生のおかげですね⭐︎」

 

「……ああ、そうであることを願うよ」

 

ホシノがいい方向に進めるのは俺の……九条カケルの影響でなくて、先生の影響じゃないといけない。

そうだ、それを忘れちゃいけないんだよ。アビドスに来て、色々と感情を刺激されて九条カケルが出てきていたが、それじゃあダメだ。

 

俺のことは、忘れて欲しいんだ。

俺なんかに縛られないで、幸せに生きて欲しい。

 

ただそれだけなんだ。

本当に?

 

 


 

 

そんな会話を先生とノノミが交わす一方、ホシノはどこかのビルの中に入って行った。

そしてエレベーターで階を上がっていき……一つの部屋の中に入る。

 

「これはこれは」

 

そこに、黒い服を着た存在がいた。

 

「お待ちしておりましたよ、暁のホル……いや、ホシノさんでしたね。これは失礼」

 

「……黒服の人、今度は何の用なのさ?」

 

「……ふふ、状況が変わりましてね。今回は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして」

 

黒服が怪しく微笑む。

それを聞いたホシノは、特に感情を出すこともなく、落ち着き払った様子で対応した。

 

「提案……アレのことか」

 

「おや、落ち着いているのですね。激昂するかと予想していましたが」

 

「……色々と、思うところがあってさ」

 

そう静かに言う彼女の目は、どこか濁っているように見える。

 

「ふむ。であれば、私の提案に乗っていただけるでしょうか?」

 

「……それとこれとは話が別だよ。乗って欲しいなら詳しく話せ」

 

「クックック、了解いたしました」

 

黒服はカウンター越しに、ホシノと相対するように座る。

 

「では私の提案を、どうかご清聴ください」

 

そして黒服は話し始めるのだった。

 

 


 

 

アビドス、柴関ラーメンにて。

 

お腹が減ったらしい便利屋は、このお店にお昼ご飯を食べにきていた。

柴大将のご厚意で、美味しいラーメンを頂こうとする四人。

 

「アビドスさんとこのお友達だろう。替え玉が欲しけりゃいいな」

 

そう言う大将はまるで慈悲の女神である。心なしか後光が差しているようにも見える。

そんな素晴らしい大将のご厚意に甘え、ラーメンを頂こうとする彼女たちだったが……

 

「……じゃない」

 

「ん?」

 

「友達なんかじゃないわよぉーーーー!!」

 

ダンッ!という机を叩く音と共に立ち上がるは、陸八魔アル。

どうやら何かお気に召さないことがあったらしい。

 

彼女曰く、自分たちはハードボイルドに、アウトローっぽく、仕事をしにきているらしい。

だというのにこのお店は何だ。お腹いっぱい食べられて、あったかくて親切で、和気あいあいでほんわかしてて。これじゃあみんな仲良しになっちゃうよ!

 

「それに何か問題ある?」

 

ムツキからの質問。それに対するアルの返事はダメに決まってるでしょ、であった。

 

私はアウトローになろうとしているんだ、こんな温かさなど要らぬぅ!

人の心を捨てた化け物になろうとしているアルに、さすがのムツキも苦笑いである。

 

それで終わっていれば、まだ笑い話で済んだのだ。

 

便利屋68にはムツキ以上のアル全肯定botがいる。それは、紫の髪をしたオドオドした雰囲気の少女、伊草ハルカだ。

彼女は、アルの言葉をそのまま受け取ってしまった。それにより彼女が導き出した結論は……こんなお店、消えちゃえ!であった。

 

起爆装置を握り込み、点火!

 

一瞬の間の後、柴関ラーメンは光に包まれ……轟音と共に、跡形もなく消し飛んだ。

 

 


 

 

あの後、ホシノを除いた全員が学校に集まり、会議をして、それからゆっくりとしていた。

そしたら、何やら柴関ラーメンのあたりで爆発が起こったらしいとの報告がアヤネより入った。

 

跡形もなく消えてしまったらしい柴関ラーメン。その主犯格は誰だ、そしてその目的は何だということでいつもはアヤネと共にサポートしてる俺もみんなについて行ったのだが……

 

「……あ、あはははは!とっ、当然でしょう!冷酷無比!情け無用!金さえもらえればなんでもオッケー!それがうちのモットーよ!!」

 

現場に着くと、聞き覚えのある声がとんでもないことを喋っていた。

爆煙で見えづらいが、恐らく……というか間違いなく便利屋の陸八魔アルだ。

 

何してんだあいつ。ちょっとお灸を据える必要があるか……?

そう考えながら煙を突っ切ると、予想通りアルと、他の便利屋メンバーもそこにいた。

 

「そういうことだったのね!!あんたたち……!!よくもこんなひどいことを!!」

 

開口一番怒りをぶつけるセリカ。当然ノノミやシロコも怒りの目で彼女たちを見つめている。

 

アヤネからの報告では、大将も生存確認できて、軽傷だったし、既に避難誘導もしているとのこと。それはよかった。

が、それはそれとしてだ。普段から懇意にしている場所を壊されたのだ。許すわけにはいかないな。

 

「あんたたち、許さない。ぜーったいに許さないから……!!」

 

全員がやる気を漲らせながら、銃を構えた。

それを見た便利屋……というかアルは、多少動揺したものの、すぐに気を取り直し

 

「……そっ、そうよ!!これでわかったでしょう、アビドス!私がどんなに悪党かを!さあ、いざ勝負!!かかってきなさいよ!」

 

と言ってきた。

 

……多分これ、お店ぶっ壊したの本意ではなかったな?

とはいえ、お店をぶっ壊したのは事実なのでやっぱ説教コースだな。

 

「覚悟はいい!?」

 

「お仕置きですよー!」

 

セリカとノノミがそれぞれ怒りの言葉を発する。

そして、売り言葉に買い言葉といった感じでアルも言葉を返した。

 

「それはこっちのセリフよ!!真のアウトローがどういぅ……!?」

 

だからその隙をついた。

基本的に生徒の争いは生徒間で解決、をモットーとしている俺だが、俺に被害が及ぶならその限りではない。柴関ラーメンを破壊した罪はちゃんと償ってもらおう。

 

まず、アルに近づきその腕を掴んだ。

誰もが理解できないものを見る目で俺を見てくるが、それは悪手だ。みんなが硬直してる時間で、アルのエネルギーを吸収し終わった。

脱力したように崩れ落ちる彼女を見て、便利屋たちが驚いた声を上げるがそれも大きな隙である。

 

次いでムツキ、カヨコ、ハルカとそれぞれ手のひらで触れ、術式を発動させる。

一般生徒よりかは神秘が多く、多少奪うのに手間取りはしたが、アルを除けば誤差の範疇だ。そしてその肝心のアルは最初の隙で戦闘不能にしてある。

 

時間にして恐らく二十秒ほど、便利屋全員を鎮圧した。

 

アビドスのみんなを含め、全員がポカンとした表情でこちらを見つめている。

 

「……さて、弁解を聞こうか。便利屋68の皆さん?」

 

「なっ……はっ、えっ??」

 

「た、立てない……!?」

 

アルが呆然とした声を出し、カヨコが現状を理解した。

このままお説教を……と考えていると、アヤネから通信が入った。

 

『先生!そこに向かって傭兵と思わしき武力集団が向かっています!』

 

「ふーん?なるほどね、また雇っていたとは……みんな、悪いんだけどあっちを対処できるか?サポートはする」

 

「えっ、いや……え?」

 

「便利屋に対する怒りもあるだろうが、一旦向こうにぶつけてくれ」

 

「……???」

 

目の前で起きたことが信じられないのか、いまだに目を白黒させている三人。

だが、段々落ち着いてきたらしい。その目が非難のものに変わっていく。

 

「……いや、先生がやりなさいよ!?そんなに強いなら一瞬で終わるでしょ!?」

 

「いや、それは俺のモットーに反するというか……さっきのは俺もついやっちゃったってだけで、基本的に生徒の争いは生徒間で解決して欲しいんだよね」

 

「何っそれ!?意味わかんない!?」

 

「ちょ、蹴らないで!ごめんて!許して!」

 

「はあーーー!?」

 

怒りの矛先が俺に変わったセリカに散々非難されたが、一応言うことは聞いてくれるらしく、「後で絶対しばく……」とか物騒なことを吐きながら傭兵たちと戦ってくれた。ちなみにしばく対象って俺ですかね?

 

まあそんなこともあったが、何とか無事に傭兵たちとの戦闘を終えた。アビドスはそれぞれが普通に強いのに、そこにアロナサポートが加われば基本的に敵なしなのである。

改めて、今なお地面に転がっておる便利屋に顔を向ける。

 

「……さて、改めまして弁解を聞こうか?」

 

「私としては先生の弁解を聞きたいんだけど?」

 

「弁解がないなら普通に説教コースだけど」

 

「おい」

 

なんかセリカさんが後ろでゴゴゴゴゴ……と怒りのオーラを出している気がするがが見なかったことにする。

便利屋のみんなも、説教は嫌なのか何か喋ろうと口を開けて……

 

ドゴゴゴゴゴーーーン!!

ズガガガガガーーーーーン!!

ドッカーーーーーーーン!!

 

擬音にするとこんな感じの、凄まじい轟音が響いた。

アヤネによれば、これは50mm迫撃砲の音らしい。おまけに狙いは俺たちではなく便利屋の方ときた。

 

現在地より約三km。その位置にいるらしい兵力の正体とは

 

『兵力の所属、確認できました!!ゲヘナの風紀委員会!一個中隊の規模です!』

 

ゲヘナの風紀委員会。キヴォトス最高の兵力を持つ組織の一つ。

とはいってもその実態は委員長である空崎ヒナのワンマンであるという噂だが……いや、それは今関係ないか。

 

何故、ゲヘナの風紀委員会が今ここに……?

 

心当たりなど……と思いながら思い返してみれば、そういえば便利屋はゲヘナ所属の生徒であったことを思い出した。しかも確か問題児だとか言われていたような……

何となく原因を察した。なんで厄介ごとばっかり持ってきちゃうのかねこの子達は……

 

いや、仮に便利屋の確保が目的だったとしても、勝手にアビドス領に入ってくるのはアウトだろ。どうなってんだ風紀委員会。

 

心の中で毒を吐いていると、件の迫撃砲の砲弾が飛んできた。

直撃すれば俺はまだしも、今の便利屋だと危ないので跳んで蹴り返す。まるでサッカーボールのように蹴っ飛ばされた砲弾は、少し経ってから俺に蹴られたのを自覚して爆発した。

 

「っと、俺たちがいるのもお構いなしってか……」

 

「……先生」

 

「ん?ノノミか。どうした?」

 

「今……その、砲弾……」

 

「………………先生だからね」

 

「無理があると思う」

 

シロコからの痛烈なツッコミ。お静かにお願いします。シャラップ!

 

「……まあ、何だ……俺はそういうものなんだ。で納得してくれると……」

 

「そ、そうなんですか……ちなみに、便利屋のみなさんを一瞬で倒したのは……?」

 

「……それも、そういうものなんだなあ。ってことで……」

 

「いや、さすがに気になるわよ……」

 

セリカからの辛辣なコメント。いや、しょうがないじゃん。俺だって全部理解してるわけじゃ無いし、理解してる部分だけでも結構複雑なんだよ。だからそういうものだと受け入れてくれ……

 

「……ゴホン。それはそれとして、だ。風紀委員会のことどうする?」

 

「どうするって……」

 

「多分あいつらの目的はそこに転がってる便利屋だろう。となると、このままいけば引き渡すことになるけど……」

 

俺の言葉に、アヤネ含めた四人が険しい顔をする。まあ、まだ柴関ラーメンを壊された怒りもぶつけられてないのに、それを横から取られるのは腹立たしいよな。

ちなみに便利屋はまだ転がったままである。ワカモの時は異常な速度で復帰されたが、今回は特にそういうのも無さそう。地面に寝っ転がったまま二つの勢力に狙われる様子を見ると、何だか可哀想に思えてきたが柴関ラーメンを壊してるのでプラマイマイナス寄りだ。

 

「……でもゲヘナの風紀委員会は、他校の公認武力集団や、便利屋のような部活とは性質が異なります!一歩間違えれば、政治的な紛争の火種になるかもしれません……アヤネちゃん、ホシノ先輩との連絡は……」

 

『もうしているのですが……まだ返事はありません。普段ならもう連絡がついてるはずなのですが……』

 

「……この状況……私たちはどうすればいいのでしょうか?」

 

ノノミの言葉に、先ほどとは違った面持ちで黙り込んでしまう四人。

……ここは、俺の出番かな?

 

「確かに、この状況で下手に手を出すわけにはいかない。最悪の場合、アビドスが危機に陥ることも考えられるしな」

 

俺の言葉に、どんどん表情を暗くしていくみんな。

 

「だけど、このまま黙って見てるだけでいいのか?」

 

「……え……?」

 

「このままあいつらが便利屋を持っていったとして、それで納得できるかどうかっていうのを聞いているんだよ。論理的に考えれば、ゲヘナの風紀委員会に手を出すわけにはいかないのは事実だ」

「だけど、俺たちは人間だろう?」

 

表情が、少し明るくなった。だがまだ迷っているな。

なら、もう少しだけ背中を押そう。

 

「お前らは、本当はどうしたい?」

 

「……風紀委員会を、阻止する」

 

「シロコちゃん……?!」「シロコ先輩……」「……」

 

「だから」

 

シロコの瞳が、俺を貫いた。

……よく見れば、こいつもオッドアイなんだな。

 

「だから、私たちに力を貸して。先生」

 

「もちろんだ」

 

シロコがフッと笑う。それを見て、覚悟を決めた表情を他の三人もした。

 

「まあ、それにあいつらうちの領地を侵してるから、正当防衛だよ」

 

『……あっ、確かに……』

 

「じゃあ何も問題ないじゃない!何で黙ってたのよ!?」

 

「俺に言われるんじゃなくて、自分たちの意思で行動を決めて欲しかったからね……」

 

言いながら、サポートの準備をする。

 

「さて、みんな。準備はいいか?」

 

「ん、問題ない」「……大丈夫です」「もちろんよ」『こちらも、準備万端です』

 

「よし。それじゃあ、いくか」

 

 

 

 

 

「ちょっと!?私たちを置いていかないでよ!?」

 

「あ、やべ」

 

便利屋のこと完全に忘れてた。

とりあえず、四人まとめて俺が持っておくか。

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