呪われ男の先生代行譚   作:一般人参

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今後の予定について少しだけ語ります。

アビドス編が終わるまでは毎日投稿して、その後幕間を二話ぐらい挟んでからパヴァーヌをやります。パヴァーヌ入ってからはもしかすると投稿頻度が下がるかも。ちなみに投稿する時間は18時です。今決めました。


8. ゲヘナの風紀委員会

いつかの時にも実感したことだが、アビドスのみんなは本当に強い。

元から全員神秘の量が一般生徒より多めなことに加えて、ずっとヘルメット団とかとやりあってきたからか戦闘の仕方も他の生徒と比べて上手な感じがする。

俺……というか、アロナのサポートが無い状態でもそんな感じでハイレベルなのに、そこにアロナサポートが入ると……本当に文字通り、敵無しになる。

 

ほとんどのメンバーが戦闘不能になって、座り込んでいる風紀委員会。それと対称に、多少傷付いてはいるが全員立ったままのアビドス。

それを見て、改めてそんなことを思った。

 

さて、そういうわけで風紀委員会に無事勝利したわけだが……ここからどうしたものか。あんまり俺が介入しすぎるのもアレだしなあ……まあでも、最初は挨拶からか?

 

「や、久しぶり。チナツ」

 

「先生……こんな形でお目にかかるとは……」

 

頭に手を当て、やれやれといった風に頭を振る彼女はチナツ。前、シャーレの仕事を手伝ってくれた一人。というのも、俺が「シッテムの箱」を手に入れるために動いていた時、助けた三人の少女たちのサポートをしていたのがこの子だったらしく、その縁で一度シャーレの仕事の助っ人をしてもらっていたのだが……まさかゲヘナ所属で、しかも風紀委員会だったとは。

 

チナツは俺がアビドス側にいた時点で即後退するべきだったと語る。先生がいる時点で、勝ち目はないと。

そんな評価されるほど何かしてきたわけでもないと思うが……いつのまにか外部からの評価がとんでもないことになってら。

 

少し話が逸れた。

ひとまず、アヤネが風紀委員会に対話を持ちかけたので、俺は傍観することに決めた。

 

『アビドス対策委員会の奥空アヤネです。所属をお願いします』

 

その問いかけに、風紀委員会の一人である銀髪ツインテの子が何か答えようとしたところで

 

『それは私から答えさせていただきます』

 

目の前にホログラムが出現した。青い髪をした……えー……胸の横が空いている、非常に独特な格好をした少女だ。

 

『こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。今の状況について少し説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?』

 

その少女は、そう言って優しげに笑った。

が、後ろの風紀委員会たちが明らかに緊張してるのも相まって、恐怖の大魔王にしか見えないな。

 

ふとアビドスのみんなに目をやると、三人とも鋭い目つきで風紀委員会を睨みつけている。

風紀委員会も、負けないぞと言わんばかりに睨みつけ返している。

そして俺に抱えられ、黙りっぱなしの便利屋。

 

なんか俺だけ場違いじゃね?

 

そんなしょうもないことを俺が考えてる間も、事態は進んでいく。

正直、まさに一触即発といった状況で、今すぐもう一回開戦してもおかしくないほど張り詰めた空気なのだが、一応向こうは対話する意思はあるようで、未だ何人か銃を構えていた風紀委員会たちを落ち着かせてくれた。

 

そのまま話は進んでいく。とは言っても、結局のところ和解は成り立ちそうにない。こっちは便利屋を譲る気はないし、向こうも同じく譲る気はない。このままだと確実に風紀委員会と再戦することになるだろうな。

向こうもこちらとやりあうのは面倒くさそうだし、このまま穏便にいけばよかったんだけど……

 

『ふぅ、この兵力を前にしても怯まないだなんて……これだけ自信に満ちているのは……やはり、信頼できる大人の方がいるからでしょうか?……ねえ、先生?』

 

あ、マジ?これで俺の方に飛び火すんだ。いや、別にいいけどさ。

 

「否定はしないけど……俺がいなくても、この子たちは怯むことはなかったと思うよ」

 

『そうですか……シャーレの先生。あなたも、対策委員会と同じご意見ですか?』

 

「まあね。今はアビドスの先生なもので。あとは……便利屋は、多分そんなに悪い子たちじゃないしね」

 

「いやいやいや!悪人に決まってるでしょ!ラーメン屋を爆発させたのよ!?」

 

セリカから正論が飛んできた。それはそう。アレは悪いことなので後で説教はする。

そう言おうとしたのだが……シロコが気づいたら論破して納得させてた。アビドスのみんなを狙ってたならあんなタイミングで爆発させるわけないでしょ。つまり間違って爆発させたんだね。

腕に抱えてるアルの顔が真っ赤になってる気がするが、まあ自業自得だろう。可哀想だけど。

 

まあとりあえず、こちらとしても柴関ラーメンを爆発させた責任は取らせなきゃいけないし、聞きたいこともあるしということで譲ることはできない。という意見でまとまった。

要するに、交渉決裂である。

 

そういうわけで、戦闘が始ま──!?

 

「う、うあああああああああっ!!」

 

「なっ、!?」

 

一瞬。俺の意識が完全に風紀委員会に向けられた時、抱えてた便利屋の一人、ハルカが無理やり腕の中から抜け出した。

まさか抜けられるとは思わず、硬直する俺にハルカは至近距離でショットガンをぶっ放してくる。容赦が無い!

 

傷はついてないが、デカい衝撃で体が多少のけ反る。その隙に他の便利屋も腕の拘束から抜け出した。

抜け出した便利屋たちはこちらを攻撃する……ことはなく、逆に風紀委員会の方に向かっていく。何で?というか何で今のタイミング?

……まあ、いっか!

 

それにしても、まさか抜けられるとは……呪力強化が少しお粗末になってたか?反省しなければ……戦場でこれをやらかせば死にかねない。

 

いや、今はそれより便利屋だ。

彼女たちはこちらに攻撃はしてこず、風紀委員会にだけ攻撃をしている。唐突な出来事に風紀委員会も混乱しているらしく、だいぶ状況がカオスだ。

 

この機に乗じて、こちらも風紀委員会を叩くべきだな。そう考えて指示を出そうとしたところで、何やらアコとカヨコが興味深い話をしていることに気がつく。

カヨコによれば、風紀委員会の目的が便利屋というのは嘘らしく、その本当の目的はシャーレの先生らしい。ふーん、シャーレの先生ね。つまり……

 

「え、俺?」

 

え、俺?

いやいやさすがに冗談でしょう。俺に一体何の価値があるというんだ。だって俺は……あー……ごめん。やっぱり結構価値があるかも。

 

カヨコに指摘されたアコは、バレてしまっては仕方ないと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべた。同時に、アヤネから報告が入る。

三、六、九、十二時それぞれの方角からさらなる風紀委員会の兵力が集結しているとのこと。

 

しかもなんかいっぱいいるらしい。みんな疲弊しているし、このままだとまずいかも……今回狙われてるのは俺なわけだし、俺が動くべきか?

 

風紀委員会以外のみんなが驚き、絶望している中、アコは語る。

きっかけはティーパーティーだったのだと。ゲヘナと犬猿の仲であるトリニティ。その最上部が何やら「シャーレ」というものに関する情報を掴んだらしい。

なら、こっちも知っておかなきゃいけないよね。そういうわけでゲヘナもシャーレについて調べたところ、分かった情報は、失踪した連邦生徒会長が残した正体不明の組織で、おまけにほぼ何でもできる権限を持ってて、その担当は正体不明で怪しげな大人だという。なんかいつの間にか俺が大人にされていることに異議を申し立てたいが、それは一度後回しだ。

 

要はシャーレとは、ゲヘナにとっての何をするのかわからない存在(アンノウン)。あまりにも不審で不穏。不確定的で放っては置けない。だからせめてエデン条約が結ばれるまでは俺を管理下に置いておきたい……そういう話らしい。

 

ちなみにエデン条約とは、犬猿の仲のトリニティとゲヘナが友好を交わす第一歩としてかつて連邦生徒会長主導で進められていたもの。詳しくは知らないが、恐らく双方にとってとても大事なものなのだろう。だからこそ、それ関係で忙しい今の時期に不確定要素は排除したい。ということだな。

 

ふーむ、なるほどな。言い分はわかるし、理解はする。だが、だからといってはいそうですかとついて行くわけにもいかない。

俺にはやるべきことがあるんだ。そのためには、拘束などされていられない。

 

アビドスのみんなも、俺を渡すわけにはいかないと敵対の意思を改めて露わにしてくれている。ちょっと嬉しい。

だが、正直アビドスだけでは風紀委員会に対抗することはできないだろう。いくらこちらが精鋭といっても、向こうは数が多すぎる。まあ俺が加勢すりゃ塵も同然だが。

とはいえ、念のため援軍を要求したいところだが……

 

「便利屋のみんな。悪いけど、一緒に戦ってくれるか?そしたら、柴関ラーメンの一件は……」

 

「ふっふっふ……先生。私たちを誰だと思っているの?」

 

となると、風紀委員会と敵対している便利屋を味方に引き込むしかない。そう考えて、便利屋に交渉を持ちかけたのだが……何やら、急に出てきたアルが怪しげに笑っている。

 

「言われずとも、そうするつもりだったわ。ただ勘違いしないで欲しいのは、私たちは自分の意思であいつらと戦う、ということ」

 

「……つまり、どういうこと?」

 

「つまりね……」

 

……なんか変なこと言いそうな予感がする。カヨコもアルの口を咄嗟に塞ごうとしたが、もう遅い。

 

「私たちに、報酬はいらないわ!報酬をもらうから戦うなんて、そんな三流の悪党みたいな真似はしない!私たちは、自分たちで決めて、自分たちで進んでいくのよ!」

 

カッコよくポーズを決めて、決まったという表情をするアル。この子顔に何でも出るな。

 

「そっか。それじゃあ後で説教はちゃんとするな」

 

「ええ、もちろん……今なんて?」

 

「後で説教な」

 

「え???」

 

初耳なんだけどと言わんばかりの表情をするアル。それにカヨコは呆れたように大きいため息をつくと

 

「……社長、もしかして話聞いてなかったの?」

 

と言ってアルに耳打ちをした。そしたら、アルは少し固まった後、白目を剥いて、絶叫。

 

「な、な、な、なんですってーーー!!??じゃあ、あのままだったらお説教されなかったってこと!?」

 

「いやーアルはすごいなあ。まさか自分から説教を受けにいくなんて。本当に尊敬するよ」

 

「えっいや、あ、あう……そ、そうでしょう!私たちは、そう……すごくカッコいいのよ!だから!!報酬はいらないわ!!!」

 

「社長、動揺しすぎて語彙力が吹っ飛んでるし、声が大きいよ」

 

心なしか涙目だしな。でも、言い切ったのはカッコいいと思うよ。うん。

……まあ、さすがに可哀想だしちょっと注意する程度におさめておくか。

 

とにかく、一波乱あったが便利屋たちと共闘することなった。

 

「よっし、便利屋っ!挟み撃ちするわよ!!この風紀委員会、コテンパンにしてやらないと!!!」

 

「全力でやるよ」

 

「はい!!先生には私たちも色々とお世話になりましたので!絶対に成功させます……!」

 

上からセリカ、シロコ、ハルカである。君たち意気投合早くない?さっきまでだいぶ険悪だったような……まあ、いっか。

そういうわけで、向こうも準備万端っぽいし、いよいよ開戦といこう。

 

『風紀委員会、攻撃を開始します。対策委員会と便利屋を制圧して、先生を安全に確保してください。先生はキヴォトスの外部の人なので、怪我をさせないように十分注意を』

 

「あ?何それ?俺はキヴォトス内部の人間だよ?」

 

『え?しかし、ヘイローは……』

 

「あー、昔無くしたんだよね。だからといって弱くなったわけじゃないし、むしろ強くなってるから、全力で来ていいよ。今回は俺もやる気だからね……」

 

少し準備運動をして、戦闘態勢をとる。

 

「じゃないと、すぐに負けることになるぜ?」

 

『っ、……なるほど。みなさんさっきの命令は撤回します……全力で、先生を攻撃してください』

 

そして、戦いが始まった。

 

 


 

 

先生……もとい九条カケルの術式は、()()()()()

 

だが、彼が攻撃に順転のそれを使用することはない。攻撃に使用されるのは、反転。

正のエネルギーを流し込むことによって反転した術式効果は、呪力の吸収。彼が攻撃に用いるのはこちらの方である。

 

だが、単なる術式反転では術式対象は呪力のみのため、呪力を持たぬキヴォトス人に対する攻撃手段とはならない。

そこで彼は、術式反転を使用する条件として

 

①直接

 

②手のひらで

 

の二つを条件として加えることで、術式対象を拡張。呪力以外にも、運動エネルギーや電気エネルギー。神秘といった、あらゆるエネルギーを吸収することを可能とした。

 

また、本来の術式反転による吸収は、そこまで出力が強いというわけではない。それゆえに人一人のエネルギーを吸収するのにはかなりの時間がかかる……はずだった。

だが、彼はその弱点を自らの異常な呪力出力によってカバーしている。

 

九条カケルと相対するものは地獄の鬼ごっこを強いられる。

触れられれば、ほとんどの人間は一瞬にして動くためのエネルギーを吸い取られ、戦闘不能となる。神秘の量が多い者であれば、代わりに神秘が盾となって全て吸われるまでの時間制限(タイムリミット)があるが、だとしても十数秒触られればゲームオーバーだ。

そして、その鬼は人間には視認し得ない速度で動くのだ。

 

戦闘が始まって十分足らず。風紀委員会の全部隊が地に伏せることとなった。

 

「言っただろう。全力で来なければすぐに負けると。それとも……これが全力だったか?」

 

『……な、』

 

天雨アコは絶句した。ヘイローがないのにも関わらず、謎の力を駆使し、あり得ない速度で全部隊を鎮圧した先生に。

その上、彼には確かに銃弾が当たっているはずだった。しかしその銃弾は彼の肉体にかすり傷一つつけられていないのだ。

彼女の目には、彼が無敵にしか見えなかった。

 

一方、九条カケルは……内心焦っていた。

 

その理由の一つは、彼を後ろから貫くその視線である。

私たちがいる必要あった?と目で語ってくる生徒が何人かいるのだ。すんません。ちょっとはしゃぎすぎました。

ちなみにアルちゃんは上機嫌にどんなものよ!と笑っている。かわいいね。

 

だが、実際その視線は理由の三割程度である。では、残り七割とは?

 

彼は二年前の時も、同様の能力を使って暴れていた。

そして、キヴォトス人の能力持ちは基本的に数が少なく、その能力が被ることは無いと言っても過言では無い。

 

要するに、これ正体バレのキッカケになるのでは?と焦っているのだ。

 

久しぶりの運動だからと少々暴れすぎた。楽しかった。さて、どうしようかな。

まるでおもちゃで散々遊び尽くした後、後片付けをしなければならない子供である。

 

そういうわけで、全部隊が鎮圧され、戦いは終わったのにも関わらず誰も喋ることは無い。

乾いた風が吹き、硝煙の匂いが場を満たす。

 

あまりに長い沈黙に、アルですらなんで黙ってるのかしら?と正気に戻り始めたところで……風紀委員会に通信が入った。

 

『アコ』

 

『……え、えっ!?ひ、ひ、ヒナ委員長!?』

 

ゲヘナ風紀委員会、そのトップ。空崎ヒナ。彼女がアコに連絡を入れた。

 

彼女はどうやら出張をしていたらしく、現在の状況がわかっていないらしい。ただ、ゲヘナの自治区に風紀委員会がいないことを疑問に思い、アコに連絡を入れただけのように見える。

それに対してアコは当然大きく焦る。今回の先生捕縛作戦は彼女の独断によるもの。バレれば当然反省文山積みである。さらに言えば、独断の作戦で彼女は完全敗北を喫している。

バレるわけにはいかない……!そう考えて、適当な嘘をつく。

 

既に、手遅れであるにも関わらず。

 

先生たちの目の前に、空崎ヒナが現れた。

それも、ホログラムではなく、ちゃんと実態を持った本物。

 

『……え?……えっ?……え、ええええっ!?』

 

アコによる見事な「え」の三段活用。みんなも小説を書くときにはアコの驚き方を参考にしてみよう。

 

「……アコ。この状況、きちんと説明してもらう」

 

アコは 目の前が まっくらになった!




縛りについての補足説明。どうでも良い方は読まなくても大丈夫です。

反転を発動する条件として、直接触れることと、手のひらを使うことを設定したと作中で説明しましたが、手のひらを使う= 直接触れるじゃないの?と思われるかもしれません。

そこを補足すると、本来の術式反転は一定の範囲内にいるものの呪力を吸い取るという効果です。エネルギーフィールドみたいなのが張ってあって、そこに入ると呪力を吸い取られるみたいな感じです。なので、単に手のひらを使うことだけを条件にすると、手のひらの延長線上にあるものから呪力を吸い取る、といった感じになります。手のひらが向けられていれば、触れていなくても呪力を吸収できるわけですね。なので、直接触れることと手のひらを使うことはそれぞれ別の条件となっています。
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