風が強く吹いていた。
赤色の空の下、二人の人物がシャーレの屋上に佇んでいる。一人は九条カケル。何を思っているのか、その服装は仕事着ではなく私服である白いシャツと半袖の黒いアウターを着ている。
一人は小鳥遊ホシノ。長いピンクの髪を一つにまとめたポニテ、そして普段の制服の上に防弾ベストを着込んでいる様は、これから大きな戦いに臨むのだということへの気概を感じる、
二人はどこか遠くを見つめていて、心ここに在らずといった雰囲気だ。風に髪をなびかせ、遠くを見つめ続ける二人。
呪力が爆ぜるような感覚がした。
「……準備万端というわけか。それにしても、出迎えがたった二人とはもの寂しいね」
「やっと来たな。いい加減待ちくたびれてこっから離れるところだったぞ」
虚妄のサンクトゥム襲来より三日。世界滅亡まで残り十一日。
色彩、シャーレの屋上に襲来。
「火傷、治したんだね。似合っていたのに」
「センスがなかった上、趣味も悪かったからな」
「残念、気に入ってもらえると思ってたんだけど」
わざとらしく肩を竦める色彩。その仕草一つ一つに余裕があり、あからさまな侮りの目をこちらに向けていた。
「そんなことより、自分の心配をした方がいいぞ。今日がお前の命日になるかもしれないからな」
「へえ?」
「お前の体は一定時間が経つと自壊し始めて、どこかに戻って何かをする必要がある。つまり、それをさせなきゃお前は死ぬってことだ」
指を突きつけてそう言ってみると、色彩は面白いと言うように笑う。
「できるの?」
「できないと? ここにいるのはお前が全力で殺そうとして二回も殺し損ねた奴と、お前に傷をつけた奴だぜ?」
「……小鳥遊ホシノ、か」
ずっとカケルを見ていたその瞳が、ようやく彼女を見る。その瞬間、向けられた圧と悪意に総毛立つホシノ。思わず一歩後ずさるも、色彩は興味がないと言わんばかりに再び視線をカケルに戻した。
「所詮はただの生徒、前回だってまぐれに過ぎない。こんな雑魚に頼るとは破滅的だね」
「その雑魚に傷つけられたくせに。ブーメラン刺さってるぜ、前回の傷が頭にまで響いたか?」
バチバチと火花を散らして煽り合う二人。今にも戦闘が始まりそうなほど、張り詰めた空気だったが……カケルは一つ、大きく息を吐く。
「……なあ色彩。一つ聞きたいことがあったんだよ」
「答えてあげよう」
「何で壊す。何で殺す。どうしてお前は不幸を振り撒かずにはいられない」
鋭く見つめられてなお、色彩はその余裕のある態度を崩さない。薄気味悪い笑みを保ったまま、それは答えた。
「私が色彩であるから」
「……人の生を尊いとは思わないのか。必死に生きる人々に、価値を見出してあげられないのか」
「いいや? 人々はすべからく尊く、そこには何にも変え難い価値がある……そんなことは、先生の脳から得た情報で理解している」
「それでも、壊すのか」
「無論。価値があるからこそ壊すんだよ。ゴミをいくら砕いたって、ただ虚しいだけだろう」
「そうか……」
その答えに、カケルは静かに目を伏せ……覚悟を決めたように見開く。同時にその体から呪力があふれだし、隣のホシノも同様に神秘を身に纏った。
それを見て色彩も戦闘体制に入る。嵐の如く、恐怖が吹き荒れた。
「安心したよ。お前のことは遠慮なく殺してやれる」
「できるものなら、やってみるといい」
静かに向き合う二人と一人。どちらも動き出す契機を見いだせないが、そんな中でも色彩は思考をやめてはいなかった。
(小鳥遊ホシノは恐らく領域対策……下手に領域を使っても逃げられるだけだろう。領域は使いづらい……となると、純粋な火力勝負か。だがそれでいいのかな? 私が模倣している術式は、破壊力の高いものが多いというのに)
吹き荒ぶ風が、色彩に収束していく。その異常に気がついた二人が、一斉に屋上から飛び退いたその刹那。色彩を中心として大きな嵐が発生する。
ゴオオと異様な音を出して回転する空気は、辺りのものを削り取りながら徐々に大きくなっていった。
「さあ、始めようか!」
「ホシノ」
「ん」
簡素な言葉で意思疎通をした二人。ホシノがカケルの足を掴み、ぐるぐると回してから色彩に投げ飛ばした。弾丸のような速度で嵐に突っ込んだ彼はそのまま突き破り、色彩の顔に拳を食らわせる……しかし色彩にダメージは見えない。
(出ないか)
「近づいてきていいのかな?」
色彩を覆っていた嵐が収束し、その腕に収まった。触れたもの全てを抉り取る腕がカケルを襲うも、軽快にステップして避ける。
その間にホシノが空を蹴って屋上に舞い戻る。そして後ろから色彩を殴った。
無防備な背中に直撃するが、やはりダメージはない。
「黒閃狙いか……運任せの勝負とは、ずいぶん余裕が無さそうだね」
「ばぁか、余裕があるから運任せなんだよ。攻撃の一つでも当ててから言うんだな」
「良いだろう、その挑発に乗ってあげる……極の番」
環境に適応し続ける最強の式神を顕現させる技。時間が経てば経つほど強くなるこの技は、放っておけば二人の命にも届きうる。
海孵を発動させた次の瞬間、一見何もない場所に輝綫が撃ち込まれる。その無意味に見える行動に、色彩が大きく目を見開いた。
「海孵は、発動直後のプランクトン一匹を倒せば実質不発。悪いがその技は前に見せてもらったことがあってな」
「……!」
「どうした色彩、この程度で驚いてるのか? 笑えよ」
言葉が出てこない色彩の腕をカケルが掴み、屋上から外へ放り投げる。同時にホシノも屋上から飛び出し、空を蹴って色彩に拳を振りかぶった。そして衝突する──その瞬間、黒き火花が散る。
「ちっ……」
「よっし」
してやったりと笑うホシノ。その腕の先にある色彩の体が凹んでいる。黒い残光が舞う中で、ホシノが踵落としを色彩に食らわせた。衝突の瞬間、またしても黒き火花が花火の如く散る。
黒閃を受けた箇所から少量の血を飛び散らせ、凄まじい速度で落下していく色彩。だがその顔は先ほどの苛立ったものではなく、すでに笑いを浮かべている。
その姿がふっと消えた。次の瞬間には屋上に立っていたカケル、その隣にパッと現れており不意打ちで殴る……はずが、カケルの腕に阻まれる。
「瞬間移動は発動前にほんの少しタメがあるのと、移動先に呪力が爆ぜる感覚がある。だろ?」
「残念ながら私は色彩だから、君のことを褒めはしないよ。口答えしない木偶の坊に縋り付いてるんだな」
「誰のせいでそうなったと……!」
色彩が雷の術式に切り替え、腕に電流を纏わせた。腕に接触していたカケルにその雷が流れ込み、体が痺れて僅かに硬直する。その隙を逃さず色彩が反対の手でカケルを殴り飛ばした。
吹っ飛んでいく彼に追撃をかけようと、色彩が術式を海に切り替えて手を合わせる。そして水の圧縮を始めたところでホシノが空から襲来、蹴りを食らわせた。
咄嗟に体を回転させて受け流す色彩だが、体勢を立て直す頃にはホシノが拳を構えている。その腹に打ち込まれた全力の正拳突きは、またしても黒い光を伴った。
(さっきから当然のように黒閃を……! いくらキヴォトス全土のエネルギー量に匹敵するものを持っていても、このレベルの出力が2.5乗されればダメージが通る……! 忌々しいが、今危険視すべきなのはゾーンに入っている小鳥遊ホシノか)
雑魚と侮っていたホシノが存外強いことに僅かに動揺するも、現状を冷静に受け止め思考を修正する。その一方で、カケルとホシノも吹き飛んでいく色彩を追いかけながら、思考にふけっていた。
(ホシノのやつ調子いいな……だけど三回黒閃を受けて、まだ体が崩れる様子がない。俺らに襲撃するまで三日かかってたあたり、前より丈夫ってことか? 前回は一日で襲ってきたから脆かったとか……)
(手応えはあるし傷ついてるのに、体が崩れない……でも今なら何回でも出せる気がするし、まだまだ殴る!)
三者三様の思考の中、最初に動いたのは色彩。
──神秘は、術式を進化させる。ならば神秘と≒である恐怖もまた、術式を進化させるのだろう。別次元のエネルギーは術式そのものに影響を与え、さらなる可能性を開く……それは、模倣術式も例外では無かった。
「!?」
空より、嵐を纏う隕石が落ちてくる。先ほどのものとは比べ物にならない嵐と、それに付随する隕石。着弾すれば辺り一帯が消し飛ぶことは十分にあり得ると思ってしまうほどの、破壊に特化した一撃。
模倣した術式同士の掛け合わせ──進化した模倣術式が到達した新たな可能性。
「一度仕切り直そうか」
「ちっ……ホシノ、射線上に入るなよ」
言いながら即座に弓を構えるような仕草を取る。隕石が地上に衝突するまでの凝縮された時の中、唱えられた呪詞。
「 “白花” “立射” “別ちの線条” ──煌矢」
青く光り輝く矢が、隕石を貫かんと飛び出した。だが纏っていた嵐がその威力を減衰し……煌矢は隕石を消滅させることなく、バラバラに砕くのみにとどまる。
空から小さな瓦礫が雨のように降り注いだ。同時に色彩はその瓦礫を足場とし、ホシノに肉薄する。
勢いのついた拳、ホシノはそれを空を蹴ることで華麗に躱してそのまま蹴ろうとしたが、その瞬間には色彩は大きく離れていた。そのまま色彩は手を合わせて、その狙いを定める。
「穿血」
雷を纏う水がビームの如く発射された。ホシノはそれを間一髪で顔を動かして直撃を避けたが、纏わりついていた雷が彼女の体を感電させる。僅か一瞬、されど一瞬。体が硬直して動かなくなった彼女を、雷を纏った拳で色彩が殴り飛ばした。
水色の稲光が散り、ホシノが吹っ飛ぶ。抵抗のできない彼女は、眼下の建物の一つに激突した。
(このまま追撃を……)
「させると思ってんのか」
声に反応して振り向いた瞬間、顔面に拳が衝突する。だがそれは黒き閃光を伴わず、であるなら色彩にダメージは入らない。
「黒閃を出せないなら、今の君は脅威じゃない。そこを退いたほうがいい」
「くそっ」
「せっかくだ、君にプレゼントをあげよう」
風と雷が吹き荒れるそれを、カケルは覚えていた。かつて戦ったセトの憤怒……その術式。広範囲を殲滅する、かつて蹂躙されたそれをカケルは繊細な空中移動と輝綫による相殺でやり過ごす。
(今のところ見えてる術式は、隕石、瞬間移動、火山、海、植物、雷、嵐、死……死を出してこないのは気になるな。やっぱ制限はありそうだ)
それを凌ぎ切った彼は、ホシノに向かっていく色彩に追いつくと再び殴った。当然色彩は動じないが、流石に鬱陶しいのか反撃をしてくる。それを避け、何度も殴打した。
(そして術式同士の掛け合わせ……今のところは二つまでの
「ちょこまかと……」
「空中戦なら俺に分があるみたいだな?」
紙一重で躱し続けるカケルと、攻撃を受けても動じない色彩。互いに傷をつけられず、色彩もホシノへ追撃をかけたいがカケルがことごとく邪魔をしてくる。泥沼の肉弾戦は数十秒続き、そしてカケルが色彩を羽交い締めすることで終わりを迎えた。
「何を──」
「俺じゃなくて前を見たほうがいいぞ」
言われた通りに視線が自然と目の前を向き、そこにあったのはホシノが激突した建物。そこからピンク色の影が飛び出し、気づけば色彩の顔に拳が迫っていた。
(四回目……! 流石にそろそろまずい……!)
「ホシノ! そのまま叩き込め!」
そんなこと分かっていると言わんばかりに、すでにホシノは構えている。もう一撃、色彩の顔面に叩き込む、寸前。
カケルの眼前に隕石が出現した。当然対応するまもなく、それは目の前で即座に爆ぜる。
至近距離にいた三人は当然、その広がる炎に巻き込まれた。黒い煙が滞留するそこから最初に出てきたのは、色彩。
そして次いで二人も出てくる。隕石を至近距離で食らったのにも関わらず、肌が多少焦げているだけだ。
(硬い……小鳥遊ホシノは黒閃を四回決めているから分かるとして、やはり問題はこの男。恐らくは呪力全てを常時肉体強化に回しているのか。だから呪力量が防御力に直結する。前回のように領域展開後なら致命傷になるが、今回の場合はほとんどがかすり傷で抑えられる……!)
(やっぱ思ったよりは痛くない。このまま畳み掛ける!)
カケルが腕をバレーのレシーブのようにし、その上にホシノが乗っかる。そして跳ね飛ばし、勢いのままホシノが五回目の黒閃を決めんと色彩に肉薄した。だが次の瞬間、色彩の姿が無数に増える。
(増えた!? 増殖の術……いや違う。呪力の圧がほぼない、増殖じゃなくて分身か!)
分身たちは呪力の圧がなく、そもそも実体もないようだとカケルは即座に見抜いたが、すでに攻撃体勢に移っていたホシノは突然のことで動揺し、分身を攻撃してしまった。拳が透かされる。
色彩の分身が消え、たった一人が残った。そしてその本体から赤い液体が大量に放出される。そのほとんどは分身であるものの、どれが本物か肉眼や呪力から判断することはできず、近づいてきた時の温度から判別するほかない。
さらに分身によって増えたように見える物量により、視界が赤で覆われ辺りが見えなくなった。実質的な分断にカケルは焦るも、溶岩に当たるわけにもいかず一度さらに飛び上がって避難する。
そしてその一方、色彩は一直線にホシノに向かって行っていた。溶岩の分身によって誘導されたホシノは色彩の目の前に無防備に現れてしまい、その隙を色彩は見逃さない。
「小鳥遊ホシノ、これで終わりだ」
「やばっ……!」
色彩もまた、百万分の一の先へと足を踏み入れる。黒閃をモロに食らったホシノは血を吐きながら地面に激突するが、フラフラになりながらも立ち上がった。自分の黒閃を食らってなお立ち上がる彼女に驚く色彩だが、体はすぐさま彼女にとどめを刺すため動きはじめる。
雷+海へ切り替え、穿血を放とうと手を合わせた、その瞬間。
「後ろだよ」
「!」
その言葉に反応するまま振り向くが、すでにカケルはいない。色彩の裏に回った彼は、平手の状態で指先を色彩の頭部に向けていた。
(いくらこいつのエネルギーが多かろうと、体全体を守る以上それは分散するはず。一点特化なら貫ける……そして受肉しているからには、脳みそも弱点)
色彩の防御を貫けるよう、限界まで凝固圧縮した超密度の呪力。呪力出力に限界がないからこそできる、触れただけで溶けてしまいそうなほどの呪力の塊を剣として手のひらに纏う。
「
ブンッと高速で伸びたその青い剣先が、色彩の脳みそを貫く……直前、その異様な呪力の起こりを検知した色彩が体を動かしたことで、その剣は色彩の頬と、その奥の建物をバックリ裂くのみとなった。
(外した……!)
「っ……危なかった、まさかこんな隠し玉を持ってたなんて」
そう言う色彩の額からは冷や汗が出ている。すぐさま肉弾戦の構えに切り替えたカケルは、ホシノの元へ行かせないようにまた色彩と至近距離で殴り合いを始めた。
「それにしても、今の技を出しても君の呪力量は減っているようには見えない。どういう理屈なのかな?」
「教えるかよ」
「……もしかして、術式に貯蓄していたり?」
「っ!?」
見事言い当てられたカケルは動揺し、色彩の拳を受ける。幸い黒く光ることはなく、勢いに押されて後退するだけで済んだ。
そして色彩は、ホシノの元に向かわず、カケルを静かに見ている。
その顔に、笑みが浮かんだ。
「はは、ははは! まさか本当にそうなのか!?」
「……だったら、なんだよ」
「いやいや、ここで君の術式を解明できて良かったというだけだよ。うまくカモフラージュしていたようだが、これで全て水の泡だな。それに君の術式、アレの
「……? なんの話だ?」
「今更シラを切るつもりか? 術式自体に貯蓄するのはアレだけだから、そこで分かるんだよ。普通の吸収なら本人に還元されるだけだが、あの術式は吸収というより……いや待て、本当に気づいていなかったのか?」
何か噛み合わない話に眉をひそめたままのカケルを見て、自分が先走ったことに気づいた色彩。墓穴を掘ったと言わんばかりの顔で、顔面に手を打ちつけた。
(俺の術式は普通じゃない……? それに
「……まあいい、ここで殺せば全部無かったことになる」
そう言うや否や、カケルに突撃してくる色彩。それを迎え撃ち、三度肉弾戦が始まる。
先ほどより多く攻撃を繰り出す色彩と反対に、避け続けるカケル。その脳内では、さっき言われたことに対する疑問がずっと渦巻いていた。
(術式……いや、今は考えている場合じゃない。けど、黒閃によるダメージの積み重ねもあるし、そろそろ自壊を始めてもおかしくはない。ここは一度凌いで、次に繋ぐ……)
(そろそろまずいな。術式による攻撃はほとんど効かない以上、私も黒閃を狙うほかないのに……ここで深追いして逆に黒閃を決められるのもまずいし、ここで引くべきか……?)
((いや、ここで終わらせる!))
両者の思考が一致する。
次の瞬間、カケルの正面にいたはずの色彩が瞬間移動で後ろに回った。その起こりを感知していたカケルが裏拳を繰り出し……その瞬間、またしても色彩が瞬間移動をする。連続で消えては現れてを繰り返す色彩。
(早い、インターバルがないのか? 範囲は俺を中心に10m前後の球体……そして瞬間移動先に、呪力の爆ぜるような感覚がある。だから次は、ここ──)
繰り出した一撃、その先に現れたのは触れるもの全てを削り取る嵐。嵐+瞬間移動の掛け合わせ、咄嗟に手を引っ込めるが晒した隙は大きかった。
(もう一度、黒閃を!)
色彩の最大出力の一撃。黒閃を出すという凄みが感じられるその拳に対し、カケルができることはもはやない。眼前に迫るそれを、瞳が映し出す。
その刹那、拳が逸らされた。ミートをずらされたその一撃は火花を伴わず、色彩が呆然と腕を見ればそこに小鳥遊ホシノがいる。そう認識した後、彼女がタックルをして腕をずらしたのだと認識した。
(黒閃を食らってなお──)
「カケル!」
「分かってる……!」
ホシノはそのまま腕を掴んで色彩を拘束し、色彩も反応して腕を無理やり振り払う。弱っていたホシノは吹き飛ばされてしまい、作れた隙は1秒にも満たない僅かな瞬。
(瞬剣……いやダメだ、タメる暇がない。殴るしかない……出せるのか、俺に)
黒閃。打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。さらにはその時のコンディション、環境にも左右される運任せの現象。黒閃を狙って出せる術師は存在しない。
だが、狙って出したように見せる術師は存在する。彼らは皆、その心境をこう語るのだ。
「絶対に出すと思って殴る」と。
ホシノと視線が交わされる。その瞳は、信じてると言っていた。
なら、応えないわけにはいかないだろう。
雷よりも大きな轟音がキヴォトス全土に轟き、天空には黒いヒビが入ってまるで空が割れたかのよう。
その一撃をモロに食らった色彩。赤い血と臓物が腹よりまろび出ながら、大空を舞う。
(小鳥遊ホシノの黒閃より、遥かに重い……! まずい、体が崩れる……!)
体に空いた穴。その端から黒ずみ、ボロボロと崩れ落ちていく。さらには、もう一度黒閃を決めんとこちらに飛んでくるカケル。
その瞳には、研ぎ澄まされた殺意が宿っていた。
「……っ! A.R.O.N.Aァ! 私を転送しろ!!」
「!?」
色彩が焦ったようにそう言うと同時に、吹き飛ぶ色彩の背後に黒いモヤが展開される。色彩は勢いのままモヤに突っ込み、この場から消えていった。
相手がいなくなったカケルは空中でブレーキをかけ、勢いを殺しながらビルの屋上、その一つに着陸する。その隣にホシノもすぐさまやって来た。
「色彩は?」
「逃した……ごめん」
「謝らなくていいよ。二人で生きてここに立ってる、それで充分」
そう柔らかく微笑んでくれる彼女に、ぎこちないながらも笑って返すカケル。だがはっと何かを思い出した様子を見せると、すぐに彼女のそばに駆け寄った。
「というか、お前は大丈夫か? 黒閃食らってたろ」
「んー? 全然大丈夫だよ?」
「そんなわけ……確か腹に受けてたよな。ちょっと服捲るぞ」
「えっ、ちょっ」
抵抗しようとしたのも束の間、カケルが乱雑にホシノの服を捲り上げた。お腹の素肌が丸出しになり、そこに痛々しい青アザがあるのをカケルは見つける。
「これのどこが大丈夫だよ……治すから動くなよ」
「あ、あの……カケル?」
「……」
真剣な顔で反転術式をかけている彼に、ホシノの声は届かない。羞恥やらなんやらでその顔を真っ赤にしながらも、ホシノはなんとか耐え続ける。白い光が傷を包み、癒していった。
「……もう痛くないか?」
「う、うん……」
「よし。傷付いたらすぐ言えよ、お前らは反転使えないんだからな」
言い終わるとすぐさま彼は空に飛び込み、シャーレの屋上まで戻り始める。それを呆然と見ていたホシノだったが、自分が置いて行かれていることに気づくと慌ててついていった。
戻っていく中で、カケルは渋い顔をして考える。
(あいつ最後に
新しく考えなければいけないことが増え、ふうっと大きく息を吐く。だがそれ以上に考えないといけないことは……というところで、シャーレが見えてきた。
そのままカケルは屋上に降り立つと、ホシノに振り向く。
「なあ、黒服呼んでいい?」
「えぇー……なんで?」
「戦ってる時、色彩が気になること言ってたんだよ。俺の術式……今まで呪力の放出かと思ってたけど、もしかすると何か違うのかもしれない。ということでなんか知ってそうなあいつに聞いてみる」
「うーん、まあ仕方ないか……」
ホシノからの許可も貰ったカケルは、パンパンと連続で手を叩いた。少しすると黒いモヤが現れ、そこから相変わらず傷だらけの黒服が現れた。
「何のご用でしょうか」
「簡単に言えば、俺の術式について」
「……」
「色彩が俺の術式をアレの原本版って言ってきてな。ついでに、術式に呪力を貯蓄するのもアレだけ……つまり、俺の術式は特別だと。何か知ってるのなら、答えろ」
黒服はしばらく俯き黙っていたが……面を上げると、真っ直ぐに俺の目を見てくる。
「分かりました。そこまで知ったのなら、お教えしましょう……あなたの術式、その本当の名と効果。そして歴史を」
小話1:術式「渾」
要はカービィ64のコピーミックス。ただあっちとは違って完全に別物にはならず、雑に組み合わさったみたいな感じになる。
実は組み合わせると出力が落ちるので、上手く使わないとただの器用貧乏になるのだが、色彩は自身の莫大な呪力量と出力でそれをカバーしていた──まあ実は出力はホシノと同じくらいなんだけど。ちなみに色彩が弱いんじゃなくてホシノがイカれてるだけ。
小話2:カケルくんの技。
瞬剣 明星 輝綫 煌矢
実は命名にとあるルールがある。ブルアカやってる人じゃないと分からない。ヒントは左側の文字。
没案
今回、花御の術式の極の番を使わせる予定だった。が、考えた効果があんま戦闘向きじゃないというか、花御以外だとあんまりな内容だったので仕方なく没にしている。
ちなみに名前は「
ついでにもう一つ没案を紹介すると、実は64話はまだ生徒たちのお話にする予定だった。政治的なこととか、各生徒たちの心情とかを書いていた……んだけど、めちゃテンポ悪いなと感じたのでこれも没。話を一つ繰り上げる羽目になった。