呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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65. たった二人の物語

 ──まず感じたのは、音だった。ピッ、ピッ、ピッという電子音が聞こえてくる。それに釣られて目を開けてみるが、暗闇が広がるばかりだった。

 

 次に感じたのは重力。どうやら俺の体は寝ているようで、微かに身じろぎすれば布の音が聞こえる。ここはベッドの上らしい。

 

 その次に感じたのは……何も感じない、ということ。その理由を探して記憶を辿ってみる……そうすれば、自分は全身を火傷したということを思い出した。

 

 恐らくその傷の影響で、神経なども全て壊れている。だから何も感じないのだと気づく。

 

 それなら、目を開けても何も見えないことに納得がいく。確か右目は吹っ飛んでいたし、左目も多分神経がイカれたのだろう。今俺が世界を認識する方法は聴覚と……味覚くらいか?

 

 ともかく、自分の体の状態を理解したので反転術式で体を治すことにした。まずは目を治す。突然復活した瞳から情報が脳に伝達され、景色が映し出された。

 

 真っ白な天井。軽く首を動かせば清潔感のある空間だとわかる。多分、病院か何かだろう。

 

 そのまま改めて自分の体の状態を確認する。右腕は無くなっていて、右足はぐずぐずに溶け、口には酸素マスク。皮膚は病衣に加え包帯ぐるぐるで何も見えないけど、記憶によればほぼほぼ爛れてるか黒ずんでるはず。髪の毛も元々短かったけど、それ以上に短くなってそうだ。

 

 残ってる呪力を使ってそれらにも反転術式をかけるが……全部治すと間違いなく呪力が空になる。仕方ないので最低限だけ治すことにした。肌の火傷と神経は治さずに、目、腕、それから体を動かすのに必要な筋肉と内臓を治す。

 

 そうすると体調が多少安定したのを感じたので、その勢いで酸素マスクを外すとゴホゴホと咳が出た。

 

「……あ゛ー、ゔえ、酷い声」

 

 試しに声を出せば、酷くしゃがれている。こんな状態で人前に出るのは憚られるな……ん?

 

 感覚が無いせいで気づかなかったが、ホシノがいる。俺の体に突っ伏して、どうやら眠っているようだ。すう、すうと穏やかな寝息を立てているが、その顔には涙の跡。

 

 起こしても悪いし、動けないなと思ったのだが……さっき出した声や、俺の僅かな身じろぎの音を感知したのか、ゆっくりとその目を開けてこちらを見てくる。

 

「………………え」

 

「あー……おはよ。ホシノ」

 

「……」

 

 何も返事はなかった。彼女は大きく目を見開いて、ひたすらに口をぱくぱくさせている。そのうち、その目が潤み始めて……涙がこぼれた。

 

 そのことにギョッとする俺だが、ホシノは涙を拭うこともせずポロポロ泣き続ける。

 

「ちょ、ほ、ホシノ?」

 

「……いきてる…………生きてる……っ!」

 

 そう言って俺に抱きつこうとするホシノだが、俺の肌を一目見るとその顔を曇らせて手を引いた。その間にも涙は流れ続け、その顔がくしゃくしゃになるのを見ていられなくて拭ってやる。

 

「かけ、カケル、触っちゃダメだよ……」

 

「いいよ別に、どうせ痛く無いし」

 

「……!」

 

 そしたら何故かもっと涙があふれてきてしまう。拭っても拭っても止まらないそれに、俺は苦笑を禁じ得ない。

 

「泣かないでよ」

 

「泣くに決まってるじゃん……! こんな、酷い怪我で……」

 

「俺の怪我だよ? ホシノは痛くないだろ」

 

「痛いよ……すっごく痛い」

 

 大真面目にそう言われてしまえば、俺は何も返せない。困ったように笑うしかなくて、気まずい沈黙が流れた。

 数分間泣き続けたホシノだったが、なんとか泣き止むと立ち上がる。

 

「……私、みんなに伝えてくるね」

 

「ああ……ん、みんな? みんなって……行っちゃった」

 

 引き止める間もなく行ってしまった彼女に伸ばした手が宙を彷徨う。渋々手を自分の元に戻すと、さっき治したばかりの右腕が他の部位とは違って正常な色の肌をしているのが見えて、それが逆に気持ち悪い。

 

 ……そういえば、シッテムの箱は何処だろうかと周りを見回せば、すぐ近くの机に置いてある。それを手に取ると、すぐさまアロナが話しかけてきた。

 

『先生、大丈夫ですか!?』

 

「アロナ……うん、今は大丈夫。致命的な場所は治したからね」

 

『うぅ、ごめんなさい……私があの時、バリアを展開できていたら……!』

 

 あの時……隕石が出現した時か。

 

「あれは仕方ないよ、突然のこと過ぎて対処が間に合わない。閉鎖空間じゃなかったらな……まあ言っても傷が治るわけじゃ無いか」

 

『ごめんなさい……』

 

「あっいや、落ち込ませたいわけじゃなくて……げほ、とりあえず現状を教えてくれ」

 

『はい!』

 

 ……アロナの説明をまとめると、こうだ。

 

 俺が色彩と戦っている頃、サンクトゥムタワーでは緊急集会の準備が進んでいて後は俺が来るのを待つだけだった。ところが待てど暮らせど俺が来ない。おまけに連絡もつかないし……という時、巨大な爆発が近くで起きた。

 

 俺の失踪と関係してるかもしれないと考えたリンはその場に集まっていた生徒たちを派遣。そこで俺を見つけて、サンクトゥムタワー内の医療施設に運び込んで治療していますと。

 

 他にもカイザーが襲ってきたりとか色々あったっぽいけど、これが俺が寝ていた一日間に起きた大まかな出来事。昨日気絶してから丸一日寝ていたらしい。昨日色彩と戦ったのはお昼頃だから、今もお昼か。窓も何もない部屋だから時間帯不明だったけど、あんまり時間は経っていないらしい。

 

「なるほどね……迷惑かけちゃったな」

 

『普段先生はみんなを助けてるんですから、こういう時くらいしっかり迷惑をかけてください!!』

 

「いやでも」

 

『でもじゃないです!! 私がどれだけ心配したと……うぅ、私がもっと役に立てていたら……!』

 

 そう言って泣き出してしまうアロナを宥めつつ、とりあえず次にするべきことを整理する。

 

 一番の問題は無論、色彩だろうな。正直勝てる未来が見えない。おまけに目的も不明……いや、俺を殺すのがあいつの目的か? というかアレって世界を滅ぼしかねないんだよな?

 

 まあともかく、俺の目的は色彩を倒すことで……そうなると居場所を探すべきか。いやでも、あいつ俺を殺すって宣言してたし放っておいても向こうから来そうだな。

 

 ただ今の俺はほぼ呪力ゼロ。領域は言うまでもなく無理だし、反転術式もまともに使えない。それどころか身体強化もかなり甘く、下手な銃弾でも傷がつきそう。使えるのは術式を経由した呪力放出・吸収くらいだな……

 

 となると今すべきなのは、色彩のアジトを探しつつ療養することだな。

 

 そう結論づけた俺は、とりあえずホシノが帰ってくるまでベッドで大人しくすることにした。しばらくすると、扉の外からたくさんの足音が聞こえてくる。そしてバァンと勢いよく扉が開かれ、めちゃくちゃな数の生徒が流れ込んできた。

 

 その異様な光景に思わず絶句する俺だが、誰も止まる気配はない。病室が爆発するかと思うくらいパンパンに人が入り、あらゆる方向から俺を心配する声が飛んできた。

 

「うぅ……せんせえ、生きてて良かった……!」「無事で何よりだよ先生……否、その様子を無事と形容するのは些か失礼か」「先生……生きていてくれて、本当によかったです……!」「先生、また重傷を負ったんですね……またホシノ先輩を泣かせて……私たちを心配させて……!」「ん、先生。無事でよかった」「先生……本当に、よかった……」「先生」「先生!」「先生……」………………

 

「……ごめん、心配してくれてるのは嬉しいんだけどさ……俺一応怪我人だし、聖徳太子でもないから……本っ当に悪いんだけど、後で聞くから、一度みんな外に出てもらえると……」

 

 このままでは埒があかないと悟った俺は、不本意ながらみんなに出て行くように声をかけた。そうするとみんな素直に従い、さっきとは逆にぞろぞろと出て行った。みんな良い子だな。

 

 そんな中、一人だけこの場に残った人物がいる。

 

「先生……」

 

「リン」

 

「……リンちゃんとは、呼ばないのですね」

 

「? まあ、ふざけるような時でも無いから」

 

「そうですか……」

 

 眼鏡をくいっと上げたリンは、何を思っているのか少しばかり目を伏せ黙り込むと……真っ直ぐに俺を見てくる。

 

「それで、何があったのですか」

 

「……全部話すよ」

 

 そうして俺は、できる限り彼女に分かりやすく語った。

 

 色彩という厄災がいること、その色彩が俺の恩師に受肉していること、そのせいで意思を持った色彩がこのキヴォトスにいること、そいつは俺を狙っていること。そしていずれは恐らく、世界を滅ぼしてしまうだろうということ。

 

「……にわかには、信じ難い話ですが……あなたがそのような姿になっている以上は、納得するほかありませんね」

 

「ああ……それで、話した理由なんだけど。正直俺としては、この問題に誰も介入させたくないんだ」

 

「キヴォトスの存続がかかっているというのに、見て見ぬ振りをしろと?」

 

「今回ばっかりは、そうだ。話した通り色彩は異次元の強さ……君たちじゃ敵わないよ」

 

「……確かに力量という意味ではそうかもしれません。ですが、協力というのは武力だけでは「ごめん、それもそうなんだけど。それ以外にも理由があって……」

 

 この心に燻るものをできるだけ見せたくなくて、顔を伏せる。できる限り落ち着いて、と自分に言い聞かせても気づけば手をぎゅっと握りしめていた。

 

 

「……俺だけで、やりたいんだよ」

 

 

 触れてしまえば、壊れてしまいそうだと。自分でもそう思ってしまうような声だった。それを聞いたリンは押し黙ってしまう。そのことに申し訳なさを覚えながらも、俺はベッドから降りた。

 

「っ、まだ動いては──」

 

「命に関わる怪我は治したし、大丈夫」

 

 彼女の忠告を無視して立ち上がった俺は、病室の外へ出る。すると廊下で待機していたみんなが、一斉に俺を見てきた。みんなが静かに見てくる中で、最初に声をかけてきたのはヒナだった。

 

「先生……動いても大丈夫なの?」

 

「ん、大丈夫大丈夫。ぱっと見は酷いけど、中身は大体治したからさ」

 

 腕を軽く回して元気アピールをした後は、「急いでるから、また後でな」と言って早足で去ろうとして……左腕に掴まれた感覚が走る。振り向くとホシノ……だけじゃない、みんなが俺の手を掴んでいた。

 

「……あの」

 

「離さないからね」

 

 俺が何かを言う前に、ホシノに遮られた。そのむすっとした顔と威圧感のある声に、思わず黙らされる。

 

「また一人でやろうとしてるでしょ。エデン条約の時みたいにさ」

 

「分かってるなら「じゃあ離すわけないって分かるよね?」

 

 ……よく見ればホシノだけじゃなくて、みんな怒ったような顔をしていた。普段見たことのない顔に気圧されながらも、負けるわけにはいかないと言葉を絞り出す。

 

「言いたいことは分かるよ。頼れってことだろ? 分かるけど……でも今回だけは、みんなが傷つくし……何より、あいつだけは……」

 

「別に、カケルは頼ろうとしないでいいよ」

 

「……えっ?」

 

 予想外の言葉に、かなり間抜けな声が出た。ホシノは悪戯っぽく笑うと、その真意を話す。

 

「よく考えたらさ、頼ってくれなんていうのが間違ってたんだよ。どうせカケルは本当に必要な時は頼らないのにね」

 

「……そうだな。分かってくれたなら……」

 

「まあだからさ。私たち、カケルが拒否しても勝手に協力することにしたから」

 

「は?」

 

 もう一回、間抜けな声が出た。驚きに身を固める俺に、人混みの中から出てきたミカが話しかけてくる。

 

「先生が一人で突っ走っていくなら、それを引き戻すんじゃなくて一緒に走ればいいじゃんって、私たちみんなで話したんだよ」

 

「ミカ……」

 

「先生は私のことお姫様って言ってくれたけど……私、守られるだけのお姫様にはなりたくないから。私の王子様と一緒に戦いたいんだ」

 

「んー? ミカちゃん、誰が誰の王子様だって?」

 

「あはは、昔馴染みだからって油断してたら私が貰っちゃうからね?」

 

 いつの間に仲良くなったんだ、なんて今考えるべきでないことを考えてしまう。それくらい、言われたことが理解できない、というよりしたくない。

 

「……なんで、そこまで」

 

「先生が倒れたのを見て、みんなショックだったの」

 

「ヒナ……どういう意味?」

 

「あなたは最強で、何でもできる人だと思われていたから。そんな人でも倒れてしまう……そのことを知って、みんな居ても立っても居られなくなった」

 

「……それだけじゃ説明つかないだろ、これは」

 

「だからもう一つ理由があるの。みんな、あなたのことが大好きだからって理由がね」

 

 ヒナがそう言えば、後ろのみんなもうんうんと頷いている。その光景も、言っていることも、その全てが嬉しくて、受け入れ難い。

 

「もうカケルを一人にはさせてあげないから」

 

「……一人にしてくれよ。傷つくのは、俺だけでいいんだよ。これはお前らが背負う問題じゃない。俺とあいつの、俺だけが背負うべき問題だ」

 

 何度も脳裏に過ぎるあいつの顔。思わず手をぎゅっと握りしめた。そんな俺の様子を見ても、誰も引き下がってくれない。

 

「キヴォトスの危機なんでしょ? そんな寂しいこと言わないでよ」

 

「何でそのこと……さては聞き耳立ててたなお前ら」

 

「はてさて何のことやら……そうでなくてもさ。カケルが巻き込まれてるなら、私の問題なんだよ。親友のこと心配して、何が悪いの?」

 

「先生のことを心配するのもね!」

 

 だから勝手に行動するね、という彼女たちを止める術は、もう力づくしかなくて。握りしめていた手を離し、手のひらを向けようとして……だけど俺には、俺の隣に立ちたいと言ってくる彼女たちを拒否することはできない。

 

 この心地よさを否定しきれない自分が、どうしようもなく嫌いだ。

 

「……勝手にしろ」

 

「!」

 

「ただ、もちろん俺も勝手させてもらうからな。お前らの手柄なんて残してやらねえから、やること全部無駄になる覚悟はしておけ」

 

「……上等!」

 

 ああ本当に、何でそんなに目を輝かせられる。俺にそこまでする価値なんてないのに、何でそこまで嬉しそうにできる。何でそこまで俺のことを……

 

「……ともかく、一旦俺はシャーレに帰るから」

 

「何で?」

 

「着替えに行く。それに情報を集めるなら……いや何でもない」

 

 情報源って意味なら、ゲマトリアがいる俺の方が有利だ。こんな場所で呼び出すわけにもいかないから一度シャーレに戻って、それからぱぱっと色彩の居場所を特定して、ぶっ倒してしまおう。

 

 問題はその倒し方なんだけど……早いところ思いつかないとな。術式すらよく分かってない以上、何回か情報を取る戦いは必要かな。

 

「じゃ、俺は帰っておく。お前らも程々にしておけよ」

 

「冷たいね?」

 

「当たり前だろ。こんな馬鹿みたいなことやってないで、お前らは普段通り過ごしてりゃいいんだよ」

 

 


 

 

 シャーレに戻ってきた俺は服を着替えて、ゲマトリアに接触しようと試みていたが……誰も現れる気配がない。いつもなら虚空に呼びかけたらすぐに出てくるのに……

 

 まさかあいつらにも何かあったのか? だとしたら最悪だな。

 

『先生……今からでも、生徒の皆さんと連携したほうがいいんじゃ……?』

 

「無理だよ。あいつらを、こんなことに巻き込むわけにはいかない……あいつらが変に踏み込む前に、俺一人で片付けないと」

 

『で、でも! それだと先生の負担が増えるばかりで……』

 

「いいんだよ。そんなこと」

 

 体の調子は悪くない、重要な器官は治したから当然っちゃ当然だけど。ぱっと見は火傷のせいで酷い怪我に見えても、治せてないのは皮膚と神経。神経がない以上痛みも感じないし、実質無傷みたいなもんだ。

 

 この状態ならキヴォトス中を探索するくらいなら容易だ。ついでにゲマトリアも探しつつ、色彩と接触したら即撤退。こんなところか。

 

 考えもあらかたまとまったところで、外に出ようとした……その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 青空が、反転する。

 遠くまで透き通っていたあの青が、突如として恐怖を呼び起こすような赤へと変化した。

 

「!? これは──」

 

「ようやく理解に至った──これは、お前たち二人の物語だと」

 

 聞こえた声に反射で拳を繰り出すが、寸前でその姿を捉え、拳を止める。渋い色のコートを着て、恐怖に叫ぶ人の顔が描いてある絵を顔の位置に掲げるそいつからは、ゲマトリアに似た雰囲気を感じ取れた。

 

「誰だ」

 

「私はゴル……いや、彼はもういないのだったな。改めて、私はフランシス。デカルコマニーと共に、新たにお前を見守る者。従って、最後の宣告を傾聴せよ」

 

 このポエム調、気味が悪い雰囲気、そしてそのくせ俺に手を出してこない……うん、多分ゲマトリアだな。

 フランシスと名乗った男(?)は仰々しく話し始める。

 

「初めから、歪みは生じていたのだ。存在しないはずの呪術という概念、覚えのない技術、いるはずのない男。全てはかの先生が世界にやって来たことから始まった。彼がこの世界を呪術という概念で解釈し、世界は歪んでしまった」

 

「……」

 

「そしてその歪みの果てが、お前たちだ。今の壊れた物語の中心には、お前たちがいる。学園と青春を宿した物語に似合わぬ異物。それは世界そのものが覆されたこの状況で真価を発揮する。嗚呼、呪いを宿した者よ……お前たちは表裏一体。殺し合うほか道はない」

 

「……」

 

「この先の道を決められるのは、他でもないお前たち二人だけだ。何も持たぬ者によって全てが終局へ導かれるか、無限の可能性であるお前によって始められるか──」

 

「長い」

 

 うんざりした声でそう言ってやれば、フランシスとやらは黙り込む。

 

「そういうのはどうでも良いんだ。そんなこと知ったって、現状も、俺がやるべきことは変わらない。俺はあいつをぶっ倒す……それが、俺が出した結論だ」

 

「……流石は世界に望まれ、生まれ出た者──であるならば、私は見守るとしよう。お前の選択を、その先にあるエンディングを──!」

 

 そう言ったあいつは、一瞬にしてどこかへ消えていく。それを見届けた俺は、すぐさま外の風景に目を向けた。地平線まで真っ赤に染まった、変わってしまった世界を。

 

『先生……今のは……』

 

「あのゲマトリアが生きてたってことは、黒服も生きてるはずだ。まずはあいつと接触する……アロナ、各地のカメラのハッキングいけるか?」

 

『……任せてください! アロナは、先生の相棒AIですから!』

 

「ありがと」

 

 流石アロナ……と思っていると、『あっでもその前に、生徒さんたちからいっぱいメールが届いているんですがそっちは……』との声が聞こえてしまった。

 聞かなかったことにして場を凌ごうと思ったが、じとーっとした視線を感じる。それでも無視しようと思ったけど、ため息が聞こえたと思ったらアロナが熱く語り始めた。

 

『先生、意地を張ってる場合じゃないですよ! 先生一人では無理なことだってあります! 状況が明らかに変わった今、少なくとも情報面では生徒さんと連携するべきです!』

 

「いやでもさっきあんなこと言っておいて、すぐに撤回するのはちょっと流石に情けないというか……」

 

『そんなこと気にしている場合じゃないですって! ああもう、私から勝手に連絡しておきますからね!』

 

「ちょ」

 

『えーっと、「先ほどはあのような態度をとってしまい申し訳ありませんでした……」』

 

「堅苦しっ」

 

 ついツッコんでしまったが、こんなことをしている場合じゃないんだよ。俺は一人で……あーもう、何でこう上手くいかないかなあ! 俺の周りの奴らが俺の言うこと聞いてくれない……

 

「はあ……アロナ」

 

『メッセージの送信なら終わりましたよ! それで、次は黒服さんの居場所探しですね。少し待ってくださいね……』

 

「……お前なあ……ああもう、なんか疲れてきたよ……」

 

「それは大変だね。私が楽にしてあげよう」

 

 

 

 ……は?

 

 

 

 肩に、ぽんと手が置かれた。誰かに声をかけられた。数秒遅れてその事実を認識して、冷や汗が止まらなくなる。心臓の鼓動が一気に加速して、恐る恐る後ろを振り向けば……そこに、そいつがいる。

 

「なん、で」

 

「言っただろう。次は殺すと」

 

 

 

 

 

「領域展開」

 

 

 

 ──暗闇だけが、広がっている。どこまでもどこまでも、全てを飲み込む虚無が、果てしなく続いていた。

 下を向けば、墓標が無数に立てられている。石造りなのか灰色の墓標は、この世界で俺たちを除いて唯一存在している足場。

 

 目の前を見れば色のない世界の中で、そいつだけがただ色を持っていた。

 

 

 

 

 

虚燈冥漠(うつろあかりのめいばく)

 

 

 

「はい、お終い」




小話:フランシス
裏設定を全部言った。今後そこら辺は触れる予定があるのでここでは言及しないが、あの台詞たちの中に全部詰まってる。

次回は二日後です。
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