多くの学園を含んだ連合軍。彼女たちが向かった先にあったクレーターで、混乱が起きていた。
命令通りに現場の調査と、先生の捜索をしていた彼女らだったが……突如としてそこをカイザーPMCが襲撃、そのまま引きずられる形で戦闘になっていたのだ。誰もが状況をよく理解しないままに、戦っている。
だがその中で一つ確かな事実があったとするなら、カイザー側は非常に数が多く、奇襲を受けたこともあって生徒側はそれなりの苦戦を強いられていたということだ。
さらに言えば、それだけではなく……
「ミカ様がいないぞ!? あの方を探せ!」
「風紀委員長はどこですか!? あの人がいないと、風紀委員会はバラバラに……」
「ホシノ先輩ー!? どこに行ったんですかー!?」
今回集まった中でも、トップ3の実力を誇る三名の不在。それは実力的な面でのマイナスだけではなく、士気の面においてもマイナスとして作用し、結果として彼女たちは徐々に押されていた。
逆にカイザーの面々はこの一度に全てを賭けていると言わんばかりに士気が高い。
「何としてもシャーレの先生を探し出せ!」
「隊長、別部隊からシャーレの先生を見つけたと報告が! ただ、その直後連絡が途絶えてしまい……」
「何……? いや、なるほど。手練れは既に先生の警護に回したということか。ならばこいつらに構っている暇はない、全軍を報告された場所に集結させろ!」
カイザーの動きが変わる。各所にて戦闘を行っていた軍隊が一斉に退避をし始め、別の場所へ向かおうとし始めた。その瞬間。
「救護!」
「ぐあっ!?」
「隊長ー!?」
「あなたも救護します!」
「盾で殴っておいて何が救護ごばぁっ!?」
何処からかやってきた水色の髪を持つ生徒が、盾で兵士たちを殴り飛ばす。救護と宣いながら敵を倒していくその姿は、トリニティではよく知られ、恐れられた光景の一つ。
救護騎士団の団長、蒼森ミネ。
「くっ、一体何が起きているのですか……ミカ様は何処かに行ってしまわれますし……」
「団長、敵が引いていっていますが……私たちも、一度引いた方がいいんじゃ……」
「いえ、このまま彼らを放置しておけばまた怪我人が増えてしまいます。その前に彼ら全員を迅速に救護しなければなりません。追いかけますよ」
「救護って要は全員殴り倒すってことですよね!? あんな数相手にしていたら……あっ団長、止まってください! 団長ー!?」
後ろから聞こえる声に「あなた達は怪我人の治療に専念してください!」とだけ返事をして、単身敵軍の中に突っ込んでいくミネ。暴走機関車の如く走り出した彼女は止まらない。
近づいて来るミネに気がついたカイザー達は仕方ないを言わんばかりに銃を乱射するも、その全てが盾で防がれ、その隙を突かれて殴り倒される。
「くっ、相手にしていられるか! 我らの目標はあくまで先生だ、素早く任務を達成して逃げるぞ!」
「先生……? 何故そこで先生の名前が……」
そこで疑問に思い、ほんの少し足を止めたのが、逆に功を奏す。
奥の煙の中が紫に光った……と感じた次の瞬間、紫色のビームが煙を突き破り、カイザー達を呑み込んで行った。あまりに唐突なことに反応ができなかったカイザー兵、およそ半数が倒れる。
さらに煙から人影が飛び出した。飛び出してきた人影は、素早くカイザー達の懐に潜り込むと、残っていた兵士たちを皆殴り飛ばしていく。その姿を見たミネは、思わずあっと声を上げた。
「ミカ様!?」
「あっ、ミネちゃん! ちょうど良かった、見て欲しい人がいるの! 二人ともこっち!」
ミカが煙の中に声をかけると、さらに二つの影が飛び出してくる。
「あなた方は……」
「あなたがミネって人?」
ミカと似たようなピンクの髪色をした、小さな生徒だ。その背中にはギリギリ人であると判別できる誰かを背負っていて、それらのことからミネは彼女たちが何を求めているのかを即座に察する。
「怪我人の治療ですね。一度見せていただけますか?」
その言葉にこくんと頷いた彼女にその人を下ろしてもらい、簡単な触診などを行う。全身が酷い火傷な上、特に右半身の怪我が酷い。すぐさま適切な治療を行わなければいけないことを、ミネは理解する。
「この怪我だと、ここに持って来た医療機器では不十分ですね……近くの高度な医療設備がある場所は……確か、サンクトゥムタワーでしたか。すぐに向かいましょう。救急車なら用意していますので」
「分かった……助かるんだよね?」
「助けます」
はっきりとそう言い切った彼女は、すぐさま案内を始めようとする。だが、顔を上げるといつの間にかカイザーの兵士がさらに集まっており、驚きの表情で止まった。
「見つけたぞ、シャーレの先生だ!」
「シャーレの、先……!? まさか、この怪我人は……」
動揺したその隙をついた弾丸が、カケルを狙って飛来する。盾を構えようにも僅かに間に合わない……そう考えた時には、その大きな羽が彼女らを守っていた。
「あなたは……確か、ゲヘナの……」
「動揺する気持ちも分かる。けれど今は一刻を争うの、感情任せな行動は後にして」
彼女らしくもない冷たい物言いは、彼女もまた大きく動揺していることを示している。だが実際、今はこんなことをしている場合ではない。そう考え直したミネは改めて走り出した。
目的の人物を見つけたカイザーが多く寄って来るも、その全てがヒナとミカによって返り討ちにされていく。彼女らが通った後には倒れた兵士の山ができ、勝手に道が形作られていった。
そして彼女たちは救急車が用意してあるキャンプにまで辿り着く。「先生を救急車に乗せておいてください!」とミネは言うと、キャンプ内に入った。
「え、だ、団長!? 救護をしにいったはずじゃ……」
「重傷者の救護のため、私は一度サンクトゥムタワーに戻ります。あなたはサンクトゥムタワーの医療スタッフをロビーに待機させておくよう、連絡してください」
「え、え?」
「早く!」
「は、はい!!」
言いながらも彼女は必要な医療器具を集める手を止めない。すぐさま準備をすると、救急車に飛び乗ろうとしたのだが……
「だ、団長! 通信が繋がりません!」
「繋がらない……? まさか、向こうでも何かが起きて……!?」
(もしそうならサンクトゥムタワーに運び込むのは危険……ですが並の病院ではあのレベルの傷の治療は難しく、次に近い高度な医療施設ではサンクトゥムタワーに向かう倍以上の時間はかかる……! 先生は明らかに危険な状態、時間はかけられないというのに……!)
実質的な択は一つだったが、その選択をするのに躊躇してしまうミネ。他に何かいい方法はないかと、思考がループを始めようとしたところで。ミカがキャンプ内に入ってくる。
「ミネちゃん! せ、先生が……」
「先生がどうかしましたか!?」
「いやそうじゃなくて、先生が持っていたタブレットが、急にメッセージを……」
焦ったような様子の彼女からタブレットを受け取ると、確かにメッセージが表示されていた。
『今目の前にいるのは、蒼森ミネさんですよね?』
「これは……?」
まるでこちらの状況を見透かしているかのようなメッセージに寒気を感じるミネ。だがメッセージは彼女を気にせず進行していく。
『私は先生の相棒AI、アロナです。今はこのタブレットを通じて、周りを知覚しています』
「……?」
『あ、そこは重要じゃありませんでした……今言いたいのは、サンクトゥムタワーに向かって欲しいということです! 大丈夫なので!』
あまりに唐突かつ根拠のない胡散臭いメッセージ。常人であれば無視をしているところだが、ミネの生真面目な性格はそれを許さない。
「はっきりと言いますが、いきなりそんなことを言われても信用できません。あなたがAIであるとか、先生の相棒であるとか……先生からそのような事を聞いたことは一度もありませんが」
『うっ……い、言いたいことは分かるんですが、お願いです! 信じてください! 先生のためにも、私と、そしてみなさんを信じて向かって欲しいんです!』
「言っていることが要領を得なさすぎます」
むしろ彼女の発言から、サンクトゥムタワーに行かないことを視野に入れ始めたミネだが……その瞬間またしてももう一人、キャンプ内に入ってくる。
「私はその子の言うことは信用していいと思う」
「空崎さん……その根拠は?」
「前、一度その子と話をしたことがある。その時も先生が危ないといった内容で、実際事実だった。彼女が何者であれ、先生のために動いているというのは確かだと思う」
『ヒナさん……! そ、そうなんです! 私は先生に死んでほしくなくて……だから、お願いします!』
メッセージだけだと言うのに、必死なのが伝わってくる文面。それを目に焼き付けたミネは、目を閉じて悩んだ末……覚悟を決めたように力強く目を開いた。
「……分かりました。実際、先生の状態は一刻を争います。あなたを信じて、サンクトゥムタワーに向かいましょう」
『あ、ありがとうございます!』
決断をしたなら早かった。すぐさま残りの準備をして、救急車に乗り込む。タブレットもちゃんと手に持って、救急車を全速力で走らせ始めた。
「……そういえばさっき、私と
『私が連絡して、サンクトゥムタワーに向かってもらった生徒さんたちです! すごいエリートなんですよ!』
サンクトゥムタワー前にて。呆れたようにジェネラルが肩をすくめていた。
「いい加減諦めたらどうかね? 援軍を期待しているならやめておいた方がいい。そちらの方は別働隊が接敵していて、時間稼ぎをしている最中だからな。これ以上は時間の無駄だ」
「……ご冗談を。あなたの言う通りなら、私も時間稼ぎをすれば救援が来るということだ。どこが時間の無駄なのか、是非ともご教授していただきたいですね。たっぷりと時間をかけて」
「やれやれ、これ以上面倒をかけさせないで欲しいのだがね」
その金色の髪を傷と汚れでくすませ、傷だらけのカンナ。ぜえぜえと荒い呼吸をしている彼女は、それでもその強がる姿勢を崩さない。
突如として襲撃してきたカイザーPMC、そして寝返ったヴァルキューレ生徒のおよそ半数。一瞬にして圧倒的不利を背負うこととなったヴァルキューレ側は、それでもなおカイザーをサンクトゥムタワーに侵入させていない。
その功績は単に、残存兵力の指揮と攻撃を一手に請け負ったカンナの功績だった。
「……何故、このタイミングで襲撃をかけた。そもそもこのことが知られれば、私たちが負けようと全生徒を敵に回すも同然。カイザーという組織はそれすら分からないほど腐敗したのか?」
「ふむ、ずいぶんと軽い挑発だが……質問に答えてやろう。我々は超古代兵器を手に入れたのだよ……あのシャーレの先生が霞むほど強力な兵器をね。そしてその掌握の前段階として、サンクトゥムタワーの掌握が必要というわけだ」
「……」
「私たちは既に王手をかけているのだよ……今すぐにそこを退くなら、君たちだけは害しないと約束してやろう。望むならカイザーの社員として雇ってやってもいい。そこを退くだけで、未来が──」
「聞くに堪えない戯言だな」
心底不快と言った様子で、カンナが声を張り上げた。ボロボロの姿でありながら、その眼光は狂犬の肩書に違わぬ鋭さを持っている。
「私の道は、私が決める。貴様ら程度に決められるような人生では、どれだけ幸せに生きたとしても後悔するだろうからな」
「……」
「何より、そんな交渉を持ちかけてくる時点で底が知れたも同然だ。追い詰められているのは私たちではない……貴様らの方だろう?」
「ふん……愚かな」
「貴様らから見れば、そうかもしれんな」
ジェネラルが号令をかけると、後ろの兵士たちが一斉に銃を構える。
「良かろう。そこまで望むなら名誉の死というものをくれてやる。くだらない理想に溺れ、何も成せぬまま死んでいくがいい」
「……」
カンナは何も言うことなく、静かに敵対の意思を見せるのみだった。
次の瞬間、ジェネラルの後方に控えていた兵士たちの何人かが倒れる。突然の出来事にジェネラルもカンナも驚愕する中で、再び兵士たちが倒れた。
「だ、誰だ!?」
「RABBIT2、煙幕弾を」
「言われなくても分かってる!」
どこかで聞いたことある声だ、とカンナが考えたのも束の間、カイザー側に大きな煙幕が張られた。混乱の声が響く中、それを打ち消すように爆発音と銃声が響く。そのうち煙幕が晴れ、そこにいた人物を見てカンナは呆然とした。
「さっきの啖呵、かっこよかったですよ。カンナ局長」
「RABBIT小隊……? 何故、ここに……」
「先生から連絡があってな。サンクトゥムタワーで戦闘が起きてるから、助けてあげて欲しいって……それで、敵はこいつらで全部か?」
「ぐっ……足を、どけろ……!」
サキがジェネラルの頭をぐりぐり踏み躙りながら問いかける。その少し気の抜けた様子に強張った体が解れていくのを感じながらも、彼女は思考を止めずに答えた。
「……いや、別の場所でも戦闘が勃発しているはずだ。もっとも、多くの学園の精鋭が集まった軍隊が接敵しているはずだから、援軍はいらないかもしれないが……」
「それだけなのですか?」
『実際、その周辺にいるのはそいつらだけっぽいよー』
「何だ、潜んでる部隊とかいないのか? PMCを名乗るくせして、大して強くない上頭も良くないんだな」
「貴様ァ!」
サキのバカにするような物言いにジェネラルが激昂するも、うるさいとより強く踏まれてしまう。屈辱に顔を歪めるが、それを見てくれるのは地面だけだった。
「とはいえ警戒を緩めてはいけません。今回奇襲をかけられたように、いつ誰が襲って来るかも分かりませんから……うん?」
次の瞬間、ミヤコの耳が車の音を捉える。こちらに近づいてくるその音に、その場にいた者たちはカイザーの援軍かと警戒するが……現れたのは、サイレンを鳴らしていない救急車だった。
「何だ、ただの救急車か……サイレンぐらい鳴らせっての」
「いえ、あれはただの救急車ではありません。あの紋章は……確か、トリニティの……」
「トリニティ……救護騎士団か? なら、確か調査に赴いていたはずだが……」
救急車はサンクトゥムタワーの裏手に回ると、中に入っていく。恐らく先生がサンクトゥムタワー前の制圧を頼んだ理由なのだろうとミヤコは考えながら……しかしどこか、抑えきれない胸騒ぎを感じ取っていた。
「……先生は無事でしょうか」
「アレが怪我するわけないだろ」
「先生をアレ呼びとはな……」
「馬鹿と言わないだけマシだけどな」
「……ともかく、一度私たちもサンクトゥムタワー内に入りましょうか。何が起こっているのかを知る必要があります」
それから数十分後。クレーターでの戦いも一度落ち着き、集めていた全生徒がサンクトゥムタワーに戻ってくる。だが前線で戦っていた生徒たちは、倒したカイザーからある情報を入手していた。
「先生は現在、意識不明の重体である」と。
情報はすぐさま広がっていく。最初こそ誰もが冗談だろうと鼻で笑ったが、先生が未だ表に出てこないこと、ミネたちの会話を聞いていた生徒がいたことなどの状況証拠が積み重なり、次第に誰もが沈黙していく。
そしてその果てに残ったのは、先生がいないことへの心配と、これからどうしたらいいのか分からないという恐怖、そしてまるで日が沈んで影が伸びるように、どんどんと悪くなっていく状況への不安。
それが、
「……まだいたのね」
「ん……ヒナちゃんか」
サンクトゥムタワー内、ある病室。純白で作られた清潔感のある部屋のベッドで、少年が死んでいるかのように眠っている。
その側に、ホシノはずっと座っていた。
「目を離したら、またどこかに行っちゃいそうでさ」
「……」
「カケルって結構そういうところあるよね。たんぽぽの綿毛みたいな、気がついたら何処かに消えてしまいそうな……だから、ずっと見てたの」
ピッ、ピッと電子音が響く。彼の心拍に合わせて鳴るその音は一定のリズムで、聞いているとどこか心地いい。その音に耳を澄ませながら見守ること、既に数時間。
ただ見守ることしかできない彼女の目は、少し赤い。
「勝手に突っ走って、勝手に死にかけて……何で、頼ってくれないのかなあ」
「それは……」
ヒナの脳裏に、あの瞬間が過ぎる。頼って欲しいと近づいても、拒否されてしまったあの時のこと。もう誰にも気を許さないという、弱さを見せた彼のこと。
「……」
「やっぱり、私たちじゃ頼りないのかな……対等に見てくれてないのかな……」
ぽつぽつと呟く彼女を、痛ましく見つめることしかできない。頼ってくれないことも、自分に力が無いことも、それを甘んじて受けいることしかできないことも、その全てをぎゅっと握りしめる。
「……ホシノ、行きましょう? ここにいても今は仕方ない」
「……」
「あなたの気持ちも痛いほど分かるけど……「ね、ヒナちゃん。私いいこと思いついた」
そう言って振り向いた彼女は、先ほどの様子からは想像がつかないほど明るく、子供のように笑っていて。それを見たヒナは、思わず喉を鳴らすのだった。
たまには評価の催促でもしてみよう。
ということで、気が向いたらお気に入りとか評価とかしてくれると嬉しいです。