管理者より狂ってるレイヴン   作:音慈 英

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意図しないシリアスが挟まる

「……?」

 事務仕事を終え、ぬるくなったコーヒーで一服していると、メッセージの受信音が狭いオペレーター室に反響した。

 こんな時間に誰だろうか。不審に思いつつ送信元を確認すると、そこには〈リューク〉の名があった。

 彼は最近私が担当することになった新人レイヴンだ。まだ一度も実戦に出撃していないというのに、社内では話題に事欠かない、ある意味での「有名人」である。

 記録映像に映る、試験での彼の立ち回りは凄まじいの一言に尽きた。

 開始直後、機体の慣性制御すら無視した最短軌道で敵機を斬り伏せていく。瞬時に標的を捕捉し、一足飛びに距離を詰める空間認識能力と判断力。それは訓練だけで培える範疇を、明らかに逸脱していた。

 新人としては有り得ないほどのポテンシャル。あれを見て彼に期待しない人間などいないだろう。

 しかも彼はそれを、試験途中で動けなくなるほどの劣悪な体調下でやってのけたのだ。

スタビライズ機能を重視したパーツを優先的に手配しておくべきかもしれませんね。

 そんなことを考えつつも、試験中にアップルボーイ氏を執拗に攻撃していた点については、評価を下方修正せざるを得ない。

「評価が難しい人ですね……」

 私はため息を漏らし、キーボードを叩いた。

 初めてメッセージをやり取りした際、あまりに突飛な内容が送られてきて面食らったことを思い出す。あの時は困惑のあまり、事務的な冷たい返答をしてしまった。……今思えば、あれは私との仲を深めるための、彼なりの冗談だったのだろう。

 あの時、もっとマシな返しが出来なかったことが悔やまれる。

 無実の相手に罪をなすりつけるような真似をするはずがない。きっと試験で出会ったばかりのアップルボーイ氏とも、既に冗談を言い合えるほど仲を深めていたのだ。そのコミュニケーション能力には感心するばかりである。

「ふふっ」

 思い出し笑いが漏れた。通知を放置し続けるのも失礼だろう。

 私はコーヒーを一口含み、メッセージを開いた。

 TITLE:主人がオオアリクイに殺されて1年が過ぎました

「ぶふっ!?」

 盛大にコーヒーを吹き出した。

 液晶を必死に拭き取りながら、件名の意味を必死に咀嚼する。そもそもオオアリクイは人間を襲うのか。なぜ今その話を。というかリュークさんは男性なのに「主人」ということは、彼は同性愛──。

 そこまで真面目に思考を回して、ハッと気づく。

 きっとこれも、彼のジョークなのだ。何でも真に受けて考え込んでしまうのは、私の悪い癖だ。

 一度大きく深呼吸をして、本文を確認する。

『親睦を深めるために、一度遊びに行かない?』

 「遊びに行く」と言うのは些かカジュアル過ぎる気もするが、内容は至って真面目なお誘いだ。

 やはり件名は彼なりのアイスブレイクだったのだと確信し、私は彼の流儀に則ってジョークを返すことにした。

『とても面白いジョークですね。

私は先日、オオアリクイを散歩させている女性を見かけたので「珍しいですね」と声をかけたら、大型犬のボルゾイだったことがあります。

親睦を深めるための交流ですね。了解しました』

 我ながら中々のユーモアセンスだと満足していると、即座に返信が届いた。

『おっけー。楽しみにしてる』

「……」

 仕事は終わらせようと思えば午前中に片がつくので、全然良いのだが

 

「……スルー、ですか」

 私のジョークは、拾われることなく流されたらしい。

 窓の外では、いつの間にか小雨が降り始めていた。

 

 

──

 翌日、私達の眼前には遮るもののない何処までも続くような草原が広がって居た。

 もっとも、

 

「……リューク、なぜ私は管制室なのですか?」

 私は暗い管制室のモニター越しにそれを見ている。

仕事を早急に終わらせ、わざわざ仕事着から着替えたというのにこの仕打ちはあんまりだ。

普通に二人で街にでも行けばいいじゃないですか。

『世界観が崩れるから中身は出しちゃダメだよ』

 リュークがACの頭部を左右に振った事で、モニターに映る映像も右へ左へ揺れ動く。

 この人は一体何を言ってるんでしょうか。段々と一挙手一投足に腹が立ってきました。

 もしかしたらこの人は面白い人ではなく、ただのおかしな人なのかもしれません。

「……もう良いです。それで、どちらに向かうのですか?」

『どこ、と言うより広大な自然を散歩しながら堪能しよう。初任務で俺達が連携取れなかったら大変だから、それも兼ねて』

 その意見に、私は素直に感心した。

 むしろ、その考えが浮かばず勝手に失望していた自分が恥ずかしい。

 初任務で連携が上手くいかずに命を落としたレイヴンの話は何度も聞いたことがある。

 連携の確認と仲を深めるのにそれは最適とも言える。

「そうですね。どうやら私はあなたを正しく評価できていなかったようです。すみません」

「?分かってくれればそれで良いんだ。それじゃあ行こう」

リュークの言葉と共に大型ブースターユニットが空転し始め、数瞬後にはOB(オーバードブースト)で草原を駆け抜けた。

「なんて情緒の無い……」

 

 ── 

レイヤードは広い。何度かOBを吹かしているが、草原は終わりなく続いている。

 風景にも飽きてきたので、少し気になっていたことを聞いて見る。

 「リューク、アナタは何を思ってレイヴンになったのですか?」

『何も考えて無い』

 即答でした。

 何も考えない。

 しかし、私にはそれが理解できなかった。

 私の常識では、死と隣り合わせの人間が何も考えないと言うのは不可能だと思うからだ。

「死ぬ事は、怖くないのですか?」

『考えた事ない。死んだことないから』

「理解不能です」 

ただモニター越しに見ているだけでも、私は震え上がるほどの恐怖を感じているというのに。

『殺されるのが怖いなら、誰も殺されない世界を目指せばいい』

「そんな事、管理者にだって出来はしません」

『それでも、その気概が大事だと思う』

その理論は、やはりちっぽけな感性で生きている私には理解できませんでした。

 理解は出来なくても、リュークと言う人間を昨日よりもは深く知れた気がして、今はそれだけで満足な気がします。

「……」

『……』

しまった、変な話題を出してしまったから気まずい。

何か別の事を話すべきなのでしょうか。

 その時、リュークがいきなり機体をストップさせた。

『あれ見てよ、ボルゾイだ』

「!!」

 どう見てもあれはオオアリクイだ。

 いや、まさか昨日の私のメッセージを覚えて……?

「ふふ、あれはオオアリクイです」

 モニターの端に映ったのは、どう見てもオオアリクイだった。

彼は、私のジョークを覚えていてくれたのだ。慣れない交流を彼なりに深めようとしてくれている――。

 『オオアリクイ……?そうか、あれが』

彼は静かに呟くと、動物に向けるにはあまりにも大きすぎるライフルを構えた。

 

 

 『主人の敵だぁぁぁ!」

「コンプライアンス──!」

 

 やはりこの人はおかしい。

 

 




行き当たりばったりで書いてたら厨二臭いやり取り入ってもうた
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