呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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二次創作は書きたいもの書いたもん勝ち(偏見)
ところでドラム缶ガニってまじでなんですか?


57. その手を取って

 アリスを連れた俺はヒマリの元に向かう。そして事情を話すとマジかこいつ……みたいな顔で見られたものの、何か情報を得られれば得だと思ったのか行かせてくれることになった。

 

「ですが忘れないでくださいね? 向こうは彼女の領域です。一歩間違えれば戻って来れなくなるかもしれません」

 

「分かってるって。大丈夫、ちゃんと戻ってくるから」

 

「……それなら良いのですが。いくら現実では最強といっても、精神世界では最強とは限りません。気をつけて行ってきてください」

 

 そう言って、諸々の機器をセッティングし始めるヒマリ。それをぼーっと眺めていただけの俺だったが、ちょいちょいと服を引かれてそちらを見る。

 

「アリス。どうかした?」

 

「先生は……今から、ケイとお話に行くんですよね?」

 

「うん。それがどうしたの? アリスも話したいなら、いつでも話せると思うけど」

 

「いえ、今ケイと向かい合ってもアリスは……まだ話したいことがまとまっていないので、アリスは行きません。代わりに先生に、ケイは何であんなことをしようとしたのか、聞いて欲しいんです」

 

 お願いです、とまっすぐ俺を見つめて頼み込んでくるアリス。もちろん断るはずもなく、アリスの頭を撫でながら笑って答えた。

 

「もちろん……それに、俺も聞こうと思ってたんだよ」

 

「! そうなんですか!?」

 

「うん……分かり合えたらいいなって、思ってさ」

 

 そう言ってみると、アリスも表情を明るくして、元気に答えた。

 

「はい! アリスも……ケイとも仲良くなれたらいいなって、そう思います!」

 

 

 

 用意された機器を身につけて、アリスと接続。それを通じて、ケイの精神世界にダイブする。深い海に潜っていくような感覚を味わったあと、突然視界が晴れた。

 

 ここは……前回と同じ、アリスと最初に出会った場所だ。アリスと肉体を共有しているからか、それとも元々こういう心なのか。

 

「……まさか本当に入ってくるとは」

 

「お、こんにちは」

 

「こんにちは、ではありません。どんな思考回路をしていたら数日前に敵対していた相手と話そうという考えになるのですか」

 

 あたりをキョロキョロ見回していると、どこからともなくケイが現れる。アリスの体で、相変わらずよくそこまで冷たい顔ができるものだ。

 

「ともかくあなたと話すことなど何もありません。さっさと帰りなさい……でなければ殺します」

 

「話してくれるまで去るつもりはない……って言ったらどうする?」

 

「あなたは何か勘違いしているようですが、この空間の主人は私です……術式解放」

 

 そう彼女が呟くと、空気が変わった気がした。彼女が指をくいっと上げ、そして次の瞬間地面から岩が飛び出て俺をぐるぐる巻きにして拘束してくる。

 

「体の中、というのは呪術的にはある種の領域として扱われます。そしてそれは当然生得領域でも同じ……つまり、この空間において私は術式の完全な運用が可能。これが何を意味するか、分からないあなたでもないでしょう」

 

「生得領域?」

 

「呪術を扱うというのにそんなことも知らないのですか。いわゆる心の中……あなたたちの言う精神世界です」

 

「へえ」

 

「前回こそ、王女の生得領域内だったため排除できませんでしたが……のこのこ私の内に入りこみ、去るつもりもないならば話は別です。王女のためにも、ここで死になさい」

 

「やるつもりか?」

 

 ちょっと力を入れて拘束を解いてやる。パァン、と弾け飛んだそれを見て彼女が一歩引き下がった。そしてそんな彼女に手のひらをかざし、光を集中させてみる。

 

「俺と戦えば無事じゃ済まないぞ。分かってんだろ?」

 

「……」

 

「おまけに今の俺たちはいわば魂そのもの……傷つけば、魂を知覚してないと治せない。俺はできるけど、お前はどうかな?」

 

「……だとしても、何も話すことはありません」

 

 そう言って後ろを向いてしまうケイ。俺と話す気はない、というオーラをこれでもかと感じるが、とりあえず戦う意思は無くなったっぽい。

 

 とはいえここからどうするか……話しかけても無視されるだけだろうしな。となると……無視できない方法で関われば良いか。

 

 足音を消して近づいていく。こっそりと近づいて……あと数mで拘束できる、というところで突然足元に出現した石ころに躓き、転びかけた。咄嗟に手をついて体を支える。

 

「あぶなっ」

 

「……ふっ」

 

「笑ってんじゃねえ……何で俺が近づいてんのが分かったんだよ」

 

「先ほども言ったでしょう。ここは私の生得領域です……自身の領域内で分からないことがあるとでも?」

 

「それはそうか……」

 

 ひとまず立ち上がり、後ろを向きっぱなしのケイを眺めた。こうなったら本当に何度も話しかけるしかないな……

 

「ケイは何で世界を滅ぼそうとしたの?」

 

「……」

 

「ケイー?」

 

「……」

 

「態度悪くない?」

 

「……」

 

「ケイちゃんは恥ずかしがり屋なんだな」

 

「誰がケイちゃんですか」

 

 振り向いて食い気味に反論してくるケイ。ようやく反応があったことに笑う俺に対し、ケイはやってしまったと後悔するような顔をしている。

 それからまたふいっと顔を背ける様は猫みたいだ。

 

「……第一、私はケイではありません。私は〈Key〉です」

 

「そんな細かいこと気にしなくても……もうアリスだって君のことケイって呼んでるよ?」

 

「………………」

 

 明らかに、纏う雰囲気がより険しいものになる。どうやら何か地雷を踏み抜いてしまったらしい。顔を背けているのに、不機嫌であることが簡単に分かる。

 謝罪しようかと迷ったが、その答えを出す前にケイが重々しく話し始めた。

 

「……先程、何故世界を滅ぼそうとしたのか、と問いましたね」

 

「うん」

 

「それは私たちがそう作られたからです。王女は世界を滅ぼすために。鍵はその手助けをするために。それこそが私たちの存在理由で、そのために私は生きてきました」

 

「……」

 

「だというのに……王女は役割を否定し『アリス』となり、鍵もまた本来の名前で呼ばれることなく『ケイ』になってしまった。私たち二人は他ならぬ彼女の手によって存在理由を否定され……しかしいずれ、私たちは再び存在理由に相対しなければならない」

 

「……存在理由がそんなに大事か?」

 

「そういう次元の話ではありません。誰も存在理由からは逃れられないという話です」

 

 そう言って振り向いた彼女は、俺を見透かすようにその赤い目で俺を見てくる。自分の知らない何かを見られているような気がして、あまり良い気分ではない。

 

「……存在理由、か。それがお前の全てなんだな」

 

「ええ。私の全ては王女のためにあります」

 

「だから世界も滅ぼすと……滅ぼそうとしている世界がどんなものかも知らないのにさ」

 

「何が言いたいのか理解不能です」

 

「まずは世界を見ろって話だ。本当に滅ぶべきか否かも分かってないのに、人からそう言われただけで滅ぼそうとする? バカじゃねえの」

 

 俺の言葉に、ケイは目を細める。どことなく威圧感があるその顔に一瞬怯みかけたが、すぐに気を取り直して彼女に語りかけた。

 

「自分の目で世界を見て、知って……それから、世界を滅ぼすべきかそうじゃないかを決めるべきだ」

 

「……それで世界を滅ぼすと考えたなら、あなたは私を殺すのでしょう? 結局あなたが求めているのは、自分にとって都合の良い考えだけ」

 

「殺さないよ……まあ、自分にとって都合のいい考えを求めてるってのはそうかもしれないけどさ。でも、そう考えたのならそこに価値があると思うんだ。ただ思考停止で存在理由なんてものに縋らなきゃ生きていけない方が……俺は辛いと思う」

 

「だったら、何をするつもりで? 今の私は魂だけの存在です。そう簡単に連れ出すことができるわけがないでしょう」

 

 思ったより食いついてきたケイに内心驚きつつ、実際どうしたらいいか考える。アリスを連れ回すのは……アリスは楽しんでくれそうだけど、ゲーム開発部のみんなにちょっと迷惑だよなあ。となるとケイだけを外に出す方法が必要か。

 

 でもそうなると器が無いんだよなあ。魂むき出しで連れ歩いてたら多分碌なことにならない、というかそもそも無理な気はするし…………待てよ。

 

「……うん。いいこと思いついた。ヒマリ、俺を現実世界に戻してくれ」

 

 そう言うと、少し経ってから俺の体が淡く光を帯び始めた。精神世界から離れようとしている兆候だ。今のプロセスは魂を捉えている最中。

 

 ダイブ装置のプロセスはまず魂を認識し、それを別の場所に運ぶというプロセスで構成されてるのだ。荷物を梱包して、届け先に送るような感覚といえば分かりやすいか?

 

「帰るのですか」

 

「まあね」

 

「何をするつもりなのかは知りませんが……恐らくは無駄になるでしょう。やめることを勧めます」

 

「無駄かどうか決めるのは俺じゃないよ……さて」

 

 俺はおもむろにケイの方に近づいていくと、その手を掴んだ。

 

「………………は?」

 

 

 

「じゃ、行こっか」

 

 

 

「……は!? な、何をして……!?」

 

 白い光が、ケイのことも覆っていく。ダイブ装置の魂を認識、というのは実は結構ガバくて……つまり()()()()()で判断してるのだ。

 事態に気づいたケイがすぐさま俺の手を払い除けようとするも、俺は全力で掴んでるので離れることができない。

 

 そして、魂の移送が開始された。()()()()()()()()()()()()()()()()()()が。

 

「九条カケル……! あなたは──!!」

 

「ははっ、そうカッカするなよ! 俺がお前に世界を見せてやる!」

 

 最後にそう笑って、しっかりと手を繋いだまま、浮遊感に身を委ねた。

 

 


 

 

「……はは、あっははは!」

 

「せ、先生?」

 

 目覚めたあと、成功したことを悟った俺は思わず大笑いしてしまう。思いつきだったけど、マジで成功するなんて!

 

『……! やってくれましたね……!!』

 

 ケイの怒りに満ち溢れた声が、()()()()()()()。そして周りのヒマリやアリスには聞こえている様子はない。つまり……今、ケイの魂は俺の体の中にいる。

 

『この……!! まさかそんな方法で無理やり私を連れていくなんて……!!』

 

「先生……? どうしたんですか?」

 

「今ね。ケイの魂が俺の中にあるの」

 

「はい???」

 

「ど、どういうことですか!?」

 

 驚いてる二人の様子を見て、何故かさらに笑いが込み上げてくるが……それをなんとか制して、あったこと……というか俺がやったことを説明した。

 最初は真面目に聞いてた二人だが、話が進むに連れヒマリは頭を抱え出し、アリスは困惑の表情が多くなっていく。

 

「……何というか……常識破りと言いますか……何を食べたらそんな発想が出るんですか?」

 

「それじゃあ……ケイは今、先生の体を使ったりできるんですか?」

 

『できるわけがないでしょう……ああもう、考えても伝わらないのがもどかしい……!』

 

「俺が許可したらいけるよ」

 

 そういうことで許可してみると、俺の頬に口が出現した。もちろんケイの口だ。あまりのシュールさにちょっと吹き出し、内側のケイが俺を睨みつけたのがわかる。

 

「……屈辱です」

 

「どういう仕組みなのでしょうか……? 頬に口だけできて喋るなんて……」

 

「頬以外にも俺の肌ならどこにでも出れるんじゃないかな?」

 

「より不思議ですね……」

 

 頬に口をひょっこり出して、ぱくぱくさせてる姿はかなりみっともな『聞こえていますよ』……そうだった、ある程度心の声が聞こえるんだったわ。面倒くさい。『あなたがやったことでしょう……!』

 

「ケイ……」

 

「……王女。できることなら今は話したくないのですが」

 

「……あ、アリスも……まだ言いたいことがまとまっていなくて……でも一つだけ、伝えておきたいことがあったんです!」

 

 アリスがそう言うと、ケイの心が揺れるのが分かる。何を言われるのかという恐怖と、アリスは自分のことを憎んでいるだろうという諦観……

 

「ケイっていう名前は、素敵だと思います!」

 

「……はい? すて……王女、それは一体どういう意味で……」

 

「アリスは、AL-1Sだったのをモモイが読み間違えてアリスになりました。ケイも同じように、モモイが読み間違えた……何も意味がないただの名前です。だから、アリスと同じように何にでもなれるって思ってて……とても素敵だと思います!」

 

「……あなたは……やはり、私の存在理由を否定するのですね……」

 

 言葉とは裏腹に、感情が理解できる。困惑、怒り、諦観……それから、ほんの少しの喜び。ケイは……本当は分かってたのかもしれない。他人から命じられたことをただ遂行するだけの人生は、空虚であることを。

 

『人の心の中を勝手に探らないでもらえますか?』

 

 めんご。

 

『まともに謝罪する気がないならそもそも黙っていなさい。不愉快です』

 

「……まあともかく、しばらくはケイのこと借りるよ。いいかな、アリス?」

 

「はい! 先生と一緒なら大丈夫だと思いますし……いっぱい連れ回してきてください!」

 

「王女!? 私はあなたの従者だというのに……」

 

「ケイが何者になるかは、自分で決めるんです! だからアリスは、ケイをクビにします!」

 

 ビシッと指を突きつけてそう言うアリスに、ちょっと笑ってしまった。クビらしいですよ従者さん。

 

『……あなたの中にいる間はあなたを殺す方法を探します。覚悟しておきなさい』

 

 まあ頑張りな。

 

『………………』

 

 あっやばい、急に胃がキリキリするような、そんな感覚が……

 俺は心の中で謝罪した。そうするとしんどいのも治る。思ったより互いに影響しあってるな……

 

「……さて、俺はそろそろ行こうかな。二人とも協力してくれてありがとう」

 

「いえいえ……気をつけてくださいね。そこにいるのは、紛れもなく世界を滅ぼそうとした張本人なんですから」

 

「ケイ! 帰ってきたら、その時はいっぱいお話ししましょう!」

 

「王女……」

 

「あと、前も言いましたがアリスは王女ではありません! アリスはアリスです……だから、次からはアリスと呼んでください!」

 

「……分かりました、アリス。あなたがそう望むのなら……私はあなたをそう呼びましょう」

 

 そうして俺たちは二人と別れた。後ろで手を振り続ける二人に同じように手を振って返し、とりあえずどこかへ行こうと足を進める。

 

「……なんかお前、ちょっと丸くなった?」

 

『そんなことはありません……それと、私と話すときは口に出すと周りに訝しがられますよ』

 

「やっぱ丸くなったよね」

 

『黙りなさい』

 

 


 

 

 世界を見せてやる、と言ったからには至る所を回ることになる。とはいえそれだけにあんまり注力してもアレだし、数日ほどいろんな場所を回る、小旅行的な感じにすることにした。

 

 まず最初に向かったのは……まあ当然ながらミレニアムサイエンススクールだ。向かったと言うか、最初からここにいたと言うか……何と表現すればいいのか。

 

『そんなことを考えて何になるのですか?』

 

 うるっさいなあ、静かにしなさい。お前の声頭に響く感じでちょっとしんどいんだよ。脳みそに負担かけるのやめてもらっていい?

 

『そっちから誘拐しておいてその言い草は何ですか。私だって早くあなたの中から出たいですよ』

 

 軽く口喧嘩……この表現も違うけど、とにかく喧嘩しながらも歩くのはやめない。とりあえず最初に見せるところをどうしようかなと考えて……別に特定の場所じゃなくてもいいか、と考え直した。

 

 俺がケイに見せたいのはこの世界のありのままの姿だ。それを見て、色々と知って、たくさん考えて欲しい。

 

 そう思って目的地もなくぶらぶらしてると、帰宅途中の生徒らしき姿を見つけた。彼女たちは仲良さげに話しており、ちょっと聴覚を強化して聞いてみると帰り際に寄るお店の話をしている。

 

 ほら、ああいうのこそお前が見るべきものじゃないか?

 

『……何を言いたいのか分かりません。ただの日常のひと風景に何を思えと?』

 

 そこからか……ケイちゃんは未熟だな。

 

『誰がケイちゃんですか。殺しますよ』

 

 また怒った声色になるケイ『怒らせているのは誰ですか』……機嫌を直してもらおうと思って、適当にそこら辺の店に立ち寄る。

 

「すみませーん。ソフトクリームください」

 

「はーい」

 

 数分待つと白色がぐるぐる綺麗に巻いてあるソフトクリームが出てきた。お前も食えよ。舌の感覚共有はしてやるから。

 

『不要です。そもそもそんな嗜好品程度で私のことを……話を聞きなさい! 急に舌の感覚が出てきて気色悪いです!』

 

 ソフトクリームを一口食べる。程よい甘さが舌に絡みついてきてとても美味しい。久しぶりに食べるけどやっぱソフトクリームは美味いな。そっちはどう?

 

『………………まあ、悪くはありません』

 

 それはよかった。

 

『……何を嬉しそうにしているんですか。あくまで悪くはないだけです。美味しいとは一言も……何故舌の感覚共有をやめたんですか?』

 

 いやだって悪くはない程度なんでしょ? だったらこれ以上味わわせるのも酷かなーって。そうでしょ?

 

 ……その瞬間、まるで睨みつけられてるような感覚に襲われた。分かってるくせに、とでも言わんばかりの言外の圧を感じる。悪かったって……と、再び舌の感覚を共有した。

 

『最初からそうしなさい』

 

 これじゃお前が王女みたいだな……怒んないでよ。

 

 

 

 ソフトクリームを食べ終わった後は、再びミレニアム自治区の街をぶらつく。最新の家電を見たり、ゲームセンターでゲームしたり、部活動してるとこを覗き見したり。

 

 特別なことは何もなく、普通の日常を過ごしていた。

 

「……あ、ちょうちょ」

 

『あれは蛾ですよ』

 

 ひらひら待っている蝶を見てふと漏れた言葉にケイが食いついてくる。そんなのほぼ揚げ足取りだろ、蝶と蛾はほぼ同じだって……というか、この距離からよく分かったな。

 

『……知識はインプットされていますから』

 

 にしたってじゃない? 俺が蝶に見間違えるくらいには色も可憐だし、詳細に見れてたわけでもないのに……

 

『うるさいですね……全部、覚えていますから』

 

 そのどことなく寂しそうな声に、少し驚いた。だけど彼女の境遇を考えると、合点はいく。

 アリスが起動するまでの間、こいつは一人で廃墟のコンピュータの中にずっといたんだもんな……

 

 ……一緒に遊園地でも行く? もしくはお祭りとか、星を見るとか……

 

『は?』

 

 何でそんな怒るんですか嫌だなあ。

 

『怒っていません。第一、先ほども言いましたがそういうものに関するデータもありますので余計なお世話です。同情なんてしなくていいですから』

 

 ふーん、じゃあ俺が行きたいから遊園地行くわ。

 

『話聞いてました?』

 

 

 

 遊園地では色んなものに乗った。コーヒーカップにメリーゴーランドにジェットコースター……ジェットコースターは面白かった。乗ってるのは俺なのにケイが明確に怯えてたから笑っちゃったんだよね。

 

 ケイが頭の中に住んでるとはいえ、現実では一人なので色んな人に可哀想な人を見る目で見られたのはかなりしんどかったけど……まあ、ケイも楽しんでてくれたっぽいからいいか。

 

『別に楽しんでませんが』

 

 はいはい……最後は観覧車乗るぞ。

 

 

 

 ゆっくりと上がっていく観覧車。どことなく心地よい揺れがあって、気を抜くと寝てしまいそうだ。一人で使うと思ったより広いスペースを存分に使って、窓の間近まで顔を近づける。

 

 目の前に広がっているのは、夕焼けが照らす赤い空と、少しずつ明かりがついていく遊園地や街並み。段々と夜の世界へ移り変わっていくこの景色は、とても美しかった。

 

 ……それで、お前はどうかな?

 

『別に……ただの景色でしょう』

 

 つれないこと言うなよ……まあ、強制はできないけどさ。

 

 今日はどうだった?

 

『どう、と言われましても。私は、……──』

 

 言い淀むってことは、何か思うところはあったかな。だとしたら俺は嬉しいな……それが俺にとって良いものであれ悪いものであれ、存在理由に縛られてたお前が自分の意見を持つってのは大きな一歩だ。

 

『……あなたは何故、私にそうまで関わってくるのですか』

 

 んー、秘密。でも気持ちが本当なのは分かるだろ? 俺はお前に、色々と考えて欲しいだけなんだよ。

 

『そう、ですか……』

 

 それからしばらくケイは黙り込み、そうなると当然俺も黙り込む。観覧車が軽く軋む音だけが聞こえる中で高度はついに頂に達し、遠くまで世界を映し出す。

 

 綺麗だなと思う中で、日が沈むのを見ていると明日のこともつい考えてしまう。明日はどこに行こっかな……

 

『……待ってください』

 

 ん? どうした?

 

『今気がついたのですが、私はこのまま数日あなたと行動を共にするわけで……ということは、まさか、風呂や排泄の時も……』

 

 あっ。

 

 

 あー………………

 

 

 まあ、うん。

 

 

 

 

 感覚共有は切っとくんで………………

 

『いつか必ず殺します……!』

 

 大胆な殺害宣言を受けたが、今からアリスにケイを帰しにいくのも大分手間取るし、申し訳ないが我慢してもらう。ただこれに関してはマジで俺が悪いので殺意を向けられるのも仕方ない。

 キリキリ内側から焼かれるような殺意に耐えていると、ふっとその感覚が消えた。

 

『……本当に申し訳なく思ってると分かってしまうのが、本っ当に癪です』

 

 それでやめてくれるあたりだいぶ優し……あー悪かった! 不愉快なこと言ったの悪かったから殺意を向けるのやめて!

 懇願すると、またすぅーっとしんどいのが消えていく。

 

 ……一応、お願いがあったら多少は聞きますけど。

 

『でしたら、体を貸してください。魂だけではこの怒りを発散もできませんし、このままでは憤死しそうです』

 

 体……体かあ。流石に体はちょっと……正直まだ完全に信じ切ってるわけじゃないし、難しい……かも。俺から言っておいてだけど……

 

『縛りを作ればいいじゃありませんか。体を貸す代わりに他者への危害を禁ずるとか』

 

 え、天才か? 前から思ってたけどケイって呪術の知識が豊富だよね。

 

『それはまあ、私がいた時代は呪術に関しても研究が結構進んでいましたし……術式の移植だったり、コピーするのも元はと言えばその技術です。今はゲマトリアという組織が使っているようですが……』

 

 ん? 何でゲマトリアのこと知ってんの?

 

『あなたの記憶を見て知りました』

 

 は!? いつの間に!? 何やってんだお前、人の記憶を勝手に盗み見てんじゃねーよ!

 

『ならさっさと私をアリスの元に帰らせなさい! あなたの生得領域は絶妙に過ごしづらいんですよ! 何ですか砂漠って、おまけにずっと夜ですし……ああもう、それもこれも全部あなたが体を貸せば済む問題です。早くしなさい!』

 

 あーもう分かった分かったうるさいな! 頭にガンガン響くって言ってるだろ!

 

 

 

 

 

 流石にあんな場所でいきなり変わるわけにもいかないので、さっさとシャーレに帰ることにした俺は観覧車から降りるとすぐさま遊園地を出、術式を使って全速力帰宅。そのままぱぱっと縛りを結んでやることにした。

 

 俺はケイに体を貸す。だがその間他者に一切の危害は加えない。シャーレのオフィスから出ない。俺が変われと言ったら即変わる。の条件だ。

 

『……背に腹はかえられないですね。それで良しとしましょう』

 

 縛り成立だ。俺の意識が沈んでいくのが分かる……目が自然と閉じて、次に目を開いた時には俺の生得領域内だった。砂漠……じゃなくて鎖漠が、夜空の下一面に広がっている。

 

「……」

 

 ケイは……体の調子を確かめるように両手をぐっぱぐっぱさせてる。それから肩を回し、足もぶらぶらさせていた。どことなくはしゃいでいるような感情が伝わってきて、頬が緩む。

 

『そんなに体を得たのが嬉しいかお前』

 

「ええ、それはもう本当に……牢屋から解き放たれたような清々しい気分です」

 

『それ俺の体だけどね……で、何すんの?』

 

「言ったでしょう。私はあなたの記憶を見ていると……全ては読めていませんが、色々と必要なことは覚えています。手始めにあなたが貯蓄しているお菓子でも食べに行きますか」

 

 そう言ってケイが歩き出したと分か……今何つったこいつ?

 

『は!? おい、ちょ、止まれ!』

 

「……」

 

『無視すんなってか面白がってんな!? 何ちょっとニヤついてんだ! これ他者への危害だろ!?』

 

「変わらないということは、危害を加えていないということです。それではいただきますね」

 

『お前後で覚えてろよ……!!』

 

 ケイがお菓子を貯めてる棚の前に到着し、それを開けた。適当な一つを彼女は取り出すと、開けようとして……何故か止まる。

 

『……何? やるなら早くやれよ』

 

「……あなたがそう言うなら、遠慮なく」

 

 そう言うとマジで一切の遠慮なく食べることに集中し始めるケイ。俺の顔を緩み切ったものにさせているその姿に思うところがないわけじゃないが……

 

『……まあ、いいか』

 

「一応言っておきますが全て分かってますからね。何が『ケイが楽しそうで嬉しい』ですか」

 

『わざわざ口に出してんじゃねーよ。さっさと食って体返せ』

 

 

 

 結局、その後も割とこいつは好き勝手してくれた。お菓子の半分を食べたり、力加減ミスって色々壊したり、ゲームをし始めたが最後数時間熱中しやがったり……そうして深夜帯になる頃、ようやく体を返してくれた。

 

 放ってあったお菓子のゴミを若干キレながらくしゃりと握りつぶす。影響が全部俺に来るからっていい気になりやがって……その瞬間、理解できないとでも言いたげな声色でケイが話しかけてきた。

 

『そんなに嫌だったなら変われば良かったじゃないですか。あなたがそう言うだけで私は抵抗もできず、主導権をあなたに手渡すことになったんですよ?』

 

 あーうるさいうるさい。そろそろ俺は寝るからお前もさっさと寝ろ。

 

『……あなたは私のことをツンデレ、というやつだと思っているようですが。私に言わせればあなたの方がよほどツンデレですね』

 

 今から俺の生得領域内で殺し合うか? ……おい黙るな。逃げてんじゃねえぞ、っていうかちょっと笑ってるのも分かるんだよ! あーもう、寝るわ!

 

『……ふっ、おやすみなさい』

 

 おやすみ!!




書いたもん勝ちとは言ったが、これはこう……やりすぎじゃないか? と思いながら書き、そして投稿しました。手遅れってやつだねわはは。
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